ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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ちょっと仕事がバタバタしていて遅れました。申し訳ありません


サブクエストその二

「やあ、君たち。元気そうで何よりだよ」

 

 レストストップ・ランガウィータ。孤峰ランガウィータを拝みながら食べるケニーズ・サーモンは最高であると宣伝されているリード地方唯一のレストストップ。

 旅の途中で立ち寄ったところ、日焼けした色黒の肌をした壮年の男性が声をかけてきたのだ。

 

 誰かと振り返ると、それは旅の最初の頃に助けたハンター――デイヴと特徴が一致した。

 しかし彼を助けてから大きな出来事が多すぎて、ノクティスたちは咄嗟に名前が出てこなかったのだがプロンプトが先んじて声をかけた。

 

「あれ、デイヴさん。ケガはもう大丈夫なんですか?」

「ああ、おかげさまでね。ケガも治って、またハンター業を再開しているんだ」

「無茶はすんなよ。最近、モンスターも凶暴化してるって話だぜ」

 

 最近王都の外に出た自分たちにはこれが当然だと思ってしまうのであまり実感できていないことだが、モンスターの凶暴化はそこかしこで起きているとハンター業界でもっぱらの噂だった。

 実際、新米ハンターがケガをするケースも増加傾向にあるため、あながち間違った噂でもないのだろう。

 

「ハハ、何も野獣と戦うことだけがハンターの仕事じゃないさ。物資の護衛や運搬も立派な仕事だよ」

「ではデイヴ殿はそういった仕事を?」

「いいや。オレが行っているのは、こいつを集める仕事だ」

 

 そう言ってデイヴが懐からキラキラと太陽を反射して輝く銀の板をつけたネックレス――ドッグタグと呼ばれるものを取り出す。

 これを集める? とノクティスとプロンプトは不思議そうな顔をするが、それが何に使われるものなのかを察したイグニスとグラディオラスは真面目な顔になる。

 

「これ、何に使うんだ?」

「ハンターの認識票さ。中には名前も彫り込んである。正式に活動するハンターに支給されるものだ」

「オレたちみたいに腕に覚えのある奴らが受けるのには必要ないのか」

「君たちはモブハントを中心に行っているだろう? あれはいわば指名手配モンスターの退治だ。モンスターの退治という結果さえ証明してもらえれば、誰がやっても構わない」

「……あ、じゃあモンスターを倒したところを狙われるって事件もあったり?」

「皆無ではないけど、たいていは返り討ちに遭っておしまいだ。モブハントができるような人がそんな小悪党には負けないさ」

 

 それもそうだとプロンプトは納得した顔でうなずく。

 ゴブリンや野獣程度ならまだしも、ハンターの仕事にはカトブレパスの退治すら含まれているのだ。あんな巨大生物を倒せるような人間に喧嘩を売るとか、マシンガンがあっても御免被りたい。

 

「少し話がそれたな。で、こいつはハンター個人を識別するものになる。そして――何かが起こったときの身分証明にもなる」

「何かって……」

「残念ながら、依頼は常に成功するわけではないということだ」

 

 そこまで言われてノクティスたちも理解する。

 デイヴの手に光っているドッグタグはつまり、彼の同業者が何らかの要素で命を落とし、骨すらも見つからなくなった場合の最後の認識手段なのだ。

 

「ハンターである以上、この結末は誰もが予想し受け入れなければならない。……だが、それでも慰めの一つはあるべきだろう。このドッグタグも、遺族に渡すものだ」

「そっか……その人たちにも、家族がいるんだよね」

 

 プロンプトがしんみりした顔でドッグタグの持ち主の家族に思いを馳せる。

 ハンターという仕事を選んだ相手を家族にした以上、不意の死という結末は予想しているのだろう。

 だが、予想していれば悲しみが減るというわけではない。

 

「ここにもいくつかドッグタグがあることが確認されている。良ければ君たちもいくつか手伝ってくれないかい? もちろん、報酬は出そう」

「ノクト」

「これで受けねえとかオレたちが悪人みてえだろ。オッサン、任せとけよ」

「ハハ、少し意地悪だったか。ではこの場所のものを頼む」

 

 地図に印をつけてもらい、ノクティスたちはレガリアに戻っていく。

 座席に座ったところでグラディオラスがノクティスの意向を確認するよう声をかける。

 

