ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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たいへん、たいへん、ひっじょーにたいへんおまたせいたしました(土下座)


サブクエストその一

「ということで、ここがオレの家だ」

 

 レスタルムの一角。ホテルのあった場所から少し離れ、街の外角ギリギリに位置する場所にその家は存在した。

 レスタルムでは完全な一軒家というのはほとんど見受けられないのだが、贅沢にもその家は二階建ての一軒家となっている。

 

 外観は石造りの二階建て。隕石からの熱を利用する関係上、常に暑いレスタルムならではと言える風通しの良い造りだ。

 

「おおー。立派な家ですね」

「ま、外で十年働いていればな。中に入ってくれ。ルシスに戻る前までここを使ってたから、食料とかは問題ないはずだ」

 

 アクトゥスが扉を開けてノクティスたちとルナフレーナを案内する。

 中に入って飛び込んでくるのは広い空間を持つリビングであり、オープンタイプのキッチンも備え付けられている。

 ラジオにソファー、観葉植物など、一人暮らしをしていたと思える様子の室内が彼らの前に広がっていた。

 

「上が寝室と書斎。んで、風呂もある。拠点にするには十分だろう」

「しかし……キッチンは使っていないようだな」

「どうせだからと付けたが、オレは料理やらないからな」

「一人で活動していたと言っていたが、普段は何を?」

「野宿の時は缶詰かカップヌードル。レスタルムにいる時は外食」

 

 あんまりにもあんまりなアクトゥスの返答にイグニスはダメだこの人、とでも言うようなため息をつく。

 とはいえルシス国内にある王の墓の調査に外交官としての仕事、さらにはニフルハイムに対する諜報員としても活動していたアクトゥスは多忙を極めている。

 人に任せられることは全て人に任せなければ到底こなせなかった仕事量であったと、今更ながらにアクトゥスは振り返る。

 

「今はイグニスがメシを作ってくれるからありがたい。美味い飯は心の活力だ」

「それがわかるのでしたら日々ちゃんとしたものをですね――」

「おっと、オレまで説教されるのは敵わん。話を真面目なものに変えるか」

 

 アクトゥスはおどけたように笑うと、懐から地図を取り出してテーブルの上に広げる。

 他の部屋を見ていた一行も集まってきて、地図に視界が集中していく。

 

「まず――ルシス国内で確認できたファントムソードは十本。場所は全部把握している」

「今、オレが持ってるのは四本だから……残り六つか。なんだ、すぐ集まりそうだな」

「そうだな。うち一つは特に試練もなく入手ができる」

「じゃあ実質五本か。案外サクッと手に入りそうだ」

「……そう簡単に行かないのが王の試練ってやつだ」

 

 楽観視するノクティスを生暖かい目で見ながら、アクトゥスは自分の知る王の墓所に印をつけていく。

 中にはルシス唯一の火山として有名なラバティオ火山も含まれており、他にも全てが森の中や洞窟の中、使われなくなった採掘場などが点在した。

 

「――これらがオレの把握したファントムソードの所在だ。このコースタルマークタワー以外は奥に王の墓所があることも確認してある」

「その一つだけ確認できなかった理由は?」

「付近に王の墓所があったんだが、そこから盗まれていた。シガイの仕業だと思って近くにあったそこに行ってみたが、最奥まで行けなかった」

 

 というより、一応の奥までは到達したものの、待ち構えるように立ちふさがるシガイの群れを倒す手間を厭ったのが大きい。

 一人で探索をしていた関係上、手持ちの魔法や体力が心もとない状況での無理は死に直結していた。

 

「アクトゥス様でも無理だったのですか?」

「出てくるシガイがボム系やらヨウジンボウ系ばかりで事故が怖かった。あと、かなり深い。無理をすれば行けなくもなかっただろうけど、帰りも考えるとどうしてもな」

 

 尤もなルナフレーナの疑問に答え、ここに行くなら最後がいいと付け加えてアクトゥスが話す。

 

「他の場所はこれに比べりゃそんなにキツくもない。屋外ならオレの案内、洞窟内部ならルナフレーナの補助があれば大体なんとかなる」

「は? ちょっと待て、ルーナも来るのか!?」

 

