ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者―   作:右に倣え

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タイトル、あらすじを変更しました。内容自体に変更はありませんのでご安心ください。

そして全国五百万人のロキファンの皆様申し訳ありません(土下座)


新王の旅立ちと王都脱出戦

「では王子、オレはアクトゥス様の救出に向かう」

 

 王の墓所を出てすぐに、コルはルシスへ戻る姿勢を示した。

 

「目的の場所は近くだ。迷うことはないだろう。本来なら同行してお前たちの力を見ておきたかったが、アクトゥス様を放っておくことはできない」

「それは良いけど、一人で何とかなんのか?」

 

 リード地方からルシス王都に向かう橋はすでに魔導兵が数多く配備され、猫の子一匹入る隙間もない。

 その包囲網を抜けてコルはここまで来たのだから、何か算段はあるのだろうが危険であることは事実だ。

 

「警護隊の生き残りも集めて仕掛ける。陛下を守れず、アクトゥス様も守れなかったら、本当にオレたちの意味がない」

 

 そう語るコルの目にはノクティスにもわかるほどの強い自責の念が込められており、下手をすると自殺に近い特攻ですらやりかねない空気があった。

 確かにアクトゥスのことは大事だ。だが彼だってコルが死んでまで助けに来たとなれば、助かっても気に病むに違いない。

 

「……死ぬなよ、コル。今、誰か欠けたらルシス復興なんて不可能だからな」

 

 ノクティスなりに考えた言葉だった。死んで欲しくないから無理はするな、というのは照れくさくて言えなかったが、それでも言葉を選んだつもりだ。

 それを聞いたコルはかすかに目を見開き、次いで小さく笑う。

 

「……ふっ、早速部下の身を案じるとはなかなかの王様ぶりだな」

「茶化すな。オレたちも力を手に入れたら兄貴の救出に向かう」

「いや、その必要はない。アクトゥス様の実力はオレも知っている。十全に動けるなら魔導兵程度、邪魔にもならないだろう」

 

 それよりお前たちは力を得ることを優先するんだ、と言われてしまうとノクティスたちも引き下がるしかなかった。

 アクトゥスはどういった事情があるのかわからないが、王家の力を継承できない。それはつまり、指輪をはめることもできないということ。

 

 魔法障壁の発動ができない王族と、できる王族。どちらを優先すべきかなど決まっていた。

 

「いや、だけど――」

「新王よ、優先順位を間違えてはならない。そして臣下を信じて任せることも重要だ。――オレが信用できないか、ノクティス」

「……わかった。兄貴のことはコルに任せる」

「任された。ではオレはルシスへ向かう橋に行っている。作戦の決行時には連絡を入れよう」

 

 そう言ってコルは野営地の方へ戻っていく。その足で生き残りを集め、すぐにでも救出作戦は行われるのだろう。

 本心を言えばそちらに行きたい。だがそれで作戦が失敗し、ノクティスとアクトゥスが両方死んだら目も当てられない。指輪やクリスタルどうこう以前の問題だ。

 

「ノクト、オレたちはオレたちでできることをやろう。今は進むしかない」

 

 懊悩するノクティスにイグニスが落ち着いた声をかける。

 こういった時に重要なのは友の励ましでも発破でもなく、冷静に先を見据える声だ。

 

「……おう」

 

 言葉少なに答え、ノクティスたちは話にもあったキカトリーク塹壕跡を目指すのであった。

 

 

 

 三十年前、ニフルハイムとルシスの戦争が激化していた頃の話だ。

 帝国軍は王都を眼下に収められる場所まで侵攻しており、それはリード地方も例外ではなかった。

 

 そんな中、民間人が隠れる場所として掘ったのがキカトリーク塹壕跡になる。

 ある程度の長期使用も視野に入っているためシャワー室や井戸も備えられた、地下の居住空間だ。

 尤も、暗い場所ではシガイの恐怖が付きまとう。常に灯りを絶やさない必要があるが、それをすれば地上の侵攻部隊に発見されかねない。

 

