転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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二部一章 ジュノーの戦い(2989)
【1話】開幕


 星団歴二九八九年某日──季節は春から夏へ移ろいを迎えようとしている。

 アドラー──シュリーズ共和国の首都ダルメクスタンは学術都市とも呼ばれている。政治家や学者を輩出することで知られていて多くの学院が存在する。

 その中でもひときわ名高いのがバルチック・アカデミーと呼ばれる機関だ。数多くの学徒らがアカデミーに集い日々を研鑽に勤しんでいる。

 そんな探究の世界も、息抜きに街に出れば開放された雰囲気に包まれてのんびりとカフェで一杯となる。

 洒落た喫茶店の表のテーブルに陣取るのは一人の銀髪の少女だ。年の頃は地球年齢で言うと八~九歳児ほど。

 こんなところを保護者同伴なしで歩いてたら職質されてしまうが肩に羽織る紫のマントを見ればたいがいはスルーであった。

 他のアカデミーのマントを着た姿もある。周りを見れば学徒の姿をどこでも見ることができた。

 ここらではバルチック・アカデミーが一番である。

 昼下がりののんびりした空気はひたすら眠気を誘う空気。

 ローラはふわぁ……とあくびをしてからぼやく。

 

「どいつもこいつも言うこと全部同じ。のーみそ凍り付いてるのかしらん」

 

 ふくれっ面をしながらフルーツ満載のパフェを口に運ぶ。お小遣い二日分の奮発だがこれくらい発散しないとやっていられない。

 そう、ローラちゃんは今日は大変ご立腹なのだ。誰が聞いているわけでもない独り言をぐちる。

 

「あの人たち……すばらしー、さすがはアカデミーの宝ですな、なんて言った後に、だが、いや、しかし! 博士の研究は実に斬新ですがうちの設計プランには壮大でして、これがかかりますのや。うちの売りは安くて、早くて、うまいがモットーでして」

 

 マネー、マネーと親指でわっかを作る。

 

「吉野家か!」

 

 テーブルをドン! と叩いた。飛び上がったスプーンがグラスの中でカランと音を立てる。

 騎士のパワーで殴ったらテーブルなんて真っ二つであるが、生体コントロールで普段の力はふつうの大人三人分くらいまで抑えているのでかなり控えめである。

 

「ひゃんっ!?」

「あ……すいません……」

 

 通りすがりのびっくりしたおばさんに謝って肩をすぼめる。

 張り切ってプラント工場での研修講義という名目で自分の理論を経営陣にアピールしに行ったのだ。

 その対応は無礼ではないもののかなり慇懃に遠回しに拒否された。

 今日訪問したエトラムルの生産プラントはアドラー第二位の企業が出資している。かなりの有望株であったから期待したのだがまったくの空振りであった。

 ローラが持ち込んだエトラムル設計理論などまったく見向きもされなかった。

 理論の実現への投資には莫大な資金がかかる。それをする財源がある企業は限られたものとなる。

 それには理解が欠かせないのだが、利益重視体質の経営陣ははなから耳を傾けようとしなかったのだ。

 エトラムル・ファティマの市場は完成されていて、ファティマ経済需要においては人型ファティマの産業とは競合することがない。

 企業はファティマに近づいたエトラムル・ファティマなど求めていない。

 ローラの盛り込んだ理論は市場原理を混乱させるものでしかないのだ。 

 そういった既得損益と利益の天秤にかければローラの理論は経営陣を当惑させるものでしかなかった。

 売り込む相手を間違えていた。かと言って他に当てがあるわけもない。

 モラード先生くらい有名なら話は別だけど、師のすねをかじって仕事にありつくなどモンスター・ペアレンツすぎて矜持に関わる。

 こうなっては意地でも自立しないとと焦りの気持ちははやるばかりだ。

 

「そりゃ、初期投資にお金がかかるよ。でも、一からニューロンを構築して学習能力を飛躍的に上げるだけでもかなりの改善ができるのに、あいつらってば目先の金だけじゃん。別に話したり、動き回ったりするわけじゃないのにさ」 

『そーねー』

 

 端末の向こうでてきとーに返事を返すのはナイアスだ。

 

「想像よりもだいぶキビシーデスよ……でもお金ないとなんもできないよねえ……」

 

 地面に届かぬ足をブラブラさせながら、思考をふわふわと構築したばかりの理論に漂わせ現実逃避する。 

 

『そんじゃーさ、遊びに行こうぜ。ぱっと気晴らしにソラでも上がって泳ぐに限る』

「ハハ、ソラって宇宙って書いてソラ?」

 

 ローラは青いお空を指さす。雲一つない。まさにこのままソラの旅に出てみたい。

 

