テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】   作:スルタン

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これにて本編は終わりです。長い間この作品を見ていただきありがとうございました


最終話

 

「まるで・・・英雄のセリフだな・・・」

 

腹を刺し貫かれたアルトリウスは吐血しながら呟く。息を切らせたベルベットは戦訓を振り返り応える

 

「あの日、義兄さんがかけてくれた言葉よ」

 

アルトリウスはベルベットのあの日という言葉に反応し気づく

 

「開門の・・日の・・・か」

 

ベルベットは何も応えない、だがそのどこか穏やかな表情と眼差しで正解のようだった

 

「ベルベット・・・あの日からのアーサーは噓なんだよ・・・」

 

アーサーは今まで胸の奥底に隠していた本音を打ち明ける

 

「俺は、ずっと思っていたんだ・・死んだのがセリカ達でなく。『お前達だったら良かったのに』・・・と・・・」

 

セリカとお腹の中の子供を失い。メルキオルから真実は定かならずも残酷な結果を伝えられ絶望し、そして『アーサー』を殺し『アルトリウス』として生きることを決めたその日。行き倒れた場所がアバルじゃなければ、ましてや村人に売られたのがセリカでなければ、真実を知ることがなければ或いはベルベットとライフィセットと共にアーサーとして生きていけた、ベルベット達に対して『お前たちが死ねばよかった』など露ともなかったはずであったのだと。長剣の柄に下げてあるセリカに渡したペンダントをアーサーは視線をやる

 

「・・・あたしもそう思う。もしそうだったら、きっと義兄さんはあたし達の為に世界を救ってくれたもの」

 

ベルベットはアーサーの、一人の人間としての本音と本心を否定することなく受け入れる。ベルベットは自分が犠牲になったとしてもアーサーは立ち上がりその熱い思いで世界を照らす導師になっていただろう、運命の僅かな狂いとすれ違いがなければこんな事にはならなかったのだと

 

「ああ・・・救いたかっ・・・た・・・」

 

アーサーが目を閉じ息も絶え絶えの言葉にベルベットが涙を流しアーサーの頬に落ちる。『救いたかった』セリカを失ったあの日までベルベットとライフィセットを愛していたからこそこの言葉が出たのだと、そして自身を打ち倒した義妹も救いたかったのだと

 

「悔しい・・・なぁ・・・」

 

犠牲のない理の世界を創造することができなかった事か。ベルベット達を救えなかった事か、セリカを奪ったこの世界を変えられなかった事か、セリカを犠牲にした世界だからこそ救わなかければならなかったのか、穢れや業魔がなければ一家は幸せに暮らせて行けたであろうに。アーサーはその言葉を最後に息を引き取った

 

「さようなら・・・」

 

ライフィセットは静かに呟く

 

「終わったな」

 

ロクロウは事が終わった事を確信する、だがそこにカノヌシがぶつぶつと独り言を呟く

 

「お腹空いた・・・お腹空いた・・・お腹空いたお腹空いたお腹空いたお腹空いた」

 

「いいや、まだじゃぞ!!」

 

マギルゥは最大の問題が残っていることを知らせ叫ぶ

 

「お腹が空いたよおおおおお~~~ッッッ!!!!うわああぁああぁんッッッッ!!!」

 

カノヌシが泣き叫ぶかのような悲鳴と共にその体から光と波動が溢れだす。余りにも強力な暴走に全員が動けないほどだ

 

「ぐう・・・・!鎮めの力の暴走!?」

 

「制御する奴がいない!やばいぞ、こりゃあ」

 

エレノアが波動の正体を、ロクロウは毒づく

 

「今ならまだ殺せる!」

 

アイゼンは力が爆発する前にカノヌシに止めを刺すべく走り出すが、それをベルベットが止める

 

「待って!あたしがやる」

 

ベルベットがアーサーの長剣から手を放しカノヌシの力が一時的に止まる

 

「僕は我慢したんだ・・・!怖いのも・・・痛いのも・・・!!」

 

