銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

19 / 31
※ひどいキャラ崩壊あり


18

私ことビスマルク・ヴァルトシュタインは、ライヴェルト・ローウェンクルスが対抗戦が行われる前までに行ったことをほぼ把握している。

 

例えば、アポリプス士官学校を支配していたロマーニ元伯爵令嬢の法に触れていた部分を明るみに出し、ついでと言わんばかりに親であるロマーニ元伯爵の汚職や臓器売買に手を染めていたことをシャルルさまに直接告発。それによってシャルルさまの心に自身の強い印象を残すと同時にアポリプス士官学校の候補生たちを秘密裏に自分の配下に収めた。これで実質、3つの士官学校による対抗戦はいつの間にか、“コーネリア殿下率いるボワルセル士官学校”対“ローウェンクルス率いるスプリングス・アポリプス士官学校連合軍”と化していた。ちなみにロマーニ元伯爵令嬢の取り巻きであった者たちは完全に孤立させる形で放置。

 

例えば、士官学校ごとに配備された実機改造後のスペックや、対抗戦が行われるフィールド、審判を務める現役軍人の細かなプロフィールなどの情報収集。とてつもない情報量のそれをローウェンクルスと彼を慕う候補生たちが手分けして解析し、分かりやすく纏め上げた後にスプリングス士官学校の候補生たちと情報を共有している。得られた情報を元に作戦を立案、他の想定外の事態が起きた時の為に分厚いマニュアルを作成。なまじ内容が濃すぎて私の直轄部隊の参謀が早急に引き抜きを打診してくるほどだった。

 

 

 

私は現在、シャルル陛下と共にシャ―ムファイト以外の競技を天覧出来る絶好の位置に作られた観覧席にて、とある方々の到着を待っている。扉がノックされると同時に開け放たれ、騎士服に身を包んだマリアンヌさまがルルーシェ皇女殿下とナナリー皇女殿下を連れて入ってきた。

 

子を産む前のスレンダーで凛凛しさが半端ない姿のマリアンヌさまも捨てがたいが、子を産み母性の艶っぽさが際立つ今のマリアンヌさまが一昔前の騎士服を無理やり着こなした姿もいいなぁとぼんやり考えていたのが察されたのか、サーベルの鞘が回転しながら飛んできて私の顔面に直撃した。

 

「お、お母さま。いったい、何を!?」

 

心優しいルルーシェさまが慌てた様子で私の心配をしてくれる。貴女の笑顔はローウェンクルスに上げてくださいませ、ルルーシェ皇女殿下。汚れてしまった私に貴女の笑顔は眩しすぎる。左手で鞘を拾い、右手で顔を押さえながら立ち上がる。

 

「ビスマルク。貴方、今、私を見て何か卑猥なことを思い浮かべていなかった?」

 

「い、いえ!滅相もありません!!」

 

表情はにこやかなのに眼が笑っていないマリアンヌさまの気迫に押された私はしどろもどろになりながら、先ほどまで考えていた邪念を消し去りシャルル陛下の隣に並び立つ。すると、シャルル陛下が小声で何かをおっしゃっているのに気付く。

 

「……昔を思い出す。ベッドの上で凛凛しい表情で強張っていたマリアンヌの表情が次第に頬を赤らめ性の喜びに目覚めた女の貌に解けていく様、思い出しただけでライス三杯はイケる!」

 

眼をくわっと見開くシャルル陛下の姿に、男は考える事は同じかと私は納得しながら彼に忠誠を誓う忠臣らしく申告する。

 

「……陛下。マリアンヌさまをこれ以上待たせるのは得策ではありませぬ」

 

「ごほん!ぬぅ、来たか。マリアンn『ゴスッ!』ぶるわぁー……」

 

『閃光のマリアンヌ』という異名を思い出す。

 

シャルル陛下の顔面にまるで瞬間移動したかのように一瞬で間合いを詰めたマリアンヌさまが振り抜いた鉄拳が突き刺さった。後方でルルーシェ皇女殿下があわあわと動き、ナナリー皇女殿下は何か信じられないものを見たかのように目を剥き出しにして口を大きく開けて驚いている。マリアンヌさまは息を吐くと同時に拳を収める。そして、振り返った。

 

マリアンヌさまは素知らぬ顔で元の位置に戻り、貴族が皇族に対してするような礼をする。あれ、マリアンヌさま。最初からやり直せと?

 

私はそっとシャルル陛下を見る。彼は鼻から滝のように赤い家族愛を垂らしながら普段の不遜極まりない表情を浮かべる。そして、言葉を紡いだ。

 

仕方あるまい、テイク2だ!