 さも当然のようにルナフレーナの同行を視野に入れた行動計画をアクトゥスが立てていることに、ノクティスは驚いて聞き返す。

 ノクティスはアクトゥスがここまでルナフレーナを守っていたという言葉から、てっきりルナフレーナはここに残って皆を待つのではないかと思っていたのだ。

 サポートすると言ってもモンスターと殴り合うことだけではない。ノクティスとしては拠点に戻った時に出迎えてくれるだけでも非常に嬉しかったりする。

 

 しかしそれを聞いたアクトゥスとルナフレーナはお互いに顔を見合わせ、不思議そうに首をかしげるばかり。

 

「あの、ノクティス様。確かに私はアクトゥス様のように戦うことはできませんが――」

「ことシガイ相手のサポートならオレ以上だよ。聖なる力ってのはお前の予想以上にシガイに対してよく効く」

 

 アクトゥスとルナフレーナが旅していた当初、どうしてもシガイとの戦闘が避けられない時が何度かあった。

 その時はアクトゥスが前に出て、彼の武器にルナフレーナが聖なる加護を付けて戦っていたことがある。

 鉄巨人系の動きこそ鈍重だが固いシガイが相手でも、ルナフレーナの加護があるだけでまるで薄紙のようにシガイの装甲を断つことができるのだ。

 

「いや、けど――」

「疑うようなら一度連れていけば良い。それとも――彼女に危ない場所に来てほしくないか?」

「……っ、悪いかよ」

 

 さて、どうしたものかとアクトゥスは頭を悩ませる。

 弟の悩みは感情に起因するもの。それに切った張ったの類をルナフレーナが行えないのも事実。

 万一を考えて連れて行かない、という選択肢もなくはない。シガイを相手にする効率が多少落ちても、彼女が不可欠というわけではないのだ。

 

 そんなことを考えていると、ルナフレーナが隣に座るノクティスの手を取る。

 

「へ、る、ルーナ?」

「私はノクティス様のサポートをするためにここに来ました。ノクティス様の過酷な旅のお力に少しでもなれれば、と」

「…………」

 

 ルナフレーナの静謐な表情に秘められた決意の固さに、ノクティスは二の句が継げない。

 ここまで強い意志を持って話す人間など、彼はレイヴスと会うまで見たことがなかった。

 仲違いしていようと、やはり兄妹である以上消えない共通点は生まれるのだろう。ノクティスは頭の片隅でそんなことを考えながら彼女の言葉を聞く。

 

「心配していただけるのは嬉しいです。ありがとうございます」

「あ、ああ」

「……ですが私も力になりたいのです。どうか、同行を認めてもらえないでしょうか」

 

 そう言ってルナフレーナはじっとノクティスの目を見る。

 仲間に助けを求めることもできず、ノクティスはどう答えたものか必死に頭を回転させ――

 

「――ルナフレーナ、少し焦りすぎだ」

 

 アクトゥスの声によって、助け舟が出されることになる。

 

「アクトゥス様?」

「お互い十年ぶりに顔を合わせたんだろ? ノクトにしてみりゃ婚約者を戦わせたくないってのも当然だし、ルナフレーナにしてみればずっとノクトの力になるために生きてきたんだから、力になりたいってのも当然だ」

 

 そう言ってアクトゥスは手を叩き、視線を自分の方に集中させる。

 

「折衷案で行こう。王の墓所で比較的楽な場所を教えるから、そこにルナフレーナと行って来い。楽と言ってもシガイがうじゃうじゃ出るし、道中も結構長い」

「……そこで私が力に成りうることを示せ、と」

 

 戸惑うノクティスを横目に覚悟を決めた表情でルナフレーナがアクトゥスを見るが、アクトゥスは否定するように手を振る。

 

「違う違う。お互いをよく知る時間を作ろうぜってことだ。ずっと会ってなかったんだろ? 相手のことを知る良い機会じゃないか」

「相手を、知る……」

「ルナフレーナの覚悟の程は理解しているつもりだ。けど、それはノクティスに押し付けるものじゃあない」

「……っ!」

 

 ルナフレーナは弾かれたようにノクティスを見る。

 ノクティスは急に話を振られて困りながらも、兄と婚約者の顔を見て口を開く。

 

「あー……ルーナの覚悟とか、まだオレにはよくわかんねえ。――けど、それって兄貴や親父が意図して遠ざけてきたんだろ?」

 