 それに戦争も冷戦状態となっていた昨今、この場所は使われることもなくシガイたちの巣窟になっているのが現実だった。

 その場所に王家の墓が見つかったというのは皮肉と言うべきか、運命と言うべきか。

 

「ここで亡くなった人の幽霊がいる、とかないよね?」

「いてもリッチ系かマインドフレア系のシガイだろう」

「あ、そっちも勘弁な方向で」

 

 電気などとうに消え失せ、敵兵を迷わせるために複雑な構造となっている塹壕内を進んでいく。

 かなり規模の大きいものだったようで、十分な食料さえあれば百人だろうと収容ができそうな規模の塹壕を歩いていると、当然ながらシガイも出くわす。

 

「うわ、シガイ!?」

「ゴブリン系のシガイか。小柄な身体と爪が特徴のシガイだ」

「で、強さは?」

「シガイの中でも最弱の部類になる。気をつけて戦えば怪我もないだろう」

 

 イグニスの語るように、目の前でうろちょろとしているシガイは脅威とは言い難い。

 しかしそれは戦える力があればの話であり、一般人には十分な脅威だ。

 そしてこの場所は塹壕内。敵が戦いにくいよう粋を凝らした戦いにくい場所でもある。

 

「チッ、狭えな! オレの剣がほとんど振れねえ」

「殴りかかったらどうだ?」

「シガイの爪と殴り合えってか、冗談キツイぜ!」

 

 大剣を得物とするグラディオラスはひどく苦心した様子だったが、それでも剣の柄を利用して殴り、大剣を肩に担ぐことで一振りを小さくするなど、器用に立ち回る。

 ノクティスも先ほど得た王の力を振るい、レギスと同じような透明な剣――ファントムソードによる追撃を交えた攻撃を行っている。

 

「やはり王家の力を得ると違うか」

「意外とコントロールが難しいけどな」

 

 イグニスと背中合わせになりつつ、ノクティスはゴブリンの爪を弾いて賢王の剣をその腹部に叩き込む。

 バック転で距離を取り、ノクティスが手をかざすと腹部に突き刺さった賢王の剣が勝手に抜けて、透明な刃となってゴブリンを無尽に切り刻んでいく。

 

「これが後九本か。ルシス国内のみでそれだけあれば、相当な力になるだろう」

「だな。コルがこれを集めろって言う理由がわかるわ」

「それだけ王族の力というのは凄まじい。使い所は慎重にな」

「わかってるっての!」

 

 プロンプトが危なそうになっていたので、ノクティスはエンジンブレードを投げてシフトブレイクを行い、プロンプトの前に立つ。

 

「あんな無茶すんなよ、プロンプト」

「ゴメン。でもオレだってやられっぱなしじゃないところ、見せるからさ!」

 

 両手に持った拳銃で狙いを定め、引き金を引く。

 銃とは誰にでも扱える武器であり、同時にモンスターやシガイを相手にするには向かない武器だ。

 どちらも皮膚の硬さは人間の比ではない。拳銃でモンスターに有効打を与えるなら、よほど精妙に弱点を狙い撃つ必要がある。

 運か、才能か、努力か。どれでもあり、どれでもないプロンプトの銃弾はゴブリンの爪を見事に弾き、ノクティスの死角から迫っていた凶刃を防ぐ。

 

「頼もしいな」

「オレだってやる時はやるよ!」

 

 このようにやり取りしつつ、先に進む程度の余裕はあった。

 それは道中にでてきたアルケニーという上半身が女性の蜘蛛型シガイが相手でも変わらない。

 場所も適度に広かったため、全員が攻撃を受けないよう分散しつつ各々が役目を果たせば容易に退治可能な相手だった。

 

「終わりっ!!」

 

 ノクティスが上半身に槍を突き入れ、両手で持って強引に切り下ろす。

 致命傷を受けたアルケニーはゆっくりとその場に倒れ、黒い霧と消えていく。

 

「上手く行ったな。理想的な流れだ」

「グラディオが陽動。イグニスとノクトが後ろ。オレが応援。バッチリだね!」

「いや、戦えよ」

「冗談冗談! バッチリやるからさ、任せてよ!」

 

