俺のために鬼になってくれる女   作:鈴鹿鈴香

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オルレアン 03

 ライコーさんに抱かれながら進むこと数刻。なんとも代わり映えのしない景色にいい加減飽き飽きしてきた頃、突然ロマンさんが叫んだ。

 

『ちょっと待った! ラ・シャリテの方角……サーヴァント反応だ。多分砦から逃げたというジャンヌ・ダルクだろう。……砦から撤退したにも関わらず、続けて新たな街を襲おうとしているとは考えにくい。ラ・シャリテは既にジャンヌ・ダルクに落とされていると見ていいだろう』

 

 おいおい、一休みすらできそうにないな。ラ・シャリテが既に滅ぼされただけなのならばともかく、前線基地として竜の巣窟となっていたら目も当てられない。少なくともこの付近では呑気に一泊なんてことは出来まい。ここは迂回か? 俺は何時までライコーさんの腕に抱かれ続ければいい?

 

『けど、悪いことばかりでもない。ここから南東、ジュラの森に霊脈の反応を確認した。そこで召喚サークルを確立してくれ』

 

 ああ、それは本当によかった。よもやこのまま地中海まで抱っこされるかと戦々恐々としていたよ。いやあまったくおっぱい怖い。くわばわくわばら。

 

 

 

 ジュラとかいう恐竜が放し飼いにされてそうな森に向かって幾ばくか。霊脈地も近づいてようやくライコーさんから下ろしてもらえ、どうにか一息つけた。

 このあたり、自然豊かな割には背の高い藪が生い茂っていないのは幸いだ。歩きやすくて何よりである。日本の森とは植生が違うのだろうか。

 

 それにしても、スゴい大自然だなここは。まさに森って感じ。緑マナが豊富に取れそうな土地だ。エルフとか極楽鳥とか出てこねーかな。

 程なくしてロマンさんから指定されたポイントに到着。召喚サークルの設置を手早く済ませ、少しばかり地面に腰を下ろして休憩をする。

 

「ふう、お疲れ様ですライコーさん。走りっぱなしで疲れたでしょうし、召喚はもう少しゆっくりしてからやりませんか?」

「そうですね、マスターもお疲れでしょう。ではお言葉に甘えさせていただいて、補給物資を先にいただきましょうか」

 

 ロマンさんからは、以前冬木市でも使ったキャンプ用の携帯コンロとお茶、甘味なんかが送られてくる。ここに居るのが両者とも日本人であるために気を利かせたのか、おやつはゴマ饅頭だった。甘いものは好きだ。ライコーさんもあらあらまあまあと嬉しそうな様子で饅頭を口に運んでいる。

 

「饅頭がお好きなんですか?」

「ええ、そうですね。やはりこのあんこの甘さが素晴らしいです。私の生きていた時代にはまだ砂糖が伝来していなかったので、甘味と言えば果物と、それからアマズラと米粉の生地を練って揚げた唐菓子くらいのものでしたから」

 

 あー、やっぱり砂糖の甘さって別格だよなぁ。何ていうか、頭をガツーンと強烈に刺激する甘さは砂糖にしか出せない味だよな。抗いがたい魅力がある。

 現代となっては身近な分、正直麻薬なんぞより危険な白い粉だと思うんですけど。そう遠くない内にアメリカあたりでアンチ砂糖ブームが起こりそう。もう起こってたか?

 

 なんてくだらない事を考えてると、回線越しにロマンさんの叫びが響く。

 

『立香君! 大型の生体反応、ワイバーンがかなりの速度でこちらに向かってきている! しかもこれは……サーヴァント反応! それも2体!』

 

 おいでなすったな。ライコーさんと無言のまま視線を交わし、彼女は弓を、俺は盾を構えた。

 目を凝らせば、西の空から一直線に突っ込んでる2体のワイバーン。ロマンさんの言葉から察するに、連中はワイバーンをタクシー代わりに使ってきているようだ。

 

