銀色に憑依した黒の皇子の話(仮)   作:甲斐太郎

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神聖ブリタニア帝国の第3皇女であるルルーシェ・ヴィ・ブリタニアを狙った高級ブティック襲撃事件から半年が経過しようとした頃、俺は父親のルドルフの政務を歳の離れた兄について手伝う一方で、母親であるサクラから武術を学ぶ毎日を過ごしていた。来年の4月には士官学校に入学する旨を家族に伝えている。彼らは俺の発言に驚きはしたものの結局はちゃんと背中を押してくれた。

 

ただ母親との修練のレベルが格段に上がったけどなっ!

 

ルルーシュの肉体だったら1日に数度意識を手放すくらいハードなものであったが、これが不器用な母親なりの精一杯の愛情なんだと自分に言い聞かせつつ、兄さんや姉さんに治療してもらう日々である。

 

元々俺は思考を分裂させ、あらゆる可能性を並列的に考慮し最善の行動をするようにしていた。ただし、ルルーシュとしての肉体はポンコツ過ぎて頭でっかちでせっかく考えた行動が出来ないことが多々あった。

 

それに比べるとライヴェルトの肉体はよく動く。おかげで戦いにおける戦略の幅も広がったようにも思える。ま、それもスザク並みの個の力を持つ母親が相手をしてくれたからであるけれども。

 

そんなある日、ローウェンクルス家の邸に一通の手紙が届いた。

 

内容はルルーシェの誕生日の催しへの招待状。彼女からの直筆のメッセージと共に第5皇妃マリアンヌから両親に宛てての手紙が同封されていた。内容は俺をヴィ家の行儀見習いに出さないかという打診であったが、両親は即座に断りの手紙を認めてくれたのだった。

 

 

 

さて誕生日パーティの催しが行われる1週間前に帝都ペンドラゴンへと赴いた俺と父ルドルフはターミナルにて、私服姿のジェレミア・ゴッドバルトに捕獲された。軍服ではない濃い青色のジャケットを羽織、眼鏡を掛けた姿のジェレミアに奇妙な違和感を覚えつつ、彼が用意してくれていた車両で移動すること暫し。貴族が好んで使う高級ホテルのスィートルームへと案内される。

 

「久しいな、ライヴェルトくん!聞いているぞ、士官学校へ進むことを。自分よりも大きな刺客へと立ち向かっていく胆力、ヴァルトシュタイン卿が目を剥く天賦の才、マリアンヌさまも褒めていたKMF操縦技術、その全てを兼ね揃えた君ならすぐに頭角を現すに違いない!」

 

「ははは、アリガトウゴザイマス……」

 

無駄に熱いジェレミアの発言に父子共に苦笑いしながら答えていると彼の興奮もピークに達したのか、徐々に沈静化していく。

 

前回ローウェンクルス父子が帝都を訪れたのは、父が友人に会う用事があっただけであり、ライヴェルトはその付き添いでしかなかった。テロに巻き込まれることがなければライヴェルトが表舞台に立つことはなかっただろう。ギアスを無効化できる体質の人間が雪と氷が舞う大地に眠ったままとか、すごく勿体無い。

 

「ライヴェルトくん。ルルーシェ皇女殿下に贈るプレゼントの用意は出来ているかね?」

 

「ええ。勿論です」

 

俺や父と会話する内に一周まわって落ち着いた雰囲気のジェレミアが告げたのは誕生日プレゼントの件であった。

 

12歳の自分が7歳になる女の子へ贈る物ということも踏まえ、俺が選んだプレゼントは花だ。子供が粋がって宝石やらアクセサリーを贈るのはあまりに不自然極まりないからな。

 

という訳で好きな女の子に贈る花は何がいいかと姉さんに相談するとこれがいいと助言を受けた。花の咲く時期が少しずれていたこともあり、それならば育てるかということで種を購入し自らの手で生育した『赤いアネモネ』。満開に咲き誇ったそれを花屋でプリザーブドフラワー加工してもらい、当日にアリエスの離宮に直接届くように手配してきた。

 

「そうか。ところで当日までどう過ごすのかね?時間があるのであれば、軍の施設を案内しても良いのだが」

 

「ゴッドバルト卿の邪魔にならないのであればお願いしたいのですが、明日はちょっとした縁で知り合った方と会う約束をしていますので、明後日か明々後日にお願いしても良いですか?」

 

「ああ、構わないぞ。しかし、ライヴェルトくん。明日はどういった人物と会うのか、差し支えなければ教えてもらえないだろうか」

 

「ギルバート・G・P・ギルフォード卿です」

 