 明るいプロンプトの声を聞くと、暗い塹壕内でも気分が明るくなる。

 グラディオラスもイグニスもこういった場所では、ノクティスを守るために気を張らざるを得ない。

 しかし気持ちというのも戦闘には大きく関わってくる重要な要素だ。後ろ向きな気持ちで戦うことと、前向きな気持で戦うこと。どちらが良い結果をもたらしやすいかなど明白だろう。

 

「ここが墓所か」

「みたいだな。鍵、使うぞ」

 

 コルから渡された鍵を使い、墓所の中に入っていく。

 中は先ほどの墓所と同じ冷たい空気が流れており、嫌でも墓であることを連想させる死の気配がした。

 棺は立派な斧を抱えており、これが新たなノクティスの力となることが伺えた。

 

「斧か。全部が剣ってわけじゃねえんだな」

「歴代王の得意とする武器も違うのだろう。当然といえば当然だ」

 

 イグニスの言葉に同意しつつ、ノクティスは再び手をかざす。

 賢王の剣の時と同じく、ファントムソードがノクティスの中に入り、新王への新たな力を変わる。

 

 修羅王の刃。かつてルシスの領土を拡げ、多くの民とともに戦い武勲を挙げたと伝えられる王の持つ武器。

 手にかかる重さはノクティスがこれまで握ってきたどの武器よりも重く、王に課せられる役目と責任を嫌でも意識させる。

 

「――オレが背負わなきゃいけねえんだよな」

「そうだな。アクトゥス様に継承ができない以上、お前以外に王の力を受け取れるものはいない」

「ああ。兄貴にはできない、オレにしかできないこと」

 

 武器を消し、新たに獲得した力に確かな実感を得るノクティス。

 こうして力を得ていけば、いつかは兄のことを追い抜いて――

 

「だったらそろそろ出ようぜ。もうすぐ夜になる」

「っと、ああ」

 

 自分は今、何を考えたのだろう。ノクティスはそれについて思いを巡らせる前に、グラディオラスの言葉で我に返る。

 早いところ脱出しなければ外でシガイに襲われることになる。それは勘弁願いたいため、ノクティスたちは外に出る道を急ぐ。

 その道中、ノクティスがふと抱いた疑問などすっかり消えてしまっているのであった。

 

 

 

 外に出ると、アンテナのついたノクティスのスマートフォンが着信音を鳴らす。

 誰かと思って見てみるとコルの番号が表示されていた。

 これが表示されているということは、兄の救出作戦がこれより行われるということ。

 ノクティスは意図せず胸が緊張に高鳴るのを自覚しながら、震える指で電話に出る。

 

「ノクティスか」

「ああ。力は得た」

「そうか、まずは上手く行ったようで何よりだ」

「お世辞は良い。そっちは……」

「これよりアクトゥス様の救出作戦を開始する。リード封鎖線を突破し、橋の中頃でアクトゥス様と合流する手はずだ」

「手はずってことは、兄貴と連絡取れたのか?」

「ああ、状況は把握している。楽観視はできないが、決して悲観的になる必要はない」

 

 オレとアクトゥス様で突破可能だ。そう言い切るコルの言葉にノクティスは頼もしさと安堵を覚える。

 

「……いや待て、兄貴にはルーナも連れて――」

「それも聞いた。向こうには策があるようだ。今はそれを信じるしかない。王都の方で戦うアクトゥス様の手助けは難しい」

 

 双方が同時に仕掛けて合流し、脱出。その手はずである以上、リード封鎖線側をアクトゥスが援護することはできず、王都インソムニア側をコルが援護することはできない。

 難しい状況であることはノクティスにもわかる。納得はできないが、これ以上の方法がないこともわかってしまう。

 

「……わかった、オレたちはどうすればいい?」

「アクトゥス様からの伝言だ。――脱出できたらレスタルムを目指す。そこで会おう、とのことだ」

「了解。オレたちもレスタルムを目指せば良いってわけか」

「合流までどの程度時間がかかるかはわからない。お前たちはその間に力を付けておくと良い。では――」

 

