堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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性懲りなく、堕天すべく。
お久しぶりです。AQUA BLUEでございます。めっきり寒くなりましたが、サ!のフォトセッションが体を温めてくれるので問題ありません()


堕天使と黒騎士の仲違い ー前の章ー

 夏休みというものは、尊い。学校にて起こりうる試練から解放され、自由や研鑽に浸り放題になるのはもちろん、乾く世界をじっくりと眺めていられる有限の時間が訪れるのだ。

 

 しかし、儚くもある。終わってしまえばまるで遠い昔の伝説のよう、さらに経てば何もなかったかのように記憶の片隅からも追いやられていく。

 

 事実、今では一般人共を灼く熱気は弱まりつつあり、ふと運ばれてくる空気も潤いを段々失い始めている。薄布切れ一枚を湿らせていたのが嘘のようだ。――朽ちた大樹の葉が舞い散る季節へと代わるのは時間の問題だろう。

 

 

「合唱コンクールまであと二週間を切りました。いよいよ追い込み時ですね、他クラスに負けないようこの2年1組も――」

 

 

 クラスルームの主導者による通達が嫌でも耳奥まで届いてしまう。現実に打ちのめされるほど、夏休み中の無敵であった日々を思い返したくなる。

 

 祭典では鮫釣りに初挑戦したあげく外し、体力増強目的で赴いたプール(水慣れの泉)では金槌を公衆面前で露呈し、他夏休み末には侮っていた迎夏の書に徹夜へと追い込まれ……

 

「ぐ」

 

 とんっ、と机を軽く拳で叩きつける。恥ずかしくなったからではない。記憶するに値せぬ逸話ばかりだっただけのこと。斜め右数個分向こうの席にいる堕天使が、ちょうどこちらをのぞいてきた。こなくそ、へたれているときに限って。

 

 故にしっしと払うハンドサイン、受けた堕天使はどや顔寄りの微笑みを返す。絶対的にこちらの意図が伝わっていない。テレパスできるものなら訴えたい、照れ隠しでもなければ魅了されてもないのだ。絶妙にポジティブか貴様。

 

「居残り練習も許可していますので、積極的に取り組んで……是非! 金賞を目指してください」

 

 曖昧ながら、釘を刺すような締めの言葉が煩わしい。各々意味違えど沸き立つ民々、堕天使はうんざりする我の様子にきょとんとしている。よい、おそらくヤツには黒騎士の憂鬱などわかるまいて。

 

 積もる不安というものは、存在選ばず毒と成る。足りない集中力すらも削がれ、我は放課後まで一切の動きなしに、歯がゆくもマインドを枯らした。減気様々(グロッキー)である。

 

 

 

 

 

 

 

「明日はすべての者が――神でさえも、あるがままに羽をのばす(とき)……」

「な、なんだ突然」

 

 

 …………というわけで打開は後回しに、今日のところはさっさと拠点へ向かうべくHR終幕直後鞄を取ったのだ我は。実際完璧だったとも、堕天使に捕まる以外は。

 

 

「わかりませんか? 世界の活動が止むということは……好機! 力を蓄えるのにうってつけのタイミングなのです」

 

 夕方、今宵と跨げば、一般でいう土曜日である。ヤツのいうことはもっともで、何かをするには素晴らしいタイミングである。が……この先を聞いたなら、とても実行躊躇われる提案が待っていそうな気がしてならない。

 

「このヨハネと共に、響撫の箱庭へと赴きましょうっ!」

「さては……カラオケか?」

「下界での通称はそうね」

「は、ははっ……」

 

 白目を剥く器用さがあれば、突如失神した真似でもなんでもしたかった。

 

「……経緯を聞こう」

「ほら、もうすぐ合唱コンクールじゃない。 だから練習を……っ! いいえ、ヨハネの美声を轟かせるにあたって、さらに磨きをかける必要があるのよ」

 

 しかし焦ってはいけない。慌てようものなら堕天使に不審がられてしまうだけだ。我は基本真っ正面からぶつかるスタイルなのだが、すまぬ堕天使よ。今回は同行をさけねばならない。

 

 悟られぬ程度の深さで息を整え、我はほざく。

 

