創作の創作なので三次です。
全部が終わって割とフレンドリーな状態からスタートです。

Xyzky(いつき)氏からの指令となります。簡単なものですが。

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河童が鬼を足蹴にする話

「ふあぁ……」

 

 寝起きに大きなあくびを一つ、身体を大きくそらして一つ。

 ……して、肌着がほぼ脱げかけな状態な自分に気づく。

 はて、こんなだらしない状態で眠ってしまっていたか、昨晩はそもそも何をやっていたか……

 少し考えて目をぱちくり回せば、頭より先に理解ができた。

 

「ぐあぁー、すぅ……ぐあぁー、すぅ……」

 

 大きな寝息とむせるほどの酒の匂い。吐瀉物の饐えた匂いがないのが幸いか。

 また、直前の記憶がなくなるほどに飲んでしまったのだろう。そして、目の前で転がっているのは相方が寝てしまったから釣られて寝ただけ。

 脱げかけな自分とは違い、全部脱いでるのは何故だろう。この状態で目が覚めると必ず裸の姿をさらしている。

 脱いでしまう自分もあれだが、鬼には恥じらいという精神がないんだろう。生き方が違えば精神構造も違う。恥のためにその身を隠すのは人間くらいだ。そして、私には半分。

 眠ってしまっても手放さない盃にかかった、彼女の衣類を持ち上げる。端が手首に引っかかり、強く引き上げれば共に上がるもやはり盃は手放さない。何の執着があるのやら。

 

「おい、起きろ穀潰し」

 

 酒で白く濡れた衣類をそのまま顔に投げつける、ついでに頭もこんこんと足でつつく。その度に双丘がゆらゆら揺れるのが面白い。

 動かす度にぐぇぐぇと音は出るが、目覚める気配はなかった。仕方ないので放っておくことにした。

 どうせ腹が減れば目が覚めるだろう。それの呼び水があればいいだろう。自分にも必要だ。

 同じく散らばった自分の衣類を羽織り、調理場へと足を向ける。

 昨日自分がつまみを作った跡が片付けられずにそのまま残っている。余所から見れば汚い惨状も、自分の手の届くように完璧に整備されている、と言えなくはない。放っておいて平気。

 野菜室からキュウリを数本取り出し、細かくしたら梅肉と和え、余っていた米に乗っけて。湯を沸かしたら、注いでおけば終わりだ。寝起きの酒灼けにはこれくらいがちょうどいい。

 湯が沸くまでは少し時間がかかる。暇なのでもう一度ふてぶてしい寝顔を覗きに行ってみる。

 ……何も変わらない、いつもの豪胆な彼女からは想像できない顔だ。血色の良い顔はよく見なくても傷一つなく、頑丈とも思える皮膚はきめ細かくさらさら、ちょこっと伸びたまつ毛も大きな目の丸みを際立たせてる。象徴の赤を除いて、黙っていればかわいい顔だ。

 同じ女性として、妬ましいと思わなくもない。しかし、妖怪が別種族にそのような感情を持つのは変わっている、とも聞いた。

 知れば知るほど、関われば関わるほど小さな溝の奥深さを感じてしまう。

 

「……私も変わったもんだねぇ」

 

 だが、それを拒絶の因子と取ることなくただの個性だと思えるようになっていた。きっかけは黒白の人間や気味悪い目玉付きだが、彼女たちを動かしたのはほかでもない、目の前に転がる裸の王様だ。

 余計なお世話をしてくれたと思う。しかし、一人では生きられないと教えられていなければ、あの頃のまま押し潰されて死んでいただろう。私は、私が知らないうちに世界が変わっていたことをこいつに教えてもらったのだ。

 なんでもかつて私が住んでいた地上では人と妖怪がそれなりに仲良く暮らせる取り決めがあるらしいし、私のような赤ら顔も何人かいて自由しているというし、何より人間の守護者を名乗る妖怪が、実際に慕われて存在しているとまである。

 妹も面白おかしく暮らしている、とも黒白は言っていた。境遇を恨んではいるが血は恨んでいない。その境遇は私に近づいてきているのなら、地底の妖怪らしく恨み言を携えながら生きるのもつまらないわけじゃない。

 何より、誰かと飲み交わす酒の味は、温かく、優しく、身に染み入るものだった。

 

「はぁ、……本当にだらしない顔しちゃって」

 

 しゅんしゅんしゅんと湯が沸く音がする。どんぶりに一つそれを注ぐ。二つ目には……止めておいた。

 

「おい、起きろってば。食べ物持ってきたから起きなって」

 

 肩回りを足で強めにぐいぐいと押さえつけ目覚めを促すも一向に起きる気配はない。やはり、止めておいてよかった。傍若無人な地底の取締役、人間と交わりきれなかったその要因は私に半分存在し、だからなかなか通用しない。

 

 まあ、それでもいいさ。

 

 もう半分は人間じゃない、だから付き合える時間は長い。蝉が早く死に、犬が20年生き、人間が50年生きるように、そういう仕組みらしい。

 理解する時間はまだまだたくさんある。すこし緩やかに生きることを教わったんだから、ゆっくりしようじゃないか。

 さらさらと茶漬けをすする。口の中でぽりぽりとキュウリが味わい深く鳴り響いた。

 地底ではただのキュウリは育たない。地上のそれと地底の良く似た植物を掛け合わせてここで生きていけるようになった。

 

 まるで私のようじゃあないか。

 

 米は同じく元は上の物だが徐々に地底になじむように変容していったそうだ。

 

 まるでこいつらみたいじゃあないか。……少し無理があるかな?

 

 でも、どんなものでも単体では物足りなくても二つ合わされば旨いものだ。こいつらは、そういうことを教えたかったのかもしれない。

 私がそんなことを考えているとも露知らず、隣の鬼は、勇儀はただただ眠りこけていた。

 

 

 ……お湯かけたらさすがに起きるか?


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