テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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第49話

~

 

天啓の使いが繰り出した光弾をベルベット達はそれぞれ横に躱す

 

「どうしてここがすぐに分かったの!?王都だけでもかなりの広さが・・・」

 

エレノアが槍を構えながら聖隷が何故直ぐここに来れたのか疑問を浮かべる

 

「恐らく意思を残している人間を探知しているんだろう。結界内ではカノヌシの庭も同じだ」

「おお、それはなんともご丁寧な事だ!」

 

アイゼンとロクロウは複数の使いに向かって走り出す。マギルゥとライフィセットは応戦すべく聖隷術を発動する

 

「意思のある人間は処分されるか徹底的に意思を奪われる・・・!?」

「じゃろうな、でなければ人間を生かしておく意味がないからのう。使い潰してからでも遅くはないということじゃ」

 

ケンは先ずパーシバル達の安全を確保するため彼らの元へ向かって進んでいく。使いもそれに反応したのか三体が武器を構え飛来する

 

「すいませんが今貴女方に構っている時間はない」

 

一体の使いが杖の先についている刃を向け突っ込んでくる。それを横から掴み自身に引き寄せ、使いの頭を掴み横の壁に叩きつける。使いはそのまま崩れ落ち、残る二体は同時に杖を振り下ろしてくる。ケンはそれを両手で受け止めるとそのまま握り折る

 

「!!」

 

驚いた素振りをする使いの一体に前蹴りを打ち込み後方へ蹴り飛ばす。残りの一体を体を掴み数回振り回し木箱や樽が積まれている所へ投げ飛ばす。そこに激突した使いは物に埋もれ動かなくなった。対処が終わったケンがパーシバルの方を見るとそこにはタバサしかおらずパーシバルと少女はいなかった。どうやら隙を見て連れていかれたようだ、ベルベット達も聖隷を倒したようでアイゼンが座り込んでいるタバサの方へ向かう

 

「まだ意思はあるな、タバサ?」

「ええ、なんとか。でもパーシバルと女の子が・・・」

「さっきの奴らが連れ去ったようじゃな」

 

マギルゥがパーシバルが連れ去られた方を見る

 

「殿下は、私達を逃がそうとしてくれたのよ『聖寮は、感情を残した人間を離宮に集めている』と言っていたわ」

 

この状況下で意思を残していると云う事は反乱分子と見做されるだろう。捕縛され離宮に連行されるとすれば結末は限られる

 

「王子達を追うわよ。離宮になにがあるのかを確かめる」

「正門は、どんな警備が敷かれてるわからないよ。裏からこっそり行こう」

「なるほど。地下道再び、だな」

「そういうことね」

 

離宮に集められているのであればベルベットの言う通りそこに重要な設備か術式が設置されているはず、聖寮も万が一に備えて対魔士や聖隷を配備していてもおかしくない。ライフィセットは以前ギデオン暗殺で使用した地下水道から離宮へ向かうことを提案する、仮に発見されていたとしてもこの道を再び通る事はないだろうと聖寮は考えているかもしれない、裏を掻くにはこの方法はうってつけである。タバサとは一度分かれる

 

 

タバサとは一度分かれ、ベルベット達は依然と同じように地下道がある蓋を開け下に降りる。念の為に警戒していたが警備はいない。物音は自分らが発しているもの以外は水の流れる音のみだ。ベルベット達は慎重に進む

 

「さっきのは業魔じゃなくて聖隷だったな」

 

ロクロウは先ほど対峙していた敵について思い出す。業魔のとは雰囲気が違っていたのだろう

 

「・・・はい。意思を残している人間を集めるよう、命じられているのでしょう」

「カノヌシは、未だ不完全ゆえ鎮静しきれぬ者もでる。そやつらは、聖隷を使って強制的に処理する・・・ということじゃろうて」

 

エレノアが肯定しマギルゥがカノヌシが配下の聖隷に下している命令の真意を推察する

 

「処理・・・」

「たとえそれが、王子でも子供でもか」

 

ベルベットはマギルゥのその推察に吐き捨てるように言う。理の為に全てを犠牲にするやり方に。その後地下道を抜けローグレス離宮の書庫に入り込んだ。流石に此処に警備はいるだろうと踏んでいたがあろうことか対魔士や兵士どころか使用人の姿すらない。ケンは扉を静かに開けながら廊下を確認するが人影はない

 

「廊下にも警備がいません」

「罠か?」

 

アイゼンがそう呟くがケンは否定する

 

