転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【3話】出港

 ここに手と手を取り合って走る二人の少女がいる。めくるめく愛の逃避行……などではない。

 ゲートへ向かう運搬車両の後部へ無断で乗り込み、二人は外部区画へ出るゲートを潜り抜ける。

 開けた視界に広大な空間が広がっている。無数のコンテナがひしめく倉庫では多くの無人機械が稼働している。この区画から一枚向こう隔てた先は宇宙空間だ。

 一般人は立ち入り禁止となっているが、そんなルールは今は守ってもいられない。一般人を巻き込みかねないルートを避けての選択だ。

 大量のコンテナが山高く積まれ頭上にそびえる。コンテナを運ぶ運搬車両が引っ切り無しに行き交っていて、人間よりも車両の方が優先される場所だ。

 頃合いを見て二人は車両の後部から飛び降りる。次のゲートを探さなければ。

 

「えーと、どっちだろ?」

「たぶんあっちじゃ」

 

 交差点を渡り大きな運搬車の間をすり抜ける。運転手が音を鳴らし怒った声が混じる。それを後ろに聞き流す。

 

「ごめんなさーいっ!」

 

 ここで立ち止まるわけにもいかない。すぐ後ろには追手がいるのだ。

 大きな黄色い線とコンテナで仕切られた場所にたどり着いて案内図を確認する。

 

「急ごう」

 

 複数の黒い影が疾風となってコンテナ群の間を駆ける。

 

「うわ、追い付かれたし」

 

 その気配を感じ取りローラは振り向く。姿はまだ見えないがプレッシャーを感じる。

 

「こっちじゃー」

 

 じゃーじゃー娘改めじゃじゃ子がローラの手を掴みコンテナの迷路に飛び込んだ。それと同時に追手が二人がいた通路に姿を現す。

 

「逃すなっ!」

「回り込め!」

 

 障害物のコンテナに囲まれた向こう側からそんな声が聞こえてくる。追手の数はさっきより多い。

 ああ、何ということでしょう。いつの間にか敵の数が増えてませんかっ!?

 子ども相手に大の大人がこぞってかかってくるなんてありえません!

 ローラはダッシュしながら次のコンテナの間に滑り込む。壁際に背をつけて屈みこむと息を整える。

 じゃじゃ子も隣で一息つく。

 

「あー、ちかれる……」

「誰のせいじゃー……」

 

 息を吐き出すとジト目のじゃじゃ子がローラを見る。

 やっぱりフツーの子じゃなかった。逃げ足ならローラよりも早そうである。

 抱えたハロも今はスイッチは切っている。全力で走ったらついてこれないしさ……

 

「ぶっちゃけ、わらわはまったく関係ないのに何で逃げるのじゃ~ おかげでどこに行けばよいのか。わらわは迷子なの……」

「あー、いいよ。狙いはわたしみたいだし。帰ってくれても……」

 

 むしろ、何で付き合ってるのかが不思議なくらい。まあ、人さらいっぽい人たちだったし……とっさだったしね。

 

「シー」

 

 ローラを遮るようにじゃじゃ子が口に指をあてて隙間から外を覗く。ステーション内で作業する機械の音が響いている。

 もう3ブロックくらい通過してるはずだけど、航湾局のステーションはでかい。ねーさんのいるとこまでの距離は掴めない。

 この外部区画だけでも数キロの範囲がある。ちなみに、ここの外壁は戦艦の砲撃でも受けない限り破られることはない。

 貨物置場だから無重力かと思ったけど、コンテナ毎に機械で重力制御して出し入れしているようだ。

 たぶんあっちを突っ切れば近道に……なるかも?

 ローラはゲートがある方を確認する

 

「油断するでないぞ。剣呑なのがおるからお主一人では心もとない」

 

 何気にまだ会ったばかりなのに心配されてしまった。あの二人ヤバそうな人だったしなぁ……

 ケサギとカエシと名乗った二人は逃げ出してからまだ遭遇してないが、しつこそうな臭いがプンプンする。

 あれがこっちの味方だとも思えないし、あのスーツの人たちもいまいちかわからない。というか、全員敵と今は思った方がいいかも。

 

「何をしておる?」

「ぬう……電波届かない……妨害されてる」

 

 携帯はまったく繋がらない。電子機器阻害装置(ジャマー・システム)でも使っているのか。

 

