転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【16話】爆風三人娘とブラック・サタデー・ナイト(前編)

 黒騎士とエストが王城に入るとドーリーの周りから人はあっという間にいなくなっていた。

 今なら絶好のチャンス。これにバッシュが入ってるんだー、と、ローラは好奇心から車体をベタベタ触ってみる。

 ちょっと埃っぽいけど気にならない。

 何というかここにロマンってやつが詰まってるんですねえ。黒騎士バッシュの名にときめかない星団男子はいないと思います(まる)

 

「おい、そこの!」

「はい?」

  

 ローラの真上に刀背負った少女の影が差した。

 名前はマロリーさん?

 

「きたねー手で触んじゃねえよ。チビ」

「えー」

 

 手は毎朝洗ってますけど……

 

「下がれよ」

 

 ローラが一歩下がるとマロリーが降りて目の前に立つ。背丈はローラより頭二つ分は高い。

 中学生くらいだろうけどその刀大きい……

 何となく業物っぽそうなのはわかる。これ見よがしに獲物背負ってる人を見るのは珍しいかも? 

 マロリーが背負う太刀の拵えは見るからに立派である。こんな少女が持っているのは明らかに違和感があるが、騎士であるからにはそれを咎める人間はいない。

 

「じろじろ見んなつってんだろ。デコ娘」

「いだ」

 

 マロリーがペチペチとローラのオデコをはたいた。

 オデコに対する差別は困ります。額へのいわれなき仕打ちには堪忍袋というものがございます…… 

 

「で、お前、誰だよ?」

 

 ジロジロと上から目線なマロリーがローラを吟味する。

 年上だろうがここで物怖じしてはオンナが廃ります。

 

「わたしはローラですけど……」

「あたしはマロリー・ハイアラキだ。武者修行のさいちゅーさ。今んところ一七戦一七勝中だ」

 

 自慢げな説明にそれでその刀ですかと一応納得する。

 

「その刀でです?」

「そーだよ」

「見せてもらっても?」

「イヤだ」

 

 即答された。そーですか……残念。それよりもだ。

 

「ハイアラキさんって」

 

 その姓はとっても有名所なあの方と同じなようですがご親戚なのでしょうか?

 

「んだよ?」

 

 ローラが疑問を口にする前にビュラードの声が響き渡った。

  

「マーロニーちゃーん!」

「げ、その声は……」

 

 マロリーが振り向くと同時にビュラードが勢いのまま彼女をハグする。

 

「おお、マロニーちゃーん♪ 我が妹よ~~!」

「てめー! クソ兄貴!?」 

「ぐふふ、そーだよ、おにーちゃんだよぉ」

 

 むぎゅーっとハグしたままビュラードはマロリーを離さない。

 何だかすごい嫌がってますけどぉ……大統領の妹さん? でもハイアラキなの? わからん……そいやビュラードも仮名だし……

 ルース家と剣聖ディモス・ハイアラキは親戚同士だしね。

 

「わざわざ会いに来てくれたのー?」

「うぜーよっ!」

 

 抱き着くビュラードを引きはがすのにマロリーが躍起になる。

 マロリーの手が伸び突き放そうとしてビュラードの顔が歪んだ。たらこ唇の変顔にローラは思わず吹き出してしまう。 

 

「むぐぐっ!」

「くっつくんじゃねえ、クソ兄貴! 久しぶりに帰ったと思ったらまた勝手に消えやがって! ついでに寄ってやったら無駄足踏んだんじゃねかっ! 黒騎士のじーさん見つけなかったら来てねーんだよ。なんで、ここにいるんだよ!」

 

 原作ではマロリーはここにいなかったけど兄と妹の再会は偶然っぽい?

 

「おいおい、再会のハグくらいいいだろ、な? マロニーちゃーん!」

 

 体勢を立て直したビュラードが両手をワキワキさせる。

 

「キモイんだよ。バカっ! マロリーだよ! 妹の名前わざと間違えてんだろーてめーは!」

「反抗期もカワイイーやつめ!」

「寄るなって!」

 

 言語コミュニケーションが成り立ってません。

 再度ハグしようとする兄にマロリーが激しい抵抗を示す。

 思春期ゆえの行動か。兄に対する妹の厳しい態度はずいぶん昔の転生前の自分がされたこともあるからちょっとだけ分かります。

 まあ、ビュラードは……ちょっとおかし楽しい人であるけど。マロリーの態度は家庭の事情がありそうではあります。

 バッチーンと派手な音が鳴り響く。マロリーの高速張り手が見事に炸裂しビュラードはコマのように回転して弾き飛ばされるのだった。

 うわぁ……痛そう。

 

