堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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……はい、まずごめんなさい。ぶっちゃけ失踪しかけてました。どれほどの方が本作を覚えておいでかはもうわかったものではありませんが、よろしければ是非是非。

今度書けば今度書けばという悪魔の囁きは恐ろしいものですね。次は遅くとも半年以内に更新したい……したい……。



堕天少女とただの少年 ―前の章―

 生き残った残り少ない蝉たちの、斉唱みたいに重なった数多の叫びが微かに耳穴を抜けていくのを、なんとなくリズミカルだと楽しんでいてぶつかった。

 

 

『いたっ』

『わっ……! す、すんません』

『気を付けなさいよね』

 

 散漫状態から解き放たれ、横に注意を戻せば。

 

 

『まあいいわ。それより! 私と一緒に――堕天しましょう?』

 

 シニヨンに刺された黒い羽、制服後ろに黒い小マントみたいなもの、黒を基調とした……その他多数。色々と纏った、浮世離れした少女がそこに。

 

 

 ――かっこいい。

 

 

 俊敏に体をしならせ、謎のポーズを決めた彼女の姿は思考にとどまらず、有象無象に徹するを良しと決めつける、自分の中で順調に育っていた一種の概念をぶち壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 瞬きする間に世界が暗転して。もうそこは自室であった。

 

 ――久しぶりに見たな、原点の記憶。先日スーパーで再会した彼女に抱いているのとはまた別種の憧れ。ありのままであり全力なヤツの姿は我が(黒騎士)となる勇気を授けた。

 

 ヤツは覚えていまい。あの時の我は今と比べ髪型や雰囲気がかなり違う。

 

 

 

 それにしても。いつもなら……この夢を見たとき、くすぐったくなるのだが。

 

 我はベッドを降りて、目覚まし時計脇に置かれた箱を手に取る。

 

 

「準備するか」

 

 すぐさまそんな余韻を押し殺したくなったのは初めてのことで、驚いた。

 

 

 知らぬふりをしても逃れられない。例の一件以来、自身に違和感を覚えるようになったからだ。

 この間まではなんとか――なってはいないがまだマシだった。しかしもう限界が近い。

 

 

 なんにせよ、脆いものだ。あっさり崩れ去るスタンスなど付け焼き刃でしかない。我がもし黒騎士を気取る偽物でしかないのなら……どんどんぎこちなくなっていく我は、これから堕天使にどう接すればよいというのだろう。

 

 荒れた布団を整えながら、乱れた精神に問いかける。落ち着いた色のカーテンをも明るくする朝焼けが網膜にちらつくような気がして、途中で目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室の扉をくぐって、雑に机へ荷物を放る。堕天使はもう着いていた。まだ眠気が抜けきらないのか、だらしなく突っ伏している。

 

「目覚めよ」

「…………」

「目覚めよ」

「…………」

「ふむ……めざ」

「聞こえてるわよ! ……で?」

 

 三回目の呼びかけをする直前、勢いよくヤツがこちらを向いた。寝癖ひとつない。ぐうたらしていることが多いわり、こういうところは妙にきっちりしている。

 

「基本的に用はない」

「だと思ったわ……ってなによそれ」

「いつか失くした黒羽、の代用品だ。次にお前が満足するものを見つけるまでのつなぎにでもしてくれ」

「……あっ。あー……」

「ん?」

「いや! 何でもないのよ? べっ別にもう持ってるとかじゃなくて」

「持っているのか」

 

 と、少し離れた位置から、まあまあ聞こえるボリュームで声が割り込んできた。

 

「お前ら、ほんと仲良いよなぁ」

「まーたバカップルがなんかやってるよ」

 

 そう、意地の悪い奴らである。名はよく覚えていない、どうでもいいから。ただ始業式の邂逅でげらげら笑っていた人間のうち二人であることは確かだ。

 

「…………」

「有象無象の戯れ言など意に介すな」

 

 

 こいつもこいつでいろいろ真に受けやすいからか、奴らの囃し立てにはいささか困っているらしい。うるさめな口がすっかりだんまりだ。

 

 

「それにしてももう持っているとは……まったく、手が早いな」

「……ごめん」

「謝るな、らしくもない」

 

 

 軽口を叩き煽るつもりがなおのことへまこませてしまった。なんだか、最近空回りばかりしているような気がしてならない。

 

(有象無象、か)

 

 席に戻らず、教室を出て階段の方へ足を進める。始業する頃には戻る前提で。

 

「ちょっと、どこ行く気?」

 

 滞りなく一段目に足をかけようとしたとき、靴の摩擦が成す廊下への反響が我を制止させた。わざわざ首だけ向けずとも、相手はわかる。

 

「霊鳥と話にな」

「ふーん……始まる前には戻りなさいよ」

「ああ」

 

 適当な理由を残し、我は歩みを再開した。漠然とした己への嫌悪感がピークに達した状態で対峙するよりはいくばくか良いから。

 

 

 そうして二階から三階、段差を往くうちに屋上に出た。誰もいない敷地はひどく狭く思え、無関係ながら辟易した。

 

 ドアを閉めて踏み出した途端、風がやや強く抜けてきて、つい顔をすぼめる。目に至ってはしゅぱしゅぱもする、さては軽度のドライアイだろうか。それでも、海から流れくる潮の薫りが最も印象的だ。

 

 もう何度嗅いだかわからないぐらいなのだが、やけに気に留まって仕方ないのは夏が近いからなのだろう。なんとなく、海を見たくなった。

 ベル(始業鐘)が下からこちらまで木霊してきて一瞬罪悪の念にとらわれるが、今更走ったとて間に合わぬ、居座りすぎたのは後で省みよう。

 

 

 背丈7分目ほどのフェンスに手をかけ――よじ上ってみる。立てば映る世界が高くなり、普段の位置では半端に遮られて見えない広大な蒼が一望できた。

 

 重心が不安定なことを除けば、良き眺めである。何故今までこうしなかったのかと後悔するほどに。

 

『堕天使は地上を見通すのです……!』

 

 ――ふと。9、10ヶ月前の件がフラッシュバックした。

 

 そういえばヤツは我より先にここの全貌を知っていて、誰よりも晴れやかに佇んでいた。あの頃我は奥底に秘められた情熱のようなものに蓋をしたまま気付けずにいたというのに、ヤツはすでに堕天使で……。

 

 

 

 陰もないゆえ、日に日に本領を発揮し始めつつある太陽の、焼けるような光を全身に浴びる。おかげで額に、制服の中に却熱の雫が滴ってはくるが、なにやらかえって心地よい。

 

「はははっ、抜け出すというのはつくづく重い」

 

 つい、出来心で。などと人が称するものに、我は夢中で突き動かされかけていた。

 

 

 

「……らしくないのはどっちよ」

 

 

 

 だから、後ろから背中ごと貫くような鋭い声音が聴こえて、大いに硬直した。

 

 バランスに細心の注意を払いながら首だけ振り返れば、堕天使がいた。呆れたような、怒ったような、睨むような、とにかく形容に困る面持ちで。

 

 

 




過去、そしてメンタル激弱黒騎士。ちゅ、中学生感出したかったし(今更) 区切り困ったのでとりあえずはまた次回。決着つけたい。



――終焉の炎!
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