堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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風邪ってうつるんやで……


黒騎士も風邪を患ったらしい ―前の章―

「は……はっくしょん!」

 

 ――我、黒騎士。我、黒騎士なりィィィ!

 

 我は心の中でひた叫ぶ。とち狂ったというわけではない。あくまで自己への発破なのだ。明け方に目が覚めて起きてからというものくしゃみが頻発しているゆえ、鼓舞が必要と考えたのだ。だいたい、寝坊助(ねぼすけ)の我があのような時刻に目を覚ますのも異常だ。

 

「クソッ、むずむずするぞ! ……はあああああああっ!!」

 

 あからさまな寒気もするので、黒刀を振り回して吹き飛ばす。すなわちヒートアップの舞。自室の中央にて行っているため、安全対策は万全。堕天使と落ち合って学校に向かうまではあと僅かに時間があるため、それまでは体に付きまとう謎の害悪と格闘だ。

 

 先日堕天使の心身を脅かしていた病魔が乗り移った、というのは有り得ないだろう。第一我はそんなものには負けはしない。()えて言おう、『馬鹿は風邪を引かん』とな。

 本当のところ、一時期はそんな考えが(よぎ)ったりもしたが、なにせ普段と違って妙な高揚感があるのだ。要するに絶好調、こんな状態で世間一般でいう風邪にやられているなんて可能性は……断じてないッッッ!

 

 

「っはっくしょん!!」

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

 

 結局休んだ。おかげでベッドから出られぬ。

 

 

「クククッ……ハーッハッハッハッハ!」

 

 あれだけ否定しておいて、こうだ。一周回って爆笑だ。

 

 あれから念のためと母に違和感についてリークしたところ、「それ行っちゃだめ」と宣告されたのである。風邪ではないはずだと登校を試みたが母はそんな我を一蹴(いっしゅう)、休暇を告げる電話を学校によこしてしまった。当初は反抗を示す我だったが、病院での判定は風邪。もはや弁解の余地は無くなった。

 ただ、大人しく赴かずにおいてよかった。あれから倦怠感が押し寄せてきた上、38℃を超える熱も出た。これでは仮に学校に出ていっても、平常通りには立ち回れなかったであろう。今となっては母の判断に異論はない。

 

 我が母に不調を密告した少し後に堕天使がやって来たりもしたものの、共に学校へ赴くことはできなかった。こちらの事情を聞いたヤツが、ばつの悪そうな顔をしていたのが記憶に新しい。堕天使はああ見えて根は優しき女。「風邪うつしたかも」などと要らない責任感に囚われていなければよいのだが――どうしているだろうか。それと『せいぜい体を休めてなさい』と残していったけれども、あれはどういう意味なのだろうか。

 

 いいや無用な心配か。ヤツはマイペース、なんだかんだで楽しくやっていると思う。たぶん堕天とか召還とかほざいて。自ら考え出したことだが、堕天使について考えを巡らすのはもうやめよう。なんというか、負けた気になる。

 

 

 とにもかくにも、現状において我はとある難点に直面している。それは――

 

 

「……暇だ」

 

 そう、暇なのだ。あまりにもすることがない。これが夜ならまだ救いはあったが、あいにく昼間だ。強いて挙げるとすればじっと回復に努めるのがすべきことだが、かれこれさっきまでずっと眠っていたゆえ、しばらくは無意識へと身を任せるのも難しい。

 

 ぼうっと天井を眺めるしか時間を過ごす方法はないのかと、我は途方に暮れる。と、ここで名案が浮かんだ。

 

 

 ――「アレ」を読破してみよう。

 

 かつて――といってもついこの間だが。我は父によりブックカバー(書物の衣)のかかった本を託された。父はこの本を我に渡す際、中身の詳細につき口を割らずに『真髄は己の目で確かめろ、息子よ。年頃のお前の助けになってくれるはずだ』とニヤニヤ笑っていた。また父は、『俺が持ってると母さんにバレた時にヤバイ』とも言っていた。さっぱり意味はわからなかったが……。ただ時間はたっぷりある、確かめるにはまさにタイムリーではなかろうか?

 

 我はベッドを下り、本棚から例の本を持ち出す。そして、また戻って一呼吸。

 

 ――中にはいったい、何が記されているのだ?