「これはどうだ?」

 

 ハロの起動スイッチは入った。端末からあまり離れるとおそらくダメだろうけど持ったままでは足手まといだ。

 

「サイレンス・モードっと」

 

 ハロの音声機能を停止させ追尾だけさせる。

 

「じゃあ、一緒に出ようか」

「逃げきったらおさらばじゃ」

「オッケー、オッケー」

 

 契約は成立である。

 

「よーし、じゃあ、行ってみよう……」

 

 そろりそろりと歩き出す。周囲を確認して出ようとしたらコンテナの間に男がいきなり立ちふさがった。

 まだこっちに気が付いてない。

 

「げげ?」

 

 うーん、見るからに悪漢面だ。成敗するしかない!

 そいつが振り向いてこっちを見た。

 

「おい、そこっ!」

「ヤバ……」

 

 と思ったら、ローラの目の前に立ちふさがった大男をスーツの男が倒していた。次の瞬間、背後から電撃が走ってスーツの男も倒れる。

 一瞬の間に二人が倒れ、現れたのは黒フード姿の女ダイバーだ。一体どこから現れたのかも不明だが正義の味方には見えない。

 ええ? あれがああなってこの人が倒して? もうわけわかんないんですけどぉ……

 

「さあ、来てもらいましょうか……怪我はしたくないでしょう? 大人しくしな」

 

 そう言う女の手に電撃が発生しバチバチ弾ける。

 

「だって、呼んでるみたいだけど……」

 

 じゃじゃ子の肩を押して差し出す。

 

「お主も観念するがよいぞ」

「いやデスって……」

「ごちゃごちゃ言ってんじゃないよ!」

 

 電撃が二人の足元で弾ける。なかなかのダイバーフォースの使い手だ。

 

「あんた誰? 何が目的?」

「無駄であろう。こやつらは下っ端じゃ」

「小娘はお黙りっ!」

 

 じゃじゃ子が跳んで電撃が走る。が、じゃじゃ子はそこにはいない。

 ディレイの残像を電撃が追い、途切れて消える。あっさりとダイバーが倒れてじゃじゃ子の足元に転がった。

 

「甘く見てもらっては困るのじゃ~ 安心せい、命は取っておらん」

 

 フフン、とえらそげにじゃじゃ子が胸を張る。なお、発育度はローラとどっこいのツルペタである。

 

「さっさと逃げるが良し」

「りょーかい!」

 

 走り出してからゲートまであと少しというところで背後でドカーンと衝撃音が巻き起こった。かなり派手な爆発だ。

 

「うわ、今度は何?」

 

 たたらを踏みながら振り向くと煙幕の中に光が走る。粉塵の中できらめくのは光剣の輝きだ。

 おいい、中立ステーションでの破壊的戦闘行為は……ヤバイ連中なのはよくわかったよ……

 

「止まるでない~」

「のわぁぁぁ~~~!」

 

 停止したローラの背中をじゃじゃ子が押す。 

 

「ぐへへ。と、とーせんぼ、なんだなぁ……!」

 

 両手を広げ立ちふさがるのは太り四肢の右目眼帯のケサギだ。あちこちが埃と煤にまみれている。さっきの爆発のせいだろうか?

 ローラはケサギに引っ付いてきたオマケに思わず吹き出しそうになる。

 ケサギの腰に半ば半裸状態のスーツの男がしがみついている。顔は真っ黒だしスーツも焦げてボロボロだ。

 意地でも離すまいとケサギの腰に引っ付いて離れない。すごい根性と半ばドン引きでローラは眺める。

 

「お前は……邪魔なんだな……!!」

「ゲフ……」

 

 ケサギが拳骨を振り下ろし上半身裸の男が転がった。だらんと腕をたらし白目をむいて気絶する。

 

「フフ、逃げても……おジョーちゃんの匂いは、お、憶えてるんだな……」

 

 くんか、くんかとケサギがローラの匂いを嗅ぐ仕草をする。

 

「お主、ヘンタイに好かれておるな……南無阿弥陀仏」

「言わないで……」

 

 逃げようにも唯一のゲートにはケサギがいる。後ろの倉庫群で小規模な爆発がまた起こる。戦闘がまだ続いているのだ。

 ここをすぐに突破しないと不味い。前門の虎、後方の狼ってやつかな……

 

「実力行使しかないの」

「だね……じゃあ、せ-の!」

 