「本当にやるのか?」

「あん? 別にいーだろ」

「普通ならオレも賛成したけどな。あんま良い言い方じゃねえが、ニフルハイムとの戦いやお前の王の力とは何の関係もねえぞ」

「それだけあれば勝てるってもんでもねーだろ。急いでるわけでもねえしな」

 

 それに遺品だけでも欲しいという気持ちがノクティスにはわかってしまう。

 レギスの死に目を見ることも、遺品を見ることも叶わなかった彼にとって遺品だけでも、と願う言葉は無視のできないものだった。

 

「グラディオの言い分も尤もだが、これをやることによる不利益があるわけではない。ルシスで困っている人々を助けるのも王の使命だ」

「ま、オレも言ってみただけだ。それに人助けを率先してやるとは、ノクトも良いとこあるじゃねえか」

「うっせ。オレには良いところしかねえよ」

「ハハハハハッ!!」

「オイなんだよその笑い方!?」

 

 国は失い、親も失い、旅は苦難が待ち構えている。

 それでも優しさを失わないのは紛うことなき美徳だ。

 グラディオラスはかつてノクティスに見出した王の片鱗を、今もなお持ち続けていることが確信できて気分良く笑うのであった。

 ……その笑いがノクティスを笑っていると思ったのか、当の本人が機嫌を損ねてしまったのはご愛嬌である。

 

 

 

 だだっ広い荒野の一角。あらかじめそこにあると教えてもらわなければまず素通りするであろう場所に、それはあった。

 太陽の光を反射し、歪に曲がった銀板が鈍い光を放つ。

 目ざとく見つけたプロンプトが拾い上げると、そこに付着した血を見て痛ましい顔になる。

 

「あった。……ひどいな、血で汚れてる」

「歪んじまってるな。これがハンターの最期の身分証明か……」

 

 モンスターと戦う以上、この結末は誰にだって平等に訪れる。

 今回はたまたま自分たちでなかっただけで、いつか自分たちがこうなる可能性もあるのだ。

 もっと強くならなければ、とノクティスが心構えを新たにしたところでイグニスとグラディオラスが無言で武器を抜く。

 

「ノクト、プロンプト。構えろ」

「え? どうしたのさ、イグニス」

「ドッグタグはハンターが最期を迎えた場所に残るはずだ。となれば……」

「その最期を与えた相手が近くにいる、ってことだ!」

 

 慌てて周囲を見回すと、すでにノクティスたちの周りを野獣が取り囲んでいた。

 

「いつの間に!?」

「さすがは野生の獣ってことか。多分、オレらにはわからない隠れ方だ」

「言っている場合か、来るぞ!!」

 

 イグニスの言葉と同時に近くにいたトウテツが地を蹴り、飛びかかってくる。

 獣の本能だろう。最も弱いもの――プロンプトめがけて一直線に飛んだそれは、彼の身体を押し倒して喉笛に牙を突き立てようとする。

 

「うわぁっ!?」

「プロンプト!!」

 

 ノクティスが咄嗟にトウテツの横っ腹を蹴飛ばし、倒れているプロンプトに手を伸ばす。

 

「ったく、ビビらせんなよ」

「ごめん。でも、ここから反撃だ!!」

 

 それなりにモブハントをして外のモンスターにも慣れた一行。

 そして相手は奇襲さえ対処できれば今更脅威にはなりえないもの。

 ――殲滅には一分もかからなかった。

 

 

 

「戻ってきたか。君たちなら無事にこなせると思っていたよ」

「ってことは知ってたのか」

「少し考えればわかることだからね。二次被害を起こさないためにも、ドッグタグ回収はハンターでも腕の立つ者が行う仕事だ」

「オレたちはハンターとして優秀ってことか?」

 

 グラディオラスが聞いてみると、デイヴはもちろんだと言うようにうなずいた。

 

「モブハント中心とはいえ、君たちの強さは聞いているよ。……そして彼の使う尋常でない力のことも」

「……おい、あんた」

「おっと、誤解はしないでほしい。オレたちはオレたちを助ける者の味方だ。君たちの素性がどんなものであれ、ハンターの仕事を手伝ってくれる以上頼もしい味方として扱わせてもらうよ」

 

 隠しているわけでもないが、ノクティスの力は見るものが見ればすぐに王族のそれとわかってしまう。

 グラディオラスが剣呑な声を出すと、デイヴは落ち着いた所作で彼に冷静になるように告げて懐から報酬を取り出す。

 

