ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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ロイヤルパックが発売されましたね。色々と設定が各所に置かれているとか。上手く取り入れられる物を取り入れていきたい(願望)


ヴォラレ基地攻略戦

 ヴォラレ基地。

 基地としての規模そのものは、先日に破壊したアラケオル基地と比較すれば小規模だが、それでも十二分に揚陸艇や魔導兵を収容できる規模を持つ基地。

 

 付近にはクロウズ・ネストの本店であるオールド・レスタという店がある。そこでしか食べられないスペシャルメニューもあるが――今回は作戦後の祝杯という形で堪能することにした。

 

 コルたちと一度合流し、イリスとルナフレーナには念のため別ルートを使った上で、カエムに向かってもらっている。この場にいるのはノクティス一行とアクトゥスのみだ。

 

「あまり数は見えねえな」

「魔導兵の特徴は、事前のデータさえあればどこに置いても一定の効果が見込めるってことだ。要するにデータを別の場所で記憶させて運んでくれば兵士の出来上がりだ」

「以前から倒しても倒しても湧いてくると思っていたが、そういう理屈か。本土で作成し、持ってくるだけ、と」

「おそらくな」

 

 ノクティスたちが持つ疑問のほとんどに、アクトゥスは淀みなく答えていく。

 その予め答えを知っていたとしか思えない情報量に、イグニスは何かを察して口を開いた。

 

「……アクトゥス様。やはり外交官というのは……」

「いや、それもオレの仕事だ。ただそれとは別に諜報員じみたこともやっていた」

 

 要するに、そういうことである。こんな状況を想定していたのかは不明だが、彼と彼に命令を出したであろうレギスはニフルハイムとの戦争において、ただ守るだけではなかったのだ。

 

「とりあえず全貌を把握できる場所に行こう。どのくらいの兵員が詰めているのか確認したい」

「異議なーし。ルナフレーナ様とイリスに早く明るい報告を持っていこうよ」

 

 プロンプトの言葉にうなずき、一行はある程度の高さを持つ見張り塔に立つ。

 無論、そこにも魔導兵は詰めていたが――シフトを使える王族二人がいる時点で、物の数にもならなかった。

 

 一行は基地を見下ろし、先日見た覚えのある毒々しい電波を放つ塔を見つける。

 

「電波塔が見えるな。あれは破壊しておきたい」

「魔導兵の能力が強化されるんだったか。コルたちには今後も陽動を頼んでいる。楽をさせるためにも、破壊には賛成だ」

「その上で、ジャレッドを斬りつけたという帝国軍を捕らえたい」

「ずっと魔導兵の相手じゃキリがねえし、向こうのことは何もわかってねえしな」

 

 グラディオラスの言葉に全員が賛同の意思を示す。

 アーデンやレイヴス。帝国の要人と思われる人物は何名かノクティスの前に姿を表しているが、帝国軍としての動向は未だ不明な点が多い。

 

 人数も揃い、やっとルシス側は本当の意味で足並みが揃えられそうなのだ。ここらで一手、反撃の妙手というのを打っておきたかった。

 

「じゃあ目的をまとめるか。ノクト、頼む」

「え、そこだけオレかよ? ……まあ良いか。やんなきゃならねーのは電波塔の破壊と帝国軍人とやらをとっ捕まえること。二手に行くしかないだろ」

「アクトゥス様。ノクトとともに捕縛側をお願いします」

「分散させないのか?」

 

 自分の魔力を込めた武器さえあればどこであろうと瞬間移動ができるシフト魔法は、こと戦争において絶大な力を発揮する。

 魔導兵と魔導アーマーしかいない基地程度なら、アクトゥス一人でも壊滅させるのは余裕であると断言できるほどにその効果は大きい。

 潜入、逃走、暗殺。魔導兵で数こそ多いものの、指揮を取れる人間が非常に少ないニフルハイムにとって脅威としか言えない能力なのだ。

 