 

 どくん、と心臓が大きく波打つ。奇しくも我は緊迫していた。未知なだけに、父親が真相を濁していただけに、僅ながら恐怖に近しい感情さえ湧いてくる。やはり開かない方が……けれどもやっぱり気になる。

 

「とりゃっ!」

 

 最終的に好奇心が勝った。我は幾度と息を呑んだ末、閉じられし入口をめくった。

 

 

 ――が。

 

 

 その先には我の思考に渦巻いていた想像がちんけだと思えるほど、強烈な内容が展開されていた。

 

「うわぁっ!?」

 

 あまりの刺激の大きさに、やけどした時みたく俊敏に身を引く。我の手から放された本は開けっ広げの形でポスンと床に落ちた。

 

 荒く呼吸を乱した我は、しばしそれを虚ろに眺めた。

 

「ぐぬ…………ぐぬぬぬぬ…………」

 

 やりきれなくなって唸った後、我は爆弾処理班の如く慎重に本を回収、さっと抱え込む。中身? 官能的だった、とだけ言っておく。

 

「……次元(レベル)が高すぎる」

 

 してやられた。父には後日苦情を入れるにしろ、これはまずい。うっかり母に見つかろうものなら、我の尊厳は半永久的に砕け散ってしまう。本来は父の私物なのに。

 

 本を片手に、自室の扉をうっすらと開く。物音がしない。どうやら我以外不在のようだ。思い出した、母はそのうち買い物へ行くと言っていた。きっとちょうどその頃合いなのだろう。なんたる幸運、今のうちにこいつを消し去る!

 

 安静にしないというのは罪悪、ただしこの瞬間だけだ。したがって外出する。なんとしても、我のすべてを懸けて、こいつを処分しなければならない。さもなければ社会的死!

 

 

 我は現体調で出せるスピードをフル活用して自室を飛び出し、玄関へと走った。距離は大してないため即座に到達。続いて我は並べてあった自身の靴を履き、外に――

 

「……っあ!??」

 

 出るわけにはいかなくなり、その足にブレーキ。足音が聴こえたのだ、それもよりによってかなり近くから。さらにはこっちに向かってきているのか、どんどん大きくなってくる。まさかッッ!?

 

 ドアスコープ(扉の除き穴)に目を当て、先の風景を一望すると……いた。

 

 津 島 善 子(堕 天 使) が。

 

 楽しげな面持ちだ。服装は(装飾込みの)学生服のままだが、なにやらエコバッグを引っ提げている。見舞いに来たというのか! 『せいぜい体を休めてなさい』とはこういうことだったのか!?

 

 いやいや、危惧すべきはその点ではない。このままだと――最悪の展開(ダイレクト)にッッッ!

 

 我は靴をゆっくり脱ぎ、玄関へカムバック。そうして一歩下がり、二歩下がり、そろそろり。それから自室へ最速戻り(フルターン)

 丁寧に本棚へとしまっている余裕はない。いつインターホンが押されてもおかしくないのだ。しかし最低限の隠しは行わなくてはならない。母に見つかるより、堕天使にこの本が露呈する方が何億倍も取り返しがつかぬ。

 

 ――まずい、まずすぎる。

 

 運命とは残酷。部屋に本を隠せそうな代物は皆無であった。咄嗟に何らかの機転を利かせる他に、恥を回避する術はない。

 

「……やむを得ん」

 

 使用しているベッドを見据え、我は小さく頷くのだった。

 

 数秒後、インターホンは鳴り――――。

 

 

 

 

 

 

「クックッ……あなたを奈落へと引きずりこむ悪魔、少しは弱まったかしら?」

「あ、ああ。すこぶる快調だーッ! あははははははっ!」

「なによ、無駄にテンション高いわね。しかもすごい汗……」

「あはっ……いやー、なにしろ今日は暑いからな」

「昨日の方がずーっと暑かったじゃない。今日なんて涼しいくらいよ?」

「そ、そうか! つくづく風邪というものはおそろしい! 感覚まで狂わせるのだからな!! わっ我としたことが、ハハッ、ハハハハハッ!」

「……湧丞、なんか変よ?」

 

 

 訝しげな視線を向ける堕天使に、冷や汗が止まらない我。ドジを踏めば名誉の揺らぎかねない対面が――幕を開けたのであった。

 

 




堕天使の出番が少なかったと思われる、すまぬ。次回はちゃーんといらっしゃいますんで。そろそろ超展開ぶちこみたいなぁ、とか考えるけどうまくいかぬ。南無三。

締まらないが――終焉の炎!
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