『そーよ。アタシもヤボヨーがあって結構あちこち行くし、あんたも乗っけてやるよ』

「え? ホント? マジで言ってる?」

『辛気クセー禿のツラばっか見てると腐っちまうよ。マジだよマジ。三秒で決めな』

「行く!」

 

 即答で決める。

 今日のプラント訪問も実は乗り気ではなかった。本命外にも何件か当たったが回答はみんな似たり寄ったりだ。

 連中は冒険するつもりなし! だったら、わたしは冒険してやる。ちょっとヤケだけど。

 クサクサしたこんな気分ともおさらばできるのならどこだって行く。

 

「でも、ねーさんもお仕事あるんじゃないの?」

 

 お披露目で別れてからナイアスねーさんはフィルモアに戻ったみたいだけど、シルチスのどの騎士団にいるのかはまだ教えてもらってない。

 あのときは白騎士の格好だった。白グループといえば皇帝騎士団のはずだ。 

 

『うちの新人を勧誘しに行くのさ。腕も確かめついでさ。目星付けてるのがみんなソラの上ってわけ』

「団長さんなのに?」

『団長さんだからさ。自分の目しかあたしは信じないからね』

「ふーん……」

『そんじゃ決まり! あんたがいる方が楽しい』

「わたしも!」

 

 話を終えて予定を端末に入力して立ち上がる。足元に置いといたボールを拾ってスイッチを入れる。

 これはボールではありません。HALO零号機。現在特許出願中である。

 HALOと書いてハロ。ガンダムネタでてきとーにスケッチしたらエルカセットがひな型を作り上げた。

 研究所での最初の作品がコレなわけ。

 ハロはピョンと手の平から飛び上がると、重力に逆らって空中を弾みながらローラを認識する。

 

「ヨ! ヨ! オハヨ! ローラ、オハヨ!」

「もー夕方だよ。ラボに帰る」

「ヤダ! モットアソボ! ナンパ、シヨウゼ!」

「お茶してお金払うのわたしなんですけど……一日のお小遣いは二フェザーって決まってるの」

 

 ハロは回転しながら重力制御を真上に展開した耳部分(二つ)で行っている。

 これには高度な技術は使ってない。ドローンの技術応用で作られたものだ。

 重力制御装置はエルカセットのアイデア。

 表面の金属っぽいのは緩衝素材と金属を混ぜた合成素材で作られている。人にぶつかっても怪我をしにくい設計だ。

 コントロールを行っているのはエトラムルのリョウだ。

 リョウ本体は研究所のわたしのラボにいる。エルカセットがボディをメンテナンス中なのでお留守番だ。

 遠隔操作で音声変換装置を備えるので騎士とのコミュツールとしての運用を考える。

 といっても元々の考えにはなかった代物なわけで、何となく書いたものがすぐに実現できてしまうジョーカーの技術であった。

 

「オ! カワイコチャンハッケン! カワイコチャンハッケン! ヘロー」

「お黙り」

 

 通りがかりのキレイなおねーさんによそ見するハロを抱えてローラは研究所がある方に向かって歩き出す。

 ラボでお泊りなんて珍しくもない。古参などアカデミーから一〇年くらい一歩も表に出ないようなツワモノもいるし、そこで仕事を受注している職人気質の研究者も多い。

 変わり者が多いし、世間ずれした人たちだけどわりと相性は良い方だ。

 みんな親切だし、ちっちゃい女の子なんて大学から来たひよこ研修生にもいない。

 でも、わたしの論文を読んだ若い子(学生さんだと思う……)が来て握手を求められたときは驚いた。

 その後も同じようなことあったし。結構それに励まされたりもした。

 アカデミーに来て二か月目。現在、スポンサー探しがわたしの仕事となっているが営業できないのが難点かもしれない。

 造り笑顔とかゴマすり苦手……トホホだよ。

 アカデミーの門を抜けて研究所がある建物に入った。警備は厳重でアリの子一つ入れない(らしい)。

 

 ローラは知らずだが、その後を追う男たちがいた。何人もの黒服サングラスの男たちがアカデミー前で張り込むように立っている。

 そしてもう一人、遠く離れた丘の上からアカデミーを見下ろす位置に白いオープンカーがある。

 そこに一人の女がいた。

 機械的な服装は前時代的なファッションスタイルを強調するもので、メタリックシルバーが金属的に光を照り返す。 

 帽子のように見えるかぶりものもいくつものチューブが繋がり服と一体化している。

 細身に見えるが服の下の筋肉は鍛えられ引き締まっている。

 

「トローラ・ロージン。時代はお前を求めている。いや、私がか……こちら”ワルサー1”。諸君、これより”解禁”の時間だ! ”獲物”を確保せよ」

 

 無線にそう告げると女はエンジンを吹かしてディグが動き出す。

 そしてローラの運命も新たに走り出していた──

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