コーラス王朝の首都ヤースは戦時下だけあって手間取ったものの無事に降りることができた。
戦争中なわりに市内はふつーに人が行き交っているし、観光もまったく問題がない。ぼったくり価格のお土産物屋はどこでも健在らしい。
警備体制は要所要所が厳重であるものの、戦車(エア・バレル)やMH(モーターヘッド)の部隊は戦場に出ているせいかそれほど目立って見ることもなかった。
日常的風景から経済的な緊迫感をあまり感じないのはコーラスが大国だからだ。でもじわじわと市民の生活に影響を及ぼしつつあるのかもしれない。
ハグーダがコーラスのマイスナー領とバランカ領に食らい付いたままだ。ヤースに入ってから得られた情報は旅立ったときとそう変わらない。
ハグーダ側の戦力は日々増強されているらしく、前線の防衛ラインは押したり引いたりを繰り返しながら膠着している。
消耗が蓄積しているのは両国ともだが、敵国ハグーダの背後に手助けをしている連中の影がある以上予断を許さない状況といえる。
わたしたち一行は現在市内の中心部にいる。コーラス城近くのカフェテラスでのんびりと昼食後のお茶を楽しんでいた。
ねーさんの部下の人は船で待機だ。ジゼルさんは後方サポートでやっぱり船に待機し、エルカセットが市内のホテルから中継して情報のリンクをリョウに繋げている。
ファティマを街中で普通に連れて歩くと目立つからお留守番が多いのは仕方ない。エルには後でお土産買ってあげようっと。
ねーさんのお仕事は勧誘って言ってたけど、誰を探してどう会うのかはよくわからない。ジゼルパワー全開にすれば探し人なんてすぐに見つかりそうな気もするけど……
当てがあってここにいるはずだけど、当人は目の前でエスプレッソをのんびり飲んでいる。なお、ヒュードラ-博士はコーヒー・ブラックオンリーだ。
今のメンツは、ゴチック・ロリータなローニャ(ローラ)。ねーさんはイケイケなやり手スーツ姿で、マシン・スタイルのヒュードラーさんは変わらず、リョウ+ハロのロボコンビ含めた五名となっている。
うーん、この統一感のない取り合わせ……思い切り目立っていると思います(まる)
『マスター、ハロハロ~』
「ちゃんと見えてるよ、エル~」
ハロを介してエルと会話中。リョウから投影されたエルのホログラムの感度は良好デス。旅の間は暇だったのでコミュ用の回路をハロに増設している。
アドラーからジュノーまでの一週間はとにかく暇だったのだ。エルを放りっぱなしにしてイロイロ溜まると反動が激しいので連絡は密にしている。
「ねーさん、これからどーするの?」
ハロのスイッチをリョウに切り替え、薄まりかけたカフェオレをローラはストローで飲み込む。
「そいじゃお城に行くかね。あんた、サードとお知り合いだろ。友だちってことで入れてもらおうぜ」
「はぁ……? えー、入れて…もらえるのかな?」
いきなり何を言うのこの人は……お友だち違います。顔見知りくらいの関係じゃないですか……? いきなり行って入れてもらえるわけ……
クローソーの友だちですねん。入れてつかーさい! ダメ……?
……というわけで現在、コーラス城手前におります。お店から出てすぐそこという近さ。思い立ったが吉日といいますが、心の準備はできておりません。
しかし、ダメ元と言うではありませんか。言うだけ言ってみるとしよう。
「じゃー、ここで待っててっ!」
みんなを待たせ、強面の衛兵さんが並ぶ横を抜けて受付窓口に。そう、見学の観光客風に行けば問題あるまい。
平時なら解放されているであろう門は現在きっちり閉じられ警備の人たちが巡回しております。
港で貰った観光パンフレットにコーラス城見学ツアー案内とかありました。といってもハグ-ダとの戦争が始まってから見学はできないのだがあえて知らん振りをしよう。
いなかっぺっぽく行ってみよう。
「えーとぉ、すいませーん。わだしぃ、ローニャ・ロジーナっていいます~~ お城は入れませんか~~? えええ~っ、ダメっ!? そんなぁ~~わたしぃ~きれいで立派なお城見たくてアドラーのド田舎から出てきたんですぅ~~~ 余命いくばくもないびょーきのおねーちゃんがどうしてもお城が見たいって言うもんだから、なけなしのお小遣いはたいて船のチケット買ったんですよ~~ 見て見てわたしの財布空っぽです~~ でも、入れないとぉ今にもおねーちゃん昇天してしまいそうなんです~~~ およよよよ。お城見れなかったらきっと祟ってナムホーレンゲキョーナムアミダブツナムアミダブツでゴーストになっちゃうんですよぉ~~~! 入る前に死なれたらおねーちゃんに一生枕元に立たれちゃいます~~ あああ~~受付の窓にもう写ってるぅぅ~~~~! の、呪われちゃう~~~~! ナンマイダーナンマイダー! おねーちゃん成仏してぇぇぇ~~~! 祟られちゃうかららいーれーてー」
「あ、あの、お客様。申し訳ありませんが規則でして……」
困り顔の受付のお姉さん。意味不明な泣き落としに入ったローニャに戸惑いを隠せない。
もう少し押せば何とかなるかしらん?