その時、指を弾く音と共に世界が止まる。それに気づいてダメージから片膝を着いていたケンが立ち上がり、振り返る

 

「これで『アルトリウス』との闘いは終りました」

 

「ああ、だが最後の問題が残っている」

 

ルシフェルがケンの後ろから現れカノヌシとベルベットを観察しながら前に出る

 

「ルシフェルさん、ベルベットさんは」

 

ケンはなんとなくではあるがベルベットがやろうとしている事を質問する

 

「本当は教えるのはよくないんだが、この世界の緊急事態だからな。この後あの帽子の魔女が説明するが、彼女はカノヌシを喰らい自らを喰らわす事で矛盾を発生させる。所謂無限ループってやつだよ」

 

「・・・そして自分ごとって事ですか」

 

ケンは己の体を見る、体中傷だらけで治りが遅くアルトリウスに斬られた所は超合金の骨格が見え隠れしている個所もある。自分がこの世界に、ベルベット達にできることはもうないに等しい、だが最後に一つだけ

 

「その顔、なにかやらかそうとしているな?」

 

ルシフェルは注射器を取り出し自身のの腕に刺すケンに振り向きながら質問する

 

「ルシフェルさんなら、もう知っているのでは?」

 

「いや、未来は絶えず揺れ動くというからな。君の選択に任せるよ、この際出しほんの少し手を貸そう」

 

ルシフェルが指を鳴らし時が動き始める。ケンが前方を見るとベルベットがカノヌシを抱きしめており、ライフィセットがベルベットとカノヌシに向かって走っている時間を少し進めたようだ。

 

「僕もいいよ!ベルベットと一緒なら、死ぬのなんか怖く――」

 

ベルベットはライフィセットが言い終わるのを待たずにベンウィックから受け取ったリンゴを投げ渡す

 

「ええ、死になさい。食べて、生きて・・・したいことを全部やった後に」

 

「――!!」

 

「本当に勝手よね。あたしは我儘で醜い人間。けど、あんたは、そんなあたしを救ってくれた。真っ直ぐな優しい力で」

 

「違うよ・・・ベルベットこそ僕を・・・」

 

人から見れば傲慢だの自分勝手だの言う人もいるだろうベルベットの告白にライフィセットは否定する

 

「ね・・・あんたも見てきたよね?人間は、いつも必死で・・・だから間違ってしまう生き物なの、あの義兄さんでさえ」

 

ベルベットはアーサーの亡骸を見る。アーサー程の人物でさえ道を間違ってしまう、それほど人は危ういのだと

 

「だから、お願い・・・あんたは生きて。あたしが無茶苦茶にした世界を・・・あたしみたいな弱い人間を・・・どうか助けてあげて。それが、あたしの最後の我が儘よ」

 

「そんなの・・・ずるいよっ!!」

 

「ほんとに・・・ごめん・・・ね・・・」

 

覚悟を決めたベルベットに申し訳なさを覚えながら一回深呼吸をしてライフィセットの方へと向かい肩に手を置く

 

「ケン?」

 

「ライフィセット。最後の最後に我が儘言われて本人は犠牲になんて、自分勝手は不服だよね」

 

ライフィセットは言葉の意味を理解できていないのかキョトンとしている。そんなケンは今度は両肩に手を置く

 

「ライフィセット。自分がこの世界の人間でないことは知っているよね」

 

「う、うん」

 

「自分はもうこの世界に居れる時間はもうない。だから最後に自分の力でこの世界にほんの僅かにでも希望を残していく」

 

ライフィセットはケンが言っている事の意味を理解して片手で腕を掴み必死で止める

 

「駄目だよ!!ケンが犠牲になるなんて!何も変わらないじゃないか!!」

 

「決して死ぬわけじゃない、死ぬわけにはいかない。死んだらあの人達に怒られるからね」

 

腕にしがみ付くライフィセットの手に自身の手を重ね、優しく解く。奥に顔を向けアイゼン達の方を見る、皆は何も言わずケンの覚悟を見届けるつもりのようだ。僅かに頭を下げ立ち上がる、自身の腰につけているバックパックを外しライフィセットの肩に襷のように引っ掛けてやる、奇跡的に汚れていない

