ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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レスタルムでのサブクエ二つになります。そして更新間隔が空いて申し訳ありません。


サブクエスト レスタルム

 レスタルムを拠点に王の力集めを始めたノクティス一行。

 しかしそればかりをしているというわけではない。むしろ洞窟やダンジョンの探索はひどく心身を消耗する過酷な道程だ。

 王の力を試す意味合いも含まれた洞窟を一日にいくつも挑み、失敗して屍を晒すなど笑い話にもならない。

 

 臆病にならず、さりとて勇み足にもならず。適切な休息と挑戦を以て初めて彼らの旅は成功に導かれるのだ。

 そして今日は休日。ノクティスはゆっくり朝寝坊をして気持ちよくホテルを出る。

 

「ふぁ……」

 

 仲間は誰もいない。皆それぞれの時間を満喫しに行っているのだろう。

 今日はどうすっかな、とノクティスは頭のなかで今日の予定を考える。

 

 一日ホテルで寝て過ごすのはさすがに味気ない。イグニスに小言を山のように言われる未来が目に見えている。

 人懐っこいプロンプトはナンパなども得意だと本人談で語っていたが、婚約者を待つ身でそれは人として問題だ。

 

「イグニス誘って釣りでも行くか、グラディオ誘ってバトルでもやるか……」

 

 思いっきり身体を動かすのは嫌いではない。王の力集めもそうだが、肉体面の鍛錬や武術の練達も重要なことだ。

 魔法の力がいかに優れていても、扱うのは人間なのだ。人間の地力が低ければ魔法の恩恵も少なくなってしまう。

 ここいらでバシッとトレーニングして、兄アクトゥスと合流できた時に驚かせるのも悪くない。これでも王都を旅立つ前とは格段の進歩を遂げているのだ。

 

「よっし、そうと決まれば――」

「ノークト!」

 

 一日の予定が決まったところで後ろから明るい声がノクティスの背中を叩く。

 なんだと思って振り返ると、グラディオラスの妹のイリスが太陽のような笑顔を浮かべてノクティスの隣に来ていた。

 

「朝寝坊。イグニスに怒られるよ?」

「今日は休みなんだから良いだろ」

「王子なんだから休みの日もしっかりしろ、って言われそう」

 

 その通りの注意を受けた覚えが何度もあるので黙っておく。

 しかしイリスはノクティスの無言を肯定と受け取ったようで、笑みを深めながらノクティスの手を引く。

 

「ね、やることないんなら散歩に付き合ってよ。レスタルムの街をじっくり見たことってないでしょ?」

「あー……」

 

 トレーニングをやろうと思っていたのだが、考えてみればグラディオラスがどこにいるかわからない。

 それに散歩と言っても一日やるようなものでもないだろう。

 イリスは自分にとっても妹のような存在なのだ。王都が陥落し、家族を喪い、彼女も辛い思いをしたはず。

 少しぐらい彼女の希望に応えてもバチは当たらないはずだ。

 

「いいぜ。あの発電所とか結構気になってたし」

「お、ノクト、お目が高い! じゃあそっち目指しながら色々と見ていく方向で良いかな?」

「任せる」

 

 楽しそうに隣を歩くイリスを連れて、ノクティスはレスタルムの散歩を始めていく。

 

「この街では肉体労働はほとんど女の人がやるんだって! すごいよね!」

「イグニスも言ってたな。なんか理由とかあるのか?」

「この街を興した人が女性だったみたい。それにあやかってるんだと思う」

「へえ、イリスは気に入ったのか?」

「こういう熱気のある場所、私は大好き!」

「ま、オレも嫌いじゃねえな」

 

 辛気臭いくらいに静かな場所よりはマシである。

 

「ホテルのある場所はちょっと市場とは離れてるけど、夜になるとキレイなんだよ!」

「それは見たな。こんだけ家が密集してるからか、確かにすげーきれいだった」

 

 仕事の癒やしを求めてさまよう女性なども多く、彼女らを対象とした店も活気づいていた。

 要するにここは昼でも夜でも活気のある街なのだ。

 

 イリスに先導されて向かった先は市場だ。

 イグニスが食材の調達にも使う場所で、初めて訪れた時はノクティスもテンションが上がったのを覚えている。

 

