ファイナルファンタジーXV ―真の王の簒奪者― 作:右に倣え
二人の旅の始まり
ダスカ地方。広大な湿地帯とそこに住む多くの野獣が特徴的な地方である。
人間が開拓するには向かないが、ここで取れる豊富な自然の恵みと野獣の肉は人々の生活に大きく貢献している。
「ここまで来る予定とかなかったから、雑誌とか見てなかったなあ。何か有名なのとかあるの、イグニス?」
そのダスカ地方をレガリアで旅していたノクティス一行。
この地方の情報は皆無に等しかったため、何か知ってそうなイグニスにプロンプトが質問する。
「そうだな……まずは、あれを見てみろ」
「へ? うわっ! なにあのでっかいの!?」
イグニスが運転しながら指差した方向に三人の視線が寄せられると、そこに映る超巨大なモンスターに驚愕する。
かなり距離があるのは湖の小ささでわかるのに、そこから見てもどんな姿なのかわかるほど大きいのだ。
ひょっとすると旅の途中で見た巨鳥ズーよりも大きいかもしれない。
「でっけえ……」
「昔の神話に出てきた巨獣の名前から取って、カトブレパスと言うらしい」
「それってどんな神話?」
「一つ目の野獣で、その瞳に睨まれたものは石像になってしまうという話だ」
実際にはそんなことはなく、刺激しなければ温厚な野獣なのだが造形が似通っていたのが運の尽きだ。
とはいえあの目に睨まれるほど近くまで来たら、本当に石化ぐらいはしてしまうかもしれないと思わせるほどの巨体である。
「養殖もあのサイズでは難しいそうでな。あれの肉は高級肉になる」
「ていうか食べるんだ、あれ!?」
「ああ。風味が良くて、焼くのに適しているらしい。ステーキや串焼きが美味いそうだ」
「おいおい、やめろよイグニス。食いたくなってくる」
グラディオラスの言葉に全員が笑う。料理をするからか彼の話は具体的で味も想像できてしまい、ついつい腹が減るのだ。
では、とイグニスは再び違う知識を披露し始める。
「他にもカーテスの大皿と呼ばれる場所が特徴だな。メテオは知っているか?」
「大昔にこの星に落ちてきた巨大隕石だよね。学校で習った」
「ああ。そしてそれを支える巨神タイタンがいる場所がある。」
今もなお青白い炎が立ち上り、絶えぬことのない炎を燃やし続ける隕石。
その隕石が地上に落ちぬよう支えているのが、今なお眠ることなく活動を続ける巨神タイタンだ。
故にこの場所では巨神信仰が盛んで、頻発する小規模な地震などは巨神の寝返りとも言われている。
「巨神信仰の聖地としてカーテスの大皿は有名だ。今は帝国軍が基地を作っているそうだが、一度は見てみたいものだな」
「へえ、イグニスって宗教とか興味あるの?」
「人間が拠り所にするというのは、信仰だけでなく他にも暮らしに密接した関係があったりするものだ。それらに思いを巡らせるのも楽しいものだぞ」
「オレにはわかんねーわ」
ノクティスの言葉にイグニスは顔をしかめるが、プロンプトもグラディオラスも似たような反応だったのでこの話題はやめることにする。続けても自分が悲しい思いをするだけだ。
「では別の話題に変えよう。先ほど話したカトブレパスのいる湖。あれはニグリス湖という名前でな、ノクトは何か知っているんじゃないか?」
「ニグリス湖……? ニグリス湖って、あの!?」
「なんだ、妙に食いつくな」
「当たり前だろ! 釣り人なら知らない人はいねえっていう超有名な釣り場だ!!」
王都の釣り雑誌でも有名で、幾度となく特集の組まれる場所だ。
湖ではあるものの、湿地帯の影響か様々な場所で釣れる魚が異なり、その場所の魚を全て釣ることは釣り人として一つのステータスでもある。
「マジか、あれが有名なニグリス湖なのか! なあ、寄ってくくらいならできんじゃねえか!?」
「ノクトってさ、釣りの話になると目の色変わるよね」
「それだけ本気で好きなんだろ。ああまで目を輝かせるノクトは久しぶりに見るけどな」
プロンプトとグラディオラスがひそひそと話しているが、ノクティスは気にも留めない。
