転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【22話】お披露目

 ふわ、ふ~

 あったかお日様が頭の上でじわりじわりとローラを照らす。

 ストローの先から虹色の珠が浮かんではまた風に流されていく。

 屋上の端でローラはシャボン玉を飛ばした。

 

「んがぁ……」

 

 足元のいびきはデコースだ。半袖短パン姿でだらしなく靴下も放り出している。

 さっき、暑いとか言って礼服も脱ぎ捨てていた。パンツを脱がなかっただけマシであろう。

 それは無視してローラは建物の向こう側にシャボン玉をまた飛ばす。どこまで飛ぶかだが風には勝てない。

 デコ助は最近寝てばかりいるなあ……

 昨日はナイアスねーさんと飲み比べをしたらしい。近くに寄ればかなりお酒臭い。早く寝たからどっちが勝ったかとかは知らない。

 

「オーライ、オーライ。ストーップ!」

 

 ここからドーリーからMHのパーツを上げる作業を見ることができる。指揮を執っているのはソープだ。

 シャボン液をかき回してストローにつけ、小粒の連弾シャボン玉ストロークを放つ。順番に弾ける虹色の破裂をこぎみよく眺めた。

 

「ふ~」

 

 よし、次はビッグモードだ。風の動きを見計らってプカーと特大シャボン玉を待機させる。

 

「きれいなシャボン玉だね」

 

 後ろから声をかけられ、プツン、と玉が落ちてデコースの鼻先で弾けた。

 

「むが……」

 

 起きたかと思ったが、ゴロリとまた横になる。

 声をかけてきたのはソープだ。もう終わったのだろうか。

 

「もう終わり?」

「まあね、隣いいかい?」

「どうぞ」

 

 横にどいて自分がいた場所を指す。そこを背もたれにして二人は並んだ。

 

「寝てるの、君の兄さんだよね……」

「そこのはお構いなく……」

 

 短パンで屋上で寝てるとか……かなり恥ずかしいと思うの! こっちは一応女の子なんだよ……

 しばしの沈黙。唇を湿らせローラは切り出す。

 

「この間の話の続きなんだけど」

「ん?」

「作りたいモーターヘッドがあるって言ったよね」

「ああ、うん」

「どんなモーターヘッド?」

「あー、一言では言い表せないかな……」

「誰かと約束したんでしょ。絶対に作るって」

「思えば、大変なことを引き受けちゃったよ」

「ラキシスと、でしょ?」

 

 窺うように見上げるローラの視線をソープは受け止める。

 

「参ったな。全部知ってるんだね」

「ちゃんと迎えに行ってね。だけどダメなんて絶対ダメ。ラキシスを泣かせないでね」

「そうだね……約束だから」

「これ」

「ん?」

 

 ローラが見せたのは小さな手鏡だ。それを屋上の欄干からつま先伸ばして頭上で振る。

 鏡は太陽光を反射して輝くと、対岸の建物の窓でキラリともう一つの鏡が光った。

 

「どうぞ。あっちだから」

 

 向こう側の建物を指さしてソープに鏡を渡す。

 

「何かあるのかな?」

 

 まじまじと眺めるがただの手鏡だ。

 

「さあね? ねえ」

 

 一歩下がって後ろ手に指を絡ませて問いかける。

 

「何だい?」

「わたし……アトロポスと約束したの」

「うん?」

「ファティマが悲しみで涙を流さなくていい未来を創るって。そんな世界にするって! 今は無理かもしれない。でも、変えてみせる。それがわたしの約束なの。誰が何と言おうが守らなきゃいけない約束なの」

「アトロポスか……」

 

 呟くソープの手をローラは一歩踏み出して握る。

 

「だから、だから。あなたもファティマを愛することを怖がらないで」

「ローラ……」

 

 その眼差しをソープは正面から受け止める。風が吹いて髪を揺らす。絡んだ指先が離れた。

 

「逃げたら絶対後悔するから」

 

