転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【24話】決着 ザ・ブレイクダウン・タイフォーン!!

「ローラ! 二分だけくれてやる! 今すぐおにー様ごめんなさいしてお尻ペンペンされるか! 教育的指導(バトル)でお尻ぺンペンするかをよ!」

「どっちでもお尻ペンペンじゃない!」

「うるせー! ボクちんに逆らうんじゃね~~! 妹なら俺に従うのがどーりってもんだろーが! そこの変態(ロリータ)なんかに味方するんじゃねえ!」

「は、はい~~? それが理由なのね……」

 

 ピリピリ対峙する兄と妹をよそにナイト・オブ・ゴールドのコクピットでソープは頬をかく。

 

「変態(ロリータ)ってボクのことかなあ……」

 

 風が砂塵を巻きたてる。仁王立ちするデコースのデボンシャ。

 しかし、ローラももはや引くには引けないのだ。

 そしてファティマ・ルームでエルカセットがひたすら計算しまくっていた。

 だめ!(〇.一三七秒)

 だめっ!(〇.三〇五秒)

 だめです!(〇.四ニ九秒)

 もっとだめ~~!(〇.六〇〇秒)

 ああ、これもだめです!(〇.七六三秒)

 ちっちゃいマスターがデコース・ワイズメルに勝つなんて出来っこありません!

 でも、マスターが負けるだなんてゼッタイダメ!

 毎秒三六兆五千億回戦闘エミュレートしても勝率は〇.一%以下!

 そのわずかな運をたった一回で引き当てるなんて完全に不可能!

 マスターの将来を……私(ファティマ)たちの希望をここで潰すなんてさせません!

 ……いえ、あった……たったひとつ、あの禁じ手が!

 

「マスター、ごめんなさい!」

「はい?」 

「モーションサンプリング再設定します! コントロールを私に!」

「うん? いいけど……」

「ごめんなさい……」

「何で謝るの?」

「この子のパワーを一時的に上げて勝率を上げます! とてもコントロールしにくくなってしまいます。でも、マスターには絶対死んでほしくないから! 私、マスターを信じます!」

「え? 何? 何するの?」

 

 ローラはコクピットの制御盤に手を触れるがまったく反応がない。エルカセットに全権を取られている。

 ああ、仕方ないよね……

 こんな新米マスターじゃ信用できるわけない。

 MH乗るの実質二回目でこれで戦うなんてまったく思っていなかった。

 もっと沢山乗って練習すれば良かったんだ。デコ兄とやりあうんだから。

 これも運のおさめどきと諦めるか……

 ダメだ、ここで諦めるなんてしちゃいけない。まだやれることがあるはず……

 ローラは意識を集中する。それは指先から伝わって外への知覚となって広がっていく。

 肌がピリピリとした感覚に包まれる。ほんのわずかでもデコースの動きを捉えようと自らの感覚が最大にまで高まっているのを感じる。

 生体コントロールの技は、マイトがその力を医療に役立てる力として備わっているものだ。

 それを磨き上げることで、患者の脈拍や鼓動、体内の異常を感じ取ることができる。熟練すれば、見ただけで患者の具合さえ測ることができた。

 その力を騎士の感覚増大に向ければ、生命の動きを波形のような感覚で捉え、相手の次の動きを察知することができる。

 初の実戦後の病院でローラがBBの居場所を見つけたようにだ。

 バルンシャのエンジン音が切り替わる。明らかに異様な高まりと小刻みな振動が伝わってくる。

 

「お友達の京ちゃんから教わった技でマスターを勝たせてみせます!」

「はえ?」

 

 バルンシャの頭脳とシンクロしたエルカセットがエンジン・チューニングを目いっぱい引き上げる。

 エンジンから生み出されたエネルギーがファンクションタービンから絞り出されて各動力に伝達される。

 

「にゃ~~~!? あばばばばっ!?」

 

 ドン! と大きな揺れがローラの三半規管を揺さぶる。ただでさえ高まっていた感覚が敏感に刺激されてすさまじい酩酊感に襲われる。

 脈動上昇による揺れが激しく襲い掛かってくる。

 

「おえ……き、きもひわるい……」

 

 MHの操縦どころではない。のたうち回りたいほど頭の中がグルグル回っている。

 

「ま、マスター?」

 

 聞こえているが応えられる状況じゃない。

 

「どどど~~~~~!」 

 

 ありとあらゆる感覚がごちゃ混ぜになって襲い掛かってくるのだ。完全にパニック状態。

 外ではデコースのお仕置きカウントダウンが始まる。

 その時だ──まるで時間が止まったかのような感覚に包まれる。

 そして不思議な声をローラは聞く。深みのある静かな男性の声だ。

 

【その力はルシェミ。生命の根源に連なる力。今は失われしもの──】

(だ、誰?)