 しかし妙だ。奴さん方、最初から俺たちがここに居ることを知っているかのような、迷いのない突っ込み方だ。もしや先に逃げたジャンヌ・ダルクが俺たちを補足し、刺客を差し向けたのか? それか気配遮断に長けたアサシンが付近にいる? ドラゴンには視力の良いアーチャーが乗っている? なんにせよ、敵はこちらのいる場所を知る術を持っているようだ。

 弓に矢をつがえるライコーさんに背中を預け、彼女の背後を守るように盾を構える。仮にアサシンが森に潜んでいても、コレならなんとかなるんじゃなかろうか。俺の後ろはライコーさんが守ってくれるだろうし、これだけ大きな盾ならば、仮にアサシンが攻撃をしてきても、防御だけなら間に合うはずだ。

 

「ロマンさん! この森にはアサシンが潜んでいるかもしれません! 索敵をお願いします!」

 

 アーチャーと化したライコーさんがマシンガンアローをワイバーンに向けて放つ傍ら、ロマンさんにそう叫ぶ。攻撃、防御、索敵の三拍子そろったナイスな態勢だ。

 よし、なんか今回の俺めっちゃ冴えてないか? 戦場に潜む危険をいち早く察知して周囲に指揮をとばすとか歴戦の武将っぽくないか? ふっ、参ったなまったく、俺の頭の良さったら。今度から孔明と呼んでもらってもいいけど? 英雄は脳筋じゃ駄目だよね~。やっぱさ、オツムの方も出来が良くなくっちゃね。

 

 図体のでかいワイバーン共は、五月雨のごとく飛来するライコーさんの矢を避けきれないようで、あっという間にハリネズミだ。それを乗り捨ててこちらに跳躍する敵サーヴァントの姿は、ヨッシーを谷底へ蹴り落とす髭の配管工のごとく。

 空中で身動きの取れないサーヴァント相手にも容赦なく射撃をぶち込むライコーさん。しかしあちらさんもそう安々とはやらせてくれないようで、一人は棒状の武器……槍か? もう一人は杖で迫りくる矢を防いでいる。

 

「悪くない挨拶だ。中々の生きの良さと見た」

 

 地面へと降り立つ男女。目の前に立たれることで、彼等の全貌が明らかになる。

 死人のような白い肌、金の髪、そして……その手に握られるのは漆黒の槍。見るからにランサーのサーヴァントだろう。

 女の方の肌もこれまた白い。血の通わぬ魔性の如き不気味な肌色と、灰のように白い髪。顔面を覆うコウモリを模したマスクからは橙色に輝く蛇のような瞳が見える。こいつもわかりやすく杖を携えているところから、キャスターのサーヴァントと見て間違いないだろう。

 

 男の方はなんかロックバンドのギターボーカルでもやってそうなおっさんなんだが……女の方は何ていうんだろう。あれ、サキュバスとかそれっぽいよね。服がボンテージみたいでえっちだ。

 つーかこの人……なんとなく吸血鬼っぽくない? これ見よがしにコウモリのマスク付けてるし、ドレスは真っ赤だし。でもなー、俺的に吸血鬼って金髪ロリ、つまり闇の福音エヴァンジェリンAK47マクダウェル先輩なわけよ? そういうスケベ丸出しな格好は俺の中の吸血鬼イメージに悪影響だから止めてくれない? 早くロリになって。吸血鬼ならできるでしょ。出来なきゃ失格だから。

 

 これはアレだね。槍のおっさんは吸血鬼のねーちゃんの従者なわけだ。茶々丸とエヴァの関係なわけだ。おっさんが格闘タイプでねーちゃんが後ろで魔法打つタイプ。これしかないわ。

 

「何者だ」

 

 刀を抜き放ったライコーさんの影からおっさんに問いかける。

 

「我が名は……ここではこう名乗ろう、バーサク・ランサーと。ここには貴様らの血を戴きに来た」

「バーサク・アサシン……そうね、私はあなたのサーヴァントの血と肉、それからハラワタを戴こうかしら」

「強欲だな。では魂はどちらが戴く?」

 

 はい両者とも吸血鬼確定。

 こいつら魂が美容にどうとか血を啜る悪魔とか言い出しましたよネギ先生。ていうか女の方はアサシンだったんかい。もっと忍べよ。ドレス着て暗殺者はないだろ。俺ドヤ顔でこの森にアサシンが居るかもしれないとか言っちゃたよ。恥ずかしいんだけどどうしてくれるの?

