転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【24話】思いがけぬ選別

 ミースさんのお部屋係に任命されたわたくしめでございますがメイド生活が楽になるわけではありません。

 朝は五時に起床です。制服であるメイド服は実は二つありまして、みんながメイドと聞いて想像するシックな黒服ワンピは実は午後服です。

 朝から夕方までは明るい色のワンピにエプロンが午前服の装いです。午後四時のハイ・ティーを境にこの服から午後服に着替えるのです。

 男性使用人もモーニングから午後服の黒の燕尾服に着替え、パーティなどがあっても失礼がないように備えます。

 これは貴族の習慣に対する使用人の義務となっております。

 

 寒さが染みる季節なので起き抜けの朝の掃除は結構きつめ。木枯らし落ちる庭をみんなで清掃します。

 食事の準備が整いましたら、ご主人様方やお客様の食後にわたしたちのご飯となります。

 厨房はいつも美味しい匂いに満ちています。残り物で作ったといっても一流のシェフたちの片手間ですから、普通は出て来ないであろう絶品な組み合わせ料理が出てきたりと料理の裏番組みたい。

 

 昨日の晩に食べたのは、インカの目覚めのオリーブオイルと、ローズマリーの炒め物、余った肉入り余ったトマト入りカブのミソスープ、お茶はウコン茶、ケットウ茶などなどでした。

 今夜のメニューは何かなと楽しみにしながらカリカリのトーストにバターを塗りたくりハチミツまで上乗せしてかぶりつく。

 カロリー摂取も労働者の義務であります(もぐもぐ)。

 薄切りのパンは食べ放題でジャムのレパートリーはマーマレード、イチゴ、チョコクリームと豊富です。

 簡単に火を使わないのが朝の定番メニューです。

 

 ミースさんの専属お世話係ですが日常業務は他のメイドさんたちと変わるところはありません。

 洗濯ものなどを回収したり、実際に洗ったり、干したりを手伝ったりします。

 仕事に合間ができると、専属メイドはベル(携帯電子ベル)を持っていつでも呼び出しに応じられるようメイド用の待機部屋(小部屋)で控えます。

 二足のわらじは目まぐるしいというほどではありませんが、お客様の要望にいつでも応えられるよう心得ておかねばなりません。

 専属になりますと朝までサーブ(給仕)することもあるらしいですが、未成年メイドにはそこまでさせないみたい。  

 

 人選チョイスとしては一番年が近いのがわたしであったこと。話し相手として選ばれたみたい。

 ミースさんは手がかかるところは全然なくて話しやすいし、かえってこちらに気を使うことしきりで控えめですから難しいことはありませんでした。

 

「あの……」

 

 ミースさんがメイド待機室に顔を覗かせて帰ってきました。

 トランの国立大付属校に転入して初日です。わたしは帰ってくるまでふつーの仕事をして現在は部屋で待機中です。

 待機室はメイドたちが持ち込んだマンガやら暇つぶし用のゲームなんかも置いてあるので退屈はしません。

 くふふ制服姿のミースちゃんかわいいなあ~

 

「何やってるの。ローニャちゃん?」

「クロスワード・パズルですよー、やりますー?」

 

 端末を見せてリセットしてから渡す。これはローラちゃん自家製のクロスワードですがただのクロスワードではないのです。

 メガを超えたスーパー・クロスワード! ランダムに生成されたコード(ローラ製)が複雑怪奇なワードを生み出します。

 

「クロスワード・パズル大好き。面白いよね」

 

 目を輝かせて始める姿にわたくしちょっとだけ腹黒モード。

 そ・れ・は、安易に見える答えを組み込むと複雑さを増していくトラップ・パズルだ。

 なまじ問題見ただけで解を導き出すマイトからすれば初見では罠にはまってしまうタイプのもの。

 普通ならすぐに気が付くところだけど、マイトがマイト対策に編み出したコードを組み込んでるので初見の一問目から罠にはまると抜け出せません。

 わたしでも不意を突かれれば六分近くかかる代物。モラード先生と初めて会ったとき出された問題集と同レベルの内容です。

 一般人なら一生解けるかわかんないレベル。

 

「えーと……何でえ?」

 

 頑張れミースちゃん! 意地悪問題出して苛めてるわけじゃありませんから! 任意ですから!