「前回も君たちに助けられて、今回も君たちに助けられた。君たちが困っている時はオレたちが助けよう」

「……悪い、ちっと神経質になっちまった」

「いや、言い方が悪かったのはこちらの方だ。君たちの旅の成功を祈っているよ」

 

 誰が味方かもわからない状況だ。疑うのは至極当然のことだが、そればかりではいつまで経っても味方が増えない。

 頼れると判断した相手には素直に謝罪することも重要である。グラディオラスは自身が少々過敏になっていたことを認めて頭を下げる。

 デイヴはそんな若者の謝罪に対し、自らもまた謝罪をして報酬を渡す。

 

「オレはこの辺りで活動しているから、また何かあったら手伝ってほしい。逆に君たちが困っていても声をかけてくれ。可能な限り力になろう」

「ああ、サンキュな」

 

 受け取ったドッグタグと自身が集めたドッグタグを片手に、デイヴはノクティスたちから離れていく。

 それを見送った四人は今回の仕事について思いを馳せる。

 

「外の世界というのは、やはりこういった話も日常茶飯事なのだろうな」

「モンスターも多いし、夜にはシガイも出るんだしね」

「やっぱ王都はすごかったんだな」

 

 そしてその王都の恩恵に与ることができたのはほんの一部のルシスの民だけだった。

 当たり前の事実を見せつけられ、ノクティスは何か思うところがあるような顔で荒野を見る。

 

「どした、ノクト?」

「……いや、なんでも。そろそろ出発しようぜ」

「おう。にしても人の情けってのは大切だな。ハンターが味方になるのは頼もしい話だ」

「ま、これもオレの人徳ってことだな」

「ハハハハハッ!」

「笑うなっての!」

 

 グラディオラスが笑うと、ノクティスはどこか機嫌良さそうに彼を肘で突くのであった。

 

 

 

 

 

「チョコボに乗れない!?」

「ああ、悪いなあ」

 

 チョコボポスト・ウイズ。

 ルシス国内でも最大規模の大きさを誇るチョコボ牧場にプロンプトの悲しみの声が響く。

 牧場主であるウイズは申し訳無さそうな顔で事情を説明する。

 

「この辺りに凶暴なベヒーモス――通称スモークアイが出没するようになってな。いつチョコボたちに被害が出るかもわからない状態だ」

 

 ベヒーモス。野生の王者とも呼ばれる野獣の中でも最上位に位置する種族だ。

 トラックよりも大きい巨体と、その肉体で暴れ回れる筋肉。そして極めつけに頭には鋭利な角まで生えていて、気性は荒いという三拍子揃った凶悪なモンスターである。

 

「ハンターの人は?」

「もちろん頼んでいる。だがベヒーモスを倒せるような熟練ハンターとなると、数が少なくてどうにもね……」

「ふーん、だったらオレらが倒してきてやろうか?」

 

 いつ来るかわからないハンターを待つくらいなら、自分たちで倒す可能性を考えた方がマシだ。

 そんな何気ないノクティスの提案だったが、後ろのプロンプトが何を言ってるんだこいつは、という目で見ていたことは知らない。

 

「ああ、君たちが最近評判のハンターか。見合った報酬は支払うから、ぜひお願いするよ」

「わかった。任せとけ」

 

 ノクティスの協力に顔をほころばせたウイズにスモークアイの居場所を聞き、早速向かおうとするとプロンプトが制止の声をあげた。

 

「ちょっと待った! なに? 話の流れ的になんか行く雰囲気っぽいけど――まじでいくの?」

「当然だろ」

「ベヒーモスってヤバイんじゃないの!?」

「倒さなきゃチョコボ乗れねえだろ。ヤバけりゃ逃げりゃ良いんだよ」

 

 王の力を集める以外にも、個々人の持つ力を高めておいて損はない。

 その点で見ればベヒーモスほどの強さなら腕試しには最適だろう。

 

「特徴もウイズ殿から聞いておいた。この先にある薄霧の森に生息するはぐれベヒーモスで、隻眼が目印らしい。はぐれと言う以上、通常個体よりは弱いのだろう」

「じゃあオレたちでもなんとかなる?」

「そもそもモブハントで受けられるランクが決まってるだろ。受けられるってことは倒せる見込みがあるってことだ」

 

