転生ローラのファイブスター物語   作:つきしまさん

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【3話】ブラフォード兄弟

 これは遠い遥か過去の記憶だ。

 

「戦うのだ。生き残った弟子はお前と兄のアレンのみ」

 

 記憶にある師匠の影はよどんで朧の中にいるようだ。顔さえもう思い出せない。

 

「いやです師匠……俺、兄貴と戦いたくない」

 

 まだ小さい俺が首を振っている。

 生き残るために身につけた技をふるった。この手はもう血で真っ赤に染まっている。

 共に育った兄弟たちに手をかけた。

 

「我が技を受け継ぐ者はただ一人のみ。ブラフォードの技は一子相伝の力。さあ、倒すのだ!」

 

 師匠が指を向ける。その先に兄弟子がいる。本当の兄とも慕うアレン。

 

「戦い、アレンを殺せっ!! アレンもバレンを殺すのだ。生き残った者が我が名を継ぐのだ!」

 

 共に育った兄弟子のアレン……俺には選択肢はなかった。ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 

「師は死んだ……俺とお前だけだ」

 

 地を汚した赤が広がり師匠が横たわる。荒い息を吐き出すアレンの手は真っ赤に染まっている。

 師を殺したアレンを前に俺はただ怯えていた。

 

「もう掟に縛られることはない。俺が殺した……兄弟と呼べるのはもうお前だけだ」

「兄貴……どうしたらいい?」

「バレン、忍んで生きるミミバの生き方に甘んじるな。俺たちは自由に生きることができる。だが男なら自分が真に主と思う人に仕えろ。俺はそう生きたい」

「兄貴……俺も、そうしたい」

「約束だ。バレン。俺はアレン・ブラフォードだ。お前もブラフォードを名乗れ」

 

 彼が差し出した手には青い石が二つ。何ということはない、価値がある石ではなかった。

 

「一つ取れ。この世界のどこにいても同じ石を持っていることを思い出せ。約束だぞ、弟よ」

「うん。どこにいても思い出すよ、きっと……」

 

 取った石はどこまでも澄んだ青の色だった。

 けれど、人の心はいつまでも澄んだままではいられない。そのことを俺は外の世界に出て思い知ることになる──

 

 

 荒れ野を蹴って二つの影が辺境の村に密かに入った。一人は巨漢の男、もう一人は子どもと思うほどの小さな性別不明なローブ姿だ。

 都会の喧騒を離れて一歩郊外に踏みだせばそこはもう人の手が入らぬ荒野だ。街道ならまだしも流通から少しでも外れればろくに舗装もされない道を行くことになる。

 首都圏を離れればこういう村は星団では珍しくない。こうした小さな村はたいがいが貧しく質素な暮らしを送っていた。

 村で作ったエネルギーはすべての家に繋がってその生活を支えている。

 親の言いつけで物を運んでいた幼い少女が茂みの中に転がったキラキラしたものを見つけると荷物を置いて拾い上げる。

 

「わ、キレイな石!」

 

 その娘の前に大きな影が差す。禿げあがった頭に体躯も立派な褐色の男はバレンだ。

 その身につける服はインディな装飾を思わせる民族服で、体には痛々しく見えるほど包帯が巻かれている。

 その横に立つのはローラだ。バレンが少女に質問を発する。

 

「青い石が一つ、手の中の物は何?」

 

 その発した言葉と目の前に突き付けられた指に少女の目が吸い寄せられる。

 

「あおいいし……ひとつ……」

「春風のお尋ねだ。例の御方は城に戻る。男たちを従えて。その中にこの男はいる?」

 

 バレンが広げた紙には似顔絵が書いてある。

 

「お尋ね者はこんな顔?」

「知ってる……御屋形様の騎士……この間からいる……村に一度来た……」

「何が目的で?」

「村長とお話……お金が要るって……出せなければ鉱山にもっと人を寄こしなさいって……できないと騎士を送り込むって……」

「鉱山はどこにある?」

「山向こう……誰も近づいてはいけないの……知らない人は行っちゃいけないの……誰も帰って来れないってお父さんが言ってた」 

「何も出せなければどうなる?」

「騎士様がやってきてみんな連れて行っちゃうんだって……ミオリの人たちは男手が全然いなくなっちゃったって……」

「ビービー、そこに行ったことある?」

 

 バレンはローラの問いに首を振って返す。

 

「いや……これ以上は何も知らなそうだ」

 

 少女の手を取って青い石が落ちてバレンの手の収まる。次には催眠が解かれ、少女は夢うつつから意識を取り戻す。

 