「考えましたが、電波塔の破壊はどうしても大きな音が伴います。そのまま離脱する破壊工作ならまだしも、今回は基地の機能そのものに打撃を与えたい。スムーズに戦闘に移行するのであれば私たちが向かった方が良いかと」

「いや、考えがあるなら文句はない。……あと、別にタメ口で構わないぞ?」

「申し訳ありません、意識はしているのですが……」

「無理強いするつもりはない。無理だと思ったら今まで通りで構わんよ」

「イグニスたちもアクトさんとはあまり会ってないの?」

 

 要領が良いグラディオラスはその辺りを割り切ったらしく、アクトゥスとも対等の立場として話しているが、イグニスには難しいようだ。

 それを不思議に思ったプロンプトが口を開き、アクトゥスがそれに答える。

 

「あまり王都に戻ってないからな。キツイ時は一年のうち数日戻れれば良い方ぐらいだった時もある」

「そりゃキツイっすね。やっぱりお仕事って大変だったんですか?」

「やることも多かったし、ルシス中を駈けずり回ったからな……」

 

 歴代王の墓所を探し、ニフルハイムの動向を探り、それとは別に外交官としての仕事も行い、お金は出ないので自力で稼ぐ。道中もモンスターやらシガイやらで危険が満載だが、危険手当も残業手当も出ないと来た。

 振り返ってみるとブラックどころではない労働環境である。我ながらよく完遂できたものだとアクトゥスは自画自賛する。

 

「まあそこはさておき、我らが王様に一声かけてもらおうじゃないの」

「は? そんな流れだったか、いま?」

「そういう流れだよ。ようやく合流も果たせて、旅の目的も定まって、その矢先の作戦なんだ。景気良く行こうぜ」

「ったく、兄貴がやりたいだけだろ。――行くぞ! こっから反撃だ!!」

 

 鬨の声、というにはやや控えめなものだったが、それがルシスにとっての反撃の狼煙となるのであった。

 

 

 

 

 

 作戦は夜に行われる。

 ルシスの戦闘装束は闇に紛れるのに適しており、基本的に少数である彼らは夜討ち朝駆けといったゲリラ戦法において力を発揮しやすかった。

 

 イグニス、グラディオラス、プロンプトの三人は別口から潜入し、電波塔の破壊を狙ってもらう。

 そしてノクティスとアクトゥスの二人は――

 

「外壁だろうと、オレたちなら何の意味もない」

「つくづく、シフトってこういう時に強いよな」

 

 通常なら上空から降下艇でも使わなければ難しい場所――ヴォラレ基地の外壁部分に立って、下を見下ろしていた。

 

「中に入り、人間を探す。見つけたら捕まえたいところだが、人手が足りない」

「コルたちはルーナの護衛だからな」

 

 メルダシオのハンターに頼む手もあるが、ハンターは玉石混交な部分がある。

 強いハンターはカトブレパスだろうとミドガルズオルムだろうと狩ってしまう凄腕だが、弱いハンターはゴブリン相手でもケガをするほどだ。

 ……まあこの場合は後者が普通の人間であって、前者は明らかに人間をやめた類の存在なのだが。アクトゥスは前者のハンターを何度か見たことがあるが、その度にあいつら人間かよ、と内心で慄いていた。

 

「適当な倉庫か物陰に引きずって、その場で尋問する。まあ、今後ルシスに送られてくる魔導兵の規模でもわかれば御の字だな」

「あんま期待してないのか?」

「もっと突っ込んだ情報となると難しいだろうな。ドンパチやってりゃ良い軍人が知ってる情報で、オレらが欲しい情報なんてそうそうあるもんじゃない」

 

 そこまで重視もしていない。ついでだついで、とアクトゥスは気楽な調子で口ずさむ。

 しかし、それも次の瞬間には消えている。

 