 

「ライフィセット、それを君に上げるよ。あとバンエルティア号に置いてきた背嚢もね」

 

「どうして・・・」

 

「世界を見て回るなら必要だからね。ちょっと大きいけど」

 

ケンはそれを最後にベルベットの方へと向き歩き出す。ベルベットはケンが近づいてくる真意を見抜けず目を見開く

 

「あんた・・・なんで」

 

「ベルベットさん。貴女が我儘を押し通すなら、自分も我儘を押し通そうと思いまして。土壇場のぶっつけ本番ですけどね」

 

ケンは両手に最後の力を振り絞りエネルギーを集中させる。両手が金色に光それをカノヌシに向けて翳す、金色の優しい光がカノヌシを包み込む。最後の最後でコスモスから教わったルナファイナルがカノヌシの浄化を進める、ベルベットは光の塊に変わるカノヌシを放し少し下がる

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

ケンは肩で息をし始め脂汗を流し苦しい表情を浮かばせる。ベルベットはたまらず止めに入るがそれをアイゼンが割って入る

 

「止めろ、ベルベット」

 

「でも、止めなきゃ」

 

「駄目だ」

 

そこにロクロウも加わる

 

「お前も知ってるだろう。あいつはやると言ったらやるってな、その覚悟を無下にするな」

 

ケンはふらつき立ち眩みと体中の傷から出血しはじめる痛みと疲労感に襲われながらも自身に喝を入れる。その時彼の頭の中に声が響く

 

いやだよ・・・消えたくないよ・・・怖いよ・・・

 

(・・・光線を通してカノヌシの声が聞こえているのか)

 

ケンは素早く状況を呑み込みカノヌシを説得する

 

(カノヌシ、貴方は消えません。自分が救ってみせます)

 

・・・嘘だ、君は僕を・・・

 

(殺すんだ・・・ですか?もしその心算なら最初からこの様な事はしませんよ)

 

ならなんでこんな事・・・

 

(本来の貴方はこんな事をする聖主ではないはずです。今回は不測の事態が招いた結果だと思います)

 

・・・でも僕は、もう

 

(死が許しにならないこともあります・・・なればこそ身を捨ててこそ浮かぶ瀬もありましょう。今回の事で亡くなった命を想うのであれば)

 

・・・・うん

 

(ありがとうございます)

 

ルナファイナルがカノヌシを人の姿から30センチ台の光の球体に形を失い変わっていく。両手の間で浮かぶ球体になったカノヌシを持ったままベルベット達の方を向き直る

 

「で・・・できました・・」

 

「すごい・・・神を本来の姿に戻した」

 

「まったく、お主には驚かされるわい」

 

ライフィセットが前代未聞に驚きマギルゥは感心する。エレノアは堪らずケンの体を支える

 

「お願いケン、もう無理しないで・・・モアナも悲しむから」

 

「ええ・・・もうしませんよ」

 

そこにベルベットが近づいてくる

 

「・・・」

 

「ベルベットさん。確かに貴女の、ましてや自分らが行ってきたことは決して正しいことではありません・・・なれば、生きてみてはいかがでしょう。生きて償いをとは虫のいい事ではありますが・・・少なくとも貴女はこれから続く時代を見届ける必要があると思うのです」

 

「都合が良すぎるわよ・・・あたしには・・・」

 

ベルベットは顔を伏せる、自身ごとカノヌシを封印する事が一種の償いとも思っていた。だがそれはケンの我が儘で防がれた、だがベルベットはケンを恨んでなどいない。自身の我が儘に比べれば比較するほどのものもないのだから

 

「都合が良くてもいいのです。これも僅かな運命のすれ違いによるものでしょうから・・・どうか・・・」

 

「・・・わかったわよ」

 

ベルベットの返事を聞いて僅かに安心したような表情を浮かべるケン達の背後から気配を感じた

 

「終わったな、ケン」

 