 ローラは一回転して背を向ける。寝ぼけるデコースを起こそうと屈みこむ。

 

「それじゃあ、行くよ。ほら、おにー、いつまでも寝てると風邪引いちゃうよ」

「ああ?」

「起きろ~~」

「ぶえっくしゅ!」

 

 派手にデコースのくしゃみが鳴り響く。

 

「ほら、やっぱり風邪ひくよ?」

「お、そこのべっぴんさんはレディオス・ソープか? ウワサ以上の美形じゃねーか。ぬお」

「ほら、行くよ~~~」

「おい、引っ張るなって」

「服も拾ってっ!」

 

 デコースのベルトを掴んでローラは慌ただしく去っていく。

 

「行っちゃった……変わった兄妹だよね……」

 

 手元の鏡を見ながらソープは振り向く。眼下の建物を眺める。キラキラと窓辺に輝くものを見つける。

 誰かいる……? 

 

「お友だち? かな……」

 

 ソープは手元の鏡をそちらに向けた。鏡は対岸の鏡とシンクロして輝いた。

 

「あ!」

 

 その窓辺に立つ少女の姿は──栗色の髪の乙女はそこにいた。

 

「ソープ様?」

 

 大きく目を見開き少女はその姿を見つめ返す。

 

「ラキシス!」

 

 ほんの一瞬の邂逅──

 交わる視線──

 時間を超越した記憶の交差──

 それは"五つの星の物語"(The FiveStarStories)……

 永い物語を意味する"始まりのページ"であった。

 

 

 そして、わたしはトローラ・ロージンとしての物語を紡ぐ。

 

「エル、BB。最後の仕上げをしよう」

 

 夕刻過ぎに自分の部屋に戻って待っていた二人に声をかける。

 ナイアスねーさんは朝からどこかに行ってしまっていて今日は顔を見ていない。

 ちなみに、でれんでれんなデコ助はデコの部屋に捨て置いてきた。

 酔っぱらうともう駄々っ子なんだもん。酔っぱらいはめんどくさいよ。

 

「準備万端でーす。マスター、これはいつ公開するんです?」

 

 エルカセットが持つのは小型USBだ。これには情報やデータが何でも入る。

 ずいぶんと前からエルカセットには働いてもらっている。その総仕上げがそこに詰まっていた。

 

「それはBBに渡して。君は予定通りに動く」

「わかった。それだけでいい?」

 

 USBを受け取ったBBがそれを懐に収める。

 

「うん。わたしとエルは忙しいんだ。一番大事な役目だから任せるよ。ボード・ビュラードに渡して」

「わかった。任された」

 

 責任重大だと神妙な顔でBBは頷いてみせる。

 後はお披露目を待つのみ。明日、ラキシスの運命が決まる。

 今はお披露目の最中だからユーバーが手を出すことはない。

 でも、ラキシスがマスターを選ばずソープが迎えに来なかったらラキシスの運命は最悪のものになる。

 ソープが選択に迷ってもきっと守護霊のリトラーがいるから大丈夫……なはず?

 もし、ソープが決断しなかったら? 

 最悪、ラキシスを拉致して逃げる手はずも整えてある。本当に最終手段だ。

 深呼吸。

 もし、わたしに何かあっても保険は掛けてある。ビュラードが悪事をすべて明らかにするだろう。

 彼こそがこの十年行方不明のミッション・ルース大統領だ。民衆の味方。改革の先導者。

 ユーバーが生きていても彼が動く。悪い奴らはとっちめて大団円。それが最高のラストだ。

 

「PIPO~」

 

 くるくる回りながらリョウがやってくる。

 

「君は……明日はお留守番だな。あー、いや、今夜でもモラード先生のとこに帰りなさい。帰り道わかるよね?」

「PI!?(ふぁっ!?)」

「帰れ」

 