 

 その瞬間、周りの音はシャットダウンされていた。

 どこまでも広がる色のない無音の世界が広がっている。まるで時間の流れさえもそこにはないかのようだ。

 頭の中に響く声に聞き覚えはない。

 

(誰なの?)

【暇つぶしの見物人さ。さすがに見てられないものでね】

 

 ダイバーパワーによる念話。MHのコクピット・シェルは生半可なダイバーパワーを通さないはずだが、この念話の持ち主は相当な力の持ち主であることは確かだ。

 

【エンジンの鼓動と心をシンクロさせなさい。君とロボットを一つにするんだ──】

(一つ?)

【言うなればロボットも疑似生命体に過ぎない。その命と精神を繋げることは可能なはず】

(そんなことできるなんて……)

【人はいつもそうやって自らの可能性を疑問視するものだよ。前に進む者だけが生きる権利を勝ち取るのだ】

 

 その言葉は冷淡で突き放すものだ。だが、同時に試されているという気持ちに揺さぶられる。

 エンジンの震え──脈動が波打つのを感じ取る。

 ドクン……

 ドクン──

 自分の心臓とその音が重なり合う。そのうねるような音の中をかきわけるように意識が核に結び付く。

 意識が明瞭になる。震える胸の鼓動がエンジンとシンクロする。

 めまいも気持ち悪さも吹っ飛んでいた。今やローラはMHと一体化していた。

 この滅茶苦茶な状況なのにMHをどう動かせばいいのかを本能で理解する。考えるよりも先に体が動く。 

 その瞬間から時は加速して動き始める。

 

「カウントゼロだ~~! おら~~!」

 

 デコースのデボンシャが駆ける。

 ローラはその動きをまるでスローモーションのように感じる。

 迎え撃つ軌道を予測して一歩踏み出す。その機のタイミングをはっきりと理解していた。

 だが、その一体感はほんの数秒のことだった。

 

「あれ?」

 

 デボンシャを迎え撃つバルンシャの軌道がわずかに歪む。

 次の瞬間見えたのは地面だ。操縦のコントロールを失い、すぐ目の前に地面を見た。

 ぶつかる──

 それから無意識に体が動いていた。自分がナニをしたのかも自覚しないままに。

 

「にゃんだと~~!?」

 

 デコースが叫ぶ。

 台地が爆発するように大量の砂を巻き上げる。それは竜巻となってデボンシャへと襲い掛かった。

 その本流の中にピンクのバルンシャがある。きりもみするように真っすぐデボンシャへと突っ込んでいく。

 超高速で振動しながら残像と分身を繰り返す。光速に近い超音速の突撃だ。巻き起こったソニックブームがすべてを吹き飛ばす。

 

「どっせぇ~~~~~!!」

 

 その範囲から逃れるのではなく突っ込むようにデボンシャが跳び、光剣が回転するバルンシャの腕を正確に切り落とす。

 ソニックブームの乱気流を逆利用した突撃の技だ。

 腕を失ったバルンシャに抱き着くと軌道を変え、デボンシャは大地を蹴る。その脚部は一瞬で粉砕され、少し勢いを落としてきりもみになりながら二騎のMHが大地を削っていく。

 

「ぎゃ~~っす!」

 

 バルンシャを抱えていたデボンシャの腕が摩擦と破壊的打撃で砕け散る。もぎ取れた腕が空に舞った。

 ようやく勢いを止めた二騎のMHから激しい熱が放出されて、あたり一面を蒸気で真っ白に染め上げた。

 溶けた装甲が関節部と融合しいびつな形に折り曲がっている。

 

「ち、ちびるぜ……おぇぇ~~」

 

 げんなり顔のデコースが突っ伏す。

 バルンシャの中の二人は完全に気を失っている。

 戦いの様子を見守っていたラキシスが安堵の息を漏らした。

 