「ええ、これで自分の役目は終わりですかね」

 

皆が気配がする方を向くとルシフェルが立っていた。エレノアはルシフェルの言葉の意味を聞き出す

 

「あの、役割が終わった・・・とは?」

 

「そのままの意味さ。以前説明した通り、ケンが此処に来たのはこの世界の意思に応えたからさ。そして、ケンは役目を果たした」

 

「じゃあ、ケンはこれからどうするの?」

 

ライフィセットがケンに不安な表情を向ける。ケンはルシフェルを見る、ルシフェルは君に任せるといった表情だ

 

「自分は、この世界を去るよ」

 

「そうなんだ・・・」

 

ケンはライフィセットの気持ちがわかっている。ライフィセットもケンを無理矢理引き留める資格がない事も理解している、ルシフェルにカノヌシを渡し片膝をついてライフィセットの両肩に手を置く

 

「大丈夫、君は強い。それに決して一人じゃない、何時かは別れが来るけど、今じゃない」

 

「・・・」

 

「君の周りには君を支えてくれた、そして支えてくれる人たちがいる。それを忘れないで」

 

「・・・うん!」

 

ケンの言葉に返事をして小さく頷き立ち上がる

 

「カノヌシはどうなる」

 

アイゼンはルシフェルにカノヌシの処遇を質問する

 

「ああ、取り敢えず身柄はこっちで預かる・・・っと」

 

言いかけた時彼らの四方から巨大な四色の光の柱が立ち上る

 

独力で聖主を浄化するか。とんでもない人間がいるものだ

 

響いた声はシグレのものだがどこか違う

 

「落ち着け、こいつらは四聖主だ」

 

「今頃お出ましとは、他人事じゃのう」

 

そうでもない。カノヌシが欠けてしまっては、我らの力の均衡は崩れる

 

地水火風が激しくぶつかり合い、世界は数万年かけて再構築されることになろう

 

オスカーとテレサの声が響く、これは皆聖主の声だ

 

「そんな!!」

 

エレノアは確実に起こる大災害に声を上げるが、今度はメルキオルの声が対処策を告げる

 

破滅を防ぐには、代わりの聖主が必要だ。力と意志を兼ね揃えた聖隷がな

 

聖主の宣告にライフィセットが拳を握り決意を固める

 

「なるよ。僕が代わりに」

 

「待ってライフィセット!!そんな簡単に!」

 

「聞いてやろうぜ」

 

エレノアが止めようとするがロクロウが腕を組みながら制する

 

貴様はカノヌシの一部だ。"力"に不足はない

 

だが、問題は"意志"だ

 

汝は、この世界になにを望み、何をもたらす

 

ライフィセットはベルベット達より前に歩み出て一度振り向く、そして向き直りフォーチュンアップルを天に掲げる

 

「僕は、この世界にもたらしたい!心を溢れさせてしまった人が、やり直せる明日を!何処までも飛ぼうとする人達が、翼を休められる時を!強くて弱い人間が・・・!怖くて優しい人間達が・・・!いつか空の彼方に辿り着けるように!!」

 

やってみるがいい。新たな聖主よ

 

決意を認めた四聖主の声が響き渡り四つの柱が合わさり白銀の光がライフィセットを照らす

 

「世界に"白銀の炎"をッ!!!!」

 

ライフィセットの言葉と共に白銀の炎が迸りカノヌシの領域から世界を包み込む。炎の欠片が洞窟に縮こまる業魔に触れた瞬間、一瞬燃え上がり人の姿に戻る。業魔になっていた人は驚愕する、荒野にいた複数の業魔も炎で元に戻り驚きと歓喜に包まれる。そしてバンエルティア号ではアイフリードとベンウィックが驚く中ダイルがトカゲの姿から人間の姿に戻り、モアナとメディサは歓喜の中お互いに抱きしめ合う。オルとロスもグリフォンも元に戻り尻尾を振りグリフォンは高く飛び上がる。ザビーダとテオドラは寄り添いながらカノヌシの領域から光が下りてくるのを見届けていた。ベルベット達はカノヌシの領域から聖主の御座まで一瞬で転移していた

