…また、ここに来た。
桜が咲き乱れ、花びらは湖に溶ける。夕焼けは水面に映り、幻想を醸し出す。
「やっと出来たんだ…」
僕はラッピングされた箱を渡した。
君は嬉しそうにその箱を受け取る。
「1番は君に食べて貰いたいんだ…良いかな?」
『もちろん。ずっと頑張ってたもんね。楽しみにしてた。』
こう言ったのは僕の彼女、美月。彼女は無類のお菓子好きで、それは僕がお菓子を作ると知った日に押し掛けてくるほど。
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『夏目君お菓子作れるんだって!?早速作ってよ!』
(夏目、とは僕の事だ。)
「え‥?まぁ良いけど‥今日?」
『私は今日お菓子が食べたいの!』
‥あの日の事は今でも美月をからかう材料だ。
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…プロポーズは僕からだ。
「君が僕のお菓子を食べるその笑顔が好きだ。僕のお菓子だけ食べていてくれないか…?」
あの時の笑顔は忘れられない。
(クサイ台詞に帰ってから悶絶したのはまた別の話。)
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『うわぁ…!綺麗…』
ロールケーキだ。
プレーンな生地の中にはさっぱりとしたヨーグルト風味のクリーム。
表面には桜色のクリームで花びらを表現した。
『此処で食べて良いよね?』
「あぁ、勿論。」
ケーキをすくい、一口食べる。
弾けるような笑顔が溢れた。
『美味しい…!また作ってね!』
…本当にパティシエで良かった、そう思えた瞬間だ。
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…時間が来たようだ。
目の前の美月が揺れ、暗闇に染まる。次の瞬間、僕はベッドの上に居た。何の変哲も無い、我が家のベッドだ。
「…また夢か。」
夏目は今日も夢を見る。
「美月…」
美月は、2年前に交通事故で亡くなった。その日から僕はこの夢を見る。
あの幸せだった毎日を、僕は夢に見るのだ。
僕がスランプに陥った時、君はこう励ましてくれた。
「私の為に作ってよ。他の事は考えなくても良いよ?」
救われた。
それ以来以来、僕は君の為にお菓子を作り続けている。
…君が亡くなってからも、ずっと。
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今日も朝が来た。
「いらっしゃいませ!」
君のおかげで夢が叶った。自分の店を持つという夢。
新作のタルトは君に持っていく。
「1番目は君に食べて欲しいんだ…」
夢の中でなら会える。君に食べてもらえる…
…また君の夢を見る…end 。