「どうなさいましたか、お嬢さん?」
「はい?」
窓口にのっぽな影が差す。コーラス・テンプルの紋章を付けた騎士が覗き込む。
「困りごとですか?」
困惑顔の受付嬢を一瞥してからジロリとローラを見る。本日の不審人物Aである。他の騎士も気づいたのか同僚の所に寄ってくる。
ありゃ……不味いかしらん?
「君、今はお城は見学できないんだ。戦時の戒厳令が出ているんだよ。戒厳令っていうのは緊急事態ってことなんだ」
「そーなんですかぁ……」
知らない振りは予定通り。何だか思い切り失敗している気が……
「君の保護者はあちらかな?」
騎士が待機中のナイアスとヒュードラーと目を向けた。見るからに一般人とは違う雰囲気だ。
「失礼、こちらのお嬢さんの保護者の方でしょうか。我らはトリオの騎士です」
「正攻法で行くべきだったな」
「あんた、止めなかったじゃん……」
ナイアスがヒュードラーにめんどくさ、とため息を吐き出し眉をしかめた。
「えーとねえ……」
その時だ。
「その方たちはサードの御客人です。通してあげてください」
涼やかに通る声が響いてトリオの騎士たちが振り向いた。視線の先にグリーンカラーのドレスの女性がいる。
トリオの騎士がすぐに一歩引くと敬礼の構えでその女性を出迎えた。受付嬢も最敬礼の構えを取る。
コーラス三王家のマイスナー家の筆頭であるリザード・マイスナー女王がゆっくり頷いて騎士たちを見返した。
「マイスナー陛下っ!」
「あなたたち、ここはもうよろしい。門を開けなさい」
「は」
片手を上げて騎士たちを下がらせる。優雅さの中に威厳を込めて女王がローラを見下ろす。
「マイスナー陛下」
慌ててローラもスカートのすそを摘まんでお辞儀する。
「畏まらなくていいのよ。あなたをこの城の客人に迎えられてとても光栄よ。ローニャ・ロジーナさん。いえ、トローラ・ロージン博士ね。それとバルター・ヒュードラー博士」
そしてナイアスに目を留める。
「バストーニュでは凛々しい姿にわたくし目が離せませんでしたわ、素敵な白騎士さん」
「ナイアス・ブリュンヒルデです陛下……」
ナイアスが正式な騎士の礼をする。
「立ち話はこれくらいにして、中にお入りなさい。サードも良い気晴らしになるでしょうし。あなた方が来ていると教えてくれた子もいるのよ」
門が開き、女王に誘われて一行はコーラス城に入るのだった。
◆
それから時を前後してハグーダ帝国では──
王宮は破竹の快進撃でおおいに湧き上がっている。コーラス領の四群を攻め落としたハグーダの将官と兵の士気も高い。
わずか建国四百年あまりの小国であるハグーダが大国コーラスを苦しめるなど当初は誰も予想しなかった。
その奇跡の陰に女王アルメメイオスが諸国の王と交わした密約があることも──
巨大なモニタの前に一人の女が立つ。もう若いと言える年齢ではないが黒髪の美貌はいまだに健在だ。クレオパトラを思わせるその衣装と佇まいは女王そのものだ。
「それはほんに良い報せじゃ。ボォスの七色の騎士(セヴンナイツ)。虹のブーレイをお貸しくださると……」
アルメメイオスがモニタの向こうにいる人物を見つめる。
『コーラスは大国よ。しかし、この勢いのままに均衡を崩せばコーラスの足元は崩れる。貴国に提供した技術と人材はこの日のためのもの』
「ハスハは、ハスハは動いてくださるのか?」
『案ずるな。我らは一心同体。送ったブーレイ騎士団の主力はノイエ・シルチスの”赤”(テスタロッサ)のラルゴよ。もうそちらに到着する頃ではないか? どうだ、カラミティの”奴”も本気だとわかったかな?』
「おお、フィルモア帝国がっ! コレット王……約束はもちろん果たしましょうぞ。盟約の名にかけて」
『コーラスを倒し、歴史に名を遺すのだ。アルメメイオスよ、亡き父上もそうお望みであろう。我らがそなたの元に参じる日も近い。AP(エープ)騎士団がな』