 

「地上に戻った・・・?」

 

エレノアは僅かに状況を判断するに遅れたが背後から気配を感じ振り返る

 

「光のドラゴン!!」

 

神殿の門の上には巨大な白いドラゴンが鎮座していた

 

「・・・やれやれ、ベルベット譲りに無茶じゃのう」

 

「そういう事にしておくは、ライフィセット」

 

ベルベットがこのドラゴンがライフィセットだとわかっていたようだ。エレノアは何故この姿になったのか疑問符を浮かべる

 

「ライフィセット・・・なのですか?でもなぜ・・・?」

 

「それが聖主の姿・・・そして、お前の覚悟の証なんだな」

 

「誓約!」

 

エレノアは理解した。自身をドラゴンの姿にする事と引き換えに白銀の炎を自在に操れるように己に誓約を課したのだと

 

「うん・・・怖い?エレノア」

 

不安な声を上げるライフィセットにエレノアは笑顔で首を横に振る

 

「いいえ、男ぶりが上がりましたよ。ですよね、ベルベット」

 

「ええ」

 

「さっきの炎が、お前の聖主としての力か」

 

「あれで無くなったのかや?業魔も穢れも全部」

 

「いや、俺は業魔のままだ」

 

アイゼン達がロクロウの方を向くとそこには顔半分が業魔のままのロクロウがいた

 

「"白銀の炎"は、溢れた穢れを払って業魔を人間に戻すことができる。でも、心を変える力じゃないから」

 

「やり直す可能性を与えるだけなのですね」

 

「すまん、俺の業は深すぎるんだな」

 

「いいんだよ、それがロクロウなんだから」

 

「優しいな、お前は」

 

ライフィセットはベルベットに顔を向ける

 

「ベルベットは・・?」

 

「あたし?」

 

皆が注目する中ベルベットは業魔手を出す、だがそこにはいつもの禍々しい黒い腕とは違っていた

 

「なに・・・これ」

 

「ベルベットの左腕が黒く・・・ない?」

 

エレノア達の目の前には漆黒の腕ではなく、白と黒が混ざり合いながらも青い筋が入った業魔手があった。形こそは変わらないが以前のような禍々しさはなかった

 

「ライフィセット、これは」

 

「ごめん、僕にもわからないんだ」

 

「そこは私が説明しよう。次いでだからな」

 

そこに一緒に付いてきたルシフェルが近づいてくる

 

「ベルベットは一体・・・」

 

「彼女はカノヌシの喰魔としての特性があっただろう?だが彼がカノヌシを浄化したことで君は喰魔としての特性と共に聖隷の特性も獲得したという所か。封印する必要もなくなったからな」

 

ルシフェルの説明を聞いたベルベットは驚きながら自身の腕を見つめる

 

「あたしが、聖隷・・・似合わないわね」

 

「すいません、まさかこんなことになるとは思いませんでした」

 

ケンは血が付いた腕や顔を拭いながら謝る

 

「別に怒ってなんていないわよ・・・あんたの我が儘、付き合ってやるわ」

 

「そしてさっき言いそびれたがカノヌシは一度こっちで引き受ける、神の元へ連れて行き評議会にかけるつもりだ」

 

ルシフェルが今後のカノヌシの処遇を伝えるとロクロウが口を開く

 

「まさかとは思うが、腹を斬らせるってわけじゃないよな」

 

「その心配はない。彼も悪いようにはしないと言っていたし、ケンも嘆願していたからな。一時的に身柄を預かり浄化を施し何れこの世界に返すさ」

 

「しかしそうすれば無の聖主が二つになるのでは?」

 

エレノアが懸念を示すもルシフェルが助け舟を出す

 

「新たな聖主はカノヌシが戻るまで代理として勤めてもらうといい、その時になったら私が手を貸そう」

 

「なら、いつかはライフィセットが聖隷の姿に戻る時が来るということだな」

 

「そういう事だ」

 