イグニスはレガリアを運転しながら思案し、小さなため息とともにそれを認める。
「……食料調達の範疇で頼む」
「任せとけって! くぅー! 超楽しみ!!」
「ノクト、キャラ壊れてない? 大丈夫?」
何やら失礼なことをプロンプトが言っている気がするが、上機嫌なノクティスは華麗にそれを無視する。
この釣り場でノクティスは運命の師匠とも呼べる人と出会うことになるのだが――それはまた別の話だ。
「あともう一つ、この地方には特色と呼べるものがある」
「詳しいな、イグニス」
「ルシス国内であれば、一通りのことは勉強した」
軍師に必要なのは策を練る思考と、思考を十全に活かせる知識だ。
どちらも学び続けることによって磨くことができる。考え方の幅というのも、多くの人や先人らが遺したものを知ることである程度は学べるのだ。
「勉強家だなあ、イグニスは。で、特色ってなに?」
「チョコボだ。ここから南に行くと有名なチョコボの牧場がある」
ルシスでは車が移動手段として発達しているが、道の整備がされていない場所などの移動手段として重宝している動物だ。
温厚で人懐っこく、特徴的な鳴き声をあげながらじゃれついてくる様子は動物好きにはたまらないらしい。
極稀にチョコボの森にはやたらと太ったデブチョコボがいて、チョコボ臭い場所にギサールの野菜を置くと現れると聞くが――まあ、これは噂話の域を出ないものだ。
「チョコボかぁ! 時間あったら寄ってこうよ!」
「時間があればな。車の使えない時には便利だろう」
などと話しているとガソリンスタンドが見えてくる。
ルシス国内で大きなシェアを誇るコルニクス鉱油が経営しているガソリンスタンドに降り、レガリアに補給をしていると電話が鳴る。
「ん、電話――兄貴!」
「お兄さん、無事だったんだ!」
「ったく、コルたちも連絡寄越せってんだよ!」
大喜びしながらノクティスが電話に出ると、聞き慣れた兄の言葉が耳に入ってくる。
「兄貴、脱出は成功したんだな!」
「まーな。ちょっと修羅場くぐったが、なんとか生きて脱出できた」
「じゃあルーナも……」
「無事だ。今はハンマーヘッドで休んでいる」
久しぶりのシャワーだ、とアクトゥスは実に上機嫌な声で話す。
「……オイ待て。てことは兄貴、ルーナのシャワーとか……」
「旅の同行者なんだから不可抗力だろ」
「はぁ!?」
「そんな小学生みたいな独占欲発揮するなよ。一応気は遣って外で話してるから安心しろ」
「安心できる要素何一つねえよ!?」
あーうるさい、とアクトゥスがうんざりしたように話すが、これぐらいは抗議として正しいはずだと思うノクティスだった。
「ま、その辺は合流できた時に話すとして、そっちは今どんな状況だ?」
「イリスたちと合流しようとレスタルムに向かってる。ただプロンプトがチョコボ見たいって言ってるから寄り道するかも」
「わかった。オレたちはオレたちで動きつつレスタルムを目指す」
「一直線に向かうんだったらオレらも急ぐぞ?」
「いや、帝国軍の追手が怖いから多少寄り道しながらになる。すぐに合流できるかはわからん」
「ん」
どちらにせよ無事なら言うことはない。
と、そこでノクティスは彼を救助に向かったコルのことを思い出す。
「そういえばコルは? 一緒じゃないのか?」
「追手の目をくらますために囮を頼んだ。建造中の基地とかで大暴れしてるだろうさ」
「そっか、無事なんだな」
「ああ、誰一人欠けちゃいない。じゃあまた電話する」
「おう、またな――」
「悪い、ノクト。ちょっと電話貸してくれ」
電話を切ろうとしたところ、横からグラディオラスが何やら真剣味を帯びた顔でノクティスの電話を求めてくる。
「ノクト?」
「あ、ああ。悪い、なんかグラディオが兄貴に話があるって」
「――ん、そうか。替わってくれ」
一瞬、電話越しのアクトゥスの声が頼れる兄としてのそれではなく、王族としてのそれに変わったことにノクティスは気づかなかった。
