「二人の白皇」にて、クオンが暴走した際にハクが現れなかった場合のIF

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うたわれるものIF ~クオンループ物~

 

 どうしてこんな事になったのだろう?

 血溜まりに沈む仲間達を見つめながらぼんやりとそんな事を考える。

 

 ハクを失い暴走した(わたくし)は、父たるウィツァルネミテアの権能(チカラ)を顕現させた。

 そしてその力は、ハクを失った事による損失感を埋める為に私に近しい人達の姿を投影し、更に魂を捕え永遠とする為に仲間達を攻撃し始めた。

 

 仲間達は必死に応戦し、私が生み出した影を幾度となく打ち倒したけれど、影は何度倒されても蘇った。

 当然だ。産み出された影はウィツァルネミテアと契約しているに等しく、その契約が結ばれている限り、滅ぶ事は無い。

 

 そんな相手に如何な仲間達も敵う筈がなく。一人また一人と倒れていき、とうとう影以外動くものがいなくなった。

 

 影達が倒れ伏した仲間達にとどめを刺していく。

 私がどれだけ泣き叫んで懇願しようが、影達がそれを聞き入れる事は無い。

 これは全て私の為なのだと。これこそが私の願いなのだと。影達は微笑みながら仲間の命を摘み取っていく。

 そして、命を絶たれた仲間の身体からは光の玉が現れ、私の周りを漂い始めた。

 

 《コレデ汝ノ願イハ叶エラレタ。最早大切ナ者ヲ失ウ事ハ無イ。》

 

 分身が蹲る私に囁きかけてくる。

 

 「違うっ! 私はっ! 私はこんな事、望んでなんかいなかった!」

 

 《イイヤ望デイタノダ。心ノ奥底デ。自身デハ気付ク事適ワヌ根本ノ部分デ、汝ハ願ッタノダ。コレ以上傷付カヌヨウニ。親シイ者達ト永遠ニ過ゴセル優シイ世界ヲ。》

 

 分身がそう言うと黒い世界は光に包まれた。

 そして、光が収まると私はトゥスクルの皇都を見下ろす丘の上に立っていた。

 

 丘を吹き抜ける風が森の香りを運んでくる。

 空から降り注ぐ温かな日差しは、思わずそのまま寝ころびたくなる程の心地よさだ。

 

 (あれ? ここは・・・。)

 

 突然の事に頭が付いて行かない。

 つい先ほどまで私は暗闇に囚われていたはずなのに今は自由に身体を動かす事ができる。

 なんだろう? 頭がぼんやりする。それにとても心地良い気分だ。

 

 「クーちゃん!」

 

 背後から大好きな姉の声が聞こえてくる。

 その声に振り返ると私の大好きな人達が笑顔で並んでいた。それはトゥスクルの家族だけではなく、ヤマトで出会った仲間達も一緒だった。

 

 「クー! どうした? 早く来る!」

 「そうだぞクオン! 早く来い! これから宴だ!」

 「そうやえ~! おいしいお酒が沢山や!」

 「クオン様の好きな料理も沢山作りました!」

 「私も手伝ったのです! だから早く来るです姉様!」

 「来ぬのなら予が全部食べてしまうぞクオン!」

 「クオン殿!」

 「クオンさん!」

 「姉御!」

 「あねご!」

 「クーちゃん」

 「クオンさん」

 「「姫様!」」

 「皇女(みこと)

 「お嬢!」

 「クオン」

 「「クオン」」

 「「「クオン」」」

 「「「「「クオン」」」」」

 「「「「「「「クオン」」」」」」」

 

 

 皆が私を呼んでいる。私の大好きな人達が。ずっと一緒に居たい人達が。

 あそこに行けばずっと一緒に居られる。永遠にずっと・・・。

 

 嗚呼、待ってて皆。今行くから。

 

 幸福な気持ちに包まれながら、私は皆のところに向かおうとして、ふと強い違和感を覚えた。

 なんだろう? 何かが圧倒的に足らない気がする。とても大切な人を忘れている気がする。

 でも誰だろう? 私の大切なひとたちはみんなここにいるのに・・・。

 

 ズキンッ

 

 強い痛みが頭を走った。忘れてしまったその大切な誰かを思い出そうとすると頭が割れそうな程の痛みが襲ってくる。まるでその誰かを思い出す事を妨げるかのように。

 

 「ダメだよクーちゃん。その人の事を思い出しちゃだめ。」

 