アイゼンの確認にルシフェルが肯定する

 

「やれやれ、安心するのはまだ早いぞえ。対魔士はほとんど消え、人の業は混沌のままということじゃ。先はまだまだ困難の連続じゃぞ~」

 

これから先も苦難が続くことに項垂れるマギルゥに皆が小さく笑う

 

「そうだね、でも。未来を願い想う・・・人の"祈り"も消えないよ」

 

「言うのう♪」

 

「聖隷に意思が戻った。お前の"理想"に力を貸す者たちも現れるだろう」

 

「私も人々に伝えます。世界に"聖主ライフィセット"の加護があることを」

 

エレノアの決意にライフィセットは気まずそうに物申す

 

「えっと・・・その名前は、ちょっと。この姿には似合わないと思うから・・・」

 

「あら、ライフィセットじゃ不満?」

 

「そそ!そんなことないよ!」

 

ベルベットがわざと不服そうな表情をすると必死にライフィセットが否定する

 

「ベルベットがくれた名前は人の姿で使いたいから・・・」

 

「じゃあ、何て呼べばいい?」

 

ロクロウに改めて聞かれる

 

「エレノアがつけてくれた"真名"で呼んで。『生きる者』――"ライフィセット"を古代語にした僕の真名は」

 

ライフィセットが翼を広げ白銀の炎が世界を、星を優しく包み込む

 

「"マオテラス"」

 

此処に新たな聖主、マオテラスが誕生したのだった

 

 

「さて、ケン。私達も退散するとしよう」

 

「ええ、そうですね」

 

ほんの少しの間ベルベット達と言葉を交わした後ルシフェルがケンに呼びかける

 

「では皆さん、今までお世話になりました」

 

「ああ、船員達にもザビーダ達にも伝えておく」

 

「お別れが言えないのは残念ですが。よろしくお願いします」

 

アイゼンと最後の言葉を交わしエレノアの方を向く

 

「体に気をつけてね、ケン」

 

「エレノアさんも、どうかお元気で」

 

エレノアが若干涙ぐみながらの挨拶に微笑みながら返す。ロクロウの方を向くと右腕が差し出される

 

「達者でな」

 

「ええ。ロクロウさんも」

 

ロクロウと握手をするとマギルゥが腕をポカポカ叩く

 

「こりゃケン!儂を差し置いて皆といい雰囲気出しよってからに!!という賭けで取られた百ガルド返さんかい!!」

 

「ええ!まだそれ続いてたんですか!?」

 

「ふん、まぁいいわい。お主には楽しませてもらったしのう、特別にチャラにしてやるわい」

 

「はは・・・」

 

呆気に取られながら今度はライフィセットへ顔を上げる

 

「ライフィ・・・じゃなかった、聖主マオテラス。その時が来るまでお願いするよ」

 

「うん、でもケンにマオテラスって言われるのなんかこそばゆいかな」

 

「じゃあ、ライフィセット。元気で」

 

「ケンもね!」

 

そして最後にベルベットと向き合う

 

「ベルベットさんと初めて出会った時はドタバタしましたが。今となればいい経験になりました」

 

「そうね、あの時は背嚢背負った妙な能天気な男かと思ったけど、悪くなかったわ」

 

「能天気、まあそうですね」

 

「でも、今は感謝してる。こんなあたしにチャンスをくれた事、生きる理由をくれた事に」

 

「自分はここまで無我夢中だっただけです。礼を言われることではありませんよ」

 

「まったく、感謝は受け取っておきなさいよ」

 

「・・・もう、受け取ってますよ」

 

呆れるベルベットに微笑みながら頭を下げルシフェルの方へと歩きはじめる。そこまで周囲の大地を青い空を見渡す

 

「世界は・・・こんなにも美しい」

 

ルシフェルの横に着き指を弾き空間が開き光が溢れだす

 

「さ、行こう」

 

「はい」

 

最初にルシフェルが入りケンが続こうとした時後ろを振り向く。ベルベット達が見守る中最後に深く頭を下げ光が溢れる方へと進む。彼の姿が見えなくなった時空間が閉じ、ベルベット達との旅は終った