 ローラとじゃじゃ子はアイコンタクトと同時に動く。壁に放られたハロが重力制御しながら跳ねた。

 相手の力量は未知だが、こっちも立ち止まっていられない。

 連打の衝撃と突き刺さるようなけん制攻撃が繰り出される、ローラは身を屈めて転がりながら、コンテナを壁に円を描きながらケサギの間合いを測った。

 ケサギから放たれた掌打が後方で弾け、飛び込みながらメイデンブレードで前面にいるじゃじゃ子を支援する。

 ぶっ飛ばされたじゃじゃ子をしり目に、二段分身によるフェイントからケサギの懐に連撃を叩きこむ。

 ローラの分身はケサギに粉砕され、ケサギはやられたという顔で消え去る。

 本体どこっ!?

 

「後ろだっ!」

 

 間一髪でローラは体を回転させ、すぐ後ろのケサギの手から逃れると、後ろに転がっていた、気絶したスーツのおっさんの胴体に爪先を滑り込ませて蹴り上げる(ごめんよ!)。

 ケサギのデスクローがおっさんの頭を鷲掴みにする。意識を取り戻したおっさんがその腕を掴んで力比べが始まった。

 

「ぬぉぉぉっ!」

「おい、お前! 負けた奴はちゅーちゅー言って俺のペットだろーが!」

「抜ける!」

 

 ケサギの手が塞がってる今ならと二人は左右から走る。その瞬間、ケサギがおっさんを羽交い絞めしたまま体を回転させて蹴りを放った。

 

「ソニックブレードっ!?」

 

 じゃじゃ子は跳んで、ローラは旋風に巻き込まれながらも、体をドリル回転させて直撃を免れる。よろめきながらも着地して、視界の隅でハロがゲート付近で転がっているのを見つける。

 あちゃ……越えられなかったか…… 

 

「ふんがーっ!!」

 

 ケサギが力比べに勝利してサバ折にすると再度おっさんは気絶するのだった(うわぁ……)。

 たいした時間稼ぎにもならず、二人は前に進めない。このおっさんさえ倒せば道は拓けるというのに……

 

「脳みそまで筋肉じゃの……」

「ね……」

 

 じゃじゃ子と目でアイ・コンタクト。束の間の共闘で互いの息は掴んでいる。

 

「ちゅ、ちゅ、ちゅ~~ 子ネズミ二匹~ たーのしーなぁ~ いーきまちゅよ~ じゃきーん」

 

 指をワキワキさせてケサギが四つん這いになり二人に躍りかかる。

 

「ネズミ拳でちゅ~」

「ざけんなっ!」

「もー、勘弁してくれなのじゃ!」

 

 四つ足の変則的な動きに翻弄されるも、機動性はふつーの二本足に劣る。

 じゃじゃ子がけん制し、ローラが攻撃を繰り出す。立ち位置を何度も入れ替わりながら、二対一の優位性を発揮してケサギの機動力を奪う。

 

「おっとっと」

 

 ローラのショックブレードを躱してケサギが体勢を崩した。その瞬間を逃さず二人同時に攻撃に出る。   

  

「せりゃ~~!」

「とぉっ!」

「ふんぬぅ!」

 

 二人が繰り出した拳をケサギが受け止め衝撃が波のように走った。ケサギの体が弾むように震えてショックを吸収する。

 なんて脂肪の分厚さっ!?

 

「残念ちゃん!」

 

 動きが一瞬止まるのを見逃さずケサギが二人の手首を掴み返す。

 

「ははは、お仕置きだべ~~!」

「ええっ!?」

「あにゃ~~?」

 

 二人を捕まえたケサギがグルングルンと回転し始める。

 

「おっしおきの~グルグルバタ~~~!!」

 

 ケサギの回転は速さを増して風を巻き起こす。ブンブンブンブンと高速で視界が切り替わる。

 臓腑を揺さぶられながら二人は目を回す。

 

「あーれ~~っ!!」

「にゃあ~~~っ?!」

「あひゃーひゃっひゃっひゃー!」

 

 狂喜の笑いを放つケサギ。その乱舞する嵐の中心点から竜巻(スパイラル・タイフォーン)が発生し、周囲の物を巻き込んで打ち上げる。

 高速回転で視界も麻痺し、もはや何が何だかわからない。

  

