テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】 作:スルタン
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血翅蝶のアジトである酒場で一夜を明かしたベルベット達は早朝、決戦の場へと向かうべく外に出る
「じゃあ、行ってくるわ」
日も上がってない少し薄暗い中、ベルベットはタバサに向かい合い告げる
「ええ、気をつけて。今の聖主の御座は対魔士の警備もなく蛻の殻同然よ。それもアルトリウスの狙いでしょうけど」
「カノヌシの完全な覚醒には足りないものがあるってこと」
ベルベットは振り返りエレノア達と話しているライフィセットを見る
「相手が口を開けて待っているなら飛び込んで、腹を引き裂いて出るまでよ」
「貴女の思う道を征きなさい。後悔しないようにね」
「言われなくてもわかってるわ」
ベルベットはタバサに一瞥する。そしてライフィセット達の方を向き歩き出す。ベルベットが先頭になるとそれに合わせて皆が歩きはじめる、ケンは一度立ち止まりタバサの方を向き深く頭を下げ直に後を追いかける、丁度日が出てきて彼らの道の先を照らし始める。タバサはベルベット達の背中を静かに見送った
「幸運を祈っているわ」
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タバサと別れベルベット達は真っ直ぐ聖主の御座に向かって行った。情報通り御座には対魔士の姿はなく放棄に近い状態だった。長い階段を昇り頂上に着くと真上にカノヌシとアルトリウスがいる建造物が見えた
「う~ん・・・『カノヌシがいる』はいいが、ちょっと高すぎるぞ」
ロクロウが真上を見上げる。衛星軌道上に浮かぶ巨大なカノヌシの根城にどうカチコムか思案する
「あの高さではグリフォンでも無理そうですね」
「儂の式神は一人乗りじゃしなー」
「自分の技でもあそこまで届くかどうか・・・」
それぞれが行き詰っているとアイゼンが制する
「おそらく悩む必要はないだろう」
「え・・・?」
アイゼンが指差した先には台座のようなものから白い光が上に伸びているのが見える。マギルゥはそれがなにか直に分かった
「ほほぅ~、転送術とは手回しがいいのう」
「カノヌシが完全覚醒するには、あたしとライフィセットが要る。決戦は、向こうも望む所って事よ」
「こっちだって望む所だよ!」
「・・・などとノリで飛び込むでないわ、粗忽者!ちゃんと調べんか!」
「ご、ごめんなさい」
挑発にのって今にも飛び込もうとするライフィセットをマギルゥがツッコミで止める
「おお、ここに来て初めてマギルゥが正論を言ったな」
「マギルゥが言うのは珍しいですね」
「儂だってたまには言うわい!」
「不吉ね。念の為もう一度準備と確認をするわよ」
「のおお~!決戦前に頼もしい仲間をディスるとは、血も涙もない奴らじゃわ~!」
散々に言われたマギルゥの叫びが辺りに木霊した。そこへ誰かが近づいてくる
「何やら騒がしいと思ったら、なるほど。災禍の顕主か」
ベルベット達は声のした方へ顔を向けると黄色と緑の上着を其々羽織った白装束の男性が立っていた
「あんた達は・・・聖隷ね、何の用」
「事を荒立てるつもりはない。お前達がカノヌシを倒しに行くと思い、ここで待たせてもらった」
聖隷は手を前に出し戦意がない事を伝える、ベルベットはそのまま続けるよう目で促す
「まず、お前たちがカノヌシの領域から私達を解放してくれたことに礼を言う」
「それには及ばないわ。あたしの都合でやっただけ、まだ邪魔する聖隷がいるなら、容赦なく喰らうわ」
ベルベットがそう告げるともう一人の聖隷が口を開く
「ほとんどの聖隷は、カノヌシの力で強制的に意思を奪われている。地上にいる聖隷は解放されたが。一部の聖隷はそのままカノヌシに従った者もいる」
「共存を諦めた者達か」
「上空にあるカノヌシの聖域では力が強く、従った者も新たに生み出された者も、もはや意思を取り戻すのは叶うまい」
表情を落とす聖隷にアイゼンが口を挟む
「事情は承知の上だ。手加減をすればこっちがやられる」
「このままカノヌシの意のままに操られるならば、自由にしてやってほしい。お前達の征く道を切り開く為に、お前達の信じる道を進む為にな」
「自分の信じる道を進む・・・意思をもつことは、そういうことでしょう?」
その言葉に二人は小さく頷く
「ならば我らも、我らの信じる未来を目指す」
「聖寮は、霊力を操作する術式を刻んだ″器″を神依の型とすることで人と聖隷の力を完全に融合することに成功した。彼ら、この神依の型を″神器″と呼んでいた」
「その弓が?」
ライフィセットは聖隷が持っている弓に目を向ける
