ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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チャプター1 ―旅立ち―
父と子、そして兄弟の語らい


 雲一つない透き通った空の晴天だった。

 首都を覆う魔法障壁によって生み出される波のような揺らぎもよく見え、日々これによって自分たちの生活が守られているのだと感じ取ることができる。

 

 波のように見えるが、これはこれまで戦争状態にあったニフルハイム帝国の誇る魔導機械兵団を退け続け、今日に至るまで突破させなかった正しく鉄壁の守りである。

 

 そしてその魔法障壁をたった一人で維持し、庇護下にある臣民らを守る役目を持つものが――ルシス王家だ。

 

 最先端技術と芸術の粋を結集させて作られたそれは、見るものを圧倒させる荘厳な空気を持つ。

 その中の最奥こそ、ルシス王家の座す謁見の間が存在する。

 僅かな装飾一つに至るまで徹底的に磨き抜かれ、ルシスの歴史と威厳を象徴するように作られた巨大な玉座が頂点に座す。

 後ろに付けられた窓から差し込む太陽の輝きが王の威光を強め、謁見するものはさながら神と相対するような気分にさせられるだろう。

 

 そんな場所において、父と子の会話は存在していた。

 

「――旅の行程と日取りは了承した」

 

 玉座に座る王レギス・ルシス・チェラム113世から階下の息子――ノクティス・ルシス・チェラム王子にかけられる声に暖かな感情は込められておらず、淡々と事実を確認するもの。

 玉座に座る壮年の男性は、この場においてはルシスの歴史を背負う王であり、眼下に存在する少年たちがどれほど親しいものであろうと、感情を排して向き合わなければならない。

 

「ノクティス王子の出発を認める」

 

 横から聞いていれば普通に聞こえるであろう声も、文字通り上からかけられると叩きつけられるような威容を覚えてしまう。

 昔っから好きになれないな、と王子ノクティスは内心で思いながらも教えられた通りの礼をする。

 

「ありがとうございます、陛下」

「旅の無事を祈る。下がって良い」

 

 まるでこれからの旅が厳しいものであるような言い分だ。

 子供の頃から苦手な空間から一秒でも早く出るべく、ノクティスは言葉少なにうなずいて後ろに控えている友人らを押しのけるように外に向かう。

 

 驚いたようにその場を退く巨躯の男と、ノクティスをたしなめるように見る落ち着いた佇まいの男は玉座の間を出ようとしている王子の後を追うべく、堂に入った臣下の礼を取って部屋を出て行く。

 彼らの側にいたもう一人――ノクティスの友人であるプロンプト・アージェンタムはやや不慣れな動作でレギスに一礼をして、その後に続いていった。

 

 彼らを見送ったレギスは王としての瞳に、僅かに憐憫の感情を乗せて静かに息を吐くのであった。

 

 

 

 城の外では彼らが旅に使う骨董品の愛車――レガリアが主を待つように鎮座していた。

 黒く光る車体は太陽の光を存分に吸い込み、漆のような深い輝きを宿している。

 

 これから旅が始まるのだ。王子としての煩わしい視線や期待にさらされることもなく、気の置けない友人たちと婚約者を迎えに行く旅が。

 

 日程そのものは大したものではない。ルシス首都であるインソムニアを出発後、ハンマーヘッドという場所で休憩と補給。その後はガーディナ渡船場までほぼノンストップ。

 そこから船でアコルド自治政府の首都オルティシエに向かい、婚約者であるルナフレーナとめでたく結婚。

 長年戦争状態にあったルシス王国とニフルハイム帝国の講和条約の旗印であり、長きに渡る戦争に疲弊した民たちの慰撫も兼ねたそれが今回の旅の目的だ。

 

 ルナフレーナと結婚した後のことはさすがにまだわからないが、彼女とともにいられるのなら悪いことにはならないだろう。

 旅の護衛役である王の盾グラディオラス・アミティシアと軍師イグニス・スキエンティアの小言を聞き流しつつ、ノクティスはこれから先の未来に思いを馳せる。

 

「ん――」

 

 ふと城の方を見ると、父王レギスがドラットー将軍を伴に見送りに来ているのがわかった。

 すでに動かすこともままならない両足を杖と補助具でどうにか動かし、老人のような足取りで一歩一歩近づいてくる父にノクティスは自ら駆け寄っていく。

 

「親父、どうしたんだよ」

「色々と、言い忘れてな」

 

 そっと肩を支えようと手を伸ばすが先んじてレギスに止められてしまい、伸ばしたノクティスの手は行き場を失う。

 そのままレギスはノクティス――ではなく、彼の選んだ旅の仲間に視線を向ける。

 

