転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【20話】ベトルカの邂逅

 ベトルカ──今この町で一つの騒動が起きようとしている。物々しい軍服姿の男たちが街中を駆けていく。

 

「早くクローソーを確保するのだ! お前たちはあっちだ」

 

 ビョイトの指示で兵隊たちが町を探索している。

 逃亡したクローソーがここに逃げ込んだことは間違いない。ほどなくして部隊長から無線に連絡が入る。

 

「早かったな。どうした?」

「閣下、ファティマを捕まえました。妙なロボットがいます」

「クローソーか。でかした! ロボットなぞどうでも良い。さっさと連れてこい!」

「はっ!」

「まったく、手を煩わせてくれるものだ」

 

 連行されてきたファティマとロボットを見てビョイトは眉をしかめた。

 ファティマはウェーブのかかったゆるゆるヘアーにイエローとホワイトのファティマスーツ。その脇には円形型の直立ロボット。

 見るからに不審な取り合わせだが……

 クローソーは藍色の髪でピンクとブラックのスーツだ。どこからどう見てもクローソーではない。

 

「えーん。何するんですかぁ~~ 乱暴は止めてください~」

「PI! PIPOPIPO~~(おい、てめーやろうってのか!)」

 

 アームを掲げてリョウが挑発する。なお、ファティマでないと彼の言葉は直訳できない。 

 

「何だそいつらは……」

「はっ! クローソーを連行しました!」

「これのどこがクローソーだ。ばっかもーん! お前たちは何者だ!」

「私は~ エルカセットです~~ この子はリョウちゃんだよ♪」

 

 能天気満載のおとぼけっぷりにビョイトは眉毛をピクピクさせる。

 苛立ちながら、この取り合わせをどうしたものか考える。

 いや、クローソー確保が先決だ。この際、なりふり構ってはいられない。

 多少の荒事もユーバーに揉み消させればよい。

 

「あは、面白い顔~~」

「PIPOPO~(五〇点かな~)」

「ファティマは連れて行く。何かを知っているかもしれん。そのロボットは始末しろ!」

「了解」

「あなたたち、リョウちゃんに何するの!?」

 

 兵士が銃口をリョウに向け至近距離から引き金を引く。

 光線銃からほとばしったエネルギーがリョウのボディに命中し、反射してディグのエンジン部分を撃ち抜いた。

 リョウのボディはモーターヘッドの装甲そのものである。対光線兵器はばっちりだ。どこに飛ぶかはわからない。

 

「ばかもん! もう、そいつには構うな。来い!」

 

 エルカセットの襟を強引に掴んでビョイトが連行する。

 こいつも連中とグルかもしれんからな!

 

「いやーん! やめてください~~」

「PIPIPURUROO!~~(いい加減にしろ。クソやろうが!)」

 

 ビョイトに襟首を掴まれたエルカセットは引きずられる。

 

「えーん。助けてマスタぁ~~」

「マスターだと~~? おい、お前の主は誰だ? できそこないファティマのマスターは飛んだ間抜け顔だろうがな」

「マスターは間抜け顔じゃありません! とっても可愛いんです~~」

 

 エルカセットの訂正にビョイトはますますいきり立つ。ファティマが口答えするなど彼の辞書……いや、星団法にはない。

 

「どうやらダムゲートが壊れているようだな! 貴様のような不良品は今ここで始末してもいいんだぞ?」 

 

 腰の光剣に手をかけた脅し文句のビョイトにリョウが体当たりする。

 その鋼鉄のボディをビョイトは側面を回転させるように蹴とばして転がす。

 

「痛いぞ、このスクラップ品めが!」

「PUPO!(べーだ!)」

 

 ビョイトは光剣(スパッド)を抜きリョウに向ける。

 そのときだ。

 

「貴様、何者!」

「ぐあ!」

「うう……」

 

 銃を構える間もなく三人の兵士たちが同時に倒れた。

 黒い影が伸び、ワシャワシャ揺れたスカートが音を立てる。毒女メイクに蜘蛛の刺繍。ゴシックロリータでパンクなファッション。

 

「はぁい。そいつを抜く覚悟はあるんだろうねえ」

  

 ニタぁっと笑うは毒蜘蛛のナイアス・ブリュンヒルデだ。

 その闖入者にビョイトはギョッとして下がる。

 ビョイトが率いる部隊を追いかけるとき、ヒールは走りにくかったので脱いでいる。

 砂埃をかぶっているが派手さは少しも褪せていない。

 その女の登場にビョイトは鼻白む。見るからに異様だが騎士だ。ただのごろつきにしては妙に威圧感がある。

 

「貴様、我々はユーバー大公の麾下であるぞ! 無礼は許さぬぞ?」

「無礼だって? そういうあんたは、弱い者いじめしてるだけの、ケツの穴が小さい野郎だろ」

 