「あれ?」

 

 少女が周りを見回しても誰もいなかった。

 二人は再び荒野を走る。付近の村々への聞き込みを行っていた。

 丘を迂回して二人は隠れ家に入った。ここは隠れ家と呼んでいる小さな家だ。周囲から独立した造りで訪ねてくる者はいない。

 ヴィンズが中から出てきて出迎える。

 

「どうだった、バレン兄?」

「収穫はあったよね?」

 

 砂をかぶったフードを下ろしてローラは埃を払う。 

 あの後、謎の襲撃者とクモと名乗った男の処置に対応を追われた。マロリーさんとモンスーンはクモから情報を引き出すために上から降ろした連絡船(例のうなぎ)に連れて行った。

 マロリーさんたちとは後で合流する予定だが、ローラとヴィンズは先に隠れ家へと向かったのだ。

 エルカセットは上からサポート続行中。

 ミースさんとアリアは街に残した。ことが事であるだけに危険なことはさせられない。これは人の命がかかっている。

 隠れ家に来てからヴィンズが語った、バレンが巻き込まれることになったコトの背景はこうだ。

 

「最近出回り始めたドラッグがあるんだ。今年の初めに薬の売人の間で流行り始めて話題になった。安い割に最高にハイになれるって……でも、それから荒れ始めた」

「そういうの、よくわからないんだけど……」

 

 違法なクスリの売買とバレンが結びつかない。バレンはそういうことはしない。悪い人たちに利用されたりしなければ……

 

「俺は兄貴を探してた」

「うん」

 

 その名はアレン・ブラフォード……バストーニュで出会ったときもバレンはずっと兄貴のことを尊敬していた。

 兄にならって主に相応しい人物に仕えるのだと。

 ブラフォードは原作知識のある私にとっても意味のある名前だ。後にミラージュ騎士となる強力な騎士としてその名を覚えている。

 記憶にあるのは高潔な志を抱く騎士であるということだ。アレン・ブラフォードがドラッグの売買に関わっているとは考えにくい。

 

「兄貴の噂を聞いたんだ……情報を持ってる男を追跡したら薬の売人に繋がった。その売人を捕まえて居場所を教えてもらおうと思ったんだ」

「うん」

「そしたら妙な格好をしたやつらにつけられて追われた。俺は兄貴のことを知りたかっただけなんだ。それでこんなことになった……」

「バレン兄はアレン兄が良くないことに巻き込まれてると思ったんだ。その薬の出所がここらへんだってわかった。怪しいのは領主だ」

「組織的に薬を作ってばら撒いてるんだね……」

 

 わかった事実は、アレン・ブラフォードはここの領主に仕えているということだ。

 バレンは尊敬するアレンが領主にたぶらかされているのだと思っている。決して自分の意思ではないはずだと。

 カステポーは全部が無法地帯と考えがちだけど、どこかの国の飛び地領とか、カステポーの端に領地を持つ貴族は存在している。

 そこでは独自の法で統治が行われていることはよくあった。それが無法なものだとしてもだ。

 

「わたし、信じるよ。彼はきっと騙されてる。自分から悪いことをしたいわけじゃないはずだよ」

 

 ローラはバレンの太い腕に手をかけて手を握る。

 

「バレン兄、キュキィ姐さんには……」

「ダメだ」

「でも……」

「心配かけたくないんだ。俺は兄貴の目を覚まさせたい。悪い人に騙されてるだけなんだ。キュキィさんには何も言うな」

「わかったよ……」

 

 しゅんとしたヴィンズが水を注いで二人に渡す。

 

「エル、ここの領主のこと教えて」

 

 エルとは秘匿回線で繋がっている。送られたデータが端末に表示される。

 

『調べました。エレミシア・クアランは先代のクアラン卿から三〇年前に領地を受け継ぎました』

 

 女領主の顔が出る。まだかなり若い。歳は中高生くらいだろう。

 データベースの写真はその頃のものかもしれない。

 

『母親はラーンの巫女でした。詩女ボルサ・バスコに仕えていましたが、ナトリウム・フンフトに代替わりしたときにラーンを出てクアラン家に嫁いだようです』

「詩女様に仕えていた巫女?」

 