 電話が切れる。今からコルたちは死地に飛び込み、決死の救助作戦を開始するのだろう。

 不安はある。心配もある。だが同時に彼らなら大丈夫という信頼もある。

 プラスとマイナス。色々な要素と感情が混ざり合い、ノクティスの顔がゆがむ。

 

「ノクト、キツイようなら言えよ。力になれるかはわかんねえけど、吐き出すだけでもだいぶ違うぞ」

 

 ノクティスの感情を察したのだろう。グラディオラスが声をかけてくる。

 幼い頃から兄貴分として色々と愚痴を吐き出したこともある。

 しかし、それは今言うべきことではない。何せ自分は――ルシスの王なのだから。

 

「……こんぐらい平気だっての。今はレスタルムを目指すぞ」

「わかった。西のダスカ地方を抜けて、クレイン地方まで足を運ぶことになる。長旅になることは覚悟してくれ」

「帰れない時点で今さらだっての」

「どうせなら楽しんでいこうよ! お兄さんたちだって脱出すれば連絡来るだろうし!」

「おわっ!?」

 

 旅の目的地が決まったところでプロンプトがノクティスに肩を回して大げさなほど明るく話す。

 いきなり何するんだ、とノクティスが抗議の視線をプロンプトに向けると、彼は真剣な顔で三人を見た。

 

「目的は大きいし、正直怖いとも思うけどさ。だからこそ明るく行きたい。俯いて旅してたら、心が先に負ける気がするんだ」

「……そうだな、プロンプトの言う通りだ。よっし、景気づけに今日はキャンプにするか!」

「なんでキャンプ」

 

 プロンプトの言葉に呼応するようにグラディオラスも調子を上げ、楽しむ気概を取り戻す。

 ノクティスの肩に手を置いたグラディオラスの言葉に、ノクティスはジトッとした目でツッコミを入れた。

 

「オレのテンションが上がる」

「……だったら、今日は腕によりをかけて食事を作ろう。暖かい食事が士気を上げるのはいつの時代も同じだ」

「イグニスもかよ」

「じゃあオレ記念撮影する! ノクトもたまには写ってよね」

「あーもー、わかったからオレに体重かけんのやめろ!!」

 

 近寄ってきて鬱陶しい三人をノクティスは強引に振り払う。

 距離は開くものの、三人の顔にはこの旅を始めた時と同じ笑みが浮かんでいた。

 それを見て、ノクティスもまた口角が上がるのを自覚する。

 本当に、自分は良い仲間に恵まれた――

 

「じゃあ今日はオレの好物な」

「お前の好物だと野菜が減るだろう」

「ま、良いんじゃねえかたまには」

「これからって時にはやっぱり肉だよね!」

 

 イグニスが苦言を呈するものの、グラディオラスもプロンプトもノクティスに賛同していた。

 

「……全く、虎の子の肉を出すしかないか」

 

 仕方がないとイグニスはため息をつきながら、とっておきの肉を使うことを宣言するのであった。

 

 

 

 その日の夕食はノクティスの好物を、というのが満場一致で決定したため、クイーンガルラサンドに決定した。

 ガルラと呼ばれるダスカ地方に生息する草食野獣――の母親個体であると言われる大型のガルラの肉だ。

 子供を産むために栄養や脂肪を貯め込む性質なのだろう。赤身の肉に美しい霜が網目状に走っており、見るだけで高級肉であるとわかる。

 その肉に小麦粉、卵、パン粉を順につけて油でカラッと揚げる。

 

「食材が油に入る音ってさ、すげー腹減るよね」

「わかる」

「腹の虫が鳴りそうだぜ」

 

 食事ができるのを待つ三人がフォークとナイフでテーブルを叩きそうな勢いで空腹を訴えているのを尻目に、イグニスはクイーンガルラの肉を大きなカツレツに調理する。

 完全に火が通る――手前で油からカツを取り出し、素材に残った温度で丁度良く揚がるようにタイミングを測る。

 そして肉が熱いうちにこれでもかと言うほど分厚く切っていき、バターとソースを予め塗ってあるパンに挟む。これでクイーンガルラサンドの完成である。

 

