ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者― 作:右に倣え
実際ゲーム中の全部のサブクエやってたら時間がないどころじゃないので、連続クエの類は大筋っぽいやつをいくつかやるだけだしな……!
ガーディナ渡船場。
ルシス国内にある唯一の港であり、アコルド政府自治体へ向かうための便が出ているルシス国内でも屈指のリゾート地である。
青い海、白い砂浜、小洒落たレストラン、素晴らしい夜景のリゾートホテル。
意中の相手を落とすならこの場所に旅行に来て攻めるのが一番! とプロンプトが王都で読んだ旅行雑誌には書かれていた。
だから楽しみにしていたのだ。たとえ男四人組で女っ気などこれっぽっちもない旅であっても、高級ホテルに泊まれば楽しいのは変わらない。
海を見るのが初めてなノクティスは普段の素直じゃない性格がウソのようにはしゃいでいたし、釣りが趣味でもある彼は初めての海釣りにも心躍らせていた。
だというのに――
「ギルがなくてホテルの近くでキャンプしてる王子一行とか、オレらだけだろうね」
「なんだよ、良いじゃねえかキャンプ。海が綺麗だぞ」
「男四人で見てもなあ」
海を見ると海に面したホテルも否応なしに見えるため、楽しさより先に虚しさが来る。
グラディオラスは楽しそうだが、プロンプトは遠い目でホテルの方を眺めていた。
「あそこが高すぎんだよ。ハンターの賞金じゃ足りないとかないわ」
「それだけのサービスは保証されるのだろう。食事の準備ができたから運んでくれ」
本日の献立はリード地方に出没するモンスターであるアナクの肉を使った荒野のハンター流串焼きだ。
複雑な模様にも見える独特なツノと、荒野の高い木にある葉を食べるために伸びた首が特徴的なモンスター。
この地方に生息するモンスターで積極的に人間を襲うモンスターはさほど多くなく、例によってこのアナクも群れを成して生活する普通の草食獣だ。
その肉はややきめが粗く、脂身が多いのが特徴的なもの。消化に良いという肉らしからぬ利点を持つのだが、誰もが飛びつく高級肉というわけではない。
しかしそんな固めの肉を豪快にかぶりつく楽しみもまた確かに存在する。
顎の限界など知らぬとばかりに大きく口を開け、こってりしたソースの絡んだ肉をブチリと噛み切り、口全体で咀嚼し味わう。
口周りがソースで汚れても気にせず、後で豪快に手の甲で拭う。そうした男らしい味わい方がこの肉にはピッタリなのだ。
細かな肉の味や脂の味などどうでも良い。ただ肉を食っているという強烈な実感をこれでもかとぶつけてくる濃厚な味わい。
それにご飯があれば後は何も要らない。肉と米。これこそが若い男のメシである。
手間暇かけた料理ももちろん美味しいが、逆に手間暇かけないことが美味しさにつながることもある。食事当番であるイグニスはその辺りがよくわかっていた。
本日の献立はグラディオラスがいたく気に入り、また作って欲しいと絶賛するものであったことをここに記しておく。
翌日、ノクティスたちは改めてガーディナ渡船場に入ることになった。
「夕焼けの海もキレイだったけど、昼の海もいいね!」
「まさにリゾート地って感じだな。用がなけりゃ泳ぎたくなる」
「お、釣具屋もあるじゃん。後で寄ってこうぜ」
「船の時間を確認してからだ」
三人が好き勝手なことを言っている中、イグニスは眼鏡の位置を直しながら港の方に向かっていく。
すると港の方から出てきた一人の男性がノクティスたちに声をかける。
「ああ――そりゃダメだ。船、出てないってさ」
不思議な魅力のある、低い声にノクティスたちの視線が集まる。
そこに立っていたのはいかにも伊達男な洒落た装いをしたくすんだ赤毛の男性だった。
「そうなのか?」
「うん。停戦協定の調印式でしょ? その影響かな」