 ボォスのミノグシアで太古から人々を支え続けてきた詩女(うため)は神聖な存在として民の間に浸透している。

 詩女は代が変わると聖地ラーンで神官として仕える人々も入れ替わる仕組みだ。

 領主の母親は晴天の詩女ボルサに仕えた。その後に貴族に嫁いだと……詩女に仕えていたのならば引く手数多であっただろう。

 聖地ラーンと言えば、今の詩女であるムグミカ・コレットはラーンにはいない。ハスハの王女である彼女はハスハの王宮にいるのだ。

 それがどういう意味を持つのかよくわからないけど、伝統的な詩女の行事から外れているのは間違いない。

 そのことから、ボォスの風習を知らない人はハスハに詩女がいるのだと思う人もいる。

 

『エレミシアの家系も巫女になることはあります。彼女の母親の実家はボルサから二代前に出た抱擁の詩女ルーザツギィ・ダルタンを出した家です』

「つまり巫女に選ばれるなかでもエリート中のエリートというわけね……」

 

 政略結婚であったのだろうことは想像しやすい。詩女を輩出した家の出で、母親も聖地で詩女に仕えた。

 尊い血筋の御方。というのが世間での扱いだろう。権力を持ち、止める者がいなければ暴走するかもしれない。

 

『モンスーン様から連絡です。繋ぎます』

「うん、お願い」

 

 画面に出たのはマロリーだ。

 

『あたしだー。あいつ全然口を割らねえよ。めんどくせえからけーさつに投げるわ』

 

 マロリーの背後に見えるクモはなんだかボッコボコである……

 巷での騒乱罪とか破壊行為でしばらくはムショ暮らしになるだろう。同情はまったくわかない。

 

「こっちも情報は揃えたよ。いほー薬物の製造現場を連中が隠してるみたいで、貴族の領主が悪い奴っぽい」

『じゃー、そいつぶっとばすか』

 

 何でそう短絡思考!? ストレスたまってるのん?

 でも慎重にならないと……あのときのクモに起きた変化は異常だった。底知れない何かを感じたが、それはクモからではない。

 あの額に浮かび上がった模様は何だったのか……?

 

 

 ──城館。ステンドグラスからの光が床に色とりどりの紋様を描き出している。

 王座のような玉座がある。椅子を前に男たちが膝をついて主の登場を待った。

 四人の騎士の前にヴェールで顔を隠したドレスの女が現れると女は自らの支配力を確かめるように男たちと控える女たちを睥睨する。

 そしてほっそりとしたファティマがその後に続く。ヘッドクリスタルが光を反射し妖しく輝く。その意思を感じさせない瞳が男たちを映しだした。

 

「我らが光。すべてを照らしだす光明の神子様……」

 

 言葉を発したのは第一の騎士だ。白い戦闘用甲冑を身にまとい、その態度には敬意が満ちている。

 

「我らが光……」

 

 第二の騎士は色違いの青騎士だ。第一の騎士と同様のものだが兜に顔を隠している。

 そして第三の騎士も黒い甲冑を身につけている。顔はフードに包まれて見えないが異様な妖気じみた気配を放っていた。

 そして第四の騎士……その伏せた顔を上げたのはアレン・ブラフォードだ。彼だけが甲冑を身につけていない。この中で最も新参者である。

 

「我らが光」

 

 胸に手を当ててそう宣言する。その主であるエレミシアが赤い唇に歪んだ笑みを浮かべる。

 彼女にとって騎士は支配の証。この城も、使用人も、領地もすべてが思うがままである。

 

「ほんにわらわは幸せ者よ。忠実な騎士と美しい人形を手に入れた……バランシェ・ファティマとな? これはまさに王に相応しい献上ものよ。そうであろう? 京よ」

「はい、我が君」

 

 虚ろな瞳でファティマが答える。騎士でない者にファティマが主という言葉を使うことはない。だがその精神は曇り、あり得ざる言葉を発していた。

 

「のう、アレン・ブラフォードよ。そなたの忠義、これからも見せてたもれ……」

 

 その声を聴いたものの心を揺さぶる魔性の言葉が広間に響き渡る。心酔した表情の第一の騎士と女たちがその声を聴く。

 顔を隠す他の二人の表情は知れない。

 

「は……我らが光」

 

 アレンの言葉を白騎士が鼻で笑い前に進み出る。

 

「ご報告があります。草どもが妨害にあったようです。クモより連絡が途絶えております」

「あの外道ごときいくらでも替えはあるが……不始末は許さぬ。わかるな? 我が白騎士よ」

「は……お任せください。我が光」

 

 そのやり取りを聞く間もアレンの表情は動かない。主の横に立つ美しいファティマの瞳が彼の姿を映した。

 

「わらわの邪魔をする者は何人たりとて許さぬ。抗う者には死を与えよ──」

 

 その身から発する強力なダイバー・フォースが玉座から放たれ、騎士たちはその場を去っていた。

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