「うわ、肉デカっ!」

「パンの方が薄く見えるな!」

「こりゃ食いでがありそうだ!」

 

 待ってましたとばかりに三人はパンが挟まれている具ではないかと錯覚してしまうほど大きなカツサンドにかぶりついていく。

 衣に包まれたカツは歯を立てるとさっくりと、しかし肉の歯応えを損なわず噛み切れる。

 途端、口の中に脂の甘みと肉の甘み、ソースの甘辛い味がいっぱいに広がっていく。

 揚げたてのカツから溢れ出る肉汁をパンが吸い取り、バターの香りとクイーンガルラの肉の特徴である甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 

「冷めたカツサンドとぜんぜん違う! 超うまい!」

「やべーなこれ。もう普通のカツサンドとか戻れねーわ」

「こんだけいい肉だと、ステーキにしても美味そうだな」

「好評なようで何よりだ」

 

 三人の絶賛を受けて、イグニスも嬉しそうに自分の分を食べながらこの日の夕食は和やかに過ぎていくのであった。

 色々と苦しいことはあったが、それでも腹は減る。

 ならば腹が減った時に美味いものを食べたいと思うのは当然の理屈であり、そして美味いものを食べれば笑顔になるのも当然の理屈である。

 ノクティスは良い仲間に恵まれたことに内心で感謝しながら、大好物のクイーンガルラサンドを頬張っていくのであった。

 

 

 

 

 

 レイヴスが橋のたもとに降り立つと同時、アクトゥスはコルから連絡を受けていた。

 

「状況は?」

「帝国の将軍サマが橋の前に陣取ってる。ルナフレーナが目的だろうし、引くことはないと見ていい」

「なるほど、魔導兵だけならまだしも、レイヴス将軍が来たか……」

 

 彼の超人的な身体能力による活躍は王都にいたコルの耳にも届いているし、外に出ていたアクトゥスも知っている。

 神凪としての力なのか真偽は定かではないが、いずれにせよ彼が正しく一騎当千の力の持ち主であることは確かだ。

 

「オレが全力で戦って……まあ、五分だと嬉しいな」

「橋の付近までオレが接近するか?」

「……それで戻り道に魔導兵が配備されたら仲良くお陀仏だ。こっちはオレとルナフレーナでどうにかする」

「……説得を試みるのか?」

「兄と会話もせずに、というのも問題あるだろ」

 

 アクトゥスはルナフレーナに視線で確認を取ると、彼女は決意を込めた瞳で首肯を返してくれる。

 彼女の方も自分の力で未来を切り開く覚悟は十分なようだ。

 後は未来を閉ざそうとする輩を全力で押しのけるだけである。

 

「――これから作戦を開始する。どうにかレイヴスを退けて橋の方に向かうから、迎えを頼む」

「わかった。武運を祈る」

「そちらも」

 

 アクトゥスは電話を切ると、これまでルナフレーナに軽口を叩いていたときとは違う、王族としての顔で彼女に話しかける。

 

「一応説得は試みる。だがダメな時は戦うってことを理解して欲しい」

「わかっています。わたしは、わたしの道を選べるならノクティス様のお側にいたい」

「その意気だ」

 

 本当に愛されている。アクトゥスは仲間に恵まれているノクティスのことをほんの少しだけ羨み、その感情を自嘲の笑いに変えながら立ち上がる。

 

「ちょっと準備してくる。それが終わったらレイヴスに会いに行く」

「お気をつけて――」

 

 数分後、アクトゥスとルナフレーナは揃って廃ビルから出てきて、レイヴスの前に姿を現す。

 瞬間、彼らの姿を視認した魔導兵が銃口を向けるがレイヴスが手で制する。

 

「お久しぶりです、お兄様」

「オレはさっきぶり、とでも言えば良いか?」

「ルナフレーナ、アクトゥス……!」

 

 憎々しい、と語る瞳がアクトゥスを射抜く。

 その憎悪を彼は軽く肩をすくめるだけでいなすと、彼に向かって口を開く。

 

