テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜   作:スルタン

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新年明けての投稿です。遅れて申し訳ありません


第51話

 

 

 

「休憩はここまでじゃ。特等共が来おったぞ!」

 

宿でベルベットとライフィセットとエレノアが寛いでいると扉が開き、マギルゥ、アイゼン、ロクロウがやってきて聖寮、しかも最高戦力の特等が襲来してきたのをマギルゥが知らせる。そこに奥の部屋からケンが出てきて合流する、皆が目を合わせ支度をして外に出る

 

「あの日と同じ緋の夜・・・」

 

ベルベットが夜空を見上げ血の様に赤い月がベルベット達を見下ろしている。三年前の出来事が脳裏の過る

 

「びびったかや、ベルベット?」

 

「誰がよ」

 

煽るマギルゥをベルベットは突っぱねる

 

「心配するな。シグレは任せろ」

 

「クロガネは?」

 

ベルベットは姿が見えないクロガネを尋ねるとロクロウは背中の刀の柄に手をやる

 

「一緒だ。シグレは、俺とクロガネが斬る」

 

クロガネは文字通り刀となりロクロウの覚悟を聞いたベルベットがアイゼンの方を向く

 

「アイゼン。悪いけどメルキオルは、あたしが喰らうわよ」

 

「わかった。だが、決着は見届けさせてもらうぞ」

 

僅かに口角を上げるアイゼンにベルベットが僅かに微笑む

 

「マギルゥ、あんたは好きなようにかき回しなさい」

 

「言われんでもの~♪」

 

「ベンウィック達は、頃合いを見てバンエルティア号に戻って待機して」

 

「アイ、マム!」

 

ベンウィックが指示を聞いて姿勢を正すとモアナもそれを真似る

 

「・・・ライフィセット」

 

ベルベットはライフィセットと顔を合わせる。ライフィセットは静かに頷く

 

「行こう」

 

すっかり頼もしくなったライフィセットに頷き、エレノアの方を向く

 

「エレノア、ライフィセットをお願い」

 

「・・・はい。もちろんです」

 

「ケン」

 

ベルベットはケンと顔を合わせる

 

「後もう少しだけ付き合ってもらうわよ」

 

「ええ、何処までも付いて行きます」

 

ベルベットはそれを最後に火山の入り口の方へ向き直る

 

「行くわよ!特等対魔士を殺し、世界を混乱の炎で包む!!」

 

皆がベルベットの横に並び立ち一斉に歩き出す。その後ろ姿をモアナが手を振って見送る

 

「いってらっしゃーい!元気で帰ってきてねー!」

 

ロクロウが右拳を上げマギルゥは手をひらひら振り、ライフィセットはつい振り返って手を振りエレノアもそれにつられるように振り返る。ベルベットもライフィセットの方を向いたのでアイゼンとケン以外が反応した結果若干締まらなかった

 

 

山道を上り、荒涼の風が吹きこむ洞窟を抜け一行はキララウス火山の入り口にたどり着く。エレノアは周囲を見る、狭い山道を見て待ち伏せを警戒する

 

「挟み撃ちに絶好の場所ですね・・・」

 

「奇襲の心配はない、シグレは、この先にいる」

 

「なぜわかる」

 

アイゼンがロクロウにその理由を尋ねる

 

「あいつは小細工なんて姑息な手は使わん、こういう時は必ず正面から待ち受ける」

 

キララウス火山の内部に入り少し進むと人影が見えた、そこには本当にシグレ正面から待ち構えていた。地面に座り心水を飲んでいる

 

「おいおい、本当に正面におったわ・・・」

 

皆が警戒して立ち止まる中ロクロウは一人シグレに向かって歩を進める。エレノアがそれに気づいて止めようとするがベルベットが横から腕を出し制する

 

「ロクロウ・・・!?」

 

「大丈夫よ」

 

ロクロウはシグレの目の前に立ち、クロガネ征嵐を掴み胡坐をかいて座り込みシグレに刀を差し出す、シグレは何も言わず刀を受け取ると鞘から刀身を少しだけだし出来をみる。ロクロウはその間に心水を飲む。シグレは鞘から刀身を完全に抜く

 

「大した奴だ。自分を刀にしやがるとはな」

 

シグレは一目でクロガネが自らを刀に打ち直していることを見抜いた

 

「・・・ああその刃は、クロガネの数百年そのものだ」

 

