転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【10話】運命の序章

 明けて翌日のコーラス城整備ドッグ。集めた聴衆の前でヒュードラーが講義の真っ最中だ。

 その背後にはジュノーンが寝かされた状態で横たわっている。心臓部であるエンジン部は開かれていて今すぐにでも手を付けられるようになっていた。

 

「──ランド・ブースターが画期的なのは本来モーターヘッドは空を飛ばないという常識を根本から覆すからだ。このユニットの運用前提としてモーターヘッドが地上を移動するのと同程度かそれ以上のスピードを求められる。この前提条件を満たすためにどれほどのエンジンパワーを必要とするか、答えられる者はいるかな? 答えは──」

 

 一番前に眼鏡をかけた少年がいた。年頃はローラよりも一学年くらい上そうだ。整備班の人たちも混じって聴きに入っている。

 その様子を見ながらローラは少し離れた場所でハロの調整中だ。リョウは新しいコクピットのために採寸中。

 ファティマ・シェルの拡張は新しい席の設置だけで済むそうな。

 しっかりと講義に聴き入る聴衆に満足してヒュードラーは続けた。

 

「さて、元よりモーターヘッドは空を飛ぶことは飛ぶが、その機動力の範囲は狭く戦闘艇にすら簡単に追いつかれる。航続力もなくエア・バレルの格好の標的にしかならない。戦闘艇並みの機動力を得るには飛行ユニットとの組み合わせが有効だが実際は宇宙での運用に限られている。地上では技術的な制限が多くかさばる飛行ユニットは地表戦闘に適さないからだ。何せ標的がでかくなるだけだからな」

 

 周りからは苦笑という感じの反応だ。

 でかいだけの棺桶が凹殴りにされるイメージ? ましてや戦闘することが無茶な組み合わせだ。宇宙戦で使われる飛行ユニットが地上ではNGなのは一般人でも想像しやすい。

 MHによる飛行移動はマッハに達するが、現代兵器はエア・バレルでも極超音速(マッハ数五.〇以上)を軽く飛び越えて機動する。あくまでも移動手段としてのみで戦闘は想定すべきではないというのが常識だ。

 超帝国時代のMM(マシン・メサイア)は、地上も空も、宇宙だろうがどこでも戦えたらしい。現代の技術の進化と思うものの多くは過去の遺産の再現に過ぎないと言われている。

 

「地上を駆けるモータヘッドの速度に対応できるのは同じモーターヘッドだけだ。この優位性を捨ててまで空を飛ぶ必要性はまるでないが、もし空をモーターヘッドが制すればどうなるか……答えはわかるだろう? 正確な意味での飛行とは異なる。跳躍するというのが正しい。このようにして空を駆けまわる。この時の瞬間最高速度は──」

 

 本来のMH運用からかなりずれている気がするけど、きっと話題提供のためだろう。ランド・ブースターはあくまでも地上戦を目的としたものだからだ。

 博士すっごく楽しそうだ。初めてここに来たときの整備の人たちとの間はかなりぎくしゃくしてた。

 新参で完全なよそ者がサードのジュノーンの調整をする。しかも一番大事なエンジンのチューンをすると聞いてあからさまに嫌な顔をしていた。

 それが一〇分ほど前なんだけど何だかすでに溶け込んでいるという……

 

「ローラ」

「はい?」

 

 あれ、いつの間にか話し終わってました?

 

「私はこれから仕事に取りかかるが、見ていくかい?」

「あー、わたしはプラプラしてよーかな?」

 

 そう返すと博士はさっそく仕事とジュノーンへ歩いていく。

 コーラスの工場はすごく広い。半ば地下にあるんだけど、コーラスを代表するMHがいくつも並んでいる。

 もちろんベルリンもあります。コーラスカラーであるグリーンのベルリンが数騎。あっちには白いベルリンがっ!

