ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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あけましておめでとうございます。なんとか続けていこうと思っていますので、今年もよろしくお願いいたします。


レイヴスとの邂逅

 こちらに歩み寄ってくるレイヴスを前に、ノクティスは一歩を踏み出そうとして踏みとどまる。

 今の彼に詰め寄るのは簡単だが、それを許さない怒気がレイヴスの総身から溢れていた。

 仲間たちが静かに戦闘態勢を取る中で、ノクティスは前に出る。

 

「雷神の啓示――それに巨神の啓示も受けたか」

「だからなんだよ」

 

 応えたノクティスの喉元に剣が突きつけられる。

 およそ目に見えない速度での抜刀。誰も目で追うことすらできなかったそれを、レイヴスは怒りのままに突き出す。

 

「それが何を意味するかもわからない。……いや、お前の兄はあえて黙っているのだろうな」

「……兄貴のこと、知ってんのか」

「同情の一つもするとも。――どれほど切望しても手に入らないものが身近にあるどころか、そのための礎になれと古き神々に課せられているなど」

「どういう意味だ」

「言ったところで何も変わらん」

 

 自分の知らない兄のことを知っている。その事実にノクティスは苛立った声を出すが、レイヴスは取り合わない。

 

「それに――あの程度の力で満足するような男に未来など必要ないだろう」

「な――」

 

 あの程度。そう言ったのか、この男は。

 雷神の力は正しく地を割り天を裂き、星を揺るがす大いなる神威であったというのに、それすらも彼のお眼鏡に適うものではないのか。

 

「おい、誰が無力だって?」

 

 ノクティスを庇うようにグラディオラスが立つ。

 レイヴスの言っていることは半分も理解できないが、彼がノクティスをあざ笑っているのはわかった。

 ならばそれに怒らずして王の盾は名乗れまい。彼が守るのは身体だけでなく心も含まれるのだから。

 

「盾のつもりか」

「ウチらの大将をバカにされて黙っちゃいられねえってな」

「ハッ――脆い盾にそれができると?」

 

 剣を振りかぶり、振り下ろす。

 剣に何か特殊な力が秘められているわけではない、むしろ質としてはハンターの使う数打ちのそれより劣るもの。

 だが、ニフルハイム帝国将軍の手にあるだけで――それはいかなる障害も粉砕する利剣と化す。

 

「このっ! ……っ!?」

「それで防いでいるつもりか?」

 

 当然、受け止めることなど能うはずもなく。

 体格も良く、膂力だって一行の中では間違いなく一番。ノクティスが両手で扱う剣を片手で軽々と扱えるほどだ。

 しかし、その彼が両手で踏ん張っても、レイヴスの片手すら受け止められない。

 

「ぐ、お……っ!?」

「無力とは憐れなものだ。私も――お前も」

 

 剣を横に動かすと、グラディオラスの身体も容易に傾ぐ。

 全力で耐えようとしていた彼の身体を、苦もなく動かしたレイヴスは肘鉄をグラディオラスの腹部に見舞う。

 

「がっ!?」

「グラディオ!!」

 

 面白いようにグラディオラスの巨体が飛び、受け身すら取れず地面に叩きつけられる。

 あれはマズイ落ち方だ、とプロンプトでも察せられたそれを見て、ノクティスの顔が怒りにゆがむ。

 

「ッ、テメェ何やってんだ!!」

「なに、とは。――敵国の旗印である王子を倒そうとするのが不思議だと?」

「兄貴が妹に剣を向けてんだぞ!! その意味わかってんのか!!」

 

 レイヴスの妹であるルナフレーナはルシスの側について、アクトゥスと行動をともにしている。

 だというのにこの男は未だニフルハイム帝国にいて、ルナフレーナに剣を向けているのだ。

 到底許せることではなかった。同じ兄を持つ身として、彼の行動はノクティスの許容を超えていた。

 

 その言葉を聞いて、初めてレイヴスの剣が揺れる。

 だが、それも一瞬。次の瞬間には再び敵意に満ちた瞳でノクティスを見据える。

 