「″クロガネ征嵐″か。面白ぇ」

 

シグレはクロガネ征嵐を振りかぶり心水を飲むロクロウの首元の寸前で止める

 

「今は、まだ″クロガネ″だ。″征嵐″とは″號嵐″を征する刀の名」

 

ロクロウは杯を置き続ける

 

「俺が、お前と號嵐を叩き斬って、こいつを″クロガネ征嵐″にする」

 

「・・・面白ぇなぁ!」

 

ロクロウの目的に嫌な顔をするわけでも嫌悪するわけでもなく鞘に刀を戻しロクロウに差し出す。それを受け取り立ち上がるとベルベット達の所へと戻る

 

「待たせたな」

 

「気をつけて。おそらくこいつも神依を使うわ」

 

「神依だぁ?聖隷の力を借りる趣味はねぇよ」

 

それを聞いたシグレが言い放つとマギルゥ顔を舐めてる猫を見ながら言い返す

 

「対魔士がよう言うわ。猫聖隷の力を借りとるじゃろうが」

 

「借りてねぇよ、バーカ!」

 

いきなりの悪口にマギルゥは驚いて声が出ない

 

「そうよ。逆にあたしは、頼まれてシグレの霊力を抑え込んでいるのよ」

 

「抑え込む?・・・って、まさか!」

 

抑え込むというフレーズでライフィセットが感づく

 

「応よ、修行の為さ。最初は指一本動かすにも苦労したが・・・ムルジム、枷を外せ」

 

ムルジムがシグレに瞬きを一度したその瞬間シグレの体からオーラのような霊力があふれ出す

 

「うおおおおおっ!!!!」

 

その圧倒的な覇気と霊力にベルベット達がたじろぐ

 

「これが人間の力だと!?」

 

「猫をかぶせておったか!」

 

「人間やりゃあできるんだよ。そこの男の様にな、対アルトリウス用のとっておきだぜ」

 

シグレは腕を回し號嵐を抜き鞘を放り投げる

 

「・・・流石だぜ」

 

シグレの威圧感を前にしたロクロウは驚くと同時に微かに笑う

 

「ロクロウ!」

 

「悪いけど手を出すわよ」

 

ライフィセットとベルベットがロクロウの隣に立ち戦闘態勢に入る

 

「そうだ、全員でかかってこい!正々堂々なんてぬかせるほど、俺の剣は甘かぁねぇぞ!!」

 

「知ってるさ、嫌ってほどな!」

 

ロクロウはシグレに向かい走り出す、そして皆も構えて走り出した

 

「はぁあああ!!」

 

ベルベットは跳躍し刺突刃を横薙ぎに振るう

 

「なっ!?」

 

「やるな、太刀筋は悪かねぇし踏み込みもいい。だがまだまだ修行不足だな!!」

 

號嵐で簡単に防がれ、そのまま鍔迫り合いになり弾き飛ばされる。そこにロクロウが斬りかかるがあっさりとかわされ反撃を受ける。ロクロウはすかさず後ろに飛び退き今度はエレノアが前に出る

 

「裂駆槍!!!」

 

「おっと!」

 

エレノアは連続で突きを放つがシグレに軽々と首だけ傾け躱されるがそれでも食下がり槍を地面に立て回し蹴りを放つ

 

「旋独楽っ!!」

 

「足元がガラ空きだぜ!!」

 

シグレはそれを見切って体を屈め槍を足で蹴り払い体勢を崩したエレノアを叩き斬ろうと號嵐を振り下ろした瞬間、横からアイゼンが聖隷術で風の槍を繰り出しながら邪魔をするシグレは攻撃を止め術を號嵐で打ち消しながら数歩下がる

 

「ははっ!!流石アイフリード海賊団の副長!そうじゃなくちゃあなあ!!」

 

「アイフリードが大分世話になったからな、礼はさせてもらうぜ!」

 

シグレはアイゼンの攻撃を避けようともせず真っ向から受ける。アイゼンがジャブとストレート、蹴りを織り交ぜて攻撃するがシグレは腕のガードと號嵐の刀身で防いでゆく

 

「ちっ、化け物が・・・」

 

「おいおい、この程度で終わりか?がっかりさせるなよ」

 

アイゼンの猛攻を受けながらも余裕を見せるシグレにベルベットが背後から攻撃を仕掛けるがこれも難なく捌かれてしまう

 

「ちぃっ!!」

 

