堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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突然ですが、小説タイトルの『【リメイク】』という部分を取りました。リメイクの旨についてあらすじに示してあるならばわざわざ付けていなくてもいいのでは、と思ったゆえです。そういうわけで、これからはまた「堕天少女と中二病少年」として執筆して参ります。改めよろしくお願い致します!

したらば、開幕。


堕天使が風邪を患ったらしい ―前の章―

 時が過ぎさるのは早く、堕天使との昼休み騒動から約2週間が経過した。初夏をやや通り越し始めた現在5月中旬、あれからはこれといった出来事(トピック)もなく、平和な日々を過ごしている。

 

 というのは否……窮地が迫りつつあった。しかも二つの方面の。

 

「ははははははっ!」

 

 学校から家へ還る最中(さなか)、たまたま誰もいない通学路にて。我は辺りを駆け回りながら笑っていた。左手数十メートル向こうに見える大海はやや荒れている。ただいま蹂躙している大地には、滴が軽く跳ねる勢いの雨が降り注いでいる。おかげで水と一体化(びしょ濡れ)。だが『危ない』なんて問題ない、我は(じき)に大空への闊歩(かっぽ)を始めるのだから――。

 

「あっはっはっはっはぁ!」

 

 自暴自棄になっているのではない。そういうくだらぬことをしたい心境なのだ。自暴自棄になっているのではない!

 

「ははは、は……」

 

 我はしだいに身体の力を抜き、やがてその場で押し黙った。さすがに今回ばかりは己の行為が馬鹿馬鹿しく思えてしまった。黒騎士だって時には自重する。クールダウンしたせいか、ずっと漂っていた湿り気の濃い匂いが一際(ひときわ)鮮明に嗅ぎ取れた。

 

 ……まあそんなことよりも、だ。我は雨に打たれながらも、腕を組んで熟考する。この窮地(ダブルショック)如何(いか)にして(さば)いてくれようか。

 

 まず第一の関門は『中間テスト』。恥ずかしながら、我の勉強の力量というのはてんでたいしたことがない。国語だけはそこそこの成績を残せなくもないけれども、他は壊滅的だ。約一週間ほど前に戻ってきた英語の小テストなど、もはや目も当てられぬ結果であった。とはいえそこのところは一夜漬けでどうとでも事を運べるであろう、おそらく。むしろ第二の関門の方が深刻性は高い。

 

 来月あたりに予定されている東京への修学旅行、その班決めである。ホテルの部屋割りや新幹線のシート配置については、元より出席番号順および男女別で勝手に割り振られるからいい。困ったのは自由散策時や夢の国を渡り歩く際のグループ、ここだ。班決めは今日の学級活動の時間、多くの奴らがだいたい固めたのだが……。

 簡単に言うと、我には組む相手が現れなかった。もちろん行動しなかったわけではない、自らクラス中の奴らを誘ってみたりもした。が、敬遠されてしまった。既に店員人数オーバーだの相手がいるからだの、理由は様々。しかし明らかに浮かない彼らの顔つきを見れば、単に嫌だからというのがよーく伝わってきた。

 

『そこの貴様! この黒騎士と組み、新天地を踏み往かないか?』

 

 おかしい、アレは完璧な結束申請(アプローチ)だったはずなのだが。いったい何がまずかったのか理解に苦しむ。まあ我は最終的に単独行動でも問題はないのだが、厄介にも最低二人以上という学校行事独特の制約があるゆえ絶対に誰かと組まねばならない。散策仲間(パートナー)を定める期限は今月いっぱい。余った(不確定)の人間は我を含めた数人……ただし、多くは女子。若干輪の中に入りづらくある。

 

「……かといって、じっとここにいても仕方ないか」

 

 しばらく思考したものの、妥当な案が導き出せなかったので歩みを再開する。我は家へと還るだけではなく、これから他にやることがある。こいつこそ最優先事項だ。

 

 津島善子(堕天使)への通達。

 

 というのも実は今日、堕天使が学校を欠席した。教師いわく風邪だそう。よって学校で受け取ったお知らせのプリントといったいくらかの配布物をヤツの家へ届け出ねばならなくなったのである。宿題の内容といった伝言も兼ねる。この役回りはどんな者でも請け負えるそうだが、満場一致で我に任された。何故だ。正直言って仕事を預けるのならば同姓の方が適任なのでは、と感じる。

 

 うんうんと唸っているうち、ちょうど堕天使が住み着くマンションが目に入ってきた。高い。10層以上の構成なのだから当然か。下から眺めるとなおのこと迫力ありだ。ただ、我とヤツの住み処はごく近いためよく登校時には見かける上、我が敗北して(少々強引ではあったが)契約の儀式をさせられたあの日、内部へ足を運んだ経験はある。もうさすがに唖然としたりはしない。

 さあどうする。赴くか、それとも仕切り直してから通達に出るか。荷物を軽くしてきてからでも悪くはないし、直行してもいいかもしれぬ。

 

 ……ヤツの容態が気になる。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけな。初めて堕天使抜きで1日を過ごしたが、調子が狂うのなんのだった。はじめは静かになるぞとほくそ笑んでいたのに不思議なものだ。

 

 

「……っ」

 

 ヤツのために錯雑とした想いを抱くのも(しゃく)。やはり赴くッッ。我は突入を決意し、マンションの入り口へと前進……していこうとして、立ち止まる。肝心な点を思い出したのだ。危うくスルーするところだった、訪問するにしては――我はあまりにも濡れすぎていた。

 

 機敏に方向を変え、己の拠点めがけて我小走り。通学バッグには専用の雨具(フィルター)をかぶせてあるため渡すものは無事だが一時撤退は必至。おのれ雨め許さぬ! いや、逆恨みはよそう。自業自得。

 

 せっかくだ。赴く準備が整ったら、出直しついでに最寄りのスーパーで土産でも買っていこう。そして、ヤツへの納品と報告を済ませたら速やかに去ろう。『心配しているの?』などとからからわれでもしたら、たまったものではない。言わずもがな、悔しくなるという意味で。

 

 ――急ごう。病魔に(おか)されていようときっとあいつはいつもと変わらぬだろうが、着くのが早いに越したことはない。

 

 

 先刻から衰えを知らない雨の殴打を尻目に、我は走る速度を僅かに上昇させていくのだった。伝う粒が初夏に似合わず、ヒヤリと冷たかった。

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

 

 

 ――あれ。今何時?