 自分が何も知らないまま、ただの人間として生きる時間を与えてやりたいと。

 ルシスが陥落し、父の訃報を聞き、歴代王やら六神の話を聞かされて振り回されて――その役目が自分にしか果たせないことも聞かされて。

 そして兄がなぜ王位継承権を放棄して外を飛び回っていたのかも聞かされて――ここまで情報を与えられて何もわからないほどバカではないつもりだった。

 

「……ま、さすがにわかるか」

「さすがにな。で、ルーナ」

「は、はいっ」

「さっき言った通り、オレは全然何も知らない。ルーナや兄貴は違うんだと思うけど、まだハッキリと言葉にしてもらったわけじゃない」

 

 だから、と言葉を続けてノクティスは照れたように後頭部をかきながら手を伸ばす。

 

「ルーナのこと、オレに教えてくれ。オレもルーナに知ってもらいたいこととか、あるからさ」

 

 おお、とノクティスの仲間たちが感嘆の声を上げる。どちらかと言えば内気で照れ屋な気質の強いノクティスがここまでハッキリと意思を表明するのは珍しい。イグニスなど無言で目頭に手を当てるほどだ。

 それを聞いたルナフレーナは呆けた顔をしていたと思うと、徐々にその顔が赤みを帯びていく。

 

「る、ルーナ?」

「あ、い、いえ……! ノクティス様にそう言ってもらえて、すごく嬉しいというか胸が一杯になったというか……」

「えっと……」

 

 今度こそ言葉に窮し、ノクティスが助けを求める用に周りに目を向けるとアクトゥスと目が合った。

 アクトゥスは弟の懇願の視線を読み取り、穏やかな表情で笑みを浮かべる。

 

「――全部終わったら式は盛大にやるか」

「今言うことかよそれ!?」

「暑いわー、この部屋暑くてたまらんわー。プロンプト君、窓開けてくれる?」

「うっす、アクトさん」

「あ、おまっ!」

 

 無情なことに兄は助けてくれなかった。むしろ率先して煽り始めていた。

 結局、二人の仲の良さが盛大に茶化される形でこの場での話は終わるのであった。

 

 

 

 

 

「んじゃ行って来い」

 

 とりあえずルナフレーナを連れて試練が特にない王の墓と、距離はあるがリード地方まで戻ったところにあるバルーバ採掘場を目指すことにする。

 目的地も決まったので早速行動開始――となったところ、アクトゥスは家で見送る体勢だった。

 

「兄貴は来ねーのか?」

「レガリアに六人も乗れないだろ。それにコルたちに指示も出さないとならん」

「コルに指示?」

「大雑把な方針だけでも誰かが決めないと組織ってのは効率的に動けないんだよ」

 

 個々人が最大能力を発揮したところで、方向性がバラバラならそれを人は烏合の衆と呼ぶのだ。

 そうならないためにも力の方向性だけは決めておく必要があった。

 

「へー」

「なに他人事みたいに言ってんだよ。戻ってきたら覚えてもらうからな」

「うっへ」

「そんな難しいことじゃない。基地をぶっ叩くか、物資集めに集中してもらうか、協力者集めを行ってもらうか、そのぐらいで良いんだ」

 

 元より人数も少なく、できることも限られているのだ。ならば彼らだけに戦闘を任せるのではなく、いっそノクティスたちが十全に動けるようにサポートしてもらう形の方が機能する。

 

「まあ後でも良いさ。そんじゃデート、楽しんでこいよ」

「王家の力を集めるって立派な目的があるっての!」

 

 ムキになるノクティスにアクトゥスはハッハッハ、と朗らかに笑いながら扉を閉める。

 もう見えなくなってしまった兄を考え、ノクティスはいっつもからかわれっぱなしだと顔をしかめるのであった。

 

 

 

「本当にあっけなく見つかるもんだな」

 

 アクトゥスの示した場所に向かうと、そこには何の試練があるわけでもなく王の墓所が鎮座していた。

 見つけにくい場所にあり、知らずに探したとなれば苦労しそうな場所だったが知ってさえいれば大した苦労もない。

 

「とはいえ、オレたちだけが独力で探すとなると骨の折れる場所だ」

「だな。で、中には何があるんだ?」

「そこまでは知らないってさ。鍵、持ってなかったんだろ」

 

 行ってみればわかること、と結論づけてノクティスたちは王の墓所に向かう。

 中に入ると静謐で陰鬱な墓所特有の冷やりとした空気が流れ込み、一行の顔が否が応でも引き締まる。

 