電話をグラディオラスに渡すと、彼は手で軽く感謝を表してからノクティスたちから離れて電話に出る。
「――もしもし」
「グラディオラスだな。元気そうで何よりだ」
「すみません、いきなり電話に出てもらって」
「良い。――いつか来ることだと確信があった」
「……用件は、わかりますか」
「親父さんのことだろ?」
「はい」
レギスの死はすでにルシスのみならず世界中に広まった。
――では彼を守護する者たちは? 王の盾に王の剣。王が振るう武器の安否は何も知らされていない。
だがグラディオラス――王の盾を冠する一族の結末は目に見えている。王が死した以上、王を守る盾もまた同じ道をたどるが道理。
「……オヤジは」
「ああ、どんな言葉が聞きたい?」
アクトゥスの言葉にグラディオラスは一瞬だけ動揺するが、すぐに理由を理解する。
これは彼なりの気遣いだ。グラディオラスの父親である彼の安否を問うたなら、アクトゥスは彼を危険に巻き込んだ王族として謝罪する。
しかし王の盾としての在り方を問うならば、彼は決して謝罪などせず最期まで盾として在り続けた彼を称えるのだろう。
「……オヤジは、王の盾として誇り高く戦いましたか」
「――ああ。クレイラスは戦いにおいて、王より先にその身を砕いて王を守った」
守れなかったから意味がない、とは言わない。
結末が変わらないとしても、それでも彼が王の盾としての使命を果たしたことに変わりはないのだ。
「では、アミシティアの人間はオレとイリスだけですか」
「そうなるな。もうお前も悟っちゃいたんだろうが、改めて言ってやろう」
その方が気合も入るだろう、とアクトゥスに言われてグラディオラスも己に喝を入れるため、それを受け入れる。
アクトゥスの言葉を聞かずともグラディオラスは自分の父が死んだことを理解していたし、自分こそが王の盾になったこともわかっていた。
だが、こうして王族から言葉にされることでまた違った重みが彼の背に乗るのだ。
「……お願いします」
「――グラディオラス・アミシティア。今よりお前が新王ノクティスを守る王の盾だ。身命を尽くし、ルシスの希望を守り抜け」
「拝命します。命に代えても、あいつを守ります」
「頼んだ」
アクトゥスの言葉を受けて、グラディオラスはこれからの旅において迎えるであろう危機を、必ずノクティスを守り抜くという覚悟を持つのであった。
そんな彼の表情が想像できたのか、電話越しのアクトゥスの声が王族としてのそれから弟を思う優しい声に変わる。
「……ノクトはオヤジの意向で今まで政治やら外交の難しい場所には触れさせなかった。お前から見れば苛立つこともあるだろう」
「……はい」
素直だな、とアクトゥスはグラディオラスの返事に笑ってしまう。
とはいえ仕方がないだろう。グラディオラスが王に求めるような覇気を、ノクティスはまだ表に出せていない。
彼が心優しく、皆を守ろうとする意思の強さの持ち主であることはアクトゥス含め皆が知っているが、どうにも照れ屋な気質のノクティスはそれをなかなか表に出さないのだ。
「立場が人を成長させることもあるし、何よりこんな旅だ。成長の一つもしなけりゃウソってもんだ。……怒るのは良い、苛立つのも良い。だが、王の盾であることだけは忘れないでくれ」
「……アクトゥス様にそう言われて、オレもハッキリ怒ることができそうです」
「そりゃ頼もしい。オレもオヤジも、あんまノクトを叱ったことはないからなあ」
レギスはノクティスの使命を思うと言葉が出ず、アクトゥスはそもそも王都にほとんどいなかった。
無論、ノクティスはレギスもアクトゥスも家族として強く尊敬しているだろうが、彼を思って叱ってくれる声というのはあまり経験していないはずだ。
「じゃ、それはオレの役目ってことで」
「頼らせてもらおうか。じゃあそろそろ切るな」
「はい。お時間取らせて申し訳ありません」
「良いさ。ノクトは仲間に恵まれてるってよくわかった」