 一人だけのけ者にされてギュインギュインと拗ねながらリョウは隣の部屋に入って暴れだす。

 まったく子どもなんだから……

 リョウのことは放っておこう。自分のことは自分でやれるだろうし。

 明日のお披露目が生き残りのラストチャンスだ。今日は早く寝て明日に備えよう。

 そして、運命の日がやってくるのだった。

 

 

 会場には星団各国の王、貴族、騎士らがぞろりと居並ぶ。表では大勢の報道機関が詰めかけ、今か今かとお披露目開始を待っている。

 城のセキュリティ・チェックも相当厳しく張り詰めた空気が漂う。

 バランシェ・ファティマの新作公開日ともなれば、その期待感は時間と共に盛り上がっていく。

 以前参加したお披露目とは規模も名声も桁違いだ。前のお披露目だってここらじゃかなりでかいイベントだったんだけど……

 その中で、ローラはただその時を待つ。

 周りのどこを見てもソープの姿を見つけることができない。人があまりにも多すぎる。

 ちょっと、そこのおじさんどいてくれないかな?

 

「やあ、お嬢さん。はぐれたのかい?」

「へ?」

 

 振り向けば、かぼちゃ風な帽子が特徴的なグリーンカラーの衣装の美丈夫とクローソーがいた。

 その後ろには同じカラーのマイスナー女王とエルメラ王妃まで一緒だ。コーラス三世に近い人々勢ぞろいって感じ。

 一応、星団王家の主要メンバーの顔くらいは暗記している。自分が関わるかもしれない人々はもちろんチェック済。

 これだけ人が多いとまだまだだと思い知らされるのだけど。

 

「コーラス陛下?」

「そこでは観ずらいだろう。私たちの席に行かないか?」

「え、でも……」

「クローソーが寂しがっていてね。頼むよ」

 

 耳元で囁かれる。

 ぐぬぬ、なんて甘い言葉。このハンサムにそんな声で囁かれたら、コーラスファンの女性なら一瞬で落ちるであろう。たぶんだけど。

 

「可愛いお嬢さんね。コーラス、紹介してくださらない?」

「こちらは私の妻のエルメラだよ。ローラはモラードの一番弟子でね」

「まあ、年はいくつ?」

「に、二三になります……」

 

 なお、地球人年齢で言うと八歳くらいデス。

 エルメラ王妃、美人だなあ……ニコニコ笑って優しそう。

 わたしのお母さんはどんな感じなのだろうか?

 

「ローラさんね? うちのセイレイとそう変わらないのにマイトの卵なの? ご両親も鼻が高いでしょうね」

「はい……」

「君の先生のモラードは私の友人でね。何だかんだと言って、今まで弟子は取っていなかったのが、どういう風の吹き回しで弟子を迎えたのか興味があるね。それもゆっくりと聞かせてもらおうかな」

「こ、光栄です」

 

 ガチガチに緊張しているのが自分でもわかる。

 

「こっちよ」

 

 クローソーが手を差し出してローラに笑いかける。その手に引かれるまま、ローラは前の席に誘われていた。

 そして、お披露目が始まっていた。

 

「さあ、どうぞ。これが今回のファティマ。クローム・バランシェ公の最新作! ラキシスです!」

 

 幕が引かれ、照明の下に美しいファティマの姿が浮かび上がる。

 会場から感嘆の声が上がり、ざわめきに包まれる。

 ファティマは美しいものだ。それを知っている者たちでさえラキシスの美しさに声を上げずにいられない。

 なんと自然な──

 そう見える。すごくきれいだし。でも……かごの中の飛べない鳥だ。

 

「さて、お披露目の前に。今回の見届け人。トラン評議会のボード・ビュラード卿よりご挨拶を」

 

 背後に控えていたビュラードが前に出る。きっちりとタキシードに身を包んでいる。

 

「見届け人を任されたボード・ビュラードであります。星団法に基づき、今回のお披露目が公正に行われることを──」

 

 ビュラードがお披露目における決まり文句を口上する。

 

