銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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分岐点
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□ライヴェルト□

 

神聖ブリタニア帝国軍人にとって誉れであり、誇りでもある仕事は何と言ってもブリタニア皇族の近辺警護なのだろう。それが憧れの人物であればあるほど、仕事に対する意気込みが違ってくるようだ。

 

というのも前世において俺に忠誠を誓ってくれたジェレミア・ゴッドバルドが先日アリエス宮の警護任務に就けたことに対する喜びの胸の内を解放するために仕事終わりの俺を襲撃して、飲み屋に直行したためだ。

 

『オールハイルブリタァニアァアア!!』

 

と、魂の叫びの連呼はその飲み屋にいた客たちの不満を買ったようだが、夢見心地で酔いつぶれてしまったジェレミアは本当に幸せそうであった。それと、コーネリアであるが、彼女もまた軍人としてアリエス宮の警備に就くこととなった。いつもは皇族として会いに来ている分、1人の軍人として接するコーネリアにルルーシェやナナリーはこそばゆい感覚におっかなびっくりする様子であった。

 

その脇でカメラのシャッターを連写するマリアンヌがいなければ絵になる図だったのに勿体ない。

 

さて、ジェレミアとコーネリアが揃ってアリエス宮の警護に就くなんていう状況は、俺の覚えている限り、後にも先にもブリタニア帝国第5皇妃マリアンヌ暗殺の時だけだ。近いうちにV.V.の襲撃があるに違いない。

 

しかし“Cの世界”を使って世界の端から瞬間移動することが出来なくなったので、彼はどんなに不本意でも公共機関を使わなければ帝都に来ることはできない。そして、そういった物を使用すれば、ただちに俺はV.V.の動きを察知することが出来る。

 

そういうシステムを俺は帝都全体に敷いたのである。

 

 

 

対抗戦の折、マリアンヌとビスマルクの両名に勝った俺はシャルルと約束した通り、希望の任官先を得る事が出来た。

 

『神聖ブリタニア帝国本土防衛軍統合参謀本部』

 

ブリタニア帝国軍人でもエリート中のエリートしか入れない場所に俺はシャルルの権限で入り込んだ。

 

『たかが士官学校の対抗戦でMVPを取った程度で』と見下す軍人たちがいなかった訳ではないが、そこは正に弱肉強食の世界。使える奴はどんどん出世し、使えない奴はどこか遠い僻地へ飛ばされる。任官して半年が経つ頃には将軍たちから一目置かれ、作戦立案時に意見を求められる存在程度に俺はなることが出来た。

 

帝都ペンドラゴンは豊富な地下水源があり、そのおかげで帝都の周囲に荒野が広がっていようと問題ない。帝都に入るには飛行機を使用するか、大陸間列車を使用する他に方法は無い。荒野を車で抜けてくるというのもあるが、そこはブリタニア軍が目を光らせており、不審車があればすぐに止めて身元確認が行われる。

 

そこで俺は顔認証システムを帝都にある全ての空港や駅といった公共の場にあるカメラや路上の防犯カメラと直結し、帝都の出入りを監視することを提案した。その上で危険人物の動きを逐一監視する追尾システムの構築も一緒に。

 

ただその労力に見合った成果が得られるか不明の取り組みであったため、するならば自分1人でということだった。俺は頭を下げながらニヤリと笑った。上司たちはそんな面倒なことをしたくないという短絡的な思いだったのだろうが、このチャンス逃がしはしない。

 

俺は自分で作りあげた顔認証システムに国際指名手配されている危険人物やブリタニアにおいて重罪を犯した者、そしてV.V.のデータを打ち込んだ。俺は日々の業務と並行して、システムの構築に励み、顔認証システムで引っかかった人物を自動追尾システムを使って密かにマークして妙な動きを見せたら即拘束というのを地道にしていった。

 

それからしばらくして帝都における犯罪が2ヶ月間ゼロであったという報告を受け、密かに俺がガッツポーズをしていると利権を狙ってか色々な人物が寄ってきた。

 

清廉潔白な人物たちとはそれとなく関係を築き、明らかに何かを企んでいるような奴らは裏取りをしっかりと行い、表沙汰に出来ないようなことをしている連中は俺に甘言を述べて来た所でそいつの行いを全て曝け出して拘束するということをやっていった。

 

次第に俺が手を出すと拙い人物だと理解されたようで、後ろめたいことをやっている連中は寄ってこなくなった。

 

 

 

そして、ある日ようやく目当ての人物が引っ掛かった。

 

飛行機のタラップから降りて来た外見年齢相当の服を着て壮年の男性と女性の周りを駆けまわるV.V.をシステムが見つけた。知らせを見た俺はすぐにパソコンのキーボードを叩き、彼をシステム上でロックオンする。

 

彼の行き先に合わせてシステムが連動し、行き先を予測。様々なルートに合わせて路上や店舗のカメラが彼を逃さぬように自動追尾する。

 

俺は上官に前々から用意していた有給届けを提出すると、困惑する彼を置いて仕事場から出てV.V.がいる地区へ向かうための移動手段が置いてある場所へ向かう。

 

「エルンスト卿、ありがたく使わせてもらいます」

 

俺はドロテア・エルンスト卿から帝都を移動するのに“徒歩”では不便だろうと譲り受けた黒塗りのバイクに跨り、フルフェイスのヘルメットを被ると少しだけスロットルを回してセルモーターのスイッチを押す。

 

エンジンが動き始めた音を確かめた俺はスロットルを大きく回す。轟くエンジン音に周囲にいた人々の視線が集まるのを感じながら左手でクラッチレバーを握った。

 

