堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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本作リメイク前第6話にあたるやつを、4月5日ということで引っ張ってきました。現在のとキャラ・時系列および全体的な描写、二人の距離感が違ったりします。書いたのが二年と少し前……時間は残酷ですなぁ


堕天使と黒騎士、魔の地(校外)へ赴く??

 ――――ジリリリリリリン! ジリリリリリリン!

 

 眠れし我の耳へ、けたたましい妨害。

 

「ん……んん?」

 

 十数秒して、我はその正体が目覚まし時計によるものだと理解する。曖昧にしか働かぬ頭で考え――これは昨夜セットしておいたのが原因だと思い出す。

 

 最低限だけ開眼、横たわった姿勢のままかけ布団の中から手を伸ばし目覚まし時計を停止させた。チェックした時刻はちょうど7時。意識は半覚醒状態。再び休息の闇へと沈むのも悪くない。

 

 しかし、またもう一つ思い出した。

 

「遠足だった、かぁ……」

 

 あくびをしながら半身起こし、我は呟く。今日は確か遠足があるのである。したがって学校での集合は早め。

 ……だとしたら、布団にはもぐらぬほうがいいのだろう。もしそうしたら我は寝坊するやもしれぬ。

 

「いいや自分を信じよう。我は黒騎士、常人のようなヘマはしまい――もう一度、おやすみだ」

 

 だが、再度眠りにつくことにした。失敗などありえない。何故なら我は黒騎士だから。

 

 ベッドに体を預け閉眼、布団をかぶる。次に覚醒する瞬間こそが我の駆動開始(バースト・オン)だ。

 

「……ククッ、いずれ我は黒騎士から暗黒騎士へとクラスチェンジするのだ……ククッ……クククク……」

 

 少々して、意識が底に落ちはじめた。ゆっくりとした良き気分である。現在我は夢見心地ゆえ、無意図に何かしらのうわごとをほざいている可能性があるが――あまり細かきことは気にせずにおく……。

 

 ――ガチャッ!

 

 しまさに就寝しようとした刹那、部屋に誰かが訪問してきたのを告げる音がした。

 

「リトルデーモン、今日は魔の大地へと堕天する日よ?」

 

 間髪入れず続く女の声。それは気取ったような甘い美声。

 

「……」

 

 我、微動だにせず沈黙行使(スルージャッジメント)。きたか堕天使(津島善子)。まあ想定はしていたが。彼女は契約以来、学校がある日は我を叩き起こしにくるようになった。だからもはやここに顔を出すのはお馴染みである。

 長く眠りたい活動のためのエネルギーを余さず溜めたい我は毎回抵抗するのだが、いつも彼女には根負けしてしまう。堕天使はしぶとい。

 

「寝ぼすけなのは平常運転ね。ほらっ、目覚めなさい?」

「認めよう、寝ぼすけなのは。お前が先を急ぐというなら我を置いてさっさと行け……ぐぅ」

 

 早速堕天使が口を開いた。まだまだ眠いので、理由のみ伸べて我は口を閉じる。たとえ遠足だろうが今日こそは折れぬ。我はもう少し寝ると決めたのだ。

 

「ギラリ!」

 

 堕天使が諦めるはずもなかった。彼女の奇妙な独り言と詰め寄ってくる足音が聞こえたと思ったら、直後我のかけ布団が素早く引っぺがされる。

 

「堕天使奥義・堕天流引離反!」

「うおおっ、よせ! 返せ!!」

 

 4月下旬でも朝はぶるっとくるくらいには寒い。ぬくもりがなくなって、我はたまらず跳ね起きた。堕天使の方を睨むと、彼女は嬉しそうに略奪した布団を両手に掲げていた。

 

「おのれヨハ――堕天使」

「え!? 今『ヨハネ』って言いかけなかった?」

「っ! 寝ぼけてただけだ!」

「いいのよ……私の名を呼んでみなさい、リトルデーモン」

「くっ――我の負けだ! 起床ればいいのだろうッッ!?」

 

 やられた。普段はやらかさぬ呼び方をしてしまいそうになった気恥ずかしさを誤魔化しながら、我はベッドから飛び降りる。堕天使は勝ち誇った顔で布団を返してきた。なんだか最初の頃と立場が逆転しているように感じるのは気のせいだろうか?