本当にできた兄である。外交官として早くから外を旅していると、こうも変わるのかと思うくらいに。
「……うっし! 気合入れるか!」
「お、電話終わったのか」
「おう、悪いなノクト」
「いいけど、何話してたんだ?」
「大したことじゃねえよ。イリスを逃がした時の話とか聞いてただけだ」
「そっか。んじゃそろそろ出発するか」
レガリアに向かって歩き出すノクティスの背中は未だ頼りなく、細いものだ。
これの双肩にルシスの未来がかかっていると思うと、不安に思うことも確かにある。
だが彼は歩みをやめることはないだろう。足を止める時も、道を間違える時もあるかもしれないが、その時は自分が止めてやれば良い。
そも、間違いも迷いもない王などいないのだ。王とは――歩みを止めぬ者の総称なのだから。
「――ノクト」
「あん?」
「旅、頑張ろうぜ」
「――当たり前だっての」
「アクトゥス様、お待たせしました」
ハンマーヘッドのダイナーにて。アクトゥスがテーブル席で電話の終わったスマートフォンを弄んでいると、入り口からルナフレーナの影が見えた。
「ん? もっとゆっくりしてても良かったんだぞ?」
「いえ、もう十分休めました」
「まあ本人がそう言うなら良いが……とりあえずメシにするか」
ようやくまともな場所に到着したのだ。身体の汚れを落とした後は美味い食事をたらふく食って心の英気を養うに限る。
アクトゥスがメニュー表に目を落とすと、見慣れないものがいくつか見えたため目を瞬かせる。
「なんか新しいメニュー増えてるけど、食材が増えたのか?」
アクトゥスの声にダイナーの店主である大柄な黒人の男性――タッカがやや焦り気味に答える。
「あ、ああ。アクトの弟がオレの頼みを引き受けてくれてな。感謝してる」
「ふうん、あいつも結構やるじゃないか」
「ルシスがあのような状況でも人助けをされるのですね。素晴らしいことです」
「ま、情けは人のためならずとも言うからな」
極論、ルシスの復興そのものが壮大な人助けとも言えるのだ。
大義のために瑣末事と切り捨てる王様より、自分たちが大変な状況にあってもなお誰かを助ける優しさを失わない王の方が、民衆からの人気も得られるというものだ。
「んじゃ弟の頑張りとタッカの新メニューを試すとしますか。オレはジャンボステーキで」
「わたしはハンマーヘッドサンドをお願いします」
「わ、わかった。少し待っていろ」
タッカが料理を始めるのを横目に、アクトゥスとルナフレーナは今後のことを話し始める。
「さて、一息つけたしシドさんから車も借りられた。そろそろ先のことを考えようと思うが、良いか?」
「はい。お兄様のことも気になりますが、今は何より自由になれた。わたしたちのやるべきことを考えましょう」
「そうだな。……真の王の使命について、オレは結構詳しい方であると自負しているが、確認も行いたい」
ノクティスが真の王であるという使命を受けたのは彼が五歳の時。
同時期にアクトゥスもまた歴代王と神々より使命を課せられていた。
「世界を覆う闇を祓う聖なる石――クリスタルに選ばれし真の王。彼の者は世界を守護する神々――六神の力を束ねて闇を祓う」
これらの話の中で、ルシスの歴代王は出てこない。
彼らが重要なのはルシスを守る際の話であって、アクトゥスが今語っている世界を覆う闇に対抗する存在という意味ではないのだ。
とはいえ彼らの力が無意味になることもない。六神の力を束ねるのがメイン火力なら、歴代王の魂はそれを補助するブースターの役割を果たすはずだ。
「今のところノクトはファントムソード集めの旅をしているはずだ。帝国との戦いには不可欠だし、いつか闇と戦う時が来ても無駄になることはないだろう」
「はい。わたしの持つこの神凪の逆鉾も、時が来ればノクティス様にお渡しするものとなります」
「ん、そうなのか」
ファントムソードは王の力の宿ったものであるという認識だったが、若干の違いがあるようだ。