「とはいえ、情報はあるに越したことはない。――始めるぞ」

「おう。遅れるなよ?」

「色々と使えるようになったみたいだが、シフトの使い方でオレに勝てると思うなよ?」

 

 動き出したのは同時だった。

 それぞれが手に持つ武器を建物の屋根に投げつけ、シフトで着地。

 ノクティスとアクトゥスは互いの位置を確認した上で、すぐに次の行動に移っていく。

 

 すなわち、シフトを使って音もなく魔導兵を消す作業だ。

 数がいればそれなりに厄介だが、数のない魔導兵など雑兵にも劣る。背後からのシフトブレイクで一撃で崩壊していく。

 

 やがて二人が合流した時、すでに周囲の魔導兵は最低限の数に減っていた。

 

「全部片付けなくて良いのか?」

「そしたら逆にバレるだろ。オレは八体片付けた」

「オレは六体。くっそ、やっぱ兄貴はえーな」

 

 アクトゥスの動きを横目で見る機会があったのだが、何度見てもアクトゥスのシフトブレイクは挙動がわからない。

 なにせ一体に刺したと思ったらすでに次の魔導兵に移っているのだ。おそらくそれぞれ距離の違う相手に対して武器を投げることで到達時間を遅らせ、それでシフトブレイクを同時に行う余地を生み出しているのだろう。

 理屈はわかるが真似はできそうにない曲芸だ。シフトからシフトへのタイムラグもほとんどない。

 

「ま、これだけはな。こいつがオレの王族たる証明みたいなもんだ」

「……そか」

 

 これまでのノクティスであれば単純に凄まじいの一言で終わらせていただろう。

 だが、彼の抱える事情を多少なりとも知った今ならわかる。

 これは彼の執念だ。ノクティスの実兄であるのにファントムソードを使えず、神の力も使えない。

 ならばこれだけは。魔法の扱いだけはノクティス以上でありたい、という彼の意地だ。

 意地は意志となり、意志は執念となり、執念は彼の技巧をここまで高めた。

 

 こと戦闘力という点で見ればノクティスはアクトゥスを既に超えているだろうし、レイヴスには勝てないだろう。

 しかし小器用な立ち回りを求められたら、間違いなくアクトゥスがトップに立つ。それがノクティスには確信できた。

 

「いたぞ。派手な金色の鎧で目立つなオイ」

「うわ、マジだ。あんなん着て恥ずかしくねーのか」

 

 帝国軍人と思しき人間に対して言いたい放題に言いながら、一人になる瞬間を見計らう。

 魔導兵が一体、彼を護衛するように付き従っているが、ノクティスとアクトゥスの二人がいる状況なら障害にならない。

 そのため彼らの行動は人間が魔導兵とともにやや暗く、他から見えない場所に行ったと同時に始まった。

 

「――今」

「――っ!!」

 

 アクトゥスの合図と同時に二人は剣を投げてシフトを行う。

 ノクティスは横に魔導兵を音もなく破壊し、アクトゥスは男の後頭部を短剣の柄で強打して気絶させていた。

 

「よし、上手く行った」

「こっからどうする?」

「ノクトはイグニスたちと合流して電波塔を破壊してこい。終わったら合流とか考えないで脱出して良い。その場合の合流地点は近くの標にしよう」

「わかった、兄貴は?」

 

 アクトゥスは気絶している男を足で小突きながら答える。

 その顔は夜闇で見えにくいが、確かに酷薄な寒気を漂わせており、これから彼が行うであろうことが後ろ暗い内容であることを推察するに十分なものだった。

 

「こいつから聞けるだけ聞き出す。終わったら電波塔を目指すが、破壊されてたらオレも脱出する」

「わかった。……兄貴、無理すんなよ。そっちは一人なんだから、何かあったら合流しろよ」

「ま、なんとかするさ。実戦経験でノクトにはまだまだ負けてられん」

 