「甘いぜ!背後からの奇襲なんざ常に警戒して当たり前だぁ!!」

 

ベルベットは舌打ちしながら後方へ飛ぶ、それを狙いすましたかのようにシグレはアイゼンを蹴り飛ばし振り向きざまに斬り上げる

 

「くぅっ!!」

 

「まずは一人!」

 

避けきれず右腕を斬られ、着地と同時に膝をつくベルベットに追撃を仕掛けようとするシグレの前にケンが立ち塞がり號嵐を白刃取りで止める

 

「ベルベットさん、今の内に!」

 

「おお!!俺の太刀を受け止めるなんざやるじゃぁねえか!!」

 

ケンはそのまま力で押し返し距離を取る

 

「ふんっ!」

 

「動きが止まったぞ!ライフィセット!」

 

「うん!」

 

ケンはシグレに距離を詰められるが防御と回避に徹して時間を稼ぐ。そこにマギルゥとライフィセットが聖隷術を発動させる

 

「爪牙連なり裂傷乱れよ!ダークネスファング!」

 

ケンは後方に飛び込んで回避する。シグレの周りから狼の牙が無数に噛みつこうと飛来する。全て受け切るのは悪手と判断したかシグレは大きく下がる、その時地面に術の陣が広がる

 

「掛かったのう!氷の檻に閉じ込められてしまうのか?インブレイスエンド!」

 

地面から氷柱が発生し、それは瞬時にシグレを閉じ込める巨大な氷塊へと変わる

 

「どうじゃ!これだけ氷漬けにしてしまえば特等だろうが関係ないわい!」

 

その時突然氷塊に切れ目ができたかと思うと次の瞬間、氷塊は欠片になって辺りに散らばる

 

「んなぁ!?」

 

「なるほど・・・考えたな、確かに身動き取れないようにしちまえば刀振ってなんぼの俺には効果的ってやつだわな。だがぬるい!!」

 

シグレは號嵐を構えると覇気があふれ出す

 

「今日は今までで一番楽しめたぜ、その礼だ。嵐月流奥義を拝ませてやる!」

 

ベルベット達がその覇気の圧で動けない中ロクロウがクロガネを抜き放ち走り出す

 

「避ける必要はねぇ...!」

 

シグレが號嵐を大上段から振り下ろすと同時にロクロウがクロガネを下段から切り上げる

 

「「何処にいても同じだ!嵐月流!!」」

 

「荒鷹!!」

 

「絶刑!!!」

 

二振りの刀がぶつかり合いお互いに大きく弾かれ後退する

 

「はっはぁっ!!俺の一撃を止めるか!!!」

 

「貴様の覇気は幾度となく味わっているんだ!!こっからだぜシグレェ!!!」

 

「気が合うなぁ!!俺もだぁ!!!」

 

「おおおおっ!!!」

 

ロクロウが小太刀を構え直しシグレは號嵐を肩に担ぎ二人とも同時に走り出す、凄まじい剣撃のぶつかり合いにベルベット達は見ている事しかできない

 

「・・・ここはロクロウに任せるしかないな」

 

「ええ、二人の意地のぶつけ合いですから。決着を見届けましょう」

 

ロクロウが横薙ぎ、シグレは半歩後退して躱し大上段からの兜割り。ロクロウはそれを横に跳んで躱し大きく踏み込んで突き込みシグレが號嵐を横から振るい弾き、ロクロウが体勢を崩したところで胸部に柄頭を打ち込む

 

「ぐふっ!?」

 

ロクロウが息を吐き出し僅かに後ろに下がる、シグレが追い討ちを掛けようと前に出た時ロクロウが空かさず後ろ蹴りをシグレの腹に叩きこむ

 

「ぐおっ!」

 

お互い膝を付き顔を見合わせる

 

「大したもんだな・・・初めてだぜ。お前の蹴りを喰らったのはよ・・・!」

 

「関心するのは早いぜ・・・!まだ″俺の剣″を見せていない!」

 

「・・・お前の剣?そりゃあ休んでる場合じゃねぇな」

 

「シグレ・・・!」

 

ムルジムが声を上げるがシグレが口を挟む

 

「手を出すんじゃねぇぞ、ムルジム」

 

シグレはそれだけ言うと號嵐を中段に構える

 

「ロクロウ、この人はまだ力を・・・」

 

「わかっている。こいつはシグレ・ランゲツだからな」

 

