ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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チャプター6 ―奮起と合流―
合流


 アラケオル基地から脱出したノクティス一行は憂いなく兄たちと合流すべくレスタルムに向かい――その途中の標で休息を取っていた。

 

 なにせ今日の彼らは午前に雷神の啓示を受け、その足でアラケオル基地の強襲、レガリアの奪還まで行ったのだ。

 しかもレガリアの奪還ではレイヴスとの戦闘という修羅場もくぐっている。脱出した当初は作戦が上手くいった高揚感で疲労を無視できていたが、すぐにそれは噴出した。

 

「悪いなノクト。早く合流したかっただろう」

「いーって。オレも疲れたし」

「ほとんど徹夜で動いていたからな。作戦前に仮眠は取ったが、そんだけだ」

 

 ファントムソードを駆使してレイヴスとの戦闘を見事生き抜いたノクティスも、そんな彼を守り抜いたグラディオラスも、一行の生き残る道を常に考え続けたイグニスも、彼らに遅れを取るまいと必死に走っていたプロンプトも、全員が疲労困憊の状態だった。

 

 このままではレスタルムに着く前に事故を起こしかねないということになり、標で重い身体を引きずってキャンプをしている次第である。

 

「メシはどうする? レトルトでもいいぞ」

「おっと、オレのカップヌードルの出番がきたか?」

「……いや、気遣いはありがたいが、作らせてくれ。無性にエボニーコーヒーと合うケーキが食べたいんだ」

 

 そう言ってイグニスは小麦粉に卵、甘リード芋というデザート用の非常に甘い芋を取り出すと調理を開始する。

 

 まず卵の卵黄と卵白を分け、卵黄の中に小麦粉と砂糖代わりにおろした甘リード芋、水を入れて混ぜていく。

 本当なら牛乳が使いたかったが、旅で保存のきかないものを持ち歩くのは難しいため、今回は甘リード芋の底力に期待して諦める。

 

 均一になるように混ぜた後、卵白を手早く混ぜてメレンゲを作る。ここのメレンゲ作りをいかに妥協せずに作るかが今回の目的――ほっこりシフォンケーキのほっこり加減に関わってくるのだ。

 故に妥協はしない。今作っているのは自分の好物でもあるのだ。材料で妥協せざるを得ない事情がある以上、他の部分では徹底的にこだわり抜く。

 

「もうここで燃え尽きても良い……!」

「ねえ、なんかイグニスが変なこと言い出してるんだけど」

「あいつも疲れてんだろ」

「昔っからたまーに、妙な方向に執着燃やす時があるからな」

「そっかー……」

 

 そしてその時のイグニスは大体押しが強いので、言うとおりにしておくのが吉である。

 幼い頃からの付き合いであるノクティスとグラディオラスはうんうんと訳知り顔でうなずき合い、手を触れない方向で結論付ける。

 これは深入りしない方が良さそうだ、と察したプロンプトもこれ以上の追求はやめておくことにした。美味しい食事が出る分には構わないのだ。

 ……それはそれとして珍しい姿なので写真には収めておいたが。

 

「さあ完成だ。名付けてほっこりシフォンケーキ。生クリームを添えて食べてくれ」

 

 固くなりすぎない程度にホイップした生クリームが添えられた、ふんわりと目に優しい卵色のシフォンケーキ。見た目だけでもう仄かな甘さが漂ってきそうだ。

 

「待ってました! へへ、たまにはこういうのも良いよね!」

「甘いものは活力にもつながるしな。さすがに今日こってりしたのはオレでもキツイ」

「そういやグラディオ、怪我とか大丈夫なのか?」

 

 シフォンケーキにかじりつこうとしたノクティスが、ふと思い出したようにグラディオラスに聞いてくる。

 思えば彼はこのメンバーの中でただ一人、レイヴスの攻撃が直撃していた。

 彼の巨体がおもちゃか何かのように軽々と吹き飛び、コンクリートの地面に背中から叩きつけられたのはたった数時間前の出来事だ。

 

 フェニックスの尾による賦活作用ですぐに戦線に復帰していたが、あれはノクティスの魔力が含まれていると言っても死者を生者に復活させるような奇跡の道具ではない。

 