 依頼の中には今の自分達では逆立ちしても不可能に見えるものもあるのだ。それに比べれば有情だろう。

 

「チョコボ乗りたいって言ったのはプロンプトだろ。ここで気合い入れないでどうすんだ」

「気合い入れるような場面じゃないと思うけど……まあ、そうだね。言い出しっぺがビビってちゃダメか」

 

 自分の頬を叩き、チョコボのためにと奮起したプロンプトが歩き始めるのを見て、一行は薄霧の森へ歩みを進めるのであった。

 

 

 

「ごめん、帰っても良い?」

 

 そして真っ先にヘタれるのもプロンプトだった。

 薄霧の森を進み、草食の野獣を貪るスモークアイを発見した時の言葉に、ノクティスたちは呆れた顔を隠せない。

 

「お前な」

「いやだってあれ人間が勝てる生物じゃないでしょ!? デカイにも限度があるって!」

「カトブレパスに比べれば小せえだろ」

「ツノ! あの立派なツノで突かれたら死ぬよ!?」

 

 鋭い牙の並んだ口を動かし、獲物の肉を夢中で貪るスモークアイを観察すると話に聞いていた野生の王者という言葉の意味が実感できる。

 あんなのが王都に出たら一大事件である。つくづく王都は守られていたのだと実感しながら、ノクティスとグラディオラスはイグニスに作戦を求める視線を送った。

 

「……食事を終えた動物は巣に戻るはずだ。そして狩りの疲れを癒そうと休息を取るはず」

「じゃあそこまで追いかけて休み始めたところを狙う寸法か」

「上手く行けばな。難しいようなら最悪でも霧の晴れた場所で仕掛ける」

 

 スモークアイという名前は単に彼が隻眼のベヒーモスであるというだけでなく、この四六時中霧のかかった森をテリトリーとしていることも由来である。

 隻眼であることから優位に立ち回れるかもしれないが、それは彼の住処であるこの森で相殺される。

 そしてこちらは霧の影響を受けて視界が悪い悪条件を受けている。

 相手は有利で、こちらが不利。おまけに生物としての強度は比べ物にならない。

 そんな条件で戦ってもスモークアイのおやつになるだけだろう。

 

「ノクト、先頭を頼めるか。いざとなったらシフトで離脱できるお前が最適だ」

「わかった。んじゃちょいと行ってくる」

「あんまり近づきすぎるなよ。獣の一歩は人間とはまるで違えからな」

 

 グラディオラスの警告を肝に銘じつつ、ノクティスは三人から離れて行動を開始する。

 食事を終えたスモークアイが唸り声を上げながらゆったりと巣に戻るのを、霧で見えなくなる手前で追いかけ続ける。

 

(こうして見ると大迫力なんてもんじゃねえな)

 

 プロンプトが怖がるのも無理はない巨体と、人間など丸呑みできそうな牙の並んだ口。

 あれに放り込まれたら上半身と下半身が一瞬で泣き別れすることになるだろう。

 

 ノクティスの冷静な思考の部分が引き返すべきだと提言してくる。これは確かに彼の言うとおり、ヤバい相手だ。

 だが、とノクティスは腹にグッと力を入れて堪える。

 

 自分たちには力がある。少なくともチョコボ牧場の主より。

 そして彼は自分たちに助けを求めてきた。困っている人がいるのなら力になってやりたいと思うのは当然のことではないか。

 

 普段は口に出さない、しかし仲間は誰もが知っているノクティスの優しさが彼をこの場に押し留める。

 ここは踏ん張りどころである。自分がしゃんとしなければあのウイズと名乗った壮年の牧場主は誰に頼れば良いのだ。

 

(――うしっ!)