 風が砂埃をさらう。訪れた緊張に周囲の空気が張り詰める。スパッドを手にしたビョイトが震える。

 不味い。こやつはただ者ではないぞ。

 その緊張を破ったのは少女の声──ローラだった。

 

「エル!」

「きゃー、マスタぁ~~~!」

 

 ビョイトの手を逃れ、走り寄ったエルカセットがローラを抱きしめる。

 その光景にビョイトが唖然とする。

 ローラとファティマがすぐに結びつかなかったのだ。

 

「な、何?」

「コレハ、ビョイト卿。ドウカナサレタカ?」

 

 ビョイトが振り向いた先にA.K.Dのミラージュ・ナイトが四人立つ。

 赤いマントに白の十字マークとドクロの仮面は恐怖の印だ。今は仮面は脱いでそれぞれが素顔をさらしている。

 機械の体から発せられるマシンボイスはランドアンド・スパコーンだ。他、三人のミラージュが幽鬼のように立ち尽くしている。

 そこから少し離れてビュラードが立つ。その隣にクローソーともう一人長身の人物がいる。

 レディオス・ソープはビョイトの姿を見て身を隠した。

 

「ビョイト卿。クローソー殿ハタッタ今、コーラス陛下ヲマスタート認メ陛下ノ元ヘ行カレル意思ヲ示サレタ。無用ノ騒ギハ慎マレタシ」

「な、な、何ですと~~~!?」

 

 未練がましくビョイトがクローソーを見る。

 隣に立つコーラス三世はジュノーでは大帝と呼ばれている。若いが今回のお披露目では大物の一人だ。

 

「いや本当である。ここにトランのボード卿もおられる。それにそちらのお嬢さんも。我ら四人は、この事実をしかと見届けた」

 

 答えたのはリィ・エックス・アトワイトだ。

 後ろに控える二人は、顔に傷のあるヌー・ソード・グラファイトと派手なメイクのポエシェ・ノーミンだ。

 ミラージュ・ナイトは星団でも使い手から構成される騎士団で、その一人一人が国家の筆頭騎士や指南役に匹敵する腕前を持つとされている。

 金にあかせて作り上げたお坊ちゃま騎士団などと比喩もされるが、実際に目にすればその意見は引っ込む。

 十字を背負ったドクロの死神たち──

 

「我らは「偶然」この場に居合わせた。このようなケースは大変珍しい。騎士級の三人が立ち会えば、一応略式として認められることであるし」

 

 ポエシェがリィを補足する。

 その決まりはわたし的には体験済みデス。ローラは傍観しながらやり取りを見守る。これでもう大丈夫なはずだ。

 

「そ、それは大変めでたいことですが、お披露目は……その」

「正式な手続きに則っておらず申し訳ない。お披露目だが、大公殿の顔を潰すつもりはない。きちんと彼女の姉が嫁ぐのを見届けさせてもらうよ」

「そ、そうですか。では、我々は失礼させてもらう!」

 

 ビョイトは身を翻してその場を立ち去る。兵士たちに怒鳴りながらの慌ただしい帰還だった。

 ユーバーは怒り狂うことだろう。お姫様の救出は主人公に任せるとして、関わったからには最後まで見届けようと思う。

 いい加減、エルが厚苦しい。

 

「あのね、エル~~~ くるちい……」

「はいー」

 

 久しぶりのマスターに喜びの抱擁からぱっと身を離すと、エルカセットはふにゃ~と笑った。

 ローラは深呼吸してエルのほっぺをギュウギュウする。

 

「うりゃ~~~」

 

 グニグニだ~

 

「まふた~~」

 

 計画ではエルカセットとリョウがクローソーを確保するはずだったが、追っ手の注意があっちに向かったおかげでこっちが先に見つけることとなった。

 クローソーに絡んだごろつきをコーラス三世とソープがやっつけて、クローソーはコーラス三世をマスターと呼んだ。

 結局、ここは原作通りに進んだってわけ。わたしの出番なんて欠片もありませんでした。

 んで……

 

「ナイアスねーさん?」

「よお、ローラ。元気ぃ~?」

 

 てかてかリップを光らせてナイアスがローラの頭をくしゃくしゃする。 

 

「どーしてここに? 最近、連絡取れなかったし」

「妹に会いに来て何が悪いんだい?」

「あ、うん……」

 

 何だかはぐらかされた。最近、ナイアスねーさんの携帯に連絡付かなかったんだけど、まあ、こうしてまた会えたんだし。 

 視線を感じて振り返るとコーラスと一緒にいるクローソーと目が合う。手を振ってバイバイと言っている。

 

「うん、バイバイ……」

 