 

「うーん……」

「お茶淹れますね」

「はーい」

 

 端末に集中してこっちを見ない。お茶でも用意するかとティーパックと食器にクッキーを用意する。

 トポトポと美しい液体をカップに注ぎます。

 

「できた!」

「はえ?」

 

 喜ぶミースが見せる画面にはコンプリートの文字が……ええ? 嘘でしょ……

 時間は四分と一八秒。わたしのジャストタイムを三八秒上回っている。

 

「ふええ~~そんなぁ~~」

「ええっ!? な、泣かないでぇ~ ローニャちゃん」

 

 わたくし不覚でございました。マイトとしての才能を見いだされ、バランシェ公の後継ぎに選ばれるであろうミースさんでも、マイトとして先輩である立場のわたしに多少のリードがあると思っていたのです。

 しかし、ちっぽけな自負は見事打ち負かされ自分の敗北を思い知らされる結果となりました。

 

「何かあったのかね?」

 

 深くしわがれた声が室内に響く。部屋の戸口に車椅子姿のバランシェがいて二人に目を向けた。バランシェの後ろにはチャーティ・ウッドが控えている。

 

「おじ様、私、泣かせてません……その……クロスワード・パズルを解いただけで……」

「? 見せてごらん」

「はい……」

 

 バランシェが端末を受け取る。スイッチを入れ直すと直前の画面が再起動する。タップしてゲームのクリア履歴が表示される。

 それを見た後に再度ゲームを起動する。バランシェは顔を上げて問いかけた。

 

「これを解いたのはどちらだと言った?」

「ごめんなさい。私です!」

 

 すっかり叱られると思ってミースは体を震わせる。

 

「うう……わたしの必殺コードがぁ。四分一八秒で解かれちゃったんですぅぅぅ~~~! くやちいよう~~」

 

 その横で悔し泣きの涙を飲むわたし。とてもとてもかわいそう。ですよね??

 

「ミース……これは普通のクロスワードではない。一般人が解ける類のものではないのだよ。ローラ……わかっていてやったのかね?」

「え?」

 

 ローニャを違う名で呼ぶバランシェにミースが戸惑う。

 

「わたしー ミース様がやりたいっていうからどーぞって渡しただけですぅ」

 

 事実ですから! じぇんじぇんわざとではありませーん。

 

「ミース、これはマイトのみが解けるコードで構成されている。普通の人が解ける類のものではないのだよ」

「え……?」

 

 ミースが大きく目を開いてバランシェを見つめ返す。

 

「二人とも夕食後にわたしの部屋に来なさい。まったく運命とは皮肉なものだ……」

 

 そう独白するように呟いてバランシェはウッドに車椅子を押されて部屋から立ち去るのだった。

 

 

 翌日……青い空に白くはためく絨毯はシーツの海だ。その洗濯物の波をメイドたちが順番に取り込んでいく。

 

「おっ仕事。おっ仕事~フフフーン♪」

 

 エルやアリアと一緒に洗濯物回収中。 

 今日も真っ白シーツはぴっかぴか~ お日様の匂いを吸い込んで~ 夜はふかふかぐっすりよ~

 

「これで最後です。マスター」

「うふふ。お仕事楽しいですね~」

 

 シーツを抱えた二人はすっかりメイド業が板についてます。

 

「よいしょっと!」

 

 みんなで取り込んだシーツを運び大量に積み上げてカートで輸送! これを運び終えたらここの仕事はひと段落だ。

 この後は休憩だし、部屋に用事を思い出したローラは自室への道を歩き出す。

 

 昨夜はバランシェ公に叱られられるようなことはありませんでした。

 ミースは自分が何者であるのか、ということを知らなかったこと。

 彼女は一般人とは違う人種で、AD世紀に生まれた組成構築ダイバーパワー「ルシェミ」の力を受け継いだ存在「マイト」であること。

 ローラもミースと同じであり、学校に通うことは不要であることとか。

 そして二人には試験問題【マキシマム】が出された。

 その結果は……

 

「あれ?」

 

 はて? とメイドの部屋の前で立ち止まる。開け放たれた扉の向こうに人がいる気配を感じたのだ。

 この部屋ってアリアのだよね? もう戻ってるのかしらん? んなわけないか……

 

「アリアー?」

 

 軽い気持ちで覗いてみたけれどそこにいたのはアリアではありません。

 男です。背中を向けた大男が箪笥を開けて淑女の下着を漁っているではありませんか!

