フレイヤ・ファミリアのニューリーダーはこのオレ! スタースクリーム様だ! 作:雑穀
原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
タグ:R-15 残酷な描写 クロスオーバー トランスフォーマー 人間化
迷宮都市オラリオ。ヒト、獣人、エルフ、神など様々な種族が営みを続けるこの街。
ダンジョンという無限の鉱脈によって永遠の富が約束されたここには、様々な派閥が存在していた。
さて、今回は最大派閥の一つであるフレイヤ・ファミリアから物語を始めよう!
ダンジョンの真上に立つ巨大な白亜の塔【バベル】をから南方向。そこにはフレイヤ・ファミリアの本拠地【
食堂の中にはフレイヤの眷属たる冒険者たちが、日々のエネルギーを蓄えるべくテーブルに着いて食事をとっている。食堂とは言うが、メインディッシュのステーキやワインは勿論のこと、口直しのための水ですら最高級の物が使用されている五つ星レストランのようだった。
テーブルや椅子、さらに壁にかけられた装飾品も高級な物しか使用されておらず、さらに落ち着いた大人の上品な雰囲気を演出するために有名ヴァイオリニストが静かな音楽を奏でていた。
「いいかよく聞けお前たち! 今こそ革命の時だ!」
だがそんな雰囲気をぶち壊しにする声が響いた。
ヴァイオリニストは驚いて弓の操作を誤ってしまい、彼女の持つ世界最高峰のストラディヴァリウスはギーギーとした不快な悲鳴を上げてしまう。
食事の時間を台無しにされた眷属たちは鬱陶しそうに睨みつけ、ヴァイオリニストは顔を真っ青にするが、彼等は彼女を睨んだ訳ではない。
「いつまでも『
冒険者たちの睨みつける先には一人の男がいた。
アイボリーという金属でできた白い鎖帷子をベースに、目立ちたがり屋が好みそうな胴体が真っ赤で手足などの末端が青い鎧。頭には黒いヘルメットをかぶっている。
そして何より目を引くのはその背中。腰あたりから後頭部まで伸びる歪曲した二本の金属棒、それにそって隙間なく敷き詰められた赤と白の鳥羽。派手で一目を引くだろうが、邪魔ではないだろうかという印象が強い。
その様相や派手さが相まって、まるでグレた天使のような印象を受ける男だった。
「やれやれ、またいつもの病気だよ」
「せっかくの飯の時間だってのに、スタースクリームの野郎め」
冒険者たちの口からこぼれる言葉は決して良いものではなかったが、止めようとかまともに相手しようとか言う者はいなかった。
それもそうだ。このファミリアにおいて彼、スタースクリームの反逆発言は初めてではない。一カ月に何度か同じようなことを繰り返しているが、性質の悪いことに彼のレベルはなんと6。フレイヤ・ファミリアのナンバー2の実力を持っているため、他の者がおいそれと止めることができないのだ。
「そうだ! オッタルは長くフレイヤ様の近くにいすぎた! 今こそ後人に席を譲る時だ!」
「反逆の狼煙を上げる時がきたのだ!」
そしてもっと悪いことに、この反乱に便乗する者までいる。ただし殆ど面白半分といったような物で、本気で反乱を起こす気がある者はいないが。
「よーし、オレ様に付き従う者たちには、反逆が成功したあかつきにはフレイヤ・ファミリアのナンバー2の称号を与えてやってもいいぞ! そして今回の作戦は―――」
その時である!
「また性懲りもなくやっているな」
突如食堂の出入口からの声。それは男の物。
我々はこの男を知っている! その岩から削りだしたような肉体と、錆色の短髪から生えたイノシシのような耳を知っている!
彼こそ、オラリオ最強である唯一のLv.7にして、フレイヤ・ファミリアの団長であるオッタルだ!