「ここ、パーテラ市場って言うんだって。なんでもあるんだよ!」

「お前の好きそうな店もあるしな」

 

 どこで生産されているのか聞きたくなるような調味料から、女の子の好きそうな小物。目の飛び出そうな値段のアクセサリ。

 確かにここで見つからなければルシスのどこにもないのではないかと思わせる品揃えだ。

 

「お、わかっちゃう?」

「そんぐらいはな。オレも初めてきた時はすげえって思ったし」

「あれ、もう来たことあるの?」

「イグニスに物資の調達を頼まれてな。あとモブハント」

 

 食事をするためには食材が必要で、バトルをするには武器が必要。バトルの補助にアクセサリは欠かせない上、怪我した時のためのポーションも必要と来た。

 そしてギルは有限。どんな事態で突発的な出費が生まれないとも限らない、というイグニスの方針に従って一行は常にギルにはある程度の余裕を作っている。

 

 そのギルに余裕をもたせ、なおかつノクティスたちの力を高める手っ取り早い方法として、モブハントは結構な頻度で行われているのだ。

 

「モブハントかあ……今度私も連れてってよ!」

「やめとけ、プロンプトとかいつも半泣きだぞ」

「大丈夫だって! 私だって兄さんほどじゃないけど訓練受けてるんだし!」

「気が向いたらな」

 

 グラディオラスと同じく、彼女も王の盾に連なるもの。

 小さな頃からノクティスやグラディオラスのように戦闘訓練は受けているらしい。

 とはいえ親友の妹を危険な戦場に連れ出すわけにも行かない。グラディオラスは必要なら理解を示しそうだが、ノクティスは心情的に嫌だった。

 

「じゃあちょっと見てこうか! 今日はノクトもいるし、おごってもらおうかな?」

「アホ、自分で買え」

「あはは、わかってるって!」

 

 すでに目星はつけていたのだろう。イリスはとある布屋へ一直線に向かっていく。

 元気があって微笑ましい、とノクティスはさほど歳も変わっていないイリスに対して父親のような感想を抱く。

 イリスは自分にとって兄のような気持ちが味わえる存在なのだ。あんな妹がいたらきっと可愛がっていただろう。

 

「おまたせ! じゃあ次はレスタルムの要! 工場を見に行こうか!」

「隕石で発電してるってやつか。まだ実際には見てなかったな」

「一度は見ないと損だよ! じゃあ行こ!」

「あ、おい、手ぇ引っ張んなよ!」

 

 はしゃぐイリスに引っ張られて二人はレスタルムの命とも言える工場に足を向ける。

 ルシスでも屈指のシェアを誇る企業――イチネリス鉱業が所持している最大の工場であり、燃え続ける隕石から火力を集めて作られる電気はルシスの至る箇所に点在するモーテルにも明かりを供給している、まさしく命の灯火である。

 

 光の一切ない空間ではシガイが出る危険がつきまとうこの世界において、常時生み出せる光の価値というのは非常に高い。

 もしも世界から光が消え失せたとしても、この場所に来れば明かりが確保できるのだ。きっと世界中からこの場所に人が集まることだろう。閑話休題。

 

「ここでも女の人ばっかりなのか?」

「そうだね。ホリーさんって人とよく話すよ」

「へぇ、やっぱり発電所の中とかあちーんだろうな」

 

 女の人ばかり働いているとも言うし自分には縁のない場所だろう、とノクティスは他人事のように思う。

 ……よもや近い未来において実際に足を踏み入れるハメになるとは思いもしなかった。

 

「こっから見ててもわかるくらい入り組んでんな。パイプやら何やら、ごちゃごちゃしてる」

「でもノクト、こういうの嫌いじゃないでしょ? 兄貴もこれ見たらテンション上がってたし」

「デカイ生き物と複雑な機械にはロマンがあるからな」

 

 なんか意味もなく憧れてしまうのだ。というかノクティス一行でテンションの上がらない者はいない。

 

「じゃあ最後は展望公園に行こうか! メテオがよく見える絶好のデートスポットなんだって!」

「……へえ」

 

 興味ないように返事をするものの、ノクティスの関心がそちらに向いているのは明らかだった。

 おそらくルナフレーナと合流できた時のことを考えているのだろう。

 幼いころ、迷子になっていた自分を己を顧みず助けてくれたノクティスを憎からず思うイリスは、彼の心が別のところに向いていることに一瞬だけ切なげな顔を見せる。

 

