テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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期間が空いてしまい申し訳ありません


第47話

 

ベルベット達を乗せた船は一路エンドガンド領に向けて航路を取っていた

 

「この船、いい速さで走るじゃないか。これならリオネル島までそうかからないな」

 

ロクロウが今乗っている船の船速に感心している

 

「まさかあのかめにんが船を持てるぐらいに規模を拡大していたとはな・・・」

 

アイゼンが舵を取りながらつぶやく

 

「ケンがかめにんに投資をしていたなんて初めて聞きましたよ」

「あの時二人で話し込んでいたのはその為だったのね」

 

エレノアとベルベットが風を受けながらケンの方を見る

 

「自分もここまでになるとは思いもしませんでした。ですが結果的にいい方向に進んだということです」

 

ホワイトかめ屋はケンが密かに行っていた莫大な投資を元に各地の商会や組合に取り入り事業参入、そこに他のかめにん達も加わり生来の商売の才能を遺憾なく発揮し販路を陸路と海路に伸ばし今では指折りの商会にまで成長していた。ケンはかめにん一族から超優待会員として登録されており、ケンが船を借りたいと連絡をしたとき彼らは超特急で快諾、その港に停泊していた数隻から一番いいのを貸し出してくれた

 

「ところであの時ルシフェルさんが自分の事でベルベットさん達と話したということですが・・・」

「うん・・・実は・・・」

 

ライフィセットが皆に代わり昨夜の事をケンに説明した

 

「ええ、その話で間違いありません。隠すつもりもなかったのですが」

「意外と壮大だったから最初は驚いたがな」

「事故で死んだあげく世界からはじき出されてとアイゼン以上に運が悪いの~」

 

箱の上に座るマギルゥがアイゼンを引き合いに出す

 

「その・・・寂しくないの?」

「うん?」

 

ライフィセットがケンにそんなことを聞くケンはその意味に疑問符を浮かべる

 

「家族の人と離れ離れになってって・・・こと?」

 

エレノアがライフィセットの質問の意味を聞く。ライフィセットが頷く

 

「・・・初めてルシフェルさんと出会い、自分の死因と経緯を聞いた時、確かに愕然としたよ。でもそれ以前に君と同じで家族の事が気がかりだった・・・でも」

「あやつの言う通り生き返る処か元の世界にも帰ることもできぬ・・・八方塞がりじゃった」

 

その先に言葉をマギルゥが続ける。ケンは小さく頷く

 

「その時考えたんです、置いて来てしまった家族が今どんな気持ちでいるのか。両親が絶望して後を追ってしまったら・・・と、その時ルシフェルさんにある事を頼みました。自分勝手すぎる事でしたが」

「あること?」

 

ベルベットがそれに眉を上げる

 

「ルシフェルさんに以前いた世界で自分自身がいたと云う存在と事実を完全に抹消してもらうように頼みました」

「・・・その事はあの男からは聞いていないな」

「存在と事実の抹消って・・・」

 

アイゼンが顎に手を当てる。エレノアが驚くのも無理もない。それが本当ならば

 

「はい。もはやその世界では誰も自分の事は知りません、寧ろ最初から存在していません。家族は両親と姉だけになっているはずです・・・その時はそうせざるを得ませんでした。ベルベットさんに怒鳴られてしまいますが」

「寂しくないの?」

 

ライフィセットの問いかけにケンは微笑みながら答える

 

「いや、今はベルベットさん達や海賊の皆さんがいるからね、寂しくないよ。一方的だけど元の世界にいる家族の幸福を祈るだけさ」

「・・・」

 

ベルベットは一瞬目を閉じ沈黙するが直に開きケンを見据えた

 

「今更どうこういうことじゃないわ。あたしだってもし同じ立場になったとしたら頼んでいただろうから」

「・・・ありがとうございます」

「礼なんかいらないわ、・・・それよりもこれからどうするか、よく考えなさい」

「はい、わかりました」

 

 

「・・・」

 

舵を取りながら浮かない顔のアイゼンの所にライフィセットがやってくる

 

「アイゼン、順調?」

「もうすぐ到着するはずだ。この船には、いい羅針盤がついていたからな」

「うん」

 

ライフィセットの的確な方角の測定で最短で島に進んでいる。アイゼンはライフィセットを誉める

 

「・・・だが、俺の針は揺れているようだ。初めてあの業魔を見た時から、アイフリードの気配を感じていたはずなのに・・・無意識に認めまいと押し込めちまった」

 

