ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者― 作:右に倣え
「は、ハハハハハッ! 空中で人間と戦うなんて初めてだよ! お二人さん、面白い術持ってるじゃないの!!」
「笑ってられるのも今のうちだ!!」
上空。人間が何の装備もなしに滞在することなど不可能なその領域で、女一人と男二人の勝負は始まっていた。
一度超高度まで自力で跳ぶことで、あとは槍に備え付けられた魔導ブースターを使い自在に空中を移動できるアラネアと、己の魔力を通した武器があればどこであろうと瞬時に移動ができるシフト魔法の使い手が二人。
ノクティスとアクトゥスは空中で目配せすると、アクトゥスの方が双剣で攻撃を仕掛けていく。
「おや、弟くんは見てるだけ?」
「さて、どうだろう、なっ!!」
アクトゥスの振るう双剣とアラネアの操る槍がぶつかり合い、暗闇の中にいくつかの仄かな光を生み出す。
どちらも決定打には至らない。そも、勢いのほとんど乗らない空中での攻撃に致命打を期待する方がおかしい。
だからこれは相手の体勢をいかに上手く崩すか、という点に焦点が当たっている。
そしてその点をより深く理解していたのは――手数の多い双剣でダメージを最初から切り捨てていた、アクトゥスだった。
振るわれる槍を払い除け、懐に接近したアクトゥスが地面へと叩きつけるように双剣を振り下ろす。
「さっすが、空中での戦いはお手の物ってやつ?」
「そっちこそ冗談キツイぜ。空で白兵戦なんて初めてだろうに、すぐ対応しやがる」
「お褒めの言葉どうも。じゃあ――ここからが腕の見せ所だ!!」
驚くべきことにアラネアは空中で体勢を立て直すと槍を空に向けて構え、魔導ブースターで高度を上げていく。
当然、軌道にはアクトゥスがいるが――彼は乾坤一擲の勝負でない限り余計なリスクを背負うことを厭うタイプであることは、先の攻防で見抜いていた。
「チィッ!!」
「あはははは!! ほらほら、こんな戦い滅多にないんだ! 楽しまなきゃ損だよ!!」
再びアクトゥスが片手剣を投げてシフトで接近し――軽い牽制だけですぐにその場を離脱する。
何事かと視界を動かすと、アラネアより更に上空に大剣を振りかぶったノクティスの姿があったのだ。
「ノクト!!」
「はいよっ!」
振るわれる一撃は大ぶりで鈍重ながら、巨神の拳を伴った広範囲に影響を及ぼすもの。
これを受けたらレイヴスとて無事ではすまない。アラネアもそれを察したのか表情を変えて槍を操り、素早く距離を取ろうとする。
だがその瞬間こそ二人の狙ったものであり――
「――マズっ!」
「空中戦はより素早く三次元に動ける奴が勝つ。覚えておけ」
シフトを連続で行い、アラネアの後ろに回り込んでいたアクトゥスが無防備な背中に一撃を加えるのであった。
しかし相手もさるもの。咄嗟に身をひねり魔導ブースターを全力で吹かすことで身体を動かし、ほぼ完璧なバックアタックからの攻撃をかすり傷に抑える。
「さすが、ルシスの王子二人は分が悪いかな?」
「二人相手取るだけでも大したものだっての。けどまあ――終いだ!!」
至近距離に潜り込めば、手数を稼げる双剣の優位は揺るがなくなる。
先ほどまではアラネアが上手く槍で牽制していたが、手傷を負った今なら動きも鈍い。
ノクティスの一撃を当てるべく援護に徹していたアクトゥスもここからの加減はしなかった。
先ほどとは打って変わった急所狙いの鋭い斬撃が、アラネアの命を絶つべく閃く。
「っとと! 良い殺気だ!! さっきまでは手加減してたね!!」
「無策で敵に手札を晒せるかよ。あんたはここで倒す」
「こりゃさすがに旗色が悪いか。あいつへの義理も果たしたことだし撤退でも――」
「やらせるか!!」
制止の声は切り合うアラネアとアクトゥスの頭上から。
下手に彼らの白兵戦に突っ込んで三つ巴になることを避けたノクティスは、自身に扱える六神の力を十全に振るえる状況を待っていた。
そして今好機は来た。彼の手に握られているのは――アラネアと同じ槍だ。
咄嗟にアラネアの脳裏によぎったのは疑問。
先ほど使った大剣の一撃は間違いなく脅威となる。直撃したら戦闘不能は免れない。