「王族において、兄弟同士の骨肉の争いなど珍しくもない。だが、そうだな――」

 

 

 

 ――お前が死んだら、全て丸く収まるやもしれぬ。

 

 

 

「……ッ!」

「試してみるか。ここで死ぬようなら、それが世界の運命だ」

「――上等だ。テメェの面殴り倒して、ルーナの前に連れて行ってやるよ!!」

 

 ファントムソードを全て召喚し、ノクティスはレイヴスと相対する。

 王を守るように付き従う四つのファントムソードと、ノクティス自身の持つ槍。計五つの武器を構え、ノクティスはレイヴスに攻撃を仕掛けるのであった。

 

 

 

 

 

「――プロンプトはグラディオの回復を! ノクト、奴の挑発に乗るな! 目的はレガリアの奪還だ!」

「どのみちコイツ倒さねえと無理だろうが!!」

 

 ノクティスの魔力が込められることで賦活剤としての効果を発揮するフェニックスの尾を片手に、プロンプトがグラディオラスに近寄るのを横目にイグニスはノクティスを見る。

 ルナフレーナのこともあり、完全にキレている。今の彼に自分の声は届かないだろう。

 ならばそれも踏まえて現状での最善は何か、とイグニスは戦い始めたノクティスとレイヴスの戦況を見ながらひたすら頭を回転させる。

 

「――プロンプト、グラディオを起こしたら後ろから援護を。グラディオ、厳しい役目を頼む」

「――いや、いいさ。だいたい何やれば良いってのはわかってる」

 

 活力を取り戻したグラディオラスが再び大剣と盾を持ち、立ち上がる。

 そしてイグニスもまた自らの武器である短剣を二振り構え、レイヴスを睨む。

 

「戦況は――ノクトが不利。行くぞ!!」

 

 イグニスたちの声が後ろに聞こえる中で、ノクティスは自身の衝動の赴くままにファントムソードを操り、槍を振るう。

 

 ――届かない。

 

 信じがたいことに、レイヴスはその超人的な体捌きでノクティスの持つ槍はおろか、四方八方から乱れ飛ぶファントムソードすら全て叩き落としていた。

 

「この程度か、神々に選ばれし王の力は?」

「まだ、まだぁっ!!」

 

 意識を加速させる。タイタンの時と同等、ないしそれ以上に思考が白熱し、余計なことを考える力が消えていく。

 だが、当たらない。ファントムソードの切っ先が全てわかっているようにレイヴスが身を翻すと、さっきまでいた場所にファントムソードが虚しく地面に刺さっていく。

 

 信じられない、という驚愕がノクティスの脳によぎる。ファントムソードをいくらか集め、六神の加護も二柱まで受け取った。そして己の戦闘経験も積んだ。

 ルシスを出発した時点とは比べ物にならないだけの実力が身についたと自負しているし、それは間違いないはずだ。

 

 だというのに、かすりもしない。もはや常人どころかノクティスの戦い方を知っている仲間ですら迂闊に踏み入れない程の速度になっているというのに、レイヴスは全て見切っていた。

 やや失望の色をにじませるレイヴスは軽くため息混じりに剣を振るい、打ち合ったノクティスを大きく吹き飛ばす。

 

「これならまだお前の兄の方が脅威だった。あれはこと手札の数という意味では驚異的だった」

「だったら――これならどうだ!!」

 

 修羅王の刃を大きく振りかぶり、裡に宿る巨神の力とともにシフトブレイクを発動する。

 巨神の腕がノクティスの武器の軌跡に沿って薙ぎ払われ、軌道上にいたレイヴスを殴り飛ばす。

 しかし驚くべきことに、レイヴスはその腕を正面から受け止めた。

 

 一瞬だけ義手となっている機械腕から光が発せられると、レイヴスの力が増幅したのか巨神の腕を剣一本で払い除けたのだ。

 

「なっ――」

「……さすがに、巨神の力は少々厄介か。だが見る限り連発はできまい」

 