アイフリードが業魔になってしまったことを認めなければならない。頭ではわかっていたとしても心ではそれを認めたくない。現実と願いの板挟みになっていたアイゼンが遠くを見る

 

「アイフリードが大事な友達だから・・・でしょ?『死神の力もアイゼンの流儀だ』って言ってくれたんだよね」

「『冒険を盛り上げる、いい道連れだ』ともな。一緒に二十日も漂流して、死にかかった海の上で」

「・・・すごい人だね」

 

救助が現れるまで二十日も海の上、それでも文句や恨み言など一つも言わずむしろ楽しんでいた時点で相当な変人である

 

「お前も、同じ事をベルベットにやっただろう」

「アイゼンが教えてくれたからだよ゛自分の舵は自分が取れ”って」

「・・・そうだな。それが――」

 

アイゼンが何か言いかけた時ライフィセットが前方を指さす

 

「リオネル島が見えた!」

 

アイゼンが言いかけた言葉を呑み込み頭を切り替える

 

「まずい・・・バンエルティア号がもう着いてやがる」

 

リオネル島付近に到着した一行の前に、桟橋に係留されているバンエルティア号を見つけた。先についてしまっていた、ベルベット達は船を向かい側に着け島に上陸すると陸地にベンウィック達が倒れていた。その中にはクロガネやダイル達もいる

 

「・・・遅かったか」

「エレノア―!!」

 

そこにモアナがエレノアに向かって走り寄り彼女の腰に抱き着く。後ろにはメディサが腕を抑えふらつきながら歩いてきた

 

「なにがあったのですか!?」

 

エレノアがモアナから事情を聞くためしゃがみ目線を合わせる。泣きじゃくりながらモアナが続ける

 

「いきなりツノの業魔が襲ってきたの・・・」

 

ロクロウは倒れているダイルの様態を確認する。痣や出血はあるが肩が僅かに上下している

 

「かろうじて息はある」

「ザビーダが駆けつけてくれたのよ。じゃなかったら全員殺されていたわ・・・」

 

そこにグリモワールが近づきながら事の詳細を説明する恐らく彼女が襲われそうになった時ザビーダが到着したのだろう

 

「・・・俺が迷ったせいだ」

「やつらは?」

「ザビーダが引き付けて、島の奥に向かったわ」

 

グリモワールの言う通り小さなクレーターや引っ掻いた後、小さな穴が無数に奥へと続いていた。ライフィセットは回復の聖隷術で、ケンは救命措置とコスモフォースで治療に当たっていた。だが数人は致命傷をおい息を引き取っている

 

「がんばってください・・・どうか諦めないで!」

 

ケンが傷口にガーゼを当て強く押しながらコスモフォースでなんとか助けようとするがおびただしい出血で船員もはや虫の息だ

 

「む・・・無駄だ・・・どの道俺はもう・・・助からん・・・・」

「しかし・・・!」

 

船員はケンの肩に手を置き止めるよう諭す

 

「・・・あの角の業魔・・・船長・・・なんだろう」

「なぜそれを」

「俺達だけが、使っ・・てる・暗号で・・連絡が・・・届いたん・・だ・・・それに長年・・・ついて来たんだ・・なんとなく・・わかるのさ・・・」

 

船員は血を口から流しながらも続ける

 

「俺達はな・・・最初見た時から・・・確信・・・したんだ・・あの業魔は・・船長だってな」

 

咳き込み吐血が多くなる

 

「駄目です。これ以上喋らないでください」

「ゲホッ!!頼む・・・!船長を・・・助けてやってくれ・・・!!」

「!!」

 

敵になってしまい、殺められた仲間もいるにも関わらずケンにそう懇願する

 

「・・・・落ちぶれて、行く宛てのない俺達を・・・拾ってくれた・・・船長には・・・感謝してたんだ・・みんな船長と・・・副長に・・・・命を預けてたんだ・・ごほっ・・・いつ死んでも、後悔はない・・・ってな」

「・・・」

 

船員の目が段々と虚ろになり遠くを見るがそれでも気力を振り絞り続ける

 

「頼む・・・船長が・・・責任を感じ・・・たら・・・生きてくれって・・・言ってく・・・れ・・・俺・・・達の・・分・・・・・ま・・・・・・・で・・・」

 

置かれていた手が落ち船員は息を引き取った、ケンは処置を止め船員の両瞼を下ろす。負傷者を船室に運び、遺体は陸地に安置する。荼毘にするのは後である

 