 トリオ騎士の人も……あれってアイリーンさんかな? すらっとした女騎士の姿は遠目からでも目立つ。

 アイリーン・ジョルはトリオ・テンプル・ナイツの花だ。一緒にいるのはここの責任者と思われる。

 

「──の加重比率はもう〇.〇五二%下方に下げてくれ。光剣(スパッド)は今回は予備だ。実剣(スパイド)を二つ回せ。おやつはみっくちゅフルーツバーの糖分カットバージョンじゃないやつだぞ、パトラ」

「四パック分用意してあります、マスター」

 

 アイリーンの傍らで端末を持つのはファティマだ。褐色肌のエキゾチックな雰囲気で、コーラスくさび印入りのファティマ・スーツ姿だ。

 名前はパトラ、と。

 

「班長。頼んでいたプルースのベイルだが……」

「ジョル団長。私たちはみんな同じ思いですよ。亡くなられたプルース様の無念を晴らしてほしいです。お二方のご遺体は見つからずベルリンだけが戻ってきた。どうかプルース様、そしてエルマ様と一緒に戦ってください。今やトリオ・テンプルに空席が九つ。プルース様には姉上がおられるとか……」

「ああ……遺族の方には私から電報で報せてある。トリオのかたきはトリオが討つ。陛下も今回の作戦に出陣されるが……」

 

 そう言いかけてアイリーンは振り向いて少女を見下ろす。二人の会話を勝手に聞いていたローラである。

 

「こんにちは~~」

 

 盗み聞きなんてとんでもない。気配を消してただけデスよ!

 

「感心しないな、おチビ……むにゃ……トローラ・ロージン博士殿! へーかをそそのかしたらしいですが、どんな手を使ったのかしら?」

「そそのかすだなんて……」 

 

 そんなあ~ 班長さんも一緒になってジト目で見るなんて泣いてしまいますぅ~

 

「ベルリンを見るのは初めてかい?」

「はい」

「ベルリンの基本武装スタイルはベイルを持たせたバランス型だ。ベルリンが開発されてからそのスタイルはまったく変わっていない。この姿が伝統的なコーラスの騎体なんだよ」

 

 その装甲はまるで武者だ。巨大な盾(ベイル)を携えた武人の佇まいに品格を感じる。

 白いベルリンはエンゲージの流れを汲むジュノーンと同様コーラスの象徴でもある。黒騎士バッシュにも繋がるMHシリーズの系譜だ。

 

「まあ、好きなだけ見て構わない。ジュノーンが実戦に出るのは初めてだ。何せ君らが来る前は単独で出るなんて無茶をサードは押し通そうとしたんだから。ジュノーン改造の目途が付いたおかげで作戦付けで陛下の首に縄をかけられた」

「そーなんですか」

 

 明らかに事態は動いている。数日という時間の猶予がこの先起こることの運命を変えてくれるかもしれない。

 それはまだ確実とは言い切れない。しかし、ジュノーンが単騎で動かないというのは大きな変化だ。

 改造後のジュノーンがまともに動くのかすらわかっていない状況で稼働時間も限られる。護衛がいなくては話にならない。

 作戦というのは、サードの体面を考えてコーラス軍の作戦にジュノーンを投入するということで妥協したものだ。

 その作戦内容はまだ知らされていない。

 トリオのベルリン部隊が動くからには本格的な軍事活動になる。ジュノーンは伏兵としての役割を与えられるだろう、というのがエルカセットの見解だ。

 

「班長、ジュノーンの工程は?」

「ヒュードラー博士はエンジンは半日あれば十分だと。ジュノーンのファティマ・シェル調整と設置は今日中に終わるでしょう。ジュノーンにエトラムルを載せるなど……」

 

 内心の不満が表に出る。ローラと顔を合わせてばつが悪いと班長が顔をそらした。

 コーラス側の反応は当然のことだ。猛反対で却下されなかっただけ御の字と言える。サードが彼らを説得したのだ。

 

「では、一日半あれば十分か……この戦時下でコーラスに二人もマイトが訪れるというのは奇跡的な確率だな」

「マスターがカジノで一〇〇〇万フェザー稼ぐより低い確率ですね」

「それは実に簡単に聞こえるぞ、パトラ」

「フフフ」

 

 連携の取れた相棒同士だ。

 

「プルースさんというのは亡くなられたトリオの方ですよね……」

 

 姓はランダース。戦死した騎士はA.K.Dのミラージュ騎士シャーリィ・ランダースの弟だ。

 彼女もまたコーラスに深い縁を結ぶことになる人物である。

 エルマというのはプルースのファティマの名前であろう。プルースと共に戦死している。

 