「無敵と名高いA(エー)・トールならばコーラスなど一蹴できましょうぞ……」
『そのためもう一息押し込むのだ、アルメメイオスよ』
「全軍を持って当たりましょうぞ」
膝をつき深々と頭を下げる。
そして通信が切れてアルメメイオスは立ち上がった。顔を上げたその目にめらめらと焼き尽くすような炎が宿っている。
アルメメイオスが女王位を継いで数十年。亡き父から受け継いだ王位を守るために奔走したがこの国は小さかった。
大国には見くびられ、大臣の顔色を見ながら、誰かに操られる傀儡の様な存在でしかなかった。産業と呼べるものも乏しく、大地も豊かとはいえない。
大国に隷属することを主張する大臣らに見切りをつけたアルメメイオスは首脳部を把握するために軍事力に頼ることになる。
アルメメイオスがハグーダを掌握するために手を貸してくれたのがボォスのハスハ連合のコレット王だ。
その資金と技術提供でMH(モーターヘッド)マグロウを開発した。そして女王の意を拒んだ首脳部を一掃したのだ
それが三〇年ほど前のことだ。それ以来、ハスハはハグーダの盟友国であった。
そしてハグーダがロンドの覇権を握ればアルメメイオスの名はサザンド太陽系のみならず全星団に轟くことだろう。
コレット王が囁いた言葉はアルメメイオスが心の底から望むものであった。ひとえにそれは国を豊かにしようと、民を導くためのものだと信じて疑わない。
そのためならばいくらでも頭を下げようぞ。
「父上……わらわはこの国を強くした。もう大国に舐められることもなくなる。わらわが……ハグーダがコーラスを倒す……フフフ、あはーはっはっ!」
その笑いは王の座の間に空虚に響き渡るのだった。
◆
「け、どこもかしこもつまんねー顔ばっかだ。ちくしょー、モーターヘッド寄こしやがれ!」
大皿に盛られた肉に手を伸ばし食いちぎったのはオレンジ頭の少年だ。周囲の荒くれ者に混じって宴席の料理を頬張る。
露出度の高い給仕の女の色っぽい仕草を眺めながら、食欲を満たすためだけに手を伸ばす。
「にしても、このジィッド様を舐めやがって。ちっこいって笑いやがった……あのくそ将軍……俺様がモーターヘッドのりゃコーラスの腰抜けなんぞちぎっては投げ! ちぎっては投げっ! こうだ、こうだ!」
うっぷんを晴らすように食いついては肉を食いちぎり頬いっぱいに詰め込んで骨を放り投げる。その飛んだ一本が背後の席に座る大男の頭に当たる。
ずんぐりとした山のような男が振り向いてオレンジ頭の小僧を睨む。
「おい、小僧」
「あん?」
見上げるような太り四肢の大男にジィッドは目を細めドスを効かせて睨み返す。
「おっさんに用はねえよ。失せな」
むしゃむしゃと骨付き肉をかじってまた放り投げる。落ちた骨が男の足元に転がった。
「ししし、威勢の良いチビ、なんだな! お前、モーターヘッド乗れんのかよ!」
「おっさん、舐めた口聞いてんじゃねえぞ! この、ジョー・ジィッド・マトリア様はよ、クラッドじゃエースだったんだぜ! マグローだろーがスシローだろーがちょちょいのちょいだぞ!」
眉を吊り上げジィッドは投げまくる仕草をする。
「たく、うるせえガキだな。メシくらい黙って食え」
「あんだ、このひょろながは? 俺様を舐めてんのか?」
大男の横に座っていた辮髪が杯を飲み干すとちらりとジィッドを見る。
「ケサギ、子どもの相手をするな」
「へへ、チビガキ。冗談こくのは鳥頭だけにしとけよ」
カエシの制止を無視してケサギが鳥頭に絡む。
「上等だ。俺様の実力見て腰ぬかすなよ! この肉布団ヤローがっ!」
中指を立ててジィッドが挑発する。
「ヌハハ、やるかー小僧ー」
両手をワキワキさせてケサギが笑う。
「あのなあ……おい、指令が来るまでは大人しくしな、ケサギ」
「この小僧の毛をひん剥いて、ポッポッポ~ ニワトリごっこするポッポ~~」
「あんだと~~? いてえっ!」
「俺の言ったこと聞こえなかったか? ああ?」
