テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】 作:スルタン
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ベルベット達はカノヌシに力を与えられた聖隷、陪神達を退けつつ聖域を駆け抜けていく。用意された転移術で階層を上がっていく度攻撃は苛烈さを増す。だがベルベット達は止まることなく、襲い掛かる聖隷達を薙ぎ払いながらアルトリウスとカノヌシが待つ最奥へ走る。そして次の転移術に飛び込むとベルベット達の前方に宙に浮かぶ長い階段がありその先に一際大きな足場が確認できる
「・・・感じる・・・カノヌシは、この奥だよ」
息を切らしながらもライフィセットが皆に伝える
「とうとう恩返しができそうだな」
「・・・あんた、それ言いたいだけでしょ?」
「お、とうとうバレたか!」
「わからいでか。どいつもこいつも他人の都合で動く奴じゃあるまい」
「否定はしません」
マギルゥの言う通り全員は自らの都合で動いた。結果的にベルベットに付いてきただけなのである
「自分の舵は自分で執る」
「それが僕たちの″流儀″だ」
そこに下方から羽ばたく音や咆哮が響く
「皆さん、敵が追いついてこない内に行きましょう。これ以上消耗しない内に」
ケンの呼びかけで其々顔を見合わせ宙に浮いた階段を昇り始める。長く上まで続く階段を走り昇る、最上層にたどり着いたベルベット達の前方に太陽を背にしたアルトリウスとカノヌシが待ち構えていた
「待たせたの~導師殿!災禍の顕主御一行の到着じゃ~!!」
此処までの連戦で息を切らしていたが気丈に振舞い導師を煽るマギルゥ
「最強の剣士・・・斬るのが楽しみだ」
「アイフリード海賊団に喧嘩を売った落とし前、付けさせてもらうぞ」
血糊を払い小太刀を構えるロクロウに手袋を嵌めなおし指を鳴らすアイゼン
「アルトリウス様、私は自分の意志に従って貴方を止めます!」
汚れを拭い槍を導師へと向けるエレノア
「・・・導師の剣には、人々の″理想″と″希望″が宿っている」
アルトリウスが鞘に収まった長剣で床を突くと霊力の風圧が吹き荒れる
「″理″から外れた意志で砕けるものか」
ベルベット達が風圧で後方に徐々に押し出されるのを一番後ろにいるケンが支える。風が止んだところでライフィセットが口を開く
「・・・貴方の剣は強いよ。けど僕たちと同じ″只の剣″だ」
「試してみるがいい。お前自身の体で」
ライフィセットとアルトリウスがお互いを見やる中カノヌシは彼に殴られた頬を摩る
「君に殴られて以来、胸の奥がモヤモヤするんだ・・・これって、なんなのかな?」
「わからないなら、また殴ってあげるよ」
「ふぅん・・・きっと君を食べたらすっきりするね」
そこにベルベットがライフィセットを庇う様に前に出る
「・・・アーサー義兄さん『なぜ鳥は空を飛ぶのか』答えがわかったわ」
アーサーと呼ばれたアルトリウスは何も言わず黙ったままだがベルベットは構わず続ける
「鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの、理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても、他人の為なんかじゃない。誰かに命令されたからでもない。鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ!!」
想い焦がれ、願い、望んだうえで飛ぶ。そこに理屈が入る余地はない、感情とはそういうものだからだ
「・・・そんなものが、お前の答えか」
「そう、それが″あたし″よ」
ベルベットの答えにアルトリウスは静かに口を開く
