ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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神々の誘い

 グレイシャー洞窟。

 滝の裏側に広がる洞窟であり、氷のエレメントが強いのか温暖なルシス国内とは思えない寒さを常に振りまいている場所だ。

 当然ながら整備などされておらず、明かりがないためシガイも出る。道中には超危険なモンスターであるミドガルズオルムも出没する。

 

 好き好んで行くような奇特な連中などいるはずもない。そのためグレイシャー洞窟へ通じる道は簡単な封鎖だけが施され、その気になれば誰だって行ける場所に存在した。

 

「で、あのヘビどうするの?」

「迂回するに決まってんだろ。行きであんなのと戦ったら体力持たねえよ」

「同感だ。とはいえ視界に入るのは避けられないな」

 

 一行はミドガルズオルムが這い回る湿地帯の手前で隠れ、いかにこの場所を切り抜けるかを話していた。

 真っ先に意見が一致したのは戦わずに逃げること。洞窟の探索もある状況で明らかに今の自分たちより強いモンスターなど相手にしていられない。

 

 では次の問題はどのようにして逃げるかということ。

 残念ながらミドガルズオルムの視界に一度は入らなければ、グレイシャー洞窟への侵入は難しいのだ。

 見上げるほどの巨体をうねらせながら迫ってくれば人間の歩幅など一瞬で詰められる。そして身体に見合った巨大な口で一呑みにされる未来が待っていることだろう。

 

「ちなみにヘビは体内で獲物を圧殺して消化するらしい」

「それ今言う必要あった!?」

「一人が陽動、ってのはリスクがデカイか」

「そういうことだ。失敗した時の安全策もなしに即死では策とは言えん」

 

 本当に切羽詰まっていたら一考する価値はあるかもしれないが、今はそんな状況ではない。

 あまり時間をかけて夜になったらそれこそ最悪。シガイを警戒しながらレスタルムに帰るなど考えたくもなかった。

 

「全員で一気に走り抜ける。プロンプト、お前が一番前だ」

「え、なんでオレ!?」

「襲われるとしたらオレたちが背中を向けている時だ。その時に一番危ないのは殿になる。……グラディオ、頼めるか」

「ま、図体のデカイやつが影を作った方が気休めにはなるか」

 

 イグニスの話を聞いた三人がうなずき、それぞれの役目を把握する。

 本当ならシフトで瞬時に離脱できるノクティスを一番後ろとするのが適切なのだが、万一を考えるとできない選択肢だった。

 

「ノクト、合図を頼む」

「オッケー。……行け、プロンプト!!」

「う、うわわわわ!!」

 

 草むらから思いっきり背中を押されて飛び出したプロンプトが、こちらを発見したミドガルズオルムと視線を合わせてしまう。

 

「ヘビに睨まれたカエルの気分がわかりましたぁぁ!!」

「んなこと言ってないで走れ!!」

 

 動く小さな生き物、ということでミドガルズオルムの目に止まったのだろう。

 身の毛のよだつ不気味なヘビ独自の尾のこすれる音が耳に届き、その音が近くなっていることで接近が嫌でもわかってしまう。

 

「追いつかれるだろこれ!?」

「湿地を抜けるまでだ! 縄張りから出てしまえば……!」

 

 生暖かい風のような何かが当たってもひたすら走る。滝壺付近にいた大きなカニのモンスターなど見向きもせず走っていると、やがてミドガルズオルムの気配が消えていく。

 それでも不安に駆られて滝の裏側まで足を緩めず走っていたノクティスたちは、洞窟の入口が見えると同時に足を止める。

 

「お、追ってきてない……?」

「モンスターとは言っているが、生態系の一つだ。縄張りを侵したものに容赦はしないが、わざわざ深追いをするほど食べがいのある獲物でもないということだろう」

「眼中にないってことか。ちっとむかつくな」

「え? 今の安心するところじゃない? 怒るところあった?」

 

 この面子の中では最もバトルが好きなグラディオラスが不機嫌そうな顔になるが、プロンプトは訳がわからないという顔をするばかり。

 それに彼も王の盾としての役割を疎かにするつもりはない。一息で意識を切り替えると、彼らを洞窟の暗闇から守るように再び先頭に立った。

 

「じゃ、王の力集めと行きますか! ノクト、アクトゥス様から聞いてないのか?」

「長居しない方がいいってことくらいしか」

「……あー、なるほど、言葉の意味がよくわかるぜ。来てみな」

 