 どうして? この人は私にとって一番大切な人なのに・・・。一番あいしているのに・・・。

 

 「あの方は、決してここに来る事はありません。あの方は流転する者。何者にも囚われることなく、世界を流離う循環を司る大いなる魂の持ち主。つまり、ウィツァルネミテアでさえ、あの方を縛る事はできないのです。」

 

 「だから、あの人の事は忘れよう? そうすればクーちゃんは永遠に幸せになれるんだよ?」

 

 永遠に幸せ?・・・・・・違うっ!! あの人がっ! あの人が居ないと私は本当に幸せになんてなれない!! あの人が居なければ意味がない! あの人が居たから私は恋を知った! あの人が居たから愛する事の幸せと辛さを知る事ができた!! だからっ! だからっ! だからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからっ!!!

 

 

 ハクッ!!!!

 

 

 《・・・ソレガ汝ノ願イカ。》

 

 

 ・・・ええ。今度は絶対に死なせない。ハクは私が守ってみせる。そして、ずっと、ずーっとハクと一緒に居るんだ!

 

 《汝ノ願イ聴キ届ケタ。汝ヲアノ始マリノ日ヘ。》

 

 私の周りに七色の光が満ちる。そして、強い力に引かれたかと思うと管の様な不思議な空間を遡っていた。

 

 嗚呼、これでまたハクに会う事ができる! 待っててハク! 今度こそ一緒に幸せになろうね!!

 

 

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 《愚カナル空蝉ヨ。確カニ汝ノ願イハ叶エタ。ダガ、忘レヌコトダ。我ガドウイッタ存在デアルノカトイウ事ヲ・・・。》 

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ふと目覚めると私は天幕の中に居た。

 寝ぼけた頭を振るとすぐに分身との会話と今の状況を思い出した。

 私は現在、あの時と同じ様に山の中の遺跡を目指す途中で野宿しているところだった。

 たしか、ハクが居た遺跡はここからもうすぐそこのはず。

 

 ハクに会える!

 

 そう思い至った私は、天幕をそのままに急いで遺跡へ向かった。

 そして記憶にある通りに外壁を登り、未調査区域に入り込みハクが眠っていた部屋へと辿りついた。

 

 部屋に入るとあの時の様に遺物に浮かんだ神代文字の書かれた枡を押していく。すると壁から冷気と共に円柱状の物体が現れた。そして、硝子の蓋が開くと中には青白い顔をした青年が横たわっていた。

 

 嗚呼! ハク!!

 

 愛しい人の姿に思わず飛びつきそうになったが、ハクの状態を思い出しなんとか思いとどまる。

 そして、ハクを抱きかかえると急いで天幕に戻った。

 

 天幕に戻った私は、ハクを布団に横たえると直ぐに火を起こして天幕内の温度を上げる事にした。

 でも、冷え切ったハクの身体はそれだけでは暖まらなかった。

 それに焦ってもっと薪を取ってこようと考え立ち上がろうした私の頭に稲妻のように天啓が走った。

 

 そうだ! 私が身体で暖めればいいんだ!!

 

 そう思い至った私はさっそく服を脱ぎ捨てるとハクが横たわっている布団の中に潜りこんだ。

 想像以上に冷たいハクの身体に驚いたが、愛しい人を暖める為に身体を密着させる。すると僅かだがハクの体臭が鼻腔をくすぐった。

 

 ハク!ハク!ハク!ハクぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!

あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ハクハクハクぅううぁわぁああああ!!!

あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ・・・くんくん

んはぁっ!ハクの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!! 間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ・・・きゅんきゅんきゅい!!・・・・・・・・・・・ハッ! いけないいけない。ハクの匂いに夢中になってしまった。思わずアソコを擦りつけてしまったけどハクはまだ目覚めてないよね? よかった。フゥ・・・。

 

 その後、ハクの身体が暖まり、顔色も良くなってきたので後ろ髪引かれる思いを抱きつつ、布団から出る。

 そして、目覚めたハクに飲ませる為に滋養の薬を作ろうとして、材料が足りない事に気が付いた。

 幸いその材料はこの山でも採れるものだったので、私はハクを一人残してその薬草を取りに出かけた。

 でもそれがいけなかった。

 前回、ハクは発見した翌日の朝に天幕から抜け出した。だから目覚めるとしたらその時間帯だろうと思っていた。でも前回と違い、今回はハクを私の身体を使って暖めた。その為か体調が早く回復して目覚めも早くなってしまったのだ。

 

 戻った時には既にハクは抜け出した後だった。

 どうしてハクから目を離してしまったのかという自責の念が胸を突く。しかし、今はハクを探さなくては。この山は目覚めたばかりのハクが1人で歩いていい場所ではないのだ。

 その思いに突き動かされて、私は赤焼けに染まった山に分け入った。

 幸いハクの足跡が残っていたので追跡には苦労せず、直ぐに雪の中を彷徨うハクの姿を見つける事ができた。

 

 よかった! 無事だった!