「おええぇ……目、目が回るんだな……バターになってとろけちゃうふん~」

 

 回転が緩くなり目を回したケサギの拘束が弱まる。その瞬間、ローラとじゃじゃ子が離脱する。

 

「はきそ……」

「はれほれ~~……」

 

 ケサギがよろめきながらも尻もちをついた。

 どうにか意識をはっきりさせるとローラはケサギに襲い掛かる。それにじゃじゃ子が続く。

 

「今だ! くすぐりの刑っ!」

「くらうのじゃー」

「おわっ! ふひゃひゃひゃひゃっ!!」

 

 少女二人からくすぐられケサギが悶絶する。

 

「あー! イクイクっ!! すごっひ~~~ もういっちゃう~~~!」

 

 ケサギが聞くのも恥ずかしい叫びを連発するも、呼吸困難に陥り、のたうち回るのを見て二人は立ち上がる。

 

「参ったか!」

「成敗完了じゃの」

「あひゃ~~ E気持ち……」

 

 手足をピクピクさせたケサギがよだれを垂らし昇天している。

 

「よし。行こ……」

「いやいや、そこまでなんだな、おジョーさんたち」

「げげ?」

 

 声をかけたのは辮髪のカエシだ。ゲート手前に仁王立ちしている。

 周囲を十人ほどの男たちが包囲していた。スーツの男に黒フードのダイバーもいる。互いをけん制する位置で睨み合っている。

 

「ケサギっ! 遊ぶのはそこまでにしとけよ」

「オホホ、まだまだだぜー」

 

 むくり、とケサギが立ち上がるとニヤリと笑った。一足で飛んでカエシの隣に並ぶ。

 先ほどまでのふざけた行動は全部演技だったのかと思うくらいだ。

 ゲート前にケサギとカエシ。後方にはダイバーとスーツの男たち。四面楚歌とはこのことだ。

 

「ヤバイ……」

「窮すか」

 

 二人肩を合わせてどう対処するかを考える。

 

「あれ?」

 

 携帯が震動する。外部からの通信だ。阻害圏内から外れたのだろうか?

 

『マスター、伏せて目を閉じてっ!』

 

 エルカセットの声が響いた次の瞬間、ゲートが開き飛び込んでくる車両があった。

 ほとばしる閃光。考える間もなくローラはじゃじゃ子の襟首をつかんで身を伏せる。

 

「にゃ~~!?」

 

 じゃじゃ子が叫ぶ。ローラの閉じた瞼の向こうが真っ白に染まっている。

 包囲網の前で閃光が弾け周囲に広がった。エネルギーの奔流が地面を這い、男たちの目を焼く。

 

「ぎゃ~~っ!? カ、カエシ、前が見えねえ~~~~!」

「電磁パルス拡散砲かっ! 畜生、なにもんだっ!?」

 

 電磁砲のトリガーを引く女が笑う。その顔は遮光フェイスガードに覆われている。

 

「PIPIPO~~」

 

 その隣でディグの操縦をするR2D2ならぬリョウが頭を回転させると、転がるハロをコントロールする。ハロが跳びディグに飛び乗る。

 

「前が見えぬのじゃ~~!」

「こっちだ。早く乗れっ!」

「ほら、行くよ!」

 

 目がちかちかするままじゃじゃ子を抱えてディグに乗り込むと、電磁砲とエネルギーパックを女が投げ捨てる。

 

「出せ」

「トバスゼ~~~~~っ!!」

 

 リョウの翻訳係に復帰したハロがピカピカ目を光らせる。ディグはゲートの向こう側へと消えて男たちが残される。 

 

「引き時か……」

 

 まんまと逃げられたとカエシが目を細める。

 追手だった男たちも霧散して消えていた。

 どこかの諜報機関の連中だろうと思考して頭を振るケサギに向き直る。

 

「あー、目がまだピカピカするぜ……」

「とんずらだ」

「おう」

 

 そして二人はすぐに走り出した。

 

「なあ、カエシ、まだ追いつけただろ?」

「宇宙警察が来る」

「それは、や、ヤバいな……」

 

 ケサギは首をすくめる。

 

「なあに、次は捕まえるさ」

「おお、い、行先わかるのか? な、何で?」

「依頼人が教えてくれるのさ」

「ハハハ、物知りな依頼人なんだな? じゃあ、ネズミさんごっこの続きができるな。ちゅちゅちゅ~ 次は勝つぞ~ で、あいつらの行先は?」

「そら後でな。警備の奴らを巻くぞ」

 