 しかしそれも一瞬で、次の瞬間には再び元気よくノクティスを引っ張っていくのであった。

 

「ほら行こっ!」

「だから引っ張んなよ!?」

 

 展望公園に到着した二人は、眼下に広がる雄大な風景に目を奪われる。

 レスタルムはクレイン地方でも高い場所に位置している。そのため展望公園からはルシスが一望できると思えるほど、大きな景色が見えるのだ。

 

「やっぱりすごいね! よくお散歩する時はここが一番のお気に入り!」

「気持ちはわかるな。ここは気分いいわ」

 

 眼下に広がる風景の一部でも、自分たちが旅をしていたのだと思うとなんだか胸が熱くなる。

 あの下には多くの自然があって、多くのモンスターが生きていて、多くの営みが存在しているのだ。

 

「……気合、入れてかねえと」

 

 ルシスの国民にとってもニフルハイムは目につく脅威だ。

 すでに基地がいくつも建造され、物言わぬ魔導兵に怯える人々もいる。

 それでも人々はたくましく生きているが――やはり、脅威は少ないに越したことはない。

 

「ノクト?」

「――いや、なんでもねえ。ぼちぼち戻るか。イグニスたちも待ってる」

「そうだね。あ、あと私が買ったものってノクトのためなんだよ?」

 

 イリスは得意気に先程の市場で買ったものが入っている紙袋を掲げる。

 

「オレの?」

「そ。できるまでのお楽しみ!」

「なんか作んのか。サンキュな」

「旅の安全を祈って、ね。お兄さんたちとも合流できること、祈ってるから」

「兄貴なら大丈夫だろ。なんだかんだ要領いいし」

 

 ルナフレーナもいるため彼は戦闘を避けつつ動いているらしい。

 コルに囮をしてもらいつつ、可能な限り移動も最小限にしてこまめな休息を入れながらレスタルムに向かっている。

 そのためレスタルムに来るのが多少遅れているが、彼なりに考えて安全策を取っているのだ。ノクティスはその言葉を信じて自分の旅を進める以外にない。

 

「アクトゥス様と合流できたらどうするの?」

「とりあえず王の力集めだな。終わったらその時考える」

 

 その時には状況も動いているだろうし、それから考えれば良い。

 なんだったら王都奪還に動いてもよいのだ。王の力を全て集めれば、ノクティスにはそれが不可能と言えないだけの力を得られる。

 

 未だ王として見るには頼りなく――それでも彼が自分なりに王として在ろうとしている姿をイリスは眩しそうに見て、精一杯の言葉を投げかけるのであった。

 

「――頑張ってね、王様! 応援してる!」

「――任せろっての」

 

 

 

 

 

「やあ、君! ちょっといいかな? あ、待って無視しないでそこだよそこのチョコボみたいな髪の色した君!」

「プロンプト、呼ばれてるぞ」

「チョコボみたいな髪の色ってオレだったの!?」

 

 レスタルムを歩いていた時のこと。

 いきなり声をかけられたので、なんだと思って振り返るとそこには太った男性が暑そうに顔の汗を拭いながら、人懐っこそうな笑顔を浮かべていた。

 

「オレがどうかしました?」

「さっきの記念撮影を見ていたんだけど、良い腕してるね!」

「あ、わかります? こういうの結構好きで、色々と凝ってるんですよ」

 

 同好の士であることがわかったため、すぐに二人は意気投合して会話し始める。

 カメラについて全く詳しくない三人には輪に入れない話は数分ほど続き、やがて男性が本題を切り出す。

 

「実は僕、ちょっとした雑誌を出版してるんだ。今度、それにカーテスの大皿についての特集を組むんだけどね、その写真を撮る人を探していたんだよ! そこで目をつけたのが君だ!」

「へ?」

「君にはセンスがある! どうだい? ちゃんと仕事に見合った報酬も出すからこの写真撮影、引き受けてくれないかい?」

 

 咄嗟にプロンプトは後ろのノクティスたちを見る。

 個人的な意見を言えばもちろん受けたい。しかし今は大事な旅の途中。

 さすがに王の力も人助けもあまり関係しない頼み事を引き受けて良いのか――

 

