転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【21話】想いを越えて

「お披露目にしちゃずいぶん派手じゃないか」

 

 サングラスの女が頭上にあるエア・ドーリーを見上げた。ドーリーの赤い装甲が太陽の光を照り返し真下の城に大きな影を作る。

 民間のエア・ドーリーではない。ユーバー大公が所有する軍事兵器も搭載したエア・ドーリーだ。

 お披露目に持ち込むには無粋すぎる代物だ。そこにMHまで積んでいたら法に引っかかる。

 星団法では原則、お披露目における武力行為は一切容認されていない。

 

「やりたい放題か。思っていたよりトランの行く末はきな臭いな」

 

 自己顕示だけは大国の王並みだ、とノンナは呟く。

 

「お嬢様、チョコパフェお持ちしました」

 

 ノンナの向かいの席に、同じくサングラスにタキシードのハルマーが座る。

 二人が入城する前に起きたイベントを見逃して手持ち無沙汰気味だ。

 コーラス三世が出し抜いてクローソーを手に入れた話で、城内はその話で持ち切りとなっている。

 無論、逃走云々の話は表ざたにはなっていない。

 外では重MHが地響きを立てて降ろされる。観客たちが賑やかな声を上げてそれを見上げる。

 大公ユーバーのデモンストレーションだ。

 

「これがわしのMH”ヘルマイネ”! 名工スターム公の手による一品ですぞ。中身もそんじょそこらのものとは異なる特別仕様! スピードもパワーも桁違い。星団三大MHに並ぶかもしれませんなぁ」

 

 ヘルマイネを自慢のネタにユーバーが持ち上げる。

 

「おやおや、ヘルマイネがサイレンやうちのバングクラスですか……」

「成金のたわ言だ。言わせておくさ」

 

 ノンナはチョコパフェに忙しい。

 

「そしてわしの甥のデコースとバギィとジィッド兄弟。MHバルンシャとデヴォンシャ。これもスターム公のもの」

 

 観客の視線を浴びて得意顔のジィッドが腕を振り上げる。バギィはやる気のない顔だ。デコースはすまし顔で一礼してみせる。

 この日のためにお色直しされたMHは式典用コーティングされた装甲で彩られている。

 ジィッドのバルンシャの頭部はドクロのようなデザインが黒で施されている。傭兵特有のマーキングにしては派手だ。

 ジィッドが整備にごり押しでやらせたものだ。頭部改造は間に合わないのでペイントさせている。

 ジィッド自慢の”デムザンバラデザイン”であった。 

 

「悪趣味な」

 

 アイスをぺろりと飲み込んでノンナが感想を述べる。

 

「そして、このMHのマイスターは、あのレディオス・ソープ殿」

 

 周囲がレディオスと聞いてざわめく。

 ハルマーも興奮気味にノンナに囁く。

 

「レディオスってあれでしょ、一五年前のトブルクで一二台を三六時間でハンガーアウトしたっていう……」

「さすが大公といったところだな。金の力さ」

 

 どうじゃ、わしの金の力の前に誰もが注目する。わしがレントの王になる日もすぐよ。

 にしてもクローソーは惜しいことをした。わしの企みがバレたのではないかと冷や冷やしたわ。

 ラキシスだけは逃さぬぞ。

 ユーバーの視線がコーラス三世と傍らのクローソーに向けられる。

 

「皆さんももうご存知でしょうが、クローソーはコーラス陛下のものとなりましたが、どうですかの陛下。是非、我がヘルマイネでクローソーの腕前を見られては。模擬戦の準備はできていますぞ?」

 

 クローソーを取られたユーバーの意趣返しだ。その二人に注目の視線が集まる。

 空になったグラスにスプーンが入って音を立てる。

 

「行くぞ、ハルマー。仕事だ」

「あれ、模擬戦は見ていかないのですか?」

「コーラスが勝つだろう。あの王家は指折りの達人ばかり。デコースにも負けんさ」

「ですかねえ」

 

 立ち上がったノンナにハルマーが続く。

 

「──おお、それは残念。クローソーの力を見せたくないと? っと、これは失言。予定通り、バギィ兄弟の模擬戦をご覧いただきたい」

 

 ユーバーの申し出をコーラスが断り、武王と名高いその顔に泥を塗ったことに満足すると、ユーバーは模擬戦の開始を宣言する。

 その模擬戦の内容といえば、MHによる輪投げ合戦であった。

 

 

 広場での茶番は特に何もなく終わった。

 うろ覚えでは、ユーバーがコーラスとクローソーを苛めてアマテラスが出てきたはずだけど、そんなことは起こらなかった。

 やっぱり、微妙に起きることが変わっているような気がする。

 それよりも今日はやることがあって忙しい。

 

「それじゃお願いね」

「わかりました」

 

 整備の人にお願いを通したところで、ローラはやってくる二人に目を止める。

 ソープとビュラードだ。二人並ぶとよいコンビに見える。ひいき目かもしれないけど。

 