 巨神の加護も載せた一撃を防がれたノクティスは、無防備な姿をレイヴスの前に晒すしかない。

 当然、その隙を逃す理由もなく、レイヴスは剣を構え――

 

 

 

「させるか、よぉっ!!」

 

 

 

 横合いから飛び出してきたグラディオラスの渾身の一撃により、僅かにその軌道をそらされた。

 大の男が全力を込めた一撃でも、ほんの僅か。それがグラディオラスとレイヴスの力量の差を如実に物語っている。

 

 だがグラディオラスの闘志に衰えはない。守るべき王を後ろに隠し、盾と剣を構えて王を害そうとする敵の前に立つ。

 

「脆き盾がまだ立つか。力の差も理解できぬと見える」

「んなこたぁ身に染みてるよ。――それでも退けない時があるってだけだ」

「グラディオ! 大丈夫なのか!?」

「身体に問題はねえ。だからお前もちっと落ち着け。レガリアの奪還が最優先、だろ?」

 

 グラディオラスの言葉にノクティスはハッと目を見開き、思考を冷やすようにかぶりを振る。

 

「……そうだったな。けど、お前だけに良いカッコはさせらんねえ」

「言うじゃねえか。じゃあこうすっか――お前は右腕を、オレは左腕を抑える。やれるか?」

「オレ一人で十分――って言えりゃ格好つけられたんだけどな」

 

 ファントムソードを扱い、六神の力を振るい、それでも決定打を与えられていないのだ。

 悔しいが自分とレイヴスにはそれだけの差があると認めざるをえない。

 その事実は歯噛みするほどに苛立つが、苛立たて力量差が埋められるなら苦労はない。

 

 まず、イグニスとプロンプトは前に出せない。正規の戦闘訓練を受けていないプロンプトではレイヴスの足止めもできないだろうし、頭脳の要であるイグニスが倒れたらそれこそ最悪。脱出のタイミングも指示も何もできない彼らなど烏合の衆とさほど変わらなくなる。

 

 やるべきは王の力と六神の力を振るうことができ、最大戦力であることが疑いようのないノクティスと彼を守ることが役目であるグラディオラスの二人だけだ。

 そしてなすべきことはレガリア奪還の時間を稼ぐこと。イグニスは時間を稼げと言ったのだ、ならばそこに理由があると信じて戦うよりほかない。

 

「遺言は終わったか?」

「ああ、時間稼ぎに付き合ってもらって悪いな」

「気にするものか。――羽虫の悪あがきなど、何の意味もない!!」

 

 レイヴスの右手にある剣が振るわれ、グラディオラスに迫る。

 グラディオラスはそれを受けず、大きく横に飛んでその刃の範囲から逃れた。

 

「臆したか!」

「バカ言うんじゃねえ! そっちは対応が違うってだけだ!!」

「剣を持つ腕はオレが止めるってな!!」

 

 レイヴスの剣に合わせるようにノクティスが大剣と豪腕をまとったシフトブレイクがぶつかり、レイヴスが弾かれたように吹き飛ばされる。

 十全な姿勢で迎撃されたのならともかく、誰かを攻撃しようとしているところに巨神の豪腕を当てれば後退させることはできるらしい。

 

 盛大な舌打ちとともに体勢を整えたレイヴスが再び突っ込んでくると、ノクティスとグラディオラスはそれぞれが左右に分かれて片方の腕を担当する。

 義手に力を込めると、グラディオラスが邪魔をしてくる。

 今はまだ脆い彼の力程度、義手であっても受け止めて薙ぎ払うことは容易だが、それをしている間にノクティスが六神の力を込めた攻撃をしてくるだろう。

 彼ら一人一人より力量が優れている事実はあっても、六神の力が直撃して無事でいられると思うのは自信を通り越した自惚れだ。

 