ケガを負って動きも鈍った今であればアクトゥスは退避し、自分だけに当てることも可能だろう。
しかし槍を選んだ。ならばそれには彼なりの意味があると考えるべきで――
「――ッ、ヤバっ!!」
「落ちろッ!!」
なりふり構わない移動ができたのは彼女が間違いなく戦士として優秀だからだ。
論理と経験、そして直感。全てに優れ、どの場面でどれを優先すべきか、野性的とも言えるセンスが彼女を今日まで生き永らえさせてきた。
それこそ――ノクティスの投げた槍の軌道を雷が迸ったとしても、その直撃を避けることができるほどに。
当たっていれば黒焦げか、骨も残らないか――雷神の力の一端を身に受けて生き残れると断言できるほど、アラネアは自分の肉体に自信はなかった。
本当に人間離れしてる、とアラネアは内心で冷や汗を流す。
アクトゥスはルシスの王族であることを考えれば常識的な範疇だが、ノクティスの振るう力はすでに人間に許されたそれではない。
徐々に力を使いこなしつつあることも加味して、彼は遠からず自分を越えるだろう。
アラネアは体勢を崩しながらも建物の一角に着地し、ノクティスとアクトゥスもすぐに動ける場所に武器を投げてシフトで移動する。
「本当におっかない力だよ。さすが、としか言いようがない」
「避けたあんたもバケモンだ。レイヴスかっての」
「冗談! あれが正真正銘のバケモンでしょ。あれに比べればあたしはまだまだ人間だよ!」
どんだけやべーんだよあいつは、とノクティスは心の中でルナフレーナの兄を思う。
確かに超人的な身体能力と技巧の持ち主であることは知っているが、あれが彼の底ではないということだろうか。
「さて、もうそろそろ潮時だとは思うんだけどね。ここ、残業しても残業代出ないのよ。とんだブラック」
「だったら退けよ。見逃してやる」
「そりゃどうも……って言いたいけど、もうちょっと義理は果たさせてもらおうか。あのいけ好かない准将サマ、意外と根性見せたわけだし、何もしないってのは女が廃る!!」
その言葉と同時、アラネアの身体が再び宙を舞う。
しかし今度は天高く舞うのではなく、低く鋭い――アクトゥスを狙ったもの。
「ったく、悪いことはするもんじゃないな本当に!!」
「兄貴!!」
繰り出される刺突を片手剣で防ぎ、制止に駆け寄ろうとするノクティスを空いた手で制する。
「力を貯めとけ!! コイツの相手はオレがやる!!」
「言うじゃない。けど、そう上手く行くかな!」
超高高度からのジャンプ攻撃がアラネアの最大の攻撃だ。
だがそれは彼女が白兵戦を行えないこととイコールにはならない。
むしろ次のジャンプに移行する前に地上で戦うこともあるのだ。白兵戦もできなければ話にならなかった。
空中とは違い踏みしめられる地面があるからこそ、その一撃は重く致命傷に成りうる。
彼女の手元から放たれる刺突は全てが急所狙い。受けたら戦闘不能、ないし死は免れないそれをアクトゥスは完全に見切って受け流す。
その所作は熟達した戦士にも通じるものであり、間違いなく一流の技量の持ち主であることがわかるだけの動きだった。
「へぇ、意外とガチンコもできるんだ」
「何分、一人旅が長くてね」
被害を減らすためであればいくらでも知恵を巡らせる。だがそれはアクトゥスの戦闘能力の低さを露呈するものではない。
とはいえ、幼い頃から傭兵として生きてきたアラネアとは比べられない。
彼が一人旅で磨いた技量を誇るならば、彼女は文字通り力のみを頼りに生き抜いてきた矜持があるのだ。
「ま、勝つのはあたしだ!!」
「っ!!」
振るわれた槍がアクトゥスの片手剣を弾き飛ばし、追撃の刺突がアクトゥスの手首を狙う。
それをすかさず召喚したアクトゥスの短剣が防ぐが――
「槍は突くだけの武器だと思った?」
「っ、チィッ!!」
手首の返しを利用し、槍の穂先で短剣を絡め取るように動かして短剣も弾く。
これは想定外だったのか、アクトゥスは顔を歪めてさらに召喚した短剣で槍の追撃を防いだ。
アラネアの猛攻は止むことなく続き、次々と召喚するアクトゥスの武器を見事に飛ばしていく。
「ほらほら!! その手品はもう見飽きたよ!!」
「こ、の……っ!」
アクトゥスは苦し紛れに召喚した盾でアラネアの視界を塞ごうとする。