「いでー」

 

 頬にくっきりと赤い手形を残してビュラードが倒れる。

 うーん、何この兄妹げんか……

 

「落ち着いてください。マロリー様」

「出たな、どインランでこっぱちファティマっ!」

 

 仲裁を試みたメガエラにガルルとマロリーが噛み付く。

 

「えー……」 

「ど、どインラン……」

 

 ピクピクとメガエラの眉が痙攣する。

 

「でこっぱち……」

 

 メガエラとローラして額に手を当てる。

 兄妹再会早々の口喧嘩とメガエラとは因縁がありそうな雰囲気……額も含めて。

 

「兄との折り合いが悪いのは妹の宿命みたいだねえ」

 

 その光景をソープが窓辺でのんびり見守りながら呟くのだった。 

 そんなわけで、兄妹感動の再会はわりと修羅場でした。

 

 

「──で、何だよガキのお守なんてしねーぞ」

 

 広場でのひと悶着な騒ぎも収まった頃。

 場所を変えて、セイレイ王女とイェンテ王子もマロリーに引き合わされていた。

 子どもたち同士で仲良くしろとのマイスナー女王のお達しですが、相手がチウ学生ではおのずと力関係の上下が生まれるのデス。

 黒騎士バッシュを載せたドーリーは格納庫の方へ運ばれて行ってしまった。まあ、後でまた拝めるだろうし……

 

「チビどもいーか。あたしの仲間にしてやってもいーけどよ。ただで入れてやれねえ。度胸試しに合格したらな」

 

 マロリーが取り出して咥えたのはタバコ……じゃなくて吸って美味しい駄菓子タバコだ。大人も楽しめるお菓子としてわりかし知られているやつ。

 味はイロイロでコーヒー味が大人っぽくて人気ある商品だ。 

 

「度胸試しって?」

「わたし、チビじゃないわ。それと、あなたに指図なんかされないわ」

 

 勝手に仲間にしないで、とセイレイが唇を尖らせて真っ向から異議を唱える。

 

「あんた、おーじょ様だっけ? 知ったこっちゃないね。どっちが上か思い知らせてやろーか。ああ?」

 

 がっつりとセイレイの頭を押さえてマロリーがグリグリ力をこめる。

 たちまちセイレイが涙目になるが王女のプライドからか泣きはしない。両手を上げてマロリーに抵抗するものの果たせない。

 あわわ、いきなりパワハラモード……

 

「や、止めてください~~暴力はダメですよぉ」

 

 怯えた顔のイェンテが止めに入るがマロリーに睨み返されて黙るのでした。

 お、男の子もっと頑張れぇ……

 

「えーと、何するんでしょーか?」

「そうだな……」

 

 ローラが質問するとセイレイをいびる手を止めてマロリーが考える。

 考えなしかよ……

 

「おい、バッシュ見たくねーか?」

「えーと……」

 

 そりゃ見たいけど……

 

「黒騎士くらい見たことくらいあるわよ」

 

 セイレイが返す。

 

「へー、そうかい?」

「当然じゃない」

 

 屈辱の涙を拭ったセイレイは胸を張って余裕という感じで応える。

 マロリーへの対抗意識をバリバリ感じる。セイレイってすごく負けず嫌いだし。年上だろうがひるまない度胸はたいしたもの。

 

「ぼ、ボク見たいですっ!」

 

 隣で勢い込んだイェンテが声を上げる。

 メカは男の子のロマン。星団モーターヘッドの人気トップテン入りするバッシュ・ザ・ブラックナイトとあれば、触れるなんてチャンス、滅多どころか超プレミアに違いありません。

 見たくてたまらないオーラでイェンテは頬を紅潮させている。

 

「だよなー。しかもコクピットにも乗れちゃうぞ」

「そんな勝手なこと黒騎士侯が許さないわ。適当なこと言わないで」

「それができるんだなー。簡単さ。黙ってりゃいーんだよ。興味ある奴だけ来いよ。ほら」

 

 マロリーが手招きしてイェンテを呼ぶ。その魔の手の魅力に抗えずイェンテ少年はなびくのでした。

 

「お前は?」

「あー、その、興味あるかもぉ……」

 

