「ウリクル、降りておいで」
『はい、マスター』
サードが呼びかけてマイクから女の声が応えた。ここではやたらと響いて聞こえる。
ウリクルどこにいるの? って思ったらジュノーンの頭部のファティマ用のコクピット・シェルが開く。
ウリクルの姿が見えたかと思ったら昇降用の器具を掴んですぐに降りてくる。
「もう会ったね、ウリクルとは」
「先ほどはどうも~~」
授業の後はこっちに来てたってことね。
「お茶をお淹れましょうか?」
「君は甘い匂いがするね……」
くんくんとサードがセイレイの匂いを嗅いだ。お菓子の残り香がしたのだろう。
「お茶はもういらなーい」
「あー、わたしも平気デス」
「じゃあ、ボクにもらえるかな」
「はい」
ウリクルがポットを取り出して急須に熱いお湯が注がれる。湯呑にも達筆な漢字が掘られている。
「ここは割と冷えるものでね。最近はいつもここでお茶をしているよ」
「んー、父様……」
サードの胸元でむずがるようにセイレイが頭を擦り付ける。
「おや、眠いのかい? 少しだけお休み。後で起こしてあげるからね」
「うん……」
サードの胸に顔を埋めたままとろんとした目でセイレイが頷く。
「サード、お連れしましょうか?」
「いや、ここで構わないさ。セイレイ、お友だちにお休みは?」
「ローラ、お休みなさい。ふわぁ……」
「ああ、お休み。ごゆっくり~」
大きなあくびをしてセイレイは目を閉じる。その呼吸はすぐにゆっくりしたものに変わった。
寝た! のび太君並みの就寝スピードだねー。お姫様って結構疲れるのではないかと思うのですよ。
周りが気を使う以上に自分も気を張ってなきゃいけないだろうし、ふつーの小学生みたくお気楽に親に甘えてればいいわけでもないし……
「毛布を出しますね」
ウリクルがジュノーンの脚部の収納ボックスから毛布を取り出してサードに渡す。
サードはひざ掛け毛布をジュノーンの側に敷くと脚部に背を預けセイレイを抱えたまま座った。その側にウリクルが立つ。
娘を見守る優しいまなざしがローラに向けられる。
「こんな格好で済まないね」
「いえいえ、とんでもない。お邪魔しちゃったのはこっちだし。セイレイ様にいろいろ教えていただきました。はい」
「立ったままじゃ疲れるだろう。そこに椅子があるから使ってくれ」
「はい」
マイスナー女王も気さくな人だったけど、コーラスの人たちはしゃちほこばった礼儀にこだわらない人ばかりだ。
忘れがちだけど、この人はコーラス二三世。ジュノーの大帝。つまり皇帝と呼んでも差し支えない身分にある人なのだ。
なのに対等な目線で話しかけてくれる。こっちは同じ目線で申し訳ないくらいだ。
「遠慮はいらないさ。君も私の娘のようなものだし」
「はい?」
ええ? どういう意味だろ……
「君の命を預かる一人だしね。モラードとも約束がある」
何のこと? 先生たちが関係あるの? 約束って何?
サードの目と目が合う。ローラははてなマークなおつむで首を傾げた。
「じゃあ、知らないのかい? モラードから何も聞いてない?」
「ええと……?」
何言ってるのー!! どーいうことー! 先生と何かあるのーっ!?