 

 私はハクの無事な姿にホッと息を撫で下ろした。そうして、ハクの側に駆け寄ろうとした瞬間、何かが前を横切った。

 

 「・・・え?」

 

 ハクの上半身が宙を舞う。何も写さないぼんやりとした表情で血を撒き散らしながら私の方に飛んでくる。

 

 私は血に濡れるのも厭わず、上半身だけになったハクを抱きしめた。

 

 唖然としながらハクの顔を覗き込む。

 

 そこにはもう生命は宿っていなかった。

 

 キリキリキリキリ・・・

 

 耳障りな音と共に巨大な蟲‐ボロギリリが現れる。

 

 ドウヤラコレガハクノ命ヲ奪ッタヨウダ。

 

 マタハクニ会ウ事ガ出来タノニ・・・。

 

 今度コソズット一緒ニ居ラレル筈ダッタノニ・・・。

 

 ソレナノニコノゴミ蟲ガ・・・。

 

 

 身体がカッと熱くなり、視界が真っ赤に染まる。そして、身体の奥底から湧き上がる力を躊躇無く解き放った。

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 気付くと天幕の中に居た。

 突然の事に混乱するが、記憶がハクを見つける前だと教えてくれる。

 もしかして先程の事は夢だったのだろうか?・・・いや違う。私は確かに覚えてる。ハクのあの氷の様な体温を。そして、身体に降りかかった血の温かさを・・・

 

 ッ!!

 

 ハクが死んだ場面が脳裏に走り、強い悲しみと怒りが胸を突く。

 

 「落ち着け私。落ち着くのよ。どういう訳だか分からない。けれども私はまたやり直せる。今度こそハクを守るんだ。今度こそ、今度こそ・・・」

 

 そう呟きながら大きく深呼吸して気持ちを静めた私は、またハクを迎えに行った。

 そして今度はハクが抜け出さない様に細心の注意を払って世話をした。その甲斐あってか何事も無く目覚めに立ち会う事ができた。

 

 目覚めたばかりのハクはやはり記憶を失っているようで、とても混乱していた。

 私はそんなハクを宥めながら、真実を隠したうえで今の状況を説明しようとした。でもその時、また稲妻のように天啓が頭に走った。

 

 そうだ! ハクと私が恋人同士だった事にしよう!!

 

 考えついた人生最高の思いつきに私はニヤニヤしながらハクを抱きしめた。

 突然の事にハクは驚いていたけれど、涙声で即興で考えた設定を話していく。

 

 ‐私達は恋人同士で婚前旅行をしていた‐

 ‐しかし、旅の途中で訪れたこの山でハクが崖から足を滑らせてしまった-

 ‐幸い怪我は大した事はなかったが、頭を打ってしまい記憶を失ってしまった‐

 

 ハクはなんだか釈然しない表情をしていたけれど、どうにか私の事を信じてくれたようだった。

 でも思わずグフフと笑ってしてしまい、ハクに不気味がられてしまった。

 

 危ない危ない。気持ちが顔に出てしまった。ハクの信頼を得る為に気をつけなくちゃ!

 

 

 その後、食事を取って山を降りた。

 前は目覚めたばかりのハクを歩かせたけど、今回は違う。ハクが大いなる父(オンヴィタイカヤン)であり、私達に比べてとても身体が弱い事を知っている。だから、厚着をさせた上でウマ(ウォプタル)に乗せている。これなら身体の弱いハクでも問題無く下山できるはずだ。

 更にハクには分からない様に周囲に殺気を飛ばす事で蟲や獣達も寄ってこない様にしているから村まで安全に行く事ができる。後はウコン達に会う前に村を出て、一直線にトゥスクルに・・・。

 