「一応聞くだけ聞くぞ。――オレたちが目的だな?」

「当然だ。真の王足り得ぬルシスの王族であるお前を殺し、ルナフレーナをテネブラエに戻す。それが私の役目だ」

 

 取り付く島もない。最悪でもアクトゥスが死ぬだけでルナフレーナは生きて戻れそうなのは良いが、アクトゥスでは話にならない。

 レイヴスの瞳にはかつて彼の故郷であるテネブラエがニフルハイムの侵略を受けた際、ほとんど目前まで救助に来ながら見捨てたルシス王家への恨みが今なお残っているのだろう。

 

 侵略してきた敵国より、見捨てた同盟国。それまで信じていたのなら、なおさらひっくり返った時の憎悪も大きい。

 アクトゥスが黙り込むと、レイヴスは次にルナフレーナへ声をかける。

 

「ルナフレーナ、私とともにテネブラエに戻るんだ。誓約を行うことがどういうことか、お前はわかっているだろう!」

「わかっています。ですがその上で、わたしはノクティス様のお力になりたいのです!」

「王たる自覚もない無力な男にか!」

 

 苛立ったようにレイヴスが義手となった左腕を蠢かせる。

 視線が一瞬だけアクトゥスの指につけられている光耀の指輪に向かい、すぐにルナフレーナの元に戻る。

 

「はい!! 世界の闇を祓うのはノクティス様以外におりません!」

「選ばれた。ただそれだけの男のために命を懸けるか……」

 

 決意の変わらないルナフレーナに、レイヴスは一瞬だけ哀しげな顔になる。

 なぜ理解してくれないのだ。なぜ――自分たちで闇を祓おうとすることができないのか。

 

「……気が合うかもな、オレとお前は」

「なに?」

 

 哀しげなレイヴスの顔を見て、何を思ったのかアクトゥスが声をかける。

 ルシスの王族に向ける憎しみは並々ならぬというのに、それでも声をかけた彼の心にはいかなるものが渦巻いていたのか。

 

「お互い、厄介極まりない使命を背負わされた家族がいるって点で、だよ」

「……お前はノクティスの使命を聞かされても何も思わなかったのか」

「思ったさ。その上でオレはあいつが王になる手伝いをすると決めた」

「使命の果てに家族が死ぬとわかっていてもか!!」

 

 アクトゥスの言葉にレイヴスの琴線が刺激されたのか、彼の激高が今までにない勢いになる。

 その怒りはアクトゥスの隣に立っていたルナフレーナをひるませるほど。

 

「お前たちは本当に変わらない! 古ぼけた使命とやらのためにテネブラエを見捨て、我が母を見捨てた! そして今度は使命の名の下に私から妹まで奪うか!!」

「自由意思ぐらい尊重してやれよ、ルナフレーナはもう決めたんだぜ!」

「家族を見殺しにすることを選んだお前にはわからない!!」

 

 レイヴスの身体から神凪の魔力が吹き出す。

 白く輝くそれは彼の身体を霧のように覆い、抜剣したレイヴスがアクトゥスを睨む。

 

「……ま、わかっちゃいたが交渉は決裂だ。ルナフレーナ、手はず通りに頼む」

「はい。……ここまで怒った兄を見るのは初めてです。どうかお気をつけて」

「身から出た錆だ。どうにかするさ」

 

 前線での戦闘に向かないルナフレーナが下がっていくのを見届け、アクトゥスは小さく自嘲の息を吐く。

 彼の境遇と自分の境遇を重ねてしまい、迂闊な言葉をかけてしまった。

 お互いに選ばれなかった身なのだから場所と状況さえ違えば、良い関係になれたと思ってしまったのだ。

 

 とはいえ過ぎたことを言っても仕方がない。もはや激突は不可避である以上、アクトゥスも自らの生存を懸けて戦うしかない。

 双短剣ではなく片手剣を召喚し、握る。

 それをレイヴスに向けた瞬間――戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 驚異的な速度で突っ込んできたレイヴスの斬撃をアクトゥスは受けなかった。