 

「……だが名は善子だ」

「善子言うな!」

 

 

 

 

 

 根負けした我は、その後のそのそと荷物の確認をはじめた。着替えるのは後。黒騎士が間抜けに忘れ物などできまい、荷造りが最重要なのだ。

 

「湧丞~、あなたの水筒持ってきてあげたわよー……って、まだ着替えてなかったの!?」

「ん? ああ。荷造りに手間取っていてな。というか、なぜお前が我の水筒を?」

「いや今言ったし! 手伝ってるの!」

「ハハハッ……」

「もう!」

 

 堕天使はついでだとか言いつつも助太刀してくれている。こいつ、ぶっきらぼうだが心優しい奴なのかもしれぬ。それと性格的に「天使」の方に近いとも思える。だがそれよりも、我には気がかりなことがあった。作業の手を緩めぬようにしつつ、我は堕天使に問いかける。

 

 

「堕天使、そのくまはどうしたんだ?」

「こ、これは遠足が楽しみだったとかじゃなく……」

「楽しみだったんだな、堕天使?」

「ちがっ――」

 

 あわてふためきながらも否定を示そうとする堕天使。どうやら楽しみだったらしい。わかりやすすぎる……。

 

 が、そう決めつけた我が愚かであった。

 

「ふっ、ふふふ……。この眼の下のモノを、人間風情のくまと一緒にしないで。これは昨宵――ヨハネの魔力と地獄の念波を共鳴させて使い魔を召喚したときに出来た代償よ!!」

「なにぃぃぃっ!?」

 

 たじろぎながらも堕天使が明かしたことは、とてもただ事などではなかった。我は動揺した。

 

「そんなバカな! 本当なのか?」

「ええ……も、もちろん」

 

 堕天使は肯定する。妙に彼女の歯切れは悪かったが、それはこのことがそうそう外に公言できぬ話だからに違いない。

 

 我は――

 

「使い魔とはカッコイイではないかあッッッ!!」

「とっ、当然でしょ! あーっはっはっはっはっ!」

 

 感銘を受けて、舞い上がった。

 

「な、なんとか誤魔化せたわ……」

 

 何かを堕天使がぼそりと言っていたが、はしゃいでしまっていた我はそれを聞き取るに至らなかった。

 

 

 

 

 20分ほど経て、朝食と荷造りを終えた。今から学校に赴いてたところで集合には余裕がありすぎるが――堕天使が行こうと急かすので、早くも出発することになった。

 

 ……のだが――。

 

「嘘でしょ!?」

「悪天候、か。確か雨天の場合は……予備日に延期」

「朝に家を出たときはちゃんと晴れてたのに……」

 

 家から外に一歩出てみると、あいにくの超豪雨(ダイナミックスコール)。辺りの地面にはもう大きな水溜まりが何ヵ所もできており、独特の湿り気とニオイがひどく充満していた。おそらくは準備している間に降り出したのだろう。たまたま自室のカーテンは閉めきっていたし、なにより必死だったので気が付かなかった。

 

「……遠足は雨天中止だな。このままだと通常授業、お前が持っている遠足の荷物とは別の用意が必要になる。不本意かもしれぬがお前はひとまず帰れ」

「そんなーっ!」

 

 雨の勢いが衰える雰囲気は全くない。こうなっては仕方ないぞと我は堕天使に促すが、堕天使は切実な嘆きをあげていた。結構落ち込んでいるようだ。ただ、彼女の横顔には――絶望だけではなく、こうなるのをどこかわかっていた“諦め“の色があるように見えた。

 

 ……と、ここで一種の推察が生まれた。我は確かめるべく堕天使に問いかける。

 

「お前、さては薄幸か?」

 

 すると堕天使はぎくっとしてこちらへ目線を合わせた。図星らしい。

 