おどけた言い回しだが、言葉には確信が込められている。
そして何より――ノクティスらを見る視線には怪しい侮蔑の色があった。
うさんくさい男は手元の何かを弄びながらノクティスらの横を通っていく。
その際に持っていた何かをノクティスに向けて弾き、グラディオラスが横からキャッチする。
「停戦記念のコインか?」
「え、そんなのあったの?」
「出ねえよ」
「お小遣い。君たち、暇でしょ? 自由に使っちゃっていいよ」
王都で使われている貨幣とも、ルシス国内に流通しているギルとも違う銀の硬貨を指差し、男は嗤う。
さすがに通りすがりの人間が振る舞う態度ではない。グラディオラスはさり気なくノクティスを庇える立ち位置に場所を変えると、その大柄な身体を活かした威圧をする。
「おいあんた、なんなんだ」
「見ての通り、ただの一般人」
グラディオラスの迫力ある姿も飄々と受け流し、男性は悠々と立ち去っていく。
その後ろ姿を四人は見送り、それぞれが頭の中で彼の一般人だとうそぶく姿にあり得ないと思うのであった。
「あれが一般人とかねーわ」
「だが、怪しいだけだ。怪しいだけで人間を捕まえることはできない」
「気にしてもしょうがねえ。船が出てるかどうか確認しようぜ」
楽しい旅なのだ。途中でちょっと水を差されたくらいで全てを台無しにしてしまうのも馬鹿馬鹿しい。
思考を切り替えてノクティスたちは改めて港の方へ向かうのだが――
「あれ? 船、ホントにない」
「一隻もないか。どうやら本当に出ていないようだな」
「マジかよ、オルティシエまでどうやって行きゃ良いんだ」
港で立ちすくむ一行だが、こうしていても船が来るわけじゃない。
張り紙にもガーディナから出る船がなく、しばらく待つようにしか書かれていない。しかも具体的な航行再開予定は不明と来た。
どうしたものかと途方に暮れていると、休憩用のベンチに座っていた若い男性が馴れ馴れしく話しかけてきた。
「なんでもオルティシエの方で船が止まっちゃってるみたいだよ。同業者の話だと急に規制されたんだって」
「あんたは?」
「ディーノって言うんだ。この辺りを拠点に新聞記者してる。よろしく!」
「お、おう」
軽薄で馴れ馴れしい言葉遣いのまま、ノクティスの手を取ってブンブンと振ってくる。
しかし先ほどのうさんくさい男とは違って、こちらの方がまだ信用できそうな態度のようにノクティスには思えた。
「んで、君たちはノクティス王子御一行だよね。仕事柄色々と知っててさあ。君たちが高級車でハンター始めたっていうのも知ってるし」
「マジかよ」
耳が早いにも程がある。多少の足止めがあったとはいえ、ほぼ最短でガーディナまで来ているというのに、情報はそれ以上の速度で伝達していたようだ。
「あんま隠してないみたいだけど、お忍びだよね? 記事にされたくないよねえ? ちょっと話を聞いてもらいたいんだけど」
「ああ……はいはいわかった、聞いてやるよ」
途中で話の流れが読めたノクティスはやれやれと肩をすくめながらも、話を聞く姿勢になる。
外の世界の人間が色々としたたかでちゃっかりしているのは、ハンマーヘッドで学んでいた。
「ノリが良くて助かるよ! じゃあ地図出して!」
「ほら、これでいいのか」
旅に出るにあたって用意した世界地図を差し出すと、ディーノは慣れた手つきでペンを取り出し、ある一点に印を付けて返してくる。
「そこに宝石の原石があるって情報でさ。確かな筋だから間違いないけど、正直危ない」
「だから行ってこいってことか」
「そういうこと。上手く行ったらちょっと非合法かもしれないけど船出せるよう話つけるからさ。ダメだったらこのこと記事にするけど」
「ま、いいけど」
記事にされたところで困ることがあるわけでもない。断っても良いが、船に乗せてくれる一縷の可能性を自分から断つ必要もなかった。