「君とバストーニュで出会う少し前だが、私の所にアマテラス陛下から直筆の手紙が回ってきてね。それが君に関するものだった」
「ええ……わたし?」
「トローラ・ロージンに関する問題は委細構わず無効とすべし。つまり誰も手を出すな、という意味合いのものだったよ。アマテラス陛下に加えて、最後に星団を代表する最高のマイト三人の連名とあっては断れる人間はそうそういないだろうね。サインしたのは私だけではないよ。アドラーのミッション・ルース大統領もいたね。君もバストーニュで会っているはずだ」
「ボード卿ですよね……」
「君の友人のミミバ族の彼がボード君にデータを渡した時の顔は面白かったよ。ミッション・ルース大統領の鼻を明かした場面を見れたからね。いや、あれは本当に傑作だった。ウリクルにも見せたかったね」
「まあ、イケナイお楽しみだったのですね」
ウリクルの返しにサードはいたずらっぽく片目をつぶってみせる。
そんな陛下の愛嬌は眩しすぎるくらいです。
「……とまあ、ボォスやカラミティの要人の名前も私の後にいくつか追加されていたはずだよ。私もああいうお偉方との連名は初めてで。書簡に名を連ねた時点で全員が共犯になったしね。星団法を定めた先代たちには申し訳ないが、決まりというものは時代に合わせて変わるものさ」
ドッシャーン! まさにそんな感覚だ。うわわぁぁ~~~! 思わず開いた口がパクパクしちゃう。
あのとき……バランシェ公やジンクさんとで手を回したって聞いたけど……裏でそんなにすごい人たちがわたしのために動いてたなんて……
モラード先生も、ソープさんもなーんも言わなかったよね……
「君のことはモラードから聞いて事情は把握していたからね。才能ある少女の将来を潰すことはない。バランシェ公が内々に各国首脳に通達したのさ。こんなこと前代未聞だって噂になっていたよ。だから私も君には大いに興味があったのさ、モラードの押し掛け弟子とはどんな子だろうってね。予想以上にいい子で、セイレイも気に入ってくれたようだ」
父様の膝で安心して眠るセイレイに目を向ける。
セイレイは本当にお父さんが大好きで、お父さんもちゃんと娘を愛してる。
その一瞬、ローラは胸が締め付けられるような感覚になる。それは衝動的なもので、呑み込むともやもやと胸の内に何かが宿った。
その幸せを壊していいなんて誰が──
「ローラ」
サードの呼びかけに意識を引き戻される。
「は、はい」
「良ければ感想を聞かせてくれると嬉しい。このモーターヘッドは三〇年ほどかけて私が作り上げたんだ。名はジュノーンという」
見上げればジュノーンの顔がある。こんな間近で本物を拝めるFSSファンはきっとわたしだけである。
立ち上がってローラは軽く手を振ってみせた。
「えと、初めましてジュノーン。ローラです。お邪魔してるよ~~」
と、ジュノーンにご挨拶する。ロボットに挨拶なんて変な子だと思う?
彼らにはちゃんと意思がある。人間とは違うけれど幼児くらいの知能があると言われている。
ファティマは彼らと対話し意思を繋げることでシンクロ率を上げていくのだ。ファティマとMHはある意味一心同体の関係にあると言っていい。
「きっと見たらみんな虜になります。特に私たち共通の友人が見たら踊りだしちゃうかも」
「その友人というのはレディオス・ソープ君かな? 彼ほどの腕ならこのジュノーンを一気に完成させてしまうかもしれない」
ドキッとすることを言う。それは実現してしまう残酷な真実だ。ウリクルを失いコーラスが倒れることが前提のジュノーンの完成……
そして、その死を悲しまない人はいない。コーラスが大きく揺れて残された者が泣く。
そんな悲劇が目の前で起こることがわかっていて、ただ見過ごすことが「歴史」を変えるからという理由で何もしないでいることが正しいなんてない。
ううん。違う、ホントはそうじゃない……わたしの本当の、本当の理由は。
わたしは罪を犯して家族と離れ離れになった。二度と会えないと思っていたけれど、わたしは生きることを許された。
望めばお父さんともソアラとも話すことができる。遠く離れていても、いつかまた一緒に暮らすことができると希望を持つことができた。
でもセイレイは二度とお父さんに会えなくなってしまう。それを知っていながら何もしない自分をきっと自分自身が許せない。
たとえ、その行動が物語に干渉することだとしてもだ。
父の側で寝息を立てる少女の顔を見る。幸せに包まれた女の子だ。彼女が泣く姿は見たくない。
そのときだ、電子音が鳴り響きウリクルが応対すると何言かサードに囁く。
「……では一緒に通してくれ」
そう告げてサードはゲートがある方を見る。ローラとセイレイが通ってきた通路がある。
「今日は来客日和でね」
「お邪魔でしたら帰ります」
「それには及ばない、同席してくれ」
「はい」
来客は予想もしない三人組だった。
ゲートの向こうから最初に現れたのは庭師のコードレスだ。その後にナイアスとヒュードラーが続く。
ねーさん?