「ああ、ちょっとした打ち身程度だ。とはいえ不甲斐ねえところを見せちまったな」

「いいって、そんぐらい。オレが強くなりゃいいだけだ」

 

 レイヴスとの戦いで力不足を痛感したのはグラディオラスだけではない。

 二柱の神の力を振るい、ファントムソードを駆使したノクティスですら彼には有効打を入れられなかったのだ。

 あの場所での戦闘が時間稼ぎであることと、実兄アクトゥスの助けが優位に働いてくれただけで、その二つがなければ一行は全滅の可能性すらあった。

 

 あいつ本当に人間かよ、とアクトゥスも思った愚痴をノクティスもこぼす。どんな鍛え方をすれば四方八方から飛んでくるファントムソード全てに対応した上で、ノクティスとグラディオラスの二人がかりをいなせる力量を得られるのか。

 

「難しいことを考えるのはレスタルムでアクトゥス様と合流してからでも良いだろう。あの方なら今のオレたちよりも多くの情報を持っているはずだ。それよりケーキは暖かいうちに食べてくれ」

「っと、悪い」

 

 イグニスに促されてノクティスはフォークをケーキに刺す。

 ほとんど抵抗感がなくスッと生地にフォークが入り、軽やかな感触を伝えてくる。

 付け合せのやや柔らかめに作られた生クリームを絡めて口に運ぶと、想像通りの優しい甘さが、想像以上のふんわりした舌触りを伴ってやってくる。

 ケーキの食感は軽く、しかし歯を立てると微かにしっとりとした歯ごたえを返してくる。そしてちゃんと噛むことによって卵と牛乳、そして甘リード芋の味がしっかりと伝わってきた。

 

「ん、うまい」

「そう言ってくれるとありがたい」

 

 舌から広がる甘みが全身の疲労に染み込み、溶けていくような錯覚すら覚えてしまう。やはり疲れた時は甘いものに限る。

 こうして、激戦を繰り広げたノクティスたちは甘味を片手に戦いの疲労を癒すのであった。

 

 

 

 

 

 現在のノクティスたちの活動拠点であり、イリスたちの潜伏場所でもあるリウエイホテル。

 そこに到着した時、グラディオラスの実妹イリスは重苦しい顔で一行を出迎えた。

 

「戻った。……どうした、イリス?」

「あ、皆……帝国軍が、さっき来たの。ほとんど入れ違い」

「な――」

 

 驚愕の声を上げる前に、イグニスとグラディオラスが動いた。

 イグニスは無言で上を指差し、ここからは聞かれない場所で話すべきだと言葉にせず伝え、グラディオラスは二人を気遣うように上へと誘導する。

 

「話は上で聞こう。いいか?」

「う、うん」

 

 場所を変え、ホテルの個室に入るとイリスは沈痛な顔のまま椅子に腰掛け、ポツポツと話し始める。

 

「金色の鎧を着た人が、魔導兵を伴ってやってきて……私たちは避難しただけだって言ったのに、いきなりジャレッドを斬りつけたの……」

 

 全員の顔に浮かぶのは、グラディオラスの一族に仕える老執事の姿。

 孫のタルコットと一緒にここに隠れていた人間だ。

 それを聞いて、長い付き合いがあるのだろう。グラディオラスがやや慌てた様子で先を促す。

 

「バカな。じゃあジャレッドは――」

 

 

 

「――治療はした。死ぬことはない」

 

 

 

 グラディオラスの声に応えたのは、部屋にいなかった第三者の声だった。

 全員が振り返ると、そこにはルシスの黒い戦闘装束をまとい、右肩から下を隠すように外套を羽織った青年――ノクティスの実兄アクトゥスが、疲労の色濃い様相で佇んでいた。

 

「兄貴――」

「アクトゥス様! ジャレッドは! ジャレッドは大丈夫なんですか!?」

「オレとルナフレーナで施せるだけの治療は施した。絶対安静にしてもらう必要はあるが、山は越えた」

 

 ノクティスより早くアクトゥスに掴みかかったイリスだが、アクトゥスの報告を聞くと力が抜けたようにへなへなと崩れ落ちる。

 