「そう、完成した神器の一つだ。我々は、この神器と神依の技術を、後世に伝え遺そうと思う」
「・・・何のために?神依は危険な力だよ」
「人と聖隷の共存の為にだ」
「人と聖隷の共存・・・」
「現在の神依は、人間が一方的に聖隷の力を搾取するものだが。人と聖隷が、互いの意志を認め合った上で発動するものにできれば・・・」
「神依は、この世界に仇なす″強大な力″と闘う為の切り札になるだろう」
聖隷の言葉にベルベットが呟く
「この世界に仇なす・・・災禍の顕主のような、ね。いいわ、好きにすればいい」
「それも、まだ見ぬ未来の可能性の一つだ」
「うん」
「ひとつ、忠告しておく。既にカノヌシの為の神器は完成している。この意味はわかるな?」
聖隷の警告に意味はベルベットは直ぐに理解した
「・・・ええ、その神器を持つのは導師アルトリウス。そういうことでしょう」
「未来の為に、お前の武運を祈ろう。災禍の顕主よ」
ベルベット達が転送術の方へ向かう。ケンもそれに続こうとした時二人の聖隷に呼び止められる
「君は、我らの同族を救ったと聞いている。代わって礼を言わせてくれ」
「いえ、自分も確証があるわけではありませんでした。無我夢中にやった結果、いい方向に向かったと言うだけです」
「その行動が同胞を救ってくれたのだ。この恩は忘れない」
「ではその恩は、自分じゃない誰かに返してください」
ケンは振り向いてアイゼンの方を見る。聖隷も彼を見て頷く
「わかった。何時か必ず恩に報いよう。それと君に会いたい者がいる」
二人の聖隷の後ろから一人の女性が歩み寄ってくる。肩まで掛かる髪と毛先の赤色、その姿に見覚えがあった
「貴女は確か、聖寮の施設でドラゴンになっていた」
「はい、貴方に助けていただいた聖隷です」
その聖隷は少し恥ずかしそうに自己紹介をする。おそらく人と話したことがないのだろう
「確か貴女とシルバはルシフェルさんが安全な場所に連れて行ったと聞いていましたが」
「そうなんですが・・・その、あの時はお礼を言えなくて申し訳ありませんでした」
聖隷は申し訳なさそうな表情で頭を下げるもケンは空かさず制する
「どうか頭を上げてください、貴女を助けることができたのは全くの偶然で意思が解放されて直ぐ別れたのです。仕方ありません」
「ですが・・・」
「それより、なぜ此処に?」
「どうしてもお礼がしたくて・・・それであの人たちに連れてきてもらいました」
「はぁ・・・」
意外な行動力にケンは少し驚いたがふと聖隷が腰に下げている短剣に気付く
「その短剣、使ってくれているんですね」
「あ、はい!器として使わせていただいてます」
聖隷は短剣をケンに差し出す。ふと彼はルシフェルの言葉を思い出す
(確かこの短剣は別の機能が使えるとか言ってたな・・・)
鞘から短剣を抜き取る、藍玉の装飾が施された本身を見ながら縦に持ち取り敢えず刀身が伸びる様に意識してみると刀身が藍玉色の結晶を纏い細身の剣状の刃が出来上がった
「すごい・・・奇麗」
「ルシフェルさんから使い方聞いていなかったけどなんとかなったな・・・」
聖隷は結晶の美しさに見とれ、ケンはうまく行った事に呟く。結晶を解き鞘に戻して返しやり方を教えた
「これなら何か危険が迫った時でも自分の身を守ることができるでしょう」
「何から何までありがとうございます」
ふと後ろを見ると皆が待っている
「では、そろそろ行きます。これで」
「はい・・・貴方も、どうかご無事で・・・」
聖隷はどこか寂しげな表情を浮かべながら別れを言う。ケンは二人の聖隷に目配せをした後ベルベット達の方へ歩き出す
「あの!!貴方のお名前は!」
聖隷がケンに向かって叫ぶ、ケンはルシフェルが自分の名前教えなかったのかなと思い振り返る
「ケンです」
「私は・・・私はライラと言います!!」
「ライラさん、どうかお元気で」
それを最後にベルベット達と合流する
「覚悟はいい?」
「いつでも」
短い会話をした後、転送術の中に入り込み辺りが光に包まれる。光が収まると自分達がいた大地が眼下にありここが紛れもなくカノヌシの聖域であるとわかる。白い岩のような足場と青い結晶がそこかしこに浮いており冷たい印象を伝える
「どうやら対魔士はいないようね」
「でも、かなりの聖隷がいます」
ベルベットとエレノアが周囲を警戒するが遠くからベルベット達の存在に気付いた聖隷達が此方に向かってくるのが見える
「カノヌシと直接契約した聖隷、陪神達だ。気をつけろ、奴の力を分け与えられているはずだ」
「厄介そうね」
「そうでもないさ、全部切り倒すだけの事さ」
ロクロウは小太刀を構えると皆も同じく構え陪神達を相対した
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第55話 終わり
次辺りでラストになると思います