しかしそれも彼女の超人的な反射神経により避けられ、無防備な彼の懐に槍が届く――前にアクトゥスが後ろに下がることでなんとか一命を取り留める。
ヒュウ、と軽く口笛を吹いてアラネアは息を整えるアクトゥスに声を掛ける。
「その生き汚さだけは大したもんだ。あんた、傭兵でもやっていけるよ」
「どうにも会う人会う人オレが王子だって誰も思っちゃいねえな。王位継承権を破棄したとは言え、一応王族だぞ?」
「で、手品はもうおしまい? だったらそろそろケリにしようか。それなりに義理も果たしたし、あんたの後ろの弟クンは正直倒せる気がしない」
「……良いぜ。ノクト!!」
「ああ、いつでもイケる」
「いいや、よく見とけ。これが――シフトでできることだ!!」
力を溜めていたノクティスに対し、アクトゥスは不敵に笑う。
先ほどまでの追い詰められていた顔とは似ても似つかない。まるで自分の勝ちを確信したかのような表情。
そしてアクトゥスが一歩を踏み出した瞬間、彼の姿はいくつにも増えていく。
「っ!」
アラネアの取った行動は咄嗟の後退。しかしそれはこの場において最適解であり――周りにアクトゥスの武器がばら撒かれたこの状況からの脱出が何をおいても優先すべきことだった。
そう――先ほどまで追いつめられたように見せていたのは全てアクトゥスの仕込みである。
今やアクトゥスとアラネアの間にあるものは無数に散らばるアクトゥスの武器。――つまり、彼は好きなタイミングで好きな場所にシフトし、どんな方向からでもアラネアを攻撃することができる。
窮地であったのは確かだが、同時に彼は勝利への布石を抜け目なく置き続けていたのだ。
そして今それは開花し、彼はアラネアに対して絶対の優位を獲得してみせた。
「一手」
瞬時にアラネアの後ろに回った短剣の一撃が背中を狙う。
「二手」
振り返り槍で払うと、次の瞬間には横合いから脇腹を狙った片手剣の突きが繰り出される。
「三手」
篭手で受け流すと、今度は正面にシフトしたアクトゥスが槍による払いを放っていた。
「四手!」
「こ、のっ!!」
一つを防いだ時点で次の攻撃が行われる。次の攻撃を防いでもまた次の攻撃が待っている。
シフトとシフトの時間を極限まで短くすることで発動可能になる全方位多重攻撃。
アクトゥスが発動させるには予め武器を敵の近くに用意しておくなど、発動させるにはいささか条件が厳しいが――発動さえすればほとんどの敵を反撃すら許さないまま倒すことができる。
事実、白兵戦において明確にアクトゥスの上を行っていたアラネアであっても、対処に手一杯になっていた。
全方位から、ほぼ同時に、まるでアクトゥスが複数いるかのように錯覚すら起こさせる速度での攻撃にアラネアもこれはマズイと足に力を込める。
確かにアクトゥスの攻撃は脅威的だが、同時にこの攻撃の欠点――と言えるかはわからないが、対処法も見えていた。
「大したもんだけど、上空なら追撃はできないだろ!」
「正解だ。――だからノクトを待たせておいたんだよ」
サァ、とアラネアは自身の血の気が引く音を確かに聞いた。
アクトゥスの攻撃は厄介ではあるものの、対応が不可能というわけではなかった。ジリ貧になるのが目に見えていたとしても、ジリ貧になるまでは持ちこたえられたのだ。
しかしノクティスの攻撃は違う。あれは直撃を許したが最後、問答無用に戦闘不能まで持っていかれる凶悪な威力だ。
「よく狙えよ、ノクト」
「わかってる。――この一撃で終わりだ!!」
裂帛の気合とともに放たれたのは巨神の拳。力を使いこなしつつあるのか、今の彼はもう大剣を振るうという工程を経ずに拳を召喚することができていた。
王の振るう腕に付き従うように召喚された巨神の腕が無造作に空をなぎ払い、その途中にあった矮小な虫――アラネアを吹き飛ばさんと迫る。
「な、めんな!!」
「マジか、避けた!?」
気合、根性、幸運、奇跡。ここまで来るとそうとしか表現のできない動きでアラネアは致命傷を避ける。
これにはアクトゥスもノクティスも舌を巻くしかなかった。絶対に倒せると確信のあった攻撃だったのだ、彼らのショックは大きい。
「ふぅ、寿命が縮んだよ全く――」
――今だ!!