「ここが王の墓所……ルシスの歴代王の魂が眠る場所、ですか」

「ああ、ルーナは初めてか」

「はい。ここで試練が?」

「いや、ここまで来たらもう力をもらうだけ。見てな」

 

 ノクティスが手をかざすと、王を模した石像が抱いていた武器――慈王の盾が浮かび上がり、透き通った輝きを放ちながらノクティスの中に入っていく。

 

 慈王の盾。内政を重視し、民に繁栄と安寧をもたらした女王の盾。

 永い永い時を経て、また一つ新たな力が真なる王の元に集う。

 

「……うしっ」

 

 ファントムソードとしてノクティスの力となったことにより、ノクティスは自らの武器の使い方を完璧に理解することができる。

 

「おめでとうございます、ノクティス様。また一つ、強くなりましたね」

「ん、サンキュ」

 

 ルナフレーナの言葉にノクティスは言葉少なに感謝を返す。

 本当ならこの盾でルナフレーナも守る、と言いたいのだが――さすがにまだ難しかった。

 

「では次の場所に行こう。ここからリード地方まで一日で戻るのは難しいため、一度キャンプを挟むが……」

 

 イグニスはどう言ったものか、という顔でルナフレーナの方を一瞬だけ盗み見る。

 それに目ざとく気づいたルナフレーナは微笑みながらうなずき、この場にいる自分は仲間であることを伝えていく。

 

「今、ここにいるのは神凪ではなく、一人の人間としてのルナフレーナです。私も他の方のように扱ってください」

「……すぐにと言うのは難しいですが、努力しま――しよう」

「だな。ルーナも遠慮とかしなくて良いんだぜ。ここからは同じ道なんだ」

 

 ノクティスがそう言うと、ルナフレーナは華やいだ笑みを浮かべるのであった。

 

 ……余談だが、ノクティスたちが戻ってきた時に話を聞いたアクトゥスが馴染むの早くない? と内心で戦慄していたのはここだけの話である。

 

 

 

「さて、夕食を作らねばならないが――体質などで食べられないものはありませんか?」

「はい。特にそういったものはありません」

「良かった。では今日はバレッテの肉を使ったスープにしましょう」

「楽しみにしています。なにか手伝えることはありますか?」

 

 ふむ、とイグニスはルナフレーナの申し出に対し思案する素振りを見せる。

 ちらりとノクティスたちの方を伺うと、彼はプロンプトにグラディオラスとの歓談に興じている。

 ――これなら内緒話もやりやすい。

 

 イグニスは無言でルナフレーナを手招きすると、ノクティスを見ながら彼の秘密を教えることにした。

 

「ここだけの話ですが、ノクトは偏食の傾向があって野菜を食べたがりません。全く食べないわけではないので単なる食わず嫌いなのですが、これが意外と尾を引いている」

「まあ。ですが私の前ではそのようなお姿を――」

「見せたがりません。なので、これはちょっとした荒療治も兼ねています」

 

 そう言って、イグニスは小さく笑う。

 意図するところを正しく読み取ったルナフレーナも同じような笑みを浮かべる。見る人を安心させるような包容力のある笑みではなく、年頃の少女らしい悪戯っぽい笑みだ。

 

「婚約者の前ではいい格好を見せたいでしょうから、ルナフレーナ様は何食わぬ顔をしていただければと」

「ふふっ……イグニス様はノクティス様の母親みたいですね」

「小さい頃から面倒を見ているだけですよ。では――」

 

 小さな秘密を交わし、微笑み合うとイグニスは本格的に調理に取り掛かる。

 真っ赤な実を覗かせるテーブルビートを具として使うものと汁に使うもので、大振りに切ったのを細かく刻んだものを分けていく。

 火を通すことで甘味が増し、美味しいスープになるのだ。

 

 具はバレッテという亀のような甲羅を持ったモンスターの肉。

 どちらかと言えば癖が強く、好き嫌いの分かれる味なのだがそれを万人受けするよう調理するのも料理人の腕の見せ所。テーブルビートのスープとはよく合うのだ。

 今回は歯ごたえを楽しめるようにそのままの肉と、リード芋と混ぜ合わせて主食としての色合いを強めた肉団子を入れることにする。

 