「別に良いだろ。お前の写真が有名になるチャンスだぜ?」

「え、良いの?」

「写真撮ってくるだけでどうこう言わねえよ」

 

 それぐらいで失敗するような旅なら、最初から見込みなどなかったのだ。

 親友のやりたいことの一つや二つ、叶えてもバチは当たらない。

 

「そこのプロンプトがバッチリ撮ってきてやるから、待ってろよ」

「君はノリが良いね! じゃあカーテスの大皿のベストショットをお願いするよ! 撮ってきたら僕のところに持ってきて!」

「わかった! 期待して待ってて!」

 

 そして一行はカーテスの大皿の周辺をレガリアでぐるぐると回っていた。

 

「こうして見ると結構角度で違って見えるな」

「だな。チラッと見ることはあっても、こうしてまじまじ見ることはなかったぜ」

 

 幻想的な青白い炎を常に立ち上らせており、未だ熱の尽きることのない隕石が二千年前から今も変わらず残っていると思うと、なんだか壮大な気持ちになってくる。

 おまけにその隕石を食い止める巨神が今なお現存しているのだ。

 帝国軍が基地を作る前は、さぞかし巨神信仰が盛んだったのだろう。なにせ本尊に実物がいるのだから。

 

「で、どうするプロンプト? 今回はカメラマンのお前に従うぞ」

「んー……」

 

 プロンプトは難しい顔で地図と現地をにらめっこして、彼の琴線に触れる位置を探っていく。

 

「やっぱこの位置かな。でも正直ここも捨てがたい」

「二枚撮って選んでもらえば良いんじゃね?」

「ノクト良いこと言った! オレたちの記念撮影も兼ねてさ、二箇所回ろうよ!」

「んじゃ、決まりだな。のんびりカーテスの大皿を見ながら行くか」

 

 そして指定したポイントに向かうと、プロンプトはいそいそと三脚を用意して大真面目な顔で遠くで燃え続ける炎を見据えた。

 

「真剣だな」

「お前の釣りみたいなもんだろ」

「やべーわ、そりゃ邪魔できねえわ」

「好きこそものの上手なれ、だな」

「ちょっとそこ、静かに!」

 

 イグニスたちと話していたノクティスに注意を飛ばし、やがてちょうどよい位置が見つかったのだろう。銃の引き金を引くような面持ちでシャッターを切る。

 

「…………」

「……で、どうなんだ? カメラマン」

「……バッチリ! 会心の出来だよ! 会心ついでに記念撮影もしちゃおう!」

 

 本当に良い出来の写真が撮れたのだろう。いつも以上に明るいプロンプトがカメラを三脚から取り外しながら、三人を招く。

 

「オレはいいよ」

「本当に? ルナフレーナ様に見せるんだけどなあ。ノクトが写真嫌いだからって残念だなあ」

「てっめ……! 格好良く撮れよ!」

「大丈夫大丈夫! バッチリイケメンに取るからさ!」

「オレはいつでもイケメンだっての!」

「ノクトさ、ルナフレーナ様と釣りが関わると面倒くさくなるよね」

 

 売り言葉に買い言葉の煽りを受けたのだが、煽った本人であるプロンプトはなんだか呆れた目になっていた。

 ともあれ四人での記念撮影を行った一行はもう一箇所でも同じようにカーテスの大皿を撮り、レスタルムに戻るのであった。

 

「待ってたよ! ささ、僕に自信作を見せておくれ!」

「はい! これとこれです!」

 

 プロンプトがカメラを操作し、中に入っているフィルムを渡す。

 それを男性は手慣れた手つきで自身のカメラに移し、中身を見ていく。

 

「……うんうん! 素晴らしい写真だ! 雑誌に載ることも考慮して光の反射も考えたね?」

「やっぱプロにはわかっちゃいます?」

「写真にかける情熱にプロもアマチュアもないよ。僕が保証する。これは雑誌に載せる価値のある写真だ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 褒められて嬉しそうなプロンプトの様子を、ノクティスたちは遠巻きに眺める。

 

「絶賛だな、プロンプトの写真」

「実際、よく撮れてるしな。オレらもキャンプの時とか見せてもらってるだろ」

 