 ケサギとカエシの二人組が警備隊を煙に巻き消えた頃、ローラたちはナイアスが乗る宇宙船へ辿り着いていた。

 宇宙船の真下にディグを着けてエンジンが停止する。

 

「マスター、無事でよかったですぅぅぅぅ~~!」

 

 ディグから降りて一番にエルカセットがローラに抱き着いた。ぐにぐにし抱かれるままに任せる。

 

「アシストおっけーよーエル~~」

「ハイ、間一髪でした」

「で、おねーさんはだーれ? 何で知り合いなの?」

 

 リョウが一緒だったのも謎だ。助かったのはありがたいけれど、電磁砲ぶっ放すとかかなり思い切ったことをする。

 機械的フォルムの宇宙スーツに遮光ガードの謎の助っ人がローラを見つめ返すとフェイスガードを脱ぎ捨てる。

 現れた顔はまだ若い。百才も行ってない年頃だろう(地球年齢二十そこそこくらい)。

 体にフィットした機械的デザインの服の下には鍛え上げられた筋肉を隠していることがわかる。

 銀色のマシン的なファッションはエンシェント・スタイルと呼ばれるもので、よりマシンが人類を管理していた頃の名残を残すものだ。 

 人々が機械に支配され依存していた時代もあったのだが、それは遥か古代のこと。現代は人類が主役を取り戻している。

 サイバー化しているかは一目ではわからないが、ほぼ生身であろう。全身サイボーグから生身にフルチェンジとかも可能な世界だ。

 

「その子はドクター・ヒュードラー。あんたと同じマイトだよ」

 

 タンクトップ姿に短パンですらっとした生足を見せたナイアスが船から降りてくる。 

 これから宇宙行こうって格好じゃないなぁ……

 

「ドクター・ヒュードラー?」

 

 その名前は聞いたことが……というか、ラボにいたときメールもらったことあるじゃん……

 エトラムル理論に関する鋭いアプローチだったよね。中身見て何者だよ~~って思ったもん。

 

「私の専門はモーターヘッドだ。トローラ・ロージン博士。君の理論の独創性に期待する者だ。バルターと呼んでくれ」

「あー、はい……メールではお世話になりました」

「君とは楽しい話ができそうで嬉しいよ」

 

 ローラはヒュードラーから差し出された手を握り返す。

 楽しい? でも、何でここにいるんだろう? ねーさんとはどういう関係?

 

「ヒュードラー博士とは古い友だちなのさ」

「しばらく観光で星団を回る予定でね。ナイアスの今回の計画に乗った口だよ」

「そうなんですか」

 

 同行者が増えるとは聞いてなかったけど、サプライズにしても派手なご登場でした。

 

「で、誰だい。この子は?」

 

 ナイアスの目がじゃじゃ子に向けられる。じゃじゃ子はいずまいを正してお辞儀する。

 

「わらわはただの巻き込まれヒロインなのじゃ~~ 助け感謝するぞ。もう安全なようだし、そろそろ行かねばならぬのじゃ」

 

 じゃじゃ子はそう言ってさっさと背を向ける。

 

「って、こら、名前くらい教えなさいってっ!」

「ふむ」

 

 ローラの呼びかけにじゃじゃ子がくるりと振り向く。

 

「わらわの名はタイトネイブと覚えておくが良い。楽しい旅になると良いな。お主とはまた会うこともあろう」

「え、そうなの?」

 

 じゃじゃ子改めタイトネイブに返すと、そうじゃ、とローラに頷き返す。

 そして、じゃあの、と手を振って元気よく駆けていく。それを見送って予定の時刻が近いのを確認する。

 

「迷子とか言ってなかったっけ……」

 

 じゃじゃ子が去った方を見る。

 印象的過ぎて忘れようがない子だったなぁ~

 

「全員、船に乗りな。出発の時間だよ」

「はーい」

 

 ナイアスに促され、ローラたちは宇宙船に乗り込んだ。

 ヒュードラーが乗っていたかっこいいスポーツディグも収納され、予定より一人増えての出発となった。 

 ナイアス。

 ローラ。

 エルカセット。

 リョウ+ハロ。

 ヒュードラー。

 ブリッジに入ったらナイアスのファティマのジゼルが出迎える。

 そして最後に……

 

「姉御、いつでも出れまさ!」

 

 ごっつい肩幅のサングラスのあんちゃんが一人操縦席に……むきむきの肌をタンクトップから露出させている。

 ええと、誰だっけ?