 

 自身の頬を叩き、気合を入れ直して再びノクティスは霧の中でスモークアイとのかくれんぼを再開するのであった。

 ――無性に兄の声が聞きたいという衝動は、最後まで消えなかった。

 

 

 

「ここが巣か」

「だと思う」

 

 スモークアイの巣と思しき場所に到着したノクティスは後ろからついてきていた三人を呼び、高台からスモークアイを見下ろしながら再び作戦会議を始める。

 

「こんなところに廃屋があったとはな。雨風を避けるためか?」

「あるいは巨体を活かせる広い場所を求めたか、だな」

「で、どうする?」

「まあ待て。まだ全容を把握していな――あれは何だ?」

 

 グラディオラスの声にイグニスが答えていると、不意に彼が疑問の声を上げる。

 なんだなんだと全員がイグニスの見ているものに視線を合わせる。

 

「赤いドラム缶?」

「爆発物でも入ってんのか」

「……ノクト、一番近くのもので構わない。中身があるか確かめてもらえるか?」

「はいよ」

 

 イグニスの要請通り、ノクティスはシフトで近くのドラム缶に接近すると中身を確かめるべく軽く叩いてみる。

 返ってくる音は重く、反響音のないもの。見たところしっかり封もされており、野ざらしになっていた間に入った雨水というわけでもなさそうだ。

 

「中身はちゃんとある。密閉もされてた」

「となると相応の危険物が入っていたと考えるべきだろう。……熱を加えてやれば一気に爆発するかもしれない」

 

 イグニスの言葉が何を意味しているのか察したノクティスとグラディオラスはにやりと悪そうな笑みを浮かべる。

 

「誰がやる?」

「――プロンプト、頼んでも良いか?」

「オレ!?」

「ああ。三人でこの場所まで誘導したところをファイアの魔法で起爆する。それができるのは拳銃を使うお前が適任だ」

 

 イグニスより手渡されたファイアの魔法が込められたマジックボトルを見て、プロンプトは難しそうな顔で悩んでいたが――一番危ない役目は彼らが担っているのだと奮起する。

 

「……わかった! メチャクチャ怖いけど、誰かがやらなきゃいけないことだよね!」

「よし、任せるぞ」

「気楽にやれよ。失敗したらオレが倒してやる」

「ミスったら今日の晩メシはプロンプトの奢りな」

「気楽にやるのかプレッシャー感じてやるのかどっち!?」

 

 グラディオラスとノクティスの励ましに微妙な顔になり、それでも嬉しそうに笑ってプロンプトは前を向いた。

 

「じゃあ――行って! 投げる時は指示出すから!」

「了解!!」

 

 プロンプトの声を背中に受けながら、三人は高台を降りてスモークアイの前に身体を晒しに行く。

 休息を取っていたスモークアイだが、侵入者の臭いを感じ取ったのだろう。彼らが近づくとその隻眼を開き、王の威厳を示すかのようにゆっくりとその巨体を起こす。

 

「やっべ、間近で見ると大迫力だわ」

「敵意が自分たちに向いてなければ楽しめたがな」

「お前ら、ヤバくなったらオレの後ろに隠れろ。一撃なら食い止める」

 

 圧倒的生物を前に怯えそうになってしまう心を仲間の軽口で叱咤する。

 すくんでしまわぬようゆっくりと円を描くように動きながら、三人はスモークアイの動向を注視する。

 

「動く時は同じ方向に動け。バラバラになると誘導が難しい」

「了解。んで一番近いのは……あれだな」

 

 ノクティスが確認したドラム缶に三人の視線が一瞬だけ向かう――スモークアイへの注意がそれる。

 野生の本能でそれを見抜いたのだろう。スモークアイは大きな唸り声の後、そのトラックよりも大きいとされる巨体を疾駆させてノクティスたちに襲いかかる。

 

「避けろ!!」

 

 イグニスの注意が飛ぶ前にすでに身体は動いている。

 だが咄嗟のことで逃げる方向までは選ぶことができず、イグニスとグラディオラスの二人組とノクティスに分断されてしまう。

 

「ノクト!」

「大丈夫だ! けどどうする!」

「少々強引だが――オレたちで押し込む!!」

 

 そもそもの話として。爪で一薙ぎされただけでも上半身が消し飛びそうな巨獣を相手にするのだ。

 イグニスも自分の計算が最初から上手く行くとは思っていなかった。

 思っていない以上、想定外の事態が起きた場合の次善の策も考えておくべきであり――それは仲間の力を大前提にしたものだった。

 

「グラディオとノクトで無理やりこいつを誘導する。攻撃の処理はオレに任せろ!」

「信じるぞ!!」

 

 手早く策を説明すると、イグニスはスモークアイの眼前に飛び出す。

 獣が狙うのは弱っている獲物と視界にいる獲物。当然、横で何やらチョロチョロしている小動物など気にも留めない。

 同じ小動物なら――近い方から狙うのが鉄則である。

 