 グラディオラスの言葉に応じてノクティスもプロンプトの撮った写真を思い出す。

 たまにいつ撮ったのかわからないものが混ざっていたり、バトル中の写真もあるので普段の戦闘をきちんとしているのか疑問なものもいくつかあるが、概ねキレイに撮れているものばかりだった。

 

「……何事もなく旅が終わってたらさ、あいつはカメラマンにでもなってたのかね」

「それも一つの道だな。……別にルシスを取り戻してからでも遅くはないさ。プロンプトも変に気を遣われたら困るだろう」

「というか、ノクトにそんな難しいことできねえだろ」

 

 イグニスとグラディオラスは良い。二人ともルシスでは王都警護隊に属し、有事の際にはその生命を王家のために捧げる義務がある。

 しかしプロンプトは違う。ただノクティスの親友であるだけで、彼自身は正真正銘ルシスの一般人だ。

 こんな状況になっている以上、彼が逃げ出しても誰もその選択を責めることはできない。

 

 それでも彼はノクティスたちの旅に同行している。

 言葉にはしていないが、三人とも感謝しているのだ。

 

「……これからはあいつの写真にも付き合ってやるか」

「そうしてやれ」

「おっと、戻ってきたぞ」

 

 プロンプトは手元に雑誌のようなものを持って、何やら慄いた様子でこちらに戻ってきた。

 

「た、ただいま……」

「おう。……どした?」

「あの……これが今後オレの写真が載るやつです」

 

 何やら声が震えているプロンプトが、声と同じく震えた手で雑誌を差し出す。

 そこにはメテオ・パブリッシングという会社名が刷られており、それが何を意味するのかわかったイグニスの顔が引きつる。

 

「プロンプト。オレの記憶違いなら悪いが、確かこの会社はルシス国内でも相当な大手の出版社では……」

「はい……取締役社長みたいです」

「なんでこんなところにいんだよ」

「ノクト、オレらにそれ言う資格はねえぞ」

 

 こんなところを死んだはずの王子がうろついているのだ。別に出版社の社長ぐらい、いてもおかしくはない。

 

「けどすげえじゃねえか! 大出世だろ!?」

「もっと小さな雑誌とかだと思ってたんだよ!? うわ、手が震えてる!」

「これでルシスに平和が戻った後の就職先が見つかりそうだな」

「なに冷静なこと言ってんのさイグニス!? というか次の写真も頼まれちゃったし! どうしよノクト!?」

「旅してんだし、寄った時に撮ればいいだろ」

 

 緊張する理由はわからなくもないが、ノクティスに話しかける時は自然体なのになぜ出版社の社長にはガチガチになっているのだ。

 それが少しだけ不満なノクティスは話を切り上げ、レガリアに戻っていく。

 

「いいから出発しようぜ。あのおっさんもオレらのこと見てるぞ」

「うわ、ホントだ! ……うん、そうだね! 今、一番大事なのはノクトの旅だ」

「……ヤバい時だってあるんだし、嫌ならやめても良いんだぜ」

「冗談! オレ、途中下車できる列車に乗った覚えはないよ」

 

 ノクティスの言葉に、プロンプトは迷う素振りも見せずに首を横に振った。

 そしてノクティスを追い越してレガリアの方に向かっていく。

 

「ほら、旅を再開しよう! まだ結末はわからないけどさ、オレは最後までノクトと一緒にこの旅に挑むって決めてあるんだから」

 

 プロンプトの言葉に応じるように、ノクティスの横をイグニスとグラディオラスが通り抜けて振り返ってくる。

 その顔には来ないのか? とでも言うように挑発的で――ノクティスの言葉を待っているように見えた。

 

「……へ、たっぷりこき使ってやるから覚悟しろよお前ら!」

「こっちも、お前が腑抜けたこと言い始めたら容赦なくドつくからな、覚悟しろよ!」

 

 これは旅の一幕。

 長い長い旅の一時。彼らは困っている人に手を差し伸べたり、あるいは路銀を稼ぎにモンスターを狩っている。

 

 ニフルハイム帝国との戦いでは関係がないかもしれない。大きな使命を前にしてこのような些事に心を傾けるなと言うかもしれない。

 しかし、彼らの行いは決して無意味ではない。

 

 それが正しく機能するのは――まだ、先の話である。




次回からチャプター4に入ります。アクトとの合流はチャプター5を予定しているので、もう間もなくです。

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