「お前は昔からそうだった・・・その愚かさこそが業魔を生み、世界に悲劇をもたらす元凶なのだ」
「だったら退治してみせろ!導師アルトリウスッ!!」
長剣を抜き放ち構えるアルトリウスとその横で戦闘態勢に入ったカノヌシ
「元よりそのつもりだ」
その瞬間アルトリウスとカノヌシが消える、ベルベット達は動揺することなく周囲を見渡す。こちらから来なければ向こうから来るのはわかり切っているのだから。その時アルトリウスがベルベットの眼前で長剣を振り上げていた
「ふんっ!」
「ぐっ!」
咄嗟に反応したベルベットは刺突刃を出し火花を散らせながら鍔迫り合い。カノヌシは紙葉で作り出した細剣でライフィセットの首を狙うも術で防壁を張り防ぐ
「導師アルトリウス!お命頂戴!!」
何度か斬り結んだベルベットを押しのけ切り上げで距離を取らせたアルトリウスにロクロウは小太刀を首目掛けて突き出す、瞬時に見切り体を僅かに傾け躱し今度はお返しと言わんばかりにロクロウの首目掛けて長剣を横一線に振るう
「ぬう!」
「お前もシグレも変わらんな・・・」
ロクロウはもう片方の小太刀で長剣を受け流し反撃で脇目掛けて斬りつけようとするもそれより先にアルトリウスの中段の回し蹴りが腹部を捕らえる
「がっ!」
蹴り飛ばされ倒れたロクロウを手早く仕留めようと地を蹴った瞬間横からケンがタックルで弾き飛ばす。アルトリウスは無表情のまま難なく体制を整え追撃の逆水平チョップを剣身で防ぐ
「・・・貴様はどこまでも世界の希望を阻むのだな」
「それが本当に世界が望んだのであれば自分は此処にはいません。ですが世界の鎮静化が本当に正しい判断とは完全に肯定できない」
アルトリウスはチョップを払いのけケンに距離を取らせ切っ先を突きつける
「だからこそ・・・静寂を齎さねばならんのだ。生命にも、世界にもな」
ベルベットとロクロウがケンの横を走り過ぎ各々の獲物を振るいアルトリウスが長剣を振りかぶった。そこから少し離れてエレノアとアイゼンがカノヌシに猛攻を仕掛ける
「ハッ!!」
エレノアは槍を素早く突きと薙ぎ払いを繰り出しカノヌシに喰らいつく。カノヌシは無表情で細剣でいなし大きく弾いた所で心臓目掛けて突き入れようとするのをアイゼンが入れ替わり間合いに踏み込み聖主に殴りかかり無理矢理距離を取らせる。そこに距離を取っていたライフィセットとマギルゥが聖隷術で攻撃に出る
「爪牙連なり裂傷乱れよ!ダークネスファング!」
空間から無数の無色の牙が放たれカノヌシの肉体を削ろうと迫るが障壁を張られ砕け散る。うっとおしそうにライフィセットを睨むカノヌシの足元から炎が舞い上がる
「よそ見をするとは聖主様はえらく余裕があると見えるの!!ブレイジングマイン!」
マギルゥはにやけながら爆炎が響く中叫ぶ。だがその爆炎が一閃で斬り割かれ無傷のカノヌシが現れる
「・・・派手に焼いてやったんじゃから火傷の一つもしてもらいたいもんじゃな・・・」
冷や汗を流すマギルゥにカノヌシが手を翳し竜巻を繰り出す
「させない!聖泡散り行き魍魎爆ぜよ!セイントバブル!」
「チィ!幻影よ交わり滅して裂けろ!ビジュゲイト!」
ライフィセットの泡が破裂し竜巻を阻もうとするがそれを物ともせずに呑み込みアイゼンの生み出した二つの風の霊力が斬り割こうとぶつかり合うも砕け散る
「間に合って!連なれ真紅!霊槍・獣炎!」
「細切れなんぞ御免こうむるわい!ブレイズスウォーム!」
槍の先から繰り出される火炎と炎の奔流がようやく神の竜巻を打ち消す
「あ~あ、止められちゃった直ぐ済ませようと思ってほんの少ししか力いれてなかった。もうちょっと霊力入れとけばよかったな」
四人掛かりでやっと止められた術をほんの少しと言った事にライフィセット達は表情を険しくする
「流石聖主だ、俺達の事なんざ屁とも思ってない」