「アイゼンさん・・・終わりました」

「・・・すまんな、だがまだ先にするべきことがある。行くぞ」

 

グリモワールから詳しい情報を聞いていたアイゼン達は島の奥へと歩を進めた

 

 

「本当に、あの業魔はアイフリードなのかな・・・」

「本人を一番よく知っているアイゼンが言うんだから、間違いないだろうな」

 

島の奥に向かいながらライフィセットは角の業魔について疑問を口にする

 

「でも、貴方やクロガネのように、強い意志を持った人間は、業魔になっても自分を失わないのでは?アイゼンの話を聞く限り、アイフリードも相当な意志の持ち主だと思いますが」

「自分を失わないといっても業魔は業魔だ。残った自分ってのも、人間の時と同じじゃない」

 

業魔であるロクロウは人間の時の自身を現在の自身を比べる

 

「人間だった頃の気持ちは忘れちまったが、多分人間のロクロウから見たら、今の俺は立派な化け物さ」

「・・・」

 

感情が希薄になり、文字通り戦闘狂になってしまったロクロウは過去の自分をその様に評価した。エレノアは何も言えない

 

「業魔化したアイフリードに残った゛自分”が聖寮への服従を選ぶこともあり得るわけか・・・」

「いや、メルキオルとあやつの呼吸はいまいち合っておらんようじゃった。多分、幻術を利用して操っておるのじゃろう」

 

ロクロウの経験を元にアイフリードが敵に回ってしまう可能性を考慮するがマギルゥがその考えに異議を唱える。カリスで業魔を出した時メルキオルがいい顔をしなかったのを思い出す

 

「ロウライネやアバルで見たような幻?それで業魔を操れるの?」

「現にできておる。ま、操ることよりも。あのアイゼンが認めたほどの強靭な精神の持ち主を業魔に堕とす方が、よっぽど難しそうじゃがの」

「おそらくメルキオルは、相当えげつない幻術を使ったんだろうな」

 

ロクロウが見立てを立てる横でライフィセットが呟く

 

「アイフリード・・・・アイゼン・・・」

 

 

ベイルド沼野にたどり着き奥に進むとそこから大きな衝突音が響き渡る。音の響いてくる方向へ向かうとそこには角の業魔と相対したザビーダがいた。だがそのザビーダも手ひどくやられたようで体中ボロボロだった

 

「ぐうう・・・」

「ザビーダ!お前は!」

 

ロクロウの声を皮切りに皆が構えるがそれをザビーダが止める

 

「やめろ!!この拳は間違いねぇ・・・こいつはアイフリードだ」

 

眼前の業魔を睨みつけるザビーダ、その目はどこか悲しみもあった

 

「なぜやり返さない?」

「こいつには・・・俺を゛俺”に戻してもらった借りがあるからよ・・・今度は、俺が元に戻してやる番さ」

「・・・業魔は、もう人間には戻らん」

「・・・にいちゃん・・・シルバを戻したあの技、もう一度頼めねぇか?」

「自分としては構いませんが・・・」

「止めろザビーダ。これは俺達とアイフルードの問題だ、これ以上ケンを巻き込むな

「・・・・・」

 

ベルベットはその言葉に反応するようにライフィセットとケンを見る

 

「だからって流儀を変えられるかよ・・・なぁ、アイフリード!!」

 

ジークフリードを蟀谷に当てようとした時、アイフリードが急速に接近し発勁の如く平手で突き出しザビーダを後方へ突き飛ばす

 

「ぐああ・・・・っ!!!」

「ザビーダっ!!」

 

アイフリードが次にライフィセットに狙いを定め走り出す。予想外の行動にベルベット達は反応に遅れるがケンはそれに直に気づきライフィセットの前に出る。拳が眼前に迫るがそれを横からアイゼンが掴みとめる

 

「・・・子供まで狙うのか・・・ベンウィック達は、共に命を張った仲間だ」

 

アイゼンがザビーダの腕を捻り上げる

 

「ザビーダは馬鹿だが、仁義を通した。奴らの流儀を踏みにじる野郎は・・・」

 

捻り上げたままライフィセット達から離れアイゼンは右の拳を握り締める

 

「てめぇでも許さねぇっ!!!」

 

体勢を崩しているアイフリードを腕を起点にして放り投げる倒れたアイフリードはすぐ其処に落ちていたザビーダのジークフリードに気付きそれを素早く拾い上げ立ち上がる。それを自らの蟀谷に当て引き金を引き。力を増幅させる

