ベトルカへ帰って一息と思ったローラを待っていたのは大きな箱だ。
リビングにでーんと鎮座したそれは丁寧にリボンが何重にも巻きつけられている。
プレゼントにしてはでかすぎる気がするの!
さらにデカダンスーツの見慣れないファティマが大きなはさみを持って箱の横に立つ。
腰に箱と同じ柄のおっきなリボンを蝶結びで結んでてかなりファンシーチックだ。
客人であるサリタ・アス・ジンクは一人ファティマを伴っていた。
名前はエルカセットというらしい。彼女はモラード宅で三人が帰るまでお留守番をしていたようだ。
エルカセットのことは帰ってくる車中で名前だけは聞いていたけど、この箱は聞いてない。
モラード先生がニヤニヤしてるからプレゼントってアレかしらん?
「これー?」
ローラは首を傾げてみせる。びっくり箱かなんかだろうか?
「ローラちゃんへのプレゼントさ~」
「ふうん?」
何が入ってるんだろう。おっさんのセンスはいまいち当てにならないような……
サイズ的に乙女チックな内容は期待しない。世話になっている立場だし貰っていい物なのかもわからないし。
「開けていいぞ」
「はい」
エルカセットがうなずいてリボンにハサミを入れて箱のご開帳。ぱらりとリボンがはだけて彼女は箱の口を開ける。
横倒しに置いてあったみたいでこっちに向かってふたが開く。
ローラはそこから異音を聞き取る。
マシンのモーター音?
そう思ったら箱の中からまるーいロボットが飛び出してきた。照明を反射して銀色にボディが輝く。
「おお?」
その鋼鉄ボディをホバーで浮かせ床を走らせるとロボットはアームを付き出しローラの前でストップする。
光沢のある装甲表面は未来チックでシンプルなシルバー。高さは一メートルちょいでローラの身長と大して変わらない高さだ。
アームは複雑なものではなく物を掴んだりする作業には向いてない。障害物を取り除いたり段差を飛び越えるためにあるようだ。
モニターの顔みたいな部分はセンサーの赤い光がピッピと点滅している。
どこかで見たことがあるようなデザイン。そう、あれだよあれ!
その丸いタンクみたいなロボットの姿はSW(スターウォーズ)のとあるロボットにそっくりだ。
それ以外連想させるものがないんだけど……
「PI、PIPPOOOO-、PIPI」
アームが伸びてボディを浮かせるとローラに挨拶のようなものをする。お辞儀みたいに体を傾けている。
お前はR2D2! R2D2! じゃないか! このデザインから連想できるのはあのロボットだ。
どっかにC-3POなんかも隠れてたりしない?
スターウォーズとかずいぶんと懐かしい。でも、このロボット……
「PIRORO、PIPI-」
「って。この波長パターンは……どこかで見たことがあるような?」
「これの中身気になるか? 気になるだろ。ふふ、まさか自走するエトラムルがいるなんて世間様は思うまい……」
自慢気なモラードがウンウンと頷く。後ろで我慢していたジンクが思わず吹き出す。
ナニが面白いのん?
いや、って~~!? もしかして中身は……もしかしなくてもそうなわけ?