 予め炒めて火を通した肉と、肉団子をスープの中に入れ、リード芋が仄かに赤く色づいてスープを吸い込んだ辺りが食べごろである。

 ゴロゴロとスープの海を転がる肉と芋の具材がスプーンを持つ者の手に嬉しい重みを伝え、口に運べばテーブルビートの甘味とそれを存分に吸い込み、しかし食材本来の主張を損なうことのないバレッテの肉が存分に旨味を伝えてくれることだろう。

 

「さて、完成だ。明日は王の試練になる。英気を養ってくれ」

 

 イグニスの手から配られたそれを見て、ノクティス以外の面々は顔を輝かせた。特にプロンプトは自身の好物でもあるそれを見て一際喜んでいた。

 だがノクティスの顔が一瞬だけうんざりするようなそれになったのを、イグニスは見逃さなかった。

 素早くルナフレーナに目配せすると、彼女も心得たのかすかさずノクティスに声を掛ける。

 

「美味しいですね、ノクティス様!」

「へ? ――あ、ああ、おう。美味いよな!」

 

 もともと食わず嫌いなだけなのだ。全く食べられないというわけではない。

 それに今はルナフレーナもいるのでノクティスも見栄を張ろうとする。

 この機にノクティスの好き嫌いを全てなくしてしまおう、とイグニスは壮大な野望を燃やすのであった。

 

 

 

「――さて、明日は王の試練に挑むことになる。あらかじめアクトゥス様から情報は得ているので、共有させてもらおう」

「長くなりそう?」

「手早く済ませるつもりだ。アクトゥス様も特筆したところはないと話していた」

「じゃあ楽勝ってこと?」

「このメンバーなら心配はないとも言っていたな。だが、相手がシガイとなる以上、情報はもらっている」

 

 そう言ってイグニスはレスタルムを出発する前に聞いていた情報を開示するが、彼の言葉通り死活問題に直結するような情報はなかった。

 出てくるシガイにしてもゴブリン種とヨウジンボウ種が多少いる程度と、ヨウジンボウ種以外に恐れるような相手はいない。

 

「ヨウジンボウ種は気をつけた方が良いな。あいつの居合は一撃で戦闘不能にしてくる」

「その辺りは私が請け負います。イグニス様、良い機会ですので私の力についてお話しても?」

「私も聞きたいと思っていたところでした。アクトゥス様から聞いた限りだと、シガイに対して強い力を発揮すると」

 

 うなずく。イグニスもあらかじめ聞いておいた内容を紙にまとめてあるため、取り出して読み上げる。

 

「実戦でいきなり目にする、というのも怖い話なので効果だけは聞いてあります。確認しても?」

「はい、お願いします」

「ではまず――モンスターからの攻撃をある程度肩代わりしてくれる防壁を張る魔法、プロテス」

「私の力量次第、という注釈がつきますが……極端に強い一撃を受けても必ず一度は耐えられます。ですが連続で使用できるようなものではないので、過信はしないでください」

「不慮の事故を防げる可能性が上がるってことか。前で戦う側からすれば十分すぎますよ」

 

 グラディオラスの言葉にルナフレーナははにかんだ笑みを浮かべる。

 アクトゥスも戦闘時はこれの恩恵を受けていたが、それでも慎重に立ち回ることを心がけていた。

 なにせ彼は自分が倒れたらそのままルナフレーナも終わりなのだ。戦闘になること自体を極力避けていた。

 

「そしてもう一つ。――シガイに対して強い効果を見込める付与を行う、とありますがこれは……」

「ホーリーウェポン。アクトゥス様の言葉を借りることになりますが、鉄巨人やウルフマライターが紙のように切り裂ける、と仰っておりました」

 

 そりゃすごい、というような感嘆の吐息が一行から漏れる。シガイの頑丈さは皆が知っているが、その中でもルナフレーナが今挙げたものの頑丈さは群を抜いているのだ。

 そもそも通常攻撃や魔法の効果が全体的に薄い。しかも本当に鉄の塊を殴っているのではないかと思わせる硬さもあって、本当に相手をするのが面倒なのだ。

 

「あとは戦えなくなった方の回復と、一人だけではありますが、速度の上昇。私に扱える魔法は以上となります」

「補助、回復に特化したものと考えて良さそうだ。――本当に助かります。我々だけでは回復を専門に行える者はいなかった」

 

 内容を確かめたイグニスは相貌を緩めてルナフレーナを見る。

 バトルというのは攻撃するだけで全て勝てるものではない。前線で戦うものが十全に動けるように援護する役目も外せないものだ。

 

