堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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堕天したい(n回目)


堕天少女と中二病少年

 開ける前は何気ないドアだのに、入ってみれば魔境である。

 

「待たせたな」

「怖じ気づかずに来たわね」

 

 深紫のカーテンに外界はシャットアウトされ、周りにはファンタンジー全開な凝った金具や敷かれた魔方陣。して、中央。美しくも歪な金具にフィットする蝋燭を携えた、ローブ装備の堕天使。

 

 

 が、我とて丸腰ではない。黒刀も鎧も装備してきた。

 

 

 

 

 我らがいざ始めんとするのは。

 

 

 ――堕ちた天使と黒き騎士の最終決戦(なり)

 

 

 

 

「始めましょう……ふうっ」

 

 

 堕天使の吐息で炎はかき消え闇が覆い……やがて部屋は再び光を灯した。

 全速力で堕天使が電気のスイッチを押しにいったことを、指摘したりは決してしない。野暮である。というかかつて指摘したら怒られたからやらぬ。

 

 と、まあ。なんだかんだで我と堕天使は集合していた。あれきりのつもりが冬休みに突入するや悶々とし、合意を元に再会するに至ったのである。

 

 

 我は剣を邪魔になり得ぬそこらへ立て掛け、魔方陣の一端に腰を下ろす。追って堕天使も隣に座る。

 

「…………それで、何を?」

「考えてなかったわ」

「奇遇だな、我もだ」

「とりあえずゲームでもする?」

「うむ」

 

 

 長くも短くも感じた日々は、いつも通りに、それでいて確実に終焉を迎えんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはりゲームだけは強いな……」

「『だけは』ってなによ『だけは』って!」

 

 結局全敗だった。ゲームセンターでの雪辱を果たせなかったのは痛くもある、とはいえ完敗だ。遠回しな負け惜しみにも気付かず食いついてくれる堕天使の乗りやすさがありがたい。

 

 さきほどまで魔力の満ちた物で溢れていた小さなテーブル上には、お菓子とハーブティーだけが置かれている。堕天使によるとポーション。

 

 

 洒落た英数字であしらわれた時計の余韻に浸って、ありがたく魔力が満ちる(堕天使談)ポーションをいただく。まろやかすっきりな味わいが広がり、口内が大いに潤った。

 

 

「……いつだっけ?」

「明日」

「そう」

 

 

 我は流れるように答え、ヤツもふーんと頬杖をつく。もはや両者動じぬ。

 

「達者でな」

「言われなくたって」

 

 昼食を終えてわりとすぐ訪問したのだが、早いものでもう帰還する時間だ。床に預けていた重心を戻し立す。多くは語るまい。対し堕天使はぐったりと肘から机にもたれかかった。

 

 

 

 ――今度こそさらばだ堕天使。

 

 

 

 我は部屋の出口、ドアノブに触れ。

 

 

「やっぱまてぇーいっ!!」

 

 

 瞬間、猛スピードで回り込んできた堕天使によって奥へ押し戻された。

 

「……はは。なんだというんだ」

「儀式よ!」

「悪いが、あまり悠長にしてられん。戻って荷物を纏めるミッションがある」

「すぐ終わる!」

 

 どうしたことか増して唐突だ。こちらまできた勢いで魔玉に刺している羽が落ちたぞ、拾わなくていいのか。戸惑ってる間に、ヤツは思わぬ指示を出してきた。

 

「目を、瞑りなさい」

「なんだと?」

 

 我は目を瞑る時に起こりうる展開を、人間のドラマや創作から知っている。困惑が動揺に変わろうとも容赦なく堕天使は謳う。

 

「ククッ……さぁ。恐れずヨハネの導く闇に身を委ねるのです」

「だって、それは」

「さぁ!」

「っ……」

 

 いや何故だ。あまりにもイキイキとしているヤツの言われるがままにしてしまったが、とんでもないぞ。

 

「そのまま」

 

 暗闇の中から堕天モード特有の妖艶な声が聴こえてくる。床に布が大きく擦れた音、ヤツが距離を詰めた証左。

 

「おいおいおい!!」

「動かないで!」

「んなこと言っても!」

 

 熱が近付く感覚。かなり近い。掌に温度……掴んだのだろうか。次いで柔らかいものでなぞられるような感覚。体が強張って動かぬ。

 

「うおおおお!」

「はい、開けていいわよ」

 

 最後には堕天使の解放の合図が。まずい、まずいまずいまずい! ……ん?