――いいや、そもそも王の力とは魔法を操る力のこと。ルシス王族のそれとは毛色が違うだけで、神凪の一族もまた魔法を扱える一族。
ファントムソードとは、魔法を使える人間がその生涯を費やして使い続けた武器の総称ではないだろうか。
アクトゥスは未だにわからないことの多いルシスと神凪の関係に考察を深めつつ、旅の大目的を再確認する。
「ファントムソード集めはノクトに任せればいい。ルシス国内の王の墓所はオレが一通り見つけてある。となればオレたちがルシスでやるべきは――」
「――六神の誓約」
「そうなるな」
真の王は六神の力を束ね、闇を祓う。
では――その六神の力はどこで受け取れば良いのか。
簡単だ。彼らと直接会話し、認めてもらえば良い。
しかし彼ら神々の言葉は人間にわかるものではない。放つ言葉そのものが神威となり、それは神々の言葉を解することに特化した能力の持ち主でなければ、頭を蝕む毒にしかならない。
それを可能にする一族が神凪。神々と対話し、またその力の一端を振るい、闇に蝕まれる人々をほんの僅かに救うことのできる癒やしの魔法の能力者。
故に真の王が六神と契約を結ぶにはまず眠りについた六神を神凪が起こして対話し、その後真の王が訪ねて神々に認められる必要があるのだ。
そして神々にも個性があるため、認められる方法は穏便なものになるとは限らない。時に真の王は闇を祓うに足る力を身に着けているか、神々の暴威に耐えることで証明しなければならないのだ。
それ自体に文句はない。ノクティスにそれが越えられないとは思っていないし、自分たちも力の及ぶ限りで精一杯サポートする。
……だが、アクトゥスには一つだけ別の懸念があった。
「ルナフレーナ。オレは今後の旅の目的をルシスにいる六神と接触し、誓約を行って神々を目覚めさせることに設定したい」
「はい、異論はありません」
「そしてオレとお前は旅の仲間だ」
「……? はい」
話が予想と違う方向に動いたため、ルナフレーナは小さく首をかしげる。
サラリと金糸の髪が動くのをアクトゥスは目で追い、未来の義妹は本当に身も心も美人だと内心で息を呑む。
これからこの女性の顔を緊張に強張らせることを考えると憂鬱だ。
「これに関して嘘偽りなく答えて欲しい。――誓約とは神凪に多大な消耗を強いるものではないか?」
「……っ!」
「図星、か……」
身を固くしたルナフレーナの動揺でわかってしまった。
もっと上手く己の感情を隠す政治家ともやり取りをしていたのだ。世慣れていない小娘一人の隠し事を暴くことなど造作もない。
だが当たって欲しい予想ではなかった。アクトゥスは彼らに残酷な運命を強いた神々を内心で毒づきながら、なるべく優しい声を出して話を続ける。
「……勘違いしないで欲しい。オレはそれがどんな代償を支払うものであっても、お前が決めたことに口を出すつもりはない。ただ、知っておきたいだけなんだ」
「……どこでそれを知ったのですか?」
「推測と考察。続けていけばそれなりに的を射た結論になるものだ」
神々の言葉は真の王にすら毒となるのなら――その毒を言葉に変換できる人間の身にかかる負担はどれほどのものか。
そう考えれば神凪にかかる負担の重さも想像ができる。
「体力の消耗や魔力の消耗だけ、なんて都合の良いもんじゃないだろう。神々と人間をつなぐ役割が、そんな簡単にできるものか。――生命を削るものだな?」
「…………」
ルナフレーナは同行者であるアクトゥスの頭脳に舌を巻くしかない。これが味方で良かったと心底思ってしまうほどだ。
ここまで正確に見抜かれ、しかも彼には確信があるようだ。誤魔化そうとしても無駄だろう。
ならばやるべきは彼がそれを周囲に広めない――特にノクティスに教えないこと。
「あの、ノクティス様にはこのことを――」
「お前が言わないのならオレも言わない。これは本当にただの確認なんだ」
「……ありがとうございます」
かろうじてそれだけ言うと、ルナフレーナは俯いてしまう。
飯時に言う話じゃなかったな、とアクトゥスもそれを見てやらかしてしまったと顔を手で覆う。