「罠にしてはあまりにも静かすぎます、これでは本当に対魔士や兵士はいないのでしょう」

「ここまで無防備だと逆に不気味ですね」

「・・・とにかく先に進むぞ。此処にいても埒が開かん」

 

ケンの報告にアイゼンは最奥部に進むことを判断。全員それに従い廊下を慎重に進んでいく、大理石でできた広い廊下からはベルベット達の足音しかせずなんなく離宮聖堂の裏手の扉、グリフォンが幽閉されていた大部屋へと進む。暗い通路に松明の明かりだけが照らす通路を進むと奥から悲鳴が響き渡る。全員が走り出し開けた空間に出る。そこには大きな術式の陣がありその中央に泣き叫ぶ少女と苦しむパーシヴァルがいた

 

「やああっ!助けて、ママァ~~ッ!!」

「くうぅ・・・意識が・・・!!」

「カノヌシの魔法陣!」

「意思を直接喰らう気か!」

 

ライフィセットとベルベットの声に反応した使いが邪魔をさせまいとそこにいる全員が向かってくる

 

「とにかくあの術を止めなければ殿下達が!」

「応!こればっかりは急いだ方が良さそうだな!」

 

エレノアが槍を構えロクロウが小太刀を構え走り出す。ロクロウが使いの一体に斬りかかり速攻で肉薄にするが他の使いが横やりを入れ思い通りに行動できない。

 

「術が完成するまで時間稼ぎか?」

「させません!描け蒼穹、霊槍・氷刃!」

 

エレノアが聖隷術で氷の刃を繰り出しロクロウに向かっていた二体の使いを倒すがその後ろから新たに現れた二体の使いがエレノアに襲い掛かる

 

「くっ・・・!まだいるの!?」

 

エレノアは槍を振るい使いの攻撃を受け止める

 

「敵はエレノアだけじゃないぞ!枝垂星!!」

 

ロクロウが空中から二体の使いを三度斬り捨てる

 

「あ、ありがとうございますロクロウ」

「気にするな。団体さんがまだまだ来るぞ!!」

 

そこから少し離れた場所でアイゼンとベルベットその後ろにライフィセットが倒してもまた出てくる使いと戦っている

 

「数が多い!!」

 

ベルベット刺突刃で使いの武器を弾き飛ばし首に回し蹴り打ち込み弾き飛ばす

 

「鏡面輝き熱閃手繰れ!カレイドイグニス!」

 

ライフィセットは遠目にいた数体の使いを纏めて聖隷術で攻撃する

 

「このままだと王子と女の子が・・・!!」

 

ライフィセットが焦りの表情を浮かべながらパーシバルの方をみる。パーシバルは少女を庇う様に抱いている

 

「いくらカノヌシの聖隷といえ数には限界があるはずだ!粘れ!!冷気の渦よ凍結しろ!フリジットフォトン!」

 

アイゼンは二人に鼓舞し向かってくる使いを殴り飛ばし。氷の塊を射出し数体纏めて凍らせる。ケンは敵の攻撃を受け止め投げ飛ばしマギルゥはそれに術で追い討ちを掛ける

 

「後何体出てくるんじゃ~こっちはクタクタじゃわい~!ケン!何とかならんか!?」

「・・・」

 

マギルゥは弱音を吐きながら打開策をケンに求める。ケンは魔法陣の方を見ながらなにやら考えている

 

「・・・お主変な事考えとらんじゃろうな」

 

マギルゥはジト目になりながらケンに質問する。嫌な予感がしたのだろう。そしてそれが的中する

 

「マギルゥさん、自分があの魔法陣に入ってみます」

「本当に変な事考えとった~!!」

 

マギルゥはケンが本当にとんでもないことをやろうとしている事に驚愕する

 

「そんなことすればお主とて無事では済まぬぞ!?」

「ですがこのままでは殿下達が危ない。猶予はありません」

 

ケンはそれだけ言うと魔法陣に向かって進み始める。それに感づいたのだろうベルベット達に襲い掛かってきた使いが一斉にケンに向かって飛んで行く

 

「どうしたんだ?」

「皆の者、ケンの邪魔をさせんようにするんじゃ!!」

 

突然飛び去った聖隷に疑問を浮かべたロクロウ、そこにマギルゥが術を発動しながら叫ぶ

 

「あやつが直接陣の中に飛び込んで助けるんじゃと!」

「ええ~!!」

「そんな無茶苦茶な!?」

 

マギルゥの言葉に驚愕するエレノアとライフィセット、だがベルベットとアイゼン、ロクロウは既に走り出していた

 

