テイルズオブベルセリア 〜争いを好まぬ者〜 【完結】 作:スルタン
今回は少し長めになりましたが、読んでいただければ幸いです
〜
あの後船で脱出したのはいいものの、案の定嵐に揉まれ船は大破、難破してしまった。幸運にも陸地に座礁したのが救いか。雪が降る地域なのか、雪化粧をした大地に4人は船から投げ出され、気を失っている。
そこに白いローブを着た子供が近づく。子供はベルベットに近づくとしゃがみこみ手をかざす。青白い光が彼女を照らす。そして意識を取り戻す。
「ライ・・・フ・・・」
ベルベットは今は亡き弟の幻影を見る。が、すぐに現実に戻される。そこには10歳ほどの男の子が手をかざしていた、目に光はない。
「・・・聖隷⁉︎」
ベルベットが驚く、少年はすかさず立ち上がり、手元に落ちていた羅針盤を持って走り出す、が少年のいく先に業魔がいた。ワーウルフ2体。
「ああ!?」
「下がって!」
ベルベットが前に出て少年を下がらせる。ベルベットは刺突刃を構え、魔物に突撃する。ワーウルフが爪で横振りに振るう、ベルベットはそれを地面ギリギリまで屈み回避する。そのままの体勢で足払いをしワーウルフの足を蹴る。体勢を崩したと同時に素早く刺突刃を下から上に振り上げ一体のワーウルフを斬り捨てる。後ろからもう一体のワーウルフが噛み付こうとするが、それより早く業魔手で顔を掴む。ワーウルフはもがくがやがて動かなくなった。そのまま喰らい始める。その間にケンが意識を取り戻す。
「あいてて・・・やっぱり無理があったか・・・」
ケンが周りを見るとロクロウとマギルゥが伸びているのを、ベルベットが業魔を喰らっているのが見えた。その奥で子供が走り去る姿も見えた。
「・・・あの子は・・・」
気になりながらもベルベットに近づく、彼女は喰らい終わったにも関わらず動かない。
「ベルベットさん?どうしたんです?どこか怪我でも「アアァッ!!」べ、ベルベットさん!?」
ケンが近づいて来たと同時にベルベットがケンに飛びかかる。咄嗟のことで反応が遅れたケンはベルベットに抑え込まれる様に仰向けに倒される。
「ベルベットさん!?一体どうし「クイタイ・・・」・・・え?」
ケンがベルベットを見上げる。そこには目が獣の様に開き、口からは寒いのもそうだが猛獣の様な息遣いと荒い白息が出ている。
「あたしのナカで暴れまワるんだ・・・お前を喰らえって・・・腕の疼きとあたしノナカの何かがオマエをクラエッテッ!!!」
「まさか!あの時と同じ・・・!」
そう、ベルベットたちと初めて出会った時にケンに襲い掛かって来た時と同じ現象だ。
(穢れとやらが関係してる?でもその前に・・・!)
「アアアアアッ!!!」
馬乗りの状態でベルベットは左腕を振りかぶり、ケンの頭を狙う。
「ふっ!」
「グウッ!」
ケンはすかさず右手でベルベットの腕を掴む。変異した腕がビタリと止まる。
「ガアアァッ!!」
今度は右腕の刺突刃でケンの胸を貫こうと刃を突き立てて来る。
「ぬうっ!」
刃を突き立て様として来る右腕を横から掴み掬い取る様にして止める。だかベルベットは。
「フゥゥ!!」
あろうことか己の歯でケンの首筋に噛み付いて来たのだ。ケンは想定外の行動に反応出来なかった。ベルベットの犬歯が皮膚に食い込む。
「・・・っ!」
ケンは痛みを感じながらも右手にフルムーンレクトを発動する。コスモスの様に上手く放てないが直接なら出来る。右手から光が溢れベルベットの左腕を照らす。その腕から黒い瘴気の様なものが霧散していく。
「ふぅ!?ッグウウ!」
ベルベットは抵抗するかの様に噛む力を強める。皮膚を突き破ったのか、ベルベットの口から血が流れ出す。
「あの時はほんの少しだったですが今回はそれなりにやりますよ!」
「うう!あああああっ!!