 

「ぬぅ、呼び立ててすまぬ、マリアンヌ。お前にしか頼めぬことだ」

 

「何も言わなくていいわ、シャルル。貴方の考えは全部分かっているから、後の事は全て私に任せておいて」

 

「クックック……、小僧。お主の方からわしに話を振ったのだからな。この程度の苦難、軽々と乗り越えて見せよ!」

 

強化ガラスの先に見える対抗戦の会場を見下ろしながら、シャルル陛下は高笑いをしている。状況が全く理解出来ていないのかルルーシェ皇女殿下がわたわたと不敵な笑みを浮かべるシャルル陛下と獲物を見つけて舌舐めずりする肉食獣のような表情を浮かべているマリアンヌさm『ヒュッ!』の間を行き来しているって、あっぶねぇえええええ!?振り返れば壁にマリアンヌさまが持っていたサーベルが突き刺さっていた。

 

私は錆ついたブリキ人形のように恐る恐る“ナイトオブラウンズ時代”にマリアンヌさまが着用していた騎士服で身を包んだ彼女へ視線を向ける。頬を引き攣らせ、背後に黒いナニカを背負ったマリアンヌさまが右拳をぎゅっと握りしめたのが見えたと同時に私の鳩尾に太い杭が打ち込まれたような閃光……いや衝撃が走った。

 

私は帝国最強の騎士であるナイトオブラウンズの第1席の誇りを胸に抱き、なんとか膝をつかずに耐えた。だが、すでに両膝がガクブルでもう一発来たら確実に気を失ってしまう。

 

「ねぇ、ビスマルク。貴方、最近私に対して無礼じゃないかしら?」

 

「めめめ、滅相もございません……」

 

「なら、いいのだけれど。……胸元がきついわ」

 

『クワッ!』と目を見開き、身体が前のめりになったシャルル陛下と私の顔面にそれぞれ突き刺さるマリアンヌさまの拳。やはり、誘いであったか……。しかし、私の騎士人生に悔いはないっ!玉座で後頭部を打ち付けてのたうちまわっているシャルル陛下の隣で私は大の字に寝転がりながら目を瞑る。やはり、あの頃よりも大きくなられたのですね……。

 

「何、気を失おうとしているの、ビスマルク。貴方は私の騎士の代わりとして、ライヴェルトと戦うのだからしゃんとしなさい」

 

「……へ?初耳なのですが……」

 

マリアンヌさまの口から発せられた衝撃発言に私は跳び起きた。

 

「『ナイトオブラウンズに敗北はない』、そうでしょ?」

 

「いや、ちょっと待って下さい!マリアンヌさま?私は聞いてって、マリアンヌさまっ!?ローウェンクルスの相手は洒落にならんのですが!?」

 

つかつかと歩き出したマリアンヌさまを追って私は観覧席から出る。部屋の前で詰めていた部下たちに命令を下した私は、早歩きで彼女の後を追うのだった。

 

 

□ライヴェルト□

 

 

シャ―ムファイトの会場だった島から再度船に乗って戻ってきた。

 

船の中ではボワルセル士官学校の候補生たちが意気消沈した様子で佇み、アポリプス士官学校でロマーニ元伯爵令嬢の取り巻きだった連中は隅の方で固まって俯いていた。それに対してスプリングス士官学校の候補生たちと一部の協力者たちは馬鹿みたいに騒いでいた。本格的に馬鹿騒ぎするのは表彰式が終わってからという話だったのだが、何故か俺1人だけが帰ってきて早々に他の連中とは別の所に通された。

 

周囲を見渡していると部屋に設置されていた大型モニターの電源が勝手に入り、神聖ブリタニア帝国第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの姿が映し出された。モニター越しに視線を交わす。すると不敵な笑みを浮かべていたシャルルが大声で笑う。

 

『ほぅ……わしを前にしてもその佇まいを崩さぬか、小僧』

 

久しぶりに見た前世の父親の姿。ビスマルク情報では『親バカ』なんだよなと気を抜いていたら、話が進んでいて少しびっくりしてしまった。

 

その後はロマーニ伯爵の一件やルルーシェが狙われたテロ事件の話を少しして、本題であるエキシビションについての話となった。

 

『エキシビションの話であるが、少し興が足りないのでな。わしの方から提案がある』

 

「提案……とは?」

 

『是非にも小僧と戦いたいという者がおるのでな、そやつとわしの騎士の1人が小僧の相手として士官学校連合軍を率いて現れる。フィールドは『ランドナビゲーション・クロスカントリー』で使った広さ3平方kmの市街地。小僧の勝利条件は時間内を逃げ切るか、敵を全て下すか。敗北条件は捕獲または中破以上の損傷を負うことである』

 

「つまり、僕は単独でルキアーノやクルシェフスキーだけでなく“マリアンヌ皇妃”と“ヴァルトシュタイン卿”その他諸々を相手に勝てってことですか」

 

『ほぅ……わしの考えを読んだか』

 

シャルルは嬉しそうに頬を綻ばせる。

 

俺はそんな奴の表情を見ながら、もしかしたらシャルルはそこまでラグナレクの接続をしなければならないものと考えていないのかもしれないと考える。となるとやはり目下の敵はマリアンヌとV.V.ってことになるのだが、昨夜の彼女の行動の全てが嘘だったとは思えない。あれは完全に娘を溺愛する母親の姿そのものだった。

 

「皇帝陛下にひとつ、願い出たいことがございます」

 

『言ってみよ、ライヴェルト・ローウェンクルス』

 

「このエキシビションに、マリアンヌ皇妃とヴァルトシュタイン卿に勝利した暁には、僕をーー」

 

俺の願いを聞いたシャルルは一通り高笑いすると、にやりと笑って『約束しよう』とはっきりと言う。

 

まさかこんな形で話が舞い込んでくるとは、前世が不幸だった分、ライヴェルトには幸運の女神がついているのかもしれないと思いながら、シャルルが特別に用意したというKMFが置かれているガレージに向かうのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。