転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【2話】ローラ争奪戦

 宇宙港(エア・ポート)──現在、宇宙(そら)への入り口にローラはいる。

 半ズボンにシャツというラフな出で立ちで小さなリュックを背負う。髪はめんどいので後ろで一まとめにしている。

 その姿から旅行者という雰囲気はない。たまたま遠足気分でやってきたという感じだ。

 空の上のステーションへ上がるエア・バスを停留所で待っているのだがしばらくはやってきそうにない。

 エルカセットたちとは軌道ステーションで再会予定デス。あの子、ファティマだからこういう公共の場で連れてるのは不味いんだ。

 必要な荷物なんやらはエルカセットがリョウと一緒に先に運び込んでいる。ローラの連れは足元に置いたハロだけ。

 

「後、ニ〇分は来ないか……」

 

 時刻表を確認してローラはベンチに座ると、退屈しのぎに端末を取り出して遊びだす。

 ハロの起動スイッチが入ってポンと軽く跳ね上がる。

 

「ハロ、ハロー」

 

 端末と連動させてラジコン気分で動かせるようにしてある。これくらいの改造はわたしでも簡単にできる。

 リョウとのリンクは今は切ってある。内蔵の思考AIはこのサイズであればその程度というほどしかなく、小型パソコンくらいには役に立つかもというレベルだ。

 AIの基本部分はリョウで構成しているので、独立したミニサイズのおバカなリョウだと思えばいい。

 なお、演算とか難しいことは市販の電卓レベルなので期待してはいけません。本物のファティマの頭脳と、それを生かす機器あってこそ真価を発揮できるのです。

 このモードで画像や映像を蓄積し、本体へアップロードすれば学習にも役立つかもと連れまわしている。 

 学習用ロボットで似たようなのがすでに特許で取られているから、商品として扱うにはもう一つ上手い売り込み方法が必要ではある。

 なーんて、お金のことは今は考えたくないのになぁ……

 

「ぐりん、ぐりん」

 

 ハロが操作に合わせてポンポン跳ねる。自動バランサーで障害物はきっちり避ける仕様だ。

 ちなみにオートにしとけば勝手については来る。

 背後からの興味深げな視線に気が付く。待合の椅子にはローラの他に一人しかいなかった。

 こっちをジーット見ているのがわかる。その子は何というか……ちょっと変わっている。

 ツインに分けた髪をぐるっと巻いて巻いて垂らしているものだから髪のボリュームが半端ない。もしかして盛ってるのかしらんとローラは手を止めて見返す。

 来ている衣装も和風……いや中華っぽいドレス? うーん、髪はどっからか付け足してるのん?

 ローラの視線にその少女がにっこりと笑い返した。

 

「あはは、こんちはー」

 

 アジア系の文句のつけようもないくらいの美少女で、年頃はローラとそう変わらない気がする。

 

「お主、一人か?」

「そう」

「ふうん? 今日は良い天気じゃの。どこへ行くのじゃ?」

「えー、どこかなあ? まだ聞いてないや」

「どこへ行くのかもわからぬ旅かや。面白そうじゃの」

 

 この子、独特な話し方するなぁ……まあ、何となくだけど、ふつーの人々じゃないよね? どっかの貴族とか王族さんなの?

 

「わらわはボォスに行くつもりだ」

「へえ、観光とか?」

「それが営業なのじゃ~ 新たな発注で大忙しなのじゃ~」

「営業……って何の?」

「新商品の開発が上手くいってのー。お得意様からの接待があるのじゃ~ しかし、新しく衣装を下ろすにも金がかかって敵わぬ。一張羅で頑張るにもシアン夫人の助けがいるくらいでの」

「さりげなく高級ブランド名出してますね」

 

 近頃のジョーカーは未成年労働に関して寛容なのか、この子が特殊なのか……

 自分も似たようなものだけど、と心の中で付け加える。

  

「宇宙の旅はいいのう。いつも上にあがるときはこうドキドキする」

「そうだねー」

 