 

 

ケンは初めて来た時と同じ白い空間にいた

 

「うう・・・」

 

今まで気張っていたが流石に限界が来たのか両膝を地面に着ける

 

「大丈夫か?だいぶ無理をしたようだな」

 

「ええ・・・なんとか・・・」

 

ルシフェルが声を掛けケンは肩で息をしながら応える

 

「ケンよ」

 

そこに威厳に満ちた声が響く。ケンが顔を上げるとそこには師であるウルトラマンレオとウルトラマンコスモスが立っていた

 

「師匠、申し訳ありません」

 

「いやいい、お前はやるべきことを、救うべき者を救い、世界を救う一因にもなった。よくやった、誇っていい」

 

「ケン、君は確かに彼女達の世界に、生命に希望を残した。私も君を誇りに思う」

 

レオとコスモスの言葉にケンは心に温かいものを感じた

 

「ケン、実は君の活躍を知って協力を申し出てくれた者達がいるんだ。紹介しよう」

 

「協力・・・ですか?」

 

その時レオとコスモスの間から一人の男が現れる。ケンと同じくらいに筋骨隆々で背中にマントをはためかせ、青いタイツスーツに胸には文様が入ったエンブレムをもった男だ。ケンが周囲を見渡すと、服装や顔立ち違えどもケンの前に立っている男と同じような超人的な力を持っていると確信できた。その者たちが無数に浮遊しているのだ、ケンの前に立っている男が手を差し出す

 

「君は世界の平和の為に死力を尽くして戦った。その心と精神ならば、私達の力を受け取り、正しい事の為に使ってくれると信じている」

 

ケンは差し出された手を取るのを躊躇する

 

「ですが・・・自分がやってきた行いは決してすべてにおいて正しい事ではないと思うんです」

 

その男は歩みよりケンの手を取り立たせる

 

「私達だってそうだ。必ずしも全てが正しい事にはならない、だからこそ行動するんだ」

 

男の手から熱い何かが流れ込み始めるのを感じたケンは驚く

 

「これは・・・!?」

 

その力に驚きながら周りを浮遊していた者達が入れ替わり立ち代わりにケンの肩に手を乗せ力を流し込む。最後に手を握っていた男が横に移動しその後ろから黄金に輝く男が現れる

 

「貴方は・・・貴方達は・・・?」

 

「世界は、宇宙(ユニバース)は、隔たれているが、繋がっているのだ、今はこれしか言えない」

 

黄金に輝く男がケンの手を握り力を流し込む。ケンは自身の体から湧き上がる力に一瞬困惑するも直に理解する

 

「・・・わかりました。やってみます」

 

短い言葉であったが男たちは頷き次々と姿を消していく。最後に黄金の男だけが残る

 

「今は体を休めるのだ友よ、近々また会おう」

 

「あ、はい」

 

「そしてその力はそれ自体に意志を持つその時になれば君の助けになる。では」

 

黄金の男もまた姿を消した。此処に残ったのはレオとコスモス、そしてルシフェルだけとなった

 

「では、我々も戻るとするか。いいか、ケン。傷が癒えたらまた修行をつけてやる。もっと厳しくいくぞ」

 

「私も協力しよう」

 

「はい!!よろしくお願いします」

 

師の方へ向き直り頭を下げるケンに二人は頷きながら姿を消す。ルシフェルが歩み寄り声を掛ける

 

「では、私達も行くか、まずその怪我を治さないとな」

 

「治す・・・そうですね」

 

驚きの連続だったが体に深刻なダメージがある事には変わりなくあちこちが痛む

 

「あの科学者集団の所に連れて行こう。取引のこともあるからな」

 

「はは・・・」

 

ルシフェルが指を鳴らした瞬間白い空間には誰もいなくなっていた

 

 

最終話 終わり




これにて本編は終わりです。最後にエピローグを投稿したいと思います。長い間購読していただきありがとうございました
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