堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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前回に続き、後半である。黒騎士の威厳がマッハで失せていっている気がする今日この頃。


黒騎士も風邪を患ったらしい ―後の章―

 大袈裟に慌てふためいてしまったが、いざ始まってみれば案外どうということはなかった。在処(ありか)がベッドの下では古典的すぎると考えた我はあの本を布団の中に持ち込んだ、それは確かにリスクある選択であった。しかし、この場を離れなければうまくいく……そう整理が付いたことで冷静に返ることができた。精神の安定が功を成したか、堕天使にギリギリ追及されずに済んだ。絶望()を乗り切ったのである。

 

 されど受難はまだ続く。堕天使がすっかり乗り気なのだ。看病に。

 

「こほんっ。……喜びに打ち震えなさい、苦しみの鎖に捕らわれしリトルデーモン。今日は特別に――ヨハネが傍にいてあげるわ」

 

 キレある口調でその旨を告げ、堕天使はすんと腕を組む。以前の弱々しさはなんだったのか。あれは単なる幻か? 良くも悪くもぶれぬ奴だ。

 

「ちなみにだが拒否権は?」

「うふふふ……」

 

 堕天使が我の疑問をさりげなくスルーしたのは突っ込まないでおくとして、足元に置かれたエコバッグが非常に気になる。ローブらしき黒布地が見えている、あれは(のち)に召還か儀式でもするためのものだろうか。だとしたらかえって熱が上がるかもしれない。なんて、ヤツに失礼か。

 ただ、堕天使が完全復活に至っているのには正直安堵した。ヤツがしおらしくてはやりづらくて困るのだ。ゆえに溌剌(はつらつ)とする堕天使の姿はある意味、今の我にとっていい薬になっている。すぐ調子づくから口外はせぬが、ヤツと過ごすのは退屈しない。

 

 とはいえど、だらだらと話したがために堕天使へまた病魔が憑いては意味がない。我は帰宅を促す。

 

「立ち寄ってくれたところ悪いが、我は着実に健康を取り戻しつつある。世話になる必要はない」

「うわ、バッサリね。むしろ清々しいわね」

「残るはそれなりの熱と、倦怠感ぐらいのものだ」

「見た感じちょっとそんな気はしたけど、わりと元気?」

「うむ。お前がどうしようと知ったことではないが、長居しては病魔がうつるかもしれぬな」

「でも……まだ治っていないということね。それなら、留まらない理由にはならないわ」

 

 去るつもり、ゼロらしい。あっさりいなくなったらそれはそれで(むな)しいけれども。

 

「……ふん、勝手にしろ」

 

 どちらにしても本調子でないのには変わりなし、休息しなくてはならない。とんとん拍子で結論付け、堕天使に捨て台詞を吐いた。

 

 そんな矢先。

 

「ぅお」

 

 我は驚愕し、滑稽(こっけい)な呻きをあげてしまった――堕天使の華奢(きゃしゃ)な腕が伸びてきたために。

 白い(てのひら)は長らく切っていない我の前髪を掻い潜り、やがて額を包みこんだ。間を置かずして、触れられた箇所に弾力性のある柔らかき質感。こちらが高めの熱を帯びているせいか、ヤツの手は微かに冷たく思えた。

 

「うーん……」

 

 覆うのをキープし、一人眉を潜める堕天使。僅かに跳ねる鼓動を抑えようと努める中、我はやっと意図を察した。検温(メンテナンス)だ。温度の加減を知りたいなら測れと命令すればよいものを、予告なしにこんな方法を試みてくるとは心臓に悪い。おまけに計算抜きの行動なので責めようもない。ヤツの真面目な態度が断定の証拠。

 

「思ったよりもひどい……うん、もっと魔力を蓄えなきゃね」

 

 堕天使は視線を落として、ぽつりと呟く。それはまだ寝ていないとだめ、という解釈で正しいのだろうか。というよりなんでもいいから手を離してほしい、照れくさいったらない。

 

ごちゃまぜになった想いがうっかり表面に出ていたのか、ふと我を見た堕天使の顔が(ほころ)んだ。

 

「ち、ちくしょうめ。世話を焼いたのはお前だけではないからな? これで対等だということをゆめゆめ忘れるなよ」

「はーい」

 

 すかさず忠告するけれども、堕天使があやすように返事したゆえにますます不恰好になってしまった。嗚呼、ぐうの音も出ぬほど手玉に取られている。欠片でも面目が残っているうちに、我は白旗をあげることにした。言わずもがな、ヤツに悟られぬように。

 

「我の状態はわかっただろう。これから眠りにつくから放せ」

 