ほんの一瞬の気の緩み。そして彼女の相手は何も王族ふたりだけではなかったこと。
ノクティスたちも失念していた仲間の援護。魔導兵から奪ったスナイパーライフルによる一撃。
通常なら何の苦もなく避けられるそれが、必殺の弾丸となってアラネアの兜を弾く。
「っ! きゃぁっ!!」
勇ましい彼女の口からは意外なほど女らしい悲鳴が上がり、体勢を崩して地面になんとか着地する。
「ゴメン、弾かれた!!」
「いや、助かった。――これ以上やるんなら、こっちも本気で殺しに行くぞ」
「ったたた……死ぬかと思ったわよ。さすがに潮時か」
兜がひび割れ、破片がかすったのか頭から血を流しながらアラネアは立ち上がり、槍をしまう。
「今日の残業はここまで。サービス残業は頼まれない限りしない主義だけど、無茶はもっとしない主義なの。正直、そっちとは何回も戦いたくないわ」
「お褒めの言葉、どーも」
「んじゃ、そこのボーヤ!」
「へ、お、オレ?」
「そう。――良い目してるじゃない。あんたの顔、覚えたからね」
「は、はぁ……はあぁ!?」
アラネアの言葉に呆けた様子のプロンプトだったが、言葉の意味を正しく理解すると、驚愕の声に変わっていく。
なにせ彼女の言葉はノクティスとアクトゥスが二人がかりで苦戦した傭兵が、何の後ろ盾もない一般市民である自分に目をつけたというのと同義なのだから。
「いやいやいや! ボクなんかよりそっちの王子たちを見てくださいよ!?」
「バカだね、恐ろしいってわかってる相手は最初っから警戒するもんだよ。けどダークホースってのは厄介だ。なにせその時になるまで脅威がわからない」
「オレらもプロンプトがここまでやるとは思わなかったわ」
「だろう? 思いもよらない一矢、ってのは厄介なんだよ。どんなベテランだろうと撃ち抜く銀の弾丸になりかねない。――ま、次はないけど」
そう言ってアラネアはプロンプトにウインクを一つくれてやる。
もっとも、プロンプトにはそれが死神の笑いと同義に見えただろうが。
「じゃあさよならだ! 次は敵じゃないことを祈りたいね!!」
話すことも終わったのかアラネアはさっきまでと同じ、脅威的な跳躍であっさりノクティスたちの戦域から離れていく。
彼女のジャンプは攻撃だけに役立つのではない。逃走にも同じだけの効果を発揮するのだ。
アラネアの姿が見えなくなってから、アクトゥスは大きく息を吐き、近くにいたノクティスの肩を叩く。
「とんでもない力を使いこなすようになったな、おつかれさん」
「兄貴も相変わらずすげー動きだったぜ」
腕をぶつけ合い、健闘を称え合う。
そして仲間たちの元に駆け寄り、真っ先にプロンプトの方へ向かう。
「さっきの一撃、すげーじゃねえか! よく当てたなあんな暗闇で!!」
「ああ、見直したわ」
「へへ、まあね……って見直したってどういう意味さ!? 今まではダメだと思われてたの!?」
「んなこと思ってねーけど、意外な力発揮したなって」
「ま、オレもいつまでも足を引っ張るわけにはいかないってね」
自分でも知らなかった力だった。プロンプトは妙に馴染むスナイパーライフルを手に、ノクティスとアクトゥスの賞賛を受け取る。
とはいえ良い気分に浸っていられるのもわずか。やってきたイグニスが弛緩している全員の空気を再び引き締める。
「難敵を退けたところに悪いが、早々に脱出するぞ。目的は果たせている以上、長居は無用だ」
「っと、そうだった。グラディオは?」
「退路の確保を任せている。レガリアに戻ろう」
なぎ倒された魔導兵を目印にレガリアへ戻ると、グラディオラスが肩慣らしにもならないとばかりに肩を回して待っていた。