「プルース・ランダースは友人だった。優秀な騎士で……バランカ・トリオ一番のエースだった。騎士団長候補にだってなっていたかもしれない。プルースのベルリンのベイルを私のベルリンに付け替えさせた。最後までコーラスを守り通す。プルースと一緒に散っていった仲間の無念を晴らす」

 

 戦友のベイルを持って戦いに臨むという彼女の横顔に力強さを感じる。

 

「アトキに居座ったハグーダの後方は間延びしている。占領が長く続くほど向こうも前線を維持するのが難しくなる。拡大した戦線に対処しきれないはずだ。奴らはマイスナー領にも食い込んでいるのだからね。今回の作戦はハグーダ軍の補給路を叩くものだ。アトキからハグーダ領に通じる経路を押さえて断つ。この作戦でハグーダを内部から浮き立たせる。補給線の確保に躍起になるだろう」

「アトキにハグーダ軍を釘付けにすればマイスナー領からも戦力がやってきますよね?」

 

 コーラスに侵攻したハグーダ軍があちこちを占領しているが、コーラス軍が大きな動きをすればそれに伴って集結してくるだろう。

 

「ハグーダはかなりの戦力をアトキに集結している。放っておけば首都に進攻するだろう。その戦力を削る目的もあるが、一つずつ確実に潰していく。こちらも損害は避けたい。ハグーダに与する連中がダークホースだ。そいつらを引っ張り出す目的もある」

「虹のブーレイですね。七色のモーターヘッドを駆る傭兵と聞いています」

「まったく……聡すぎる子どもというのは可愛くないな。マイトという人種は苦手だ。場所は当日まで言えないが、クロス・ポイント奪還作戦と名付けてある」

「大丈夫です。大切な作戦です。口外なんてしません」

 

 ローラはにっこり微笑んで応える。 

 かなり大規模な作戦内容に思える。予想されるのは激戦だ。単騎潜入による不安要素はなくなったが、集団戦ともなれば別の不安が増える。

 空の経路もあるのだから地上の補給路を断つのは意味がないように思えるが、それは素人の浅い判断だ。MHを運用する戦略上の観点で言えば重要な意味を持つ。

 MH部隊をハグーダ領に通じる経路に展開されればハグーダ軍はうかつな軍事活動を取れなくなる。地上戦力が主なハグーダの弱点でもある。

 攻め込まれた弱みをチャンスに変える機会だ。コーラスの地の利を生かした戦いになる。

 コーラス内部に食い込んだハグーダの動きは鈍くなっているが、全戦力が集結すれば首都ヤースを一気に落としにかかることだろう、というのがアイリーンさんの見方だ。

 この作戦で敵の動きにくさびを打ち込む。まさに瀬戸際の作戦だ。ハグーダもそうされまいと必死になるはずだ。

 これはわたしの知識にはない。原作では語られていない部分の展開なのだろう。

 

「陛下は君らをずいぶんと信頼している。長年仕えている私でもジュノーンには触らせてもらえないのに」

「はは……」

 

 アイリーンに曖昧に笑って返す。

 ヒュードラー博士はジュノーンにかかりっきりで、新しいファティマ・シェルが出来るまでわたしは手持無沙汰である。 

 そのとき、こちらに駆け寄ってくる靴音にローラは振り向く。 

 

「団長っ! すごかったです。本物のマイトの講義でしたよ!」  

 

 駆けてきたのは少年だ。ローラより頭一つ分ほど背が高い。先ほどいた眼鏡少年だ。熱心に博士の話を聴いていたっけ。

 わくわくとした様子と目の輝きは楽しい玩具を手に入れた顔みたいだ。

 誰なんだろう? ここにいるってことは関係者なんだろうけど……

 ローラの視線に少年が顔を向けて一礼する。

 

「こんにちはっ! トローラ・ロージン博士でいらっしゃいますね。ボクはイェンテ。イェンテ・マイスナーです!」

「イェンテさん……?」

 

 イェンテの握手を受け止める。マイスナーと名乗ったから女王の身内なのだろう。

 

「イェンテ様。また勝手に出入りして。ここに来てはいけない、とお小言をこの前女王陛下から貰ったばかりでしょう?」 

「でも……」

「でもも、しかもありません。子どもの遊び場ではありませんよ。班長が甘い顔をするからです」

 