 洞窟に一歩踏み込んだグラディオラスが全てを悟った苦々しい顔でノクティスたちを招く。

 何かあったのかとノクティスたちも洞窟内に入り――漂う冷気に身体を震わせる。

 

「寒っ!?」

「長居したら凍死の危険もあるぞ、こりゃぁ」

「レスタルムで用意が難しいというのは防寒具だな。火力発電の影響であそこは常に暑い」

「というかなんでルシスでこんな寒い場所あるの!?」

 

 悲鳴のようなプロンプトの声にノクティスは目を閉じて、感じたところを答える。

 

「氷のエレメントが強い。理由はわかんねえけど、極端に偏ってる」

「エレメントって、魔法で使うやつ?」

「ああ。上手く説明できねえけど、兄貴もわかる感覚だ」

 

 魔法を操るルシスの王族以外にはわからないだろう。

 事実、ノクティス以外の三人はそういうこともあるのかとうなずいており、彼らに実感として伝えるのは不可能に近いはずだ。

 

「とにかく行くぞ。兄貴は一人で踏破してるはずだ。オレたちにできない理由はねえ」

「そうだな。とりあえず動いていれば身体も温まるだろ」

「道が凍っている可能性もある。ゆっくり動けとは言わないが、慎重にな」

「へ? うわぁっ!?」

 

 イグニスが注意した直後にプロンプトが足を滑らせ、一行はこの洞窟大丈夫なのかという仄かな心配を抱くのであった。

 

 

 

「クソッ、まじで寒い!!」

「ま、まだ口が回るだけ良いんじゃない?」

 

 こんなところに一人でいたら気が滅入って死にそうだ、とノクティスは寒さで白くなった息を吐き出しながら進む。

 明かりがないからシガイがうじゃうじゃ出てくる。寒いから道が凍っていて滑らざるをえない場所がある。

 極めつけにとにかく寒い。手がかじかんで感覚がなくなり、これ以上留まっていると武器を持つこともおぼつかなくなりそうな寒さが常にノクティスたちを襲っていた。

 

「お兄さん、どうやって突破したのかとか聞いてないの?」

「言ってねえけど、なんとなくわかる」

「その方法は?」

「魔法」

 

 別に一度の探検で踏破しなければならないわけではないのだ。アクトゥスは単独で探索していた関係上、非常に慎重な姿勢を取っていた。

 なのでこの洞窟では予めファイア系の魔法を用意して、それを使って暖を取るのとシガイを蹴散らすのを両方行っていたのだろう。

 

「まんべんなく用意していたのが裏目に出たな。もうファイアはない」

「言っても仕方ないだろ。さっさと行って終わらせることだけ考えるぞ」

 

 イグニスとプロンプトのぼやきに同意したくはあるが、彼らの目的は自分のファントムソード集め。

 付き合わせている立場で文句は言いにくい。いや、彼らは王の臣下とも言えるのだから自分に付き合うのは当然でもあるのだが。

 ともあれ一行が奥に進んでいくと、不意に明るく開けた場所に出る。

 

「まぶしっ!」

「氷に照り返してんのか。雪焼けとかも聞いたことあるが、この光だと納得だな」

 

 目がくらみそうな光の中、ノクティスたちが歩を進めると見慣れた黒く発光する粒子が地面より噴出する。

 それがシガイの出現する合図であると、この旅を始めて学んでいた一行は即座に臨戦態勢に移る。

 

「ほんっと、どこでも出んのなシガイ!」

「氷で反射した日光ではシガイを抑える効果もないらしいな。幸い広い場所だ。ノクトも動きやすいだろう」

 

 それに、とイグニスがグラディオラスの方を見ると彼はようやく存分に振るえる大剣を肩に担ぎ、ノクティスの隣に立っていた。

 

「ようやく暴れられるってもんだ。それに向こうに扉が見えた。王の力があるとしたらそこだろうぜ」

「長くて寒いこの洞窟ともさよならか。んじゃぁ、気合い入れないとね!」

 

 プロンプトが銃を構えると同時、黒い粒子の向こうから不吉な暗黒術師を連想させるシガイ――マインドフレア系のシガイが出現する。

 