「では今日のところは休み、明日に備えましょう。ルナフレーナ様のお力もある以上、不甲斐ない姿は見せられないな、ノクト」

「言われなくてもわかってるっての。ルーナ。力、貸してくれてサンキュな」

「そう言っていただけるなら、私も嬉しいです」

 

 ノクティスの言葉に微笑みながら、ルナフレーナは自分の選んだ道が間違いでないことを実感する。

 ルシスが陥落したあの日、ダイヤウェポンと呼ばれる超大型シガイすら退け、激戦を生き延びたアクトゥスの伸ばした手を掴んで良かった。

 その結果が今、王の使命と彼なりに向き合い、試練の中で一歩一歩進もうとしているノクティスの隣にいられるのだ。

 愛する者の隣に立てる幸福を噛み締めながら、ルナフレーナはそっと笑みを零すのであった。

 

 

 

 

 

 バルーバ採掘跡。

 かつてはここでルシス国内の主要産業である車の製造に用いる鉄などを掘り出していたのだが、今となっては鉱脈も枯れ果て、シガイの住処となってしまっている場所だ。

 

「エレベーターがある。しかもこれ電気もあって使えそうだ。結構最近まで動いてたのかな」

「かもしれないな。ゴブリン系のシガイが多くいるため、ルートは確実に近づける方で行こう」

「先導するぜ。何が出てくるかわかんねえから、全方向に注意を向けろよ」

 

 グラディオラスが先行し、イグニスがアクトゥスより確認した地図を持ち、ノクティスとプロンプトが周辺を警戒する。

 シガイが出てもノクティスが雷を纏った槍を一薙ぎするだけで、ゴブリンはあっさり四散する。

 神々二柱を宿した彼の力もまた、シガイに対して大きな威力を有するようになっていた。

 

「どんどんノクトも強くなってくよね。向かうところ敵なしって感じ?」

「だといーけどな。大物相手にこう行くとは限らねえ」

 

 王の力を得て、神々の力を得て、ノクティス自身の力も磨いて――それで本当に帝国軍に勝てるのか。

 魔導兵による数の力は脅威的で、個の力も決してあなどれない者がいくらか存在する。

 それらを相手に守りたいものを守るのであれば――きっと、数の多寡も個々の質をも歯牙にかけない力量が必要になる。

 

 ノクティスが顔を上げると、トロッコの線路を通すためだけに作られた細い橋の上に、着流しと刀を携えた侍風のシガイ――アラムシャが佇んでいるのが見えた。

 先頭を歩いていたグラディオラスが大剣を構え、鋭い目でにらみつける。

 

「っと、ちと大物だ。足場が悪い、戦うぞ」

「……強くなんねーとな」

 

 握る拳に力が灯る。気合の入った瞳でノクティスは前に進み、アラムシャと相対していたグラディオラスの前に出る。

 

「あ、おい!」

「悪ぃ、ちょっと自分の力を試してみてーんだ」

 

 グラディオラスの制止も聞かず、ノクティスは自身の武器であるエンジンブレードを手にアラムシャの前に立つ。

 それを一騎打ちの申込みと受け取ったのだろう。アラムシャの顔らしき部位に確かな笑みが浮かんだように見え――次の瞬間には神速の抜き打ちがノクティスのいた場所を薙ぎ払う。

 

「――ふっ!」

 

 軽い呼気と共にそれを見切って回避し、懐に飛び込む。

 エンジンブレードを振るうと、アラムシャは素早く後ろに飛び、懐から何かを取り出して弾いてくる。

 それが弾丸に等しい威力を持つ硬いなにかであることを見抜いたノクティスは、素早く盾を構えて防御の姿勢を取る。

 

 軽い衝撃を何度か盾越しに感じ――直後、頭上にできた影にエンジンブレードを合わせた。

 火花が散り、ノクティスの手に刀を弾いた硬質な感触が伝わる。

 

「ォラァッ!!」

 

 しびれにも似たそれを振り払い、強引に一撃を放つ。

 今度は直撃したが、シガイを一撃で葬るには至らないのか反撃の刃が彼の首を取ろうと迫る。

 ――そこにノクティスは好機を見出した。

 

「っと!」

 

 後ろ手に回した左手から短剣を召喚し、真上の岩盤めがけて突き刺す。

 自分の力とはアクトゥスと同じ、シフトを駆使した力のことだ。ならば狭い足場に固執する理由などなく、存分に空中だろうと壁だろうと使えば良いのだ。

 