 アイリーンがガルルという顔を向けると、すぐ側で設計図を広げていた班長が困り顔になる。

 彼も板挟みなのではとローラは少しだけ同情する。

 

「ロージン博士、こちらはイェンテ殿下。リザード・マイスナー女王陛下の甥子さんです」

 

 アイリーンからの正式な紹介にローラは作法を思い出してお辞儀をする。 

 

「ボクはサードからお許しをもらってます。ちゃんとしたサードの助手なんですよっ!」

 

 眼鏡の縁を上げ誇らしげにイェンテは胸を張った。

 コーラスに近い血筋だからマイスターとしての才能くらいもっていても不思議ではない。サードがプロの中のプロであるマイトをも唸らせるのだから。

 

『マスター、こちらのシェルの座席調整終わりました。すぐおいでください』

 

 耳にエルカセットの音声が響く。

 ここからローラの出番だ。これからリョウとジュノーンにウリクルを交えた接合テストを行うのだ。

 リョウはジュノーンとの初めての接触だから慎重に進めたい。まずは信頼関係からだ。

 

「オッケー、すぐ行くね」

 

 エルに返事を返して二人に向き直る。

 

「じゃあ、行きますねっ!」 

 

 アイリーンとイェンテに頭を下げてローラは現場に急行する。

 

「ああ、もっと聞きたいことがあったのに……」

 

 残念そうにイェンテは呟き駆けていくローラを見送るのだった。

 

 

「初めていいよ、エル」

「トライアングル・マーチ。シンクロ値正常」

 

 エルカセットがモニタリングするのは「三人」の交信状況だ。モニタの波形グラフはウリクルとリョウの脳波だ。

 ジュノーンと切り離され本体へのチューブやらなんやらを繋いだ状態のファティマ・シェルは外部にむき出しの状態となっている。

 そこにウリクルの背坐位置で固定されたリョウのボディがあった。二人は半ば眠るような状態でテストに入っている。

 ジュノーンのエンジンはヒュードラー博士がいじっている最中だが、シンクロ・テストを実行しても問題はないらしい。

 サードがいないけれどいくつかの公務をこなした後にジュノーンの最終調整に参加することになっている。

 

「今はほぼ眠っているに近い状態ですね」

「うん」

 

 機器動作に問題はない。機材一式はエルカセットが操作している。

 ファティマがどうやってMHと対話しているかはローラにはよくわからない。わかるのは機材を通しての反応だけだ。

 エルが言うには頭の中に神殿を創ってそこで対話しているのだそうな。どうしてそんなことができるのかはファティマ本人にもわからないみたい。

 脳波シンクロしながらMHと会話しているファティマははた目からは独り言を言ってるようにしか見えない。

 中には二人だけの言語で対話するのもいて会話内容がさっぱりわからない例も多いらしい。

 マイトにも不可侵な領域があるのだ。

 

 MHとファティマの関係に第三者を迎えるには前もって準備が必要だとウリクルが言うのでこの状態で臨むことになった。

 エトラムルが単機でファティマ同様の存在になれない理由の一つは「対話」における「関係性」の構築ができないことにある。

 ファティマが女性型であることは、MHにとってそれが「母性」の象徴として認識され「関係性」が生まれる。それがシンクロ率という形で現れる。 

 意思を持つ存在であるMHをなだめ、包み込み、導く存在としてのファティマあってMHはその真価を発揮できる。

 マイトの間では常識だけど、この理論は世間ではあまり認められていない。

 「人間の母親」同様にファティマを扱う話は受け入れられないからだ。だがそこに鍵はあった。

 

 ファティマ・マイト、トローラ・ロージンとしての見解はこうだ。

 リョウは「男性的」で「母性」を体現する存在ではない。しかし、ファティマにも男性型が少ないが存在する。

 ローラはそれをヒントにした。「弟」を守り導く「兄」としてならMHと交信できるのではないか? というものだ。

 それがエトラムルにも可能なのか? リョウの育成プログラムを与え続けた成果から交信は「可能」であるというのがローラが導き出した結論だ。

 エトラムルが越えられなかった壁をリョウが打ち破るのだ。検証に検証を重ねてきた。そして実証を得るチャンスはこうして与えられた。

 こうしてただ待つだけしかできないことにもどかしさを感じる。

 

「終わったようです、マスター。すぐに目を覚まします」

 

 数分後、エルカセットが告げてウリクルが目を覚ます。すぐにリョウもせわしなくランプを点滅させて動き出した。

 

「ヨ! ヨ! ヨ! オレ、アニキっ! ジュノーン、オレノ、オレノシャテイっ!」

 

 ハロのスイッチが勝手に入るとピョンピョンと飛び跳ねてローラにまとわりつくように回った。

 こら、勝手にコントロール持っていくな! って君……今、自発的にスイッチ入れてった??