 

「…………えっ?」

 

 解放、とな? とりあえず開眼……嗚呼、差し込むライト。灯火の残像ちらつく視界の先にいる堕天使は、我の掌をニヤニヤと示していた。

 

 

 誘導されて掌上を見やれば、謎の生物(クリーチャー)が描かれていた。

 とはいっても、ポップな外見だ。真ん丸の体躯、黒い点の目玉、のほほんと上がっている口角、頭部には左右にシンプルな曲角(ホーン)。すなわち悪魔……らしきもの。

 

 なるほど。我が目を瞑る間、こいつを描いていたのか。

 

「うん。何コレ?」

「紋章!」

「おお、紋章。そう……紋章、ね?」

「忠実たるリトルデーモンの証……!」

 

 たいそう満足げな堕天使。

 

 ……我はとてつもなく恥ずべき勘違いをしていた。穴があれば――なお破壊して陣地を広げ、なおも中で剣を振るいたくなるレベルの。

 

「――殺してくれ」

「なんでよっ! そんなに嫌がらなくたってー!」

「違う、愚者の愚者へと成り下がったのだ。我が」

「へっ? 何が?」

 

 

 項垂れる我とすっかり弾けた空気を仕切り直すように、ヤツはひとつ咳払いし、続ける。

 

 

「遠く離ればなれになっても、あなたはリトルデーモンだから……。刻むのです」

「堕天使ィ……」

「ふふっ……泪は堪えて、胸を張って新たなる地に堕天なさい?」

 

 ヤツはそう啓示し、微笑んだ。

 

 ――最後の最後でつくづく天使な奴だ。

 

 

 だが、だが……!!

 

「それさえ先に言ってくれればァァァッ……」

「湧丞?」

 

 

 非常に形容し難い、そんな正月明け。

 

 

 

 

「ちくしょう! ちくしょう!! もう絶対こんな田舎還らないからな! 精々リトルデーモンを増やせよ津島善子ォ!! 元気でな!」

 

「上等よ、二度と帰ってくんなーっ! だいたい、まだ根に持ってんの!? いやあんな勘違いしてたのは意外だったけど!! 向こうで無茶すんじゃないわよ!」

「そういや渡し損ねるところだった! ほら肉まんだ!」

 

 

「もういいわよ肉まんは! もらうけど! ありがと!!」

 

 堕天使と、我、黒騎士はドタバタがてら会合を終え。最後は罵倒に励まし(エール)を交わし、各々の道へと――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 もう、1年と半分になる。高校生になって、色々あって、新たなリトルデーモンもできて。忙しけれど、充実した日々を私は送っている。

 

 

「おじゃましまーす……。ここが善子ちゃんの部屋……なんだか、すごい」

「思った以上に堕天使って感じの置物がいっぱいずら」

「置物ではありません。すべてヨハネが持つ魔力を増大させる器――無視すなー!」

 

 

 

 今日は、同級生でありリトルデーモンでもある「ルビィ」と「ずら丸」が私の部屋を見てみたいってことで、遊びに来ていた。ぜんっぜん堕天使グッズたる魅力を理解していないみたいだけど、楽しそうで何より。

 

「うわぁ、剣みたいなのもある! これも善子ちゃんが……?」

「あ……」

 

 

 と、ルビィが注目した。――西洋風の黒い刀のレプリカに。否が応でも浮かんでくる、真っ黒な彼。

 

 

 

私は少し迷って、答えた。

 

 

 

「いいえ――ある眷属の、置き土産よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

 

 

 駅のホームを出て外の空気を吸ったことで、乗り物酔いが覚めていく。

 

 

「強敵だった」

 

 手放しで電車を称賛する程度にはきつかった。現地に着いたばかりだというのに。

 

 見渡せば、過去生まれ育った場所へ帰ってきたことを実感する。入り口は大きいわりに、若干閑散とした商店街も、道路。自然寄りのうまめな空気。

 

 

 ……気は進まないが。おもむろに、歩き出す。

 

 

 