「な、なんだと! オッタル、お前は神フレイヤが神宴に行くのを護衛しにいったんじゃなかったのか!?」
「その任はアレンとヘグニに託した。フレイヤ様から
神フレイヤはスタースクリームのたくらみなど全てお見通しだったのだ。ちなみに計画をバラしたのは直属の部下であるスカイワープとサンダークラッカーだ。人望の無さが隙になってしまった。
オッタルはスタースクリームに歩み寄りながら、腰の金具に装着された二本の剣を抜く。反逆者は粛清しなければならない。
「へっへっへ。そんなカビの生えたような剣を振りまわしているんじゃあ、あんたはもう老いぼれってことだよなぁ?」
だがスタースクリームは計画が止められそうになっているというのに反逆の意思を捨てていない。それどころか、腕を組み、近くのテーブルについていた団員の飲み物をひったくって優雅に呷る余裕までみせている。
「貴様ごときに何ができるか」
「オイオイ、オッタル。オレ様が何の策もなしにお前に挑むとでも思っているのか? いでよ、スタースクリーム軍団!」
スタースクリームが号令をかけると、クロスのかけられたテーブルの下、カーテンの裏、天井の蓋を外して人影が殺到する。二十人はいる。しかも彼等の姿は全員スタースクリームと瓜二つ、いや、スタースクリームそのモノではないか! 恒例の作画ミスではない!
一体これは何なのか!?
「……頭の悪くなる、いや、痛くなる光景だな」
オッタルは頭を抱えたい衝動に駆られる。オラリオ始まって以来の馬鹿者がこんなにたくさんいると彼の胃に穴が空きそうだ。
「ハッハッハァー! ディアンケヒト・ファミリアの義肢作成技術をオレ様が独自に改造し、クローンゴーレムとしたのだ!」
「しかもコイツ等はスグレモノで、オレ様の力だけでなく天才的な頭脳、カリスマ的性格まで完全にコピーしているのだ!」
「いかにオッタル! お前がオラリオ最強のレベル7とはいえこの数のレベル6を相手にして勝てる訳がない!」
スタースクリームはフレイヤ・ファミリアに入る以前は天才的な技術者だった。彼の言う通り、二十人のレベル6が一人に牙を向けるという恐ろしい光景が完成してしまった。
食堂にいた団員たちは巻き込まれてはかなわないと、そくさくと食堂から出ていく。
さあ! 戦いだ!
「行くぞ! 三次元攻撃だ!」
どれが本物かもわからないスタースクリームの号令によってスタースクリーム軍団は一斉に舞い上がり、劇場のような広さの食堂をイナゴの群のように飛び交う。彼は空を飛べるスキルを持っているが、クローンゴーレムにもそれが受け継がれているようだ。
「この斬撃攻撃でオダブツにしてやるぜ!」
スタースクリームたちは一斉に腰に携えられた二本の剣を抜き放つと、その切っ先をオッタルに向けて光線を発射する!
「ぬぅッ!」
流石にオッタルといえど、周囲を完全に包囲されてからの一斉攻撃は回避できず、その身体に光線の直撃を受けてしまい、血を流す。
「いいぞ! 効いている!」
「このまま攻撃を続けるぞ!」
「勝てる! 今日こそ勝てるぞ!」
尚も続く波状攻撃。オッタルは反撃をしようにもスタースクリームたちは空を飛んでいるため攻撃が届かない!
「「「「「「「「「「とどめだ!」」」」」」」」」」
「ぐわあああああああ!」
スタースクリーム軍団の最大出力光線! オッタルは爆発に包まれた!
それを見たスタースクリーム軍団は地上に降りた。
「やったぜベイビー! これでオレ様がフレイヤ・ファミリアのニューリーダーだ!」
「流石のオッタルもこれで永遠にGOOD☆NIGHT!」
「「「「「「「「「「ハッハッハッハ!」」」」」」」」」」
勝利に酔いしれ、高笑いを上げるスタースクリームたち。
食堂の出入口から中の様子をうかがっていた団員たちは、
その時である!
「ぐわ!」
煙の中から一本の剣が飛び出し、スタースクリームの一人に突き刺さった! 攻撃を受けたスタースクリームの体が崩れ落ち、生物的な肉質の顔が金属のノッペラボウに変わる。クローンゴーレムだったようだ。
「な、なにぃ!?」
スタースクリーム軍団は一斉に煙の方を見る。だがそれは剣の一凪によって振りはらわれ、その中から健在のオッタルが現れた!