「マインドフレアか。やつの周囲に浮かぶものが三角形を作ったら射線から離れろ。浴びると石化する」

「石化……石化ぁ!? 石になるの!?」

「そうだ。金の針なら治療できるが、石になる体験をしたい者はいないだろう」

 

 ブンブンと首を振るプロンプトを横目に見つつ、他にもインプといった小型のシガイが湧いてくるのを見てイグニスは舌打ちをする。

 

「他にも詠唱を始めたら何が何でも中止させろ。こいつは小型のシガイを産む力がある」

「はいよ!」

 

 イグニスのアドバイスを背中に受けながら、ノクティスは賢王の剣でシフトブレイクを仕掛ける。

 突き刺さった感触は確かにあるというのに、まるで布のカーテンかなにかを切っている気分だ。

 普通のモンスターを相手にするのとはまるで違う感触に顔をしかめながらも、素早く下がって追撃を避ける。

 

「ふわふわして狙いづれえぞこいつ!」

「だったら縫い止めちまえば良いんだ、よっ!!」

 

 攻撃をした以上、必然的に生まれるノクティスの隙をグラディオラスが埋める。

 彼を守るように前に出たグラディオラスが大剣を振り下ろし、マインドフレアの身体の中心――ではなく、ローブ状に伸びた触手の一部を地面に剣ごと突き刺す。

 するとマインドフレアは逃げようとしても触手に突き刺さった剣が邪魔で動けなくなる。

 

「ほら、今だ!」

「ナイス!!」

 

 動けないマインドフレアに修羅王の刃を思いっきり振りかぶって、叩きつける。

 かつてルシスの王が振るった斧が、シガイを頭蓋から地面まで重い衝撃を手に伝えてきた。

 もとより斧は剣のような斬る武器ではなく、その重量で押し切る武器だ。

 十全に体重と勢いが乗ったそれは、地面にヒビすら入れるほどの威力でシガイに襲いかかる。

 王の力が宿った一撃はシガイを容易に切り裂き、その肉体を再び黒い粒子へと返す。

 

「――ハッ、楽勝!!」

「いい感じに使いこなしてんな、ノクト!!」

「任せろっての!」

 

 グラディオラスの快哉に答えながら、ノクティスは召喚した短剣をもう一体いるマインドフレアの真上に投げる。

 そして頭上にシフトで移動すると、再び修羅王の刃を振り下ろす。重力の力を借りたそれは通常の生物が意識しない真上からの攻撃として、頭から股下までを強引に叩き潰す。

 兄、アクトゥスの得意とするシフトを用いた頭上からの急降下攻撃。

 生物の視点は基本的に平行かやや下を向いていることを利用し、注意のそれやすい上からの攻撃は大きな効果をもたらしてくれる。

 

「王の力も順調に使いこなしているな」

「疲れるけどな。でもまあ、確かにしっくり来る」

 

 賢王の剣も修羅王の刃も、どちらもノクティスの手に恐ろしく馴染む。

 斧を使ったことなどシフトの訓練を行っていた時に数えるほどだったというのに、使い方が手に取るようにわかる。

 この使い方の理解まで含めて王の力と呼ぶのかもしれなかった。

 

 ともあれシガイを片付けた一行は王の墓所への扉を開き、中に収められた王の魂と対面する。

 

「……剣? それにしては変な形だけど」

「特殊な形だが、双剣の一種だろう。一刀と二刀に分けて使うものを聞いたことがある」

「今じゃほとんど見ないし、使い手をとにかく選ぶんだろうな」

 

 一昔前には銃の機構と剣を組み合わせたガンブレードなるものも研究されていたようだが、それも扱いの難しさに断念したらしい。

 

「ま、なんとかなるだろ」

「うわ、軽い」

 

 実際、持ってみれば使いこなせるのだからなんとかなるとしか言いようがない。

 とはいえプロンプトにその辺りの意図は通じなかったようで、大して気負ってもいないノクティスを呆れた目で見ていた。

 気にせずノクティスが手を伸ばすと、一刀の形で収まっていたそれが浮かび上がり、ノクティスの中に入ってくる。

 

 獅子王の双剣。ルシスに点在する秘境をいくつも開拓し、ルシスの可能性を切り拓いた疾風王の愛用した二刀と一刀。

 変幻自在の武器が長い時を経て、真の王の手に収まった。

 

 また一歩、打倒ニフルハイムとルシス復興に近づいた。体内に収まった力を感じ取り、一旦戻ろうとしたところでそれは起こった。

 