 

「お前には、でかい借りがある。それを今返すぜ、アイフリードッ!!」

 

ジークフリードを投げ捨て走り出すアイフリードにベルベット達が構えるがアイゼンが手を横に出し制する皆がそれに反応する

 

「アイゼン!?」

「俺一人でやらせてくれ、わがままだがな」

 

ライフィセットがアイゼンの行動に驚く、表情は見えなかったが横顔から覚悟を決めたように見えた

 

「・・・・わかったわ、その代わりアンタがやられたらあたし達がアイフリードを殺す。いいわね」

「ああ」

 

ベルベットの条件を呑みアイゼンはアイフリードに向かって走り出す

 

「うおおおおっっ!!!」

 

アイゼンが拳を振りかぶりアイフリードが貫手をつきだしお互いの攻撃がかち合う

 

「ぐっ!!」

「がっ!」

 

お互いに弾かれるが両者は今度は回し蹴りでを繰り出しそれもぶつかり合う。ベルベット達がそれを見守る中ケンはザビーダの元に駆け寄り抱え起こす

 

「ザビーダさん、しっかり」

「ううっ・・・つぅ・・すまねぇ。また世話掛けちまった」

「いえ。自分は構いません」

 

ザビーダが前を見るとアイゼンとアイフリードが拳と蹴りの一進一退の攻防を繰り広げていた

 

「・・・アイゼンはアイフリードを殺る気か・・・」

「恐らくは・・・アイゼンさんはこれ以上アイフリードさんを苦しめたくないのでしょう」

「もう・・・どうすることもできねぇのかよ・・・」

 

ザビーダはそう呟き顔を伏せる。ケンはそれを数瞬見つめ前を向く

 

「ここに到着した時団員の皆さんを介抱しました・・・残念ですが手遅れの人もいました・・・」

「・・・」

 

ザビーダは黙ったままだがケンはそのまま続ける

 

「ですが息を引き取る直前団員の人が言いました。船長を助けてやってくれと」

 

ザビーダはその言葉に反応したように僅かに顔を上げる

 

「こんな俺達を拾ってくれた船長に感謝していると。その時から船長と副長に命は預けていたと、だから後悔はない、船長が自分らの死に責任を感じているのなら。生きてくれと」

「あいつらが・・・」

 

ザビーダは胡坐をかき立っているケンの顔を見る

 

「自分は団員の人たちに託されました。であれば、自分はそれに応えます・・・まだアイゼンさん達には伝えていませんが・・・」

 

アイゼンはアイフリードの蹴りを受け流しカウンターのジャブを腹部に叩きこむ、だがアイフリードは倒れることなく拳でアイゼンの頬を殴る。ぐらつくアイゼンだが踏みとどまる。エレノアがたまらず声を上げる

 

「アイゼン!」

「心配するな!!」

 

口内からの出血した血を吐き捨て今度はアイゼンがアイフリードの顔面に拳を打ちつける、若干揺れたアイフリードはの胸倉を掴み自身の額をアイゼンの額に打ち付ける。鈍い痛みで一瞬意識が飛びかけたがお返しとばかりに角を掴み同じく頭突きを叩き込む。二人は一歩後退り同時に拳を繰り出し交差しながらお互いの頬に拳がめり込む

 

「アイゼン!!もう止めてください!!このままでは死んでしまいます!!」

 

エレノアが助けようと走り出すがロクロウがそれを止める

 

「無駄だエレノア。これはアイツの意地の戦いだ、今止めようとすれば例えお前でも容赦しないだろうさ」

「ですが・・・!!」

「ロクロウの言う通りじゃぞエレノア、そんなにあやつの事が心配なら祈ってみたらどうじゃ。死神に祈りなぞ滑稽極まりないがの」

 

マギルゥが岩に腰掛け足を振りながら二人の戦いを見ている

 

「エレノア、ここでアイゼンが倒れればそれまでの事よ。この戦いを見届ける」

 

アイフリードはアイゼンが繰り出した拳を躱し腕を掴むと一本背負いの要領で投げ飛ばす

 

「ぐはぁ!!」

 

地面に背中から打ちつけられ息を吐き出すアイゼン。アイフリードは倒れたアイゼンに胸を踏みつける

 

「ぐああっ・・・!!」

 

急激な圧迫で声を漏らすが右手を地面に当て聖隷術を発動する

 