この場に三人が現れたのをローラはすぐに呑み込めない。何でここに? という疑問だ。
「ナイアス様とお連れ様です」
ぶすっとした顔でコードレスが告げる。
不愛想はわざとなのか、彼は下がるとウリクルが会釈してそれに返すとすぐ隣に控えた。
引退していてもコードレスさんはかなり信頼されていると伺える。
「きっとここへ来るだろうと思っていたよ。久しぶりだね、はねっかえりさん。アドラーでは話せる機会がなかったが」
「久しくご挨拶せず……これを預かってまいりました」
跪いたナイアスが懐から一片の紙を取り出して置いた。
「見せてくれるかい」
「はい」
ナイアスが紙をサードの手元に運ぶ。紙が広げられ現れたのはひとひらの押し花だ。
変哲もない萎れひなびたその花はシンプルな淡いパープルの色合いを無機質な空間に広げる。
「花咲き都の永遠(とわ)の乙女、歌いて種を蒔く。笑いて人々、かの道に続いて水を撒く。か……」
懐かしむようにサードはその言葉を呟いた。
何かの詩であろうか……
「詩女(うため)の都行きの一節の詩(うた)だよ。人々が希望を込めてその道中を見守ったという、今でも詩女と民衆に受け継がれている伝統なんだよ」
「そうですか……」
ローラへの説明だろうかと返事を返す。
そのエピソードは本や映画にまでなっていて知らない者はいないくらいだけど、古い文献に載っているような詩までは知らなかった。
「ラーンの花の街道で摘んだものだね。皆があそこにいて笑っていた……あれからもう三〇年も経った。私の記憶と思い出はあの頃と変わらない」
「はい。陛下も私も……」
わたしの知らないねーさんとサードの関係。
──しおれた押花。
二人の間にどんな物語があるのだろう?
きっとそれは、わたしが立ち入ることはできない思い出なんだろう。
聖地ラーン。
花の街道。
詩女のおわす地……
「カモンの命日を覚えていてくれて嬉しいよ。エルメラはロウトでね。きっと会いたがるだろう。母上のティルバー女王はお元気かな?」
「ピンピンしております」
二人は目を合わせて笑いあう。その様子は年の近い心通う友のようだ。
ねーさんのお母さんってフィルモアのどこかの女王なの? 何だか置いてけぼりな気分になってローラは隣を見る。
えーと、ヒュードラーさんどうしたの? さっきから何だか大人しいので変だなと思ってたら……
当の博士は身をよじらせ恍惚の表情を浮かべている。ムンクよろしく叫びのポーズだ。
あの……何事なんですぅ~~~?
「のおおおぉ~~~ぅ」
「あの、ドクター?」
「素ン晴らしいっ!!」
突然の叫び声を上げる。
「やかましい!」
ナイアスが突っ込むがヒュードラーは止まらない。
「ああ、私は今! モーレツにカンドーしていマスっ!! これぞまさに窮極の究極の極致だ! これほどの品を見られるとは、やっぱりあなた達に付いてきてよかったぁぁ~~~! ああ、何ということでしょう。このライン! 均衡! まさに絶妙! 神騎とうたわれるに相応しいっ! どー!」
そして体当たりするようにジュノーンの足に抱き着くのだった。
ベッチーンという音が鳴り響く。その様に全員声を失う。
「あのー博士~~?」
半ばドン引き気味なローラがその背に声をかける。
ベチって音したけど平気です?