「ファティマは各王、騎士との謁見の後、本人の口より一名のマスターの名を口上すること。万が一、ファティマがマスターとなるべき良人を認められえぬ時は、この地に留まり、次の機会を待つこと!」

 

 トラン代表としているが、これだけ大勢いて当人がミッション・ルース大統領だと気が付かないのかちょっと不思議だ。

 確か、十年くらい放浪してるから忘れられてるだけだったりして……もっと頑張れ大統領~

 

「そして王、並びにファティマ所有の権利を持つ者たちよ。ファティマの口より言い出しマスターの名に関しては一切の発言を慎むべし! 以上!」

「それでは、始めましょうぞ!」

 

 宣言が終了し満面笑みのユーバーがお披露目開始を告げる。

 始まっちゃった。ソープ、早く来なさいよ……

 緊張で手に汗をかいている。こっから先は失敗は一つも許されない。 

 

「ソープ様、いない……」

「きっと、来る……」

「うん……」

 

 隣にいるクローソーの不安が伝わってくる。

 来なさいよバカ……不安にさせないでよ、主人公でしょ?

 焦る気持ちから会場の出入り口を何度も繰り返し見てしまう。

 

「クローソー、あれは本当に君の姉上なのかい?」

「はい」

 

 コラースの問いにクローソーは頷いてみせる。

 その言葉の意味とコーラスが感じたことは何となくだがわかる。普通のファティマにはないナニかを感じさせるものがある。

 それよりも、今は目の前のことに集中する。お披露目はクライマックスに向かいつつあった。

 

「──デルタ・ベルンのアマテラスです」

 

 真打ともいえる帝王の登場だ。

 見つめあう二人に会場はどよめきに包まれ、囁きが交わされる。

 アマテラス陛下でダメならお流れでしょうな──

 

「エル……プランBの準備……」

 

 ローラは仕込んである小型無線に囁く。

 

『了解です。マスター』

 

 アマテラスとの面会が終わる。そしてお披露目に参加したすべての権利者が下がった。

 太り四肢を揺らしながらユーバーが前に出る。

 

「さて、皆様、よろしいか? ボード卿! ファティマの声を」

「……ラキシス。マスターの名を」

 

 ビュラードがマイクをラキシスに向ける。

 ラキシスの一挙手一投足に注目が集まる。果たして、幸運な騎士は誰であろうか?

 答えは──その頭はゆっくりと横に振られるのだった。

 

「何と! マスターはおらぬか!」

 

 歓喜の混じったユーバーの声が響きドッと会場が沸いてそれを打ち消した。ざわめきは最高潮に達している。

 もうこっからはどうにでもなれだ。ローラは覚悟を決める。

 また指名手配になったら、先生ごめんなさい。

 

「ローラさん!?」

 

 クローソーの声を背に最前列に出た瞬間──

 

「すいません。前へ!」

 

 その声が会場に響いて……ローラは振り向く。そして主人公の姿を見つける。

 ヒヤヒヤしたじゃないっ!

 

「ごめん、エル。やっぱりAね」

『ラジャー!』

 

 人をかき分けまえに出たソープが壇上のラキシスを見つめる。

 そして──

 

「ラキシス! おいで!!」

 

 その言葉にラキシスが駆け寄る。

 

「マスターっ!!」

 

 愛しい人の胸元へ飛び込んだラキシスをソープは深く抱きしめる。

 

「おおっ!?」

 

 意外な人物の出現に会場の人々も驚きの顔になる。

 

「ば、バカな。ヘッドライナー以外の者にマスターなどと!」

 

 重なり合う二人にユーバーは驚愕を隠せない。その欲望と目論見がガラガラと崩れ落ちる瞬間であった。

 

「マスター。マスター……」

「ごめん、ラキシス。遅くなっちゃって」

  

 その時が来た。ローラも動く。

 

「やはり、あのファティマは狂っておったか! 捕まえいっ!」

 

 ビョイトの指示を受けた兵が連なって動き出す。

 