 ローラも小さく手を振り返す。

 

「それでは私も失礼する。あの小さいご友人と彼女たちの助力に感謝するとしよう」

 

 そしてコーラスとクローソーも去った。ソープとビュラードは肩を並べて顔を合わせる。

 ビョイトが去ってソープは再び姿を現すとクローソーからの伝言を聞いたのだ。

 

「こりゃあ、トラン始まって以来。いや、二度目くらいの大波乱になるかもしれんなぁ……コーラス陛下にノイエ・シルチスのブランシュ・トップ(白の一番)のお出ましとはね。それとミラージュだ」

 

 意味ありげにビュラードがソープに目くばせする。そのミラージュもすでにいない。

 少し先にローラと再会したエルカセット。リョウにナイアスがいる。

 

「それにアマテラス陛下もね。やっぱり、ここに立ち寄ったのは正解だったかもしれない。思いもよらず楽しめそうだ」

「一番の謎はお前かもしれんな」

「あなたほどじゃないですけど?」

「俺? 俺はただのボード・ビュラードだよ。お前たち、送っていくぜ~~」

 

 ビュラードはポケットに手を突っ込んでプラプラ歩きながらローラたちに声をかけていた。

 

 

 それから──そこではデコース・ワイズメルとナイアス・ブリュンヒルデの死闘が繰り広げられている。

 それはローラを巡る大決戦であった。

 舞台はお城のローラの私室だ。結構広くて厨房まである。

 

「てめー、なかなかやるじゃねえか……」

「あんたもねえ……」

 

 飛び散った赤いものが白いテーブルスキンを染め上げ、デコースの唇からも赤いものが垂れる。対するナイアスのほっぺも赤いものでベッタリだ。

 この戦いが始まって二時間余り、戦いは膠着状態に陥っていた。両者ともに勝ちは譲らぬと意地の張り合いとなっている。

 

「あのさ、もう止めたら?」

 

 これを言うのはもう三度目だが、ローラとしてはどっちが勝ってもどうでもいい。何でこんなことになったのかは不明だ。

 わたしとしては、ユーバーにエルのことがバレたかなとドキドキしてたのだ。

 

「あんたさぁ、潔く負けを認めたら?」

「クソったれだ!」

 

 一閃、フォークが躍って皿に残った最後の一口をデコースが頬張る。うっと、青い顔になるが水を飲みくだすと勝ち誇った顔をする。

 

「何てことねえ。もう一皿でも十皿でも持って来いよ」

「ふん、強がるんじゃないよ……」

 

 指についた赤いトマトソースをナイアスが舐める。若干蒼ざめているのは気のせいではないだろう。

 

「お代わりデース!」

 

 エルカセットが茹で上がったばかりのパスタ麺を大皿に特盛して二人の前に置くと、ノロノロとフォークを伸ばす二人。

 もはや限界。食べ切った方が勝ちだ。

 頭上高く積み重なった皿の山は二人とも同数だ。

 騎士が大食らいなのはよくわかった。でもね、食べ物がもったいないと思うの!

 

「だめ……もう限界」

 

 うえっぷとナイアスがテーブルに突っ伏す。

 ナイアスに先んじてもう一皿追加したデコースが最後の一本をチュルリと胃に流し込むと勝ち誇った顔で立ち上がる。

 

「はっは~、シルチスのホープも俺にかかっちゃこれだぜ~~~!」

 

 デコースが勝利宣言。そして次には何ともいえないヒックと呻き声を上げる。

 何か嫌な予感がする……

 ローラは下がって様子を見る。

 

「おい、ローラ。俺の勝ちだ。だろ?」

「まあ、そうだね……」

 

 皿の枚数数えるのは途中で止めた。とりあえず、デコ兄に花を持たせることにする。ねーさんは反応する気力さえなさそうだ。

 

「うごぼぁ……」

「へ?」

 

 デコ兄の様子が変だ。変な声の後、みるみると顔が真っ青から真っ白になる。これは何かヤバイ……

 そのとき、ゴポゴポと胃から逆流する音が響いた。そして次の瞬間、大量のパスタ麺と赤いものがデコースから吐き出される。

 うわぁぁぁ~~~!

 そして、ズルリ、と濡れたものに滑ってデコースは倒れ込む。

 

「いやぁぁぁ~~~~~!?」

 

 赤いソースの中で最後の呻き声を上げてデコースが白目をむく。

 こうして厨房は赤く染まった惨劇の場となった。

 二人の対戦者が気を失っている。

 勝者なしの誰得決闘の果てであった──

 

「PIPOPUPO?~(激烈ばか?)」

 

 ピカピカサインを出しながらリョウが雑巾をアームで器用に床にかける。

 壁で観戦していたBBが何とも言えないという表情で首を振るのだった。

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