「まったく世話の焼ける!!」

 

ベルベットはケンに飛び掛かろうとしていた使いに飛び蹴りで顔面を蹴り飛ばす

 

「そうでなければ面白くない!!」

 

ロクロウが小太刀で切り捨てケンの道を切り開く

 

「賭けか・・・それも悪くないだろうな!」

 

アイゼンは詐欺師の鎖で纏めて拘束する。ケンが魔法陣の中に踏み込むと物理的ではなく精神的な重力を感じたが意に介さずパーシバルの元へたどり着く

 

「殿下、大丈夫ですか」

「君は・・・大丈夫・・・なのか・・・!?」

 

苦痛の表情を浮かべながらも驚愕するパーシバルの肩を抱え少女を抱きかかえ陣の外へ向かう。使い達は尚も止めようとするがそこにエレノアが止めに入る

 

「漆黒渦巻き軟泥捉えよ!ヴォイドラグーン!」

「貫け緑碧!霊槍・空旋!」

 

ライフィセットの術から漆黒の手が伸び聖隷を捕らえエレノアの暴風が吹き飛ばす

 

「これでトドメじゃ!光翼、天翔くん!」

 

マギルゥが駄目押しに伸ばした式神で殴り飛ばす。その間にケン達が脱出すると魔法陣が消失し残っていた使い達は形勢不利と判断したのか逃げて行った

 

「パーシバル王子、無事?」

 

ライフィセットが駆け寄りパーシバルの無事を確認する

 

「あ、ありがとう。震えを感じる心は残っているようだ。君たちのおかげだよ、ありがとう」

 

エレノアはケンが降ろした少女に膝を着いて目線を合わせる

 

「もう大丈夫よ。貴女のママも、私が捜して――」

「・・・もう・・・いないの・・・」

 

少女は俯いたまま静かに応える

 

「え・・・」

「町のみんなが変になって食べ物がもらえなくなって・・・ママはあたしの為に・・・」

 

少女は涙ぐみながら耐えていたが遂にボロボロに泣き出してしまう。その言葉の先は誰もが思いつく、エレノアは少女を抱きしめ頭を撫でる

 

「・・・これが″鎮静化″の正体・・なのですね」

「そう、導師アルトリウスが目指す理想世界だ。穢れと業魔化の仕組みがある以上、こうするしかない。だから王国は、彼の計画を承認した・・・だが、私は・・・!!」

 

パーシバルは拳を握り締め吐き捨てるように何かを言いかけた

 

 

その後ベルベット達は離宮から脱出し町の広場へと戻って来た。結局人は居らず正門から出られた、エレノアは泣きつかれた少女を抱きかかえ背中を撫でながら呟く

 

「悲しみはないけれど、笑顔がない・・・憎しみがない代わりに、愛もない世界・・・」

「世界中が、こんなになっちまったのかな?」

「いや。御座に近い王都ですら、意思を残した者がいたくらいだからな。だが、あまり猶予はなさそうだ」

 

ロクロウの予想にアイゼンが訂正する。アイゼンの考えが正しければこの結界は恐らく試験運用でこれから本格的に広がっていく可能性は十二分にある

 

「うん。カノヌシの領域が広がっていくのを感じる。まだ完全じゃないけど、どんどん強まってるよ」

 

そこに町の様子を確認してきたライフィセット達が合流する

 

「儂らの意識とて、いつ鎮静化されてしまうかわからんのー」

「・・・」

 

パーシバルは人が人でなくなる惨状を目の前にただ沈黙している

 

「王子、グリフォンは元気だよ」

 

ライフィセットは消沈しているパーシバルを元気づけるかのようにグリフォンの近況を報告する

 

「そうか、よかった・・・!よかった・・・本当に」

 

その言葉に笑みを浮かべたが自身が喜びの感情が残っている事と友人が無事である事、その二重の意味で繰り返す

 

「いままで私は、自分を国の為の道具だと思ってきた。だが、心を消されかかった時願ってしまったんだ」

 

パーシバルはあの時意思を奪われかけた瞬間を思い出す

 

「怖い!!・・・嫌だ!!・・・自分を失くしたくない、と・・・私は、この理想世界が恐ろしい」

 

自身の個性を、自分という存在がなくなる事に対しての恐怖。それが世界規模で起こる事がどれほど恐ろしいのか。パーシバルはベルベットの方へ向き直る

 