「よう、そっちは問題なかったみたいだな」
「まーな。プロンプトが意外な才能発揮したわ」
「……そか。まあ事が済んだならとっとと脱出しようぜ。んで、カエムからオルティシエだ」
「そうだな。そんで水神の啓示を受けて、ニフルハイムをぶっ飛ばす!」
「旅の終わりも見えてきたな。当初はどうなるかと思ったが、希望は絶えないものだ」
イグニスの言葉にプロンプトがハッとした顔になる。
これまでは必死に目の前のことに集中していたが、こうして旅の仲間も増えて目的も明確化した今、旅の終わりも見え始めているのだ。
いつになるかはまだわからないが、必ずやってくる。それが今さらながらに実感できてしまい、少しだけ寂しい気持ちが出てしまう。
「……もうすぐ終わりなんだね」
「そうとは限らんよ」
「え?」
プロンプトのつぶやきを否定したのはアクトゥスだった。
耳ざとく聞きつけたアクトゥスは一つ一つ指を立てて現状の問題点を挙げていく。
「まだノクトのファントムソードが全部集まってない。ルシスの協力者もまだまだ集まりそうだし、カエムに着いても船が首尾良く使えるかはわからない。なにせ三十年前の骨董品だしな」
「は、はぁ」
「オルティシエに着いても水神の啓示と、それを邪魔しに来るであろう帝国との決戦もある。旅はここからが本番だぜ?」
「……そうやって聞くと苦しいことばっかりに見えますけど、アクトさんは違うって思ってるんですよね?」
「当然。オレだって少しぐらいはバカやりたいし、ノクトとルナフレーナがぎこちなくイチャつくのも眺めたい」
外の世界を知っていると言っても、遊び呆けていたわけじゃない。むしろアクトゥスはずっと何かに追われるように生き続けてきた自信がある。
こうして肩の力を抜いていられる仲間もいる今だからこそ、楽しんでおきたいのは彼も同じだった。
「おい兄貴何いってんだ」
「こっちだって苦労してルナフレーナの護衛したんだからそれぐらいの役得良いだろ!!」
「逆ギレすんなよ!? ってかルーナとはそういう……」
「婚約者だろうがヘタレ!!」
「うっせぇ!! オレにはオレのペースがあるんだよ!!」
「……ちなみにルナフレーナはグイグイ行くタイプだと思うぞ」
「…………へ、へぇ」
ぎゃーぎゃー騒がしくなった兄弟のやり取りだったが、アクトゥスがボソッと呟いた一言にノクティスは興味なさそうな顔を装いながら、興味津々な目で兄を見る。
「……どんな感じだ?」
「は? 教えると思ったのか身をもって知ってこいって意味だよ」
そして好奇心に負けた弟の言葉に対し、嬉々としてハシゴを外しにかかるのがアクトゥスだった。
本当に不味ければ助言はするが、そうでない限り基本的にこの兄は弟をからかうタイプである。
「ああそうだな兄貴はそういう奴だよな!!」
「危なっ!? 言葉に詰まったら殴ってくるのやめろよお前!」
にわかに騒がしさを増す二人をノクティスの仲間は困ったように笑いながら見ていた。
「ノクトも肩の力が抜けたみたいだね」
「そうだな。王として頑張ろうとしていたのは知っているが、今ぐらいはな」
「王サマが楽しんじゃいけねえって決まりもないんだ。楽しめるもんは楽しんだもん勝ちだ」
おまけに会いたかった婚約者にも再会できて、心配していた兄とも合流できたのだ。
越えるべき山は多いが、思い悩んだり心配することは全て解消されている。
「――さて、今日も遅い。どこかで休憩したらカエムに向かうか。ベッドはそこまで我慢してくれ」
「はーいっと。んじゃ出発しようか。……グラディオ?」