 そして剣を振るおうとすると、ノクティスが空中に待機させ続けているファントムソードの連撃と巨神の豪腕を伴ったシフトブレイクが襲いかかる。

 ノクティスもグラディオラスも一人ずつ相手になるならばレイヴスは苦もなく突破する。ただの二人がかりでも各個撃破は容易だ。

 だが、完全に息の合った連携を見せる二人が相手だと、多少は手こずることを認めざるを得なかった。

 

「――チィッ、厄介な……!」

「おっと、多少は意趣返しできたかね。じゃあ――」

 

 グラディオラスは後方で睨みつけるように状況の推移を見守っているイグニスに目配せを送る。

 彼からの返答は――首肯。つまり脱出の準備が整ったということ。

 

「ノクト!!」

「はいよ!」

 

 グラディオラスとイグニスのやり取りを見ていたノクティスも反応し、追撃を避けるべく槍を手元に用意する。

 

「ついでに拝んどけ――雷神の力だ!!」

 

 槍の先端よりほんの僅か、紫電が迸ったのをレイヴスは見逃さなかった。

 迎撃するか、先んじて出を潰すか、様々な方法が瞬時にレイヴスの脳裏をめぐり、最適と思われる行動を取る。

 すなわち――機械仕掛けの義手を前に出して防ぐ姿勢だ。

 

 防御の姿勢を取ったレイヴスめがけて、ノクティスは槍を振りかぶってシフトブレイクを行う。

 彼我の距離を一瞬で詰めて行われる攻撃を前に、レイヴスは義手を前に突き出し――

 

 

 

 槍から放射状に放たれた雷を前に、義手を破壊されながらも前進してきた。

 

 

 

「な――!」

「防御に回る、などと思っていたか?」

 

 レイヴスの考えていることなど、最初からノクティスを倒す、あるいは殺すことだけだ。

 故に今回の行動も相手に防御をする、と誤認させるために過ぎない。

 避けるか、迎撃ならば可能だったが、それをすればノクティスたちも警戒する。ファントムソードを従えたノクティスを正面から打倒するのは――一騎打ちなら可能だろうが、仲間もいるこの状況は少々厳しい。

 

 ならば多少の傷を負ってでも不意を突ける方がレイヴスにとって都合が良い。

 そして今、レイヴスの策は成り、無防備に驚愕の顔を晒しているノクティスに剣を突き立てようと――

 

 

 

「後ろにシフト。武器は用意してある」

 

 

 

 ノクティスの身体は後方に飛び、レイヴスの剣は空を切った。

 

「なにっ――!?」

 

 完全に殺せるタイミングの一撃が避けられたことと、その方法にすぐ思い至ったレイヴスの顔が屈辱と驚愕に歪む。

 そして顔をあげると、レイヴスの予想通りの人間がノクティスの前に現れていた。

 

 ノクティスも聞こえた声から反射的にシフトしたためか、体勢を崩して尻もちをつきながら呆然と顔を上げる。

 

「兄、貴?」

「よう、久しぶりだな」

 

 どちらも父親似なのだろう。ノクティスがもう少し明るい性格になり、笑みを絶やさないようになればこんな顔になる、と思う容姿の青年。

 ノクティスの実兄――アクトゥスがそこにいた。

 

「兄貴……ルーナは!?」

「真っ先に聞くことがそれかよ。ここにはオレ一人で来た。ルナフレーナは離れた場所でモニカたちに警護させてる」

 

 アラケオル基地攻略に際し、アクトゥスはノクティスに連絡した後でコルと連絡を取り、援護の手はずを練っていたのだ。

 結論として、シフトの扱いに熟練している彼が単騎でアラケオル基地に潜入し、ノクティスの援護を行った後に離脱するという流れになっていた。

 そしてやってきたアクトゥスはレイヴスと相対し、その手に双剣を握る。

 

「アクトゥス……! 貴様、我が妹に何をしたかわかっているのか!!」

 

 レイヴスはアクトゥスを睨みつけると、ノクティスに向けていた時以上の憎悪を込めて剣を構える。

 

「――当然。オレが神凪と真の王の使命を知らないとでも?」

「貴ッ様ァァァァァァァァ!!」

 