だが重篤なダメージを受け、全身はボロボロだ。
「ば、バカな、オッタル。お前は、お前は死んだ筈じゃ……!」
「愚か者メガ…! 貴様如きのヘナヘナ光線でくたばるオッタルだと思ったか……ッ!」
怒りの形相のオッタル。彼の身体が震えると共鳴するかのように食堂内の空気も大きく振動する。その気迫に気押しされ、スタースクリームたちは後退った。
「び、ビビるこたぁねぇ! あれだけ満身創痍なんだ、もう一度攻撃すれば倒せるぞ!」
「お、おう。そうだ! もう一度三次元攻撃を―――」
「時に、スタースクリーム」
突然オッタルの怒気が晴れ、その顔は石像のようないつもの表情に戻る。
「このオレを倒した後、ファミリアの新団長となり、フレイヤ様を護衛するにふさわしいのは誰だ?」
「何を言っていやがる? このオレ様以外に誰がいるってんだ!」
「いや、そうではなくてな……」
オッタルはスタースクリームたちを指さし、そしてこう言った。
「
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
オッタルの指摘にスタースクリームたちは顔を見合わせる。瓜二つ。当然だ、スタースクリームのクローンなのだから。
だが団長の座は一つしかなく、どんな組織もリーダーは絶対に一人だけだ。補佐や副リーダーがいても最終決定権を持つ人間は一人だけなのだ。
オッタルの言ったことはつまり、
「そんな物、当然本物のスタースクリームであるこのオレ様しかいないだろ!」
「オイこの嘘つき野郎! 本物のスタースクリームはこのオレだ!」
「違う! このオレ様だ!」
「オレ様こそふさわしい!」
「オレが!」
「オレが!」
「オレが!」
「「「「「「「「「「この嘘つき野郎どもが!」」」」」」」」」」
元々、自分勝手で傲慢、さらに嘘つきのスタースクリームが誰かにリーダーを譲るなんてことはあり得ないことだった。例え、自分と同じクローンであっても。
白熱した議論はついに危険な領域へと発展し、スタースクリーム軍団はお互いに剣を向けて同士討ちを始めた!
「この偽物め! 生みの親であるこのオレ様への恩を仇で返すのか!」
「やかましい! 偽物はお前だ!」
「バラバラのスクラップにしてやる!」
食堂内に響き渡る、剣がぶつかり合い、レーザーが空を裂き、爆発する音。高級な調度品装飾品、皿の上の豪華な料理が木っ端みじんになり空中に舞う。
そんなことをしている間に、オッタルはスタースクリームたちの近くにまで迫っていた。
「ハッ! マズい! 全員空中へ退避!」
正気に戻った一人のスタースクリームの号令によって、全員が逃げようとする。
だが、時すでに遅し。
「ヌゥウウウウウウウウウウン!!!」
オッタルの振るう剛剣は嵐のような殺人突風を巻き起こし、一か所にまとまっていたスタースクリーム軍団を吹き飛ばした!