「知っての通り頼りない息子だが、よろしく頼む」

「おまかせください」

「必ず無事に、王子をオルティシエまでお連れします」

「あ、ボクもです」

 

 真っ先に答えたのはイグニスとグラディオラスだ。続いてプロンプトも応える。

 そんなに自分は頼りなく見られているのか、というかプロンプトまで頼りないと思ってんのか、とノクティスはふてくされた顔になってしまう。

 そうしたところが未だ頼りないと見られていることに、彼はまだ気づいていない。

 

「さっさと行くぞ。コルが車で待ってる。待たせるのもアレだろ」

 

 レギスの側に控えているドラットー将軍に後を任せると手を上げると、彼は静かにうなずいてくれた。

 自分が頼むまでもないかと思い、ノクティスは車に向かおうとする。

 

「くれぐれも、未来の奥方に失礼のないようにな」

 

 ルナフレーナに失礼な真似などするはずもない。茶化すような心配するようなレギスの言葉に、ノクティスはおどけて臣下の礼を取る。

 

「そちらこそ、ニフルハイム帝国様に失礼のないようにな」

「心配などいるものか」

 

 お互いに視線を合わせて、小さく笑う。

 玉座の間では王と王子としての姿でしか話せなかったが、ここでは父と子として話すことができた。

 

「決して、途中で投げ出してはならんぞ」

「投げ出すかよ」

 

 この旅の果てに待っている結婚式のことだろう、とノクティスはあたりをつけて話す。

 結婚は人生の墓場とも言うし、ルシス王子と神凪という役目を持つもの同士、通常の人より苦難の多い道のりになることはノクティスにもわかる。

 だが、それもまた王家の使命。明文化できるほどではなく、また実感として持っているものでもないが、ノクティスは大きくうなずいた。

 

「すぐに戻ってこられないことだけは覚悟しておきなさい」

「そんな簡単に戻らねーよ。ご安心を」

「気をつけて行くんだぞ」

 

 レギスはノクティスに近寄り、まだ王家の責任を背負ったことのない細い肩に手を置く。

 何事かと驚くノクティスだが、レギスの目を見ると何か大きなものを見ているような気になってしまい、圧倒されて何も言えなかった。

 

「ルシス王家の人間として、このレギスの息子として――常に、胸を張れ」

 

 そんな言葉を受けて、ノクティスは前途洋々たる旅へ赴くので――

 

 

 

「おーい、待てよ!!」

 

 

 

「んぁ?」

 

 さあ旅に出よう、とレギスからの言葉を受け取ったノクティスらが車に戻ろうとすると、今度は城門の方面から人が駆け寄ってきていることに気づく。

 

 ノクティスとよく似た顔立ちであり、彼の方が快活な印象を与えるそれを苦しそうに歪めて、その青年はノクティスらに近づく。

 目の前までやってくると、青年は膝に手をついてぜはぜはと荒くなった呼吸を整える。

 

「まったく……もうちょっと待てよ……こちとら強行軍でガーディナから戻ってんだぞ……」

「いや――兄貴が戻ってんのとか知らなかったし」

 

 ノクティスより兄貴と呼ばれた青年は息を整え、彼らと相対する。

 

「まずは――陛下、ただいまアコルド政府より帰還いたしました。ノクティス王子とルナフレーナ様の式典についての具体的な話などを詰めてまいりました」

「うむ、ご苦労――アクトゥス」

 

 兄貴と呼ばれ、レギスより息子へ向ける暖かな視線を受け、アクトゥスと呼ばれた青年は詳細な報告は後ほどと話して再び快活な雰囲気に戻る。

 

「で、兄貴。何しに戻ってきたんだよ」

「弟の旅立ちを見送りにな。オレも調印式には列席するよう言われてるし」

「外交官でもそういうのってあるんだな」

「向こうのお偉いさんと話すのは昔っから気苦労が多いんだ」

 

 アクトゥスと呼ばれた青年はノクティスの実兄であり、彼との年も五年ほど離れている。

 通常ならば彼が王位を継ぐのが筋だとは思うのだが、彼はノクティスが物心ついた時にはすでに王位継承権を放棄していた。

 ノクティスがハイスクールに通っている頃から、彼は外交官という役職についてルシス国内のみならず世界中を飛び回り、様々な方面での調整に勤しんでいたらしい。

 

 いかにニフルハイムと戦争状態にあり、ルシスが魔法障壁による籠城作戦を取っていても外交を怠ってはならない。平和の切っ掛けはまず対話にこそあるのだ。

 

「ま、これから旅立つ奴らにオレなりの餞別をくれてやろう」

「お、兄貴の外の知識か?」

「そっちはイグニスに聞いてくれ。ほら、ギル」

 