 しかしこいつは俺にとって追い風。なにせ既にアサシンが目の前に居たんだから。これで背後の見えない敵に怯える必要はなくなった。

 

 それに、此度の戦い、他でもない吸血鬼との戦いだ……つまり。

 

「今回の敵はドラゴンだらけかと思いきや、そうではないみたいですね。ツキが回ってきましたよ、ライコーさん」

「ええ、そのようですねマスター」

「鬼退治……ですね。人の血を啜り、臓腑を貪る悪鬼羅刹……そんな魔性を、あなたは幾多も葬ってきたはずだ」

 

 ライコーさんの大大大得意な相手である。ピンポイント過ぎて笑っちまうぜ。数的不利な状況を鬼退治チートであっさり終わらせる……これは俺の女TUEEEEですわ。やってしまいなさいライコーさん。

 

「行くぞ吸血鬼共!!」

 

 俺の言葉の何が癇に障ったのか、ランサーが俺を睨みつけた。

 へっ、全然怖かなねえよそんなもん。次の瞬間にはテメーらまとめて細切れチャーシューにしてくれるわ! ライコーさんがな!

 

 突然だが、ここでひとつ話題を変えてカードゲームの話をしよう。よくその手の漫画の主人公って、ピンチになってから切り札を切って逆転勝利するよな。そんで自信満々に言うわけだ。切り札は最後までとっておくべきだぜ! とか。

 でもコレって結構呑気な話だ。実際にカードゲームをやっていると、そういう場面は中々現れない。一度窮地に立たされると、そのまま相手に押しつぶされて負けるというのが常である。相手が何も出来ない内にアドバンテージを稼ぎ、強引に押し切る戦法がカードゲームでは有効な戦術のひとつというわけだな。

 

 これって何もカードゲームに限った話じゃないと思う。爆発的なアドバンテージを得るための手段、すなわち切り札は最初に使うべきであると。

 それを昔の人達は戦いの中でこう表現しましたとさ。先手必勝と。

 

 つまりこういうことである。

 

「令呪を持って命ずる。宝具を開帳せよ、頼光!」

 

 切り札はいの一番に使う。そして自分のやりたい事を相手に押し付ける。うーん、なんて頭のいい戦法だ。

 

 俺の隣から凄まじい魔力の高まりを感じる。これに血相を変えたのはランサーとアサシン。おせえよ、てめえらには俺達のやりたい事を押し付けさせてもらう。

 

 俺の戦いの必勝法その2。切り札を使う時はケチケチしない。

 

「ガンド!」

 

 魔術礼装と言うものがある。今まさに俺が来ているピチピチスーツだ。コイツに予め刻まれた魔術理論を魔力によって起動させ、定められた神秘を実行させるものである。

 まあロマンさんの受け売りなんですが。そう、俺は勉強して新たな力を手に入れていたのだ!

 

 何時までたっても白黒の剣が出せない……プロローグは既に終わったはずなのに。なんてカルデアでぼんやり考えていた俺であるが、何時手に入るかもわからない力を待ち続けることには飽きた。

 とにかくなんでも良いから必殺技みたいなのがほしい! 恥も外聞をかき捨てロマンさんのもとへ向かった俺は、冬木の特異点でも治療のために使っていた魔術礼装の使い方を叩き込まれたのだ。お陰で特異点の時代特定だとか難しい技も覚えなくてはならなかったが、この闇属性の霊丸みたいなのをロマンさんのガイド無しでぶっ放せた時にはその疲れも吹っ飛ぶくらい嬉しかった。