タッカが調理された料理を運んできてくれたのは、実に良いタイミングだった。
「待たせたな。ジャンボステーキとサンドイッチだ」
「……ああ、ありがとう」
「……腹、減ってたら良いアイデアなんて浮かばねえ。深刻な話なら、なおさらだ」
「悪い、聞こえてたか?」
「雰囲気でわかる」
言葉少なに厨房に戻っていくタッカを見送り、アクトゥスは改めて対面のルナフレーナを見る。
誰が見てもわかるほどに落ち込み、憔悴した様子の彼女を見て、アクトゥスはつくづく自分は度し難い愚か者だとため息をつく。
この光景をシドニーが見ていたらスパナが自分の頭に飛んでいただろう。
「とにかく食おうぜ。誓っても良いが、オレはあんたに余計な心労を背負わせるつもりはない」
「では、どうして?」
「認識のすり合わせをしておきたかったってのと――その生命を削る誓約の負担、減らせる可能性がある」
ルナフレーナは目を見開いてアクトゥスを見る。
だがアクトゥスは話はメシの後、とでも言わんばかりに文字通りジャンボなステーキ肉にナイフを入れており、話を聞ける様子ではなかった。
分厚く大きなカトブレパスの肉にナイフを入れると、手に伝わってくる確かな肉を切る手応え。
スッと入ってスッと切れる、なんてお上品なものではない。ナイフを握る手に肉を切る抵抗と、それを噛み切る快感の予感が存分に与えられる。
中は程よいミディアムレアでほんのり赤い、しかし確かに火が通っているのが流れる肉汁と血の少なさでわかる。これは完璧な焼き加減で肉汁も旨味も全部肉に閉じ込めてあるに違いない。
辛抱たまらんと肉を口に放り込む。
鉄板の上でジュウジュウと油を跳ねて踊る肉が口の中に入ると、痺れるような熱さと口の中いっぱいに肉の風味が広がる。
上品で繊細な風味など程遠い。ただただ肉、という一文字を叩きつけてくる野性味に溢れ、しかしくどさを感じないギリギリのラインを攻める。
肉の味もまた素晴らしい。噛めば噛むほど肉に閉じ込められた肉汁が旨味とともに溢れ出し、アクトゥスの口内にまた違う熱さをもたらしてくれる。
「美味っ! カトブレパスの肉とか初めて食うけど美味いぞこれ!」
「お、弟さんに感謝しろよ」
「ノクト、ありがとう……!」
何やらエライ感謝を弟に向けているアクトゥスに圧倒されながらも、ルナフレーナは自身の手元にあるハンマーヘッドサンドイッチを見る。
ここの料理は肉料理が多く、ボリュームも満点なのが多い。
それだとルナフレーナには少々辛いため、このサンドイッチを選んでいた。
「こちらのお肉も、ノクティス様が?」
「あ、ああ。ソードテイルって言う、有翼の野獣の肉だ。女性受けも考えて、ヘルシーな味付けにしてある」
「お気遣いいただきありがとうございます」
説明してくれたタッカにルナフレーナが丁寧な礼をすると、タッカは目を瞬かせる。
「……食って美味いと言ってくれれば、それで十分だ」
「はい、ではいただきます」
赤みの強いソースのかかった、ソードテイルの肉のカツが挟まったパンを持つと、ルナフレーナは小さく口を開けて一口かじる。
神凪として民を慰撫することもあり、外の世界に出ることはあってもこうした場所で食事をすることは初めてのため、彼女にはイマイチ勝手がわからなかった。
しかしそれと味は別。
焼きたてのパンのふんわり甘い小麦の香りとソースに使われたトマトの香りが鼻孔をくすぐる。
ソードテイルの肉はタッカの言葉通り淡白なもの。淡白であるため、どんな調味料にも合わせられる柔軟性のある味だ。
故にこの料理のキモは肉ではなくソース。トマトを主軸にし、ソードテイルの肉の味を完全に殺すことなく引き立て合い、それでいて後味にはトマトの爽やかな風味しか残らない絶妙な加減。
神凪になる前。フェネスタラ宮殿に軟禁されていた頃に食べた、粋を凝らした料理とはまた別。客を喜ばせようという主人の思いが形になったような料理にルナフレーナは思わず目を見開く。