カエシがジィッドの頭を押さえつける。グリグリ拳が脳天に突き刺さる。
「いでででっ! 何しやがる、このスットコドッコイっ! てめーら、まとめて相手にしてやるぜっ! 地獄でオネンネしやがれ!」
カエシの手を振り払い、ダブル中指で二人に向かってキル・ユーする。
「だから相手にすんなって言ったろう……」
呆れたようにカエシはそっぽを向く。
「でもよ、指令たってよカエシ。依頼人からの次の連絡は、ま、まだなんだな?」
お預けを食らったケサギが皿の料理を素手で掴んでむしゃむしゃと食べだした。
「あるっちゃあるが、まだついてねえ。そいつらが来るまでお預けさ」
「おいい、無視すんな?」
いぶかしむようにジィッドが二人を見返す。
この二人も傭兵に違いないが、何やら裏がありそうな連中だ。金に目がくらんで集まってきた他の荒くれ者どもとは空気が違う。
戦争傭兵には特有の雰囲気があるが、ジィッドの直感が告げている。こいつらナニかある。そこらのクズどもとはナニかが違う。
ジィッドはここのところ運が向いてない。昨年のユーバーに雇われてうまい汁を吸えるところを黄金のMHにぶったぎられ、運良く助かったものの契約金がパーになり、逃げる羽目になったのは全部あのソープとかいう奴のせいだ。
その命が助かったのはローラがソープに頼んだからなのだが、本人がそれを知るわけもなく、はなはだ方向違いの逆恨みを抱いていた。
カステポーでバギィやデコースと別れ、バルンシャを売った金を山分けしてさよならした。
かなりまとまった金額であったものの、金などいくらあっても足りる世界ではない。金も欲しいが、それよりも名前が欲しい。名前を売って自分を売り込むことがすべてだ。
デコース・ワイズメルがつえーとか、すげーとか聞いてたけど名前だけのこけ脅し野郎だったぜ。全然、強くなかったしな~~
カステポーでくすぶるつもりはなく、ハグーダvsコーラス開戦と聞いて、乗り遅れてたまるかと傭兵として乗り込んだのだ。
ところが、ハグーダの将軍から子どもとバカにされたあげく、忍びの任務を押し付けられて悪態を吐き、切れた末にうっぷんを貯めることになったのだ。
この俺様がくだんねー仕事なんぞやってられかよ。
「おい、見ろ」
「あん?」
ケサギとジィッドがカエシの方向を見る。その視線の先にはアルメメイオス女王がいた。その後ろに新参の男たちを引き連れている。
「何だ、あいつら?」
「しっしし、あの先頭のはかなりクサイ、んだな」
見るからに正規兵ではない。新手の傭兵騎士団だろう。すでにいくつもの傭兵騎士団が参入しているし珍しいわけでもない。が、なかなか派手な連中だ。
男たちの先頭にマントを羽織り顔を隠した男がいる。マントと仮面が赤と目立つことこの上ない格好をしていた。
その男に従うのはミミバ族と呼ばれる連中だ。
「ボォスの死神はミミバを使うって聞いたが……本打ちがお出ましか。仕事だ、ケサギ」
「モグング……ひょーか(そうか)」
口いっぱいに肉いっぱい詰め込んだケサギが返す。
「おい、小僧」
「小僧じゃねえ、俺はジョー・ジィッド・マトリア様だぜ」
小僧呼ばわりのカエシに腕組みでジィッドが返す。とことんでかい態度だが、一回り回って大物感すらある。
「前線の情報収集に人手が足りないようだな。お前も混ぜてやる」
「あんだ? 俺にちんけな仕事あてがおうってのか?」
「お前のお望み通りモーターヘッドに乗せてやるぞ」
「マジかっ!? 嘘ついてんじゃねえだろうな?」
「斥候部隊に混ぜてやる。一騎くらい回させるさ」
「い、いいのか、カエシ?」
「フン、噂の虹(レインボー)のブーレイのお手並み拝見と行こうじゃないか」
「お、俺らのガストもようやく動かせるってわけだな。フヒヒヒ」
ケサギが不気味に笑い、波乱の予感を告げて戦場は次の一幕を開けようとしていた──
バッハトマチンピラーズ再結成(´・ω・`)