「どうやら決着がついたようだね」

「マスター、こうなるとわかってらしたんですね?」

「まあね。兄妹喧嘩だし。ちょっと派手すぎるけど」

 

 コクピットでソープがくすりと笑う。

 そして──ユーバーは意識を取り戻した。先ほどからエア・ドーリーからの回線が主に呼びかけを行っていたのだ。

 ヘルマイネを立ち起こせず、ユーバーは怒りをコンソール画面に叩き付ける。

 

「奴め」

 

 モニタに映ったナイト・オブ・ゴールドの姿を見て、ユーバーの血走った目に狂気が浮かぶ。

 

「デコースの馬鹿者め……裏切者ばかりだ。わしだ。聞こえておるか! あの化け物ごとバスター砲で吹き飛ばせ!」

『危険です。近すぎます! 部隊の回収を!』

「つべこべ言うな! あの怪物はバスター砲以外で倒せるか!」

『りょ、了解!』

 

 エア・ドーリーに積まれた砲台が照準をナイト・オブ・ゴールドに定める。

 

「マスター、バスターロックです」

「なあに、こっちにだってあるさ」

 

 ナイト・オブ・ゴールドが背負った武装を解除する。

 半折れのバスターランチャー。通常ならそんな運用をするMHは存在しない。

 その足元では焦るバギィがバルンシャのコクピットからジィッドを引っ張り出す。

 

「げげ、なんちゅーこっちゃ。ジィッド、しっかりしろー!」

 

 真後ろにはバスターロックな赤いドーリー。背後には黄金のMH。そいつがバスターランチャーを構えている。

 

「おぼぉ……ゲフ。あのやろ~~~」

 

 意識を取り戻したがすぐに動けないジィッドを肩から抱えてバギィはひたすら走る。

 

「やべえなんてもんじゃねえっ! とんだビンボーくじ引いちまったぜ!」

「くそ! あんにゃろ~~ まだ勝負は終わっちゃいないぜ!」

「じたばたすんじゃねえ! このバカタレが!」

 

 放出された過電圧の電流がナイト・オブ・ゴールドの周りで弾ける。それは黄金の装甲をさらに光り輝かせる。

 バギィは走る。神の怒りによって滅ぼされたというソドムとゴモラから逃げるようにわき目も振らずに一心に走った。

 

「当たれぇ!」

「バスター砲だとぉ!?」

 

 バスターロックより早く撃ち出されたエネルギーがすべてを明るく照らし出す。

 それは驚愕のユーバーを飲み込み、エア・ドーリーを真っ白に染め上げる。

 

「どひゃあ!?」

 

 二人が岩陰に飛び込むと同時に巻き起こった爆風が頭上を通過して、その衝撃でさらに吹き飛ばされる。

 すべてを消滅させるバスター砲のエネルギーが収束して円形状のドームのように大地を覆った。

 その様は遠くバストーニュからも見ることができた。ありとあらゆる人々がその光を見た。

 ユーバーを滅ぼした神の光を。

 すべてが原子ごと分解され無に帰る。そして宇宙の爆発のごときエネルギーは亜空間を突き破り吸い込まれて消えていく。

 すべてのできごとを眺めていたのは神のみではない。空に浮かぶ二つの影があらましを見届けていた。

 それは一組の美しい男女だ。

 パラ・ギルドの紋章付きのゆったりとした服を着た若い女と、同じく若いが古代のデルタ・ベルンの和服に身を包んだ男だ。

 

「どうやら一件落着のようだね。御大自ら手を下すとはよほどのことだ。ラキシス、運命の糸をその手に取るか」

 

 男が扇子を広げてその端麗な顔を隠す。

 

「東(あがり)、見ているだけって約束破ったわね」

「私は約束なんてしていない。リンス、君だって黙ってあっちで留守番していられなくて来た口じゃないか?」

 

 リンスと呼ばれた女が顔を上げる。その面差しはどこかクローソーにも似ている。

 

「私は……ソープがリトラーから巣立つのを見届けに来ただけよ。あの女の子に助言したでしょ?」

 

 リンスはデコースを前にしたローラに東が助言をしたことを見抜いていた。

 