俺がそう答えるとジェレミアは少し無言で考えた後、『コーネリア殿下の選任騎士に任命された彼か』と大きく頷いて納得するのであった。

 

 

 

 

急遽、用事が出来た父ルドルフとホテルの前で別れ、ギルフォード卿と約束をしている場所へと公共機関を利用して向かう。普通の貴族であれば自家用車で悠々自適に移動するのだろうが、俺はルルーシュ・ランペルージとして過ごした記憶と知識があるので特に戸惑うことも無く普通に帝都内を移動する。護身用にと持たせられた携帯端末を開いて、約束をしている場所付近の料理店を調べ上げる。場合によってはそちらに移動する必要があるかもしれないからだ。

 

今回、ギルフォード卿と会うことになった経緯はこうだ。

 

・俺にルルーシェ皇女殿下から誕生日パーティへの招待状が届く。

 

・シスコン筆頭の第2皇女が可愛がっている従妹が自分の知らない異性に対して招待状を送ったことに気付く。

 

・ギルフォードに何者か調べさせ、俺であることに気付く

 

・シスコン筆頭の第2皇女、態度が軟化したもののとりあえず早急に俺と会う場を整えろと彼に無茶振り

 

・誕生日の一週間前に俺たちが帝都へ訪れるように手配することで何とかなった ← いまここ

 

 

生前も色々な意味で散々な目に遭わせてしまったのに俺の所為でこの世界でも面倒を掛けることになって申し訳ないとギルフォード卿に心の内で謝っていると、どうやら目的地付近に達したためお金を払って降りる。

 

雲ひとつ無い青空、白い羽毛を生やした鳥たちがふわりと羽ばたいて舞い上がる。俺はそこで深く息を吸って伸びをする。

 

ギルフォード卿との約束の時間までは猶予があるなと思っていると、捕食者から向けられる強烈なプレッシャーを感じた。騒ぎ立てようとする心を落ち着かせ、ゆったりとプレッシャーを放つ存在がいる方へ身体を向けると、少しくたびれた様子の褐色肌の女性と俺に向かって指差しながら快活な笑みを浮かべた女性が立っていた。

 

俺の『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』としての記憶が正しければ、彼女たちは後のナイトオブラウンズの一翼を担うことになる『ドロテア・エルンスト』と『ノネット・エニアグラム』だろうか。

 

後者は第2皇女コーネリア・リ・ブリタニアの士官学校時代の先輩だったということで交流があったということだから、恐らく彼女から俺の噂を聞きつけてやってきたのだろうと推測できた。

 

現にノネットはドロテアを置いてずんずんと大股歩きでまっすぐ俺の方へ向かってくる。俺は周囲を見渡して、自身以外に誰もいないことを確認し覚悟を決める。

 

「いい面構えだな、少年っ!」

 

言うが早いか、拳を握り締めるのが早いか。ノネットは俺の前で急に歩幅を変えて踏み込むと同時に右拳を突き出してきた。

 

何もしなければ顔面に直撃するような鋭い攻撃であったが、

 

『俺の洞察力による動きの予見』、

 

『ライヴェルトの身体能力と反射神経』、

 

『母親のサクラから学んだ格闘術』

 

の全てが噛み合い、次の瞬間にはノネットは目を丸くして空を見上げる形で横たわっていた。俺がやったのは日本に古くからある体術のひとつである柔道の背負い投げ。相手が暴漢であれば、伸びきった肘に蹴りを入れて骨を圧し折るのだが、彼女にその必要はない。

 

「おお~……。まるでジェットコースターに乗った時のように景色が一瞬で変わったな。仰向けになっているということは、……私は投げられたのか」

 

地べたに仰向けで倒れこんだまま冷静に自身に起きた事を分析するノネットを見ていると、先ほどまでくたびれた様子で動きが緩慢だったドロテアが全速力で駆け寄ってくる気配を感じ取り、俺はいつでも迎撃できる様に息を整える。

 

すると、寝転がったままのノネットと視線が交差した。彼女は苦笑いを浮かべながら俺にこう告げる。

 

「すまんな、少年。今のは私の戯れだ。彼女は関係ないから、そんな怖い顔をしないでくれ」

 

俺が掴んでいたノネットの手を離すと、彼女はすぐさま起き上がり身体に不備は無いか触って確かめる。

 

服についた埃や砂を払うと俺を睨み付けていたドロテアを手招きして呼び寄せると肩を組んでごにょごにょと耳打ちし、驚いた彼女と共に内緒話を続ける。

 

俺はその間、2人の背中を不審なものを見るようにして待つのだった。

 


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