ケンはフルムーンレクトを強めベルベットの左腕を照らし続ける。ベルベットは噛み付くのをやめ逃げる様にもがき始める。だがケンは逃すまいとしっかり掴む、やがて左腕は脈打つ様に元の包帯の巻かれた腕に戻る。
「う・・・・あぁ・・・」
ベルベットはそのまま気を失うように前のめりでケンの胸に倒れる。
「ふぅ・・・なんとかなったな。いてて・・・」
ケンはベルベットに噛まれたところを庇いながら彼女をどかし両脇を持ち上げ、難破した船の積荷の箱に背中を付けさせる。
「むっふっふ〜おあついことじゃの〜」
「・・・いつから見てたんです?」
「あの女が業魔と戦っている時からだ」
マギルゥとロクロウが立っている。マギルゥはニヤニヤしながら、ロクロウは腕を組んでいた。今まで気を失っていたふりをしていた。
「それなら助けてくださいよ・・・」
「それは無理じゃ。あやつと正面からなんて命がいくつあっても足らんからの〜」
「武器があればよかったんだが生憎な」
(背中の太刀は・・・言わないでおこう)
ロクロウの背中の太刀について言おうと思ったがやめた。
ケンはベルベットから噛まれた箇所を手当てしようとしたが。マギルゥに止められる。
「それに関しては悪かったと思っとる。じゃから謝罪も兼ねてわしが手当てしてやるぞ」
「え、でもこれくらいなら・・・」
「いったじゃろ、謝罪も兼ねてとな。それにこんなわしのようなピチピチ美少女に手当てしてもらえるなんてお前の様な男には一生に一度もない大大大チャンスじゃぞ〜!」
「・・・はいはいわかりました。それじゃお願いしますよ。」
上手く乗せられた感はあるが断れば延々と話されるかも知れないのでケンは手頃な箱に座る。 マギルゥが傷を診る。
「けっこー深く噛まれとるのー、あやつの力なら喰い千切られてもおかしくないのにこれだけで済むとはおんし人間かぇ?」
「僕は正真正銘のただの人間ですよ。それ以上でもそれ以下でもないです」
「だがそれにしても女とはいえ業魔。それを素手で止められるやつは見た事が無い。それにあの手から光を出して大人しくさせた技。一体誰から学んだんだ?」
「それは・・・教えられません。すいませんが。」
「ふむ、そう言うなら仕方がない。」
教えられないと言われ詮索を止めるロクロウ。
「ただ、これだけは言えます。」
「ん?」
「教えてくれた人達はとても偉大な人だと。」
「・・・そうか、」
〜
「・・・ん・・・」
「お?気がついた様じゃな〜殆ど時間も経っとらんのに。にしても業魔を喰らうとはエグイの〜」
ベルベットがほんの1.2分で意識を取り戻す。これも業魔の力故か。
「おーいケン、ベルベットが気がついたぞ。」
「はーい」
ロクロウがケンを呼ぶ
(あたしは・・・確か業魔を喰らって・・それで・・あいつを・・・)
ベルベットは思い出す。また衝動に抗えずケンを襲ったこと。そしてまた助けられた。
「あ、よかった。なんともなくて。大丈夫ですか?少し強めにやったんですけど。」
ケンは両腕の縫い糸を抜き取りながら歩いて来る。
「お?もう大丈夫なのか?あの時結構深く斬ったつもりだったんだがな」
「はい、後は包帯しておけば元通りです。」
「まだ怪我してから1日経ったか怪しいもんじゃぞ?全くお前の体は一体どうなっとるんじゃ?」
「はは・・・」
ロクロウとマギルゥからの質問に乾いた笑いではぐらかすケン
ベルベットはケンに聞く。
「あたしはお前を襲った。二度もだ、でもなんでお前はそうやって平気でいられる。どうしてあたしを気にかける」
それに対してケンが答える
「最初に襲いかかってきた時。貴女の目は正気ではなかった。まるで何かに操られたかの様に。僕はそれを止める術があった。だから僕はそれを実行したまでです。それに貴女を操ったなにかを突き止められれば対策も立てられます。それに・・・」