 そんな事を考えていると突然ウマ(ウォプタル)の手綱が引っ張られた。

 倒れない様に手綱を引きながら振り返ると地面に大きな穴が空き、ウマ(ウォプタル)とその背に乗ったハクを飲み込もうとしていた。どうやら、積もった雪の下が空洞になって居たようだ。

 

 私は急いでウマ(ウォプタル)を引き上げようとするが、ハクがその背から滑り落ちて穴の中に消えていく。

 脳裏にハクがタタリに襲われそうになった時の事が過ぎる。

 私は無意識の内に懐から閃光弾を取り出すと穴の中に投げ込んでいた。そして直ぐさま穴に入り込むと倒れ込んだハクを担いで外に出た。

 

 私はホッと胸を撫で下ろした。

 

 せっかくハクに危険が及ばない様に来たのにこんなところで躓くとは思わなかった。ここからはこんな事が無いように私が背負っていこう。

 

 そう心に決め、ハクに怪我は無いかと確認しようとして、青褪めた。

 ハクは後頭部からは血を流し、ピクリとも動かなかった。

 私は急いで天幕を用意し、ハクの怪我を手当てをしたけれど、一向に良くならない。どうやら怪我は脳にまで達しているようだ。

 こんな時に自身が治癒術を使えない事が悔やまれた。こんなことならネコネに教わっておくのだった。

 そんな後悔の念に苛まれながらハクの回復を祈ったが、ハクは日が沈むとともに息を引き取った。

 

 そして、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 天幕の中で目が覚める。どうやらまた戻ったようだ。

 しかし、今度は直ぐには動き出せなかった。

 ハクを三度も死なせてしまった。その事実が心に重くのしかかる。

 そして、何がいけなかったのか必死に考えるが答えはなかなか出てこない。

 

 最初の時は、あれだけ危険な目に遭っても怪我ひとつ無かったのに。・・・もしかして、最初の時と違う事をしたのがいけなかったのだろうか? なんだかんだで悪運の強いハクがあんなに簡単に死ぬはずがない。なら原因は私のとった行動にあるのかもしれない。でもそれを認めてしまうとハクが死んでしまう未来を変えることができないということに・・・。うううん、弱気になってはダメ。ハクとのラブラブ結婚生活の為に諦める訳にはいかない。幸い私はやり直せる。またハクを死なせてしまうかもしれないけど、やり直せるってことはハクが死んだという事実も無かったってことになるよね? だからハクと一緒になれるまで何度だってやり直そう! きっとハクだってそれを望んでいるはずだ。待っててね、ハク! 私は必ず幸せな未来を切り開いて見せる!!

 

 そうして気持ちを新たにした私は、さしあたって最初と同じように行動する事にした。その結果、無事に村まで着くことができたし、ウコン達に出会い、ボロギリリも討伐できた。

 ただ、この間完全に最初と同じようにしていたわけではない。流れを変えない程度にさりげなくハクを気遣ったり優しくしたりして好感度上げに勤しんだのだ。そのお陰か、ハクは前より私の事を信用してくれているようで距離感がかなり近くなった。でも、まだまた油断はできない。何が原因で不足の事態が発生するか分からないのだから。

 

 万が一の為にもハクを常に見守っていないとね!

 

 そんな事を考えているとハクとウコンが旅籠屋を出て村の外れに向かい始めた。

 たしかあの方向は墓地だったはず。多分今日の戦いで死んでしまった部下の墓参りに行くのだろう。

 私は早速ハクを見守るべくこっそりと後をつける事にした。

 二人はまだ会ったばかりだというのにまるで旧来の友人であるかのような和やかな雰囲気で会話しながら進んでいく。

 私はそんな仲良さげな二人の姿に嫉妬しながらも気配を消してついていったのだけれど二人は不意に道から外れて森の中に入っていってしまった。

 それに嫌な予感を感じた私は急いで後を追い、二人が大きな木の下で立ち止まったのを確認すると近くの茂みに身を隠して何が起きても良いように全神経を集中させた。

 

 「アンちゃん。よかったのかいホイホイついてきちまって。俺はノンケだってかまわないで食っちまう様な奴なんだぜ。」

 「こんなことは初めてだがいいんだ・・・。自分は・・・ウコン、お前みたいな奴が好きだからな・・・」

 「うれしいこと言ってくれるぜ。それじゃあとことんよろこばせてやるからな!」

 「ウコン・・・」

 「アンちゃん・・・」

 