 ローラが返すと、セイレイが裏切者! という顔でこっちを見返す。

 いや……だって……黒騎士バッシュの魅力に抗える人はいません(たぶん)。

 

「そんな勝手なこと私、許さないわ」

 

 なおも抵抗するセイレイ。

 

「何だ? チクるのかよチビ」

 

 マロリーとセイレイの間で見えない火花が散る。しかし折れるのはセイレイが先だった。

 

「行きますぅ……あなたたちが変なことしないようにね……」

 

 というわけでマロリーさんの提案は全員賛成? ということに相成ったのでした。

 工場では整備班の人たちが忙しく作業しています。その目を潜り抜け、わたしたちはじゅーよーな任務を果たすために侵入を開始するのでありました。   

 今は内部の警備は手薄状態……ご飯時と交代時間が重なっているというセイレイ情報からさっき決めた計画を決行中であります。

 シュタタ、っと忍者になった気になって人目を避けて回り込む。警備と整備の人の目とカメラの死角を突くのです。

 わざわざ忍者プレイしなくてもふつーに頼めば済むのでは? なんて水を差すのは野暮というものです(たぶん)。

 この中で一番どんくさいのはイェンテ君くらいだ。

 セイレイの手招きに頷いてその後ろに続く。

 監視者(整備班)の目をごまかしながらチビっ子三人組とマロリーが移動する。

 

「あれが標的よ」

「あいあいあさー」

 

 セイレイが指差す。何だかんだでセイレイさん、ふつーにノってきてますよね。

 目と鼻の先にドーリーから解放された状態の黒騎士バッシュ・ザ・ブラックナイトが横たわっているのが見えた。

 まさに本物。全星団マニアが涎垂の生バッシュがすぐそこに!

 

「こっちこっち」

 

 最後の手招きをして全員集合。

 幸いか周囲に人はいません。今こそ絶好のチャンス。

 

「よし一番乗りだっ!」

 

 マロリーが台座の上に飛び乗って消える。

 

「ずるいですー」

 

 ピョンピョン跳ねてイェンテが上を見ようとするが当然見えない位置だ。

 

「ホント、子どもっぽくてやんなっちゃうわ。そこから上がればいいわ」

 

 ちびっ子三人がバッシュの股から顔を覗かせると騎士用のコクピット・ルームが開け放たれていた。

 

「こっち来いよ」

 

 マロリーがコクピットから体を乗り出して手招きするとすぐに頭を引っ込める。

 三人でコクピット内を覗き込むと、計器類をガチャガチャいじる音が聞こえる。連動用の器具もつけてないしエンジンも入ってないので当然動きはしない。

 

「やっぱでけえな。座席のサイズがガバガバだよ。よいしょっと」

 

 もう飽きたのかマロリーがコクピットを出る。

 騎士のコクピットは基本的に搭乗する騎士の体に合わせて座席調整するので、調整後の座席にフィットするのは騎士本人だけとなる。

 アニメでありがちなガンダム強奪! みたいなミッションは成り立たないのであります。

 

「じゃー、順番に入れよ。ジャンケンでな」

「私はいーわ」

 

 セイレイはジャンケン拒否。ここまで来ていい子ぶりっこでありますか?

 

「よーし、ジャンケン……」

「ポンっ!」

 

 イェンテとローラのジャンケン一騎打ちはイェンテ殿下の勝ちです。

 真剣な顔のイェンテに最初から譲る気だったローラはグーを出す。表情やらオーラでパーを出すのはわかり切っていたので、どーぞどーぞと座席に座ってもらう。

 椅子のサイズはやっぱりでかい。

 

「勝手にいじっちゃダメよ」

「大丈夫ですよ。動いたりしませんから。これがバッシュのコクピットか~~」

「ちょっと、隣開けて」

 

 イェンテが感嘆の声を上げるとセイレイも興味が湧いたのか中に入りこんだ。

 子ども二人くらい入っても中のルームは余裕があるので順番は実は関係ない感じだ。イェンテがMH操縦の手順をセイレイに教えている。

 あれ? マロリーさんはどこ行った? と周りを見るといないので下を見るといました。バッシュの足元で屈みこんで何かやってるようだ。

 キュッキュっと音がするのはもしかして……

 

「何して……」

「ふんふふーん♪」

『オレ様参上!』

『黒騎士ケンカ☆上等』

『ぴぃ~~す v』

 

 はわわ……あんた何してるんやー!