「ああ……良かった……」

「全く、オレたちが来なかったら本当に危なかった。……ともあれ、力になれてよかった」

 

 床に崩れ落ちたイリスを立ち上がらせると、優しくベッドに座らせてアクトゥスは改めてノクティスたちと相対する。

 

「感動の再会、と行ければよかったんだけどな。無事で何よりだ」

「兄貴こそ、レイヴスにやられたケガは大丈夫なのか?」

「ルシスの王族なら、致命傷でなきゃ大体なんとかなる」

「そか。――あ、ルーナは」

「ついさっきまでけが人の治療を全力でやってた。ノクティスに会うまでって頑張っていたが、寝かせておいた」

 

 ちなみに決定打はクマの出来た顔で婚約者に会うのはどうかと思う、だった。

 それを聞いたルナフレーナは恥ずかしそうに頬を染めたが、同時に抗議したそうな目でアクトゥスを睨んでもいた。起きた時が怖いので真っ先にノクティスを行かせようと心に決めている。

 

「んで、タルコットはジャレッドに付いてる。悪いがイリスも向こうに行ってやってくれないか?」

「あ、はい。えと、ありがとうございます!」

「こんぐらいお安い御用だ」

 

 イリスが部屋を出ていくのを気安い笑顔で見送ると、アクトゥスは真面目な顔になって一行と相対する。

 

「本当なら色々と苦労してきた弟を労ったり、その婚約者との感動の再会をデバガメしたりしたかったんだが、そうも言ってられなくなった」

「ああ――ってなんだよそれ」

「とにもかくにもイリスたちの安全確保が急務だ。それだけは素早く終わらせたい」

 

 アクトゥスの言葉に混ざっていた不穏な内容にノクティスが声を発するが、アクトゥスは無視して話を進めた。

 その内容が深刻で早急に対処せねば人命にも関わる以上、ノクティスも不本意ながらそちらに集中するしかなかった。

 イグニスに意見を求めるように視線を送ると、一行の参謀役が代表して口を開く。

 

「アクトゥス様はどのようにお考えですか?」

「――カエムの隠し港に行かせようと考えている」

 

 三十年前。まだルシスとニフルハイムが激しい戦闘を繰り広げていた頃に旅をしていた先王レギスたちがオルティシエに行く際に使った港である。

 港、と呼べるほど大きなものではなく、あくまで個人が船を使って行くことができる程度の場所でしかないが、この面子を海の向こうに運ぶなら十分な役目を果たす。

 

「オレたちの今後の目標はオルティシエに行って、水神の啓示をノクティスに行ってもらうことだ。だからどこかでカエムに行く必要がある」

「それでイリスたちを向かわせると?」

「ああ。あそこは三十年前も無事に使えた場所だ。あれっきりほとんど放置されていたし、帝国軍も無視している可能性が高い」

 

 それに酷な話だが、一般人に手を挙げる帝国軍人がいた以上、彼女らの安全はどこにいても確約はされないだろう。

 であればいっそのこと、自分たちの作戦に同道させることで警護隊の生き残りをつけた方が安全性も高くなる。

 

 アクトゥスはその提案をすると、是非を問うようにノクティスを見る。

 ノクティスは慣れない兄の視線に戸惑うが、同時に言い知れない高揚感があった。

 

「――ん、それで行こう。なんでオルティシエ、とかなんで啓示、とか聞きたいことは色々あるけど、イリスを安全な場所に送るのは賛成だ」

「わかった。警護隊の連中を動かして速やかに実行する。ジャレッドとタルコットについては容態が落ち着き次第移動で良いな?」

「ああ、頼む」

 

 アクトゥスは手早く端末を操作すると、端末越しに何事かを告げて電源を切る。

 そしてようやく、ノクティスの見慣れた空気に戻ってベッドに寝転がるのであった。

 

「――よしっ、今やるべきことは終わり! 後のことはルナフレーナが起きてからで良いよな?」

「ったく、あんまだらけ過ぎんなよ兄貴。オレが一人暮らししてた時もたまに来てはだらけまくってたよな」

「いーのいーの、外で一生懸命働いてんだから」

 