 

 意識が覚醒して最初に考えたのは、そんな他愛もないことだった。自室の明かりが点いている。そういえば寝るときに消灯したか曖昧だったような。そもそも風邪引いてたんだっけ。それで学校にも行けなくて……。

 

 ぼんやりする頭のまま、私はゆっくり身を起こす。瞬間、少し頭を締め付ける感覚に襲われた。体もまだ軽くない。

 

「クッ、まさかこんな形で堕天してしまうなんてね」

 

 誰もいない空間でそんな言葉を紡ぐ。だけど掠れ気味で、声に小悪魔感たっぷりの張り()は込もってくれない。

 

「しんどい……」

 

 体調がどのくらいか、とりあえず知っておかないと。私はベッド脇にある体温計のケースを手繰り寄せて本体を抜き、そっと腋に挟み込む。その間にかすった肌には、確かな温かみがあった。少なくとも病み上がりには届いていないみたい。

 

 十秒くらい待っていると、ピピピと測定完了の合図。最近の体温計(やつ)は測定早いじゃないとか、できれば平熱近くが望ましいわねとか思いながら、熱と危険度を知らせてくれるそれを引っ張り出す。

 

 無情……ッ。四捨五入したら38℃に繰り上がる数値が示されていた。

 

「んうっ」

 

 静かに、だらっと。私は再びベッドに倒れ込んだ。さすがのヨハネも今回は大人しくしているしかなさそう。

 寝返りを打ったら、よく座っている机が目についた。上には広げっぱなしの黒風呂敷と隣に蝋燭付きの台が。椅子には裏の布地を除いては漆黒なローブがかかっている。そうそう、朝に除悪の儀式をしようとしたんだった。だるくてできなかったけど。改めて執り行おうかな、ちょっと迷う。

 

 ……やめた。今は何をする気も起きない。

 

「……」

 

 なんだか心細くなってきた。ママは仕事を休むわけにもいかなくてご飯だけ作って会社へ行っちゃった、だからこの部屋はもちろんその向こうもひとっこひとりいない。外から大雨と、水が弾ける音が途切れることなく聞こえてくるだけ。

 

 学校はどうなっているだろう。昨日聞いた話じゃ修学旅行の班決めがあるとか言ってたし。というか、一人ぐらい諜報がてら見舞いに来てくれたっていいじゃない! ああっ、これが神々による堕天使へのさらなる追撃だというの……?

 

 涙が出てきた。疲れているからかしら? ……いいえ、泣いてなんていないわ。これは風邪のせい。堕天使の泪はある。でも、堕天使は涙を流さない――。

 

 

 

 その時、白いような光が射し込んだ。何が起こったかはすぐわかった。雷だ。

 

「……え」

 

 にも関わらず私は驚きの呻きをあげた。というのも、不意に部屋が暗転したから。追って、今度は重い雷鳴が突き抜ける。

 放心していると、また空が光に染まった。次いでこっちを嘲笑うように重低音。普段から「魔界」とか「地獄」とか言ってるけど、まるで本当にそういう所に突き落とされたみたいだった。

 

 いつしか体が震えていた。特別雷に苦手意識を持っているわけじゃないのに、変よ。堕天使なんだから、こんなのなんてことない。きっと(ヨハネ)は弱っているだけ。間違いないわ、そうに決まってる。

 

 屈しない、屈しない、屈しない。

 効かない、効かない、効かない。

 

 自分にそう言い聞かせる。それでも沸き立つ不安は収まらない。張り詰めた気持ちが、すごく嫌なのに鼓動をもっと早めていく。さっきうっかり布団を蹴り飛ばしたせいで、寒気も強くなってきた。しまいに、目に溜まったものが溢れかける。

 

 

 怖い――――。

 

 

 

 

 

 

 そこに耳へ飛び込んできたものがあった。それは留守か否かを問い掛けるインターホンの余韻。必死すぎて、呼び出しを受けているなんて全く気付いてなかった。

 

 

 ――――誰?

 

 

 薄ら寒いので雑にタオルケットを羽織ってから、おそるおそる玄関に歩き出す。体と足取りはどうしても重い。だけど行く。助けて欲しい。(すが)りたい。ねじ曲がった亜空間みたいにざわついた心の波を抑えようとに努めながら、私は部屋の向こうへと進んだ。

 

 




ちくしょう語彙が足りねえ。……ってことを今までで一番痛感しました。善子ちゃんと黒騎士(笑)それぞれ二人の視点をうまく書き分けられたらさぞ楽しいのでしょうが、まだまだうまくいきません()

とまあ、無駄に生真面目な前書き・後書きになってしまいましたが。今後もとにかくエタらないように尽くしていくぜ、結局これを言いたかった。
さてさて次回は後編。怖がる善子ちゃんの元に訪れたのは果たして!? (なお誰なのかは既にバレバレな模様)


――ではでは、終焉の炎!
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