「……ちっとキャンプできそうな機会が減りそうだなと思っただけだ。ちょっとゆっくり行かねえか?」
「グラディオには家が小さいもんね」
「褒めてねえだろそれ」
笑い合いながら一行はレガリアに乗り込んでいく。
その際、プロンプトは一瞬だけグラディオラスが見せた表情が気になっていたが――彼なら大丈夫だろうと考えないことにした。
「アクトゥス様、少しいいですか?」
「うん? ――グラディオラス、どうした?」
グラディオラスがアクトゥスに話しかけると、彼は何かを察したのか仲間ではなく王族の人間としての顔でグラディオラスと向き合う。
「――少し、旅に出ようと思っています。オルティシエに行くまで時間がない」
「……王の盾が力を得る場所、とやらに行くつもりか?」
「知ってたんですか?」
「チラッと小耳に挟んだ程度だ。とはいえ、当たりだったようだが」
「……はい。これから先、戦いは激しくなっていく。ノクトももっと力を付けていく」
「そうだな。単純な力って意味ならもうずいぶんと離されてる」
「――だったらオレも。あいつの王の盾を名乗るなら、得られる力は全部欲しい」
「ノクトには言わないのか?」
「すんません。一応、あいつらの前では兄貴分らしくしていたいんです」
グラディオラスの言葉にアクトゥスは小さく笑ってしまう。
ノクティスたちの面々の中では彼が精神的に自立していると思っていたが、何のことはない。彼は自分をそうあるべきだと律していただけなのだ。
本当のところはアクトゥスより歳下のまだまだ未熟な一人の人間である。
とはいえ、そんな彼の願いを聞き届けてやらないほどアクトゥスは無粋ではなかった。
「――わかった。お前が旅に出る理由は適当にごまかしてやる。なるべく早く戻ってこいよ?」
「ありがとうございます、アクトゥス様!!」
「あんまり頼るなよ? 必要ならいくらでも王様の真似事ぐらいやるけど、オレだって普通に接してくれるのが一番ありがたいんだ」
「はい。次に会う時はちゃんと仲間として振る舞いますよ」
なら良い、とアクトゥスは笑ってグラディオラスを送り出す。
先ほどカエムに来ていたシドたちから船を出すのに時間がかかると聞いていたのだ。
どうせ修理やら何やらで動くのは目に見えている。ならばその間ぐらいグラディオラスの代わりを務めようではないか。
「オレもノクトの旅にどこまで同行できるかはわからんが、やるだけやってみる。――頑張れよ」
「はい!」
どれだけ身体ができて、精神的に安定しているように見せたところで、彼もノクティスやアクトゥスと同じでいきなり故郷を奪われ、父親を喪った境遇に変わりはない。
その中で彼は彼なりに兄貴分としてノクティスたちの精神的支柱を果たしてきた。
ならばそれに報いよう。どうにも自分は彼らの中で見れば最も年長者のようだ。
ノクティスたちに旅立つことを告げに行くグラディオラスを見送りながら、アクトゥスは喉奥でくぐもった笑い声を零すのであった。
大体苦戦ばっかりだけどアクトはアクトでかなり強い部類です。モブ相手なら無双可能だし、モンスター相手でもよっぽどじゃない限り封殺可能。ただ相手してるのが人外連中ばっかりなだけで。
なお弟はその人外連中からもヤバい存在だと思われつつある模様。直撃さえすれば大体どんな相手も問答無用でぶっ飛ばせる六神パワーを使いこなしつつあるからね、仕方ないね。
次回からサブクエの予定。ルーナはシガイ相手に有利なアビリティを持っている(と考えている)のでファントムソード集めは大体同行するから一杯動かせるよ! 七章も同行する予定だけど!!