「よし、戻ろう――」

 

 視界が切り替わる。

 青白く空に立ち上る炎。星の核にすら達してしまうと思える大穴。そしてその中に眠る巨神の姿。

 巨神は目を閉じ、炎を発して燃え続ける巨岩――メテオを背負って眠っていた。

 だが、生きている。微かに動く身体は彼の肉体が今も呼吸していることを示している。

 

 そんな彼の眼が開き――この場所にいないノクティスを確かに認識した。

 

「――つぅっ!!」

 

 脳を刺されるような頭痛が起こり、視界が寒々しい氷の風景――現在地のグレイシャー洞窟に戻る。

 ズキズキと痛む頭を押さえ、片膝をつく。

 

「ノクト!?」

「頭、いてぇ……! なんか変な景色も見えるし、なんだよこれ……!」

「何か見えたのか?」

「青白く燃えてる大岩を巨人が支えている光景……あれ、メテオか?」

「その二つとなればほぼ確定だ。――カーテスの大皿が見えたのか」

 

 なぜ、という疑問は誰も口にしない。ルシスの王族であるノクティスは魔法を扱うことができる以上、何らかの超常現象に出くわす可能性だって否定はできないのだ。

 

「オレを呼んでる、のか……?」

「難しいぞそいつは。カーテスの大皿は確か帝国軍が基地を作ってる」

 

 グラディオラスが難しい顔でうなる。

 コルに連絡をつけて陽動を頼むなり方法は複数浮かぶが、どちらにしてもノクティスたちが正面から向かうのは確定になる以上、厳しい戦いになる。

 と、イグニスとグラディオラスが考え込んでいるとプロンプトが疲れた声を出す。

 

「とにかく一旦戻らない? 今はみんな疲れてるし、こんな場所だから気も張ってる。一休みしてから考えようよ」

「……そうだな。ノクトもそれでいいか?」

「ああ。ホテルのベッドにダイブしてぇ」

 

 休んで回復する類かどうかは不明だが、休まなければ洞窟での消耗すら取り戻せない。

 王の力の入手という目的も果たせた以上、この場に留まる理由もなかった。

 

 一行は帰り道のミドガルズオルムにも目もくれず、レスタルムへの帰路につくのであった。

 

 

 

 

 

 カーテスの大皿。その中でもそれなりに奥深い場所。

 巨神タイタンの顔が見られる位置まで近づいて、アクトゥスとルナフレーナは双方が手を巨神にかざした状態で佇んでいた。

 

 すでにこの状態を維持して三十分ほどが経過している。

 いくら一人二人なら見つからない場所を予め作っておいたとは言え、ここは帝国軍基地の中。いつ見つかるかと考えるとアクトゥスは気が気でない。

 しかし誓約の終了はルナフレーナにしかわからない。ルナフレーナの負担を軽減させる方法もそうだが、何より彼女の護衛のためにもこの場を離れるわけにはいかなかった。

 

 アクトゥスとしては一秒でも早く終わってほしい時間だったが、それもルナフレーナがゆっくりと目を開いたことで終わりを告げる。

 

「……巨神は目覚めました。真の王が来れば、彼に試練を与えることでしょう」

「穏やかに、とはいかないわけか」

「はい。本当ならわたしも残ってノクティス様のお力になりたいのですが……」

「……気持ちは痛いほどわかる。オレもそろそろ弟の顔が見たい」

 

 旅に出てから色々なことがあった。頼りなかった弟も多少は引き締まった顔になっているはずだ。

 何より家族を喪った悲しみは同じなのだ。ノクティスが兄のことを心配するのと同じくらい、アクトゥスもノクティスを心配していた。

 とはいえ彼の安全を思えばこそ、神凪であるルナフレーナを擁している自分は別行動を取ることが望ましい。

 

 最悪なのは神凪と真の王。両方がいるところを一網打尽にされること。

 それを避けるためにもノクティスには力をつけてもらう必要がある。それこそアクトゥスの予想を超えるような、神々の力の一端すら操るものを。

 と、そこでアクトゥスは思考を現実に引き戻して状況の確認を行う。まずはルナフレーナの体調である。

 

「まあノクトに会うのはもう少しの辛抱だ。それはそうと身体は大丈夫か?」

「あ、はい。アクトゥス様が予め使って下さった魔法のおかげで、予想よりも小さな負担で済みました」

「よし、推測が上手く行ったか」

「アクトゥス様のお体は、その……」

「大丈夫だ。オレの方も多少の疲労だけで済んでいる」

 