 アクトゥスのポケットから出てくる硬貨を受け取り、ノクティスは光にかざしながら不思議そうにそれを見る。

 

「ギル?」

「ここで流通してる金とルシスの内部に流通してる金は違うんだよ。覚えとかないと生活費も稼ぐことになるぞ、なった」

「実体験かよ」

「ここからの援助なんて望めるはずもなし。外の世界での窮地は自力でどうにかするのが基本だ」

「わかった、覚えとく」

「おう、なら良し。お前は王都から出るの初めてだよな? だったら思いっきり楽しんでこい。外の世界は不便で汚いところもあるが――そんなのが気にならないくらい美しい景色もある」

 

 言いたかったのはそれだけだ、と言ってアクトゥスは自分を誇るように外の世界の美しさを説く。

 こんなことを言うためにわざわざ強行軍で戻ってきたのか、とノクティスは兄へ呆れ半分、感謝半分で笑って、兄の肩を叩く。

 

「ま、楽しんでくるよ。戻ってきたら兄貴にも土産話、聞かせてやるからさ」

 

 

 

 

 

 ノクティスたちを乗せたレガリアが遠ざかるのを見送り、アクトゥスとレギスは顔を見合わせる。

 レギスの顔には気遣いの色があるのをアクトゥスは見抜く。

 

「……アクト、今からでも遅くはない。お前も外に出れば――」

「その話はもう終わっていますよ。ニフルハイム帝国との和平条約の調印式をここルシスの首都で行う。――どう考えても罠です」

 

 敵兵力をインソムニア内に招き入れるも同然。彼らの手こずっていた魔法障壁も和平条約に出席するためとあれば容易に通り抜けられてしまう。

 国力で勝るニフルハイムが手を緩める理由などない。これを機にルシスを落としてしまおう、という魂胆は隠す気がないと思えるほどに透けていた。

 

 ノクティスらには何も知らせず、外の世界に送ることにした。ルシスの側にとって勝ち目の薄い戦いになることは目に見えている。まだ未熟な王子がいたところで何もできることはない。

 対しアクトゥスは――次善のためにこの場にいた。

 

「調印式には私も列席します。何かあった場合の戦闘もおまかせを。――万に一つ、陛下の御身に何かがあった場合の指輪についてもご心配なく」

「……そうか、そうだな。負けるつもりなど毛頭ないが、最悪は考えねばならない」

「我々も控えております。陛下がご心配なさることは何もございません」

 

 側に控えていたドラットー将軍もアクトゥスの言葉に追従するように声をかけてくる。

 レギスはそれを聞いて肩の力を抜き、朗らかに笑う。

 

「もちろん、お前たちのことは信頼している。……そろそろ戻ろう。ノクトも旅立った今、ここにいる必要はない。――アクト、肩に埃がついている。こちらに」

「――はい」

 

 アクトゥスがレギスの側に寄ると、レギスの年齢以上にしわがれた手がそっとアクトゥスの肩を払う。

 感謝の礼をするため、アクトゥスは頭を下げ――肩に触れた時に渡された紙片を懐にしまう。

 

「お前もノクトも、私の大切な息子だ。それだけは、覚えておいてくれ」

「……はい、父上」

 

 レギスの息子を見る目は父としての愛情に満ちたものと、それと同じくらい大きな――憐憫が含まれていた。

 ノクティスが五歳の時、歴代王よりクリスタルより選ばれた世界の闇を祓う真の王であるという啓示が下されると同時――アクトゥスにもある役目が課せられている。

 

 レギスの視線の意味を察したのだろう。アクトゥスは淡く微笑み、無言で首を横に振る。

 とうの昔にその問答をするべき時間は過ぎている。そしてアクトゥスは彼なりの答えをすでに出していた。

 

「私は私なりにこの運命に殉じるだけです。たとえそれが――弟の死であっても」

 

 

 

 

 

 旅に出る前、ノクティスは太陽がオレたちの旅立ちを祝福しているようだと感じられた。

 燦々と降り注ぐ日光、レガリアに当たる風全てが自分たちを暖かく迎えているとすら思えた。

 

 ――前言を撤回しよう。今はこの太陽も風も全てが敵だ。

 

「暑い……」

「外の世界の厳しさだな」

 

 休憩予定のハンマーヘッドは未だ遠く。だというのに自分たちはなぜこんな場所で車を押しているのだろうか。

 ちょっとした哲学の領域まで踏み込みそうな難題にノクティスは頭を抱える。

 一縷の望みに懸けたヒッチハイクも期待薄。自分たちの準備不足と言ってしまえばそれまでだが、もう少し人情というのはあっても良いのではないかと切に思う。

 