 「アッー♂!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グシャッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・あ~あ、やっちゃった。でも仕方ないよね? ハクったら私というモノがありながら、よりにもよってウコンとあんなことをするだもの。こんな風にされても文句は言えないかな。

 

 

 重なり合い、地面に赤い花を咲かせた男達にそう語りかけると私の意識は遠退いた。

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 天幕で目覚めた私は頭を抱えていた。

 

 ″ハクが男色になっていた″

 

 それが主な理由だ。

 

 私の知る限り、ハクにはその気は無かったはずだ。

 私の裸を見ても無反応だったり、ウルゥル、サラァナに迫られて顔を青くしたり、男子会で裸で乱痴気騒ぎをしたり、疑わしい部分はあったけれど、年増(年上の女性)には反応していたから、男が好きという事はないと思う。

 でも、前回のハクは明らかにソレだった。

 流石にこれは私のせいとは考えられない。

 ハクが目覚めてからボロギリリを倒すまでおよそ2日。この間にハクが男色になってしまったというのは無理がある。となると、前回のハクは元々そういうモノだったと考えるのが一番しっくりくる。でもそう考えると私はただ単に時間を遡っているわけではない事になる。

 

 -並行世界-

 

 ふと昔ウル母様に教わったそんな言葉が頭を過ぎる。

 

 世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界。簡単に言うならば、もしもの世界。とても似ているけれど、どこかが違うそんな世界。

 もし私が時間を逆行するのではなく、並行する別の世界に行っているのだとすれば、ハクは私の知っているハクじゃなく、別世界のハクという事になる。

 

 それはつまり、私は、私のハクと一緒になれないということ?

 

 いいや! そんなことはない! ウル母様はこうも言っていた! 例え異なる世界で異なる在り方をしていても、根源は同じ! 

 

 だから並行世界のハクは皆私のハクなんだ!

 

 それが分かればもう何も悩む事なんて無い! いままでの世界はそういう世界だったんだ。私がハクと一緒になれないそんなイジワルな世界。でも並行世界は無数にある! だから私とハクが一緒になれる世界だって沢山あるはずなんだ! あとはその世界に辿りつけばいい!

 

 そうして答えを得た私は行動を開始する。もしかしたら、この世界がハクと一緒になれる世界かもしれないのだから。だから、遺跡にハクが居なくても焦らない。もしかしたら、遺物の誤動作で既に目覚めたのかもしれないのだから。だから、山中探し回って見つけられなくても不安にならない。もしかしたら、村に辿りついているかもしれないのだから。だから、村でハクを見つけても飛びついたりなんてしない。もしかしたら、私に一目惚れしてくれるかもしれないのだから。だから、ハクと旅籠屋の女将さんが仲睦まじそうに腕を組んでいても・・・・・・腕を組んでいても・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ!? 行き遅れの年増が私のハクに馴れ馴れしく触ってんじゃねぇかなぁぁぁぁ!!!!!

 

 

 「え?」

 

 

 ブシューーーーーーーー!!!!!

 

 

 捩じ切った年増の首から間欠泉のように血が噴き出す。

 唖然とそれを見つめるハクの顔はとても可愛くて、いつまでも見ていたくなる。でもその思いをなんとか振り切り、″私の″ハクを誘惑した年増のだらしない身体に先程捩じ切った頭を叩きつける。すると頭は粉々に砕け、身体は破裂したように吹き飛んだ。

 

 まったく。いくらハクが優しいからって売れ残りの年増が調子に乗り過ぎかな! あなたがハクと付き合おうだなんて無量大数年早いんだよっ! それよりもう大丈夫だよハク! あなたを惑わすアバズレはもういないよ! さぁ、私の胸に飛び込んできて!!

 

 そう言ってハクに向かって腕を広げる。ハクは俯いて震えていた。きっと私に出会えた嬉しさのあまり、歓喜に打ち震えているのだろう。そして、ハクはふらふらと立ち上がると私の胸に飛び込んできた。

 

 嗚呼! これで漸くハクと一緒になれる!!