地図に印の付けられた、ガーディナとレストストップ・ランガウィータを結ぶ中間ぐらいの場所を目指してノクティスたちはレガリアを運転する。
「しかし王子の威厳もなんもねえな」
「軽くお使い頼まれちゃってたもんね」
「あんぐらいの方が気楽でいいわ」
王都で暮らしていた頃は学校では何かと遠巻きにされることが多く、城では大勢の召使などに傅かれていた。
正直、息の詰まる時間だった。だからこそなんてことのない話ができる友人は彼にとって非常に大切なのだ。
そしてディーノと名乗った男も王子という色眼鏡で見てこなかった。
……あれはただ単に彼が軽薄なだけの可能性が高いが、それでも傅かれて丁寧に礼を尽くされて頼み事をされるよりは数倍マシである。
「で、場所ってのはこの辺か?」
「そうだな。少し探してみるか」
レガリアを道の端に寄せ、ノクティスたちはそれらしきものを探していく。
宝石の原石と言っていたが、具体的にどんな宝石かまでは聞いていなかったため面倒な作業になりそうだと思いながら作業していると、プロンプトが雑談を振ってくる。
「ノクトはさ、ルナフレーナ様と結婚したら王都にお連れするの?」
「そのつもり。すぐってわけじゃねえけど」
「おお、攻めるねえ。結婚するってどんな心境?」
「さあ?」
「お、照れてんの?」
「ちげーよ」
実感がまだ湧いていないのだ。結婚することに対する嬉しさを聞かれても困るのがノクティスの本音だった。
嬉しいのはルナフレーナにまた会えることであり、結婚することではない。
会えればまた違った感想も出るのかもしれないが、それは今ではなく未来の話だ。
などと考えながら地図を頼りに原石のある場所を探して――家より大きい鳥に出くわす。
「――っ!!?」
プロンプトは咄嗟に自分の口を押さえて漏れそうになる悲鳴を飲み込む。
イグニスとグラディオラスは声こそ出していないものの、その口はあんぐりと開いており驚愕が隠せない様子だった。
しかし落ち着いてみれば件の相手はお休み中の模様。空を存分に飛んだ後に悠々と戻って休んでいた。
これほどの巨体になれば天敵などいるはずもない。食物連鎖においてほぼ頂点に立つであろうその巨鳥――ズーをノクティスたちは呆然と見上げる。
「で――っけぇ」
「圧巻の一言だな」
「これが翼を動かす光景とか、見れたらシビレるな」
「起こさないでよ? 絶対起こさないでよ!? フリじゃないからね!?」
「へいへい」
なんか不穏な気配を出したグラディオラスを察したのか、根が小市民なプロンプトが必死に小声で叫んで静止を試みる。
さすがにグラディオラスも守るべきノクティスが側にいる状態でそんなことをやるつもりはなかったため、プロンプトの言葉に軽く肩をすくめて了承する。
しかし原石を取りに行くにはズーの足元を通る必要がある。
眠っているだけなのだからいずれ飛び立つとは思うが、それがいつになるかなどノクティスたちにはわからない。
ひょっとしたら巨鳥なだけあって眠る時間も通常の鳥とは桁が違うかもしれないのだ。
起こして敵と認識されたら一巻の終わり。その事実は四人の共通認識としてあったため、一行は身を低くしてこっそりと動く。
これだけの巨体になると寝息も竜の唸り声に聞こえてしまう。頭上から微かに来る風はただの風であり、決してズーの寝息などではないと自分たちに言い聞かせながら、ノクティスたちは身振り手振りでそれらしき鉱石がある場所を見つける。
あそこまで行ったら後は戻るだけ。四人は意識せずとも全く同じことを考えて慎重に息を潜め、衣擦れの音にすら気をつけながらどうにかそこにたどり着く。
「――よし、取れた」
「戻り道でも油断するな」
行きは誰もが危険だと考えて注意するが、戻り道はもう終わりだと思って油断することが多い。