ライフィセットの言いたいことをわかっているロクロウは小太刀を中段と上段で構える。今までシグレとやり合ってきたからこそシグレという男の実力を身に染みて知っているからだ

 

「二刀でいいのか?」

 

「確かめてみろ。命を賭けて」

 

「・・・そっちもなぁ」

 

それからお互い構えたまま動かない。お互い手の内を知り尽くしている以上、先に動けば負ける。エレノアとライフィセットは息を飲んで見守っている。長い沈黙が続く中溶岩が流れる音のみが響く。そしてついに二人の目が開き駆ける。シグレは跳び大上段からの唐竹割りに振り下ろす

 

「噴ッ!!!」

 

ロクロウは小太刀を斜めに重ね合わせ迎え撃つ

 

「雄おおおおぉっ!!!」

 

號嵐と小太刀がぶつかり火花が散る。鍔迫り合いに僅かに拮抗する。その時ロクロウが小太刀を捻り、號嵐を小太刀を上に跳ね上げる。ロクロウの裏芸二刀流が初めてシグレの表芸一刀流に打ち勝った

 

「おおっ・・・!!」

 

跳ねあがった號嵐には目もくれずシグレはロクロウを見る、そこには背中のクロガネに手を掛けるロクロウ。刀身が見えた時、シグレは驚愕ではなく笑みを見せた

 

「斬ッッ!!!!」

 

鞘から抜き放ったクロガネ征嵐を斜め上段から振り下ろす。シグレの胴体から鮮血が噴き出す

 

「三刀・・・・・これがお前の剣か・・・」

 

「そうだ。シグレ・ランゲツに勝つために鍛え上げた業だ」

 

「やるじゃねぇか」

 

それをきいたシグレはゆっくりと後ろに倒れる。自身の傍に突き刺さった號嵐に顔を向ける

 

「クロガネへの花向けだ。號嵐を・・・持ってけ。後な・・・この猫は見逃してやってくれ」

 

「シグレ・・・」

 

ムルジムはシグレに近づく。ロクロウは號嵐を抜き呟く

 

「シグレ、あの上意討ちは――」

 

「どの道、おんで出てたさ。飼い犬暮らしにうんざりしてたんだ」

 

「・・・」

 

「バカ野郎・・・小難しいこと考えんな。斬れたら嬉しい。斬れなきゃ悔しい。斬られれば死ぬ・・・そんだけのことだ・・・剣は単純で・・・だから面白れぇ・・・」

 

「ああ・・・面白いな」

 

「ふっ・・・いい悪い顔だ。アルトリウスの石頭も・・・そんな風に笑えば・・・いいのによぉ・・・」

 

シグレは目を閉じ。それから目覚める事はなかったがその顔は満足げだった

 

「・・・そうか・・・ベルベット」

 

事を終えたロクロウがベルベットを呼ぶ

 

「いいのね」

 

「いいさ。兄貴は俺が斬った」

 

ベルベットは業魔手を出しシグレに近づき振りかぶる

 

「はああああっ!!」

 

それと同時にロクロウは號嵐を地面に突き立てた

 

 

「ここに残ってると、多分巻き込むわよ」

 

ベルベットは地面に刺さった號嵐を見つめるムルジムに警告する。シグレの亡骸はもうこの世にはない、だから地面に刺さった號嵐が墓標である

 

「危なくなったら逃げるわ。でも、もう少しだけここにいさせて。シグレには意思を解放してもらった恩もあるし・・・何よりこの人、案外寂しがり屋だったから」

 

「そうなのか」

 

「ロクロウはシグレの意外な一面があったことに驚く

 

「知らないのね、兄弟なのに」

 

「ずっと剣の修行ばかりだったからな。俺もシグレも」

 

「ごめんなさい、皮肉じゃないのよ。思う様に生きて死ぬ・・・きっと、それでいいのよ。私は嫌いじゃないもの、そういう人間が」

 

「そうか」

 

シグレという人間の死生観に理解を示し、ついてきたムルジム。似た者同士だったからこそだろう

 

「変わった聖隷ね。あんたも」

 

「どういたしまして」

 

それを最後にロクロウとベルベットは先に待つ皆の所へ歩き出す

 

「戻っても構わないわよ、ロクロウ」

 

「忘れるなよ。俺の目的は、お前に恩を返すことだぜ」

 

 

第51話 終わり

 


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