 

 私は幸福の絶頂に居た。愛しい人を抱きしめながら、明るい未来に思いを馳せる。しかし、それは胸を貫く鋭い痛みと共に一瞬で失われた。

 

 「・・・ほぇ?」

 

 突然の痛みに思わず間抜けな声が出た。痛みのする方に視線を動かすと私の左胸を短刀が突いていた。そして、その柄を握っているのは今しがた胸に飛び込んできた愛する人で、尚も刃を押し込み、肉を抉るようにぐりぐりと捻ってくる。

 

 「どうして?」

 

 愛しい人の理解不能な行動にそう問いかけるが、それに答える声は無く、代わりに突き飛ばされ馬乗りにされる。

 

 「なんでないてるの?」

 

 痛みと出血で朦朧とする意識の中で最後に見たのは、血の涙を流しながら憤怒の形相で刃を振り下ろす鬼の姿だった。

 

 

 

 

   ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 あれからどれだけ繰り返したのだろう。もう数え切れないほどの時を繰り返し、今ここに立っている。

 

 思えば最初の頃はハクに対する想いを抑えられなくて、暴走してしまう事が多かった。その所為でハクや周りの人間を傷つけてしまい、帝都に辿り着くことさえできなかった。でも何度も繰り返す内に自分を抑える術が身に付いて、今では完全に感情を制御できる。

 それでもハクが他の人と結ばれる事はとても許せる事ではなく、その度にやり直しているのだけれど、カッとなって殺してしまう事は無くなった。

 

 この世界に辿り着くまでにいろんな世界を巡ってきた。ハクが帝をやっている世界もあったし、アルルゥ姉様と結婚している世界もあった。中にはハクがお爺さんになってた世界もあって介護だけで終わってしまった事もあったし、ハクがハーレムを築いていた世界ではハーレム要員を全員(ブルタンタ)に変えてやった事もあった。でも、いずれの世界でも私とハクが結ばれる事は無く、その度に辛く悲しい思いをした。だけど、今ではそれも良い思い出の様な気がする。何故ならば、私は漸く望んだ世界へと来る事ができたのだから。

 

 人の立ち位置、人間性。歴史の流れが最初の世界とほとんど同じで、私の行動に対する反動が小さい世界。そして、そんな世界で私はひたすら仲間の戦闘力の向上とハクの好感度上げに腐心した。その結果、あらゆる戦いで常勝無敗。トゥスクルではクロウを一蹴し、帝都ではヴライを捻り潰し、大戦をハクに仮面(アクルカ)の力を使わせる事無く切り抜け、最終決戦でウォシスを袋叩きにした。

 これだけでも十分及第点だけれども更にハクとの関係も過去最高のものとなり、何度もキスをしたし、初めてだって捧げた。

 

 最早最高の条件が揃っている。後はハクへの告白を成功させてトゥスクルに連れ帰るだけだ!

 

 そして、桜舞い散る丘の上に2人きりという最高の状況で私は全力でハクに思いの丈をぶつけた。

 

 

 

 「・・・すまない。自分は一緒に行けない。」

 

 

 ・・・え?

 

 

 「クオン。お前の気持ちは凄く嬉しいし、自分もお前と一緒に行きたい気持ちはある。だが、それ以上にアンジュの側に居てやりたいんだ。」

 

 なんで? ハク、どうして?

 

 「アンジュは自分にとって唯一残された家族だ。それに兄貴にも後を託された。だがそれ以上にアンジュは、いやチィちゃんは生まれ変わってまで自分との約束を守ろうとしてくれた。だから、自分もその約束を守りたい。今度こそずっと側に居てやりたい。」

 

 そう語るハクの顔には今まで見た事の無いような慈愛の表情が浮かんでいた。

 そこにはアンジュが愛おしくて堪らないという思いがありありと見て取れた。

 

 そんなハクの姿に私はまたダメだったのだと悟らざるを得なかった。

 

 カチリッ

 

 何かが切り替わる音が聞こえる。これはやり直す時の合図だ。今の私は自分の意思でやり直す事ができるようになっていた。

 今回は上手く行きそうだっただけにとても残念だけど、ダメと分かったのならばいつまでもこんな世界に居る理由は無い。

 

 世界から音が消え、どんどん暗くなっていく。正面に居るハクがまだ何か喋っているようだけどもう興味は無かった。私を愛してくれないハクなんてハクではないのだから。

 

 そして、私はまた始まりへと返る。そこに理想のハクが居る事を信じて。何度も何度でも・・・

 

 

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 《憐レナルカナ我ガ空蝉ヨ。汝ガ彼ノ者ト結バレル世界ニ辿リ着ク事ハ無イ。何故ナラバ、汝ノ願イハ既ニ叶ッテイルノダカラ。汝ノ″永遠ニハクト一緒ニ居タイ″トイウ願イハ、ナ・・・。》

 

 

 

 

 

 

 

 


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