 あろうことかクンクンと乙女の下着の匂いを嗅いだ男はアリアのパンツを頭に装着しています。

 

「は……い?」

 

(あまりにもローラの理解を超えた行いのせいか顔まで認識できない)

 

「し、下着ドロっ!?」

「げっ? やべー見つかったぁ~~」

「はわわっ!?」

 

 現在、ワタクシありえない状況に頭の中真っ白デス!

 ココは使用人の部屋とはいえ女人ばかりの男性立ち入り禁止区画デス。客人だとしても許される行為ではありません。

 アリアのパンツをかぶったまま恥知らずの下着ドロが立ち上がり、ローラは思わずのけ反って道を開けてしまう。

 あうあう変質者め~~! アリアのパンツ! 取り戻してもあのHENTAI行為されたと思ったらもう履けないでしょバカー!  

 

「待ちなさいっ! HENTAIっ!」

「待てと言われて待つか! スタコラサッサだぜっ!」

 

 飛び出した曲者はすでに廊下の果て。ローラは追いかけ始める。

 く、下着ドロのくせに足が速い! 必死に追いかけますが相手は変質者。追いつきたくない心理も働きます。

 

「おい、何だアレ?」

 

 変質者が廊下を曲がる。まっすぐ通路の先にモンスーンとじゃれてたマロリーがローラに声をかける。

 

「下着ドロ! 捕まえてっ!」

「あに? ブッコロソー」

 

 ローラは角を曲がるとすぐにマロリーが隣に並んだ。二人は廊下を駆け抜け館の外に出る。

 

「いた!」

 

 パンツをかぶった不埒者は諦めたのか庭で立ち止まったのが見える。

 

「騎士だから容赦要らねーよな! 右から行けっ!!」

「あい!」

 

 マロリーが光剣を抜き放ち跳んで、ローラは相手の足を浮かせる手刀を繰り出す。

 その瞬間──何か変? 感覚が鈍くローラに反応を伝えてくる。肉体と知覚する感覚のズレにローラは違和感を覚えた。

 この……この感覚は! イケナイ、手を出すな!

 マロリーを制止する言葉は届かない。

 

 

「そいや、この庭だったっけなあ……」

 

 足元の石畳を眺めてパンツを脱いだ男が呟いた。彼は迫りくる少女二人には見向きもしない。

 飛燕が飛んで、足を狙った攻撃が繰り出される、がその体が揺らいで同時に一六の分身を生み出し乱れ跳んだ。超音速を越えた動きで周囲の音はかき乱されてつんざくような破裂音を響かせる。

 

 

「はっ!?」

 

 飛燕を繰り出したマロリーの背後に男がいた。マロリーがいつの間にと知覚する間もない一瞬のことだ。

 

「飛燕からの十文字霞切りか。まだまだ成長期だな……」

 

 マロリーの発展途上の胸か腕前の方かは定かでない評価を下す。

 初太刀は残像を切るが手ごたえなく終わった。返す太刀の軌跡の残影を男の目が追う。

 

「んでトンボ返り」

 

 制止したかのような鈍い時間の中でトンボ返りを片指で弾く。   

 

 

「オンナの子に追いかけられるのうれしーけど。もうちょい大きくなってからな」

「く!?」

 

 突然目の前に現れた”もう一人の男”の動きにローラは思わず掌底を繰り出すが空振りに終わった。相手の動きは凄いゆっくりにしか思えないがこちらの動きを完全に封じるものだ。

 伝えてくる生体波動がそれを実体だと教えてくれる。ではマロリーと対峙しているのは?