「殊勝なことだ、尊敬に値する。ただ、我は思うのだよ。貴様の言う美声はしかるべき場面にとっておくべき、とな」

「……どういうことよ?」

「いいか? 確かに二人ならば、効率よく声を鍛練できるかもしれない。 だがそれでは、我だけが誰よりも先にお前の音色を知ってしまう」

「えっ?」

 

 思いもよらなかったか大きく眉を上げる堕天使。我は勢いよく畳み掛ける。

 

「赦されるはずなし。あまりに不公平だ。故に、いち下界人として……お前の歌声に酔いしれる時を心待ちにさせてもらいたい」

「…………」

 

 いい手応え、目をぱちくりさせているぞ。もう一押しである。

 

「本番までお預けだ。他の皆と共に歌う傍ら、お前の福音が聴けるのを楽しみにしているぞ津島善子……いや、堕天使ヨハネよ」

「湧丞……!」

「我は先に行かせてもらう。さらばだ」

 

 終始穏やかに語りかけ、さりげなく教室出口へ重心を流していく。完璧である。あとはそそくさと下駄箱で靴に履き替え退散だ。

 

 怪しまれていないか、ちらと横目で確認。ヤツは思った以上にぼんやり……というか恍惚としている。美声は本心だが、お膳立てはわりとでまかせで物を言ったから、いくらか心が痛む。どうやら追いかけては来なさそうであるし、もはや取り返せるものでもないが。

 

 罪状を年季の入った壁になすりつけるつもりで触れ、ついでに反動をつけて。我は居残り練習の準備をするクラスメイトや放課後掃除に勤しむ連中の間を縫って廊下を抜けていく。幸運にもすれ違う影の中に我とゆかりある者はおらず、ほとなくして下駄箱にたどり着いた。

 上履きを脱いで我がポストへ。交代する形で手に取った靴を軽く土足区域内に放る。照準を合わせて素早く推進力の要を差し込み、狙いの緩さから若干詰まりながらも体勢を持ち直して、校庭(修児の踊り場)へ出た。

 

 

 日差しがやや陽の落ちぶれを予感させる色合いだが、空は変わらない蒼に包まれている。戻れる頃合いは間食を楽しめるか否かの瀬戸際といったところになり……「そうだった」。

 

 

「胸打たれたわ、リトルデーモン!」

「だ、堕天使?!」

「ここまで主思いの(しもべ)にまで成長していたなんて……すっかり見くびっていたようですね」

「誰が(しもべ)だ! で、なんだ。もしや我が忘れ物を……否、置き土産でもしたというのか?」

 

 わざわざ追いかけてきたらしい津島善子、雑巾が肩に引っ掛かっているのも、制服リボンが消失しているのにもどこ吹く風、両の手を大に広げる。

 

「いいえ――非も、見落としもないわ。強いていえば……すっかり堕天している、のかしら」

「つ、津島善子ー?」

「クックックックッ……」

 

 稀に見せるあの噛み締めるような笑い。「だからヨハネ!」。よくやる迫真の訂正すらも飛んでこない。そして、すごく後退りしずらい。もちろん普段のヤツはたいてい元気でやかましいのだが、特に今、めいっぱいに魔力全開だ。

 

 

 馬鹿でもわかる。先ほど我が発した自衛の煽てに対し、純粋に感銘を受けたらしい堕天使は、それでもと我の同伴を誘ってくれるのだろう。

 

 駄目だ。先手を打ってはっきり断る他ない。これ以上ヤツを、無自覚なる仮初めの喜びで満たさぬように。

 

 

「悪いな。言っていなかったが我は――7日中で最も土の力が強まる明日に乗っ取り、特殊訓練を行う。これは決定事項だ」

 

 

 ……愚かなる我が舌よ、何故決意に背かんとする。いいや違う、我そのものが抗えなかったからだ。堕天使相手だからこそ、『実践に至った瞬間』『引かれる』――そんな悪夢をイメージしてしまって、我は妥協した。ヤツの性格上、あり得ないだろうに。

 

 

「……たまってる課題がある、とかじゃなくて?」

「乱されぬ平和に、近頃うつつを抜かしてしまっているからな。鍛練せねば」

「日曜じゃだめなの?」

 

 紡ぎしは偽とはいえ浅い御用、流れは僅かにしか変わらない。さっきとは真逆、眉をハの字にしょんぼりさせる堕天使。

 