 もはやレイヴスの激昂は言葉を交わせる状態にない。今の彼は痛みも覚えず怨敵を殺すためだけのバーサーカーに等しい。

 アクトゥスはそんなレイヴスを見て――迎撃の姿勢を取った。以前の戦いで力量差を嫌というほど思い知らされているにも関わらず、だ。

 

「ノクトは下がれ。ここはオレが引き受ける」

「兄貴!!」

「これはオレの問題だ! グラディオラスを連れてイグニスの元に行け!!」

 

 ノクティスが答えるのを待たず、アクトゥスは双剣を振るってレイヴスの剣を受け止める。

 グラディオラスですら軽々と片手で吹き飛ばす剣を、アクトゥスはありったけの魔力を込めた腕で押さえ込む。

 当然、代償は軽いものではなくアクトゥスの顔は途端に苦しげなものになる。

 

「ぐ……っ!」

「お前が……!! お前さえいなければ妹が余計に傷つくことなどなかった!!」

「がっ!?」

 

 剣を防ぐだけで手一杯となり、がら空きだった腹部にレイヴスの蹴りが容赦なく叩き込まれる。

 骨だけでなく内臓にもダメージを負ったのか、口から血を吐きながらアクトゥスの身体が宙を浮く。

 

「こ、のっ!!」

 

 アクトゥスは痛みなどまるで感じていないような動きで身を翻し、空中で片手剣を握る。

 そして短距離の瞬間移動でレイヴスに距離を詰めると、空中に留まったまま斬りかかっていく。

 

「ハッ!」

「ヌルい!」

 

 上段からの攻撃をレイヴスは苦もなく避けると、反撃の刃がアクトゥスの首を狙う。

 アクトゥスも空中で身を翻してそれを回避し、レイヴスの眼前に懐から取り出したマジックボトルを投げる。

 

「同じ手は二度食わん!!」

「お前人間か本当に!?」

 

 魔法が炸裂する前にマジックボトルを切断する――のではなく、手首を柔らかくしならせて手に持つ剣でボトルの勢いを絡め取ると、アクトゥスに向けて放り返したのだ。

 守りの指輪を装備しているアクトゥスに魔法そのものは効かない。しかし、魔法の爆炎はアクトゥスの視界を塞ぐのに十分な役割を果たす。

 

 アクトゥスの眼前でマジックボトルが炸裂し、込めておいたブリザガの魔法が吹き荒れる。

 局地的なブリザードすら作り上げる大型魔法はノクティスたちにも影響を与えるが、彼らは速やかにイグニスたちのいる場所まで下がることで魔法の範囲から逃れていた。

 だが、ブリザードの中心にいるアクトゥスはどうしようもなかった。

 

「……っ!」

「――終わりだ」

 

 重力に従い落ちるばかりのアクトゥスの身体を、レイヴスが追いすがって切り捨てようとする。

 しかし己が危機に陥ることも予測していたのだろう。アクトゥスは後ろ手に隠した短剣を適当な方向に投げてシフトで難を逃れる。

 とはいえ大きく消耗したのは確からしく、ロクに着地もできず無様に地面を転がって体勢を立て直していた。

 

「兄貴!!」

「ったく、少しは弟に良い格好しておきたかったんだけどな」

 

 弟の心配する声になんとか平常通りの返事をしながら、アクトゥスは口から血を吐いて息を整える。

 そんな彼の頭上に一つの影が迫り、彼を見下ろして言葉を発した。

 

「よく言う。貴様、これは贖罪のつもりか?」

「――――」

 

 その時、アクトゥスが呟いた言葉は余人に聞こえるものではなかった。

 単なる痛みに喘ぐ声だった? いいや、それは明確に動揺を露わにしたレイヴスの表情が全て語っている。

 

「待て。貴様、それはどういう――」

「知りたきゃ、オルティシエに来い」

 

 その言葉を最後に、アクトゥスは再びシフトで距離を取る。

 内臓を傷つけた苦痛は今なお鮮明だろうにおくびにも出さず、彼はイグニスの方を見る。

 