 自らの肉体が快調であることがわかるほど、ルナフレーナはアクトゥスに対して罪悪感を覚えたような顔になってしまう。

 そんな彼女にアクトゥスはおどけるように肩をすくめるしかない。

 

「おいおい、言い出しっぺはオレだぜ? 気にする必要なんてこれっぽっちもない」

「ですが、この方法ではアクトゥス様のお体が……!」

「大丈夫だよ。オレの方にもそんなに負担は来ていない」

 

 アクトゥスの語った負担の分散方法。

 

 

 

 それは――ある特殊な魔法を使用することによる負担の分配である。

 

 

 

 ルシスの王族が使える魔法はエレメントから精製するファイア、ブリザド、サンダー以外にも数多く存在する。

 その大半は日常生活はおろかモンスターとの戦闘でも特異な状況でない限り使われないものになるが、言い換えれば特異な状況下であれば用途が見出だせるものもある。

 

 アクトゥスの使ったバランスがその一つであり、これは自身の傷と同じだけのダメージを相手に与えるという性質を持つ。

 しかしこれは相手が複数いた場合は相手を選べず、またそんな相手に与えたいほどの傷を負っているなら素直に回復した方が良いという当たり前の理由で使われてこなかった。

 

 だが魔法の効果はマジックボトルで精製する際に素材を入れることで、ある程度の変更ができる。

 これもその一つであり、効果は使用者と対象の負担を分配する。

 ルナフレーナが誓約で百の負担を負う場合、アクトゥスが半分の五十を請け負うことでルナフレーナの負担を減らしているのだ。

 

「それなりにキツイがな。まだなんとかなる範疇だ」

「……本当ですね?」

「オレと同じ負担をルナフレーナも背負ってる。そこで疑われるのは心外だ」

 

 ルナフレーナの目はアクトゥスが少しでも辛そうな仕草をしたら、すぐにでもこの方法をやめるよう言うつもりだったが――アクトゥスは弱みを見せなかった。

 

「お前は使命を果たすことに集中しろ。オレはそれを全力でサポートする」

「……アクトゥス様」

「どうした?」

「方法についての是非はもう問いません。それはわたしがタイタンを目覚めさせた時点で言う資格を失っている」

「……ああ」

 

 ですが、とルナフレーナは顔を上げて――今にも消えそうな笑みを浮かべている未来の義兄を見据えた。

 

 

 

「ですがあなたが――義兄が傷つく姿を見るのは悲しいのです」

 

 

 

「……それは神凪としての言葉か?」

「ルナフレーナという、一人の人間としての言葉です」

 

 睨むような目で射竦められ、しかしその瞳の奥に揺れる悲しみを見出したアクトゥスは負けたとばかりにため息を吐く。

 

「……参ったよ。本当にマズイ時は言うから、その時に対策を考えよう。だが今回の負担が少ないのは本当だ」

「本当ですか?」

「そこは信じてほしいとしか言いようがない」

「……わかりました」

「よし、じゃあさっさとこの場所から離れてフォッシオ洞窟に向かおう。そこで誓約が終わればレスタルムまで一直線だ」

 

 あまりこの場所に長居するわけにもいかない。アクトゥスは話を切り上げて車を停めてある場所への道を歩き始める。

 その背中を見ていたルナフレーナも、彼の足取りが普段と変わらないことを確かめてから彼の後を追う。

 

 かくして、二人の目的である二柱の神の誓約を果たすことは、幸先の良いスタートを切れたのである。

 

 

 

 

 

「――へぇ。タイタン、目覚めたんだ」

 

 しかし忘れるなかれ。闇に挑む彼らの輝きは尊いものなれど、闇はそれらを覆い隠してしまうほどに強大であることを。




最後のキャラ……一体何ーデンなんだ……。

ちなみにノクトとアクトの話は少し時間軸がずれていることもあります。全く同じ時間で進めているわけではないのでご了承ください。

そして次回はサブクエスト回の予定です。次回というか結構サブクエ回になりそうですが。三章から行ける場所が広がるためサブクエも増えます。
メインっぽいやつをいくつかというものになると思いますが、お付き合いいただけると幸いです。ある展開に必要なものなので。

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