堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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鳥は炙られたり、灼かれたりしているから炎属性にはつよい(深夜テンション)


堕天使と黒騎士は……

 総合してもまあまあ歩いたからか、寒気にうなされ指は明らかな乾きを帯びている。後々痒みに苛まれる類いの乾きだ。堕天使はかぶれひとつない、もち肌か潤い肌か知らないが、荒れとは無縁そうで羨ましい。

 

 早く帰還し、手をヒールしてやりたい。グローブさえあれば……。帰路までもつか怪しいぞ、今歩いている街道がまあまあ暖かくなければ絶対詰んでいた。

 

 とか、呑気なことを考えていなければ平静を保てそうにない。すべてを告げてから、とてもクリスマスどころではなくなってしまった。

 

 適当な話題でも出すかと隣を向くと、堕天使が口を開くところだった。

 

「さっきの『さよなら』って……」

「堕天使が想像している意味が、おそらく正しい」

「来年はいない、ってこと?」

「小腹が空かないか? 例えば、アイスを貪るなんてどうだ。いや、拠点での食事に差し支えるか。じゃあやはり真っ直ぐ帰って……」

「じ、実は! 引っ越し先は隣町でしたーっ……とか?」

 

 歩みを止めて、驚いたか? とか抜かせたら、悪い冗談で済んだのだろう。しかし。

 

「東京だ」

「遠い……」

 

 表向き中学生たる我々には絶望的すぎる距離、そうそう埋められそうにない。

 

 

 

 

 

 

 呆けて歩く間に、我々はアーケードを抜けて自転車を押していく。駅のすぐ近くといえどもやはり田舎。一定の区間ごとにある街灯と、さほど多くない建物の明かりは心もとない。

 

 

「まだ滑りやすい所がある。気を付けろ」

「わかってるわよ」

「さすがだ」

 

 あれからほとんど会話がない。というより、何を話せばいいか見当つかぬ。

 

 

 ……言うタイミングを間違えただろうか。いや、思うところはあるが、ギリギリで明かしていたらお互いにもっと苦しんだだろう。よしとしようじゃないか。

 

 

「やはり冷える。……まだ時間はあるか」

「いいけど、どこ行くのよ」

「あそこの最寄りの万物庫(コンビニ)にな、少し寄りたい」

 

 堕天使のトーンは低く乗り気じゃなさそうだ、気が変わる前にさっと自転車を詰め、止める。沼津店が目と鼻の先にあって助かった。外で待つか同行するか訊けば、ヤツいわくさっさと戻ってきてとのことだった。

 

 

 店内に入ると、効いた空調が寒空に晒され続けた体を早速癒した。かなり回復しそうだから惜しくもあるものの、長居はしない。我は目的の物を手に取り会計を済ませにかかる。店員が我の格好を見るや半笑い。放っておけ。

 

 消費者としての責務を終えた我は自動ドアを無駄なくスルーして、堕天使の元に戻った。

 

 

「早かったじゃない。……なんか買ったの?」

「やる」

 

 ヤツが問いかけるのと同時に、ビニール袋から取り出したものをヤツの空いている手に授ける。我の目的はこれだった。

 

「……チョコアイス?」

「まあ、アイスは先ほど我から提案した挙げ句却下したが……オゴリ、というやつだ。煮るなり焼くなり好きにしろ」

「それじゃ消滅するわよ?」

 

 ヤツはやっと、ぎこちなくも笑った。我は無力だ。こんなことしかできやしない。

 

「では肉まんにするか?」

「んー、じゃあ甘美の氷牙で!」

「より寒くなりそうだが」

「あなたが買ってきたんでしょーが」

 

 

 だけど、ちょっとだけでも元気付けば……いいな。立ち食いもなんだということで、我らはそばのイートスペースに腰かけた。

 

 

 

 アーケードとがある駅の向こう側とは違い、人の熱はほぼ、照明も頼りない。18時をとうに回った師走の夕刻は、いざ中心部を抜けると底無しに思えるほど酷。どうしてか、今はそれがあまり気にならない。カイロにすら頼りたいほどだったはずが。

 