「察してくれれば助かる」

「そんな……だって……」

「いいさ。機会があれば、またそのうち何処かへ」

「……でも、暇なんでしょ?」

 

 

 紛れもなく、まずい。弁明しようにも客観的にみれば絶対に我がおかしい。用事ないのに拒否しようとしているのと同義なのだから。

 

 

「…………」

「な、何か言いなさいよ」

「…………っっ!」

「あれって嘘だったの!? ねえったら!」

 

そんなおろおろするんじゃない、我はただただ穏便に――。

 

「だったら、なんでよ……」

 

 ちょっとだけ、泪をにじませそうな彼女。どうか誤解するな。堕天使の歌声を聴くのが嫌とか、堕天使自体が煩わしいといった問題ではないのだよ。その旨を伝えようにも、頭がこんがらがって、纏まった言い分が外に出ていってくれやしない。

 

 何かを疎かにした者は総じて、悪手を打つのである。存分に体験している。わかってる、わかってる。大丈夫だ、容易いだろう。行くのを渋る訳を明かすくらい。

 

 

「……いっ、行くまでもないからだ」

 

 血がなくなったような浮遊感がしたのは必然で、ちょうど花壇近くの大木から枯れ葉が墜ちたきたのはきっと偶然で。堕天使が顔を伏せたとき、我はいたずらな破壊を成したと、虚ろに呑み込まされた。

 

 

「―――と――――に――――」

 

 最後、とてつもなく小さく堕天使から放たれたひとことの詳細は邪な秋風にかき消されて聴こえずじまいだった。

 背を向けて下駄箱へ逆戻りする彼女。我は手を伸ばす勇気すら硬直に阻まれて、代わりにいつぞやくっついたのかも知らぬ、学ラン胸ポケットについた糸屑を取り除く。

 

 ――手荷物を取りに行くのか? 途中で巻き込んでしまった雑巾の始末はどうした? 近くに落としたままだぞ、回収していかぬのか?

 

 的はずれな問いかけが、一部だけ急速稼働する思考の中で浮かぶ。

 

 

『うわ』

『……うっそ。あっ、いや! なかなかいいじゃん!』

『へんなこえ!』

 

 

 躊躇(すべて)の原因が鮮明に脳裏を掠めたとて、堕天使に傷を負わせた事実は変えようもなく。どうして、顔を合わせられるのだろう。

 

 

 急に吹き出した背中の汗一筋が垂れ切る前に、ヤツとは反対の校門へと、我は足を向けた。

 

 

 

 

 半端なく、肌寒い。――だから秋は嫌いなのだ。

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

 

 女性用社員の服装を纏ったシニヨンの彼女は――津島善子の母は夜闇の深さが空を塗り替えて少し経った頃、胸中もう冬至に向かっていることに感嘆しつつ、自宅の玄関に到達した。そして即、彼女は違和感を抱く。つい先刻まで自身の上に展開していた空以上に暗い、部屋の明るみのなさに。

 

 事実、フロアの先にあるリビングに洗面所、愛娘の部屋からも光が差していない。まるで誰もいないかのよう。以前あった嵐による停電の時とはまた異なる全面消灯は、彼女に一抹の不安を感じさせた。

 

 

「善子~?」

 

 しかし既に時刻は18時を回っている。娘が帰宅していないのは少々考えづらく、さては寝ているなと考えた彼女は何気なく娘の部屋を開けた。

 

 夜中に寝付けなくなるわよ――なんて軽く注意するつもりが、息を呑むことになった。

 

「っ、おかえり……」

 

 (善子)が、うずくまっていたのだから。内職を重ね出来上がった自室の中でいつもの趣味にふけることもなしに、ただ目元を雫で照らして。娘は間もなく嗚咽をもらした。

 

 事情はわからない。ただ母は、そんな彼女をすかさず包み込むのだった。

 

 

 




多感な中学生、しかも異性同士。誤解からの拗れがまったく起きねーはずがない! というわけで仲違いです。いや、ホントはイチャコラするはずが珍しく流れがぶっ壊れました。どうしてこうなった。まあ、次は早めに出せると思います(適当) ではでは。

――終焉の炎!
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