「?」
「
「・・・そう」
それを聞いたベルベットはそれだけをいい立ち上がる。
「すまん。武器があれば力になれたんだがな」
ロクロウが謝罪を言う。
「背負ってるでしょ」
ベルベットはロクロウの太刀を見ながら言うがロクロウは。
「いや、
「さっきの子は?」
ベルベットはロクロウの話を遮る様に話題を変える。本当に話すと長くなりそうだったからだ。
「なんかこまいのが、ピューと逃げていったわ」
マギルゥが頭の後ろで手を組みながら話す。
「逃げていいわよ。あんたたちも」
ベルベットがみんなに呟く様に諭す
「まだ恩を返していない。受けた恩は返すのが俺の信条だ」
「逃げるにしても、ここがどこか確かめんと。儂らは哀れな遭難者じゃろ?」
「旅は道連れ・・・と言うやつですか。」
「そう言う事だ。中々いい事言うじゃないか?」
「・・・・・・」
「それと、こんな
「地図?さっきの子が落としていったのか。」
4人は地図を見る。島がいくつか描かれている。
「どうやらここはノースガンド領らしいな」
ロクロウは地図を見て話す。
「ノースガンド領・・・つまり船を修理しないとミッドガンド領にある王都には行けないってことか」
ベルベットは顎に手をやり考える様に話す。
「ローグレスにどんな用があるんだ?」
ロクロウが聞く
「・・・」
ベルベットは何も言わない。
「・・・脱獄してでも行きたい用だよな」
ロクロウは察して聞くのを止める
「へぷしょいっ!うう〜立ち話はあとじゃ。どこかに温かいスープと、心温まる小話はないかのう?」
マギルゥはわざとらしいくしゃみをし、砕けた感じに話す。
「近くにヘラヴィーサという街があるはずだ。小話は知らんが、メシも船大工もそこで探せるだろう」
それを最後に4人は移動を始める。移動中マギルゥがベルベットに話しかける。
「ベルベットは、さっきの坊と知り合いなのかえ?何やら呼びかけておったろう?」
坊とは先ほどの少年の事だろう
「別に。聖隷に知り合いなんていないわ、もう」
ベルベットはシアリーズから託された指輪を見て、言う
「"もう"・・・のう」
マギルゥがニヤつきながら言う
「なに?」
「なにもマギもないが、あの坊は変わっておったのー」
「確かにな。命令もないのに回復術で業魔を助けやがった」
「おまけに羅針盤を盗んでいきおった。対魔士に従う聖隷のくせに、我欲のあるヤツじゃわー」
「まあ、こっちもあいつの地図をいただいいちまったけどな」
「いやはや悪党ばかりじゃなー、儂以外は」
「あ、それ自分も入るんです?」
マギルゥは目を光らせる
「うむ、まったくだな」
なぜか賛成するロクロウ
「ちょい~!そういうボケ潰しが一番の悪じゃよ~!?」
「そうなのか?」
マギルゥとロクロウの漫才が続く中、ベルべットが一人呟く。ケンがフォローする。
「脱獄囚が、いい気なものね」
「何もないよりかはよいのでは?」
「ふん」
「はいこれ、まだたくさんあるので、皆さんもどうです?」
ケンは3人にチョコを渡す
「おほ~チョコか~!丁度小腹もすいとったし遠慮なくいただくかの~」
「すまない、恩に着る」
「・・・ふん」
3人は歩きながらチョコを頬張る。
(・・・甘い)
ベルべットは心の中で呟いた
~
4人は雪の中を進む、北国である以上気温は低く寒さが体力を奪う。
「うう~さむさむっ!お主、よくそんなカッコで平気じゃのう?」
マギルゥは震えながら3人に話しかける。その恰好なら寒いのも当たり前だが
「・・・人間じゃないからね」
「業魔だから感覚がないからな」
「うう~ケンッ!お前はどうじゃ?寒くないのか!寒いと言ってくれ!」
「鍛えてますからこれぐらいなら平気です」