 軽く手を振るアクトゥスにノクティスは心配そうに何度か振り返りながらも、イグニスたちの方へ向かっていく。

 アクトゥスはそれを見送り、これで電波塔は問題ないことを確信しながら思考を回転させる。

 

(ノクトがいる以上、レイヴスでも来ない限り電波塔はなんとかなる。神々の力まで使えるあいつの力は間違いなくレイヴスを上回っている)

 

 直撃さえさせることができれば、ノクティスは既にレイヴスを倒す刃は持っているのだ。その直撃までのハードルが異様に高いだけで。

 ホント何なんだあいつは、とアクトゥスも愚痴をこぼす。神凪の力もあるだろうが、あそこまでの技量を持っているなど反則も良いところだ。

 

「それはさておき――」

 

 アクトゥスはいくつかの武器を召喚すると、建物の角に投げたり、適当な場所に隠して緊急時の逃げ場所を作っていく。

 それらが終わってから、アクトゥスは両手足を縛り上げた帝国軍人の顔を思い切り殴り飛ばす。

 手頃な屋内があればそちらに移していたのだが、今回はその時間も惜しかったため暗がりに連れ込んでの尋問となる。

 

「ぐっ!? こ、ここは!?」

「やあおはよう。レスタルムではウチの非戦闘員が世話になったね」

「お前は――ルシスの王子!」

「今からお前に許すのはオレの質問に正確に答えることだけだ。お前の名前は?」

「誰が答え――がぁぁっ!?」

 

 口答えする前に召喚したナイフを腕に突き刺す。

 ズブリと肉に刺さる感触と噴き出る鉄の臭いに顔をしかめるものの、アクトゥスはそれ以外の感情を押さえ込んで尋問を続ける。

 

「通りの悪い耳に慈悲深いオレはもう一度言ってやる。質問に対する答えは正確に、だ。改めて聞くぞ。お前の名は?」

「か、カリゴ! カリゴ・オドーだ! 帝国准将だ!!」

「へえ、こりゃ意外と大物だ」

「そ、そうだ!! 私にこのような仕打ちをしたとあっては本国が黙って――あああぁぁっ!!」

「口答えする権利なんざ与えてないって言ってんだろ。ガタガタ騒ぐんならその喉を噴水に変えるぞ?」

 

 ドスの利いた声を出しながら帝国軍人――カリゴの足にナイフを突き刺す。

 尋問のコツは話が通じない人間であると思わせることと、お前の命に価値はないと骨身に染み渡らせることの二つだ。

 無論、この場で殺すつもりなどアクトゥスにはない。捕虜にしておけば後々役に立つ場面も来るはずだ。帝国准将なんて大物の命、ここで潰すには惜しい。

 

「さて、次の質問だ。ここにある魔導兵の規模は?」

「こ、ここは中継基地だ! ここで揚陸艇の補給をして各地に出すまでの場所でしかない。規模など流動的すぎて把握できん!!」

「ほいほい、ご協力ありがとうございますっと。となると次に聞くべきは直近の魔導兵の送り先を――」

 

 酷薄な笑みを浮かべて次の質問をしようとしたアクトゥスだが、次の瞬間にはその場から消えてカリゴの後ろに回り込んでいた。

 するとつい一瞬前までアクトゥスのいた場所を鋭利な槍が貫いていく。槍はカリゴの前に来るとピタリと静止した。

 

「――おっかないね。警告もなしに攻撃か」

 

 片手でカリゴを肉の盾にしながら、アクトゥスは槍の使い手を見る。

 すでに誰なのかはわかっている。竜騎士の異名を持ち、さんざんルシスを苦しめてきた帝国将軍の一人だ。

 傭兵として身を立て雇われという身ではあるが、帝国軍の将軍にまで上り詰め、その武芸を存分にルシスへと振るう女将軍。

 その竜騎士――アラネア・ハイウィンドは小型の魔導ブースターをつけた特注の魔導槍を振るうと、アクトゥスを睨む。

 