 気を抜けない状況や命がけの修羅場が連続した上、アクトゥスはルナフレーナと行動をともにしていたため、なかなか肩の力が抜けなかった。あれでも弟嫁の前なのでそれなりに格好はつけていたのだ。

 

「まったく、緊張の連続だったよ。ルナフレーナもあれで結構自己主張強いからな……」

「なんかあったのか?」

「困ってる人を見ると動かずにはいられない性分なんだろうな。何度か足を止めて人助けしてた」

 

 自由な身であるのだから多少は良いかとアクトゥスも快く助けていたが、それでも疲れるものは疲れる。

 

「あとはまあ、メシと寝床だな。オレ一人なら適当に野宿と缶詰で問題ないが――」

「ルーナにそんな生活させてねえだろな」

「気を遣わせていただきましたよ、婚約者さんを怒らせないためにな」

 

 極力休む時はモーテル。最低でもモーテルキャビンで休むように気をつけていたし、食事もクロウズネストで取るようにしていた。

 栄養については多少は薬剤でどうにかできるものの、気休めにしかならないので割り切ることにした。ノクティスと合流さえできれば美味い飯が食えると期待して。

 

「さすがに王都からここまでの旅は強行軍だったし、オレも疲れた。一眠りしてもいいか?」

「ダメっつっても聞かねえだろ」

 

 ノクティスの言葉にアクトゥスは軽く笑うと、すぐに寝息が聞こえてくる。どうやら本当に疲れていたらしい。

 

「お兄さん、疲れてたんだね」

「考えてみれば、王都で戦い、王都脱出で戦い、そこからルナフレーナ様を守りながらオレたちの援護と、六神の誓約を行っていたんだ」

「それも実質一人だ。ルナフレーナ様を戦わせるわけにもいかねえだろうしな」

 

 つまり、ノクティスたちが四人で分担しながらやっていたことをアクトゥスはずっと一人でやっていたのだ。

 モンスターやシガイ、帝国軍との戦闘。神々の誓約を行うルナフレーナの警護。そして随時王族の生き残りとして警護隊に指示を出していた。

 自分たちのことだけ考えて進んでいたノクティスたちに比べれば、負担は非常に重かった。

 

「……やっぱ兄貴はすげーわ。こんな状況だってのに、いっつも先を見据えてる」

「お前も捨てたものではない。ここまでの旅で、お前が成長したと感じた箇所はいくつもあった」

 

 イグニスが柔らかい口調でそう言ってくることに、逆にノクティスはふてくされたような顔になる。

 

「褒めてんのか、それ?」

「もちろんだ」

「前まではダメだったってことじゃねえか」

「王としての役目を真剣に考えるようになった。それだけでも立派な成長だ」

「ん……まーな」

 

 ノクティスはなんとも言えない瞳で安らかに眠る兄を見る。

 本当なら自分より頭も腕も立つ兄の方が王に向いているはずだ。その気持ちは今も変わっていない。

 だが、王位を継げない事情があることも知ってしまった。

 歴代王の力は自分しか受け継ぐことができず、神の力もアクトゥスは扱えない。

 

 能力云々の問題ではないのだ。資格があるかないか。

 ノクティスは資格があって、アクトゥスにはなかった。だから資格を持つノクティスがやらなければならない。

 

「…………」

「ノクト? なんか笑ってる?」

「……そんなわけねえだろ。兄貴も寝ちまったし、少し外に出ようぜ。今ぐらいゆっくり寝かせてやりたい」

 

 プロンプトの質問に答えず、ノクティスは立ち上がる。

 アクトゥスを休ませようという方針には誰も異議を唱えなかったため、そのまま四人は外に出ていく。

 そして出ていった先で――

 

 

 

「――ノクティス、様?」

 

 

 

 運命の人と、邂逅する。

 

 絹のようにサラリと流れる金糸の髪。ここに来るまでそれなりに修羅場をくぐっていただろうに、傷もシミも一つとしてない白磁の肌。

 強い意志によって磨かれた宝玉の如き瞳は、今は驚愕に見開かれてノクティスを映していた。

 