「……美味しい!」
「――それは良かった。メシを美味いと言ってくれるんなら、誰だって客だ」
「んぐ、やっぱ腹減ってちゃダメだな。人間まずは食わないと!」
腹が減っては戦はできぬ。大昔から言われている言葉の重さをしみじみ感じながら、二人は食事を終える。
「とても美味しかったです。ここは良いお店なのですね」
「旅をすることの醍醐味の一つだな。何にしてもまずはメシだ」
アクトゥスは料理のできる方ではないため、標などに野宿する時は大体カンヅメかカップヌードルである。
外でもイグニスの食事が食べられるのだからノクティスは恵まれているのだ。食事事情は旅をする人間が真っ先に頭を悩ませるものの一つであるというのに。
「一旦外で話すか。さっき話したことも詳しく話したいし」
「……わたしの負担の軽減と仰ってましたが、そのようなことが本当にできるのですか?」
「試したわけじゃないから確証はないけど、十中八九成功すると睨んでる。さっきの神凪の逆鉾の話でほぼ確信になった」
神凪の逆鉾もルシスの王族が扱うファントムソードとしての資格があると聞いた時点で、アクトゥスの考えている策は成功を収めると考えていた。
但し、これは負担の軽減などという生易しいものではない。
外に出た二人を待っていたのは、黒い小さな犬――アンブラとその後ろに佇む黒髪の女性だった。
「アンブラ! ゲンティアナ!」
ルナフレーナが喜んでアンブラの背中にくくりつけられた小さな手帳を取り出し、ハンマーヘッドで入手したステッカーを貼って再びアンブラの背中に載せる。
そういえばノクトが王都にいた頃にこんなやり取りしているの見たことがあるな、とアクトゥスは昔を思い出しながらゲンティアナに視線を向ける。
閉じられた瞳に何が見えているのか、ゲンティアナとルナフレーナに呼ばれた女性は目を閉じたままアクトゥスを見る。
「…………」
「――聖石に選ばれし者よ」
「なんだい、綺麗なお姉さん」
「あなたの役目は王が斃れた時にある。王より先に果てるなどせぬよう」
「わかってるよ。オレは、オレの使命を果たすさ」
アクトゥスの言葉に満足がいったのか、ゲンティアナの姿が空間に溶けていく。
アンブラを送り出したルナフレーナとともにそれを見送り、アクトゥスは肩をすくめながら口を開いた。
「――これから旅の仲間になるんだ。ルナフレーナの役目ばかり聞くのはフェアじゃない」
「…………」
「オレがクリスタルと歴代王より課せられた役目を話そうと思う」
「それはわたしが伺って良いものですか?」
「オレだってそっちの言いたくない情報を根掘り葉掘り聞いたんだ。お互い様だろ」
最悪でもノクトが知らなければ良い。ルナフレーナの持つ使命と同じく、アクトゥスの使命もまた彼が知ったら衝撃を受けるものだ。
「オレが背負った役目。それは――」
――かくして、アクトゥスとルナフレーナの旅が始まっていく。
六神に会い、誓約を行うことでノクティスのサポートをする。
その果てに待つ結末も互いに理解して、それでもなお彼らの歩みに迷いはなかった。
チョコボファームに寄るのはサブクエ回になるため、チャプターごとのストーリーを先に書く感じになると思います。
ちなみにサブクエは時系列的にチャプター開始後に全て終わらせてる感じを想像してください。メインそっちのけでサブひたすら進めるのはオープンワールドあるあるだよね?(真顔)
大体メンタルや何かに一物抱えている主要キャラ勢。ノクトも抱えてる。グラディオも抱えてる。イグニスは二人が抱えてるから冷静にならないとと言い聞かせる。多分このメンバーで一番メンタル強いのはプロンプトです。なお彼の出自。
そしてアクトとルーナは面倒な方向で覚悟完了済みな二人です。アクトに課せられた使命が物語中で明言されるのは後半も後半というかラストまで出さない予定です。
この物語で一番ワリを食っているのは誰か? 息子二人にクッソ重い使命背負わされたレギスだと思います(真顔)