 

「誰?」

「ああ、あんたは会ったことないっけ。カステポーじゃ待機組だったしね」

「カーチェイス楽しかったですね~」

 

 ねーさんからのメールに映ってたブリュンヒルデ・騎士団(ナイツ)のメンバーだった気がする。

 

「ローラ」

「はい?」

 

 ナイアスが投げて寄こしたのはパスポートだ。

 

「これは?」

「あんたの」

「持ってるよ?」

「こっからはあんたはトローラ・ロージンじゃない。ローニャ・ロジーナさ」

「はいい?」

「あんたは狙われてるのさ。てことで偽名を使う。またあんなのに狙われたくないだろ?」

「まあ……」

 

 何だか釈然としないこの流れ……何だかわかっていたかのような動き……

 

「つーわけで、変身してもらうよ」

「はい?」

 

 気配を感じるがもう遅い。両脇をジゼルとエルカセットが固めて微笑んでくる。

 あ、にゃ~ これははめられてるの?

 

「あたし好みのカワイコチャンにしてやんなっ!」

「はーい」

「了解です。マスター」

「のぉ~~拒否権なし~~~!?」

 

 ずるずる二人に引きずられローラは居住区へ連行されるのだった。

 見送ったナイアスがヒュードラーに目を向ける。

 

「お疲れ。面白い子だろう? 昔のあたしみたい」

「木を隠すならば森の中か。君の任務は知らないが、片手間に守れると思うなよ。連中はしつこいぞ。我々が共犯であることも秘密で通すのか?」

「お互いの利害は一致しているだろ?」

「ああ」

「ちなみに私の仕事はただの人探しさ。そうそうおいそれと見つかってくれる相手ならいいんだけどね」

 

 ナイアスは開いたファイルに目を落とす。

 そこにある名は──

 アルル・フォルテシモ・メロディ。

 マヨール・レーベンハイト。

 それに……ブラフォード兄弟。

 その他にもいくつかのファイルがある。ナイアスが探す人物たちだ。目的は有用な騎士の登用であった。

 

 

「ふう……終わった……」

 

 しばらくしてブリッジの扉が開きすっかり変身したローラ……いやローニャが姿を現す。

 ワシャワシャと重ねられたゴチックスカートにフリルいっぱいのドレス。髪は黒く染められ、前はパッツンにされ、軽めの小悪魔メイクのロリータ少女になっているのであった。

 これでパスポート通りの人相であった。ジゼルのメイク術は超プロ級である。

 

「マスター、チョーカワイイデスぅ~~~!」 

 

 エルが大興奮し、リョウがチョウイケテルと返す。

 

「はいはい、どーもね。ねーさん、そろそろ行き先教えてよ!」

「行き先はジュノーさ」

「ジュノー?」

 

 いきなり遠いって思ったけど、ねーさんがラジオのスイッチを入れる。

 

『──一時膠着に陥ったコーラス、ハグーダ間は強い緊迫状態にあり、再度の武力衝突が予想されます。先ほど入った確実な情報によりますと、ハグーダ側に複数の騎士団が味方しているとのこと。識者はこれを長期化の傾向と見ております。コーラス国境を侵したハグーダ側がすぐに撤退するだろうという予想は大きく崩れ、戦線は拡大すると予想されます──』

「コーラス……」

「戦争特需さ。争いがあれば騎士が集まる。全星団の騎士が注目してる。そいつらをハントするのがあたしの任務ってわけよ。おっけー?」

「うん、オッケー……」

「ほら、もっと楽しい顔しなよ」

 

 ぐにぐにほっぺを引っ張られる。

 いてて、しつこい~~やり返してやるぞ~~!

 

「つーわけで、出るよ。ようそろ~~だっ! エンジン吹かしなっ!」

「押すっ! ようそろー! エンジン全開でさ~~~!」

 

 港から宇宙空間に出たクルーザーのイレーザー・エンジンが回りだした。白い閃光となった船が銀河の海を駆け抜けていく。




オプローグ終了(´・ω・`)

このエピソードはモーレツ宇宙海賊の第一話からインスパイアされているよ!

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