 身の毛のよだつ咆哮とともにコンクリートを軽々と抉る爪がイグニスに向かって繰り出される。

 

「――っ!!」

 

 イグニスはそれを一つ一つ丁寧に避けていく。時に大きく跳び、時に爪の下をかいくぐるように地を滑り、時に手に持つ短剣で爪を受け流す。

 決して爪の範囲からは出ない。出たらスモークアイはその巨体を活かして噛み付いてくるだろう。

 さすがにトラック並みの巨体を一瞬で回避はできない。身を投げ出す勢いでジャンプすれば一度はできるだろうが、その後が続かない。

 

 しかしこれはスモークアイにとって本気の攻撃ではない。小動物を相手に爪だけで戦っているのだ。彼にとってこれはじゃれ合いの延長線上に過ぎない。

 そのじゃれ合いでもかすったら死が見えるため、イグニスは背中を流れる汗が止まらなかった。

 が、足と腕は動かし続ける。これは決して不毛なその場しのぎではないのだから。

 

「グラディオ!」

「はいよ!!」

 

 ノクティスの声に応え、グラディオラスが大剣を両手に持ち、大きく跳躍する。

 ひねりと回転、それに重力。諸々の要素を混ぜ合わせた空中からの一撃。

 ドーンブレイカーと本人が呼んでいる一撃がスモークアイの脇腹部分に直撃し、その巨体をひるませる。

 そして動きの止まったスモークアイの側頭部を狙って、ノクティスが修羅王の刃を大きく振りかぶり、全力のシフトブレイクを行う。

 

「ォラァッ!!」

 

 修羅王の刃越しに伝わる感触はひたすらに重い肉の感触。

 本当に鉄の塊でも殴ったのではないかと錯覚してしまうほど重たいが――手応えはあった。

 わずか、本当に僅かながらスモークアイの巨体の半身が浮かぶ。追撃を一手加えれば間違いなく転ばせて、目的の場所まで叩き込むことができる。

 グラディオラスとノクティスはすでに攻撃しているため、これ以上の追撃は不可能。遠くで俯瞰しているプロンプトはマジックボトルを投げそうになる手を必死に押さえて我慢している。

 

 ならばトドメの一手は――作戦を立てた者が担うのが必定。

 

「虎の子だ――」

 

 イグニスの手に持っているブリザドの魔法が体勢を崩しているスモークアイに直撃し、冷気をまとった業風がその巨体のバランスを完全に崩す。

 横から地面に倒れ、地震と錯覚するほどの地響きが起こる。

 しかしここまでやってようやく転倒。しかもスモークアイが体力を使い果たして、というものではない人為的なもの。

 当然ながらすぐに起き上がろうとする。矮小な動物が自分を転がしたのだ。多大な怒りを持ってスモークアイは獲物たちを絶対に逃がさないだろう。

 

「今だっ!!」

「任せて!!」

 

 そうして起き上がり、爛々と輝く赤い瞳に――揺らめく炎を閉じ込めた球体が映ったのが、スモークアイの最後に見た光景だった。

 

 

 

「いやあありがとう! 君たちに頼んで正解だったよ!」

「そりゃどーも」

「お礼といってはあれだが、君たちにチョコボを貸し出そう! 必要になったらいつでもこの笛を吹いてくれ!」

「わ、やった!! ありがとう、ウイズさん!」

 

 チョコボを呼び出すホイッスルを受け取り、今にも飛び跳ねるように喜びを表すプロンプト。

 

「これで旅も少しは楽できるんじゃない? ほら、レガリアじゃ行けない場所だってあるんだし」

「ま、歩いて行くよりは早いか」

「そうそう! それにまた前みたいにレガリアが故障する可能性だってあるんだしさ、オレに感謝する時が来るかもよ?」

「その時になったら感謝してやるよ」

 

 この時はまだ笑い話だったが――そんなに遠くない未来でこの言葉が現実になるとは誰も思っていなかったノクティス一行であった。




デイヴのドッグタグクエストとウイズのチョコボクエスト。今回は割りとシリアスめに話が進むサブクエストを選んであります。なおクエストの選定は割りと適当かつ次のサブクエストはさくっと終わるものもあるかもしれないのであしからず。

次回もサブクエスト回。多分今度はゆるいお話のやつになると思います。釣りとか鉱石とかカエルとか。

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