「車って、乗るもんだよね」

「乗るもんだろ」

「言っても仕方ねえだろ。おら準備」

 

 プロンプトの愚痴に適当に答えつつ、グラディオラス――愛称グラディオの発破に押されてノクティスは車を再び転がし始める。

 ノクティスにプロンプト、グラディオラスの三人が全力を込めて押すことでようやくレガリアがノロノロと動き出す。

 クソ燃費過ぎるだろ、と内心で父の使っていたというレガリアに毒を吐きつつ、ノクティスたちは幸先の悪い旅の始まりを嘆く。

 

「ない。ホントない」

「ホントになぁ、キツイ旅の始まりもあったもんだぜ」

「てかさ、ハンマーヘッドってかなり近くなかった? インソムニアからノンストップとは言えさあ、遠すぎない?」

「確かに近かった」

「世界地図の上ではな」

 

 はぁ、と誰からでもなくため息がこぼれる。

 この場にいる誰もが外の世界は初めてになるのだ。多少の失敗には文句が言えない。

 もっと兄貴の話聞いときゃ良かった、とか旅の行程を話してアドバイスもらっときゃ良かった、とか色々と思うところはあれど、全ては後の祭り。

 

「ノクト、お兄さんの話とか聞いてないの?」

「ちゃんと日が暮れる前には街についとけ、とかそんな感じのやつばっかりだった」

 

 兄貴はこんな失敗をしなかったのだろうか、とノクティスは思う。

 少し年の離れた兄は自分より明るく、なんでもできて、けれどそれを鼻にかけず自分にも王子としてではなく一人の人間として接してくれて――

 

「ノクト、手ェ止まってんぞ」

「っと、悪い」

 

 グラディオラスの注意が飛んだため、慌てて意識を今に戻す。

 戻すと言っても、レガリアを延々とハンマーヘッドまで押していくしかないという過酷な現実しか待っていないのだが。

 

「電話は?」

「ダメだな。ずっと話し中だ」

「んな混んでるのかよ」

「どうだろうな。つながるまでは押していくしかあるまい」

 

 今は運転席で休憩しているイグニスの声にもいつもの張りがなく、疲れた様子だ。というかこの面子で疲れていない者は皆無だ。

 うんざりした顔でノクティスが顔を上げても、広がる光景は荒野ばかり。ハンマーヘッドらしきものは影も形もない。

 世界地図で見た時は本当に近所だと思ったのに、実際に行ってみるとこれだ。

 

「はぁ、世界って広いわ」

「こんな形で実感したくはなかったけどねー」

 

 できればもっと雄大な景色とか大自然の織りなす自然の芸術とかを前に言ってみたかったものである。

 プロンプトの同意に深くうなずき、ノクティスたちは再び車を押す作業に戻るのであった。

 

 最初の旅の目的地であるハンマーヘッド整備場まで、あと二時間弱この車を押していく羽目になるのだが――そんな険しい未来、彼らは知らない方が幸せだろう。




初めましての方は初めまして。前作などを見ていただいた方にはお久しぶりです。
活動報告まで見ている方々にはお話したかもしれませんが、以前より考えていたFF15のお話になります。

さっそくオリキャラぶっ込んでますが、主人公はノクティスです。基本的にストーリーはノクティスの目線で動いていきます。キングスグレイブの話もほぼ省略です。たまにアクトゥス目線の話になるくらいで。

私の妄想やこの時このキャラはこんなこと考えていたんじゃないかなー、というのを文章で表せたら良いな、と思ってます。
ちなみに設定の方はアルティマニアの方を持ってますが、何か違っていたら教えてください。ぶっちゃけ名字の間違いとかが一番ありそうで怖い(小並感)

ストーリーとしては概ね原作沿いですが、細部がちょこちょこ変わっていく感じです。ルナフレーナがノクトと合流して一緒に旅するシーンがあるとかそんなぐらいで。
あとはある目的のため、サブクエストの方もやっていく予定になります。チョコボの話とかドッグタグの話とか釣り師匠とか。
ストーリーのノリと違う? こまけぇこたぁ良いんだよ! の精神で押し流してください(真顔)

最後に現時点で出せるアクトゥスの情報を乗せておきます。

アクトゥス・ルシス・チェラム

25歳

レギスの実子であり、ノクティスの実兄。王族に連なる者としてシフト魔法や武器召喚も使用可能。
しかし彼は幼少の折にレギスと話し合った結果として王位継承権を放棄。それ以降は外交官としてルシス国内のみならずニフルハイム、アコルド政府との対話などを行ってきた。
今回の調印式に先立ちルシスに帰還。ノクティスたちに激励の言葉をかけて、旅立ちを見送った。



――彼もまた、とある役目をクリスタルより課せられた者である。
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