そんな諺にちなんだイグニスの言葉だったが、この場の誰もが戻り道でも全く安全でないことぐらいわかっていた。
身体が大きければ尾羽根も大きい。一本だけ尻尾のように伸びた羽が寝返りでも打つように原石のあった付近を動くのは見ていて心臓に悪い。
どうにかズーの正面付近である崖の近くまで来たときだった。ノクティスはズーの様子を見ようと顔を上げて――うっすらと目を開くズーに気づく。
「ヤバっ――」
注意の声を上げる間もない。ズーが一歩動くだけで砂埃を孕んだ風がノクティスたちに叩きつけられ、吹き飛ばされまいと身体に力を込めながら呆然と見上げるしかなかった。
足元をうろちょろする矮小な存在など歯牙にもかけないとばかりに、ズーは寝起きの一声を上げる。
その声だけでもノクティスたちは耳を押さえていなければ鼓膜が破れそうな音量であり、余計に身動きが取れなくなってしまう。
そんな彼らを気にすることなくズーは悠然とその翼を広げ、ハンマーヘッドより大きいかもと称しただけの迫力ある姿を見せる。
そしてそのまま飛翔のための勢いをつけるべく足を前に踏み出し、崖に――すなわちノクティスたちのいる方向に向かってくる。
「っ――!?」
もはや声も出ない。グラディオラスが咄嗟にノクティスを庇い、大剣を構えてズーの爪を受け流そうとする。
「オオォ――!」
ギャリギャリとおよそ生物の爪と金属が奏でるものとは思えない音を発し、押されまいとグラディオラスは風に負けない雄叫びを上げた。
だがズーの巨体の方向を変えるには至らず、本当にどうにか自分とノクティスを守るだけの安全地帯の確保が精一杯だった。
ノクティスたちの文字通り死線をくぐり抜ける必死の奮闘とは裏腹に、ズーはあくまでゆったりとした仕草で崖から飛び、その羽根を大きく羽ばたかせて空を飛ぶ。
旋回して戻ってくるとかしないでくれと心から祈りながら、ノクティスは仲間の無事を確認する。
「二人とも無事か!?」
「九死に一生を得た気分だ」
ノクティスの声にすぐに反応したのはイグニスだ。
彼は咄嗟に尾羽根付近の鉱石まで戻ることによって、安全を確保していた。
足に当たることなく、しかし羽ばたきに吹き飛ばされることもない良い位置をすぐに見抜いて利用した辺り、彼も知恵者である。
プロンプトは三人とは離れた崖の側で立ちすくみ、どうにか五体満足そうだった。
足がすくんで動けなかったことが逆に命拾いに繋がったようだ。迂闊に動いたら崖が崩れていた可能性もある。
「旅もここまでかと思った。てか走馬灯見えました」
「大迫力だったもんな――おい、足元!!」
喉元過ぎればなんとやら。のんきにズーを見た感想を言って笑っていると、ノクティスの視界にプロンプトの足元が映る。
それは今にも崩れそうなほどにもろかった場所が人間一人の体重と、ズーの風によって今にも崩れそうで――
「へ? うわぁっ!?」
案の定足を滑らせ、崖下の固いコンクリートの道路にプロンプトの身体が投げ出される――前に上から伸びた手が彼の手を掴む。
「ったく、危なっかしいんだよお前は!」
手を掴んだのはノクティスだった。足元が危険だと察した瞬間に武器を投げてシフト移動し、瞬時にプロンプトの側まで来ていたのだ。
そしてノクティスが掴むのはほとんど一瞬だけで良い。横合いから伸びる二つの腕がそれを支えるからだ。
「大丈夫か、プロンプト」
「まったく、頼りになる王様だな!」
イグニス、グラディオラス二人の力が加わることによりプロンプトの身体はあっという間に引き上げられ、安全な場所で一息入れる。
「……もう一回走馬灯が見えました」
「高所恐怖症になっていないことを祈ろう」
「本当に冒険してるみたいだな、オレたち」
「ピンチになるのがオレばっかりって結構きつくない!?」
若干涙目なプロンプトの言葉に三人とも笑ってしまう。笑って流せる辺り、彼らの築いたものがいかに強固かが伺える。