 

 人差し指から迸る赤黒の弾丸。それは寸分の狙いも違わず今まさに杖を掲げたアサシンを襲う。

 

「ぐぅっ!」

 

 ロマンさん曰く、カルデアスの莫大の魔力をリソースに打ち出されるこのガンド、連射は効かないものの魔術に対する抵抗を持たないサーヴァントが相手ならば確実に行動不能にさせるほどの威力を秘めているのだとか。凄すぎワロタ。まあもともとカルデアスの魔力って俺含む48人分のマスター全員が使うことを想定してたっぽいし、それを一人でじゃぶじゃぶ使えるってんだからコレくらいの威力も当然なのだろうか。

 

 むつかしいことはわからん! とにかくこれでアサシンは行動不能。あとはライコーさんの宝具の発動を止めようと飛びかかるランサーを足止めする!

 

 続けて魔術礼装を起動。次に使うのは全体強化。自分のサーヴァント複数に対して一時的に魔力でブーストを掛ける魔術なのだが……ここはライコーさんに加えて俺にも使うぜ!

 

「うおおおおおお!」

 

 ぬわぁぁぁぁ! 体に力がみなぎるううううう!

 肉体を魔術で強化し、盾を担いで突撃! これぞ俺の生み出した最高に頭のいい戦法だ!

 

「ランサーぁぁぁ! 覚悟ぉぉぉぉ!!」

 

 俺は最強だ! ランサーてめーの棒きれみたいな槍なんざ強化された俺様の肉体でバラバラに引き裂いてくれるわァァァ!

 そして最強の男は頭も最高にキレてなきゃいけねえ! 俺は戦いの中で進化する男……ワイバーン、貴様との死闘は経験値となって我が内で生きているぞ。

 上から被さるように飛びかかってはウエイトで負ける。だから下方向から盾を相手にえぐり入れるように突くのだ。自分の体を地球と敵のつっかえ棒にして、無駄に溢れるパワーで相手をぶっ飛ばす。

 

「ゆんふぁああああああ!」

「ぐっ……邪魔だ!」

「ぐあああああああ!!」

 

 拮抗はほんの一瞬。ランサーは俺が叩きつけた盾の淵に肘を滑り込ませると、強引に横方向へ腕を振り払った。正面からの激突による衝撃しか頭になかった俺は、横っ面から襲いかかる力に対応できず、まんまとふっとばされた形である。

 なんと他愛のない……鎧袖一触とはこのことか……。体の使い方がまるで違う。英雄が生涯をかけて磨いてきた戦いの技術、そのほんの一角。この一撃だけで英雄という座の高さをまざまざと見せつけられた気分だ。

 

 あれ~おかしいね。ここはランサーと俺ががっぷり四つで組み合って「ライコーさん、今です!」って俺が言ってヤツらを宝具で一網打尽にするつもりだったんだけども。

 その結果がコレ。精々一瞬しか足止めできなかったわ。またライコーさんに説教される……めってされた後に頑張ったねってぎゅってしてもらえる……。もう一回される……。

 

 ライコーさんに襲いかかるランサー。だが、一歩届かなかったようだ。ライコーさんのほうが速い。俺が稼いだ時間は一瞬だったが、それでもライコーさんにとっては十分な時間だったわけだ。はっはっは、見たかランサー、俺達の友情コンボを。

 

「牛王招雷・天網恢々……」

 

 そう言えば俺、ライコーさんの宝具見たことねーな。冬木では気を失ってたし。やっぱビームかな? 刀持ってるし、あれでビーム撃てなかったら嘘だもんな。

 

 地面に寝そべりながらライコーさんを眺めていたら、晴天にも関わらず空からは雷が降り注ぎ、一瞬の内に彼女が5人になった。

 

 す、すげえ。ライコーさん分身しよった。うわ、ちょ、これってスゴいことだよ。5人もいたら俺含めて6Pできるやん! 東西南北からおっぱいでサンドしてもらっても尚ひとり余るやん! これはスゴいプレイができるぞ! なんて贅沢な宝具なんだ!