帰ってきてからまだ研究室に顔を出していないけれどまさかねえ……
「PPI! PIPOPA!」
グリングリンと丸いヘッドを回転させてそいつはローラの前で自己主張をしている。まるでペットの犬のようだ。
「もしかしてリョウなの?」
「ほれ、こいつを繋げてみろ」
「わたしの端末~」
研究で使っている端末を受け取って接続開始。
ピポピポいってるマシンボイスは暗号電子音だけど、手元のディスプレイで可視文字化できる。
リョウ用にそういうプログラムを入れてあるのだ。
この研究室で使ってる電子波長のチャンネルが合うエトラムルは一体しかいない。
「PIPO、PA、PURURU?(新ボデー、強い、カッコいい?)」
やっぱりお前か。なんて姿に……かっこ良く……丸いよ。
「えー、うん、丸いなあ……」
足元でギュンギュンモーターを回してるのはうちの子のリョウちゃんでした。
ふつー、エトラムルは動きません。自分で移動できない欠点と世話の面倒さがネックでした。
エトラムルだから移動大変なのはもちろん、その入れ物をエトラムルが動かすとかは技術的には問題はないと思う。
思うんだけど、でも星団法は……わからん。これは穴と考えて良いのか。
「いで! あっち行ってなさい!」
突っかかってきたR2D2なリョウを蹴飛ばすと、ギュイーンとモーター音を響かせて在宅のネコを追い回し始めるのだった。
ネコさんいじめんな。
「こいつを運んできたのはジンクお姉さんだぞ。ちゃんとお礼を言うんだぞ」
「ああ、うん。ジンクさん、ありがとうございます」
ローラは礼儀正しくジンクに頭を下げる。
サリタ・アス・ジンクといえばマイトを志す者なら知らない者はいないと言っていいくらいだ。
フルマイトでもある彼女のファティマは有名所にも嫁いでいるし、マイトの専門誌でこの間特集が組まれたばかりだ。
でもエルカセットって子は知らないなあ……博士が作ったオキストロとかアナンダとかは本編にも登場してたけどさ。
エルカセットはMタイプのファティマだ。見た目がほんわかとした感じで話し方もどこかのんびりしている。
クリスタルつけてなかったらどっかの良家のお嬢様っぽく見える。
ナチュラルな仕上がりにマイトの腕前を感じる。
「まあついでだったし。こっちじゃファティマのお披露目が多いから。この子の再就職先を決めてやろうと思ってさ。あれ担いできたのはこの子だよ」
「はい、エルカセットが担いできましたぁ~ 可愛いリョウちゃんのボディ運んできたんだよ」
「ああ、うん。ありがとう」
聞けばカラミティからわざわざボォスのイズモ・アストロシティに寄って、受注していたロボットを受け取ってきたらしい。
結構な長旅だよね?
「噂のダイヤモンド・ニュートラル博士には会えなかったけれど、なかなか興味深い工房だったね。アレのパーツ装甲は泰千錫華ご本人が仕上げたもんだよ。設計が金剛仕様だね」
あの、それっていくらかかってるんですか……わたしの財布マネーは二〇フェザーポッチなんですけど。
「おお、今度のお披露目か。エルカセットはマスターに恵まれてないからな」
「二回もブーメランして帰ってきたからには今度は気合い入れてマスター探すんだよ」
「はい、エルカセット頑張ります~~~」
エルカセットがフニャッと腕を上げて気の抜けた返事をする。
こりゃ次もどうかなという顔のモラードとジンク。
ローラといえば家の中を爆走するリョウを止めようと追いかけっこで忙しい。
その日の晩はみんなでワイワイと食卓を囲んだ。
エルカセットがすり鉢でジェラート作って芸を披露したり、珍しい土産物のチーズがテーブルに彩りを添えた。
みんな沢山飲んで食べた。ああ、家族ってこんな感じだよね。
「今日はもうお休みだ」
「PIPO?」
遊びたりなさそうなリョウの起動をストップさせる。
このボディはエトラムルが中に入ったままでも循環液を浄化し続ける機能が付いている。液体が劣化するまで使えるらしいから月一の交換でいいらしい。
廃液を排出する機能があるので新しく補給すればずっとということになる。
メンテナンスの頻度を考えるとそう手間でないのは嬉しい。フルメンテとなると大掃除になる。
たぶん、そのときはエトラムルも出して機械のチェックもするだろうけど。
個体としての成長度はこれ以上はないけど学習はまだまだ続く。
保護ボディがあれば学習の幅はより広くなるはずだ。
先を見越したモラード先生の気の利いたプレゼントだった。
久しぶりに自分の部屋でくつろぎながら布団に入る。ふわ~っとあくびをする。
結構いろいろあったなあ~ 明日はお披露目か……
しばらくしてローラは眠りの世界に入り込んでいた。
◆
そして本日の朝。朝食後、お出かけの支度をしてわたしたちはお披露目がある会場へ向かう。
場所はバストーニュ郊外にある衛星都市だ。
お披露目と言っても有名なマイトの作品はなし。どっかの王様とか偉い人はほとんどこないらしい。