「時間稼ぎはまだなのか!! いい加減オレも脱出したいんだが!!」

「もう少し待ってください! そうすれば――」

 

 

 

「――そうすれば、なに?」

 

 

 

 戦場におよそ似つかわしくない、穏やかにすら聞こえる声が響く。

 声量は決して大きくなかった。にも関わらず、誰もがそちらに視線を向けてしまう何かがあった。

 彼らの視線の先には――一人の伊達男がマジックボトルを片手で弄びながらやってきていた。

 

「アーデン……!」

「これ、君たちのでしょ? まず見つけにくい場所に一つ。それを発見させて安堵すると気づけないものが一つ。よく考えられてると思うよ? ――初めてにしちゃ上出来だ」

 

 そう言ってアーデンはイグニスに向かって、解除済みのマジックボトルを二つ投げ渡す。

 イグニスは苦々しい顔でそれを受け取り、アーデンを見る。

 

「……やはりお前が裏にいたか」

「まあね。そこの軍師クンとかは抜け目なさそうだし、軍の指揮も将軍任せじゃ彼の負担が大きいでしょ?」

「フン、そのよく回る口をカリゴやロキに向けたらどうだ」

「それ君の部下じゃん。だったら君を直接口説くって。それと――そこのお兄さん、殺してもいいよ」

「テメ――ッ」

 

 あまりにもあっさりと告げられたアクトゥスの殺害命令に、ノクティスが制止の声を上げようとする。

 しかしアクトゥスはすでに後方へシフトを行い距離を離しており、潜入する際に使用した武器を残しておいたのだろう。武器を投げる動作を廃した連続シフトで瞬く間に基地から脱出していた。

 

「ホント、厄介だよねシフトの使い手は。ああ、将軍。別に追いかけなくてもいいよ、無駄だろうし」

「わかっている。ルシスではそれで煮え湯を飲まされた」

「一応立てておいた対策も無駄になった感じ? ま、次頑張ってよ」

 

 あくまでも飄々とした態度を崩さないアーデンにレイヴスは盛大に舌打ちをすると、武器を収める。

 

「将軍は一度本国に戻りなよ。その義手、すぐには直せないでしょ?」

「オルティシエに行くまでには間に合わせる」

「泣くのは技師なのに。わお、ひどい上司」

 

 アーデンの揶揄に答えることなく、レイヴスは背中を向ける。

 彼の姿を気にした様子もなくアーデンはノクティスたちを見ると、微笑んで話しかけてきた。

 

「ああ、君たちも行っていいよ。オレ、今の君たちに興味はないんだ」

「何を企んでいる」

「別に何も? 言ったじゃない――今の君たちに興味はないって」

 

 お前たちは未だ掌で踊っているに過ぎない。そんな言葉にノクティスは激昂しかけるが、不意に浮かんだ疑問がそれをかき消す。

 

 

 

 そもそも――イグニスが最初に持っていったマジックボトルはいくつだ?

 

 

 

「腹立たしいが、認めざるを得ないだろう。アーデン、お前は知略という点で明確にオレより上だ」

「ま、年の功ってやつさ」

「それもあるだろうし、場数もある。あるいは単純に才能の違いかもしれない」

 

 作戦を練るには膨大な知識と、その時々で違うであろう条件を全て活用する知恵の両方が必要になる。

 イグニスから見て、帝国宰相であるアーデンは双方で自分を上回っていると認識していた。それはカーテスの大皿の時からである。

 

 そう、イグニスは知恵比べという分野でアーデンに勝てないと誰よりも早く認めていた。

 

 

 

 ――だから彼を出し抜く対策を講じていないはずがなかったのだ。

 

 

 

 突如、魔導アーマーの格納庫から爆炎が巻き起こる。

 レイヴスとアーデン、双方の視線が動いた瞬間、イグニスが叫ぶ。

 

「今だ!! レガリアに乗り込め!!」

「――ッ!!」

 