 バッシュの足元にそんな文字が刻まれておりました。マロリーの手にはマジックペン。「絶対落ちないユセーペン オメガ」であります。本人はやってやったぜ感満載な得意顔。

 見つかったら確実にヤバい奴だーっ!

  

「そんじゃーずらかるか。チビども呼んでこい」

 

 黒騎士に落書きかますとか命知らずも良いところだ。でもやっちまったものは仕方ない。

 被害を最小に留めるにはここから素早く立ち去るしかない。

 戻ってセイレイたちに早く出てとジェスチャーをする。不満そうな顔のセイレイと名残惜し気なイェンテを伴って下を見ると……時既に遅しでありました。

  

「バッシュ~~~」

 

 そこには拳をぎゅーっと握りしめてプルプル肩を震わすエストさんとロードス侯が立っていたのです。

 当のマロリーさんと言えば、こっちに早く降りてこいという仕草。

 なんだかすごく嫌な予感。

 

「あたしがここに来たらもう書いてあったんだよ。落ちないペンで書くなんてひどいだろ?」

 

 はー? あなたがやったんじゃ……

 ローラの追及視線をマロリーはガン無視。 

 

「ガキどものいたずらじゃろう。落書き程度すぐに落とせる。気にするなエスト」

 

 ロードスの取りなしにエストが顔を上げてニッコリ返す。

 

「ええ、もちろん気にしてません。マスター」

 

 そのとき、ローラは背筋が凍るような殺気を背筋に感じるのだった。

 エストさん怖い! 笑ってるけど内心般若じゃないですかーっ!

 

「犯人は誰かなあ~」

 

 隣に立ったマロリーがローラの肩を押した。っと、バランスを保とうと足を踏み出して何かがポケットから落ちた。

 カラーンと音を立てたソレは「絶対落ちないユセーペン オメガ」だ。

 

「は?」

 

 今、わたしのポケットから落ちました?

 

「犯人みーっけ」

 

 マロリーのわるーい顔。その瞬間わたしのハートはダークサイドに染まるのでした。ハメられたっ!!

 

「ち、違う。わたしじゃないよ」

 

 子どもたちの反応と言えば「えー」という感じ。二人がポケットを探ると……

 

「こんなの知らないわ!」

「ポケットにいつの間に?」

 

 セイレイとイェンテの手に同じマジックペン。もはや動かぬ証拠を前にちびっ子は絶体絶命。マロリーは圏外に逃れて涼しい顔だ。

 

「王女様まで……私のバッシュが嫌いなの?」 

 

 エストが顔を手で覆ってシクシク泣く仕草。

 

「エスト。子どもたちにはちゃんと消させるからな? それでいいだろう? な?」

 

 ロードスがエストの肩に手を置いて収拾を図るが、ローラにはいったんは収まりかけたエストのダークオーラが黒騎士の足元から忍び出て渦巻いてるのが見える。

 あれは絶対ウソ泣きデス。

  

「わ、わかった。エスト……ちゃんと始末はつけさせる。落書きくらいで、な? 待てマロリー」

「ぎく」

 

 そそくさと逃げようとしたマロリーをロードスが呼び止める。 

 

「そのペンはお前が買い求めたものだろう。見覚えがあるぞ。手癖の悪い奴め。ディモスめ、娘のしつけがまるでなっておらん。その背負う剣に恥ずかしいと思え」

「ああ? 剣なんざ知ったことかよ。さび付き一歩手前のじーさんに説教なんてされたくないね」

「どうしてこう聞き分けのない娘になったものか。まったく。少しばかりお灸が必要なようだ」

「ごめんこうむるねっ!」

 

 マロリーはあっかんべーで応酬するとロードスの額に血管が浮かび上がる。

 

「セイレイ王女も反省なされよ。そういえば約束していた技の伝授。今年の訪問でお教えする約束でしたな。ちょうど良い、そこの三人娘まとめて伝授することにする。技の重さを直に伝え、受け継ぐという意味を悟るのに良かろうて」

「ぼ、ボクは……」

「イェンテ殿下は落書きを消してもらうことにいたそう。良いな、エスト?」

「まあ、楽しみっ!」

 

 両手をポンと合わせてエストは楽し気に笑う。

 それがどういう意味なのか……そのときのわたしにはまったく予想がつかないことだったのです。

 爆風吹き荒れる会場で三人娘と黒騎士の果し合いが始まるのだが、それは次のお話で……




もーお祭りですから

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