「なら、そう思わせる様にするだけだよ」
「その通りです。手も足も出ないわけではないのですから、ベルベットの様に喰らいついてやりましょう!」
エレノアは槍を構え同意する
「あっちも諦めが悪いんじゃ、儂らだけ潔くなんてのはつまらんわい!」
マギルゥは式神を出しながら歯を見せる、アイゼンもライフィセットも気を引き締める。それが気に喰わないのかカノヌシは無表情のままだが目つきを鋭くし霊力の高まりを感じる
「全く、まだわからないの?君たちがどんなに足掻こうが僕には勝てないって」
「お生憎様じゃ!儂らは勝つぞ!」
「面白い冗談だね」
カノヌシは手を翳しその先から無数の光の光線が不規則な動きで照射される。ライフィセット達はそれを躱しアイゼンとエレノアがカノヌシに向かって走り始める
「冗談かどうか今わかるさ!!」
ベルベットの回し蹴りとアルトリウスの後ろ回し蹴りがぶつかる
「足癖の悪さは変わらんな。ベルベット」
「アンタに言われたくないわ、ねっ!!」
右足のブーツに仕込んでいた刃を出し首目掛けて振り上げる、アルトリウスはそれを見切っていたように僅かに下がり躱す。そこにロクロウが跳躍し小太刀を振り下ろす、半身になって避けたアルトリウスに追撃で幾度となく長剣と小太刀がぶつかり合う
「シグレに三刀で斬り捨てたと聞く・・・私に使うか?」
「応!貴様に止めを刺すときにな!!」
「笑止」
アルトリウスは長剣で小太刀を上に弾き返し、そのまま回転し横一閃に長剣を振りぬく
「ちぃ!!」
ロクロウは咄嗟に体を捻り躱すが刃先が僅かに掠る。更に踏み込んでくるアルトリウスに横からケンが割って入り、長剣を両手で挟んで止めアルトリウス毎後ろに押しこんでいく。アルトリウスがケンの腹を膝蹴りするも踏ん張り拮抗する、お返しに長剣を払い腹部に飛び込み頭突きをお見舞いする
「ぬぅ・・・!蛮族めいたやり方で・・・」
「蛮族で結構よ!」
流石に予想できていなかった攻撃で数歩下がったアルトリウスにベルベットが業魔手を振りかぶる、アルトリウスは瞬時に移動し攻撃を避け空振りした業魔手が地面を叩きつける
「ロクロウ!!」
「承知!弐の型・醍地!」
ロクロウがベルベットの傍に立ち印を結んで地面に爆発性の罠を張る。その中でベルベットとロクロウは背中合わせとなり備える、
「そんな見え透いた手など!」
アルトリウスが長剣に霊力を込め地面を斬りつけながら振り上げる、巨大な岩が隆起しながら二人に迫る
「うおおっ!!」
「くああっ!」
二人が左右に飛び込んで避ける、罠が岩の隆起で消し飛びその余波で吹き飛ばされる。アルトリウスは二人を尻目にケンの眼前に迫る
「先ずは貴様だ・・・!」
(此処まで来たんだ、負けるわけにはいかない)
アルトリウスの神速の剣筋が炎を纏い切り上げたと同時に無数の炎の旋毛風となりケンを襲う
「出し惜しみはもうしない!」
両手を胸の前で合わせエネルギーを集中させ前に突き出す。スパーク光線が眩い閃光と共に破壊エネルギーを放射し灼熱の旋毛風を吹き飛ばす
「なに・・・!?」
「とおっ!!」
アルトリウスが自身の技が破られた事に驚愕し僅かに足を止める、ケンはそれを見逃さずジャンプしミサイルキックでアルトリウスを蹴り飛ばす
「ぐあ・・・!!!」
まともに受けたアルトリウスが背中を地面に擦り後方へ大きく滑る
「ガハッ!・・・こしゃくな、真似を!」
先に起き上がったケンはダメ押しで走り込んで蹴り上げようとするも、アルトリウスは片手で跳び起き際に長剣を振り上げ太ももと腕を斬りつける。半歩下がったケンだがタックルで組み付いて抱え上げ勢いをつけ前方に放り投げる。アルトリウスは空中で体勢を立て直し地面に長剣を突き刺し勢いを殺し止まる
「うおおおおお!!」