「お?」

「やあ、ローラ」

「こんにちは」

「よお、今からヘルマイネの中見に行くけど来るかい? 勉強中なんだろ」

「うん」 

 

 ヘルマイネにはエトラムルが乗っかっている。

 果たしてエンジンとかもフルチューン物件なのかわからないけど、あのオデブでは絶対に乗りこなせないだろう。

 

「近くで見るとなんて重そうなんだ。こいつはロッゾのヴーグラ騎士団の主力旗MHだが、あそこはライセンス販売でかなり儲けてるんだよな」

 

 ロッゾ帝国は重工業が盛んな国でMHの産地でもある。ヘルマイネとかバルンシャもロッゾだ。

 主力でも金になるから売る。そりゃ、ユーバーみたいのが買いますよねー。

 一般ライセンスでも、ヘルマイネならそこらのモノより値が張るに違いない。

 ちなみにデボンシャはウモス共和国がライセンスを持っている。そのロッゾ版ライセンスがバルンシャなので、この二つは兄弟みたいな感じ。

 原作じゃ揃ってやられる脇役だけど……

 

「やほー」

 

 タンクの液体に浸かるのはもはや見慣れたミジンコ君。残念ながらふつーのエトラムルだ。

 こいつの進化形態の途上にあるリョウはまだまだ半端ものだ。

 いずれは複数のエトラムルとリンクスし、指揮系統を持つエトラムルとして成長させたい。

 もう理論だけの存在じゃない。現実になれば世界が変わる。大げさかな?

 

「ビュラードは見たことあります?」

「うんにゃ、あまり見たくねえ代物だな……」

 

 確かに初見だとかなりグロイ。でも、慣れれば可愛いんだぞっと。

 

「でも、これが一番自然な形のファティマなのかもしれない」

「ファティマを巡って争うこともない。でしょ? ただ動かすことだけを考えるマシーンだもの」

 

 ほの暗い中で反射する液体の中にあるエトラムルをローラは見つめる。

 

「そうだね、よくできました。さすがモラードの弟子だ」

「あ? モラード・カーバイトか?」

「それ、もう言いましたけど?」

「そいや、そうだったけなあ。君は本当はユーバーの姪っ子じゃあないんだろ?」

「お兄ちゃんが仕官してるだけ。わたしは……居候かな……」

 

 理由をつけてユーバーから引き離すことも考えたけど、どうにも思いつかないまま現在に至る。

 自分も忙しくてそれどころじゃなかったこともあるけど。原作組にバッサリやられるシーンだけは避けたい。

 

「ソープ様、ローラ様、お茶が入りました。オレンジソースのチーズケーキですよ。そこの騎士の方もご一緒に」

「うん、今行くよ。ビュラード、休憩しましょう」

「お招きとあっては行きましょう」

 

 整備クルーと揃ってのお茶会は賑やかなものだった。

 場の中心はソープがメインだ。何もしていなくても人が集まるのは人徳なんだろうか。

 MH・マイスターの間ではレディオスの名前はすでに伝説的だ。

 ここに来たばかりなのに古参のクルーを唸らせているし、特に女性班からの視線が熱い。

 ローラはカップのアツアツのお茶をチビチビ飲みながら、切り分けられたケーキとお菓子を摘まむのに集中する。

 

「作りたいモーターヘッドがあるんだ。ある人と約束してね。歴史に残るようなMHをね──」

「そうですか、レディオス様なら、きっとできますよ!」

「それに、ここの主人だって長く続かないでしょう。きっと、我がトランの大統領ルース様が出て来られるにきまってる」

 

 その本人は目の前でケーキぱくついてる。ほっぺにソースついてるよ、だらしないなあ。

 

「うが?」

「オレンジ味」

 

 指を伸ばして先っぽでふき取る。

 

「わりーな」

「ねえ、ビュラード。まだあなたのファティマ紹介してもらってませんけれど?」

「え? オレの? ……そのうち見せてやるよ。そんないいもんじゃないんだ」

 

 嘘つききたー。メガエラでしょう?

 バランシェ・ファティマだからソープに見せたら一発でバレちゃうもんね。

 残った一切れを頬張ってビュラードは退散する。

 

「じゃあな、オデコちゃん!」

「ふにゃ」

 

 ペンペンオデコをはたいていきやがりました。オデコフェチめえ……

 一人でケーキ半ラウンド食べていったよ……

 そんでお茶会はお開きになりました。

 

 

 その日、夜も更けた頃、ローラは熱いシャワーを頭から浴びる。

 クローソーは一件落着だ。ウリクルと仲良くするといいな。

 ウリクルか……コーラスとは恋仲に近い関係なんだよね。

 ハグーダとの戦いでコーラスをかばってウリクルは死んでしまう。そしてコーラスも……

 コーラスは感じのいい男だ。死んでほしくない人だと思う。

 でも、わたしが介入するとか、余計なことする余地はまったくないように思う。

 来年にはコーラスとハグーダが開戦する。戦争で沢山の人が死ぬんだ。

 