 

 分身したライコーさんは、そのひとりひとりが異なった武器を持っているようだ。ライコーさんがいつも持ってる刀、それとはまた別の種類の刀、それから弓、槍、斧だ。彼女たちが一斉にランサーに襲いかかり、数の利を持って蹂躙する。

 

「ライコーさん! ランサーに攻撃を集中してください! ここで確実に仕留めましょう!」

 

 ここで欲張ることはしない。時間経過でどれも再使用が可能になるとは言え、令呪一画と魔術礼装に登録された魔術を2つも使ってしまった。これだけのコストを払って色気を出したあまりにどちらもとれないなんて状況だけはなんとしても避けたいところである。

 しかもランサーさえ倒せたならば、残るはアサシンのみ。アサシンごときにライコーさんが遅れを取るわけがない。ましてやライコーさんにとって相性のいい吸血鬼だ。もはや脅威足り得ない。

 

 俺の叫びにライコーさん達が小さく頷く。5人のライコーさんの猛攻に、ランサーもあっという間に血まみれである。

 しかし、敵もさるもの。吸血鬼の名は伊達ではない。5人にフクロにされているにも関わらず、致命傷は避けているようだし、体に受けた傷も浅いものは瞬く間に癒え始める。吸血鬼ってコレがあるから強いんだよなあ。フィジカルの強いやつってシンプルに強キャラだし、何よりそういうやつってタフネスもたっぷりだから僅かな勝利フラグでもガッツリ掴んでモノにしちゃうし。ベイ中尉とかまんまそんな感じだよな。横槍入りまくってあんまり勝利してないような気もするけど。

 

「ぐおおおお! 舐めるな、余は不死身の吸血鬼! 夜を統べ血を啜る悪魔(ドラクル)!」

 

 吼えるランサー。けどさあ。今回ばっかりは吸血鬼も形無しだぜ。あんたちょっと出てくるタイミング悪かったよ、うん。俺、すごく言いたい。なんで君たち吸血鬼のくせに日中からこんな所に来てんの?

 そりゃ森も深いから日光は結構遮られるよ? でもさ、今思いっきり昼なんだよ。もしかしてジャンヌ・ダルクに言われて来たの? だとしたらちょっとジャンヌさん、まずはブラム・ストーカーを読むところから始めてみたらいかがでしょうか。古典が嫌いならヘルシングでも彼岸島でもなんでもいいからさ、一辺吸血鬼について勉強してこいよ。俺もそろそろ日本史の勉強してライコーさんのこと学ぼうかなって思ってたところだからさ。

 

「矮小十把、塵芥に成るがいい!」

 

 ライコーさんの攻撃の手がより激しくなる。ランサーも雄叫びを上げて抵抗するも、もはや勝負は見えた。

 彼女の刀から雷が迸る。ああ、やっぱり最後はビームなのね。

 天下五剣の一口。童子切安綱はかつて鬼の首を跳ねた一振りだ。血を吸う羅刹……名も知らぬ吸血鬼のランサーも、これを前にしてはひとたまりもあるまい。

 

「思い上がりましたね? それが鬼であるならば、私が負けようはずもありません。……あなたが武人としての誇りを、君主としての護国の精神を持った人間として戦ったのなら、勝負は見えなかったでしょうに」

「……それでも……余にはこれしか、残されておらぬのだ……例えそれが、虚構であろうとも……」

 

 今、首が絶たれる。彼女たちの会話の意味は、俺にはわからない。ただ、死に際のランサーの顔はどこか悟ったような、薄く笑んだような、名状しがたくも喜色を孕んだものだった。少なくとも恨み節ではないだろう。

 ならば、彼を哀れと思うなかれ、鬼の末路はいつもひとつである。彼の不幸は源頼光という、並ぶもの無き鬼退治の英雄に出会ってしまったことに他ならない。


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