「が~ん」
道中業魔と遭遇したがケンがいなし、ベルべットが倒すという場面が続いた、ロクロウとマギルゥは武器なしなので後ろに下がっている
「
「ロクロウや、お主は、なにゆえ囚われておったんじゃ?」
マギルゥは何気なくロクロウに聞く
「家のしがらみで、色々あってな」
ロクロウは含みながらも話す
「ほほう、呑気に恩返しをしとっていいのかえ?」
マギルゥはまたもニヤつきながら言う
「『借りたものは返す』―― それが"ランゲツ家"の教えなんだよ」
ロクロウはきっぱり答える。
「なかなかお行儀のいい家族じゃなー」
「長く捕まってたの?」
ベルべットがロクロウに聞く
「3年ほどかな。だから今の世界がどうなってるかは、よく知らん」
「儂もじゃよー。聖隷とかいう術を使う奴らがおるとはビックリじゃ。マジナイとノロいは魔女の専売特許じゃのに営業妨害もはなはだしいわ」
マギルゥが大げさな動作で話す。
「お前の捕まった理由って・・・」
「うむ、インチキ魔女じゃってしょっぴかれたんじゃ。身内にヒドイ裏切りにあってのう」
「・・・」
ベルべットが苦い顔をする
「聞きたいか?聞くも涙、語るも笑顔の物語」
「興味ない」
ベルべットは足早に先に進むロクロウがケンに話しかける
「そういえば、ケンはどうしてあそこにいたんだ?お前も捕まってたのか?」
「お、儂も気になるの~」
マギルゥも食いつく
(マズいな、なんて答えよう・・・まあそれっぽいこと言うか)
「あー、実は旅をしてて、船で航海中に嵐にあってそれで難破しちゃって・・・」
「ふーん、それであの島に流れ着いたという理由だな」
「な~~んかいまいち信じられんがな、それなら今の世界の情勢ぐらい知ってるとおもうがの・・・」
「あちこち転々としてたもんで・・・はは・・」
なんとかはぐらかしながらベルべットの後を追う
「う~~む怪しい、怪しいぞ~あやつは、なにか隠しておるな。うむ間違いない」
「そういうのは追々話してもらえばいいだろ?」
そう言いつつ二人の後を追った。その後に"ねこにん"というのにあった。どうやら聖隷の一種らしい。色々あったが割愛。
貸しは作っておいた方がいいらしいことと無下にすると呪うらしい。ベルべットは酷く嫌っていた。
~
しばらく歩くと街の門が見えた、が対魔士が警備にあたっている。
「対魔士がいる」
4人は岩陰に隠れる
「まずいのー。脱獄の噂は、まだ届いとらんはずじゃが」
マギルゥは相変わらず能天気に言う
「俺たちの風体では入れてくれそうにないな」
「まあ・・・そうですね」
ロクロウの言葉にケンが答える
「さっき・・・ごめんなさい。これ・・・盗むつもりじゃなかったけど」
横から声が聞こえる。そちらを向くと先ほどの少年が立っていた。謝罪をしながら羅針盤を取り出す。
「羅針盤・・・」
少年は羅針盤を地面に置き、横道に向かって走り出す
「いいのか?あやつ対魔士の配下かもしれんぞ」
「それだったらとっくに対魔士連れてきてるのでは?」
「それもそうだな」
「後を追うわよ」
ベルべットが立ち上がる
「食後のデザートか?」
「マギルゥさん・・・」
「・・・必要なら」
マギルゥが皮肉めいた事を言う。ベルべットがそれに返す
「この道を進んでいったはずだ」
海に面した小道を進むと横穴があり、そこには梯子がかかっている。
「ほう、こんなとこに梯子があるとはな」
「どこに続いてるんでしょうか」
「登ればわかるわよ」
「う~なんでもいいから早く行こうぞ・・・」
4人は梯子を上る
梯子を上りきる、そこは倉庫につながっていた。木箱と樽が山積みになっている
「倉庫・・・?」
「クンクン、この臭いは・・・"炎石"じゃな」
「炎石?」