博士とはここに来る船で散々モーターヘッド大好き論を展開してたわけですが、コーラスといえばエンゲージと語り、死ぬ前に一度でも徹底分解してフレームからエンジンまで弄繰り回したいと性癖を暴露しまくってたので予想しなかったわけでもありません。
マイトの性って奴は救いよーもないくらい好きを追求してしまうものなのだ。
「ム……違う? だが……そうか。この舐めた感じでは……」
舐める?……ヘンタイさんですか……
恍惚に近い表情から真剣な顔に変わって博士の呟きは独走状態。
もはやついていけない世界である。
「これは、ヒュードラー博士を放置したのが不味かったかな?」
「へーか、この人がヘンなだけデス」
ローラはサードに返す。
「エンゲージは二騎……初代オクトーバーSR.1……ハリコンの神騎……クルップの後クロスビンが完成を……そしてもう一騎……Mk2はアレンジ……かのバッシュと同等のエンジン……マイスナーが所有……そしてこれは限りなく近いレプリカっ! だが、なぜレプリカが必要なのだ……コーラスにはSR.1があるのでは?」
そこで呟きは止んで視線はサードへと向けられる。
「ドクター、もう一騎のエンゲージはこの城に……コーラスにはない。今君の前にある騎体はジュノーン。私が亡き友との約束で創り上げたものだ」
「そう、ジュノーン……違和感はそれか。だが、なぜ未完成なのです。神騎と呼ばれるシリーズでありながら!」
「このジュノーンはどうしても私自身の手で組み上げなければいけなかったからだ」
「それがご友人との約束だと?」
「その通り。この騎体がコーラスの象徴であることを示すためにね。ジュノーンは依り代なのだよ」
依り代? どういう意味なのだろう。初代エンゲージがここにないこととサードの交わした約束はどう繋がっているの?
二人のやり取りはローラにさらなる疑念を生じさせる。
サードがエンゲージをアルル王女に託した? ふと思い浮かんだ推測は妙に現実味があって頭の中にある細切れのシーンと重なる。
「いかなる経緯を経てきたのか私には伺い知れないが、私は陛下に賛美の言葉を送りたい。マイトではないあなたが例えレプリカであろうとこれほどのものを組み上げるとは予想すらしていなかった。しかし、あえて言わせてもらいたい。これではあまりにも惜しい。できることならば真の完成に至ることを願うのみです」
「お言葉痛み入る、博士」
だからこそできることが、何か一つでもできることがあるのでは?
ここにわたしがいることは偶然じゃあない。何かを変えるために、運命を変えるために私はここにいるのでは?
何かの意志が働いているような気がした。
「ここにマイトが二人がいます。陛下にわたしから提案があります」
口を突いて出た言葉はもう後戻りを許さない。
そう、これはわたし自身の意志。強く何かを変えたいという願いそのものだ。
「提案とは?」
「どうかジュノーンの調整にわたしたちも参加させてほしいのです。ヒュードラー博士はこの通りジュノーンの弱点を見抜いています。そしてわたしからも提供できることがあるかもしれません」
ローラがヒュードラーを見ると頷き返す。何を言わんとしているのかすでに分かっているようだ。
二人で議論を詰めあった。それらの理論はいまだ机上の空論に過ぎない。けれど、経験と実績を積んで実現の道が拓ければ世界は変わる。
ローラのエトラムル理論とヒュードラーの唱える新機軸のモーターヘッド理論が結びついた。二つの理論は非常に近いところにある。
ファティマに依存しない、機械がマシーンとして機能する世界。互いに目指すものと求めるものが一致していた。
二人の間にその未来を確信できるだけのものがすでに確立していた。
「ウリクル、どう思う?」
サードがウリクルへ視線を向ける。隣に立つコードレスは難しい顔で頭を振るが無言を貫いた。
「陛下のご意思一つです」
ウリクルの言葉に、そうだね、とサードは呟く。
「ローラ、君の論文は全部読んだよ」
「え? 読まれたのですか?」