 手に持つ片手剣を真横に投げて、シフト移動で回避しつつ短剣を投げつける。

 過つことなく額を狙って放たれたそれをレイヴスは避けない。

 

「冗談だろ」

「こんなものか、ルシスの王族」

 

 首を傾ける。義手で防ぐ。剣で切り払う。レイヴスの行った行動はどれでもない。

 ただ、額で受け止める。神凪の力によって強化された彼の身体能力は、短剣の一撃など物の数にもしていないのだ。

 

「チィッ!!」

「逃がさんっ!」

 

 正面からの戦闘は不利どころの話ではない。もはやあれは人の形をしたモンスターだと思った方がマシだ。

 片手剣で追撃しようと思っていた気持ちはすっかり消えており、なんとか気を伺おうとしていたアクトゥスにレイヴスの振るった斬撃――の衝撃波が迫る。

 

「人間業じゃねえ!?」

 

 不可視の斬撃であるそれに対し、アクトゥスは慌ててシフトを起動。あらかじめ廃ビルの一角に用意しておいた武器に退避する。

 

「む」

「ルシスの王族相手に迎撃戦なんて仕掛けたこと、後悔させてやるよ!!」

 

 シフト魔法の発動に必要な条件はたった一つ。自身の魔力を通した武器を用意すること。

 外で旅をしており、どこで戦うかわからないノクティスに使う機会はないだろうが、これらは自分たちが待ち伏せする際に絶大な効果を発揮する。

 

「高所を取ったか、小賢しい」

「その小賢しさにお前は一杯食わされるのさ!」

 

 廃ビルのむき出しになった鉄骨の上。そこに用意した双短剣を持ち、アクトゥスは不敵に笑う。

 シフトブレイクは投げた距離が長ければ長いほど威力が上がる。まして高所からの重力も味方につければレイヴスとてダメージはあるだろう。

 というかこれでノーダメージだったら打つ手がなくなるので、通って欲しいというアクトゥスの願望もこもっているが。

 そしてアクトゥスは同時に双短剣を投げつけ、その身体をシフトさせる。

 

 狙いはレイヴス――の後ろに控えていた魔導兵。

 

「なに!?」

 

 投げつけた短剣によるシフトブレイクをほぼ同時に成立させ、一瞬で二体の魔導兵を片付けるアクトゥス。

 自分を狙ってくると身構えていたレイヴスは予想外のアクトゥスの行動に驚くが、それは失望の意味合い。

 魔導兵を叩くのなら高所である必要などない。どこからでもシフトブレイクを行えばあっという間に無力化されるような存在だ。

 

 アクトゥスはレイヴスの失望など知らぬと魔導兵の首を飛ばすと、その首と身体をレイヴス目がけて蹴りつける。

 

「この程度!」

 

 目くらましにもならない。レイヴスが一太刀でそれを吹き散らすが、アクトゥスの姿はそこにはない。

 足元にできた影でレイヴスはアクトゥスが自分の真上にいることを察し、顔を上げる。

 そこには槍を召喚し、レイヴスを突き刺そうとするアクトゥスの姿があり――レイヴスは迎撃を選ぶ。

 

「貫け!!」

「見くびられたものだな!!」

 

 上空から距離を取り、槍を使ったシフトブレイク。

 アクトゥスの渾身の力が込められたそれを、レイヴスは右手に持つ剣だけで受け止め切る。

 左の義手が追撃となってアクトゥスを襲い――アクトゥスは再びシフトで逃げる。

 逃げた先は橋の端。そこにいた魔導兵を片手剣で薙ぎ払うと、アクトゥスはレイヴスと対峙する。

 

「ちょこまかと鬱陶しいネズミだ」

「もう逃げないさ。――仕込みは終わった」

 

 なに、とレイヴスが訝しむ余裕を与えずアクトゥスの策は成立し、彼の眼前にマジックボトルが――

 

「っ!!」

 

 咄嗟に顔を防ぐレイヴスの前でマジックボトルが破裂し、中に込められた魔法――ファイガが炸裂する。

 爆炎が広がり、周囲にいた魔導兵をもろともに巻き込んで連鎖的な爆発を引き起こす。

 