「別名メルキオナイトともいう。ノースガンド領だけで採れるレアな鉱物じゃ。硫黄と混ぜれば爆薬に、油と混ぜれば燃料になる」
マギルゥが説明する
(硝石みたいなものか・・・)
「ぶっそうなものね。本当なら」
「疑うのは自由じゃよー」
「あの少年には逃げられたか」
ロクロウが少年について考える
「とにかく街には入れた」
「船関係の組合に行ってみよう。その手の組織が、荷や船大工も仕切ってるはずだ」
「できれば航海士も欲しい」
「うむ、それは激しく勧めるぞ。次も漂着で済むとは限らんからのう」
マギルゥが含みを込めた感じで話す
「武器も探そう。そうすれば俺も助太刀できる」
「だから、背中の」
「いや。それは断る」
ベルべットがまた背中の太刀について言おうとしたがロクロウにきっぱり断られた。倉庫を探したが使えそうな物資が極わずかだった。ケンはそれに関しては手をつけない、武器はなかった
~
倉庫を出ると船着き場にでる。組合探しついでに街の住人たちの話を聞く。道中子供たちの話声が耳に留まる
「僕は、大きくなったら対魔士になるんだ!」
「あたしも!パパやママを守ってあげるの」
「違うぞ。対魔士は、業魔から"世界"を守る戦士なんだパパとかママとかじゃなくて、み~んなを守らなきゃいけないんだぞ」
「う・・・そんなのむずかしいよ・・・」
「そう!そういう難しいことをしてるから対魔士様は偉いんだ」
「うん!対魔士様ってえらいね!」
子供たちはどうやら将来対魔士になりたいようだ
「ふん、まるで正義の英雄ね・・・普通の人間にとっては実際そうなんだろうけど」
ベルべットが皮肉を込めて言う。だが正論も吐き捨てる。
(個を捨て全を助ける対魔士・・・確かに対局的に見てそれは正しい判断だろう。だが個を捨てればそこから恨みや憎しみの負の感情がでる、それが重なり大きくなればいずれ全だの個だのという問題じゃなくなる・・・難しいな)
ケンは心の中で考える、小さいことでも時間がかかれば手に負えなくなるという事柄などいくらでもあるからだ。
立ち去り際子供たちの声がまた聞こえる。一等対魔士のテレサという人物、どうやら子供の聖隷を2体同時に操るらしい。あとこの海域に海賊もいるらしい。
(もしかしたらその対魔士とも遭遇するかもしれないな、知っておいて損はない)
~
その後4人は船着き場を後にし、門から市街地に入る、住人から話を聞き組合の場所を聞いた。広場を抜けそれらしいところが見えた
「船員が集まってる。あそこが組合?」
「お、良さそうな武具屋がある!船大工の話は任せた」
そういうとロクロウは足早に武具屋に向かう
「男って生き物は、オモチャを見るとガマンできんのじゃなあー」
「ほんと」
ベルべットが珍しく賛同する。どこか懐かしむように
「お前はええんかぇ?」
マギルゥが呆れながらもケンに聞く
「僕はいいです。そういうのは使わないもんで」
「ふ~ん、変わったやつじゃの」
「そりゃどうも」
そう話しながらベルべットが組合の一人に話しかける
「ここ、船の組合?」
「ダイルめ、悪あがきをしやがって」
「まったくだ。あいつが死んでいればこんな面倒なことには――」
組合員はベルべットを無視して話している
「ねえ、ちょっと。船の修理を頼みたいんだけど」
少しイラつきながらも再度話しかける
「悪いが、今はできない」
「なんで?」
「なにか理由でも・・・」
ケンが聞こうとしたその時後ろから声が聞こえる
「商船組合は業務を停止しているのです」
3人が後ろを向く対魔士であろう制服の女性、恐らく1等対魔士だろう。その一歩後ろの両隣で聖隷が付いている、2体だ
「聖寮対魔士テレサの名において」
テレサと名乗る女性の傍らに先ほどの少年がいた
(この人が聖隷を2体同時操る対魔士・・・か)
「テレサ様――」