「それはもう、穴が開くほど隅々までね。実に興味深く検証もしたほどさ。だから力を貸してくれと頼みたいくらいだ。そしてヒュードラー博士にはあのわずかな接触であそこまで読まれるとは思ってもいなかった。やはり素人では限界がある。お願いしたいのはこちらの方さ。ヒュードラー博士にも」
「よろしいのか? 私の様な流れ者を信用しても」
「ボクはローラを信用している。その友人である君を信用してはいけないかな?」
「実に光栄ですっ!」
ヒュードラーが返してローラの手を握ってきた。握り返したその手から伝わる力強い興奮は言葉にしないでも十分に伝わってくる。
「んー……」
目を開いたセイレイが声を上げた。伏せていた顔を上げて来客たちを見る。
「起きたかい、おチビさん」
「ちょっと前に起きてたの。ねえ、父様」
「何だい?」
「ジュノーンはもっと強くなるの? 強くなってコーラスと父様を守ってくれるんだよね?」
「そうだよ。もっと強くなってお前のことも守ってくれるよ。そろそろお戻り」
「うん」
サードがセイレイを立たせ、ウリクルが手を引いた。行きましょう、と告げるとセイレイが頷いて応える。
「じゃあね、ローラ。さようなら」
「さようなら、セイレイ」
二人が通路の方に歩いていく。ゲートを抜けてその姿が見えなくなるとサードが口を開いた。
「ナイアス、国元は君がここにいることを良く思わないのではないか? 今回の戦は彼らにとっては試金石だろうからね。私としては古い友が遊びに来てくれただけで嬉しいが」
「私はすぐに城を離れるつもりでおります。この二人は御身の側で存分に働きを見せてくれるでしょう。私の役目はここまで」
「え、行っちゃうの?」
「彼女の立場はここでは難しいだろうからね」
ローラの問いにサードが答える。
「もう一つの役目をやるだけだよ。ほら、言ったろう。人材発掘もあたしの仕事だって。腕に覚えのある強い奴を勧誘するのさ。ここにいちゃできないだろう?」
肝心なことをはぐらかしている気がしたけれど、ねーさんの言えない事情というのはアレだろうと見当はついている。
虹のブーレイ。それを率いるのはフィルモアの騎士ラルゴ・ケンタウリだ。ノイエ・シルチスで赤の一番(テスタロッサ)と呼ばれる、コーラス・サードをつけ狙う戦闘狂の人殺し。
かつてサードとラルゴは対決した因縁があるのだ。それをねーさんが知らないわけがない。
原作のエピソードでは、学生だったサードをラルゴが殺そうとしたのだ。それがあってウリクルはサードに嫁ぎ星団を旅することになった。
「どうか、ブーレイにはお気を付けを……かの者はブローチの一件を忘れていないようです」
「そうか、奴が……因果は回ってくるものだね」
「では、これにて」
「いや、一緒に出よう。カーリー、戸締りを頼む」
「御意」
コードレスが返事を返しサードは立って三人に向き直る。
「というわけでよろしく頼むよ。アトキの雪辱を晴らしてやらねば散っていった者たちに言い訳も立たない。まずは設計図から見てもらうよ。ここでは何だから私の部屋まで来てくれ」
「はい」
三人はサードの後に続く。その道すがらヒュードラーはローラの手を離さない。
「これはまさに天啓だ、そう思わないか、ローラ?」
「え? そうかも……」
博士に曖昧に返すが未だにこれから起こることへの実感はない。コーラスでこんなにも早く実践の機会を得られるとは思ってもいなかった。
しかもそれがジュノーンであるなんてっ!
「かねてから私の理論にはコードネームが必要だと考えていた。君がサードに提案するまで頭にはなかったのだが、たった今思いついたよ」
「何とかプロジェクトっぽい名前ですか?」
「そう、名付けてカナルコード」
「カナルコード……」
カナルコード。その名前を呟く。この時代にはなかったはずの言葉だということはわかる。
「これはプロト・ゼロだ。カナルコード・プロト・ゼロ始動だなっ!」
意気揚々とヒュードラーは宣言するのだった──
◆
これは、後にモーターヘッド史上最高傑作と呼ばれるカナルコード(K)・エリア(A)・ナイン(N)の開発エピソードである。
プロト・ゼロは進化してやがてナインへと至る。
時代が生んだ二人の風雲児が出会い結びついた始まりの瞬間であった。