 無慈悲、堕天使は首を振る。手を引っ込めると思いきや、そのまま頭の方まで持っていって――撫でた。

 

「この際だから、いつかのお返し」

「……屈辱だ」

 

 本当は心地良い。ちっぽけな悔しみは芽生えても、ふてぶてしく突っぱねる気力が湧いてこない。

 

「気持ち良さそうね。欲望に忠実なのはいいことよ?」

 

 一歩間違えば色っぽく(エロティックに)捉えられる(ささや)きさえも、安らぎ溢れるメロディーに聴こえる。それほどまでに、我は溺れていた(堕ちていた)

 

 ――離すな、眠くなるかあるいは寝付くまでそうしてくれ。

 

 幼稚な願望が、(わがまま)が口をついて出そうになるぐらいに。この頭を委ね続けたくなる温かさが、ヤツの手にはあった。

 

 

 

 

 抵抗しないのねと悪態を突かれた件については、割愛させてもらう……。

 

 

 

 

 

 

~~‡~~‡~~‡~~

 

 

 

 

 

 

 堕天使に看病(?)してもらったことで病魔の瘴気(しょうき)は薄まった……のだろうか。酷い目にあった、と憤るべきか。癒えた、と評するべきか。

 

 

「照れ屋さんなリトルデーモンだったのね、あなたって」

「うわあああその口を閉ざせぇえ」

 

 

 無様なり、未だに遊ばれている。前、堕天使に『甘ぁいッッッ!』と一喝した己を黒刀で斬り裂いてやりたい。甘いのは我の方であった。穴があったら入りたい。

堕天使はすこぶるご機嫌だ。優位に立とうとしてはたいてい空回りする分、主導権を握る快感は相当だった模様である。

 

「くそっ! 二度と病魔には負けぬ。こんな生き地獄を味わうのはもうまっぴらだからな」

「素直になりなさい? ほーら……」

「よーせーとーいーうーにーッッ!」

 

 飛んできた手を間一髪でかわすと、堕天使は悪戯がすぎたわと舌を出した。ぬ、あざとい。おおっとまたしても心をくすぐられてしまった。やっていられない。我は布団を蹴り飛ばし、床に下り立った。

 

 ……妙だ。忘れてはいけないことを忘れている気がする。

 

「あれ、こんなところに本が……?」

「はっ!?」

 

 脳裏に、電撃走る。我が抜けたベッドの上を不思議そうに眺める堕天使によって、最悪の事態を把握した。反射的に血の気が引いてくる。

 

「待て待て、待て待て待てッッッ! 開けるな、放っておけ。頼む!!」

 

 ヤツの方へ向きがてら懇願、同時に心底祈った。堕天使が渋々やめてくれる未来を。

 

「ず、随分と必死に食いつくのね。顔も真っ青にして……フフフッ、面白いじゃない」

「や、やめておけ。開けたら大変なことになるぞ? な? なっ?」

「堕天使ヨハネに隠し事はご法度(はっと)よ!」

「ああああああああーッッ?!?!」

 

 返されたのは――承知ではなく強行突破の意(ノンストップ)。ヤツの瞳に映るのは、制止を拒否するつもり満々な輝き。

 

「えいっ!」

 

 制止すべく接近するも時既に遅し。かくして、禁断の書は開かれてしまったのだった。

 

「……へっ!?」

 

 束の間の絶句を経て――

 

「きゃあああああっ!!」

 

 赤面した堕天使の、悲鳴に近い叫びが家中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 それからほとなくして母が帰還した。ようやくこっ恥ずかしい空間から解放されると思いきや、

 

「まあっ! ……若い、若いわあなた達! ったくもう、いいわねーっ!」

 

 我と我を看取る堕天使を目にした途端、いきなり母が狂喜。いそいそと茶菓子を置くと出ていってしまった。我には何がなんだかさっぱりである。堕天使は母が舞い上がった意味を理解したのか、どこか困惑したような、なんとも難しい表情をしていた。ヤツはなにかと鋭いようだ。

 




あれ、この二人こんなに仲良かったっけ? とりあえず腹いせに黒騎士(笑)こと手尾くんには制裁を受けてもらいました。ああなるのは宿命だったんだよォ!

そんなわけで、風邪編らしきもの終了。次回からはちょっと波立てていく……かもしれませぬ(ゲス顔) あくまで『かもしれませぬ』、ここ重要。

じゃ、いつものを――終焉の炎!


~おまけ~

・湧丞の父

元中二病である。なんでも大学までこじらせていたそうな。エロ本が大好き。そして見つかるたび妻にどやされている。
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