 ドキドキっていうか、わたしの場合、あまりいい思い出ないんですけど……

 追っ手を逃れてボォスに向かう船に密航したり。さらに逃げてユーバーの船でこっちまで来たりと逃げてばかりのイメージががが。

 この旅もねーさんに誘われなかったら今頃暴れてたかも。

 

「ところでそれは何じゃ?」

 

 じゃーじゃー少女がローラの足元のリョウを指さす。

 語尾に「じゃ」を付けてるからじゃーじゃー少女と呼ぶことにしよう。

 だって、まだ名前聞いてないしね。

 

「ハロっ! ハロっ!! オジョーサン、コンニチハ!」

 

 ポンっと跳ね上がったハロがカメラアイでじゃーじゃー少女を撮る。

 リョウに感化されてか端末AIにもしっかり性格は受け継がれている。

 なお、これまで撮った画像はローラの姿が一番多かったりするのだが……そのたびに削除してやる。

 

「これはどこの新作かや?」

 

 興味津々といった風にじゃーじゃー少女がハロと睨めっこする。

 

「まだ開発中なの。ハロっていうんだ」

「お主が作ったのか?」

「まあ、基本設計はね……」

 

 後はエルが勝手に作ったんだけど、商品化は程遠い。デザイン的に女性には受けそうではある。

 今はリョウの端末デバイスに過ぎないし、ペット的玩具にするのであれば、単一AIとしての機能しか持たせられない。

 あくまでも、リョウの拡張インターフェースなのだ。 

 

「お主はハロか?」

「オレ、ハロ! ハンサムネーム!」

「ほう、ハロというのか」

 

 ローラはそっちのけでじゃーじゃー少女はハロと対話を始める。彼女の対応はハロに任せることにする。

 エア・バスを待ちながらローラはエア・ポート案内の栞を開いて眺めるふりをする。

 ほどなくして案内電子板に到着まで二分の掲示が出る。 

 

「来たようじゃ。ハロは返すぞ」

「うん」

 

 降りてくるエア・バスが見える。普段使ってるバスにもいろいろな形があるんだけど、ステーションに行くのは流線型の平べったい大気圏も飛べる宇宙船でもある。

 バス停上から垂直に降りてきて停まるとプシューっと扉が開いた。

 

「あれ……誰も下りないの?」

 

 乗る前に誰か降りるかと思ったら、数人が降りただけ。まだ乗ってるよね、と中を確認する。

 どうやらまだ中にいるようだが折り返し乗車したままらしい。

 ふつーは降りるんじゃ……とローラは首を傾げるのであった。

 

「お主、乗らぬのか?」

「えーと」

「お客さん、早く乗ってくださいよぉ。時間ないんでね」

 

 ごっつい強面の運転手がギロリとこっちを見る。

 おわ、でかい……何だか怖い人がいるよ~

 

「すいませんっ! すぐ乗りますう~~!」

 

 ハロを抱えてじゃーじゃー少女と一緒に乗り込む。扉は閉まってすぐに走り出していた。

 えー、何ですかこの違和感は……ひしひしと張り詰めた殺気っぽいのを感じるんですが……

 

「こ奴らはお主の知り合いか……」

 

 座席を前に、ぼそっとじゃーじゃー少女がローラへ耳打ちする。

 

「いーえ、ゼンゼン」

 

 緊張で喉が渇く。だってさ、このバス……なんかおかしいよ~~~!

 全身黒づくめスーツにサングラスの男たちがずらりんと座り、一斉にローラたちを見るのだった。

 眼光は鋭く、ギランとつやびやかな黒靴を光らせ、葉巻でも咥えれば完璧という出で立ち。

 そんなのが十数人もいるとかどうなってるの?

 さっき降りなかった人たちっぽい……

 ヤクザさんの集団旅行なのかしらん? とそのままuターンしたい気持ちになるものの、すでにバスは空の旅だ。

 

「そこ、空いてるから座ろう~~」

「うむ」

 

 後ろの方の空いてる席二つに座って絡みつく視線から逃れる。肩身が狭すぎて困る。

 明らかにこっち意識しすぎでしょ~~! この人たち何なの~~!?