 シフトからシフト、攻撃から回避、回避から攻撃。一瞬たりとも足を止めず、三次元に動いてあらゆる方向から攻め立てる。

 無論、アラムシャもただではやられない。攻撃の瞬間には近づく以上、斬撃を当てる瞬間はやってくる。

 刀を振るい、シフトとシフトの一瞬を狙った刃が何度もノクティスの身体を捉えるが――

 

「たゆとう光よ、見えざる鎧となりて小さき命を守れ――プロテス!」

 

 その都度、ルナフレーナの魔法によって生み出された光の障壁が彼を守っていた。

 そうして何度かの交錯の後、やがてアラムシャの身体が膝を折るのであった。

 粒子となって溶けていくシガイを見て、ノクティスは確かな手応えを感じて拳を握る。

 

 今のシガイ――神々の力と王の力を振るっていれば、容易に片付けられる存在でもあった。

 だが、王の力も使わないノクティスの力のみでは強敵だった。

 受け取った力の強大さ。そしてそれらに頼らない自身の力の立ち位置、というものを定めるのに良い敵だった、と思い返していると肩を力強く叩かれる。

 振り返るとグラディオラスが勝利の快哉を上げながらノクティスに肩を回していた。

 

「ったく、ヒヤヒヤさせんなよ。もう少し危なかったらオレが飛び出してたぜ」

「うっせ。オレ一人の力ってのを確認したかったんだよ」

「ルナフレーナ様にも手伝ってもらったけどな」

「っぐ……。ま、まあそうだな。ルーナがいなきゃ危ないところがあった」

「おっと、ルナフレーナ様がいるから素直だな。普段からそうなら良いんだが」

「普段が素直じゃねえみたいなこと言うなよ」

 

 その態度が素直じゃないのだ、とグラディオラスは笑いを噛み殺しながら思う。口に出すと間違いなく拗ねるので、今回は頑張った王子に花を持たせようと黙っておく。

 グラディオラスから身体を離したノクティスはルナフレーナの方に近づくと、照れくさそうに頬をかきながら言葉を選んでいく。

 

「あー、その……すげえ助かった。オレ一人じゃ勝てなかったかもしれない」

「いえ。ノクティス様のお力になれたなら嬉しいです。余計なお世話ではありませんでしたか?」

「そんなことねえって! オレも自分がまだまだだって思ったし――強くなりたいって思った」

 

 これ以上の言葉を重ねるのは恥ずかしさが勝ったのか、ノクティスは後ろを向いて続きを話す。

 

「絶対、強くなるから。……ルーナを守れるくらい」

 

 最後の言葉は掠れるような声量で、それっきりノクティスは前に進み始めてしまう。

 残されたルナフレーナはぽかんと驚いたように口を開けていたが、後ろからイグニスとプロンプトが声をかけてきて正気に戻る。

 

「あのー……ノクト、すごい照れ屋なんですよ。だからあれでもすごい頑張ってた方って言うか」

「思ってもないことを言う時もあります。あまり気になさらないでください」

「いえ――いいえ。ノクティス様の言葉、嬉しく思っていますから」

 

 言葉が足りない王子のフォローをしようと思ったのだが、返ってきたルナフレーナの言葉は喜色満面とも言うべきそれで、逆に言葉がなくなる二人。

 そんな二人を尻目にルナフレーナはノクティスを追いかけて先に進んでしまったため、イグニスとプロンプトは顔を見合わせるのであった。

 

「……案外、割れ蓋に綴じ鍋?」

「あばたもえくぼかもしれんぞ」

「イグニス、結構ひどいこと言ったりするよね」

 

 仮にも自分が仕えている王子にひどい言い草である、とプロンプトは呆れた目でイグニスを見てしまうのであった。

 

 

 

 その後、何事もなく一行は新たなる王の力――飛王の弓を手に入れてアクトゥスの待つレスタルムに戻るのであった。




腱鞘炎やったり仕事の配属が変わったりで色々大変でしたが、なんとか続けていきたいと思いますのでよろしくおねがいします(土下座)

あとサブクエはガリッと端折る部分は端折ります。具体的には王の力集めやら何やら。その分アクトゥスやルナフレーナを混ぜたオリジナルクエストはいくつか入れる予定なので許してください(五体投地)
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