「そりゃお互い様さ。戦争やってる以上あんたのやり方を咎める気はないけど、一応同僚なんだ。――手、放してもらおうか」

「ああ、別に構わない……ぜっ!!」

 

 アクトゥスはカリゴの背中を思い切り蹴飛ばし、その勢いを利用して距離を取る。

 アラネアは追いかけずにカリゴを受け止め、地面に横たえる。

 苦痛に脂汗を流しているカリゴの傷を確認し、アラネアは軽くうなずいて立ち上がった。

 

「――見た感じ急いで尋問してたみたいだし、傷は後遺症の残るようなもんじゃないよ。安心しな」

「……あの男を」

「うん?」

 

 カリゴの口から出た言葉は自身の安全を確保するものではなく、強い憎しみに彩られた別のものだった。

 

「あの男を、殺せ……!! 奴は必ずや帝国に仇なす怨敵!!」

 

 血を吐くような言葉にアラネアは感心したように口笛を吹く。

 見た目ばかり取り繕う慇懃無礼な男だとばかり思っていたが、なかなかどうして気骨がある。

 あるいはそれが彼の帝国軍人としての矜持かもしれないが――こういった土壇場で見せる根性というのは嫌いじゃなかった。

 

「良いけど、あたしが殺して良いのかい? あんたの手で恨みは晴らせなくなるよ」

「お前が殺せないなら私が直々に殺すだけだ!! さっさと行け傭兵崩れが!!」

「ハハハッ、怒鳴る元気があるなら大丈夫そうだね! んじゃ、ちょっくら試してみようか!!」

 

 アラネアはその卓越した脚力で跳躍すると、アクトゥスを追いかけ始める。

 一人残されたカリゴは腕と足に刺さっていたナイフを抜くと、己の血で光を反射するその刀身に、憤怒と憎悪を滾らせた顔を覗かせるのであった。

 

「この恨み……必ず晴らさせてもらいますよ……!!」

 

 

 

 

 

「こいつで、終わりだ!!」

 

 遠心力を味方に付け、巨神の拳を伴った大剣によるシフトブレイクが電波塔をひしゃげさせる。

 さらに槍を上空に投げ、空高くから雷神の雷を纏った槍のジャンプ攻撃が電波塔を見る影もないまでに破壊する。

 

「うわ、すっごい破壊力。ノクト人間やめてない?」

「神々の力が凄まじいだけだろう。あまり褒めると調子に乗る」

「使いこなしてんのオレだぞ、ちったぁ褒めろよ」

「ま、全員無事だったんだから良いじゃねえか」

 

 魔導アーマーも魔導兵ももはや彼らの敵ではない。

 ノクティスが武器を振るえばどんな敵であろうと一撃で薙ぎ払われ、神々の力を行使する関係でどうしても大振りになりがちな攻撃の隙をグラディオラスとイグニスが埋めていく。

 プロンプトは銃による足止めに徹し、彼らが武器を振るいやすい状況を作れば良いのだ。ある意味理想的な役割分担と言える。

 

「兄貴は……まだ来てねえか。脱出するぞ」

「わかった。早々に撤収を――プロンプト、どうした?」

 

 魔導兵の増援も来ていないうちに脱出しようとイグニスが口を動かしていると、プロンプトが不意に空の一点を見つめ始める。

 目を凝らし、宵闇しかない暗闇に何かを見つけようとしているように感じられた。

 

「……気のせいじゃない! 皆、あれ見て!!」

 

 切羽詰まった様子のプロンプトが空の一点を指差し、全員の視線がそちらに誘導される。

 

「んだよ、何も見えねえぞ?」

「さっき赤い光が見えたんだ! それにノクトのお兄さんが見えた!!」

「は、兄貴が? ――ってことは」

 