俺がルルーシュだった時はサイドカーに乗るばっかりで運転はしてこなかったなと苦笑いを零す。

 

俺は左脚でギアを踏み、1速に入れる。クラッチレバーを軽く握る様に力を緩めながらスロットルを回す。バイクは風を切るようにして走り出した。

 

逐一V.V.の動きを『顔認証システム』と『危険人物自動追尾システム』をタブレットで確認しつつ、俺はある程度の距離を空けて実際に追う。このことで参謀本部を辞める事になっても構わない。俺はルルーシェやナナリーたちを守れればいいのだ。

 

軍人として偉くなろうと思ったことは無い。肩書きが必要になれば、またやり直せばいい話だ。どうせ、ルルーシェの選任騎士になるのだから、どう転んでもどうにでもなる。

 

「そのためには、V.V.。お前の蛮行だけは絶対に止めて見せる!」

 

俺はバイクに跨ったままフランクフルトを食べつつ、V.V.たちが潜伏しているビルを睨みつける。

 

動きがあったのは夕刻の頃だった。黒塗りの車に乗り込んだV.V.たちが王宮のある方面に向かって行く。俺は携帯しているコイルガンを確かめた後、彼らが乗った車を追ってバイクを走らせる。

 

タブレットに映し出された情報によれば車には運転手とV.V.の他に2人乗っているようだ。運転手も含め、3人がギアスユーザーと考えた方がいい。

 

俺は携帯端末を取り出す。そして、ワンプッシュで繋がる機能を使って、こういう事態において確実に信頼のおける人物へ繋ぐ。

 

『先日は世話になったようだな、ライヴェルトくん。丁度、先日の詫びがしたいと思っていた所なのだ。飲みに行くのなら今日でも良いぞ!急遽、夜間の警護は必要ないと帰されたところでな』

 

ジェレミアの発言を聞いて暗殺決行日が今夜であることを確信した俺は、ジェレミアに“上官”として命を下す。

 

「ジェレミア・ゴッドバルト“中尉”!神聖ブリタニア帝国本土防衛軍統合参謀本部所属ライヴェルト・ローウェンクルス“大尉”が命じる。マリアンヌ・ヴィ・ブリタニア皇妃を始めとした皇族の方々を命に代えても暴漢から護れ!」

 

『……っ!?イエスマイロード!!』

 

携帯端末の向こう側で同僚たちに協力を求めるジェレミアの声が聞こえたと思った所で通話が切れる。俺は追う車を睨みつけながら片手で携帯端末を操作し、もう1人に協力を願い出るために連絡を取る。

 

『ライヴェルトくんかい?こんな夜分にどうしたんだ?』

 

「すみません、ギルフォード卿。コーネリア殿下は近くにいますか?」

 

『いや、姫さまは今夜……おっとこれは機密情報だった』

 

「マリアンヌ皇妃がテロリストに狙われています。近辺警護の任が解かれた今が危険なんです。このことをコーネリア殿下に伝えてください。これ以降は僕も通話する余裕はないですから」

 

『なっ!?待ってくれ、ライヴェルトくん!詳しーーー』

 

俺は通話を終了させると携帯端末の電源を切る。

 

ジェレミアたちやコーネリアがアリエス宮に戻ってくるまでどのくらいの時間を要するか分からないが少なくとも、V.V.たちの身柄を拘束する程度のことは出来るはずだ。あとは俺の頑張り次第。俺は胸に手を置く。信じられないほどの速さで心臓が脈打っている。ここが正念場であることをライヴェルトの身体も悟っているような気がする。

 

バイクから降りた俺はコイルガンを構えてアリエス宮の周りを探る。

 

するとフードを被った2人の男が周囲を警戒するように佇んでいた。恐らく中にいるV.V.の合図を待っているのだろうと察した俺は迷わずコイルガンを男たちに向かって撃つ。

 

自分たち以外に人間がいることに気付いた男たちは隠し持っていた武器を構える前に俺に蹴り飛ばされる。1人は壁に背中から強打しむせ込み、もう片方は目を見開いた。声を発していないことから考えて、命令遵守でもなければ、身体強化系でもなさそうだ。

 

彼が目を見開く中、歩みを進めるとその顔が恐怖に歪む。動くはずの無い相手が動く恐怖。

 

ライヴェルトがルルーシェに会うきっかけとなったあの高級プティック店襲撃事件の時に来ていたギアスユーザーだと確信を持つ。

 

俺はガタガタと震える男の前に立つと顔面を思い切り振りかぶった拳で打ち抜いた。倒れ伏した男の両手両足をコイルガンで撃ち抜き、背中を打ち付けてむせ込んでいた男の背後に回ると締め技で首をキメ気絶させる。もう1人と同じように両手足をコイルガンで撃ち抜いた俺は、コイルガンを思い切り玄関ホールを彩る見事な細工の施されたガラスに思い切り投げつけ、その後に続くように自分自身で飛び込んだ。

 

窓ガラスを突き破って登場することになった俺の姿を見て、サブマシンガンを両手に持ったV.V.が怒りの表情を浮かべ、ルルーシェを守る様に蹲っているマリアンヌは俺を見て呆れと驚きを織り交ぜた複雑な表情を浮かべた。

 

「ライッ!」

 

何故かいるルルーシェの声が玄関ホールに響く。

 

俺はすぐに負傷しているマリアンヌとルルーシェの前に移動しV.V.を見据える。こいつは俺が意地でも止めて見せると拳を鳴らしながら握り締める。

 

すると、今の今まで憤怒と言い表せるほどの憤怒の表情を浮かべていたV.V.がにやりと勝ち誇った顔で一言だけ告げた。

 

「“やれ”!」

 

と。

 

 


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