「二号、口をきいていいと許可しましたか?」
「・・・」
二号と呼ばれた少年は口を閉じる
(・・・どうやら聖隷を物同前の扱いは本当のようだ)
ケンは口には出さないが心の中で呟く
「テレサ様、我々への罰はいつまで続くのでしょう?全部ダイルがやったことで――」
組合長らしき男がテレサに聞く
「ダイルが"炎石"の密輸を行っていたことは明らか。放置した組合にも連帯責任を負ってもらいます。それが秩序維持にために"聖寮"が敷いた規則です。違いますか?」
「い、いえ・・・」
テレサの言い分に組合長は反論をやめる
「ダイルは我らが捕らえ、聴取の上、処罰します。事件の決着すれば、営業再開の許可を出しましょう」
テレサはそう言いつつその横にいたベルべットをふと見る。
「そこの娘。そんな恰好で寒くないのですか?」
その服装で疑問に思ったのだろう。当然といえば当然だが
「南方から着いたばかりで、ノースガンド領がこんなに寒いとは・・・くしゅんっ!」
適当にはぐらかし、わざとらしくくしゃみをするベルべット。
「女子が体を冷やしてはいけませんよ。そこのあなた」
「あ、はい」
テレサがケンに注意するようにいう
「あなたも男性なら少しは気にかけたらどうです」
「あ・・・はい、すいません」
「お気遣い、感謝します」
ベルべットが一応礼をいうテレサは会釈して歩き去っていった。マギルゥは石階段に座りつつテレサを見てニヤついていた。
そして立ち上がり
「いやはや、これが聖寮のやり方か。キュークツ、クツクツの世界じゃのー」
マギルゥは砕けたように喋る。窮屈でもそれなりに統制が取れなければ治安は維持できないが・・・
「事情はわかった。ダイルって奴を捕まえれば修理を頼めるのね?」
ベルべットはスルーし組合長に話す
「そうだが・・・今の奴は業魔だ。逮捕に向かった兵士を何人も殺して逃げた。対魔士でなきゃ捕まえるのは・・・」
組合長の隣にいたもう一人の男性が口を開く。
「ダイルは、郊外の小さな村の出身だと聞いた。故郷に手がかりがあるかもしれないトカゲの顔をした凶暴な業魔だ殺す気でいった方がいい」
「おい!」
「万が一ってこともある。打てる手は打っておこう」
組合長が制するように言うが男は言い切る。
「航海士も欲しいの。用意しておいて」
ベルべットはそれだけ言うと組合を後にする。ケンとマギルゥも後をついていく。
「さて、ロクロウの方はどうなったかのう」
マギルゥがロクロウの事を口に出す
「武器屋に行ってみるか」
ロクロウを迎えに武器屋に向かったロクロウはいい物を見つけたのだろう、心底嬉しそうにしている
「なにかいい物あったんですか?」
「ああ!いい掘り出し物を見つけたぞ!」
ケンの言葉にロクロウが返す
「ひどく錆びていたが、研ぎ直してみたらなかなかの業物だった」
「ううむ・・・まさか投げ売りの品に、そんな上物が混ざっていたとは・・・勉強させてもらった。それは、あんたに贈らせてもらうよ」
「ありがたい」
ロクロウは店主に礼を言う
「・・・で、手伝ってくれるの?」
「もちろんだ。そっちの首尾はどうだった?」
~
ベルべットから事情を聴いたロクロウが話す
「なるほど。ダイルというトカゲの業魔を捜すんだな?」
「とりあえず、ダイルの故郷を当たってみるつもり」
「がんばっての~」
マギルゥがきびつを返して歩き出す
「一緒にいかないのか?」
「儂も、なかなか忙しい身でな。裏切者を捜さんといかんのじゃ。それに喰べられたらかなわんしの」
マギルゥがベルべットに目線を向ける
「こう見えてもグルメなのよ」
「ではなおさら危ないのう~♪」
ベルべットは皮肉を込め言い返す、マギルゥは聞き流しつつ歩き去った