「「「「「「「「「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」」」」」」」」
壁に叩き付けられたクローンゴーレムはただの金属人形へと戻り、バタバタと床の上に降り積もっていく。さながら箒で履きだされたホコリのように。
「…! …! ……ブハァッ!」
つもりに積もった金属人形の山。その一か所がモゾモゾと動き、手や足や頭を押しのけてスタースクリームが現れた。どうやら本物のようだが、鎧の所々は傷だらけの埃だらけになっており、さらに背中の羽もかなりの数がむしれて見るも無残な有様となっていた。
スタースクリームは芋虫のように残骸の山から出てきて、床を這って逃げようとする。
だが、そんな彼の前に丸太のように太い足が立ちふさがった。恐る恐る顔を上げると、石像のようなオッタルがそこにいた。顔こそ無表情だが、その額には青筋が浮かんでおり、彼の静かな怒りを醸し出していた。
「これまでは我慢に我慢を重ねてきたが、今日という今日はもう我慢できんぞ!」
オッタルの怒号。大地震による大地の地割れの如く、向けられた者に絶望を与える叫び声だった。
スタースクリームは慌てて跪き、両手を合わせて必死に上下に振る。
「お、オッタル様ぁ! お許しを~! 今日のは魔が差したっていうか、ほんの出来心なんでさぁ!」
跪いて懇願するスタースクリームのその態度に、オッタルの堪忍袋の緒が切れた。
「まったくこのスタースクリームめ!」
特大のゲンコツがスタースクリームの脳天に突き刺さった。
◆
「うっ、ふふふっ、アハハ、アーハハハハハハ!」
フレイヤ・ファミリアが主神フレイヤのプライベートルーム。そこには一人の女神の笑い声が響いていた。
新雪を思わせる白い肌。揺れるだけで人を魅了する細長い肢体。ソファに沈む小ぶりで柔い臀部、その上の括れた腰。形の良い胸。それらプロポーションを惜しげもなくさらけ出すような、胸元から臍までをさらけ出す大胆な服は彼女が着ても下品さを感じず、むしろその美を際立たせていた。
神々は皆美しい。だがその女神は群を抜いていた。女性的な『美』の概念が体現したような存在。
彼女こそ美の女神フレイヤだ。
「アハハっ、うっ、ふっ、アッハハハハ!」
いつもは余裕を蓄え、ミステリアスで静かな笑みを浮かべているフレイヤだが、今日の彼女は勝手が違っていた。まるで、十代の快活な少女のように、腹を抱えて笑っていた。
彼女の目の前には一枚の鏡がある。だが、自分の顔を見て笑っている訳ではない。この鏡は神の力の一つで、ここから離れた遠くの風景を見ることができるのだ。
その中には、ボロボロの鎧を身にまとい、「私は反逆を企てた愚か者です」と記されたプラカードを首から下げたスタースクリームの姿があった。そして、一人さみしくボロボロになった食堂をかたづけている。
その頭には特大のタンコブが膨らんでいた。
「あはははっ、ふぅ……あー、面白かったわ。……ふふっ」
「笑いごとではありません、フレイヤ様」
彼女の傍らには至る所に包帯を巻きつけたオッタルが控えている。
フレイヤはソファに乗ったまま、身体をオッタルに向けた。
「そう? オッタル。私、下界に降りてきて
フレイヤは自分の眷属は例外なく愛している。そこに特別はあれど優劣はないが、その中でもスタースクリームは特にお気に入りだった。
フレイヤに対して並々ならぬ忠誠を示す他の団員とは異なり、スタースクリームは彼女に対してそれほど忠義の念を抱いていない。他のファミリアにいた時にスカウトを受けたのは、彼女のファミリアが莫大な力を持っているからという理由が大きかった。
だが、上昇志向と野心の塊と言うべき男で、反逆を企ててはそれをよく考えもせずに実行し、オッタルに叩き潰される。だが懲りずにまた反逆を企てては叩き潰される。まるで物語に出てくる道化のようで、フレイヤはそのやり取りを見て聞くのがとても好きだった。
ちなみに、スタースクリームが入団してからという物、オッタルが服用する胃薬の量が増えたのは秘密だ。
「ですがフレイヤ様。ヤツに便乗して反逆を企てる者がわずかばかりですが増えています。このままでは、ファミリアの規律というものが崩壊しかねない」
「あら、でもスタースクリームほど骨のある子は少ないでしょう?」
「それは、そうですが……」
フレイヤの言う通り、便乗犯たちはオッタルが締め上げるとビビって従順になる。アストロトレインやブリッツウィングなどがその一例だ。
悪いことではない。むしろ、規律という面で考えれば良いことだ。だがフレイヤはそれでは退屈だった。
スタースクリームは刺激としては最上級だった。頭は良いのだが、まるで「覚える」という概念を母親の腹の中に忘れてきたかのように無鉄砲。それ故に面白かった。
フレイヤがスタースクリームをファミリアから追放しないのはそういった理由からだ。
付け加えるなら、スタースクリーム一人が反乱を企てたところで成功率などたかが知れている。故に、問題が起こった後にオッタルが対処すれば鎮圧できてしまうのだ。
「そうそう、スタースクリームの他にも、面白くなりそうな子を見つけたのよ」
オッタルの気苦労は耐えそうにない。