 ノクティスとグラディオラスは脳裏によぎる疑問を一端横に置いて、プロンプトと一緒にレガリアに飛び乗る。

 そしてすでにエンジンを動かしていたイグニスが全力でアクセルを踏み、レイヴスとアーデンを横目に基地からの脱出を果たすのであった。

 

 

 

 

 

「……なるほど。結構良い思い切りしてんだ、あの軍師クン」

「どういうことだ、アーデン」

 

 格納庫の消火を魔導兵に任せ、レイヴスとアーデンは逃走したレガリアを見送りながら言葉を交わす。

 追いかけるつもりはない。アーデンは彼らを見逃すために来たのだし、レイヴスはアーデンの前で力を振るうつもりはなかった。

 

「言ってたでしょ、オレと彼じゃ参謀としてのレベルが違う。そういう教育を受けてきただけの子供と、帝国宰相のオレじゃ天地の差だ」

「だが、現にお前は一杯食わされた」

「向こうも正しく認識してたのさ。実力差は明白。けどやらなければならない。じゃあ取れる手は決まっている――」

 

 

 

 

 

「運任せぇ!?」

 

 青空の下をレガリアで気持ちよく走っている中、プロンプトの素っ頓狂な声が響く。

 どのような手品でアーデンを出し抜いたのか聞いてみたところ、イグニスはしれっとそのようなことを言い放ったのだ。

 ノクティスらももっと論理的な理由だと思っていたのか、驚いた顔でイグニスを見ていた。

 

「言っただろう。アーデンとオレでは格が違う、と。そして格の低い側がオレになる」

「ま、まあそりゃ帝国宰相とお前じゃ仕方ねえよ」

「策謀での勝負はどうあがいても知識と知恵の比べ合いだ。まともに勝負する限り、オレに勝ち目はない」

「じゃあ、まともに勝負しないってこと?」

「そういうことだ。オレが知略の限りを尽くしてマジックボトルを二個隠す。もう一つは――適当に転がしておいた」

 

 物を隠すということは、人間の意思が介在するということ。意思が介在する以上、隠し場所にも一定の法則が生まれてくる。

 そしてイグニスの方法ではおそらく発見されるだろう、と彼は分析していた。そしてそれは正しく、アーデンが持っていた二個のマジックボトルで証明された。

 

 だからこそ奇手を打つ。ただ単に魔導兵に見つかって終わるかもしれない。普通に探せば見つかってしまうかもしれない。

 しかし――運が良ければアーデンにも気づかれることはない。

 

「知識で上回る必要も、知恵で上回る必要もない。――ただ運で上回っていれば良いんだ。オレは賭けに勝った、ということだ」

「何もかも計算済みだ、みたいな顔してしれっと伸るか反るかの大博打してたわけかよ」

「そうとも言うな」

 

 心臓に悪い、というのがイグニスを除いた面々の感想だった。

 イグニスは特に悪びれることもせずに眼鏡の位置を直すと、再びレガリアの運転に集中する。

 

「危地を逃れたのだから良いだろう。それよりレスタルムに行くぞ。――そこでアクトゥス様と合流だ」

「さっきも顔を合わせたけど、いよいよだね」

 

 プロンプトの言葉を聞いて、ノクティスの脳裏に色々な言葉が生まれては消えていく。

 兄に会えることへの喜び。ルナフレーナと会える喜び。今、自分が置かれている状況の答え。

 

 大半の事実がハッキリするのだろう。そしてその上で何をすれば良いのか、再び考える必要がある。

 

 ここからは自分たちの手で状況を動かすのだ。その決意を込めて、ノクティスは拳を握るのであった。




レイヴス戦再び。一騎打ちなら今のノクティスだろうとぶっ飛ばせる人として設定しています。

他の将軍みたいに魔導アーマーに乗らない理由? 自分の手でぶん殴った方が早いし強いという身も蓋もない理由。

次回からチャプター6に入ります。ここからアクトゥスルナフレーナ組と合流して、サブクエストも一杯こなす流れになります。
……長くなりそうだあ(震え声)
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