「ルー、ナ?」

 

 驚いたのはノクティスも同じだ。

 アンブラを通じたささやかな文通を行ってはいたが、こうして顔を合わせるのはテネブラエで療養生活を送っていた時以来。

 テレビなどの文化も王都の中でのみ。美しいという話を聞いてはいても、実際に見るのは本当に久しぶりだ。

 

「あ、えと、その……!」

 

 そういえばここに来るまでで見栄えを気にしたことなどまるでなかった。

 おまけに一度キャンプをしたとはいえ、激しい戦闘の後。最低限身体を拭きはしたが、見栄えについては……彼の名誉のために明言は避けよう。

 

 さっきの部屋でシャワー浴びておけばよかった、と心底から嘆くも後悔先に立たず。とりあえず兄貴のせいだということにしておく。

 

 そんなノクティスの咄嗟の懊悩などルナフレーナには知ったことではない。彼女にとっても長年想い焦がれてきた相手とようやく巡り会えたのだ。

 

「ああ、ノクティス様! お会いできて嬉しいです!!」

 

 無邪気に笑い、駆け寄ってきたルナフレーナはノクティスの手を取って愛しげに頬を擦り寄せる。

 おお、という後ろの声も気にならなくなった。ノクティスはバクバクうるさい心臓の音をなんとか落ち着くよう祈りながら、彼女に微笑みを見せる。

 

「――ああ、ルーナも無事でよかった。すっげー、会いたかった」

「私もです。使命を果たすなら、己の願いに従えと言って連れ出してくれたアクトゥス様には感謝しきれません」

「兄貴に変なこととかされなかったか?」

「時折からかわれたりしましたが、とても良くしてくれました。ノクティス様はどのような旅を?」

「皆、色々と思惑があるんだなって思いながらの旅だった。――でも、こっからは違うんだろ?」

 

 

 

 

 

「――はい、私とアクトゥス様。ここからはノクティス様のお側でお力になります」

 

 

 

 

 

「……まあ、オレも疲れてたんだよ。感動の再開をセッティングしようとしていたことを忘れていたわけじゃないんだよ本当に」

 

 仮眠を取って体力を回復させたアクトゥスは、自分の寝ている間にノクティスとルナフレーナが再会したと聞いて済まなそうな顔を作る。

 

「もう良いって。会えただけで十分だ」

「おっと、ノクトからそんな言葉が聞けるとは。恋は人を変えるねえ……って危ねえ!?」

 

 情けも遠慮もないノクティスの拳が飛んできたため、慌てて避ける。

 外の世界のことを誤解含めて教えてきたことや、ガーディナでのマッサージなど、アクトゥスへの恨みを忘れたわけではなかったノクティスだった。

 

 しかしこれが彼らなりのじゃれ合いであることがわかるルナフレーナは微笑ましそうに二人を見るばかり。

 ノクティスの仲間も、彼が自分たち以外にも明るい顔を見せる人物がいることに頬を緩ませる。

 それを察したのか、ノクティスは照れくさそうにベッドに座り直してアクトゥスを見る。

 

「話、進めようぜ」

「ん、そうだな。そろそろ先のことを考えるか」

 

 言いながらアクトゥスは地図を取り出し、ペンとともにテーブルの上に広げる。

 まず青いペンを取ったアクトゥスは南の方にある一点に印をつけた。

 

「まずはここがカエムの隠し港になる。非戦闘員をここに連れて行くのが一つ」

「非戦闘員だけか? あ、いや、ですか?」

「タメ口で良いって。ここからは同じ旅をする仲間だ」

 

 咄嗟に敬語にすべきか迷うグラディオラスに笑った後、彼の疑問に答えていく。

 

「何人か警護隊の人間も回す。ジャレッドも本来なら入院させておきたいんだが、ホテルで人を斬りつける人物がいるんだ。多少の危険は覚悟で護送したい」

「護送の護衛は誰が行うつもりですか?」

「オレたちでやる――と言いたいが、コルに頼む」

「――では、オレたちには別の役目があると考えても?」

 