「!!」

 

アイゼンの横から突き出てきた石の柱がアイフリードの胸部を打突し踏みつけていた足が離れる。その隙を見逃さずアイゼンが素早く立ち上がり攻勢に出る

 

「うおおおっ!!」

 

拳を連続で腹部に叩きこみ体勢が崩れたところを頭を掴み膝蹴りを喰らわせる。アイフリードが顔を抑え後退るが尚喰らいつく

 

「これで終わりだぁ!!ウェイストレス・・・!!!」

 

左右からの高速ジャブの連打、何発のボディブローで大きくよろける。アイゼンは右の拳を構え、振るう

 

「メイヘム!!!」

 

トドメのアッパーが顎に入りアイフリードは遂に膝を着く。勝負はついた

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

手に膝を着き空いた片手で鼻血を拭うアイゼン。その後ろからベルベット達が近づいてくる

 

「終わったようね」

「すまんな・・・手間を掛けた」

 

その時アイフリードが立ち上がりベルベット達に向かって走り出す

 

「向かってくるぞ!!」

「ちっ!諦めが悪すぎるわよ!」

 

真っ直ぐに向かってくるアイフリードにアイゼンが吠える

 

「アイフリードォッッ!!」

 

拳を固め顔面に向かって振るうがそれをアイフリードが屈んで躱し通り過ぎる

 

「何ッ!?」

「斬り捨て御免!!」

 

小太刀を横薙ぎで切りつけたがそれを跳んで躱させる

 

「早い!」

 

ベルベットの刺突刃での斬り上げを半歩下がり躱し突破される

 

「コイツッ!?」

 

ベルベットの後ろにはライフィセットがおり狙いはまさしくそれだろう。エレノアとマギルゥも走るが間に合わない。そこにケンがアイフリードの前に立つ、アイフリードが邪魔をするなと言わんばかりに走りながら回し蹴りをケンの首目掛けて放つ

 

「ガァァァッッ!!!」

「うおおっ!」

 

回し蹴りを右腕で防いだがそのまま勢いよく横に飛ばされ、ケンは沼に落下する

 

「ケン!!」

「あれだけの力がまだ残っておろうとわのう!」

 

アイフリードがライフィセットの首を掴み上げる

 

「あうっ!!」

 

首を絞め上げもう片方の手でライフィセットの腕を捻り上げベルベットの方へ向ける

 

「フィー!!」

「今度は人質か・・・!」

 

アイゼンがアイフリードの行為に怒りの表情を滲ませる。ライフィセットは首の圧迫に苦しそうな表情を浮かべるがその瞳には決意が見られた

 

「ごめん・・・でも、構わないで!僕だって・・・覚悟を決めてるよ・・・!」

 

どのような結果になろうとも自らの意志で決めた事、自分のせいで足手まといになるならば自分毎止めを刺してくれと言葉では言わなかったがアイゼンはその真意をすぐに見抜いた

 

「・・・わかった。お前はもう一人前の゛男”だ」

 

その覚悟にアイゼンはライフィセットを遂に一人前と認めた。コインを弾きながらアイフリードに向かって進み始める

 

「・・・家族・・・仲間・・・かつて俺が掴もうとしたものはみんな掌から零れ落ちちまった・・・だが、あるバカは『どうせ掴めないなら拳を握って勝ち取れ』と笑って言いやがった・・・この拳で取り戻すぜ」

 

アイゼンの言葉に僅かに正気を取り戻したのか、その気迫に押されたのか、アイフリードが驚きの表情を浮かべたじろぐ。アイゼンは金貨入った拳を握り締め走り出す

 

「お前の言った通りにな!!」

「ふんっ!」

 

アイゼンが拳を振りかぶったと同時にライフィセットは後頭部でアイフリードの顔面に頭突きをかます。突然の顔面のダメージに思わず手を放すアイフリード

 

「おおおおおおっ!!!」

 

アイゼンの拳がアイフリードの腹部にめり込む

 

「ゲホォ・・・!!」

 

内臓を損傷したのか吐血するアイフリード。だがその後ろから腹部に手を当てる者がいた

 

「ケン!?」

 

アイフリードの背後からケンがコスモフォースで傷を塞ごうとしていた

 

「ライフィセット!」

「!!」

 

ケンは傍に居たライフィセットに声を上げる。彼の目を見たライフィセットは自分が何をするべきか直感で理解した

 

「うあああっ!!」

 