 もう一度、今度は全員が真剣な表情で空を睨みつけ――空中で交差する魔導ブースターの赤い光とシフトの青い光を見出す。

 光は交錯し、激しい火花を何度か散らした後、アクトゥスの身体がノクティスたちの方へ向かって蹴り飛ばされた。

 吹き飛ばされたアクトゥスだが、空中で体勢を立て直すとノクティスたちのそばにシフトで移動し、彼らと合流する。

 

「兄貴!!」

「悪い、厄介なのに絡まれた」

「相手は一体?」

「アラネア・ハイウィンド。小型魔導ブースターの取り付けられた槍を操って戦う帝国将軍。クソ強い」

 

 情報を求めたイグニスにアクトゥスが先ほどの戦闘含めてわかったことを伝える。

 

「わかりました。では――」

「こっちに来てる!! ノクト、アクトさん危ない!!」

 

 作戦を伝える前に、プロンプトの危機を伝える声が彼らを動かした。

 すでに戦っていてアラネアの武器がわかるアクトゥスと、咄嗟に身体の動いたノクティスがそれぞれ片手剣を持って空中から迫る槍を受け止める。

 

 二人の剣と槍が交錯し、互いの顔が見えるほどに接近する。

 アラネアは己の槍を止める二人の顔を見て、面白そうに口笛を吹いた。

 

「へえ、弟の方も可愛らしい顔してんじゃない」

「――っせ!!」

 

 ノクティスを守るように振るわれたグラディオラスの大剣を、アラネアは軽やかに後ろに跳ぶことで避ける。

 そしてそのまま槍を構え、一行と相対した。

 

「おたくらにはおたくらの事情があるんでしょうけど、こっちにもこっちの事情があるんでね。さあ、やり合おうか!!」

 

 その言葉と同時にアラネアは空高く、あっという間に夜の闇に溶けてしまうくらい高く跳躍する。

 それを見たアクトゥスはすぐに妨害に移れなかったことに舌打ちし、全員に注意を促す。

 

「あのジャンプ攻撃は食らうな!! あんな高高度から魔導ブースターの加速込みの威力なんて――」

 

 最後まで言葉は続かず、アクトゥスはシフトを使ってその場から離れる。

 その直後、アクトゥスのいた場所を魔導ブースターの発する赤い光が貫く。

 貫く、というのはやや語弊がある。正しくは――彼の立っていたコンクリートの地面深くまで槍が穴を穿っていた。

 衝撃で近くにあった物見塔が支えを失って倒れるが、気にも留めない。

 

 その光景を見たアクトゥス以外の全員が息を呑む。

 あれが直撃したら良くて戦闘不能。悪ければ即死の未来しか見えない代物だ。

 生身の人間で、神々の力を持つでもなくこれほどの破壊力を生み出す人間を彼らは知らなかった。

 

「あらら、最近の建物って根性ないんじゃない?」

「根性の問題じゃ――ないっての!!」

 

 間一髪難を逃れたアクトゥスがその手に槍を握ってシフトブレイクからの急襲を仕掛ける。

 アラネアは獰猛な笑みを浮かべ、急接近してきたアクトゥスと何度か武器を合わせていく。

 突き、払い、石突での刺突。槍を用いた技が瞬時に繰り出され、双方の武器が火花を散らす。

 

「へぇ、槍の扱いも上手いもんじゃない。ルシスの王族ってみんなこうなの?」

「武器が使えなきゃ、とても名乗れない、ねっ!!」

 

 互いに振るった武器が交差し、その衝撃で吹き飛ばされる。

 アクトゥスは豹を連想させるしなやかな動きで衝撃を殺すと、再度シフトブレイクを試みる。

 しかしすでにアラネアは地上におらず、再び天高く舞い上がっていた。

 

 再び地上を攻撃するまで僅かな時間ができた。彼女のジャンプ攻撃は脅威的の一言だが、空中から地上への攻撃である関係上、連発できないのが救いである。

 なんとか打開策を練らなければと、ノクティスたちはいつでも離脱できる程度の距離を維持しながら集まる。

 