 パンフで顔を隠しながら黒ずくめの男たちの様子を見る。全員体格が良いし、油断がない。

 やっぱり、こいつら騎士だ……

 

「どうやらVIPはお主じゃのー。もてもてじゃー」

「こういうのはもてもて言わんでしょ……」

 

 心当たりは……じぇんじぇんありません。マジです。たまたまどっかの騎士団さんと遭遇したとかそういう偶然だと思うことにする。 

 シートベルトを付けて備える。エア・バスが大気圏を抜ける。ステーションまではそれほどかからない。

 宇宙空間に出てから見上げればステーションのイン・ポート部分がぽっかり開いているのが見える。そこからドッキングして出国手続きを済ませる。

 とりあえず、降りるとこまでは順調だ……

 バスから男たちが降りていく。全員いなくなるのを待ってからローラたちはその後に続いた。 

 

「なじぇ……ついてくるの……」

 

 二人の後を黒スーツたちがぞろぞろと付いてくる。出国手続きの所まではわかるんだけど…… 

 

「すいませーん。トローラ・ロージン様でしょうかぁ……」

「は、はい?」

 

 ゲートを抜けようとしたら青い港湾局の服を着た男に呼び止められた。ひょろ長い瘦せっぽちな局員だ。

 わたしはいきなり名前を呼ばれてびっくりだよ。

 

「間違いないですね? 実はお連れ様が気分を崩されまして」

「そうなの?」

 

 エルが? それともねーさんが? 

 

「今は安静にしておられるので問題ありません。どうぞ、ご案内しますので……」

「じゃあ、ちょっと、行ってくるかな……」

「待たぬか。怪しいぞ、この男」

 

 ローラの肩をじゃーじゃー少女が引き留めて言った。

 

「お嬢さん、我々は仕事でしてねえ。そちらのお嬢さんに来てもらわないと困るんですよ」 

「誰なの、あんた?」

 

 気を取り直してみれば確かに胡散臭い。身内をネタにどこに連れていくつもりなのか?

 

「航湾局のID見せてくれる」

「……ふん」

 

 やせっぽちが鼻で笑う。その背後から同じ青い服の男が現れる。横幅はやせっぽちの四倍くらいはある太っちょだ。

 

「カエシよお、やっぱダメじゃんかよぉ。さっさとさらっちまおうぜ」

「こやつら、人さらいじゃっ!」

「正体見せなさいよ!」

 

 グルン。ローラは一払いを食らわせる。発生した衝撃が青い服をざっくり引き裂くが二人はもうそこにいない。

 見切られた……

 

「ぐへへ、よ、ようこそなんだな」

 

 眼帯のデブが頬肉を震わせる。

 

「待ちくたびれたぜ、お嬢ちゃん。無理やりは好みじゃないんだがね……」

 

 カエシと呼ばれた辮髪スタイルの瘦せっぽちが呟く。

 二人はローラを斜めに挟むようにして立っている。こちらは片手にはハロを抱え、背中にはじゃーじゃー少女と不利な体勢に立たされる。

 

「そこまでだっ!」

 

 そして背後から響く声。黒服の男たちがゲートを境に勢ぞろいしている。 

 あわわ、この人たちもいたんだっけ! というかこの人たちももしかして……

 

「その少女の身柄は我々が引き受ける。お前らは失せろ」

 

 げげげ、やっぱり~~~っ! つーか、あの二人とは仲間じゃないわけ?

 

「ちゅー、ちゅ、ちゅ~。あれれ、ぼくちんと遊んでくれるんでちか~? ネズミさんのコスプレでね~」

「ケサギはよぉ、マジでさせるんだぜー。ごっこじゃなくてなあ」

 

 脅し文句なのか、冗談なのかよくわからないが、これをチャンスと見て逃げるしかない。ねーさんのいるポートまで5ブロックほど先のはず。

 

「かかれーっ!」

「はあ、はっは~~! この雲竜のケサギがお相手しちゃうぞ~~っ!」

「今だっ!」

 

 黒服たちが躍りかかると同時にケサギとカエシが動く。その隙を突くようにローラはじゃーじゃー少女の手を引いて走り出すのだった。


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