「つめたっ」

「肉まんじゃなくて良かったのか?」

「失敗したかも……」

「チョコにつられたのだろう。とことん詰めが甘いのだよ、堕天使」

 そそくさと包装を解き、冷気漂うアイスを頬ばるチャレンジャー津島善子。即返り討ちにあって怯む彼女は、変わらずボロだらけの愛らしい堕天使だ。過ごす間によく目にしてきた「ありがち」が、ものすごく尊く映って仕方ない。

 

「ぐぬぬ……肉まんをヨハネに献上したまえーっ!」

「いやだ」

「リトルデーモンの反逆厳禁!」

「ぐああっ!」

 

 

 些か短気で、堕天流奥義(必殺技)を仕掛けてくることもしばしばとはいえど。あと今ので互いに落とした。

 

「うわあっ! もったいなあああい!」

「ク……ハハハハッ!!」

「あなたのせいなんだからね!」

「先に手を離したのはどこのリトルデーモンだっただろうな?」

 

 

 ちくしょうめ、やってくれる。目尻に情が波立たないようにするのが大変だ――。

 

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

 

 

 聖戦と後始末に追われていたのも、拠点まで戻ってきてしまえば遥か昔のワンシーンに思えてくるものだ。コンビニを前に騒いでいたのが、あっという間に堕天使が住むマンションの入り口だ。

 

「おい。散々付き合わせてなんだが、晩餐には間に合いそうか」

「なんとかね。最悪、高速堕天するから大丈夫よ」

「おおかたスライディングだな」

「ちーがーう!」

 

 ただ、いつもみたくヤツと軽口を叩き合うのは変わらない。だから、いい。最後までそれで。

 

「じゃ。また」

「えぇ」

 

 堕天使に一言残して自転車のロックを外す。肉まんだけでは足りなかったから、早く帰って馳走にありつきたい。

 

 

「くっ……」

 

 足音がしないなんて、気付かぬわけがない。ヤツのホームスペースはマンション上階だ。エレベーターに向かうにしろ、階段を使うにしろ、動かなければ翼を休めにはいけない。つまり、その場にまだいるんだ。

 

 ――後ろ。ヤツを見てはいけないやつだ。

 

「湧丞っ!」

 

 

 ほら、どうしたって我は堕天使に敵わない。あっさり反応してしまった。振り返らないのでやっとだ。

 

「わざわざ呼び止めるとは、意地でも肉まんが欲しかったようだな! ならば、チョコアイスに流されるべきではなかったのだ」

「ねぇ。やっぱり……どうにも、ならないの?」

 

 尋ねてくるヤツの語尾がひどくか細いのは、氷点下の気候にそろそろ限界がきたからだ。「どうにもならない」とは、アイスのことだろうか。――そうだ、そうなんだ。間違いない。アイスのことに決まっている。

 

「悪いな……ッ」

 

 たかがアイスじゃないか、いったい何を謝っているんだ我は。

 

「悪かったなァ!」

 

 

 ああ――

 

「だっ、堕天使の慈悲です――今回はリトルデーモンたるあなたを赦しましょう。次は、次は肉まん捧げなさいよ!」

 

 我も堕天使も、寒さにやられて声が掠れている。まったく、聖夜くらい格好良く締めたいのに。

 

 

 止まるな。行くんだ。ゆえに無駄なくハンドルを握る。

 

「くく……冬休みは近い! 運が良かったな! 時が来たら、いずれ肉まんはくれてやるッ!!」

 

 捨て台詞と共にペダルを踏み込んだ。力強くやったからか、想像以上に素早く自転車がマンションのテリトリーを抜けていく。

 

「絶対よ。絶対だからね!」

 

 なんかフラグみたいだからその送り方はやめておけ、津島善子。我の叫びは枯らすような強風に阻まれたのだった。

 

 

 

 

 

 12月25日、曇り時々雪。愛の傀儡に対するヘイトから決行したアーケードへの堕天は、(水雲の奇跡)が降りそそいできたところで幕を閉じた。

 

 

 

 




今回は中二病成分少なめです。ここ数話ずっとそうだろ!いい加減にしろ! ……ですって? ありゃりゃバレました?



――終焉の炎!
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