ロクロウが後ろから小太刀を振り下ろす、アルトリウスは咄嗟に振り向き長剣でそれを受け止める。だがそれが隙となりベルベットが素早く懐に飛び込み蹴り上げる
「ぐ・・・」
「お返しよ!」
ベルベットが蹴り上げた先からロクロウが接近する
「次いでだ!翠波活殺!!」
小太刀から振るわれた真空波がアルトリウスを吹き飛ばす。体勢を整え地面に着地するもここまで追撃を受けたアルトリウスはここで初めて少し息を切らす。そこに爆風で吹き飛ばされたカノヌシが後退してきた
「なんとか、上手くいったわい・・・」
「私とアイゼンが追い込むつつマギルゥとライフィセットの術による巧妙な罠、一泡吹かせましたね・・・」
膝に手を付きながら息を切らせるマギルゥと槍を杖替わりに立つエレノア
「どうだ!屁とも思わせてやったぞ!!」
「このまま押し込むぞ!」
ライフィセットとアイゼンも消耗しながらも構えは解かない
「しぶといな・・・業魔共・・・」
「原因はあいつだ」
カノヌシは消耗しているベルベット達に回復の聖隷術を掛けるライフィセットに狙いを定める。細剣を構え超高速で向かってくる。細剣を振り下ろすのを横から割って入ったベルベットの刺突刃がぶつかり合う
「退いてよ、お姉ちゃん!」
「嫌よ!」
カノヌシの言葉に明確な拒否を示し刺突刃を振り上げる。それを僅かに下がり細剣で突きを入れる、切っ先が眼前に迫ったときベルベットは櫛を目の前に翳す。木製の櫛は切っ先に触れた瞬間砂糖菓子の如く真っ二つに割れた
「!!?」
「ハァ!」
ベルベットは一瞬動きが止まったカノヌシを回し蹴りで蹴り飛ばす。空中で一回転して止まる
「あ・・・れ・・・お姉ちゃん?なんで・・僕の櫛を・・・」
「それは″ラフィ″がくれた櫛よ。聖主カノヌシ」
ベルベット達の前にいるのは聖主なのであって弟のライフィセットではない。はっきりと拒絶されたベルベットの言葉にカノヌシは視線を落とす
「そっか・・・僕は″カノヌシ″で、貴女は″災禍の顕主″だったね」
視線を上げたカノヌシは虚ろな目をしている
「・・・ああ・・お腹が空いたよ、アルトリウス」
そこにアルトリウスがゆっくりと近づく
「お腹が空っぽで・・・胸が空っぽで・・・体が空っぽで・・・僕は・・・苦しい・・・苦しいよ・・」
「どうやら、お前から″絶望″を喰らうことはできないようだな。ならば・・・」
アルトリウスがカノヌシの背後に立つ
「鳥は飛ばなければならない。強き翼を持つ故に、人は鎮めなければならない。深き業を持つ故に、穢れも、悲劇も、争いも、怒りも、涙も、愛さえも」
己の行いは、明らかに人類という感情をもつ生命を全否定している事は分かっている。それでもやらなければならない自らに言い聞かせるように言葉を吐き出す
「今、全てを鎮めよう。我が羽ばたきで、人に相応しい静寂を・・・」
その時アルトリウスから穢れが溢れ始める
「カノヌシよ、私の″絶望″を喰らうがいい」
それに反応してカノヌシはアルトリウスの首筋に喰らいつく
「!!?」
カノヌシがアルトリウスと一体化して長剣を天に掲げる
「『ネブ=ヒイ=エジャム』!」
天から光の巨大な塊が落下し剣先にぶつかると巨大なカノヌシの紋章が一杯に広がる。アルトリウスから光と霊力の波動でベルベット達は吹き飛ばされそうになる。アルトリウスが光に包まれ長剣は輝く巨大な聖剣に代わり、背中には光を放つマントと巨大な四対の羽。装束は消え純白のタイツに装飾が施されている、左手で掲げていた聖剣を″右手″に持ち替えて高速で振り回し、両手で構える
「カノヌシの神依!!」
「さあ、全てを鎮めよう・・・我が完全な、神依の力で・・・!」
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第56話 終わり
後2話ほどで終わると思います