「ばあ!」

「にゃ!?」

 

 後ろから抱き着くのはナイアスだ。

 びっくりして声も出ない。

 

「なーにアンニュイに浸ってんだ?」

「別にー」

「風呂入ろうぜ。背中流してよ」

「いいよー」

 

 応えた目線でねーさんの右肩に注目する。

 えぐられ塞がった跡がある傷跡は見るからに痛々しい。

 

「その傷どうしたの?」

 

 前はなかったはず……

 

「ああ、これ?」

 

 ナイアスはその傷を愛おしそうに撫でる。

 

「恋の証」

「はい?」

 

 全然、意味が分かりません!

 

「おこちゃまには百年早いか」

「おこちゃまじゃありません~~」

 

 ドボンと浴槽に身を沈める。

 なお、小さなプール並みに広い浴室です。

 ナイアスねーさんに傷をつけるほどとなると相当の使い手に違いない。その相手に惚れてるってことなの?

 そいや、しばらく携帯に連絡つかなかったけどそれかな?

 

「で、誰なの?」

「カイエンさま~」

 

 ナイアスはうっとりとその名を呟く。

 はい?

 カイエン?

 剣聖のダグラス・カイエン?

 

「最初はワモンゴキブリな出会いだったんだけど、優しく、包み込むような剣だった……」

「はあ……」

 

 ごめん、よくわからない。男女の恋ってどう始まるかわからないなあ……

 女ったらしで人目を忍ぶ姿がヒーア・フォン・ヒッター子爵。カステポー・ナイトギルド総評ってのが肩書だった。

 ダグラス・カイエンが何してるのかって調べたことがあるからヒッターの裏付けは取れてる。

 ねーさんの手前、運命の出会いってことにしておこう。

 ナイアスの背中を流した後、今度はローラがごしごし洗われる。

 

「ローラ、おっとさんとおっかさんに会いたくないのかい?」

「それは……」

 

 その問いに一瞬だけ詰まる。

 ずっと、今まで考えないようにしていたことだ。

 望んではいけないことなのだと、誰にも言ったこともない。口にしてはいけないと思っていた。

 モラード先生の前でも泣き言は言わないようにしてた。

 とーさんの顔と、懐かしいソアラの顔を思い浮かべる。

 かーさんに関しては、物心つく前にいなくなってしまった人なので顔すらわからない。

 

「会いたい」

 

 言葉にしたら泣いてしまう。弱気を誰にも見せたくなかった。

 モラード先生にもデコースにも明かしたことのない想いを初めて口にした。

 

「会いたい……よ」

 

 肩を震わせる。耐えていたものが零れだしてしまった。

 それを自分でも止めることができない。

 ナイアスがローラの肩を抱き寄せる。

 

「会えるさ。絶対ね。願うことを止めるな。前を歩いて邪魔する奴がいたらあたしがぶったぎってやるから」

 

 物騒な慰めの言葉にローラは頷く。

 落ち着くまでこうしていてほしい。顔をナイアスの胸に埋めてその怒涛の感情が過ぎ去るのを待った。

 

「──ソアラはいつもわたしの側にいてくれた。でも、酷いことばかり言った。お父さんにも……謝りたい。もう一度、家族になってほしいって、許してほしいって」

「許してるよ」

「何でわかるの?」

「わかる。あたしは許した。家族だから」

 

 ローラの濡れた髪をゆっくりとナイアスが梳く。

 

「ねーさんはなんでこんなに優しくしてくれるの。初めて会った時だって、わたしはお尋ね者で……」

「泥棒だった」

「違うけど、そうだった……」

 

 頭を突き合わせて、二人はくすりと笑いあう。

 あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。

 逃亡者となって、誰も信じられない中、唯一味方してくれたのがねーさんだ。

 

「理由なんてもうどうでもいいさ。あんたはここにいる。あたしもここにいる。今はそれだけだ」

「うん……」

 

 過去の過ちと向き合うこと。

 許されること。

 吐き出した想いと、受け止められる言葉。

 ありがとう──

 

「ねーさん……わたし」

 

 そのときだ。ガランと風呂場の戸が開け放たれる。

 頭に器用にタオルを巻いたリョウだった。

 

「へ?」

 

 何やってるんだおまいは?

 

「PIPOPURURU~(いい、湯だな~ アハーン)」

「おい、ロボ錆びるよ?」

「PIPIPU!(お、イイ女!)」

 

 素っ裸で立ち上がったナイアスにリョウのボルテージは急上昇。ランプを無駄にテカラせて興奮気味にターンを切る。

 それをナイアスが追いかける。

 

「わけわからん……」

 

 湯冷めしそうなので肩から湯船に浸かる。

 最後はねーさんがリョウからタオルを奪い取って出ていくのであった。

 おしまい(まるっとな)。


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