そういう大きいお披露目は新作ファティマとかの場合で、工場製とかブーメランファティマの発表ではかなり格が下がる。
最近の期待作といえばクローム・バランシェの最新作であろう。
公の作るファティマは三体一組が多く、それがもし一同に公開されれば星を上げての大イベントになるだろうということだ。
その時が近いことをわたしは知っている。自分の運命もそのイベントにかかっている。
今回のお披露目は、工場から出荷された新品ファティマとブーメランファテマがメインで、相場が安いとなれば嫁ぎ先は限られてくる。
もっとも掘り出し物を求めて強い騎士が来ることもある。
その騎士を勧誘するために騎士団のエージェントもやってくるので会場はそこそこ人で溢れることになる。
お披露目本場と言われる国なので他所からわざわざマスターを探しに来るファティマもいるらしい。
「ギューン」
ローラの操作でリョウがユー・ターン。豪華な絨毯に走行の後をくっきり残す。
なお、自走モードを切ってコントローラを握ればこっちで操作可能です。
はためからは子供のおもちゃ。こんな高価な玩具はないだろう常識的に考えて。
偽装は完璧だと自慢したモラードであった。
「飽きた……」
今いるのは市のお披露目会場だ。大きな建物一つを貸し切りなので関係者以外は立ち入り禁止となっている。
お披露目が始まるまでファティマや騎士は待合室で待つのがルールだ。
その時間までの暇つぶしだ。
ローラは待合室のソファにどっかり座ってぼんやりする。
そのとき背後から目を閉ざされる。ちょっと低い体温の細い指先に不意打ちを食らっていた。
「だーれだ?」
「ふぁ??」
誰だかわからない。声の調子からは判別できない。
手先と体温、声の調子から女性というのはわかるが知り合いではないような……
「こんにちは、小さなマイトさん?」
振り向けばそこにいたのは……
「もしかして……アトロポスなの?」
「あれ、わかっちゃった?」
ああ、そう。その姿をなぜ見分けられたのかはわたしだけの秘密事項といえる。
アトロポスはローラを見下ろすように立つ。
その格好といえば男の服装だ。腰には光剣まで下げている。
ぱっと見は線の細い小柄な騎士にしか見えない。一般人から見ればまったく見分けはつかないだろう。
もっとも美しすぎて人の目をやたら引く存在だ。
ファティマやマイトであればすぐにファティマだと気が付くだろう。
アトロポスは変装のためか髪の色も淡い茶色でアイレンズもより瞳孔がくっきり見えるものをはめていた。
その姿をわたしは「見たことがある」といえばわかるだろう。
ユーバーの魔の手から逃すためにバランシェ公が変装させたのだろうか?
「成人したんだ」
「一昨日……君には最後に会っておきたかったの。あなたとモラード先生にお願いしたいことがあって」
「お願い?」
「妹たちをお願いしようと思って」
「お願いって言われても……」
「そうね、子どもにはちょっと難しいこと言ったかな?」
「わたし、子どもじゃありません!」
ムキになって反論する。
むう……アカン、反論したらガキっぽいじゃん。反省すでに遅し。
「あのね、アトロポス!」
「ん?」
「わたし、いっぱい勉強して、もっと研究して、ちゃんとしたマイトになる。だから、だから、あなたたちが悲しみに涙を流さなくていい未来を創るの。だから、だから……」
そこから先、上手く言葉が続かない。
気持ちは突然高ぶって、それが自分を押し流す。
手を伸ばしてアトロポスの指先に触れると、その指がローラの手を握り返してくる。
「待ってる。きっとそんな未来が来るのかもしれない。クローソーが言ってた。私はそんなあなたたち人間の未来を見守って寄り添って生きていたいって。これはあの子の願い。そして私は……」
アトロポスの瞳が揺らぐ。その先を待ったけれど彼女は言葉を続けなかった。
そのとき電子音が沈黙を破る。リョウが停止モードから抗議の声を上げる。
「PIPOPO?」
「この子……君は弟ってことになるのかな?」
「はい?」
リョウに歩み寄ったアトロポスが金属のボディへ触れる。
ファティマだけがわかるいくつかのやりとりの後すぐに離れる。
そしてアトロポスは振り返ってローラをじっと見つめた。
「希望(フォーチュン)。私たちの未来はまた会う時まで君に預けておくわ。これは私との約束……さようなら、小さなマイトさん。あなたの未来に幸ありますように」
「アトロポス」
ローラの呼びかけにアトロポスは手を振って部屋を去っていた。
慌てて追いかけたけど扉の向こうの通路にも彼女の姿はなかった。
………
……
…
──この小さなローラと女神アトロポスとの約束はやがて果たされることとなる。
それはいくつもの物語を越えた、終焉の時を語る物語となることだろう。
時代がファティマを必要としなくなる未来まで続く五つ星の物語(ファイブスターストリーズ)。
新たな種は蒔かれ芽は息吹く──