 これが最初から狙いだった。

 最初の攻防でアクトゥスは自分のシフトを使った攻撃での有効打は早々に諦めていた。

 だから後は徹底して切り札である魔法を悟られぬよう、逃げ回りつつ注意を引いていたのである。

 そして上空からのシフトブレイクを仕掛ける直前、マジックボトルを上空に投げておいた。それがレイヴスの前で爆発した魔法の正体。

 

「もう一発!」

 

 追撃の手は緩めない。もう一つのマジックボトルに入れてあるサンダガも起動。爆炎と雷撃が広がり、並のモンスターなら踏み入るだけで死んでしまうような空間が出来上がる。

 アクトゥスは守りの指輪で防いであるが、レイヴスは直撃。これで多少はダメージを与えられているはず。

 しかし――

 

「――斬鉄剣」

「っ、ぐっ!?」

 

 不可視の斬撃が爆炎を切り裂いて出てきた時、アクトゥスの望みは儚く散る。

 出てきたのは多少の焦げはあるものの、健在なレイヴスの姿だった。

 彼こそ帝国将軍レイヴス。並大抵の攻撃では揺らぎもせず、振るう斬撃は鉄をも両断する。

 彼との正面戦闘はルシスの王族であろうと、極めて厳しいものになる。その現実がアクトゥスを無情にも打ちのめす。

 

「いまのを防ぐか。生き残ることに関しては大したものだ」

「……あんたに言われちゃ嫌味にしか聞こえないぜ」

 

 万策尽きた。斬鉄剣こそ防いだものの、すぐには動けそうにないアクトゥスにレイヴスは近寄り、トドメを刺そうとする。

 

「言い残すことはあるか。似た境遇のよしみだ、聞くだけは聞いてやる」

「……だったら一つ」

「なんだ」

 

 

 

 ――妹さんを甘く見すぎだ。

 

 

 

 レイヴスは疑問が浮かぶ前に視線をアクトゥスから切り、別の方向に――エンジン音の聞こえる方に向ける。

 そこにはハンドルを握り、アクセルを全開にした車を運転してこちらに突っ込んでくるルナフレーナの姿があったのだ。

 

「っ!?」

 

 本来のレイヴスなら受け止めることも迎撃することもできた。

 だが相手がルナフレーナであること。そしていまは視線を外しているものの、アクトゥスが側にいることがレイヴスにそれらの行動を取らせなかった。

 横に飛び退いたレイヴスをルナフレーナの車は追わず、ただ橋を目指すばかり。

 そう――アクトゥスの放った二発の魔法によって魔導兵が一掃され、がら空きとなったルシスから脱出する橋に。

 

「しまった、魔法の狙いは――!」

「目的は間違えないように、って教訓だな」

「貴様!」

 

 騙された。レイヴスは怒りのままにアクトゥスを切り捨てようと剣を振るうが、シフトで容易く避けられてしまう。

 そしてあらかじめ車内に用意しておいた短剣にシフトし、アクトゥスは友人に別れの挨拶でもするように軽く手を振って橋の向こうへ消えていくのであった。

 

 一人残されたレイヴスはそれを見送ると、やがて誰にでもなく優しい声でつぶやく。

 

 

 

「――全く、一度決めたことにはてこでも変えない頑固な妹だ」




はい、チャプター2終了です。この時点で受けられるサブクエ回は入れるかどうかちょっと悩み中です。

ノクトが原作より王としての自覚があるように見えるじゃろ? 彼は彼でこじらせてるんじゃ(真顔)
あとダスカ地方への基地解放戦は無くてもいいかなって。ロキファンの皆様申し訳ありません(土下座)

そしてレイヴス戦。彼は神凪パワーを自己強化に使う戦闘スタイルです。
Q.つまりどんな戦い方?
A.超強いバフを自分にかけて殴る。相手は死ぬ、以上

ちなみにノクトたちとも戦う予定があります。グラディオとの因縁もできるため、本当に長い付き合いになります。

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