「デコース・ワイズメルの妹。面白いね。私としてはデコースを見に来ただけだったんだが、思わぬ拾い物をしたかもしれない。ん?」

「リトラー……」

 

 二人の前に高次元霊であるリトラーの姿が浮かび上がる。

 

『別れは済ませました。あなたたちともこれでお別れです。さようなら……』

 

 その言葉だけ残してリトラーは消えていく。

 

「では私も消えよう。後始末は任せるよ」

「もう、東ったら。いつもそうなんだから。でも、よかったわね、ソープ」

 

 東の後を追ってリンスも立ち去るのだった。

 

「マスター、船です!」

 

 ナイト・オブ・ゴールドで寄り添うアマテラスになったソープとラキシスの元へ迎えのベル・クレールが到着する。

 

こうしてラキシスはアマテラスの元へ嫁いだ。

星団歴二九八八年のことである。

この年を境にアマテラスは守護神リトラーと別れ、光の神として独り立ちを始める。

それは全星団を巻き込む悲しい運命の始まりでもあった……

そして、このファイブスター・ストーリーズという神話のオープニングでもある。

恐るべき力を持つ運命の三女神の話はまだ続くのであるが……

 

 

「くぉら、ローラ! あっぶねえじゃねえか! ありゃ、おめー。ブレイクダウン・タイフォーンだっちゅうの! ボクじゃなきゃ死んでたぞ~~~!! お尻ペンペンだぁ~~~!」

「いた! 痛い! 謝るから! ごめんなさい!」

 

 溶解したコクピットをこじ開けたデコースがローラを出して現在おしおきモードだ。

 ローラのお尻は真っ赤に腫れ上がる。

 バシンバシンとお尻を打つ音が響くたびにエルカセットがおろおろとする。

 

「あうう。マスターを苛めないでください~~」

「そこのファチマも反省しやがれ! あんなあぶねー技使いやがって! 次使うときは完全にマスターさせろ! お前らわかったか!」

「わ、わかった……」

「ひゃ、ひゃい!」

「よーし……」

 

 長い折檻が終わってローラのお尻はヒリヒリ痛い。

 

「じゃあ、ボクはずらかるぜ~~ 豚公がやらかしてるから指名手配くらいかかってるだろうしな」

「おにい……行っちゃうの?」

 

 ローラの頭に大きな手が乗せられる。

 お父さんみたいに大きな手だ。こうされるのはたぶん初めてだ。

 

「おりゃー、一つのとこにじっとしてらんねえ質なんだよ。それにめんどー見てやらねえといけねえ連中もいるしよ。カステポーに帰るさ」

「うん……」

「お前は」

「ん?」

「お前の道を行きな。みじんこで埋め尽くす世の中とか笑えるしよ。じゃーなー」

 

 ポケットに手を突っ込みデコースは背中を向ける。その先に土埃にまみれたバギィとジィッドがいる。

 オレンジ頭が中指を立てる。なんでお前はドヤ顔なんだよ。

 こいつも全然反省してないな……

 

「バーカ」

 

 同じくやり返す。三人はまだ稼働するバルンシャに乗り込むといずこかへと去っていった。

 残されたのは壊れて動かないデボンシャとバルンシャ。エルカセットの二人だけ。

 

「マスター。やっぱり、マスターは私が信じた通りすごい人でした!」

 

 抱き着かれる。まったく、あんなことするなんてほんとにとんでもない子だ。  

 

「で、誰から教わったって?」

 

 ジト目でエルを見る。

 

「え、ええと…… あ、マスター!」

「ごまかした」

「違いますぅ~~~ リョウちゃーん!」

「はい?」

 

 かげろうかと思ったが半ば破壊された街道の向こうに二つの影が揺らぐ。

 

「あれ、BB?」

 

 リョウのランプが点滅してアームが手を振るように振られる。その隣にいる禿げ頭の巨漢はBBであった。

 

「ローラ!」

「PIPOPIPO~(おーい、みんな~)」

 

 その声にエルカセットの手を取る。

 

「行こう。んで、帰ろう。私たちの家に!」

「はい、マスター」

 

 二人の元へ駆け寄って再会を果たす。

 

「あれ、ベトルカはこっちで合ってるよね? モラード先生、怒ってるかなぁ……」

 

 夕焼けに四つの影が伸びてローラは歩き出す。懐かしい我が家に向かって── 


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