「身勝手を承知で頼む。人の鎮静化を・・・導師アルトリウスを止めてくれ」

「・・・貴方、前に言ったわよね?飛べない鳥は鳥じゃないって。同じようにあたしも、心を凍らせた人は″生きている″とはいえないと思うわ」

「うん。昔の僕がそうだった」

 

ライフィセットは聖寮で使役されていた頃をを思い出し呟く

 

「だからあたしたちは、あたしたちとして生きる為にアルトリウスを倒す。誰に頼まれなくても、勝手にね」

「・・・変わったな、君は」

 

ベルベットの決意にパーシバルは微笑む。その時のベルベットの声に冷たさはなかった

 

「そうね。以前の貴女は、憎しみに振り回される剣だった。でも今は、自分の意志で剣を振るっているのね」

 

タバサは今のベルベットが以前のベルベットと違う、迷いと憎しみを振り切った姿を評価する

 

「相変わらず鞘はないけどね」

「心配いらないよ。危ない時は僕が守るから」

「あら、素敵。そんなこと言ってくれる殿方がいるなんて」

 

ライフィセットの言葉はさながら姫を守る騎士である

 

「でしょ。いい男よ、フィーは」

「アイゼン副長、アイフリード船長は・・・」

 

タバサは一瞬微笑みながらもすぐに切り替えアイゼンにアイフリードの件について質問する

 

「業魔としてのアイフリードには俺が片をつけた。体に問題が残ったが、救出できた。今バンエルティア号にいる、あいつのおかげだ」

「まあ・・!」

 

アイゼンがケンの方へと視線を向ける

 

「だが、この鎮静化は、聖寮がアイフリードの誇りを踏みにじって創ったものだ。俺の手で、ぶち壊す」

 

タバサはアイゼンが拳を握り締める姿に僅かに頷くと、次にベルベット達に顔を向ける

 

「私も身勝手に、貴方達の成功を祈らせてもらうわ。この世界に生きる醜い人間の一人として」

「気合が乗って来たな!いっそ、このまま御座に斬り込むか?」

 

高ぶったのかロクロウが突拍子もない事を言い出すがマギルゥがツッコんで止める

 

「バカモン!斬り込むために準備がいるんじゃろうが!」

「予定通り四聖主を起こして、カノヌシの領域を抑え込むわよ」

 

そこにパーシバルが自身が得た情報を伝える

 

「アルトリウスは、鎮めの儀式は″緋の夜″までかかると言っていた」

「儀式の完成が先か、四聖主覚醒が先か・・・賭けだな」

 

アイゼンの言葉が正しければこれからの行動にかかる時間を計算して猶予がないのだろう

 

「悩んでも答えは出ないよ。キララウス火山へ向かおう」

「はい!鎮静化は断固阻止です!」

 

 

「エレノア、対魔士達は、この事を知った上でアルトリウスに賛同してたのか?」

 

バンエルティア号の待つ港に向かって移動を始めた一行、そこにロクロウがエレノアに質問する

 

「そんなはずは!私の知る対魔士達は、人々が笑って暮らせる世界を夢見て戦っていました」

「だが、対魔士達がこの状況を受け入れている事をどう説明する?」

 

エレノアは否定するがアイゼンの言う通り現に対魔士達も意思を奪われ傀儡同然になってしまっている

 

「私が、そう信じていただけだったのでしょうか・・・」

「カノヌシの鎮静化は、対魔士にも及んでいるんじゃないかな?」

 

ライフィセットは道中で出くわした対魔士達が住民と同じような状態であったことを思い出す

 

「対魔士達も、カノヌシに意思を制御され、道具になっているということか」

「ありそうな話だ。対魔士は融通が効かない奴らばかりだからな」

 

アイゼンの見立てにロクロウが付け加える。自己的に感情を押し込めているのか聖寮がこうなることを見越してあらかじめ訓練していたのかはわからないが

 

「あのまま聖寮にいたら、私もこんな世界を受け入れていたのかも・・・ありがとう、ライフィセット。きっと貴方の力が私の心を守ってくれているんですね」

「そう・・・なのかな?」

 

ライフィセットは自覚がないのだろうが現にエレノアは意識を保っているので恐らく事実だろう

 

「そうですよ。自信を持ってください」

「ふふ、あたしに捕まってよかったこともあったのね」

「そうですね。貴女に感謝します。ありがとう」

 

ベルベットは皮肉のつもりだったのだろうがエレノアの感謝の言葉にきょとんとしている

 

「本気で?」

「ええ、心に感じた事を伝えられるのは、素晴らしいことですから」

「・・・あんたには呆れるけど、同意するわ」

 

 

第49話 終わり


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