 目の前の男から伸びた細くも強いエネルギーの線が分身の男に繋がっている。超高速で動くことで生み出した分身ではない本物の実体なのだ。

 その分身がマロリーを手玉に取っている。ここに至ってローラは下着ドロが何者であるかを理解する。

 

「相手に非があっても丸腰に武器持って仕掛けるって意味、わからないなら、ちょっとだけ教えてあげよう。お転婆さんたち」

 

 二つの声が同時に告げた。

 

「これからお前たちの力に応じた力で攻撃する。逃れる手はない。生き残れ、もし生き残れれば……」

 

 ローラは声からも生命波動の圧迫感を感じとる。圧倒的過ぎる存在感だ。

 ミラー(次元反転分離攻撃)。剣聖技(イペル・スキル)と呼ばれるダイバー・パワーを持つ者が受け継ぐ技。

 大剣豪・剣聖ディモス・ハイアラキでさえも習得できなかった技を会得したのはダグラス・カイエンともう一人だけ──

 すべての騎士の頂点たる強さの象徴。

 万軍を相手にしても剣聖に勝るものなし。

 彼の言葉を最後まで聞くことはできなかった。

 剣聖が指を弾きこの勝負はついた。

 

 

 二人は同時に吹き飛ばされる。庭で吹き荒れた風が館の窓を激しく叩き壁に亀裂が走る。 

 これが最強の剣聖……手も足も出ない。

 ゆっくりとローラは落ちていく。肉体が鈍い音を立てて石畳に転がって血の飛沫が道を作った。

 動けぬ体で自分の状況を把握する。

 

 あうあう~ わたしの足、足、あれ動かないよ? どうちてぇ?

 右足はなかった。目の前を転がっていく物体が自分の足だと分かった。右足が千切れてないことを自覚する。

 それよりもこっちが危ない。

 うわぁ……出血量がヤバい。お腹の空いた穴から大量の血が流れている。

 まずーい。このままじゃ出血多量で死んじゃう~

 血を止めて……体を仮死状態にしなくちゃ。脳に酸素行かなくなる前に。

 ローラは力を総動員して心臓のポンプを止める。

 成功!

 血の供給を止め傷口からの出血が止まる。

 できたあ。でもダメー血が血が足らないよぉ~~

 ああ、らめえ、あたまんなかまでぐっちょぐちょ~

 か、仮死状態にぃ……

 

「やっべえっ! 思わずやり返しちまったけど。じじーに謝ま……るのはなんかイヤだな。よし、逃げるか」

 

 倒れたローラに大きな影が差し、霞む目で見上げるとこちらを覗き込むカイエンの顔があった。

 

「何言ってるんですかマスターっ!! こんな滅茶苦茶して逃げよーなんて許されませーん!」

「おいい、アウクソー放せっつーの! 見つかるだろーが!」

 

 も一つ小柄な影が差して大きな影と格闘する。

 アウクソー? そっか、カステポーであった事件とかはもう解決済みなんだね。ここにいるのは記憶を取り戻したアウクソーだよね。

 仮死状態だから目は見えないけど意識ははっきりしている。アンテナ拡大して周りの声を拾う。

 

「言い訳無用デス!」

「にゃ~~!? マスターが大変ですぅ! コークス先生ぇ~~~!」

 

 あー、エルーが来たー。タスケテ~

 

「何だいこの有り様は! ってやったのはカイエンかい?」

「げげ、コークスまだいたのかよ!」

「カイエンお黙り! この子はメイドの新人に……そっちはマロリーかい? あんた、妹弟子にまで手を出しやがって」

「な、成り行きってやつだ」

 

 コークスの剣幕にカイエンはすっかりタジタジとなる。

 

「二人とも緊急輸血が必要です!」

「エルカセットの血を使うよ。もう一人は時でもいいからすぐ呼びな! 血が足りん」

「はい!」

「あ、あのー私で良ければぁ……名前はアリアですー」

「知らない子だけどまあいいわ。二人ともここで同時オペ!」

 

 そんなこんなの大騒ぎがあったのはバランシェ邸の庭先での一件でした。

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