気絶はレアって言ったじゃないか。今日で三回だよ三回。
次に目覚めた時場所は、燃え盛る街の中ではなかった。俺いっつも目覚めてばっかだな。
真っ白い天井、清潔なシーツと枕、隣に眠るのはこの上ない美女。
そう、ライコーさん添い寝キメてくれてたわ。最高の目覚めだぜ。
カルデアに帰ってこられたのか。
ベッドから身を起こせば、体中が痛んだ。周囲には様々な医療機材が犇めき、物々しい雰囲気に包まれている。
もしかして集中治療室ってやつか? よくライコーさんこんなところで添い寝しようなんて思ったな。やっぱパないわこの人。
さて、起きたらどうしたら良いんだろう。ナースコールとか枕元にあるよな。
どうれいっちょう探してみるかと思い立つなり、パタパタと扉越しに駆け足の音が聞こえる。
「立香! 意識が戻ったのかい!」
息を切らせて部屋に飛び込んできたのはロマンさんだった。最後に見たときよりも更にやつれて見える。クマもひどい。ロクに寝られていないのではないだろうか。
彼の大声のせいか、ライコーさんも目を覚ます。
「まあ、マスター! お目覚めになったのですね!」
感極まったように抱きつかれた。起き抜けにこいつは堪らんぜ。ははは、サイコー。
その後治療室を出た俺たちは中央管制室へと向かった。瓦礫や怪我人は大方片付いたようで、今ではここも落ち着いた様子を見せている。
「おはよう、こんにちは、立香。意識ははっきりしているかい?」
「はぁ……おはようございます」
俺が起きたのは3日ぶりだったらしい。離乳食みたいな飯を口に入れながら、彼女、あるいは彼も交えて話し出す。
モナリザみたいな人が俺に自己紹介してくれた。この御方はレオナルド・ダ・ビンチらしい。びっくりしたわ。モナリザって本当は自画像だったんだ。斬新すぎる設定である。
ロマンさんとダ・ヴィンチちゃん(ちゃん付けするよう言われた)とライコーさん。この三人で顔を突き合わせ、俺が眠っている間の話を聞かせてくれた。
俺がアーサー王の攻撃を凌いで意識を失った後、ライコーさんは見事にアーサー王を討ったらしい。さすがとしか言えない。
で、なんとか特異点の原因であった聖杯を回収することは出来たのだが、その後レフの裏切りで所長が死亡。
「えっ!?」
今年で一番ビックリしたわ。所長死んだの? 嘘だろオイ。
レフって誰だよとかいう疑問も全部放っておいて突っ込ませていただきたいのだが、え、マジで所長死んだの? ヒロインじゃなかったの?
「信じられないとは思うが、彼女の肉体は中央管制室が爆発した時点で失われていたんだ。君が接していた所長はトリスメギストスが転移させた彼女の残留思念だったのだよ」
幽霊だったってこと? たまげたなあ。何よりも彼女ほどの濃いキャラがfateでは使い捨てのキャラでしか無かったことに驚いた。勿体無い。
話は続き、レフの裏切りで所長が死んだ後、レイシフトでなんとか俺とライコーさん、それからマシュはカルデアまで帰ってこられたらしい。俺は意識を取り戻したものの、マシュは未だに目を覚まさないままとのこと。魔力についてはカルデアスを依代にすることでどうにか供給できているらしいが、そのへんの専門的なことは俺にはわからない。
で、ここからが大事な話。今回俺達はひとつの特異点の原因を排除することが出来たが、どうやらこれがあと7つ待ち受けているらしい。
7つか。ドラゴンボールでも集めるのかな。今回だけでも割りと死にかけたのに、そんなに何度も繰り返すなんて大変だぁ。
「この状況で君に話すのは強制に近いと理解している。それでもボクにはこう言うしかない。マスター適性者48番、藤丸立香。君が人類を救いたいのなら、2016年から先の未来を取り戻したいのなら。君はこれからたった一人で、この七つの人類史と戦わなくてはいけない。その覚悟は、人類の未来を背負う力はあるか?」
真剣な表情でロマンさんが問い詰めた。
ふっ、そんなこと。
「愚問ですね」
彼がにわかに微笑む。
「それに、ロマンさんの言ってること、少し間違ってますよ」
一転して困惑の表情を浮かべる彼を前に、俺は隣に立つライコーさんの腕をそっと掴んだ。
「俺一人じゃない。ロマンさんが言ったことですよ、彼女が居れば百人力だってね」
相変わらずカッコイイな俺は。自分で自分に惚れそうだ。
「ライコーさん。俺の力なんて些細なものです。世界を救うための覚悟なんてとっくに出来ている。けれども、俺には力だけが足りていない」
彼女の腕に触れていた手を、そっと右手にスライドさせ、強く握る。
「どうか、あなたの力、俺のために振るってくれませんか」
返事、聞くまでもないかな。だってアンタはもう、俺の女だ。
手が強く握り返される。そうだろう、アンタにとっても。俺はアンタの男だよ。
「勿論です、あなたの刃ですもの。ご命令とあらばこの頼光、鬼になります」
物騒な言葉とは裏腹に、彼女は溢れんばかりの笑みを浮かべて頷いた。
さあ、世界を救う旅は始まったばかりだ。
グランドオーダー、実にカッコイイじゃないか。きっととんでもなく長く、大変な旅路になるだろう。
でも上等だぜ。世界にも贔屓されているこの俺が、未来の1つや2つ、華麗に救ってみせよう。
なによりも、俺はこんなにもいい女に愛されているんだ。俺のために鬼になってくれる女に。誰が相手でも負けるはずがない。