すかさずライフィセットは自身の体から白色の炎を出しそれがアイフリードの体を包み込む。次の瞬間彼の姿は元の人間の姿に戻っていた

 

「業魔が人間に戻った!?」

 

マギルゥが驚愕する。ケンのルナレインボーであれば業魔を元に戻すことができるのは知っていた、だがライフィセットの白い炎はまだ本質が未知数故に思わぬ発見であった。ベルベット達が走り寄る中、ケンはアイフリードを後ろから抱えたまま静かに座らせる

 

「ああ・・・お前の、拳だな・・・悪ぃ・・・世話掛けちまったな・・・・」

「・・・いいさ、親友だからな・・・」

「ライフィセット、力を貸して欲しい。自分だけじゃ不安だからね」

「うん!」

 

ライフィセットも傷に向けて回復の聖隷術を使う。少しずつではあるが内出血している箇所が少なくなっていった

 

「すまねぇ・・・な・・・礼を言うぜ・・」

「いえ、礼を言うのであればアイゼンさん達に、そして団員の皆さんに言ってください。自分は団員の方たちの頼みを果たしただけですので」

「あいつらが・・・」

 

アイフリードは仲間たちに本意ではないにせよ自らが犯した事を思い出す

 

「残念ながら何人かは亡くなられました。ですが息を引き取る直前自分に託されました。船長を助けてやってくれと」

「・・・」

「・・・」

 

アイフリードとアイゼンは黙ってケンの言葉に耳を傾ける。ベルベット達も黙ってそれを聞いている

 

「自分達の命は貴方に拾われた時、既に預けていたと。自分達の死に責任を感じているなら生きてくれと、そうおっしゃっていました」

「あの大馬鹿共が・・・」

 

アイゼンは亡くなった団員達に吐き捨てるように言うがその本心ではアイフリードについて来てくれた部下達の覚悟に思うことがあるのだろう

 

「アイフリード」

 

そこにザビーダが肩を抑えながら歩み寄る

 

「ようザビーダ、久しぶりだな・・・」

「久しぶりとか言ってる場合か。アンタには借りがあるからそれを返すまでは死ぬわけにはいかねえのさ。まぁ危うくアンタに殺されそうになったがよ」

「へっ・・・無駄口を叩くぐらい元気ならもっと殴っておけばよかったぜ・・・」

 

ザビーダの減らず口にアイフリードが口角を上げる。次に彼はライフィセットへ顔を向ける

 

「坊主、いい事を教えてやるよ。お前の力はカノヌシの一部なんだとさ・・・うまくヤツの領域を封じ込めることができれば。面白れぇケンカができるかもしれないぜ」

「領域を、封じる?」

 

ライフィセットはアイフリードの領域について疑問符を浮かべる

 

「地脈に眠る地水火風の四聖主・・・そいつらを叩き起こすことができればな。急げよ、今、アルトリウスとカノヌシは鎮めの儀式とやらで動けねぇ・・・出す抜くなら、今だぜ」

「わかったよ、アイフリード」

 

アイゼンはアイフリードの肩を担ぎ立たせる

 

「残念だが、この怪我じゃ当分の間満足に動けねぇだろうな・・・これから面白くなろうって時によ」

「その分俺達が派手に動くさ。帰るぞ、俺達の家に」

 

そこにザビーダがジークフリートをアイフリードに差し出す

 

「これを返すぜ。預かりもんをいつまでも持ってるわけにわいかねえからな」

 

アイフリードはジークフリートを差し出された手毎押し返す

 

「それはもうお前のもんだ、ザビーダ。俺が持ってても持ち腐れだからな。そいつもお前に使われる方がよっぽど幸せだろうさ」

「アイフリード・・・わかった。んじゃありがたくもらっていくぜ」

「世話になったな、ザビーダ」

 

アイゼンなりの感謝の言葉にザビーダは僅かながらに驚くが直に表情を元に戻す

 

「まさか副長に礼を言われるとわな。明日は雹でも降るか?」

「言ってろ」

「まぁいいさ、またな・・・兄ちゃん、ありがとな」

 

ザビーダはアイゼン達の後ろにいたケンに感謝を述べる

 

「いえ、個人としてはまだ貴方に借りがありますので。また何かあれば」

「・・・ああ、わかった」

 

ザビーダはそれを最後に一足先にその場を後にした。アイゼン達も自らの船、団員とバンエルティア号の待つ桟橋に向けて歩き始めた


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