 用件は他でもなかった。黒刀だ。

 最後に戯れたあの日。散々取り乱した果てに堕天使の家に置いて拠点に帰還、荷造りする間も気付けずそのまま引っ越した、と。間抜けを通り越した何かである。ひとまずは泣く泣く諦め、ずっと取りに行くタイミングを窺っていたのだ。でもって今夏、好機が巡ってきた。

 

 

(さて。如何にして回収するか)

 

 

 考えながら歩いていると。

 見覚えのあるものに、足が止まった。

 

 

 知っている標識。じゃあまさしく今いるのは、かつての通学路で。どっかの堕天使と、初めて決闘した場所。

 

「愉しく生きているだろうか、ヤツは」

 

 陽が傾きつつあった。決闘は昼だったか、時間帯が違うというだけで随分別の場所に思えてくる――。

 

 

 

「探し物ですか?」

 

 回想していたら、後方から声がかかった。こちらの黄昏る様子だけで狙いを看破するとは大した洞察力だ。

 

 

「ああ。しかし特殊な代物でな、一般人には――っ」

 

 応え、出かけた門前払いは。その姿を目の当たりにして途切れる。

 

 

「堕天――降臨」

 

 黒基調のパーカーを纏い、かつフードをしていて一部隠れているにも関わらず、誰だかわかってしまったのだ。

 

 

「我が秘剣の行方を知っているというのか――何者だ?」

 

忘れるはずもない。自分でも白々しい。しかしあえて、()は訊く。

 

 

 ヤツ(・・)がフードを取っ払う。さすれば顕になる魔玉、無邪気にギラつく瞳。挑発的で危なっかしいシルエットは、パワーアップしていた。

 

 

「堕天使ヨハネ――」

「ハハハハッ!! 知らんな、堕天使だと?」

 

俊敏に一歩下がり、構える。

 

「物覚えの悪いリトルデーモンだこと。いいわ、再び貴方を堕天使させてみせましょう」

 

 呑み込むような眼差し、オーラ、口上も。すべてが健在だ。

 

 

「フッ、楽しみだな」

 

 

 

 相手にとって、不足なし――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何故こんなところにいる?」

「こっちのセリフよ。まーちょっとランニングをね。最近始め……いいえ、仮の器の強度を高めていたまでよ。あなたは?」

「実は引っ越す前に黒刀をお前の拠点に忘れてしまってな、返してもらいたい」

「でしょうね。ほんっと、しょうがないんだから」

「面目ない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ―堕天少女と中二病少年― 終焉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。今話をもちまして「堕天少女と中二病少年」、完結であります。まずは早速。

拝読してくださった方、お気に入りや評価までしてくださった方、一度でも目を通してくださった方……本当にありがとうございました。時間はかかりましたが、とりあえず終焉を迎えることができました。

正直いって私、本作はエタると踏んでいました。リメイクとかいって執筆し始めましたけども。それでもとりあえず終焉できたのは、絶対的に皆様のおかげです。いくら感謝しても足りないくらいです。

大変お世話になりました。



以下は、ちょいとした本音や執筆した感想を少しばかり。

・本作はせいぜい3話目まで

元は「もし善子ちゃんの中学時代、同期に中二病仲間がいたら」、なんてアイデアから超絶見切り発車でスタートした本作です。序章だとかなんとか言いましたが、あそこが終わった時点で私の妄想は満足に具現化できていました。つまり以降は迷走しまくった結果なのです。プロットって大事ですね。


・終わるタイミングがわからなかった

本当困りました。もう12話目になる頃には絶望的で、どうしてやろうかと悩む日々が結構ありました。でも放り出したくはないしで……うーむ。本作が恋愛小説じゃないなと悟ったのもこのあたりです。


・そもそもさほど内容が中二病してない(特に後半)

ふと気付いたときは凹みましたねー、筆力の無さをもっとも痛感した部分のひとつです。タイトル詐欺もいいとこだぜ()




色々ありますが、挙げればキリがないのでここらで。他は気が向けば活動報告にでもまとめようかなと。

次は何かしら書くのか書かないのか曖昧だったりそうじゃなかったりするでしょうが、ご縁があればまた何処かで。長々とした挨拶になってしまいましたが、ではでは。


本当の本当に――終焉の炎!

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