「逃げるよ、ラキシス。いいね?」

「はい!」

 

 駆けだす二人。

 

「皆さん、この二人を通してやってください! 道を開けて!」

 

 コーラスの通りの良い声が響いて人々が道を開ける。

 

「頑張れ、捕まるなよ!」

「お似合いだよ! お二人さん!」

 

 勢い、駆け落ちへの声援が飛ぶ。

 このようなイレギュラーは滅多にあるものではない。

 人々の予想を超えたお披露目での逃走劇など、後日の噂話におおいに花を添えることになるだろう。

 

「追え~~!」

 

 通路に出た二人の後を追う兵士らの前にローラが立つ。

 

「残念、さようなら!」

 

 クロスした腕を前に向けて解き放つ。その瞬間、衝撃が前列の男たちを吹き飛ばす。

 殺傷性を抑えた仁王剣(ショック・ブレード)だ。

 

「ええい! ローラ! またしても邪魔をするとは! 構わん! 排除せよ!」

 

 指揮するビョイトの怒り狂う指示で銃口がローラに向けられる。

 

「そんなの──」

 

 銃線の軌道は手に取るようにわかる。しかし、ローラや兵士たちより速く動く疾風があった。

 二陣の風が駆け抜けて、銃を構えた兵たちを一瞬で打ち倒す。

 そしてローラの前に女二人が立った。

 見上げるような長身。二人がまとった衣装が風を受けてたなびく。

 

「ね、ねーさん、と?」

 

 はたして、兵たちを薙ぎ倒したのはナイアスとノンナであった。

 ノンナの横顔にローラは過去の記憶を引っ張り出す。自分を追いかけていたあのときの騎士だ──

 

「シルチスの白騎士とルーン・ナイトだと!?」

 

 狼狽した顔でビョイトが呟く。

 

「おっと、こっから先は通行止めだ。他を当たんな」

 

 無手のナイアスが逆方向を指さす。

 困惑顔の兵士がおろおろとビョイトの背に隠れる。

 

「た、隊長。ほ、他をあたれってさ……」

「ええい! 撤退。いや! て、転進だ。向こうを回れ~~~!」

 

 顔面蒼白のままビョイトと兵士たちは後退していた。  

 

「えと、ありがと……」

 

 ローラは二人に向き直ってぺこりと頭を下げる。

 

「礼はいらないさ。ここももう引き時だな。トローラ・ロージン」

 

 やっぱり、あのときの人みたい。

 ねーさんの様子を見る。また喧嘩とかしたりしないよね?

 ナイアスの手が伸びてローラの頭を撫でる。

 

「ローラ。あのさ、あたし、国に戻ることにしたんだよね。だから、しばらくは会えなくなるかな」

 

 短い別れの言葉すぎるよ。

 

「また、会えるよね」

 

 ローラはぎゅっとナイアスに抱き着く。ほんわずかにその匂いを嗅いでから身を離す。

 時間がないのだ。

 

「ありがとう。わたし、やることがあるの」

「行きな」

「うん」

 

 ローラはその場を後にする。全速力でエルが待機する格納庫へと。

 そして残された二人の視線が絡み合った。お互い間合いの内にいる。

 

「さて、どうする? あのときのケリでもつけるかい? ノンナ・ストラウスさんよ」

「やりあう理由がない。お互い、同じものを守っている。今は休戦ということにしておこう」

「いいよ~ 法王様に首輪をつけられたんだね」

「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」

 

 見えない火花が一瞬散って、フン、と二人は顔を背けた。そして二人は逆方向へと歩き出すのだった。

 そして現場には、柱の陰にいた、出そびれた黒ずくめの大きな影と小さな影が残される。

 

「マスター……出そびれてしまいましたね」

「……帰るぞ、イエッタ。おやつにする」

「はい、マスター。新作のいちご大福と、豆大福もいっぱい買っておきました」

 

 そうして、謎の黒い二人も立ち去るのであった。  


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