「まあ戻ろうぜ。んで船でオルティシエだ」
「あ、ノクト! さっき助けてくれてありがとね!」
「いいって」
こんぐらい当たり前だ、という言葉は照れくさくて繋げられなかった。
ノクティスはプロンプトの感謝に軽く手を振って答え、レガリアに戻っていくのであった。
「おお! ルビーの鉱石かぁ! いやぁ、本当ありがとう!!」
持ってきた鉱石を渡すと、ディーノは石に頬ずりせんばかりの喜びようだった。
「オレ、新聞記者兼アクセサリー職人なんだ! これでまた良いの作れちゃうじゃん!」
「アクセサリーか。希少なものだと聞くが」
ディーノの言葉に反応を示したのはイグニスだった。
宝石には魔法の力が宿りやすい。それらを利用して身につけるアクセサリーに加工し、旅する人間の無事を祈る風習というのは今なお続いている。
事実、アクセサリーには所持者に良い効果をもたらすことも証明されている。
そして当然のようにアクセサリー職人というのは類まれな才能を要求される難しいものになる。
目の前の軽薄という言葉を人形にしたような青年にできるとは到底思えない。
「まあね。でもアクセサリー屋も肝心の素材がなくっちゃ始まらないんだこれが。カンジ悪かったっしょ? ゴメン! 王子を脅してでもこれが欲しかった!!」
本当に悪いと思っているのか甚だ疑問な謝罪だったが、この喜びようを見ると怒る気も起きない。
ノリは軽いし性格も軽いが、悪い人間ではないのだろう。コロコロと変わる顔はどこか人懐っこささえ覚える。
「難癖つけたお詫びってわけじゃないけど情報。君らがさっき変な男の人にもらった銀貨。あれ神凪就任記念硬貨ってやつで、限られた数しか出回ってない貴重なやつだよ」
結構ばら撒いてたし帝国関係者かもね、とディーノが告げる情報にイグニスの顔が一瞬だけしかめっ面になる。何か思い当たる人物でもいたのかもしれない。
だがそれはここで考えて確証の得られるものではない。イグニスは頭を振って思考を切り替える。
ディーノはそんなイグニスの懊悩など知らんと自分のポケットからアクセサリーを取り出す。
「んでハイこれ、宣伝。キミたち強いし、今後ともオレの素材集めとかお願いしちゃうかも!」
「ったく、調子の良いやつだな」
「ちゃんとアクセサリーあげるからさ、頼むよ!」
「気が向いたらな」
受け取ったアクセサリーを懐にしまい、なんだか親近感の湧いてきた新聞記者にノクティスは苦笑する。
よもやこれから長い付き合いになることなど、夢にも思っていない顔だった。
「ああ、そうそう! 乗船手続きはちゃんとやってるよ。明日には問題なく取れそう」
「おう、サンキュな」
「原石がホント嬉しかったからさ、そのお礼。あと宿も取ってあげたから、そこで休んでいきなよ」
「マジか」
「マジマジ! オレ、これでも結構高給取りなんだよね」
新聞記者とアクセサリー職人の二足のわらじだ。もしかしなくても今のノクティスよりギルはあるだろう。
そもそも本当に乗船手続きしていたのか、とかノクティスたちだけのために船が動かせるのか、とか諸々疑問はあるものの、全てはディーノという青年の能力で済ませられる……のかもしれない。
「明日になったら来てよ。んじゃ、今日はホントにありがとう!」
ニコニコと心から嬉しそうなディーノに手まで振られての見送りを受け、ノクティスたちはガーディナの高級ホテルの清潔で柔らかいベッドと邂逅するのであった。
「なんかこの旅に出てから初めてな気ィするわ、ベッド」
「オレもうベッドと結婚する。このまま離さないで」
プロンプトがいつになく真面目な声でベッドに飛び込んだままつぶやき、仲間たちは同意の意味も込めて笑う。
キャンプを悪く言うつもりはないが、どうしても固い地面に寝袋だと疲労が溜まってしまう。