 眼鏡の位置を直しながら聞いてきたイグニスにアクトゥスもうなずく。

 

「ここからカエムに向かう途中に、帝国軍基地がある。そこを叩く」

「ジャレッドを斬りつけた相手がいるから?」

「そうだな。ニフルハイムの情報が入手できるチャンスだ」

「あ、なるほど。じゃあ潜入作戦?」

「シフトが使える王族が二人いるんだ。潜入して爆弾仕掛けて悠々脱出ぐらいわけないさ」

 

 プロンプトの質問にそう答え、アクトゥスはノクティスを見る。

 個人の機動力はシフトを使える二人が群を抜いている。この力を駆使すれば魔導兵の闊歩する基地内部への潜入など、ほとんど散歩と変わらない。

 

「で、目的を達成したらとっとと脱出してカエムで合流。その後改めてオルティシエに、だ。何か質問は?」

「ない。とっととやろうぜ」

「待ってください、一つあります。王の力集めがまだ終わっていませんが、そちらはどのように?」

 

 イグニスの質問にアクトゥスは待ってましたと頬を緩ませながら答えていく。

 

「カエムに到着してから……と言いたいが、場所の関係上レスタルムから動くのも好ましくない。ということで――拠点をカエムとレスタルムの二つに持とうと思う」

「足を止められる場所は多いに越したことはないからな。だがどこに拠点を? さすがにこのホテルをこのまま使うわけにはいかないだろ」

 

 グラディオラスの指摘も尤もだ。というか刃傷沙汰があったホテルなど風評被害以外の何物でもないので、アクトゥスたちはなるべく早く退去しなければならない立場だ。

 

「当てはあるんですか?」

「ある。宿とは違い、なおかつ大人数でも入れる場所に心当たりがある」

「なんだよ、もったいぶらずに言えって」

「オレの家」

「……は?」

「レスタルムに家持ってるんだよ、オレ。そこを使ってくれ」

 

 アクトゥスは一年の大半を王都の外で過ごすのだ。外で活動するための拠点を持つことにも何ら不思議はない。

 

「兄貴、家なんて持ってたのか!?」

「王都にいる日数の方が少なかったんだぞ? その間ホテル暮らしじゃギルがいくらあっても足りんわ」

「へええ、やっぱり外交官って儲かるんです?」

「仕事の合間にハンターやって稼いだ。外交官の給料は王都の通貨だからな……」

 

 ぶっちゃけ外では使えなかったりする。ギルにしてくれと再三頼んでいたのだが、そもそも鎖国をしている国でギルの安定供給など望むべくもなし。

 物品支給などという、いつの時代の給料だと言いたくなるような状況すらあった。

 

「まあオレの苦労話はどうだっていいんだよ。話をまとめるぞ。――まずオレとノクトたちで帝国軍基地を襲撃し、その後カエムに向かう。カエムに着いたら船でオルティシエだ」

 

 ルナフレーナ含めた全員がうなずくのを見て、アクトゥスは話を締めくくりに入る。

 

「王の力集めや、協力者集めは止めない。合間を見てやっていく形にしよう。あと、レガリアに乗れるのは多くても五人が限界だろうからその辺りはノクトに任せる」

「ん、了解。そんじゃあ……帝国軍に一泡吹かせに行くか!!」

 

 神々の力と歴代王の力を振るうノクティスに、彼と同じ力の一端を操るアクトゥス。

 そして神凪としてシガイを祓う力を所持するルナフレーナ。

 全て個人の所持する力ではあるが――それらは間違いなく軍隊、ないしそれ以上に脅威となる力だ。

 

 ここからが反撃だ。

 

 全員がその意思を胸に宿し、その場は解散となるのであった。




ここでようやくアクトとルーナが合流。仲間になります。ゲーム的にはパーティ編成ができる感じをイメージしてもらえれば。

アクトはシフト、魔法を中心にしたノクトに近いバランスの良い戦い方を。
ルーナは回復、補助が中心の後方支援型みたいな感じをイメージしています。

ストーリーを進めてからサブクエに入りますので、次のお話はまたもや基地攻略戦です。お前ら短い間にいくつの基地を潰すつもりだ(困惑)

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