「あれが竜騎士の由来だ。ああやってジャンプ攻撃を繰り返すだけで敵は死ぬ」

「おまけに地上から空中への攻撃手段に乏しければ、彼女には誰も手出しができなくなる」

 

 イグニスのまとめた内容に皆は肩をすくめ、ノクティスとアクトゥスに視線が集まった。

 地上での白兵戦に勝ち目がないのなら――こちらも空中戦を仕掛ければ良い。

 幸い、この場には彼女以上に個人で空中戦を行える人間が二人もいる。

 

「そういうことだ。まあ――だとすればやることは決まってる」

「だな。売られた喧嘩、買ってやろうじゃねえか」

 

 ノクティスとアクトゥスは互いの拳をぶつけ合い、前に立つ。

 

「空中で戦う人間とか初めて見たわ。世界って広いな」

「オレやお前みたいにシフトを使うわけでもないとは脱帽だ。けど、勝てない相手じゃない」

「まーな。あん時に比べりゃ余裕あるわ」

 

 両者が思い起こすのは機械腕と細身のサーベルを振るい、あろうことかルシスの王族二人を圧倒した将軍の姿。

 使用している武器が白兵戦に用いるものである以上、ファントムソードを操るノクティスもシフトに長けたアクトゥスも攻撃チャンスが皆無とは言えない。

 だがその少ないチャンスを物にして、完璧に圧倒できるような技量の持ち主など世界を見渡しても彼ぐらいしかいないだろう。

 

「じゃあ――やるか!」

「おう! チャンス頼むぞ、兄貴!!」

 

 二人は同時に武器を召喚し、上空にいるアラネア目掛けて投げつけ――前代未聞の三人での空中戦が幕を開けるのであった。

 

 

 

「グラディオ、退路を頼む。あの様子では戦った後に余力は残らないだろう」

「わかった。……ったく、王の盾が聞いて呆れる」

「その愚痴は生き残ってからにしてくれ。……プロンプト?」

 

 空中戦に移行した彼らの援護は難しいと早々に割り切り、戦いの後を考え始めたイグニスが矢継ぎ早に指示を出していると、不意にプロンプトに視線が止まる。

 すでに戦いは人知の及ぶ領域を超えつつあり、時折明滅する赤い光と青い光だけが彼らの戦闘を証明している状態だった。

 

「どうかしたのか?」

「いや、あの女の人すごいよ。ノクトとアクトさん、二人がかりで戦ってるのに上手くさばいてる」

「帝国の将軍は伊達ではないのだろう。――待て、今なんと言った?」

「え? あの女の人すごいなーって」

「そうじゃない。――お前にはあの戦いが光以外に見えているのか?」

 

 戸惑いながらもしっかりとうなずくプロンプトにイグニスは思案の顔を作る。

 思い返してみても、先ほどのアラネアの攻撃を最初に気づいたのはプロンプトだった。

 今もイグニスには見えていない光景を彼はハッキリと認識している。

 

「……グラディオの援護を頼もうと思っていたが、作戦変更だ。プロンプト、お前にしかできない仕事がある」

「オレにしか、できない?」

「ああ、頼めるか」

「――任せて。イグニスの指示なら、無条件で信じるよ」

 

 空中での戦いがあれば、地上での戦いもまた存在する。

 彼らの戦いはより苛烈さを増していき――やがて収束していくのであった。




アクトゥス は へんなフラグを 立てた! 悪いことはするもんじゃありませんね。

そしてアラネアさんも大概ヤバい人です。大体ジャンプしてれば攻撃は受けないし、落下攻撃で敵は死ぬ。なお今回は素で空中戦やれる人類の例外が二人いた模様。
ちなみにレイヴス将軍はジャンプ攻撃の瞬間、槍の着地点を剣でずらしてカウンター可能です。この人が一番ヤバい。

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