村に向かおうとしたが英気を養うために一泊することになった。宿に向かう途中雑談している住民の声が聞こえる。聖隷についてのことだったどうやら世間的には聖隷は物言わぬ道具という認識が広まり、3年前に突然見えるようになったらしい。そしてこのアースガルド領は以前はそこまで寒くなかったらしい。
~
3人は宿屋に入る受付でケンは手続きをしている。
「3部屋お願いします。個室で、空いてます?」
「はい、大丈夫です。空いてますよ」
それを聞いたベルべットとロクロウが口を挟む
「別に相部屋でいいじゃない・・・持ち合わせそんなにないし」
「俺も別に構わんぞ?」
「さすがに男女一緒じゃまずいでしょ?」
ケンはプライバシーを理由に諭す
「そうなのか?」
ロクロウがそう答える。ケンは少し落胆する。
「とりあえず部屋は個別にしますからね?」
「わかったわ」
「お前がそういうんなら構わんぞ」
「ふぅ・・・では料金はいくらですか?」
「はい、色々込みで500ガルドになります。」
「わかりました。はいこれで」
ケンは料金を払う
「なんだお前もってたのか」
「旅で稼ぎましたから」
ケンは受付から受け取った鍵を二人に渡す
「ではまた後で」
「おう」
「・・・」
そこで3人とも一時解散して部屋に向かった
~
宿に入り夜が更ける。ベルべットは用事を済ませ自分の部屋に戻るため渡り廊下を歩いていた。
「・・・噴っ!破っ!勢っ!
「・・・ん?」
ベルべットは何かに気付き足を止める。何かを振るう音と掛け声が聞こえる、覗いてみるとそこには木刀の素振りをするロクロウがいた。上半身裸だ
「勢っ!!
「いい加減な業魔かと思ったけど・・・案外そうでもないのね」
ベルべットはそう言いつつ廊下を渡る。その後階段を上り自分の宛がわれた部屋に入ろうとした時、ふと窓を見る。月明かりが雪に反射して思ったより明るい。下は中庭なのだろうか広いスペースがある、そこに人影がいた。
「あれは・・・ケン?何してるのかしら」
ケンはロクロウとまでとはいかないが上半身は黒のボディスーツを着ている。ケンは構えを取り一つ一つ確認するように動くあの体型からは信じられない流れるのように音もなく動き、跳び、止まり、また構える。その動作に合わせて雪が舞う。
「綺麗・・・」
ベルべットは自然と呟いた。ケンはひとしきり鍛錬を済ませたのだろう。息を切らせて中に入る。ベルべットはそれを確認し自分の部屋に戻る。
(あいつ・・・一体なんなのかしら)
ベルべットはそんなことを考えながらも横になった。
~
その次の日宿を後にした3人は昨日の船着き場そ倉庫を経由して村に行くことにした。雪道を歩きながらロクロウがぼやく
「やれやれ、どこまでも氷と雪ばかりだな」
「寒いの?」
「いいや。お前は、ヘソでも冷えるのか?」
ロクロウはベルべットに聞く
「別に・・・っていうか、どこ見てるわけ!?」
ベルべットが威嚇する
「おっと、すまん。そういうつもりはなかった」
ロクロウは素直に謝罪する
「そうか。お前は、まだ恥じらいとかそういう感情が残ってるんだな」
「お前は・・・って、じゃあ、あんたは?」
ベルべットが逆に聞く
「応、人間らしい感覚が大分なくなってる。業魔ってのは、そういうもんだと思ってたよ」
「人間の感覚が消える・・・」
ベルべットさんはロクロウの言葉を呟く
「それでも、俺が俺である根っこは変わらないがな。相変わらず心水も旨いのも、ありがたい」
「・・・そう」
そのまま3人は歩き出す
(業魔は肉体と精神の変化に留まらず五感にも影響を与える・・・力と引き換え、ということか)
ケンはロクロウの話を聞き考えながらも村へ歩を進める
第6話 終わり
どうでしたでしょうか、かなり長い作品なるかもしれません。
ご意見・ご感想いただければ励みになります。よろしくお願いします。