そんな疲れきった身体を優しく包み込む清潔なシーツとベッドに出会ってしまうと、なんかもう全部どうでも良いという気持ちになるのもわかる。
「ディナーは魚料理のようだ。後はマッサージが見どころらしい」
「おっと、兄貴が言ってたやつか」
「そうそう、男前があがるってやつね。お兄さんは受けたのかな?」
「受けた口ぶりだと思うぞ、あれ」
たいてい外を車で旅しているアクトゥスだが、たまに仕事の報告などでルシスに戻ってきた時にはよくノクティスのところに顔を出していたのだ。
旅の話を聞かされたり、職業柄一所に留まらないため、なかなか彼女ができないと愚痴をこぼすのを聞いたりとなんだかんだで普通の兄弟のように接してきたとノクティスは記憶している。
「じゃあノクトも受けてきなよ。写真に撮ってあげるからさ!」
「マッサージ写真とかいらねーだろ」
いそいそとマッサージ師の元に向かうノクティスと、どんなマッサージが行われるのかという興味が先行してついてくる残りの三人。
マッサージをして鍛えられたのだろう、隆々とした腕を持つマッサージ師の前に立ってノクティスは軽く手を上げる。
「マッサージしたいんだけど、いいか?」
「かしこまりました。こちらに横になってください」
「おう、服とか良いのか?」
「大丈夫ですよ。ゆっくりおくつろぎください」
にこやかに微笑むマッサージ師に促されてうつ伏せになるノクティス。
そんな彼の背中を、筋肉の形を確かめるように手が這い回り――
「っ! があああぁぁぁっ!?」
メッチャ痛い。二十歳になった青年が余裕もなしに叫ぶほど痛かった。
全身の骨がばらっばらになったような激痛が走るが、なぜか身体は五体満足。
なにこれ超イテェ、というかクソ兄貴騙しやがったな……!? とノクティスは脳裏で騙されてやんのと指差して笑ってくるアクトゥスの顔面にシフトブレイクを叩き込みながら必死に耐え忍ぶ。
涙だけは男の意地で流さないように歯を食いしばり、地獄としか思えない時間が過ぎるのを待つ。
「お疲れ様でした。これにてマッサージは終了になります」
ノクティスは無言で立ち上がり、ウソのように軽くなった身体に内心で驚きながらも仲間のもとに戻る。
仲間たちは戻ってきたノクティスの顔を見て、声を上げて笑い始めてしまう。
なにせ今の彼の表情はこれから大いなる使命を果たしに行くのではないかと錯覚してしまうような、苦み走ったものになっていたからだ。
「あは、あはははは! の、ノクト、確かに男前が上がってるよ!!」
「確かに、痛みで顔がしかめられているから……くくっ」
「これでルナフレーナ様もお喜びになるな」
「オメーらも受けろや!! マジ痛えんだよあれ!」
戻ったら兄貴を殴る理由が増えていく。
ノクティスはまだ笑っている仲間たちをマッサージ師の方に誘導しながら、そんなことを思うのであった。
大変なこともあれど、概ね楽しい時間。
怒ることも笑うことも全てが輝かしい未来の一ページとなる、そんな冒険。
これから何十年か先。未来で集まった時にもこの旅に思いを馳せて、長い間語らえるような、そんな時間。
「ノクト、王都が――インソムニアが陥落した」
「――はぁ?」
輝かしい時間の終わりは、本当に呆気なかった。
次回でチャプター1は終了です。影がめっきり薄いオリキャラも次回から出てきて動き始めます。
ズーの巨体ぶりは実際見るとビビりますので一見の価値有りです。なお中盤あたりで普通に倒すクエストがある模様。
ちなみに今回のFFネタは全身の骨がばらっばらになった(FF8)です。前話はデカイ生き物は男のあこがれ(FF10)でした。
全フレーズを出すわけでもないこんな感じの微妙なFFオマージュが入るかもしれませんが知らない人は普通に流してください(土下座)。でも知っている人がいたらニヤリとしてください(平伏)