「決戦した日、お前は何もないところで転んだよな。この間帰宅していた時もそうだ。犬のフンを踏んでしまったり……今日だって、いきなり最悪の天候がおとずれた」

「……まあね? ヨハネは天界の神に嫌われているから、不幸体質なのよ。これは昔っからそうだし、もう慣れっこ」

 

 当てられたのには驚いたようだが、堕天使は澱みない口調でそう返した。

 

 

「でも――今日は晴れるかもって、ちょっぴり期待した。いつもいつも行事の日は雨ばっかりだったから、起きて窓から外を覗いたときは嬉しかったわ。ああ、今日は神様が微笑んだんだ、って思った」

 

 弱々しくそう言って、彼女は空を見つめる。

 

 ――悲しげだった。しおらしい。今、彼女はいつもより堕天使っぽいマイナスな表情をしている。けれどもそのくせして……これは堕天使津島善子らしくなかった。

 

 やっぱり、魔の地への堕天遠足を楽しみにしていたんじゃないか。

 

「……わかった、我が手を打とう」

 

 だから、なのか。 我はむず痒い気持ちを抑えきれず、気が付けばこんなことを口にしていた。

 

「手を……打つ?」

「ああ」

 

 ポカンとして我の方へ顔を上げた堕天使に、頷きを返す。

 

 根拠はない。が、我が大技を繰り出せばこの状況を――彼女が悔やむ状況を、変えれそうな気がした。たとえ駄目だったにしろ、全力を出さずして何が黒騎士だろう。多少やっていることが黒騎士とは正反対の“聖騎士“くさくたって構わぬ。

 我は右手に持ち合わせていた黒刀を、晴れ間皆無の広大な天空へ翳かざした。

 

「いいか堕天使。これからあの馬鹿げた雲々を、我が技で遥か遠方に吹き飛ばす!」

「無理よ! 湧丞だってわかってるでしょ?」

 

 虚しくなるだけとでも思ったのか、堕天使は我を止めようとした。だが我は、今度は首を縦には振らない。

 

「ハハハッ……堕天使主人が困っているのに、黒騎士リトルデーモンが黙って屈するわけにはいくまい」

「湧丞……」

 

 堕天使は暫く複雑そうにして我を見つめていたが、

 

「うん……じゃあなんとかしなさい、リトルデーモン!!」

 

 笑顔で背中を押してくれた。

 これで退けなくなった。そして――――

 

「承うけたまわった! いくぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ――――闘う理由は、十分だ!

 

 刀を構えて腰を落とし、空気をうんと吸い込む。

 空気は脳に、肺に……やがて全身のすみずみに行き渡って、我に力をみなぎらせた。

 

 狙いは天空一点。我は黒刀を振り上げ、全てをぶつけた!

 

「あまねく邪雲共、散り去るがいい――

裂空の一閃(スカイズフィナーレ・ブレイド)“ ッッッ!!」

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

「ここからは自由行動とします。指定された範囲内であればどこを回ってもいいですが、それ以外の場所には行かないでください。また、14時までにはバスに戻るように!」

 

 目的地に到着して停車したバス内。担任が全体に諸注意を促している。皆浮わついた心境にあるのか、真面目に聞いている者は殆どいない。

 

 現在は遠足中。ただし遠足が施行されたのは豪雨の後ではなく、予備日。

 ……要するにあの日、何も起こせなかったのである。技がまるで通じなかったのだ。空があんなにも強き存在だとは。我は退けることができると信じていた。

 

「湧丞、班の皆とバスの外で待ってるわよ!」

「う、うむ。すぐ赴く」

 

 まあ、幸いにもこうして予備日が快晴になってくれた。堕天使も楽しそうである。結果的には問題なしだ……ただし、我はある誓いを心に刻んだ。

 

「もう空とは当分闘わんッッッ!」

 

 我は出てきそうになった悔し涙を堪え、席を立つのだった。

 




自分で読み返してて恥ずかしくなったのは内緒。手尾くんのアホさ加減はいい感じかもしれなかった。しかしこいつはアカン。まごうことなき黒歴史ですね、今でもそうですが。

――終焉の炎!

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