 

「成功です、博士。ジュノーンもリョウ君を気に入ってくれたみたいです」

「第一段階完了……ウリクルさん、ジュノーンの制御系システムをリョウに教えてあげて」

「それはもう伝達済みです。リョウ君は賢いですね」

「オレ、カシコイ! チョー、アタマイイ!」

「ちょーしにのるな」

 

 コツンとハロをグーで小突く。

 後はエンジン改造が終ってからだ。操縦プログラム変更をしてウリクルとリョウがジュノーンの最終調整を行う。

 ジュノーンとリョウの初陣まで後一日しかない。明日までの時間との戦いだ。

 ヒュードラー博士は多分問題ない。あの人ってうさん臭く見えるけど腕は確かだ。

 ここまで来たらもはやコーラス編の原作知識など意味がない。そこに捉われすぎてたらかえって足元をすくわれる。歴史は新たな局面を迎えたのだ。

 戦場で何が待ち受けているのか。ローラは垣間見えた青い空を見上げていた。

 

 

 ハグーダ帝国王宮──

 アトキ戦勝の余韻冷めやらぬ宮殿に異相の男たちが並ぶ。虹色の騎士(ブーレイ)を駆る者たちだ。

 

「コーラスに大きな動きはなくこのまま兵を進めるが良いかと」

 

 赤い仮面の男がアルメメイオスに直言する。ブーレイの頭にして自らを「赤」と名乗る男だ。

 背後に控える男たちもミミバに扮しているがその素性も怪しい。が、女王は意にも介していない。手駒として十分なまでに働きを見せている。

 

「ほんによう働いてくれた。わらわは実に気持ちが良い。大国などとふんぞり返るコーラスに目にモノを見せてくれたのだからな」

 

 アルメメイオスの野心は小国であるハグーダがコーラスを屈服させることにある。自国と自らの権威を高めて雪辱を注ぐ。

 その権威に相応しい領土をせしめて星団にハグーダの名を轟かせるのだ。

 コーラス王朝そのものを倒すことは考えていないが、これだけの戦力を手にして女王は舞い上がっていた。

 

「それにしてもお前たちは欲がないな。褒美は思いのままと言うたのに何も要求せぬ。こたびの参入でお前たちの主人が得るものは何だ?」

「ひとえに女王陛下の歓喜を得られるのならばこれ以上の喜びはありますまい」

「よう言うわ。マグロウ、エア・バレル。十もの傭兵団とブーレイのそちたちは飛び切りの兵よ。自分の所よりも良い兵を寄こしたのではあるまいな? うん、どうじゃ?」

「……我らは傭兵。気に入ればどこにでも参上仕ります」

「戦場であればどこにでもか? お前たち騎士というのはほんに血に飢えているのじゃな。後ろのミミバと申す者たちの働きも予想以上じゃ。あれらがコーラス軍の退路を断たなんだらこの大勝利はなかった」

 

 アルメメイオスは眼下の光景を眺める。玉座の間は宴会で人が溢れている。

 

「兵を進めることとしよう。お前の主の望みはわかっておる。そのようなマスクをかぶりわらわにも見せぬな? その素顔はどんな顔をしているのやら。本当に何も望まぬのか?」

「我らはすでにいただくものはいただいております。が、これは私個人の望みですが欲しいものは一つ」

「何じゃ? このわらわが望みか?」

 

 蠱惑的にアルメメイオスが微笑んだ。若さは失われたがまだ自分が十分に美しいことを知っている。

 

「お戯れを申されては困ります……実はコーラス三世の首……でございます」

「言うたな、ブーレイの赤殿。そちの働きを期待しておるぞ」

 

 許すと手を振ってアルメメイオスは盃の赤い液体を飲み干すのだった。




次回、嵐に中で輝いて(前後編)
舞台は戦場へ……

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